バイオマスガス化用触媒
【課題】 触媒再生工程を含むバイオマスガス化処理において、高い改質処理能力を有しこれを維持しつつ耐久性に優れるバイオマスガス化用触媒を提供すること。
【解決手段】 タール含有ガスの改質工程で生じるコークを所定時間毎に燃焼させる触媒再生工程を設けながらバイオマスガス化処理を行うためのバイオマスガス化用触媒である。Ni系金属からなる主触媒金属粒、及び、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒の混合触媒細粒を金属酸化物からなる多孔質材料の担体に与えたことを特徴とする。
【解決手段】 タール含有ガスの改質工程で生じるコークを所定時間毎に燃焼させる触媒再生工程を設けながらバイオマスガス化処理を行うためのバイオマスガス化用触媒である。Ni系金属からなる主触媒金属粒、及び、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒の混合触媒細粒を金属酸化物からなる多孔質材料の担体に与えたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを熱分解して得られるタール含有ガスを改質するバイオマスガス化処理に使用される触媒に関し、特に、タール含有ガスの改質において生じるコークを燃焼させる触媒再生工程を所定間隔毎に設けながら行うバイオマスガス化処理に使用される触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを乾留などで熱分解し発生する粗ガスを改質すると、燃料や各種原料に使用し得る水素や軽質炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素などからなる合成ガスが得られる。従来のバイオマスガス化処理では、触媒を用いずに、高温下で空気などのガス化剤を投入する部分酸化反応を利用していた。しかしながら、かかる処理では、処理温度が高く、投入エネルギーを多く必要としてしまう。また、部分酸化反応での空気に含まれる窒素によって合成ガスが希釈され、合成ガスのエネルギー密度が相対的に低下してしまう。そこで、投入エネルギーを低くし、且つ、高いエネルギー密度の合成ガスを得られるよう、触媒を用いてより低温で処理を行うことが考慮される。その一方で、低温では重質炭化水素であるタールの生成量が増加してしまう。タールは、処理下において、触媒上に付着して活性点を減少させ触媒機能を劣化させてしまうのである。また、改質反応により触媒上へコーク(炭素)を析出させると、触媒機能を失活させてしまうこともある。
【0003】
例えば、特許文献1では、バイオマスガス化処理においてコークの析出を抑制する触媒として、バリウムヘキサアルミネート(BaAl12O19)の如きアルカリ土類金属アルミネートにニッケル(Ni)、鉄(Fe)、白金(Pt)などを与えた改質触媒を開示している。特に、バリウムヘキサアルミネートにNiを与えることで、バリウムヘキサアルミネートの高温安定性を維持しつつ、よりタールの改質効率を高め得ることについて述べている。
【0004】
ところで、重質炭化水素であるタールの改質においては、コークの生成は不可避である。例えば、木質バイオマス、草本系バイオマス、廃棄物系バイオマス、農業廃棄物系バイオマスであっても同様である。そこで、触媒上に析出したコークを燃焼させて触媒の活性を復活せしめる触媒再生工程も知られている。
【0005】
例えば、特許文献2では、ニッケルと酸化セリウムをアルミナに担持させた触媒を備える触媒反応器へ水蒸気や空気を導入し、これを析出した炭素と反応させることで、触媒表面のコークを酸化除去させる触媒再生工程が開示されている。また、特許文献3では、ニッケル、マグネシウム、アルミナゾルの混合物を焼成した触媒を備える触媒反応器において、特許文献2に開示の反応と同様に、水蒸気や空気を導入して酸化性雰囲気で触媒表面のコークを酸化除去する触媒再生工程を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−221160号公報
【特許文献2】特開2007−229548号公報
【特許文献3】特開2010−17701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、微細な金属粒子や無機化合物粒子などが高温に曝されると、凝集し焼結(シンタリング)されて粗大粒子へと変化する。これら粒子が触媒機能を有する場合にあっては、その比表面積が低下して触媒としての活性点を減少させて触媒機能の活性低下を招いてしまう。すなわち、バイオマスガス化処理において高温処理工程、特に、上記したような触媒再生工程において、このような触媒粒子のシンタリングが問題となる。
【0008】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、触媒再生工程を含むバイオマスガス化処理において、高い改質処理能力を有しこれを維持しつつ耐久性に優れるバイオマスガス化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるバイオマスガス化用触媒は、タール含有ガスの改質工程で生じるコークを所定時間毎に燃焼させる触媒再生工程を設けながらバイオマスガス化処理を行うためのバイオマスガス化用触媒であって、Ni系金属からなる主触媒金属粒、及び、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒の混合触媒細粒を金属酸化物からなる多孔質材料の担体に与えたことを特徴とする。
【0010】
上記した発明によれば、金属酸化物からなる多孔質材料の担体と主触媒金属粒及び助剤粒との組み合わせにより、バイオマスガス化処理における改質工程及び触媒再生工程においてそれぞれ高い活性を与え得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0011】
上記した発明において、前記助剤粒は、MnO2とともにCeO2を含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性を向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0012】
上記した発明において、前記混合触媒細粒は、さらにPtを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性をさらに向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0013】
上記した発明において、前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びPtを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性をより向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0014】
上記した発明において、前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びIrを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性をより向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0015】
上記した発明において、前記Ni系金属は純Ni又はNi合金からなり、前記バイオマスガス化処理は800℃以下の温度で行われることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程における純Niからなる主触媒金属粒のシンタリングを抑制し、改質工程及び触媒再生工程における活性を維持し、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0016】
上記した発明において、前記金属酸化物は、アルカリ土類金属アルミネートであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、アルカリ土類金属アルミネートにより高温条件下における表面積の減少を抑制し、改質工程や触媒再生工程の活性の低下を抑制し得て、結果として、バイオマスガス化処理において高い改質処理能力を維持しつつ耐久時間の長いバイオマスガス化用触媒を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による触媒の使用されるバイオマスガス化処理手順を示す図である。
【図2】バイオマスガス化処理の装置を示す図である。
【図3】本発明による触媒の活性金属の構成比率を示す図である。
【図4】本発明による触媒の性能評価のための反応器の概念図である。
【図5】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni/担体:Al2O3)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図6】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図7】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Fe/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図8】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Fe、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図9】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図10】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図11】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図12】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図13】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce、Mg、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図14】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce、Mg、Ir/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図15】本発明による触媒の耐久試験結果を示す図である。
【図16】本発明による触媒の耐久時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による1つの実施例であるバイオマスガス化用触媒について、図1乃至図16を用いて、その詳細を説明する。まず、触媒の使用されるバイオマスガス化処理について図1、図2に沿って概説する。
【0019】
図1に示すように、改質工程(S1)では、バイオマスを熱分解させた粗ガスを更に軽質炭化水素や水素、一酸化炭素、二酸化炭素などからなる合成ガスに改質する。図2に示すように、熱分解装置3にバイオマスを原料として投入すると、これが加熱されて熱分解し、タール含有ガスである粗ガスが生成される。この粗ガスを改質装置2に導くと、バイオマスガス化用触媒1(以下、触媒1と称する。詳細は後述する。)の存在下で、別途導入される水蒸気等の導入ガスとともに所定の温度に加熱され、合成ガスに改質されるのである。なお、改質装置2及び熱分解装置3は図4に示す反応器10(図4参照)の如く、一体に構成されていてもよい。
【0020】
ところで、上記した改質工程(S1)におけるタール含有ガスである粗ガスの改質反応経路は複雑である。典型的には、CnHmによって表されるタールの改質では以下の反応を例示できる。
CnHm+nH2O → nCO+(m/2+n)H2 (式1)
CO+3H2 → CH4+H2O (式2)
CO+H2O → CO2+H2 (式3)
すなわち、タールと水蒸気から一酸化炭素と水素を得る反応(式1)、一酸化炭素と水素からメタンを得る反応(式2)、一酸化炭素と水蒸気から二酸化炭素と水素を得る反応(式3)である。このような反応の組み合わせを導入ガス、圧力、温度などで調整し、所望の合成ガスを得ることができる。
【0021】
上記した改質工程(S1)は、触媒を用いない場合と比べて、相対的に低い温度で同程度の反応効率を達成し投入エネルギーを低減し得る。ここで、温度が低過ぎると、タールから合成ガスへの十分な改質活性を得られない。一方で、温度が高すぎると、触媒の金属粒の焼結(シンタリング)が発生しやすくなり、好ましくない。また、投入エネルギーが高くなって装置の耐熱性も要求され、経済的に不利になる。そこで、後述する触媒において、改質工程(S1)の処理温度は500℃〜800℃の温度範囲とすることが好ましく、550℃〜700℃の温度範囲とすることがより好ましい。
【0022】
再生工程(S2)では、改質工程(S1)を所定時間行った後、触媒1の表面に析出したコークを燃焼させて除去する。コークを燃焼させる工程は導入ガスの種類によりいくつか知られているが、ここでは導入ガスを水蒸気又は空気とした場合を例示する。
【0023】
導入ガスを水蒸気とした場合、以下のような反応式により触媒1の表面に付着したコークを水蒸気ガス化させて除去することができる。
C+H2O → CO+H2 (式4)
【0024】
また、導入ガスに空気を混合させるなどとして、酸素によりコークを燃焼させて除去することもできる。その場合は以下のような反応式となる。
C+O2 → CO2 (式5)
【0025】
炭素を酸化させる再生工程(S2)においては、コーク以外の触媒1への付着物、例えば、硫黄なども除去し得る。
【0026】
従来の触媒では、改質工程(S1)において活性点を失った若しくは失活した場合にあっては、再生工程(S2)では、高温条件下での再生が必要となり、主触媒金属のシンタリングが進行し活性の低下をもたらしていた。一方、後述する触媒によれば、このような場合であっても、再生工程(S2)において触媒に含まれる助剤粒によって、より低温で触媒上に析出したコークを燃焼させ、酸化除去することができるのである。再生工程(S2)において、温度が低過ぎるとコークを十分に酸化除去できず、高過ぎるとシンタリングが発生しやすくなる。そこで、後述する触媒において、かかる再生工程(S2)の温度は500℃〜800℃の範囲が好ましく、550℃〜700℃の範囲がより好ましい。
【0027】
還元工程(S3)では、再生工程(S2)において酸化雰囲気中に置かれた触媒を還元する。触媒の還元は、例えば、水素、一酸化炭素、メタンなどの還元性ガスを導入することで可能である。処理温度が低過ぎると酸化された触媒を十分に還元することができず、高過ぎるとシンタリングが発生しやすくなる。そこで、後述する触媒においては、500℃〜800℃の範囲が好ましく、550℃〜700℃の範囲がより好ましい。
【0028】
以上の改質工程(S1)、再生工程(S2)及び還元工程(S3)を1サイクルとして、これを繰り返し、バイオマスガス化処理を行うのである。
【0029】
なお、改質活性を高めるため、最初のサイクルに先だって触媒を還元することが好ましい。また、改質装置2内に残留したガスによる望まない反応を避けるため、各工程間において窒素などの不活性ガスにより改質装置2内をパージしてもよい。
【0030】
また、バイオマスは特にその種類を限定するものではなく、木質系バイオマス、製紙系バイオマス、草本系バイオマス、食品廃棄物系バイオマス、農業残渣系バイオマスなど、熱分解によりタール含有ガスを得られるものを使用し得る。
【0031】
次に、上記したバイオマスガス化用触媒1の詳細について説明する。
【0032】
触媒1は、活性金属のうち、主触媒金属として、Ni系の金属からなるNi系金属粒と、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒との混合粒である混合触媒細粒を含む。混合触媒細粒は、Ni−Fe合金などの合金を形成し得る。また、触媒1は担体として、金属酸化物からなる多孔質材料を含む。具体的には、アルカリ土類金属アルミネートが担体として好ましく、バリウムヘキサアルミネート(BaAl12O19)が特に好ましい。高温安定性に優れ、かつ物理的強度の高いバリウムヘキサアルミネートを担体として用いることにより、高い改質能力を維持し、耐久性に優れる触媒が得られる。
【0033】
混合触媒細粒を含む触媒1は、Ni系金属粒を含むことで高い改質活性を有するが、助剤粒として含まれるFe粒又はMnO2粒が主として酸素吸蔵・放出能、すなわち炭素を酸化除去する酸化活性を有し、改質工程(S1)の温度を下げながらも炭素の析出すなわちコークの生成を抑制できる。また、改質工程(S1)における改質活性が低下したとしても、再生工程(S2)において、Ni系金属等の活性金属上のコークの酸化除去を促進できる。再生工程(S2)の温度を下げることができれば触媒金属粒のシンタリングとともに過剰な酸化も抑制できる。なお、金属酸化物からなる多孔質担体の高い比表面積や耐久性により、各工程における触媒の高い活性を維持できるのである。混合触媒細粒からなる触媒が自らの高い酸化活性により自らの改質活性を維持し、結果として、高い改質処理能力を有し、かつ、それを維持し、耐久性に優れるバイオマスガス化用触媒となるのである。
【0034】
また、還元工程(S3)を含む場合についても、触媒に易還元性を与えて、より低温で還元できるようにすることで、高い改質処理能力を維持しつつ、より耐久性に優れるバイオマスガス化用触媒を得られる。
【0035】
なお、触媒1は、さらに他の金属粒や金属酸化物粒を活性金属として含んでもよく、これらによって、さらに、改質工程(S1)、再生工程(S2)及び/又は還元工程(S3)の各工程の活性を向上させ得る。
【0036】
また、触媒1は部分酸化改質反応によって得られたタール含有ガスのタール濃度を低減させるために用いることもできる。
【0037】
次に、本発明によるバイオマス化用触媒1の評価試験について説明する。
【0038】
図3に示すように、実施例1〜実施例8、比較例1及び比較例2に示した触媒は、活性金属として金属粒及び/又は金属酸化物粒を所定の構成比率(質量%)となるように対応する担体にそれぞれ担持させたものである。なお、担体は、比較例1のアルミナを除き、実施例1〜8及び比較例2においてバリウムヘキサアルミネートである。
【0039】
担体であるバリウムヘキサアルミネート(BaAl12O19)は以下の如く調製した。すなわち、(BaO)0.14(Al2O3)0.86の成分比となるようにAl2O3(表面積100m2/g)とBaCO3を物理的に混合し、これを20MPaの圧力でプレスし、タブレット状に成形した。これを1400℃で12時間焼成し、放冷した後、乳鉢で適当に粉砕し、ふるいを用いて300〜600μmに整粒し、BaAl12O19の触媒担体を得た。また、比較例1の担体であるアルミナ(Al2O3)には市販品を用いた。
【0040】
金属粒及び金属酸化物粒の担体への担持は、これに限られるものではないが、含浸法を用いた。すなわち、担持させる対象となる金属の無機塩の水溶液を担体へ含浸させ、これを焼成した。例えば、Ni粒を担持させる場合、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O)の水溶液を調製し、担体に含浸させた後、500℃で3時間焼成した。その他の金属粒や金属酸化物粒についても同様に公知の方法を用いて担持させた。さらにPt粒又はIr粒を担持させる場合、ジアンミンジニトロ白金(Pt(NO2)2(NH3)2)又はヘキサクロロイリジウム酸アンモニウム((NH4)2IrCl6)の水溶液を調製し、逐次含浸を行ない、500℃で3時間焼成した。
【0041】
上記したように調製した実施例1〜8、比較例1及び2に示される各触媒(図3参照)を図4に示す反応器10に5gずつ搭載し、それぞれについてバイオマスガス化試験を行った。
【0042】
図4に示すように、反応器10は、バイオマスを熱分解する熱分解部11と、熱分解されて得られるタール含有ガスを改質する改質部12とを含む。すなわち、反応器10は、図2について説明した熱分解装置3及び改質装置2の両者を含んでいる。さらに、改質部12の下端近傍には、熱分解部11と改質部12とを連通させ、触媒1を改質部12内にとどめるような細孔を備える連通路板13が設けられている。連通路板13は、通過するガスの流路を分散させて触媒1の表面の広範囲にわたってガスを接触させ得る。反応器10は、さらに、反応器10内に導入ガスを導くガス導入路14〜16と、合成ガスを排出する排出口18と、バイオマスを所定の量だけ投入するフィーダー20と、バイオマスを熱分解部11に供給するためのキャリアガスを導入するキャリアガス導入路19と、反応器10を周囲から加熱して熱分解部11及び改質部12に所定の温度を与えるよう制御される電気炉21とを有する。なお、バイオマスガス化試験に先立って、600℃で60分間の水素による触媒1の還元を行った。
【0043】
次に、反応器10によるバイオマスガス化試験の方法について説明する。本試験においては、改質工程(S1)、再生工程(S2)及び還元工程(S3)を順に繰り返した。
【0044】
まず、改質工程(S1)では、フィーダー20からバイオマスを330mg/分(炭素分14100μmol/分)の供給量で熱分解部11に供給した。ここで、使用するバイオマスは、杉を主成分とした木材を、ふるいで180μm〜300μmの粒径に整粒した木材粉である。また、キャリアガスとして200ml/分の窒素をキャリアガス導入路19から導入した。熱分解部11は電気炉21により加熱し、通過するバイオマスが約650℃に加熱されるように温度調節した。これによって、バイオマスは分解され、固体炭素や灰分などからなる固体成分25とタール含有ガスとに分離される。
【0045】
バイオマスの熱分解によって生じたタール含有ガスは、ガス導入路15から100μl/分の速度で供給される水蒸気、及び、キャリアガス導入路19から供給される窒素とともに連通路板13を通過し、改質部12内において触媒1に接触する。このとき、改質部12における触媒温度、すなわち改質工程(S1)の処理温度は650℃近傍に保たれるよう電気炉21により調節した。これにより改質部12においてタール含有ガスは軽質炭化水素や水素、一酸化炭素、二酸化炭素などに改質された合成ガスとなる。得られた合成ガスは排出口18から排出される。なお、1回の改質工程(S1)は2時間継続させた。
【0046】
改質工程(S1)に引き続き、再生工程(S2)では、まず反応器10内をパージするためキャリアガス導入路19から窒素を導入した。続いて、酸素濃度を1体積%となるようにガス導入路14から空気を供給し、触媒1に付着したコークを酸素により燃焼させた。このとき、触媒温度、すなわち再生工程(S2)の処理温度を、十分にコークの燃焼を進行させ、かつ、シンタリングを抑制できるよう調節した。ここでは触媒温度を600℃とした。1回の再生工程(S2)は、後述する終了条件を達成するまで5時間以上継続させた。
【0047】
再生工程(S2)に引き続き、還元工程(S3)では、反応器10内を窒素によりパージした後、ガス導入路16から水素を100体積%の濃度となるよう供給し、再生工程(S2)において酸化した触媒を還元させた。このとき触媒温度を、十分に触媒の還元を進行させ、かつ、シンタリングを抑制できるよう調節した。すなわち、還元工程(S3)は600℃で行った。また、1回の還元工程(S3)は1時間継続させた。
【0048】
還元工程(S3)の終了後、再び改質工程(S1)を行う。つまり、改質工程(S1)→再生工程(S2)→還元工程(S3)のサイクルを繰り返し行った。かかるサイクルの繰り返しを、触媒1が後述する耐久限界に到達するまで継続させた。
【0049】
これらのサイクルの繰り返しを行いつつ、改質工程S1においては、GC−TCDを用いて合成ガス中の合成ガス成分であるCO2、CO、CH4及びH2の生成速度の測定を行った。合成ガスのサンプリングはバイオマスの供給開始から1分後に開始した。図5〜図14に、それぞれ比較例1及び2、実施例1〜8の触媒を用いた場合の改質工程(S1)における合成ガス成分の生成速度の変化を示した。
【0050】
さらに、合成ガス成分のうち、CO+CH4+H2の生成速度が改質工程(S1)の初期の定常状態での生成速度の50%を下回ったときを触媒1の耐久限界とした。かかる耐久限界に到達するまでの改質工程(S1)におけるバイオマスの供給開始からの累積時間を耐久時間として記録した。その耐久時間を図15に示した。
【0051】
再生工程(S2)では、GC−TCDにより燃焼ガス中の二酸化炭素の量を2分半毎に測定し、これに基づき触媒1上に析出した炭素量を算出し、コーク析出率として記録した。なお、1サイクル目及び2サイクル目のコーク析出率を図15に示した。また、二酸化炭素の量が0.1体積%を下回ることを再生工程(S2)の終了条件とし、かかる終了条件を達成するまで測定を続けた。
【0052】
さらに、図15に示した耐久時間を、各実施例の触媒1に活性金属として使用されている金属粒及び/又は金属酸化物粒に含まれる金属元素の元素記号とともに図16のグラフに示した。これらの結果について説明する。
【0053】
まず、活性金属としてNiのみを12.0質量%担持させた比較例1及び2において、担体をアルミナとした比較例1と担体をバリウムヘキサアルミネートとした比較例2とでは、耐久時間はそれぞれ120分及び85分であった。Niのみを担持させた場合において、担体の違いに特に有意差は見られなかった。図5及び図6を併せて参照すると、どちらも初回の改質工程(S1)中に特に合成ガス中のCO及びH2の生成速度が急激に低下して耐久限界に至っている。
【0054】
活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、Fe:5.7質量%とした実施例1では、比較例1及び2に比べて耐久時間は240分と大幅に延びた。また、活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:17.6質量%とした実施例3では、耐久時間は225分と実施例1とほぼ同等の数値となった。すなわち、活性金属としてNiにFe若しくはMnO2の一方からなる助剤を与えて担体をバリウムヘキサアルミネートとした場合に、アルミナの担体に活性金属としてNiを与えた場合に比べて耐久時間がおよそ倍になったのである。また、図7及び図9を併せて参照すると、実施例1及び3では、初回の改質工程(S1)におけるCO、CH4及びH2の生成速度の低下について、比較例2と比べて抑制できている。また、2回目の改質工程(S1)の初期の合成ガス成分の生成速度は、初回の改質工程(S1)と同程度である。
【0055】
これは、改質工程において改質温度を650℃と低くしてもNiにより高い改質活性が得られるとともに、Fe又はMnO2の高い酸素吸蔵・放出能によりコークの析出を抑制でき、さらに、再生工程を600℃と改質工程より低温にしてもFe又はMnO2によって高い酸化活性を与えることでコークを良好に酸化除去できて、これによりサイクルの繰り返しにおいて高い改質処理能力を維持し続けることができたためと考えられる。つまり、活性金属を上記した混合触媒粒とすることで、改質工程(S1)におけるコークの析出抑制と、再生工程(S2)でのコークの燃焼促進との相乗効果として改質処理能力を高く維持し続けるのである。また、担体をバリウムヘキサアルミネートとしたことで、かかる担体との組み合わせにおいてこれらの高い活性を得ることができたものと考えられる。すなわち、バイオマスガス化処理における改質工程(S1)及び再生工程(S2)においてそれぞれ混合触媒粒により高い活性を得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0056】
また、活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:8.8質量%、CeO2:8.8質量%とした実施例5において、耐久時間は285分とさらに延びた。図11を併せて参照すると、2回目の改質工程(S1)においても、CO、CH4及びH2の生成速度の低下が小さく、3回目の改質工程(S1)の初期の合成ガス成分の生成速度は、初回の改質工程(S1)と同程度である。MnO2及びCeO2はどちらも高い炭素の燃焼活性を有するが、イオン半径の異なる両者の存在により酸素イオンの移動性を向上させてより高い酸化活性を与える相乗効果を得られたものと考えられる。また、NiとCeO2がナノコンポジット構造を形成して、Ni-CeO2界面が拡大し、Ni上の炭素に酸素がより供与されやすくなることにより、改質活性の向上と酸化活性の向上との相乗効果を得ると考えられる。また、この酸化活性の向上により、改質工程(S1)においてコーク析出を抑制し、かつ、再生工程(S2)においてもコークの燃焼を促進させることができたと考えられる。
【0057】
実施例2、4及び6においては、それぞれ実施例1、3及び5に含まれる活性金属に対してPtを添加した構成比率となっている。すなわち、実施例2は、Ni:12.0質量%、Fe:5.7質量%、Pt:0.1質量%、実施例4は、Ni:12.0質量%、MnO2:17.6質量%、Pt:0.1質量%、実施例6は、Ni:12.0質量%、MnO2:8.8質量%、CeO2:8.8質量%、Pt:0.1質量%の活性金属の構成比率を有する。実施例2の耐久時間は310分であり、実施例1の240分に比べて70分長くなった。実施例4の耐久時間は350分であり、実施例3の225分に比べて125分長くなった。実施例6の耐久時間は510分であり、実施例5の285分に比べて225分長くなった。
【0058】
Ptは、改質活性及び酸化活性を有する。これにより耐久時間の向上を得られたと考えられる。また、実施例1と実施例2の耐久時間の差に比べて、実施例3と実施例4及び実施例5と実施例6の耐久時間の差の方が大きい。つまり、活性金属に含まれる助剤をFeとするよりもMnO2とする方がPtの添加による耐久時間の延びが大きい。
【0059】
ここで、図7を参照すると、実施例1において、CO、CH4及びH2の生成速度は2回目の改質工程(S1)で大きく低下している。図8を併せて参照すると、実施例2において、CO、CH4及びH2の生成速度は実施例1の生成速度の低下幅に比べてやや小さい程度の低下幅であるが、2回目の改質工程(S1)では大きく低下している。ところが、図9及び図10を参照すると、CO、CH4及びH2の生成速度が大きく低下したのは、実施例3では2回目の改質工程(S1)であるのに対し、実施例4では3回目の改質工程(S1)である。同様に、図11及び図12を参照すると、CO、CH4及びH2の生成速度が大きく低下したのは、実施例5では3回目の改質工程(S1)であるのに対し、実施例6では4回目の改質工程(S1)である。つまり、活性金属に含まれる助剤をFeとするよりMnO2とする方が、Ptを添加した場合において、改質工程(S1)でのコークの析出をより抑制できるものと考えられる。
【0060】
さらに、図15を併せて参照すると、実施例1と実施例2の間においてコーク析出率に有意差は見られないものの、実施例3と4の間、実施例5と6の間においてPtの添加によりコーク析出率が低下している。これらを併せて考えると、MnO2とPtとが共存することで改質工程(S1)においてコークの析出を抑制する相乗的な効果を得たものと考えられる。なお、実施例及び比較例に示した各触媒についての還元特性を昇温還元法によって調べており、Ptを添加することによってH2消費量のピーク温度が低温側にシフトすることを確認している。つまり、Ptは易還元性を有する。これによっても、還元工程(S3)での活性を高め、結果として、実施例2、4及び6の耐久時間を向上させ得たと考えられる。
【0061】
実施例7は活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:10.0質量%、CeO2:10.0質量%、MgO:2.0質量%、Pt:0.1質量%としている。すなわち、MnO2及びCeO2の比率こそ若干異なるものの、実施例6にMgOを添加したものと考えることができる。実施例7の耐久時間は630分であり、MgOの添加により耐久時間が向上したと考えることができる。再び図12を併せて参照すると、実施例6では、CO、CH4及びH2の生成速度を4回目の改質工程(S1)において大きく低下させた後、5回目の改質工程(S1)で耐久限界に到達している。対して、図13を併せて参照すると、実施例7では、CO、CH4及びH2の生成速度が3回目の改質工程(S1)で低下し始めているものの、6回目の改質工程(S1)まで耐久限界に到達しなかった。
【0062】
MgOは塩基性であるためCO2の吸着能が高く、これにより改質工程(S1)において近傍のNi粒表面に付着したコークに酸素を与えることによって、これをCOとして酸化除去し得るという炭素の酸化活性を有すると考えられる。さらに、MgOは再生工程(S2)においてNiO−MgO固溶体を形成するが、還元工程(S3)においてこれが還元されることでNiの分散状態を改質工程(S1)の前から大きく変化させないようにできると考えられる。つまり、MgOには主触媒金属であるNiの分散状態を維持する効果があるものと考えられる。
【0063】
実施例8は、実施例7のPtの代わりにIrを添加し、活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:10.0質量%、CeO2:10.0質量%、MgO:2.0質量%、Ir:0.1質量%としている。これによれば、耐久時間は680分であり、実施例1〜8のうちで最長であった。IrはPtと同様に改質活性と酸化活性、さらに易還元性を有するが、実施例7との比較において、耐久性が向上している。また、図14を図13と比較しつつ併せて参照すると、6回目の改質工程(S1)の初期のCO、CH4及びH2の生成速度は、5回目の改質工程(S1)末期のそれと比較した場合、実施例7において同等以下に低下しているのに対して、実施例8では明らかに上昇している。Ptに比べてIrの方が高い融点を有するので、活性金属としてIrの金属粒の分散状態を維持しやすく、これにより他の金属粒及び金属酸化物粒の分散状態を維持しやすいためと考えられる。
【0064】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく変更例を説明したが、本発明は必ずしもこれら実施例及び変更例に限定されるものではなく、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0065】
1 バイオマスガス化用触媒
2 改質装置
3 熱分解装置
10 反応器
11 熱分解部
12 改質部
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを熱分解して得られるタール含有ガスを改質するバイオマスガス化処理に使用される触媒に関し、特に、タール含有ガスの改質において生じるコークを燃焼させる触媒再生工程を所定間隔毎に設けながら行うバイオマスガス化処理に使用される触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを乾留などで熱分解し発生する粗ガスを改質すると、燃料や各種原料に使用し得る水素や軽質炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素などからなる合成ガスが得られる。従来のバイオマスガス化処理では、触媒を用いずに、高温下で空気などのガス化剤を投入する部分酸化反応を利用していた。しかしながら、かかる処理では、処理温度が高く、投入エネルギーを多く必要としてしまう。また、部分酸化反応での空気に含まれる窒素によって合成ガスが希釈され、合成ガスのエネルギー密度が相対的に低下してしまう。そこで、投入エネルギーを低くし、且つ、高いエネルギー密度の合成ガスを得られるよう、触媒を用いてより低温で処理を行うことが考慮される。その一方で、低温では重質炭化水素であるタールの生成量が増加してしまう。タールは、処理下において、触媒上に付着して活性点を減少させ触媒機能を劣化させてしまうのである。また、改質反応により触媒上へコーク(炭素)を析出させると、触媒機能を失活させてしまうこともある。
【0003】
例えば、特許文献1では、バイオマスガス化処理においてコークの析出を抑制する触媒として、バリウムヘキサアルミネート(BaAl12O19)の如きアルカリ土類金属アルミネートにニッケル(Ni)、鉄(Fe)、白金(Pt)などを与えた改質触媒を開示している。特に、バリウムヘキサアルミネートにNiを与えることで、バリウムヘキサアルミネートの高温安定性を維持しつつ、よりタールの改質効率を高め得ることについて述べている。
【0004】
ところで、重質炭化水素であるタールの改質においては、コークの生成は不可避である。例えば、木質バイオマス、草本系バイオマス、廃棄物系バイオマス、農業廃棄物系バイオマスであっても同様である。そこで、触媒上に析出したコークを燃焼させて触媒の活性を復活せしめる触媒再生工程も知られている。
【0005】
例えば、特許文献2では、ニッケルと酸化セリウムをアルミナに担持させた触媒を備える触媒反応器へ水蒸気や空気を導入し、これを析出した炭素と反応させることで、触媒表面のコークを酸化除去させる触媒再生工程が開示されている。また、特許文献3では、ニッケル、マグネシウム、アルミナゾルの混合物を焼成した触媒を備える触媒反応器において、特許文献2に開示の反応と同様に、水蒸気や空気を導入して酸化性雰囲気で触媒表面のコークを酸化除去する触媒再生工程を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−221160号公報
【特許文献2】特開2007−229548号公報
【特許文献3】特開2010−17701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、微細な金属粒子や無機化合物粒子などが高温に曝されると、凝集し焼結(シンタリング)されて粗大粒子へと変化する。これら粒子が触媒機能を有する場合にあっては、その比表面積が低下して触媒としての活性点を減少させて触媒機能の活性低下を招いてしまう。すなわち、バイオマスガス化処理において高温処理工程、特に、上記したような触媒再生工程において、このような触媒粒子のシンタリングが問題となる。
【0008】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、触媒再生工程を含むバイオマスガス化処理において、高い改質処理能力を有しこれを維持しつつ耐久性に優れるバイオマスガス化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるバイオマスガス化用触媒は、タール含有ガスの改質工程で生じるコークを所定時間毎に燃焼させる触媒再生工程を設けながらバイオマスガス化処理を行うためのバイオマスガス化用触媒であって、Ni系金属からなる主触媒金属粒、及び、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒の混合触媒細粒を金属酸化物からなる多孔質材料の担体に与えたことを特徴とする。
【0010】
上記した発明によれば、金属酸化物からなる多孔質材料の担体と主触媒金属粒及び助剤粒との組み合わせにより、バイオマスガス化処理における改質工程及び触媒再生工程においてそれぞれ高い活性を与え得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0011】
上記した発明において、前記助剤粒は、MnO2とともにCeO2を含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性を向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0012】
上記した発明において、前記混合触媒細粒は、さらにPtを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性をさらに向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0013】
上記した発明において、前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びPtを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性をより向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0014】
上記した発明において、前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びIrを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程及び触媒再生工程における活性をより向上させ得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0015】
上記した発明において、前記Ni系金属は純Ni又はNi合金からなり、前記バイオマスガス化処理は800℃以下の温度で行われることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、改質工程における純Niからなる主触媒金属粒のシンタリングを抑制し、改質工程及び触媒再生工程における活性を維持し、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0016】
上記した発明において、前記金属酸化物は、アルカリ土類金属アルミネートであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、アルカリ土類金属アルミネートにより高温条件下における表面積の減少を抑制し、改質工程や触媒再生工程の活性の低下を抑制し得て、結果として、バイオマスガス化処理において高い改質処理能力を維持しつつ耐久時間の長いバイオマスガス化用触媒を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による触媒の使用されるバイオマスガス化処理手順を示す図である。
【図2】バイオマスガス化処理の装置を示す図である。
【図3】本発明による触媒の活性金属の構成比率を示す図である。
【図4】本発明による触媒の性能評価のための反応器の概念図である。
【図5】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni/担体:Al2O3)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図6】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図7】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Fe/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図8】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Fe、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図9】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図10】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図11】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図12】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図13】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce、Mg、Pt/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図14】触媒(活性金属に含まれる金属元素:Ni、Mn、Ce、Mg、Ir/担体:BaAl12O19)による改質工程での合成ガス成分の生成速度を示すグラフである。
【図15】本発明による触媒の耐久試験結果を示す図である。
【図16】本発明による触媒の耐久時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による1つの実施例であるバイオマスガス化用触媒について、図1乃至図16を用いて、その詳細を説明する。まず、触媒の使用されるバイオマスガス化処理について図1、図2に沿って概説する。
【0019】
図1に示すように、改質工程(S1)では、バイオマスを熱分解させた粗ガスを更に軽質炭化水素や水素、一酸化炭素、二酸化炭素などからなる合成ガスに改質する。図2に示すように、熱分解装置3にバイオマスを原料として投入すると、これが加熱されて熱分解し、タール含有ガスである粗ガスが生成される。この粗ガスを改質装置2に導くと、バイオマスガス化用触媒1(以下、触媒1と称する。詳細は後述する。)の存在下で、別途導入される水蒸気等の導入ガスとともに所定の温度に加熱され、合成ガスに改質されるのである。なお、改質装置2及び熱分解装置3は図4に示す反応器10(図4参照)の如く、一体に構成されていてもよい。
【0020】
ところで、上記した改質工程(S1)におけるタール含有ガスである粗ガスの改質反応経路は複雑である。典型的には、CnHmによって表されるタールの改質では以下の反応を例示できる。
CnHm+nH2O → nCO+(m/2+n)H2 (式1)
CO+3H2 → CH4+H2O (式2)
CO+H2O → CO2+H2 (式3)
すなわち、タールと水蒸気から一酸化炭素と水素を得る反応(式1)、一酸化炭素と水素からメタンを得る反応(式2)、一酸化炭素と水蒸気から二酸化炭素と水素を得る反応(式3)である。このような反応の組み合わせを導入ガス、圧力、温度などで調整し、所望の合成ガスを得ることができる。
【0021】
上記した改質工程(S1)は、触媒を用いない場合と比べて、相対的に低い温度で同程度の反応効率を達成し投入エネルギーを低減し得る。ここで、温度が低過ぎると、タールから合成ガスへの十分な改質活性を得られない。一方で、温度が高すぎると、触媒の金属粒の焼結(シンタリング)が発生しやすくなり、好ましくない。また、投入エネルギーが高くなって装置の耐熱性も要求され、経済的に不利になる。そこで、後述する触媒において、改質工程(S1)の処理温度は500℃〜800℃の温度範囲とすることが好ましく、550℃〜700℃の温度範囲とすることがより好ましい。
【0022】
再生工程(S2)では、改質工程(S1)を所定時間行った後、触媒1の表面に析出したコークを燃焼させて除去する。コークを燃焼させる工程は導入ガスの種類によりいくつか知られているが、ここでは導入ガスを水蒸気又は空気とした場合を例示する。
【0023】
導入ガスを水蒸気とした場合、以下のような反応式により触媒1の表面に付着したコークを水蒸気ガス化させて除去することができる。
C+H2O → CO+H2 (式4)
【0024】
また、導入ガスに空気を混合させるなどとして、酸素によりコークを燃焼させて除去することもできる。その場合は以下のような反応式となる。
C+O2 → CO2 (式5)
【0025】
炭素を酸化させる再生工程(S2)においては、コーク以外の触媒1への付着物、例えば、硫黄なども除去し得る。
【0026】
従来の触媒では、改質工程(S1)において活性点を失った若しくは失活した場合にあっては、再生工程(S2)では、高温条件下での再生が必要となり、主触媒金属のシンタリングが進行し活性の低下をもたらしていた。一方、後述する触媒によれば、このような場合であっても、再生工程(S2)において触媒に含まれる助剤粒によって、より低温で触媒上に析出したコークを燃焼させ、酸化除去することができるのである。再生工程(S2)において、温度が低過ぎるとコークを十分に酸化除去できず、高過ぎるとシンタリングが発生しやすくなる。そこで、後述する触媒において、かかる再生工程(S2)の温度は500℃〜800℃の範囲が好ましく、550℃〜700℃の範囲がより好ましい。
【0027】
還元工程(S3)では、再生工程(S2)において酸化雰囲気中に置かれた触媒を還元する。触媒の還元は、例えば、水素、一酸化炭素、メタンなどの還元性ガスを導入することで可能である。処理温度が低過ぎると酸化された触媒を十分に還元することができず、高過ぎるとシンタリングが発生しやすくなる。そこで、後述する触媒においては、500℃〜800℃の範囲が好ましく、550℃〜700℃の範囲がより好ましい。
【0028】
以上の改質工程(S1)、再生工程(S2)及び還元工程(S3)を1サイクルとして、これを繰り返し、バイオマスガス化処理を行うのである。
【0029】
なお、改質活性を高めるため、最初のサイクルに先だって触媒を還元することが好ましい。また、改質装置2内に残留したガスによる望まない反応を避けるため、各工程間において窒素などの不活性ガスにより改質装置2内をパージしてもよい。
【0030】
また、バイオマスは特にその種類を限定するものではなく、木質系バイオマス、製紙系バイオマス、草本系バイオマス、食品廃棄物系バイオマス、農業残渣系バイオマスなど、熱分解によりタール含有ガスを得られるものを使用し得る。
【0031】
次に、上記したバイオマスガス化用触媒1の詳細について説明する。
【0032】
触媒1は、活性金属のうち、主触媒金属として、Ni系の金属からなるNi系金属粒と、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒との混合粒である混合触媒細粒を含む。混合触媒細粒は、Ni−Fe合金などの合金を形成し得る。また、触媒1は担体として、金属酸化物からなる多孔質材料を含む。具体的には、アルカリ土類金属アルミネートが担体として好ましく、バリウムヘキサアルミネート(BaAl12O19)が特に好ましい。高温安定性に優れ、かつ物理的強度の高いバリウムヘキサアルミネートを担体として用いることにより、高い改質能力を維持し、耐久性に優れる触媒が得られる。
【0033】
混合触媒細粒を含む触媒1は、Ni系金属粒を含むことで高い改質活性を有するが、助剤粒として含まれるFe粒又はMnO2粒が主として酸素吸蔵・放出能、すなわち炭素を酸化除去する酸化活性を有し、改質工程(S1)の温度を下げながらも炭素の析出すなわちコークの生成を抑制できる。また、改質工程(S1)における改質活性が低下したとしても、再生工程(S2)において、Ni系金属等の活性金属上のコークの酸化除去を促進できる。再生工程(S2)の温度を下げることができれば触媒金属粒のシンタリングとともに過剰な酸化も抑制できる。なお、金属酸化物からなる多孔質担体の高い比表面積や耐久性により、各工程における触媒の高い活性を維持できるのである。混合触媒細粒からなる触媒が自らの高い酸化活性により自らの改質活性を維持し、結果として、高い改質処理能力を有し、かつ、それを維持し、耐久性に優れるバイオマスガス化用触媒となるのである。
【0034】
また、還元工程(S3)を含む場合についても、触媒に易還元性を与えて、より低温で還元できるようにすることで、高い改質処理能力を維持しつつ、より耐久性に優れるバイオマスガス化用触媒を得られる。
【0035】
なお、触媒1は、さらに他の金属粒や金属酸化物粒を活性金属として含んでもよく、これらによって、さらに、改質工程(S1)、再生工程(S2)及び/又は還元工程(S3)の各工程の活性を向上させ得る。
【0036】
また、触媒1は部分酸化改質反応によって得られたタール含有ガスのタール濃度を低減させるために用いることもできる。
【0037】
次に、本発明によるバイオマス化用触媒1の評価試験について説明する。
【0038】
図3に示すように、実施例1〜実施例8、比較例1及び比較例2に示した触媒は、活性金属として金属粒及び/又は金属酸化物粒を所定の構成比率(質量%)となるように対応する担体にそれぞれ担持させたものである。なお、担体は、比較例1のアルミナを除き、実施例1〜8及び比較例2においてバリウムヘキサアルミネートである。
【0039】
担体であるバリウムヘキサアルミネート(BaAl12O19)は以下の如く調製した。すなわち、(BaO)0.14(Al2O3)0.86の成分比となるようにAl2O3(表面積100m2/g)とBaCO3を物理的に混合し、これを20MPaの圧力でプレスし、タブレット状に成形した。これを1400℃で12時間焼成し、放冷した後、乳鉢で適当に粉砕し、ふるいを用いて300〜600μmに整粒し、BaAl12O19の触媒担体を得た。また、比較例1の担体であるアルミナ(Al2O3)には市販品を用いた。
【0040】
金属粒及び金属酸化物粒の担体への担持は、これに限られるものではないが、含浸法を用いた。すなわち、担持させる対象となる金属の無機塩の水溶液を担体へ含浸させ、これを焼成した。例えば、Ni粒を担持させる場合、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O)の水溶液を調製し、担体に含浸させた後、500℃で3時間焼成した。その他の金属粒や金属酸化物粒についても同様に公知の方法を用いて担持させた。さらにPt粒又はIr粒を担持させる場合、ジアンミンジニトロ白金(Pt(NO2)2(NH3)2)又はヘキサクロロイリジウム酸アンモニウム((NH4)2IrCl6)の水溶液を調製し、逐次含浸を行ない、500℃で3時間焼成した。
【0041】
上記したように調製した実施例1〜8、比較例1及び2に示される各触媒(図3参照)を図4に示す反応器10に5gずつ搭載し、それぞれについてバイオマスガス化試験を行った。
【0042】
図4に示すように、反応器10は、バイオマスを熱分解する熱分解部11と、熱分解されて得られるタール含有ガスを改質する改質部12とを含む。すなわち、反応器10は、図2について説明した熱分解装置3及び改質装置2の両者を含んでいる。さらに、改質部12の下端近傍には、熱分解部11と改質部12とを連通させ、触媒1を改質部12内にとどめるような細孔を備える連通路板13が設けられている。連通路板13は、通過するガスの流路を分散させて触媒1の表面の広範囲にわたってガスを接触させ得る。反応器10は、さらに、反応器10内に導入ガスを導くガス導入路14〜16と、合成ガスを排出する排出口18と、バイオマスを所定の量だけ投入するフィーダー20と、バイオマスを熱分解部11に供給するためのキャリアガスを導入するキャリアガス導入路19と、反応器10を周囲から加熱して熱分解部11及び改質部12に所定の温度を与えるよう制御される電気炉21とを有する。なお、バイオマスガス化試験に先立って、600℃で60分間の水素による触媒1の還元を行った。
【0043】
次に、反応器10によるバイオマスガス化試験の方法について説明する。本試験においては、改質工程(S1)、再生工程(S2)及び還元工程(S3)を順に繰り返した。
【0044】
まず、改質工程(S1)では、フィーダー20からバイオマスを330mg/分(炭素分14100μmol/分)の供給量で熱分解部11に供給した。ここで、使用するバイオマスは、杉を主成分とした木材を、ふるいで180μm〜300μmの粒径に整粒した木材粉である。また、キャリアガスとして200ml/分の窒素をキャリアガス導入路19から導入した。熱分解部11は電気炉21により加熱し、通過するバイオマスが約650℃に加熱されるように温度調節した。これによって、バイオマスは分解され、固体炭素や灰分などからなる固体成分25とタール含有ガスとに分離される。
【0045】
バイオマスの熱分解によって生じたタール含有ガスは、ガス導入路15から100μl/分の速度で供給される水蒸気、及び、キャリアガス導入路19から供給される窒素とともに連通路板13を通過し、改質部12内において触媒1に接触する。このとき、改質部12における触媒温度、すなわち改質工程(S1)の処理温度は650℃近傍に保たれるよう電気炉21により調節した。これにより改質部12においてタール含有ガスは軽質炭化水素や水素、一酸化炭素、二酸化炭素などに改質された合成ガスとなる。得られた合成ガスは排出口18から排出される。なお、1回の改質工程(S1)は2時間継続させた。
【0046】
改質工程(S1)に引き続き、再生工程(S2)では、まず反応器10内をパージするためキャリアガス導入路19から窒素を導入した。続いて、酸素濃度を1体積%となるようにガス導入路14から空気を供給し、触媒1に付着したコークを酸素により燃焼させた。このとき、触媒温度、すなわち再生工程(S2)の処理温度を、十分にコークの燃焼を進行させ、かつ、シンタリングを抑制できるよう調節した。ここでは触媒温度を600℃とした。1回の再生工程(S2)は、後述する終了条件を達成するまで5時間以上継続させた。
【0047】
再生工程(S2)に引き続き、還元工程(S3)では、反応器10内を窒素によりパージした後、ガス導入路16から水素を100体積%の濃度となるよう供給し、再生工程(S2)において酸化した触媒を還元させた。このとき触媒温度を、十分に触媒の還元を進行させ、かつ、シンタリングを抑制できるよう調節した。すなわち、還元工程(S3)は600℃で行った。また、1回の還元工程(S3)は1時間継続させた。
【0048】
還元工程(S3)の終了後、再び改質工程(S1)を行う。つまり、改質工程(S1)→再生工程(S2)→還元工程(S3)のサイクルを繰り返し行った。かかるサイクルの繰り返しを、触媒1が後述する耐久限界に到達するまで継続させた。
【0049】
これらのサイクルの繰り返しを行いつつ、改質工程S1においては、GC−TCDを用いて合成ガス中の合成ガス成分であるCO2、CO、CH4及びH2の生成速度の測定を行った。合成ガスのサンプリングはバイオマスの供給開始から1分後に開始した。図5〜図14に、それぞれ比較例1及び2、実施例1〜8の触媒を用いた場合の改質工程(S1)における合成ガス成分の生成速度の変化を示した。
【0050】
さらに、合成ガス成分のうち、CO+CH4+H2の生成速度が改質工程(S1)の初期の定常状態での生成速度の50%を下回ったときを触媒1の耐久限界とした。かかる耐久限界に到達するまでの改質工程(S1)におけるバイオマスの供給開始からの累積時間を耐久時間として記録した。その耐久時間を図15に示した。
【0051】
再生工程(S2)では、GC−TCDにより燃焼ガス中の二酸化炭素の量を2分半毎に測定し、これに基づき触媒1上に析出した炭素量を算出し、コーク析出率として記録した。なお、1サイクル目及び2サイクル目のコーク析出率を図15に示した。また、二酸化炭素の量が0.1体積%を下回ることを再生工程(S2)の終了条件とし、かかる終了条件を達成するまで測定を続けた。
【0052】
さらに、図15に示した耐久時間を、各実施例の触媒1に活性金属として使用されている金属粒及び/又は金属酸化物粒に含まれる金属元素の元素記号とともに図16のグラフに示した。これらの結果について説明する。
【0053】
まず、活性金属としてNiのみを12.0質量%担持させた比較例1及び2において、担体をアルミナとした比較例1と担体をバリウムヘキサアルミネートとした比較例2とでは、耐久時間はそれぞれ120分及び85分であった。Niのみを担持させた場合において、担体の違いに特に有意差は見られなかった。図5及び図6を併せて参照すると、どちらも初回の改質工程(S1)中に特に合成ガス中のCO及びH2の生成速度が急激に低下して耐久限界に至っている。
【0054】
活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、Fe:5.7質量%とした実施例1では、比較例1及び2に比べて耐久時間は240分と大幅に延びた。また、活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:17.6質量%とした実施例3では、耐久時間は225分と実施例1とほぼ同等の数値となった。すなわち、活性金属としてNiにFe若しくはMnO2の一方からなる助剤を与えて担体をバリウムヘキサアルミネートとした場合に、アルミナの担体に活性金属としてNiを与えた場合に比べて耐久時間がおよそ倍になったのである。また、図7及び図9を併せて参照すると、実施例1及び3では、初回の改質工程(S1)におけるCO、CH4及びH2の生成速度の低下について、比較例2と比べて抑制できている。また、2回目の改質工程(S1)の初期の合成ガス成分の生成速度は、初回の改質工程(S1)と同程度である。
【0055】
これは、改質工程において改質温度を650℃と低くしてもNiにより高い改質活性が得られるとともに、Fe又はMnO2の高い酸素吸蔵・放出能によりコークの析出を抑制でき、さらに、再生工程を600℃と改質工程より低温にしてもFe又はMnO2によって高い酸化活性を与えることでコークを良好に酸化除去できて、これによりサイクルの繰り返しにおいて高い改質処理能力を維持し続けることができたためと考えられる。つまり、活性金属を上記した混合触媒粒とすることで、改質工程(S1)におけるコークの析出抑制と、再生工程(S2)でのコークの燃焼促進との相乗効果として改質処理能力を高く維持し続けるのである。また、担体をバリウムヘキサアルミネートとしたことで、かかる担体との組み合わせにおいてこれらの高い活性を得ることができたものと考えられる。すなわち、バイオマスガス化処理における改質工程(S1)及び再生工程(S2)においてそれぞれ混合触媒粒により高い活性を得て、結果として、高い改質処理能力をもたらすとともに、触媒としての再生も容易で耐久性に優れるのである。
【0056】
また、活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:8.8質量%、CeO2:8.8質量%とした実施例5において、耐久時間は285分とさらに延びた。図11を併せて参照すると、2回目の改質工程(S1)においても、CO、CH4及びH2の生成速度の低下が小さく、3回目の改質工程(S1)の初期の合成ガス成分の生成速度は、初回の改質工程(S1)と同程度である。MnO2及びCeO2はどちらも高い炭素の燃焼活性を有するが、イオン半径の異なる両者の存在により酸素イオンの移動性を向上させてより高い酸化活性を与える相乗効果を得られたものと考えられる。また、NiとCeO2がナノコンポジット構造を形成して、Ni-CeO2界面が拡大し、Ni上の炭素に酸素がより供与されやすくなることにより、改質活性の向上と酸化活性の向上との相乗効果を得ると考えられる。また、この酸化活性の向上により、改質工程(S1)においてコーク析出を抑制し、かつ、再生工程(S2)においてもコークの燃焼を促進させることができたと考えられる。
【0057】
実施例2、4及び6においては、それぞれ実施例1、3及び5に含まれる活性金属に対してPtを添加した構成比率となっている。すなわち、実施例2は、Ni:12.0質量%、Fe:5.7質量%、Pt:0.1質量%、実施例4は、Ni:12.0質量%、MnO2:17.6質量%、Pt:0.1質量%、実施例6は、Ni:12.0質量%、MnO2:8.8質量%、CeO2:8.8質量%、Pt:0.1質量%の活性金属の構成比率を有する。実施例2の耐久時間は310分であり、実施例1の240分に比べて70分長くなった。実施例4の耐久時間は350分であり、実施例3の225分に比べて125分長くなった。実施例6の耐久時間は510分であり、実施例5の285分に比べて225分長くなった。
【0058】
Ptは、改質活性及び酸化活性を有する。これにより耐久時間の向上を得られたと考えられる。また、実施例1と実施例2の耐久時間の差に比べて、実施例3と実施例4及び実施例5と実施例6の耐久時間の差の方が大きい。つまり、活性金属に含まれる助剤をFeとするよりもMnO2とする方がPtの添加による耐久時間の延びが大きい。
【0059】
ここで、図7を参照すると、実施例1において、CO、CH4及びH2の生成速度は2回目の改質工程(S1)で大きく低下している。図8を併せて参照すると、実施例2において、CO、CH4及びH2の生成速度は実施例1の生成速度の低下幅に比べてやや小さい程度の低下幅であるが、2回目の改質工程(S1)では大きく低下している。ところが、図9及び図10を参照すると、CO、CH4及びH2の生成速度が大きく低下したのは、実施例3では2回目の改質工程(S1)であるのに対し、実施例4では3回目の改質工程(S1)である。同様に、図11及び図12を参照すると、CO、CH4及びH2の生成速度が大きく低下したのは、実施例5では3回目の改質工程(S1)であるのに対し、実施例6では4回目の改質工程(S1)である。つまり、活性金属に含まれる助剤をFeとするよりMnO2とする方が、Ptを添加した場合において、改質工程(S1)でのコークの析出をより抑制できるものと考えられる。
【0060】
さらに、図15を併せて参照すると、実施例1と実施例2の間においてコーク析出率に有意差は見られないものの、実施例3と4の間、実施例5と6の間においてPtの添加によりコーク析出率が低下している。これらを併せて考えると、MnO2とPtとが共存することで改質工程(S1)においてコークの析出を抑制する相乗的な効果を得たものと考えられる。なお、実施例及び比較例に示した各触媒についての還元特性を昇温還元法によって調べており、Ptを添加することによってH2消費量のピーク温度が低温側にシフトすることを確認している。つまり、Ptは易還元性を有する。これによっても、還元工程(S3)での活性を高め、結果として、実施例2、4及び6の耐久時間を向上させ得たと考えられる。
【0061】
実施例7は活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:10.0質量%、CeO2:10.0質量%、MgO:2.0質量%、Pt:0.1質量%としている。すなわち、MnO2及びCeO2の比率こそ若干異なるものの、実施例6にMgOを添加したものと考えることができる。実施例7の耐久時間は630分であり、MgOの添加により耐久時間が向上したと考えることができる。再び図12を併せて参照すると、実施例6では、CO、CH4及びH2の生成速度を4回目の改質工程(S1)において大きく低下させた後、5回目の改質工程(S1)で耐久限界に到達している。対して、図13を併せて参照すると、実施例7では、CO、CH4及びH2の生成速度が3回目の改質工程(S1)で低下し始めているものの、6回目の改質工程(S1)まで耐久限界に到達しなかった。
【0062】
MgOは塩基性であるためCO2の吸着能が高く、これにより改質工程(S1)において近傍のNi粒表面に付着したコークに酸素を与えることによって、これをCOとして酸化除去し得るという炭素の酸化活性を有すると考えられる。さらに、MgOは再生工程(S2)においてNiO−MgO固溶体を形成するが、還元工程(S3)においてこれが還元されることでNiの分散状態を改質工程(S1)の前から大きく変化させないようにできると考えられる。つまり、MgOには主触媒金属であるNiの分散状態を維持する効果があるものと考えられる。
【0063】
実施例8は、実施例7のPtの代わりにIrを添加し、活性金属の構成比率をNi:12.0質量%、MnO2:10.0質量%、CeO2:10.0質量%、MgO:2.0質量%、Ir:0.1質量%としている。これによれば、耐久時間は680分であり、実施例1〜8のうちで最長であった。IrはPtと同様に改質活性と酸化活性、さらに易還元性を有するが、実施例7との比較において、耐久性が向上している。また、図14を図13と比較しつつ併せて参照すると、6回目の改質工程(S1)の初期のCO、CH4及びH2の生成速度は、5回目の改質工程(S1)末期のそれと比較した場合、実施例7において同等以下に低下しているのに対して、実施例8では明らかに上昇している。Ptに比べてIrの方が高い融点を有するので、活性金属としてIrの金属粒の分散状態を維持しやすく、これにより他の金属粒及び金属酸化物粒の分散状態を維持しやすいためと考えられる。
【0064】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく変更例を説明したが、本発明は必ずしもこれら実施例及び変更例に限定されるものではなく、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0065】
1 バイオマスガス化用触媒
2 改質装置
3 熱分解装置
10 反応器
11 熱分解部
12 改質部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タール含有ガスの改質工程で生じるコークを所定時間毎に燃焼させる触媒再生工程を設けながらバイオマスガス化処理を行うためのバイオマスガス化用触媒であって、 Ni系金属からなる主触媒金属粒、及び、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒の混合触媒細粒を金属酸化物からなる多孔質材料の担体に与えたことを特徴とするバイオマスガス化用触媒。
【請求項2】
前記助剤粒は、MnO2とともにCeO2を含むことを特徴とする請求項1記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項3】
前記混合触媒細粒は、さらにPtを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項4】
前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びPtを含むことを特徴とする請求項2記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項5】
前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びIrを含むことを特徴とする請求項2記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項6】
前記Ni系金属は純Ni又はNi合金からなり、前記バイオマスガス化処理は800℃以下の温度で行われることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項7】
前記金属酸化物は、アルカリ土類金属アルミネートであることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項1】
タール含有ガスの改質工程で生じるコークを所定時間毎に燃焼させる触媒再生工程を設けながらバイオマスガス化処理を行うためのバイオマスガス化用触媒であって、 Ni系金属からなる主触媒金属粒、及び、Fe若しくはMnO2の一方からなる助剤粒の混合触媒細粒を金属酸化物からなる多孔質材料の担体に与えたことを特徴とするバイオマスガス化用触媒。
【請求項2】
前記助剤粒は、MnO2とともにCeO2を含むことを特徴とする請求項1記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項3】
前記混合触媒細粒は、さらにPtを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項4】
前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びPtを含むことを特徴とする請求項2記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項5】
前記混合触媒細粒は、さらにMgO及びIrを含むことを特徴とする請求項2記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項6】
前記Ni系金属は純Ni又はNi合金からなり、前記バイオマスガス化処理は800℃以下の温度で行われることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載のバイオマスガス化用触媒。
【請求項7】
前記金属酸化物は、アルカリ土類金属アルミネートであることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載のバイオマスガス化用触媒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【公開番号】特開2013−78743(P2013−78743A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220876(P2011−220876)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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