説明

バイオ人工肺

気道器官バイオリアクター装置、その使用方法、ならびに前記方法を使用して作製したバイオ人工気道器官、ならびに前記バイオ人工気道器官を使用して被験体を処置する方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2009年6月4日に出願された米国仮特許出願第61/184,170号、および2009年10月29日に出願された米国仮特許出願第61/256,281号の恩典を主張する。これらの内容はその全体が、参照により本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本明細書は、組織生成に関連する装置および方法を提供する。例えば、本明細書は、ヒトまたは動物被験体に移植可能な肺組織を生成するための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
背景
肺移植は、とりわけ肺不全、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、肺癌、および先天性肺疾患に代表される状態を抱えている多くの患者にとって最後の望みに相当する。肺移植の典型的な待機期間は2年以上になり得、順番待ちリストに載っている者について30%の死亡率を生じる。
【発明の概要】
【0004】
概要
提示するのは、気道器官バイオリアクター装置である。本装置は、その上に細胞媒体を灌流させて器官を成長させる器官マトリックス骨格を支持するように構成された器官チャンバーを有する。本装置は、コネクタの第1の分岐を介して器官に湿潤換気を供給するように構成された湿潤換気装置(ventilator)系をさらに有する。本装置は、コネクタの第1の分岐を介して器官に乾燥換気を提供する乾燥換気装置系をさらに有する。本装置は、湿潤換気の送達、または乾燥換気の送達を制御するように構成されたコントローラをさらに有する。
【0005】
本装置は、器官に接続された第1の分岐、第2の分岐、および第3の分岐を含むコネクタをさらに包含し得る。本装置は、コネクタの第1の分岐およびコネクタの第2の分岐がコネクタの第3の分岐と接続している第1の三方向分岐合流点(three-way junction)をさらに有する。スイッチを含む三方向分岐合流点は、第1の分岐と第2の分岐との間を切り替えるように構成され得る。本装置は、コネクタの第1の分岐を介して器官に湿潤換気を供給するように構成された湿潤換気装置系をさらに有する。本装置は、コネクタの第2の分岐を介して器官に乾燥換気を供給するように構成された乾燥換気装置系をさらに有する。本装置は、第1の三方向分岐合流点のスイッチを制御して、湿潤換気の送達または乾燥換気の送達を制御するように構成されたコントローラをさらに有する。
【0006】
本装置は、細胞媒体を、入口ラインを介して器官に供給する;および排出物である媒体(waste media)を、第1の分岐、第2の分岐および第3の分岐を含む出口ラインを介して器官から排出する、ように構成された容器系;ならびに出口ラインの第1の分岐および出口ラインの第2の分岐が出口ラインの第3の分岐と接続されている第2の三方向分岐合流点、をさらに包含し得る。湿潤換気装置系は、湿潤換気ラインを介して器官チャンバーに接続した湿潤換気装置;およびコネクタの第1の分岐を介して器官に接続されたコンプライアンスチャンバー、を含み得る。コンプライアンスチャンバーの上昇を介して、湿潤呼気陽圧(wet positive and expiratory pressure)(wPEEP)を器官チャンバーに提供することができる。本装置は、出口ラインの第2の分岐を介して器官チャンバー;および出口戻りラインを介して容器系に接続された後負荷チャンバーをさらに包含し得る。容器系は、入口ラインを介して器官チャンバーに接続した第1の容器;および器官チャンバー排液管を介して器官チャンバーに接続した第2の容器;ならびに出口戻りラインを介して後負荷チャンバーを包含し得、ここで第1の容器および第2の容器は、容器供給ラインおよび容器排液管を介して媒体を循環させる。乾燥換気装置系は、コネクタの第2の分岐を介して器官に接続された噴霧器を含む乾燥換気チャンバー;および乾燥呼気陽圧(dry positive and expiratory pressure)(dPEEP)を器官チャンバーに提供するように構成され、dPEEPラインを介して乾燥換気チャンバーに接続された第1の乾燥換気装置を包含し得る。乾燥換気装置系は、乾燥換気装置ラインを介して器官チャンバーに接続された第2の乾燥換気装置をさらに包含し得る。本装置は、ガス媒体を器官チャンバー、乾燥換気チャンバー、および容器系に供給するように構成されたガスタンクをさらに包含し得る。コントローラは、コンピュータにより操作され得る。
【0007】
別の態様では、本明細書は、バイオ人工気道器官を提供する方法を特徴とする。本方法は、肺組織マトリックスおよび実質的な血管系(vasculature)を包含する肺組織マトリックスを提供すること;肺組織マトリックスに細胞を播種すること;第1の所望の程度の器官成熟が生じるのに十分な時間の間、器官に湿潤換気を提供すること;および第2の所望の程度の器官成熟が生じるのに十分な時間の間、湿潤成熟した器官に乾燥換気を提供して、バイオ人工肺を提供すること、を包含し得る。本方法は、器官の血管系を介して内皮細胞を肺組織マトリックスに播種すること;および器官の気道を介して上皮細胞を気道肺組織マトリックスに播種すること、をさらに包含し得る。本方法は、器官の血管系を介して幹細胞を肺組織マトリックスに播種することをさらに包含し得る。幹細胞は、骨髄由来間葉性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞であり得る。幹細胞は、流体30cc当たり約1億個の細胞の濃度で、流体に懸濁され得る。内皮細胞は、流体10cc当たり約1億個の細胞の濃度で流体に懸濁され得る。上皮細胞は、流体5cc当たり約1億個の細胞の濃度で流体に懸濁され得る。本方法は、第1の所望の程度の器官成熟が生じるまで器官成熟の程度をモニタリングすること;器官への湿潤換気を提供を止めること;器官に人工サーファクタントを適用すること;および器官に乾燥換気を提供し始めること、をさらに包含し得る。肺組織マトリックスに湿潤換気を提供することは、気道を、湿潤換気装置ラインを介して湿潤換気装置に接続すること;器官を、湿潤換気ラインを介してコンプライアンスチャンバーに接続すること;湿潤換気ラインを介して湿潤気道圧を上げること;およびコンプライアンスチャンバーを上昇させることによって器官に湿潤呼気陽圧(wPEEP)を提供すること、を包含し得る。湿潤換気は、生理的一回換気量(tidal volume)で提供される。湿潤成熟した器官に乾燥換気を提供することは、気道を、乾燥換気ラインを介して乾燥換気チャンバーに接続すること;乾燥換気チャンバーを、乾燥呼気陽圧(dPEEP)ラインを介して第1の乾燥換気装置に接続すること;乾燥換気ラインを介して乾燥気道圧を上げること;湿潤換気ラインを断絶すること;および器官を、乾燥換気装置ラインを介して第2の乾燥換気装置に接続すること、を包含し得る。肺組織マトリックスは、脱細胞化ヒト肺組織、または人工肺マトリックスを包含し得る。バイオ人工肺は、完全な肺機能またはその一部を提供するのに十分な数の細胞を包含し得る。
【0008】
別の態様では、本明細書は、本明細書において提供する方法により作製されたバイオ人工肺を特徴とする。バイオ人工肺は、完全肺、またはその一部であり得る。
【0009】
さらなる態様では、本明細書は、肺活量の障害または低下を抱える被験体を治療する方法を特徴とする。本方法は、バイオ人工肺を被験体に移植することを包含し得る。
【0010】
特に定義しない限り、本明細書で使用する技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されている意味と同様の意味を持つ。本明細書に記載する方法および材料と類似または同等の方法および材料が、本発明を実施するために使用できるが、以下に適切な方法および材料を記載する。本明細書で言及する全ての文献、特許出願、特許、およびその他の引用文献は、それらの全体が参照により本明細書に援用される。不一致が生じたときは、定義を含めて、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は、例示に過ぎず、限定することを意図したものではない。
【0011】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付の図面および以下の記載に示す。本発明のその他の特徴、目的、および利点は、明細書、図面、および請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、例示の肺バイオリアクターの模式図である。
【図2A】図2A、2B、2C、および2Dは、肺バイオリアクターにおいて肺組織を成長させるための例示の方法のフローチャートである。
【図2B】図2A、2B、2C、および2Dは、肺バイオリアクターにおいて肺組織を成長させるための例示の方法のフローチャートである。
【図2C】図2A、2B、2C、および2Dは、肺バイオリアクターにおいて肺組織を成長させるための例示の方法のフローチャートである。
【図2D】図2A、2B、2C、および2Dは、肺バイオリアクターにおいて肺組織を成長させるための例示の方法のフローチャートである。
【図3】図3は、例示の肺脱細胞化ユニットの模式図である。
【図4】図4は、細胞播種モードにある例示の肺バイオリアクターの模式図である。
【図5】図5は、灌流モードにある例示の肺バイオリアクターの模式図である。
【図6】図6は、例示の肺バイオリアクターの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
本明細書は、器官生成に関与する方法および材料に関する。本発明は、少なくとも部分的に、ヒトおよび他の動物へ移植できる状態の機能気道器官を成長させるのにより現実的な環境を提供するために使用できる、機能肺組織を生成するように構成されたバイオリアクターの発見に基づいている。肺組織は、所与のマトリックス、例えば、人工または脱細胞化肺組織マトリックスにわたって生成される。
【0014】
本明細書で使用する「機能」肺組織は、正常かつ健康な肺の機能(例えば、大気から血流中への酸素の輸送を可能にすること、および血流から大気中へ二酸化炭素を放出すること)の大部分または全てを行う。吸い込んだ空気を湿らせ、サーファクタントを作って、肺胞における表面張力を低くし、粘液を生成および輸送して、吸い込んだ微粒子物質を遠位から近位の気道まで除去する。
【0015】
本明細書でで使用する「脱細胞化」および「無細胞」という用語は、互換的に使用され、標準的な組織学的染色手順を使用した際に、組織学的切片において検出可能な細胞内、内皮細胞、上皮細胞、および核が完全にまたはほぼ完全に不在であると定義される。必ずではないが好ましくは、残存している細胞残屑も、脱細胞化器官または組織から除去されている。
【0016】
脱細胞化組織/器官マトリックス
脱細胞化肺組織マトリックスを調製するための方法および材料は当該分野で公知である。このようなマトリックスを調製するために任意の適切な材料が使用できる。好適な実施形態では、組織マトリックスは、脱細胞化肺組織から発達した無細胞組織骨格であり得る。例えば, ヒト肺等の組織またはその一部を適切な方法で脱細胞化して、組織または組織部分の形態学的完全性および血管系を維持し、かつ細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を保存したままで、組織から天然細胞を除去する。場合によっては、死体肺またはその一部が使用できる。脱細胞化方法としては、組織(例えば、肺組織)を、液体窒素を使用した繰り返し凍結融解サイクルに供することが挙げられ得る。他の場合には、組織を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリエチレングリコール(PEG)、またはTritonX-100等のアニオン性またはイオン性細胞破壊媒体に供してもよい。組織はまた、ヌクレアーゼ溶液(例えば、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ)で処理され、緩やかに攪拌しながら滅菌リン酸緩衝化生理食塩水中で洗浄されてもよい。場合によっては、脱細胞化は、当該分野で公知の方法および材料を使用して器官または組織の管、導管、および/または空洞にカニューレを挿入することによって行うことができる。カニューレ挿入ステップの後、上述したように、器官または組織に、カニューレを介して細胞破壊媒体を灌流させることができる。組織を通る灌流は、順行性であっても、または逆行性であってもよく、方向性を変更して灌流効率を改善してもよい。器官または組織の大きさおよび重量、特定のアニオン性またはイオン性界面活性剤、ならびに細胞破壊媒体中のアニオン性またはイオン性界面活性剤の濃度に応じて、組織は一般的に、細胞破壊媒体で組織1グラム当たり約2〜約12時間灌流される。洗浄を含めて、器官は、組織1グラム当たり最大約12〜約72時間灌流され得る。灌流は、一般的に、流速および圧力を含めて生理的条件に調節される。
【0017】
脱細胞化組織は、血管樹のECMコンポーネントを含めて、組織の全てまたはほとんどの領域の細胞外マトリックス(ECM)コンポーネントから本質的に構成され得る。ECMコンポーネントは、以下のいずれかまたは全てを含み得る:すなわち、フィブロネクチン、フィブリリン、ラミニン、エラスチン、コラーゲンファミリーのメンバー(例えば、コラーゲンI、III、およびIV)、グリコサミノグリカン、基質(ground substance)、細網繊維、およびトロンボスポンジン。これは、基底膜等の定義された構造として組織立ったままであり得る。好適な実施形態では、脱細胞化肺組織マトリックスは実質的に無傷の血管系を保持する。実質的に無傷の血管系を保持することで、移植の際に組織マトリックスを被験体の血管系に接続できる。さらに、脱細胞化組織マトリックスを、例えば、照射(例えば、UV、ガンマ)でさらに処置して、脱細胞化組織マトリックス上または中に残っているあらゆる種類の微生物の存在を減らしたり、無くしたりできる。
【0018】
物理的、化学的、および酵素的手段を使用して脱細胞化組織マトリックスを得る方法は当該分野で公知であり、例えば、Liaoら、Biomaterials 29(8): 1065-74(2008);Gilbertら、Biomaterials 27(9):3675-83(2006);Teebkenら、Eur. J. Vasc. Endovasc. Surg. 19:381-86(2000)を参照のこと。また、米国特許公開第2009/0142836号;同第2005/0256588号;同第2007/0244568号;および同第2003/0087428号も参照のこと。
【0019】
人工器官マトリックス
人工器官マトリックスを調製するための方法および材料は当該分野で公知である。任意の適切な材料を使用して、そのようなマトリックスを調製できる。好適な実施形態では、人工器官マトリックスは、例えば、ポリグリコール酸、Pluronic F-127(PF-127)、ゲルフォームスポンジ、コラーゲン-グリコサミノグリカン(GAG)、フィブリノゲン-フィブロネクチン-ビトロネクチンヒドロゲル(FFVH)、およびエラスチン等の多孔性材料から発達した骨格(scaffold)であり得る。例えば、Ingenitoら、J Tissue Eng Regen Med. 2009 Dec 17;Hogansonら、Pediatric Research、May 2008、63(5):520-526;Chenら、Tissue Eng. 2005 Sep-Oct;l 1(9- 10): 1436-48を参照のこと。場合によっては、人工器官マトリックスは、肺胞単位に似た多孔性構造を有し得る。Andradeら、Am J Physiol Lung Cell MoI Physiol. 2007 Feb;292(2):L510-8を参照のこと。場合によっては、埋め込まれた人工器官マトリックスは、器官特異的マーカー(例えば、クララ細胞、肺細胞、および気道上皮についての肺特異的マーカー)を発現し得る。場合によっては、埋め込まれた人工器官マトリックスは、同定可能な構造(例えば、人工肺マトリックス中の肺胞および終末気管支に似た構造)に組織化し得る。例えば、FFVHを使用した埋め込み人工肺マトリックスは、インビトロでの細胞接着、拡散、および細胞外マトリックス発現、ならびにインビボでの明白な生着を促し、周囲組織に対する栄養作用の兆候を示し得る。Ingenitoら、前掲を参照のこと。また、米国特許第7,662,409号および同第6,087,552号;米国特許公開第2010/0034791号;同第2009/0075282号;同第2009/0035855号;同第2008/0292677号;同第2008/0131473号;同第2007/0059293号;同第2005/0196423号;同第2003/0166274号;同第2003/0129751号;同第2002/0182261号;同第2002/0182241号;ならびに同第2002/0172705号も参照のこと。
【0020】
細胞播種
本明細書に記載の方法では、肺組織マトリックス、例えば、脱細胞化肺組織マトリックスまたは人工肺マトリックスに細胞(例えば、分化または再生細胞)を播種する。
【0021】
ナイーブまたは未分化細胞型等の任意の適切な再生細胞型を使用して肺組織マトリックスに播種できる。本明細書で使用する再生細胞としては、親細胞(progenitor cell)、前駆細胞、ならびに臍帯細胞(例えば、ヒト臍静脈内皮細胞)および胎児幹細胞を含む「成体」由来幹細胞が挙げられるがこれらに限定されない。再生細胞としてはまた、分化または免疫委任(committed)細胞型も挙げられる。本明細書で提供する方法および材料に適した幹細胞としては、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)、間葉性幹細胞、ヒト臍静脈内皮細胞、多分化能成体親細胞(MAPC)、または胚幹細胞が挙げられる。場合によっては、他の組織に由来する再生細胞も使用できる。例えば、皮膚、骨、筋肉、骨髄、滑膜、または脂肪組織に由来する再生細胞を使用して、幹細胞播種型組織マトリックスを発達させることができる。
【0022】
場合によっては、本明細書で提供する肺組織マトリックスはさらに、ヒト上皮細胞および内皮細胞等の分化細胞型を播種され得る。例えば、肺マトリックスは、灌流播種により、血管系を介して内皮細胞、上皮および間葉性細胞、ならびにヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を播種され得る。
【0023】
播種用の細胞を単離および回収する任意の適切な方法が使用できる。例えば、人工多能性幹細胞は、一般的に、Oct4、Sox2、Klf4、c-MYC、Nanog、およびLin28等の転写因子の異所性発現により、多能性状態に「再プログラム化」された体細胞から得ることが出来る。Takahashiら、Cell 131:861-72(2007);Parkら、Nature 451:141-146(2008);Yuら、Science 318:1917-20(2007)を参照のこと。臍帯血幹細胞は、新鮮なまたは冷凍した臍帯血から単離できる。間葉性幹細胞は、例えば、未加工(raw)かつ未精製の骨髄またはフィコール(ficoll)精製骨髄から単離できる。上皮および内皮細胞は、生存または死体ドナー、例えば、バイオ人工肺を受ける被験体から、当該分野で公知の方法により単離および回収できる。例えば、上皮細胞は皮膚組織サンプルから得ることができ、内皮細胞は血管組織サンプルから得ることができる。一部の実施形態では、タンパク質分解酵素を、血管系に設置したカテーテルを介して組織サンプルに灌流させる。酵素処理した組織の部分を、さらなる酵素的および機械的破壊に供してもよい。このようにして得た細胞の混合物を分離して上皮および内皮細胞を精製できる。場合により、フローサイトメトリーに基づく方法(例えば、蛍光活性化細胞分別)を使用して、特異的な細胞表面マーカーの有無に応じて細胞を分別できる。非自己細胞を使用する場合、免疫型が一致した細胞の選択を考慮して、器官または組織が被験体に埋め込まれた際に拒絶されないようにするべきである。
【0024】
単離細胞を緩衝化溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)中で濯いで、細胞培養培地に再懸濁され得る。細胞の集団を培養し拡散するためには、標準的な細胞培養方法を使用できる。細胞を得た後は、組織マトリックスと接触させて、マトリックスに播種する。例えば、組織マトリックスは、少なくとも1つの細胞型をインビトロで任意の適切な細胞密度で播種され得る。例えば、マトリックスに播種するための細胞密度は、少なくとも1×103細胞/グラム(マトリックス)であり得る。使用できる細胞密度は、約1×105〜約1×1010細胞/グラム(マトリックス)(例えば、少なくとも100,000、1,000,000、10,000,000、100,000,000、1,000,000,000、または10,000,000,000個の細胞/グラム(マトリックス))にわたり得る。
【0025】
場合により、本明細書で提供するような脱細胞化または人工肺組織マトリックスは、灌流播種により上記細胞型および細胞密度で播種され得る。例えば、フロー灌流系を使用して、組織マトリックスに保持された血管系を介して脱細胞化肺組織マトリックスに播種し得る。場合により、自動化フロー灌流系を適切な条件下で使用できる。このような灌流播種方法により、播種効率が改善され、組成全体にわたりより均一な細胞分布が得られる。定量的な生化学および画像分析技術を使用して、静的または灌流のいずれかの播種方法の後に播種細胞の分布を評価できる。
【0026】
場合により、組織マトリックスに1つ以上の成長因子を含浸させて、播種した再生細胞の分化を促進させることができる。例えば、組織マトリックスには、例えば、血管内皮成長因子(VEGF)、TGF-β成長因子、骨形態形成タンパク質(例えば、BMP-1、BMP-4)、血小板由来成長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(b-FGF)、例えば、FGF-10、インスリン様成長因子(IGF)、表皮成長因子(EGF)、または成長分化因子-5(GDF-5)等の本明細書で提供する方法および材料に適した成長因子を含浸させることができる。例えば、DesaiおよびCardoso、Respir. Res. 3:2(2002)を参照のこと。
【0027】
播種された組織マトリックスを、播種後に一定時間(例えば、数時間から約14日以上)インキュベートして、組織マトリックスにおける細胞の固定および浸透を改善してもよい。播種された組織マトリックスは、少なくとも再生細胞の一部が、無細胞組織マトリックスの中および上で増加および/または分化できる条件下で維持され得る。このような条件としては、適切な温度および/または圧力、電気的および/または機械的活性(例えば、換気)、力、適切な量のO2および/またはCO2、適切な量の湿度、ならびに滅菌またはほぼ滅菌条件が挙げられるがこれらに限定されない。このような条件としてはまた、湿潤換気、湿潤-乾燥換気、および乾燥換気が挙げられる。場合により、栄養補助剤(例えば、グルコース等の栄養素および/もしくは炭素源)、外因性ホルモン、または成長因子を、播種された組織マトリックスに添加してもよい。組織学および細胞染色を行って、播種された細胞の増殖についてアッセイしてもよい。任意の適切な方法を行って、播種された細胞の分化についてアッセイしてもよい。一般的に、本明細書に記載する方法は、例えば本明細書に記載するような気道器官バイオリアクター装置において行われ得る。
【0028】
従って、本明細書に記載する方法を使用して、例えばヒト被験体に移植するために、移植可能なバイオ人工肺組織を生成できる。本明細書に記載するように、移植可能な組織は、患者の血管系に接続できる十分に無傷の血管系を保持することが好ましい。
【0029】
本明細書に記載するバイオ人工肺組織は、製品またはキットを作製するために梱包材料と組み合わせられ得る。製品を作製するための構成要素および方法は周知である。製品またはキットは、バイオ人工組織に加えて、例えば、1つ以上の接着防止剤、滅菌水、医薬担体、緩衝剤、ならびに/またはインビトロおよび/もしくは移植後の機能肺組織の発達を促進するための他の試薬をさらに含み得る。さらに、内包された組成物をどのように使用できるかを記載した印刷された指示書がそのような製品に含まれ得る。製品またはキット中の構成要素は、様々な適切な容器に梱包され得る。
【0030】
バイオ人工肺の使用方法
本明細書はまた、バイオ人工肺組織を使用し、場合により肺機能を促進する方法および材料も提供する。一部の実施形態では、本明細書で提供する方法を使用して、肺活量を損なうかまたは低下させる疾患(例えば、嚢胞性線維症、COPD、気腫、肺癌、喘息、肺外傷、または他の遺伝的または先天的な肺の異常、例えば、気管支性嚢胞、肺無形成および低形成、多肺胞葉、肺胞毛細血管異形成、動静脈奇形(AVM)およびシミター症候群を含む分画症(sequestration)、肺リンパ管拡張症、先天性肺葉性気腫(CLE)、および嚢胞性線腫様奇形(CAM)、ならびに他の肺嚢胞)を患う患者においていくらかの肺機能を回復させることができる。本明細書で提供する方法はまた、被験体が特定の定められた治療(例えば、肺機能の向上、または肺活量の増加もしくは改善)を必要とすると判明している場合も含む。
【0031】
バイオ人工肺組織(例えば、全器官またはその部分)は、本明細書で提供する方法により作製できる。一部の実施形態では、本方法は、本明細書で提供するようなバイオ人工肺組織をそれを必要とする被験体(例えば、ヒト患者)に移植することを包含する。一部の実施形態では、バイオ人工肺組織は疾患または損傷した組織部位に移植される。例えば、バイオ人工肺組織は、機能していないまたは機能の乏しい肺の代わりに(または併用して)被験体の胸腔に移植され得る;肺移植を行う方法は当該分野で公知である。例えば、Boasquevisqueら、Surgical Techniques:Lung Transplant and Lung Volume Reduction, Proceedings of the American Thoracic Society 6:66-78(2009);Camargoら、Surgical maneuvers for the management of bronchial complications in lung transplantation, Eur J Cardiothorac Surg 2008;34:1206-1209(2008);Yoshidaら、"Surgical Technique of Experimental Lung Transplantation in Rabbits,"Ann Thorac Cardiovasc Surg. 11(1):7-11(2005);Venutaら、Evolving Techniques and Perspectives in Lung Transplantation, Transplantation Proceedings 37(6):2682-2683(2005);YangおよびConte、Transplantation Proceedings 32(7):1521-1522(2000);GaissertおよびPatterson、Surgical Techniques of Single and Bilateral Lung Transplantation in The Transplantation and Replacement of Thoracic Organs, 2d ed. Springer Netherlands(1996)を参照のこと。
【0032】
本方法は、被験体の肺を部分的もしくは完全に除去するための外科的処置の間に、および/または肺切除の間に、本明細書で提供するようにバイオ人工肺またはその一部を移植することを含む。場合により、本明細書で提供する方法は、被験体(例えば、ヒトまたは動物被験体)における肺組織および機能を置き換えるかまたは補助するために使用できる。
【0033】
移植の前後の肺機能についてアッセイするために、任意の適切な方法を行うことができる。例えば、組織治癒を評価するために、機能性を評価するために、および細胞内部成長を評価するために、方法を行うことができる。場合により、組織部分が回収され、例えば、中性緩衝化ホルマリン等の定着剤で処理され得る。このような組織部分は、脱水され、パラフィンに埋め込まれ、組織学的分析のためにミクロトームで薄片化され得る。切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した後、形態および細胞性の顕微鏡評価のためにスライドガラス上に載置し得る。例えば、播種された細胞の増殖を検出するために、組織学および細胞染色を行うことができる。アッセイとしては、移植された組織マトリックスの機能性評価、または画像化技術(例えば、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波、または磁気共鳴画像化(例えば、造影MRI))が挙げられ得る。アッセイとしてはさらに、休止下および生理的ストレス下での機能性検査(例えば、身体プレスチモグラフィー、肺機能検査)が挙げられる。細胞を播種されたマトリックスの機能性は、例えば、組織学、電子顕微鏡法、ならびに(例えば、容量および適合性の)機械的検査等の当該分野で公知の方法を用いてアッセイされ得る。ガス交換は、別の機能性アッセイとして測定できる。細胞増殖についてアッセイするために、例えば、チミジン取り込みを検出することにより、チミジンキナーゼ活性が測定できる。場合により、血液検査を行って、血中酸素レベルに基づいて肺の機能を評価してもよい。
【0034】
場合により、RT-PCR等の分子生物学技術を使用して、代謝および分化マーカーの発現を定量化できる。任意の適切なRT-PCRプロトコールが使用できる。簡単に言えば、生物学的サンプル(例えば、腱サンプル)を均質化し、クロロホルム抽出を行い、スピンカラム(例えば、RNeasy(登録商標)Miniスピンカラム(QIAGEN、Valencia、CA))または他の核酸結合基質でトータルRNAを抽出することにより、トータルRNAを回収してもよい。その他の場合では、抗体および標準イムノアッセイを用いて、肺細胞型およびそのような細胞型の異なる分化段階に関連するマーカーを検出してもよい。
【0035】
気道器官バイオリアクター装置
例示の気道器官バイオリアクター装置を図1に示す。明細書全体を通して、肺が気道器官の一例として提案される。他の例としては、例えば、気管が挙げられる。
【0036】
図lを参照すると、バイオリアクターの構成要素として、肺チャンバー102、気管ライン124、湿潤換気ライン150および乾燥換気ライン134を含む気道コネクタ、湿潤換気装置系120、乾燥換気装置系116および118、気管ライン124、湿潤換気ライン150および乾燥換気ライン134の分岐合流点において三方向コネクタ148、ならびにコントローラ(図示せず)を含む。コントローラは、コンピュータ操作されるが、手動でも操作される。バイオリアクターはまた、肺動脈ライン122、肺静脈ライン126、容器系104および106、ローラポンプ114、ガスタンク122および付随するガスライン、後負荷チャンバー110、肺静脈戻りライン136、ならびに肺チャンバー圧力ライン128も含み得る。バイオリアクターはさらに、コンプライアンスチャンバー109およびコンプライアンスチャンバー排液管146を含む。バイオリアクターはさらに、還流させる媒体溶液(図示せず)の酸素化および炭酸化を提供するのに加えてまたはその代わりに、膜酸素供給器を含み得る。
【0037】
肺チャンバー102は、脱細胞化肺マトリックス骨格(scaffold)を保持する。肺チャンバー102は、滅菌肺培養環境を提供するために閉じられる。それぞれ血管カニューレを介して、肺マトリックスの肺動脈は肺動脈ライン122に接続され、肺マトリックスの肺静脈は肺動脈性静脈126に接続される。肺マトリックスの気管を、気管ライン124を介して気道コネクタに接続される。
【0038】
肺チャンバー102内では、肺の成長のために細胞を播種できるように、細胞マトリックスに順行性に細胞媒体を灌流させる。灌流は、肺動脈ライン122を通り肺動脈まで行う。そこから、媒体は肺血管系を流れ、容器系(104および106)に流れ出る。
【0039】
容器系は、第1の容器104および第2の容器106、ならびに容器供給ライン140、および容器排液管(140)を含む。細胞媒体は、容器供給ライン138および容器排液管140を通り、容器104および106の間を循環する。滅菌濾過のために、マイクロフィルタを任意に供給ライン140に設置することができる。細胞媒体はまた、容器104および106において酸素処理される。灌流のために、細胞媒体が、容器104から、ローラポンプ114または重力を介して肺動脈ライン122を通り、肺動脈まで供給される。
【0040】
容器106に流れ出る媒体は、肺チャンバー排液管(4)を介して肺チャンバー102から直接吸引され、肺チャンバー102内の一定の流体レベルを維持する。第3のコネクタ126を介して肺を流れ出る媒体は、重力を介して後負荷チャンバー110に排出され、後負荷チャンバー排液管136を介して容器106まで吸引される。後負荷チャンバー110は、肺チャンバー圧力ライン130を介して肺チャンバー102に、そして肺静脈戻りライン136を介して容器106に接続される。肺チャンバー圧力ラインは、肺チャンバー102および後負荷チャンバー110内の圧力を平衡化する。後負荷チャンバー110はまた、三方向分岐合流点156を通り気管および湿潤換気ラインを介しても肺チャンバー102に接続される。
【0041】
細胞をマトリックスに再導入する方法の一例は、以下の通りである。肺マトリックスの灌流の間、マトリックスの細胞化が始まる。約30ccの媒体に懸濁した約1億個の間葉性細胞を、肺動脈ライン122を介して播種する。間葉性細胞は骨髄由来胚幹細胞であるが、例えば、USSN第12/233,017号の"Generation of Inner Ear Cells"(その内容の全体が参照により援用される)に記載のようなiPSまたは造血細胞であってもよい。一部の実施形態では、播種完了後、灌流を、例えば約60分間止めて、細胞接着させる。灌流停止の間、細胞媒体は気管および肺静脈から排出される;その後、排出された細胞媒体は容器106に流れる。60分間の停止の後、媒体のみでの灌流を、例えば約24時間続ける。コンプライアンスチャンバー109において一定の媒体レベルを維持するために、追加のライン(図示せず)を介して容器104に接続され得る。
【0042】
次に、内皮細胞の播種のための条件を設定する。気管ライン124を、三方向分岐合流点148およびそのコントローラを介して湿潤換気ライン150に接続する。三方向分岐合流点156を、そのコントローラを使用して回して、湿潤換気ライン150をコンプライアンスチャンバー109に接続させる。コンプライアンスチャンバー109は、湿潤気道陽圧(wAP)を提供して、気道圧を生理的範囲に限定しながら、間質腔および気管を通る媒体の正味の流量を限定する。wAPは、チャンバー109の調節によって調節される。その結果、細胞媒体の一部は肺静脈ライン(3)を通り容器106まで排出され、細胞媒体の少量部分はリンパ管を介して肺チャンバー排液管ライン128を通り容器106に排出される。
【0043】
約15ccの媒体に懸濁した約1億個の内皮細胞が、約10分間の重力送りを経て、肺動脈ライン122を通って播種される。播種完了の際に、灌流を例えば約60分間停止して、細胞接着させる。停止後、灌流を、例えば約3〜5日間続けて、内皮細胞単分子層を形成させる。
【0044】
内皮細胞を播種し内皮細胞単分子層が形成された後、上皮細胞が播種できる状態になる。上皮細胞の播種のために、三方向分岐合流点156をそのコントローラを用いて回し、湿潤換気ライン150を閉じる。約15ccの媒体に懸濁した約2億個の上皮細胞を、気管ライン124を通して気管内に播種する。一部の実施形態では、上皮細胞は肺細胞である。播種完了の際、肺動脈を介した灌流を例えば約60分間停止する。
【0045】
また、いったん肺への細胞播種が完了したら、細胞懸濁液を末梢気道に進めるために湿潤換気が必要となる。湿潤換気装置系120は、湿潤換気ライン150を介して肺に湿潤換気を提供する。
【0046】
三方向分岐合流点156をそのコントローラを用いて回して、湿潤換気ライン150をコンプライアンスチャンバー109に接続する。wAPを上げて、間質腔へ少量の流れを提供し、細胞接着を増す。湿潤換気を肺に約5分間提供し、約60分間保持した後、肺にさらに約5分間提供し、約24時間保持する。湿潤換気は、湿潤ピーク吸気および呼気圧力を低く保つために低い流量で、生理的一回換気量(ヒトについては約500 mL)で提供される。湿潤呼気陽圧は、コンプライアンスチャンバー109の上昇により提供される。
【0047】
灌流を再開したら、順行性灌流および湿潤換気を約5日間の間提供して、組織形成を可能にする。
【0048】
湿潤から乾燥換気への切り替えは、約5日間の後に、またはモニタ(図示せず)により肺が十分な成熟に到達したことが判断された後に、行われる。人工サーファクタントは、気管ライン124を介して投入される。その後、三方向分岐合流点148をそのコントローラを使って回し、気管ライン124が乾燥換気ライン150ならびに乾燥換気系(116および118)に接続されるようにする。乾燥換気系は、加湿空気を提供するための噴霧器(図示せず)を有する乾燥換気チャンバー112、第1の乾燥換気装置116、および第2の乾燥換気装置118を含む。乾燥換気チャンバー112は、乾燥PEEPライン144を介して第1の乾燥換気装置116に接続され、乾燥換気ライン150を介して気管ラインに接続される。このように、肺は換気されて、その気腔を液体ではなくガスでゆっくりと満たす。使用するガスは、ガスタンク122によりガスラインを介して補給されるカルボゲン(carbogen)である。乾燥換気装置116は、dPEEPを乾燥換気チャンバー112に提供し、その後肺チャンバー102における流体排出が可能なように構成される。
【0049】
次に、湿潤換気系120を中断し、乾燥換気装置118を肺チャンバーに対して開け、換気速度を生理的速度まで上げ、流体を出して肺チャンバー102を空にし、肺チャンバー102内において肺を加湿空気で包囲するようにする。約3日間の組織成熟の後、灌流ガス分析を行って、機能的組織の形成、および肺がバイオリアクターから取り出し可能であることを確認する。
【0050】
湿潤換気と乾燥換気との切り替えの際に、肺が自然に発達する条件を模倣した条件下で肺が発達する。肺発達のためにはこの環境が必要であること、そして記載のバイオリアクターが移植用の組織工学肺を生成するのに必要な系および方法を提供すると判断された。
【0051】
肺マトリックスを細胞化する例示の方法を図2Aに示す。肺マトリックスを肺チャンバーに置く(210)。次いで、細胞媒体を肺動脈ラインに通して肺マトリックスに灌流させる(220)。次に、肺マトリックスに湿潤換気を提供する(230)。最後に、肺マトリックスに乾燥換気を提供する(240)。
【0052】
図2Bに示すように、肺マトリックスの灌流220の間、間葉性または他の幹細胞を、肺の血管系を通して肺マトリックスに播種する(222)。次いで、内皮細胞を、肺の血管系を通して肺マトリックスに播種する(224)。次いで、上皮細胞を、肺気道を通して肺マトリックスに播種する(226)。
【0053】
湿潤換気を提供するため、図2Cに示すように、肺気道を、湿潤換気装置ラインを介して湿潤換気装置に接続する(231)。次いで、肺を、湿潤換気ラインを介してコンプライアンスチャンバーに接続する(232)。次いで、コンプライアンスチャンバー内の流体の高さを調節することで、湿潤換気ラインを介して湿潤気道圧を上げる(233)。さらに、コンプライアンスチャンバーを上げることで、湿潤PEEP(wPEEP)が提供される(234)。肺マトリックス上で成長させている肺の成熟の程度をモニタリングする(235)。成熟の程度が許容可能であると判断された場合(236)には、乾燥換気への移行を始める(237)。
【0054】
乾燥換気を提供するために、図2Dに示すように、気管を介して人工サーファクタントを適用する(241)。次いで、気管を、乾燥換気ラインを介して乾燥換気チャンバーに接続する(242)。乾燥換気チャンバーは、dPEEPラインを介して第1の乾燥換気装置に接続される(243)。次いで、乾燥換気ラインを介して乾燥気道圧を上げる(244)。湿潤換気ラインを断絶し(245)、肺チャンバーを第2の乾燥換気装置に接続する(246)。
【0055】
完全なラット肺のためには、合計で、約2億から約4億個の細胞が必要とされ得る。ヒトについて推定すると、完全な肺のために約200億から約400億個の細胞が推定される。このような数の細胞を生成するには、患者が有する時間よりも長い時間を要しうる。仮に20%の肺機能を必要とする患者は、この数字の約20%しか必要とせず、新しい肺を得るためにそれに比例して待つ時間が短いかもしれない。
【0056】
器官脱細胞化で使用するための例示の気道器官バイオリアクター装置を図3に示す。上述したように、肺は気道器官の一例として提案するものである。図3を参照すると、バイオリアクターの構成要素として、肺チャンバー302、密封された重力容器304、および大容器306を含む(容器304および306は、肺チャンバー302中の肺への灌流用の脱細胞化溶液を含む)。脱細胞化溶液は、容器供給ライン314を通り容器304および306の間で循環する。肺マトリックスの肺動脈は、肺動脈ライン308に接続され、容器304からそこを通って脱細胞化溶液が、重力流を介して肺組織内まで灌流する。脱細胞化の後、排出物が肺チャンバー302から除去される。場合により、肺チャンバー302からの溶液は、容器306に供給するポンプ312を介して再循環される。
【0057】
細胞播種において使用される例示の気道器官バイオリアクター装置を図4に示す。図4を参照すると、バイオリアクターの構成要素として、肺チャンバー402、密封された重力容器404、および大容器406を含む(容器404および406は、肺チャンバー402中の肺への灌流用の細胞媒体を含む)。細胞媒体は、容器供給ライン408を通り、容器404および406の間を循環する。それぞれ血管カニューレを介して、肺マトリックスの肺動脈は肺動脈ライン410に接続し、肺マトリックスの肺静脈は肺静脈ライン412に接続する。細胞播種のために、細胞媒体が、容器404から、ポンプまたは重力を介して、肺動脈ライン410を通り肺動脈まで供給される。第3のコネクタ412を介して肺から流れ出る媒体(静脈流出)は、重力を介して後負荷コンプライアンスチャンバー420に排出され、後負荷チャンバー排液管を介して容器406に吸引される。後負荷チャンバー420は、肺チャンバー圧力ラインを介して肺チャンバー402に接続され、肺静脈戻りライン412を介して容器406に接続される。肺チャンバー圧力ラインは肺チャンバー402および後負荷チャンバー420内の圧力を平衡化する。後負荷チャンバー420はまた、気管を介して肺チャンバー402に、そして三方向分岐合流点414を通り湿潤換気ラインに接続される。
【0058】
気管ラインは、三方向分岐合流点414およびそのコントローラを介して湿潤換気ラインに接続される。三方向分岐合流点414はそのコントローラを用いて回され、湿潤換気ラインをコンプライアンスチャンバー420に接続する。コンプライアンスチャンバー420は、湿潤気道陽圧(wAP)を提供して、気道圧を生理的範囲に限定しながら、間質腔および気管を通る媒体の正味の流量を限定する。wAPは、チャンバー420の調節によって調節される。その結果、細胞媒体の一部は肺静脈ライン412を通り容器406まで排出され、細胞媒体の少量部分はリンパ管を介して肺チャンバー排液ラインを通り容器406に排出される。
【0059】
マトリックス灌流に使用する例示の気道器官バイオリアクター装置を図5に示す。図5を参照すると、バイオリアクターの構成要素として、肺チャンバー502、密封された重力容器504、および大容器506を含む(容器504および506は、肺チャンバー502中の肺への灌流用の灌流溶液(例えば、血液)を含む)。細胞媒体は、容器供給ライン508を通り容器504および506の間を循環する。それぞれ血管カニューレを介して、肺マトリックスの肺動脈は肺動脈ライン510に接続し、肺マトリックスの肺静脈は肺動脈性静脈512に接続される。細胞播種の後、細胞懸濁液を末梢気道に進めるために湿潤換気が必要である。湿潤換気装置系518は、湿潤換気ラインを介して、湿潤換気を肺に提供する。次いで、三方向分岐合流点514をそのコントローラを使用して回し、気管ラインを乾燥換気ラインおよび乾燥換気系516に接続する。
【0060】
例示の気道器官バイオリアクター装置を図6に示す。図6を参照すると、バイオリアクターの構成要素として、肺チャンバー602、密封された重力容器616、および大容器606を含む(容器616および606は、肺チャンバー602中の肺への灌流用の灌流溶液を含む)。溶液は、容器供給ラインを通り、容器616および606を循環する。それぞれ血管カニューレを介して、肺マトリックスの肺動脈は肺動脈ライン626に接続し、肺マトリックスの肺静脈は肺動脈性静脈628に接続する。細胞播種のために、媒体が、ポンプを介するか、または重力を介して、容器616から肺動脈ライン626を通り、肺動脈に供給される。第3のコネクタ628を介して肺から流れ出る媒体(静脈流出)は、重力を介して後負荷コンプライアンスチャンバー604に排出され、後負荷チャンバー排液管を介して容器606に吸引される。コンプライアンスチャンバー604において一定の媒体レベルを維持するために、追加のライン(図示せず)を介して容器606に接続され得る。湿潤換気装置系624は、湿潤換気ラインを介して肺に湿潤換気を提供する。三方向分岐合流点620をそのコントローラを用いて回し、湿潤換気ラインをコンプライアンスチャンバー604に接続させる。
【0061】
湿潤から乾燥換気への切り替えは、約5日間の後か、またはモニタ(図示せず)が肺が十分に成熟したと判断した後に行う。人工サーファクタントが、気管ライン630を介して投入される。その後、三方向分岐合流点620をそのコントローラを用いて回し、気管ライン630を乾燥換気ラインおよび乾燥換気系622に接続する。肺を換気して、その気腔を流体ではなくガスでゆっくりと満たす。
【0062】
本発明を、請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定しない以下の実施例によりさらに説明する。
【実施例】
【0063】
灌流脱細胞化マトリックス骨格に基づく肺再生
ヘパリン化成体SDラット(n=20)から肺を単離し、界面活性剤灌流を用いて脱細胞化した。得られた細胞外マトリックス(ECM)骨格を、組織学、電子顕微鏡法および機械的検査を使用して分析した。骨格をバイオリアクターに載置し、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC、n=4)、HUVECおよびヒト肺胞基底上皮細胞(H-A549、n=4)、ならびにHUVECおよびラット胎仔肺細胞(H-FLC、n=2)を播種した。培養を最長7日間維持した。単離した肺装置において、血液灌流および換気を用いて肺機能を分析した。正常肺を対照(n=4)とした。
【0064】
死体肺の灌流脱細胞化により、無傷の気道および血管構造を有する無細胞肺ECM骨格が産生された。肺骨格は、内皮および上皮細胞で再増殖されて、バイオリアクターにおいて維持され得た。ガス交換(PaO2/FiO2比)は、正常肺(465.8mmHg)と比較して、H-A549構築物においては低く(103.6mmHg)、H-FLC構築物においては同等であった(455.1mmHg)。コンプライアンスは脱細胞化肺において低下したが(0.27ml/cmH20/s)、H-FLC構築物(0.67ml/cmH2O/s)および正常肺(0.69ml/cmH2O/s)において同等であった。
【0065】
死体肺の灌流脱細胞化により無傷の全肺ECM骨格を産生し、これには上皮および内皮細胞を播種して、正常肺に匹敵する換気、灌流およびガス交換を有するバイオ人工肺を形成できる。
【0066】
その他の実施形態
本発明をその詳細な説明に併せて記載してきたが、上記記載は例示を意図したものであり、添付の請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。その他の態様、利点、および改変は、以下の請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その上に細胞媒体を灌流させて器官を成長させる器官マトリックス骨格を支持するように構成された器官チャンバー;
前記器官へ湿潤換気を供給するように構成された湿潤換気装置系;
前記器官へ乾燥換気を供給するように構成された乾燥換気装置系;および
湿潤換気の送達または乾燥換気の送達を制御するように構成されたコントローラ、
を包含する気道器官バイオリアクター装置。
【請求項2】
前記器官に接続された第1の分岐、第2の分岐および第3の分岐を含むコネクタ;ならびに
前記コネクタの第1の分岐および前記コネクタの第2の分岐が前記コネクタの第3の分岐と接続されており、前記第1の分岐と前記第2の分岐との間で切り替えるように構成されたスイッチを含む第1の三方向分岐合流点、
をさらに包含し、
前記湿潤換気装置系は、前記コネクタの第1の分岐を介して、前記器官に湿潤換気を供給するように構成され;
前記乾燥換気装置系は、前記コネクタの第2の分岐を介して、前記器官に乾燥換気を供給するように構成され;および
前記コントローラは、前記第1の三方向分岐合流点のスイッチを制御して、湿潤換気の送達または乾燥換気の送達を制御するように構成されている、請求項1記載の装置。
【請求項3】
細胞媒体を、入口ラインを介して前記器官に供給する;および
排出物である媒体を、第1の分岐、第2の分岐および第3の分岐を含む出口ラインを介して前記器官から排出する;
ように構成された容器系:ならびに
前記出口ラインの第1の分岐および前記出口ラインの第2の分岐が前記出口ラインの第3の分岐と接続されている第2の三方向分岐合流点、
をさらに包含する、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記湿潤換気装置系が:
湿潤換気ラインを介して前記器官チャンバーに接続された湿潤換気装置;および
前記コネクタの第1の分岐を介して前記器官に接続されたコンプライアンスチャンバー
を包含する、請求項2記載の装置。
【請求項5】
前記コンプライアンスチャンバーの上昇を介して、湿潤呼気陽圧(wPEEP)が前記器官チャンバーに提供される、請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記出口ラインの第2の分岐を介して前記器官チャンバー;および
出口戻りラインを介して前記容器系、
に接続した後負荷チャンバーをさらに包含する、請求項4記載の装置。
【請求項7】
前記容器系が:
入口ラインを介して前記器官チャンバーに接続した第1の容器;ならびに
器官チャンバー排液管を介して前記器官チャンバー、および前記出口戻りラインを介して後負荷チャンバー、に接続した第2の容器、
を包含し、
前記第1の容器および前記第2の容器は、容器供給ラインおよび容器排液管を介して媒体を循環させる、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記乾燥換気装置系が:
前記コネクタの第2の分岐を介して前記器官に接続された、噴霧器を含む乾燥換気チャンバー;および
前記器官チャンバーに乾燥呼気陽圧(dPEEP)を提供するように構成され、dPEEPラインを介して前記乾燥換気チャンバーに接続された、第1の乾燥換気装置、
を包含する、請求項3記載の装置。
【請求項9】
前記乾燥換気装置系が: 乾燥換気装置ラインを介して前記器官チャンバーに接続された第2の乾燥換気装置をさらに包含する、請求項8記載の装置。
【請求項10】
ガス媒体を、前記器官チャンバー、前記乾燥換気チャンバー、および前記容器系に供給するように構成されたガスタンクをさらに包含する、請求項8記載の装置。
【請求項11】
前記コントローラがコンピュータにより操作される、請求項1記載の装置。
【請求項12】
気道および実質的な血管系を含む肺組織マトリックスを提供すること;
前記肺組織マトリックスに細胞を播種すること;
第1の所望の程度の器官成熟が生じるのに十分な時間の間、前記肺組織マトリックスに湿潤換気を提供して、湿潤成熟した器官を作製すること;ならびに
第2の所望の程度の器官成熟が生じるのに十分な時間の間、前記湿潤成熟した器官に乾燥換気を提供して、バイオ人工肺を提供すること、
を包含する、バイオ人工気道器官を提供する方法。
【請求項13】
前記肺組織マトリックスに、前記器官の血管系を介して内皮細胞を播種すること;および
前記肺組織マトリックスに、器官の気道を介して上皮細胞を播種すること、
をさらに包含する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記肺組織マトリックスに、前記器官の血管系を介して幹細胞を播種することをさらに包含する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記幹細胞が、骨髄由来間葉性幹細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記幹細胞は、流体30cc当たり約1億個の細胞の濃度で流体に懸濁され;
前記内皮細胞は、流体10cc当たり約1億個の細胞の濃度で流体に懸濁され;および
前記上皮細胞は、流体5cc当たり約1億個の細胞の濃度で流体に懸濁される、
請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記第1の所望の程度の器官成熟が生じるまで、器官成熟の程度をモニタリングして、湿潤成熟した器官を作製すること;
前記器官への前記湿潤換気を止めること;
人工サーファクタントを前記器官に適用すること;および
前記器官に対して前記乾燥換気を開始すること、
をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記肺組織マトリックスに湿潤換気を提供することが:
前記気道を、湿潤換気装置ラインを介して、湿潤換気装置に接続すること;
前記器官を、湿潤換気ラインを介して、コンプライアンスチャンバーに接続すること;
前記湿潤換気ラインを介して、湿潤気道圧を上げること;および
前記コンプライアンスチャンバーを上昇させて、前記器官に湿潤呼気陽圧(wPEEP)を提供すること、
を包含する、請求項12記載の方法。
【請求項19】
前記湿潤換気が生理的一回換気量で提供される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記湿潤成熟した器官に乾燥換気を提供することが:
前記気道を、乾燥換気ラインを介して、乾燥換気チャンバーに接続すること;
前記乾燥換気チャンバーを、乾燥呼気陽圧(dPEEP)ラインを介して、第1の乾燥換気装置に接続すること;
前記乾燥換気ラインを介して、乾燥気道圧を上げること;
前記湿潤換気ラインを断絶すること;および
前記器官を、乾燥換気装置ラインを介して、第2の乾燥換気装置に接続すること、
を包含する、請求項12記載の方法。
【請求項21】
前記肺組織マトリックスが、脱細胞化ヒト肺組織または人工肺マトリックスを包含する、請求項12記載の方法。
【請求項22】
前記バイオ人工肺が十分な数の細胞を包含して、完全な肺機能またはその一部を提供する、請求項12記載の方法。
【請求項23】
請求項11〜22記載の方法により作製される、バイオ人工肺。
【請求項24】
前記器官が完全肺またはその一部である、請求項23記載のバイオ人工肺。
【請求項25】
肺活量の障害または低下を抱える被験体の処置方法であって、請求項23記載のバイオ人工肺を前記被験体に移植することを包含する、方法。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−528600(P2012−528600A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514170(P2012−514170)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/037379
【国際公開番号】WO2010/141803
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】