説明

バイオ燃料電池用燃料供給体及びバイオ燃料電池システム

【課題】ユーザビリティーが高く、かつエネルギー容量が大きいバイオ燃料電池用燃料供給体及びバイオ燃料電池システムを提供する。
【解決手段】一部又は全部を生体高分子を主成分とする材料により形成し、この生体高分子を代謝分解する生体触媒が収容又は固定化して燃料供給体とする。また、この燃料供給体と、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えるバイオ燃料電池とにより、バイオ燃料電池システムを構成し、燃料供給体からバイオ燃料電池に燃料及び/又は生体触媒を供給すると共に、燃料供給体自体も燃料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、バイオ燃料電池に燃料を供給するための燃料供給体及びバイオ燃料電池システムに関する。より詳しくは、酸化還元酵素を用いたバイオ燃料電池システムとその燃料供給体に関する。
【背景技術】
【0002】
反応触媒として酸化還元酵素を使用したバイオ燃料電池は、グルコース及びエタノールのように通常の工業触媒では利用できない燃料から、効率よく電子を取り出すことができるため、高容量でかつ安全性が高い次世代の燃料電池として注目されている。図10は酵素を使用したバイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。例えば、図10に示すようなグルコースを燃料とするバイオ燃料電池の場合、負極(アノード)101では表面に固定化された酵素によりグルコース(Glucose)を分解して、電子(e)を取り出すと共にプロトン(H)を発生する。
【0003】
また、正極(カソード)102においては、負極(アノード)101からプロトン伝導体103を介して輸送されたプロトン(H)と、外部回路を通って送られた電子(e)と、例えば空気中の酸素(O)とにより水(HO)を生成する。そして、これら正負極の反応が同時に起こることで、正負極間で電気エネルギーが発生する。
【0004】
一方、燃料電池は、燃料を追加供給することにより、長期間に亘って連続して発電することが可能であることから、従来、様々なタイプの燃料供給用カートリッジが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1,2に記載の燃料電池用カートリッジは、その内部で、微生物などの生化学的触媒により、酸素含有炭化水素を分解し、生成した水素を燃料電池に供給する構成となっている。また、特許文献3に記載の燃料カートリッジでは、内部に残留している燃料を抜き取ることが可能な構成とすることで、廃棄時の安全性向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2002−270210号公報
【特許文献2】特願2003−123821号公報
【特許文献3】特願2005−011613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献1〜3に記載されているような水素やメタノールを燃料とする燃料電池用の燃料カートリッジの場合、使用時の安全性を確保するため、燃料貯留部を強固な筐体で密閉し、必要なときだけ発電部に燃料が供給されるようにする必要がある。このため、これら従来の燃料電池用燃料カートリッジには、ユーザビリティーが著しく低いという問題点がある。
【0007】
また、従来のカートリッジには、筐体などの発電に寄与しない部分が占める割合が多く、カートリッジ自身のエネルギー容量密度の低下を招くといった問題点もある。更に、従来のカートリッジは、使用済みのカートリッジの廃棄や回収に手間がかかるため、ユーザビリティーが低いという問題点もある。
【0008】
そこで、本開示は、ユーザビリティーが高く、かつエネルギー容量が大きいバイオ燃料電池用燃料供給体及びバイオ燃料電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るバイオ燃料電池用燃料供給体は一部又は全部が生体高分子を主成分とする材料により形成されており、該生体高分子を代謝分解する生体触媒が収容又は固定化されている。
本開示においては、一部又は全部が生体高分子で形成されており、この生体高分子を分解する生体触媒が収容又は固定化されているため、必要なときに、生体触媒によって分解することが可能である。
この燃料供給体は、例えば、燃料が収容される燃料収容部と、前記生体触媒が収容される生体触媒収容部と、を有し、前記燃料収容部及び前記生体触媒収容部は、生体高分子を主成分とする材料により形成することができる。
その場合、前記燃料収容部と前記生体触媒収容部とをそれぞれ独立して設けてもよい。
また、前記燃料が固体状である場合、前記燃料収容部が前記生体触媒収容部を兼ねることもできる。
一方、前記生体触媒は、不活性な状態で収容又は固定化されていてもよい。
また、前記生体高分子は、例えば、炭水化物である。
更に、前記生体高分子がセルロースである場合、前記生体触媒にはセルラーゼを使用することができる。
又は、前記生体高分子が澱粉である場合は、前記生体触媒にはアミラーゼを使用することができる。
前記燃料収容部及び前記生体触媒収容部が前記燃料とは異なる生体高分子を主成分とする材料により形成されている場合は、前記生体触媒収容部には、前記材料の主成分である生体高分子を代謝分解する第1の生体触媒と、前記燃料に含まれる生体高分子を代謝分解する第2の生体触媒とが収容されていてもよい。
【0010】
本開示に係るバイオ燃料電池システムは、前述した燃料供給体と、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えるバイオ燃料電池と、を有し、前記燃料供給体から前記バイオ燃料電池に燃料及び/又は生体触媒が供給されると共に、前記燃料供給体自体も燃料として使用する。
このシステムでは、前記バイオ燃料電池には、前記燃料供給体を切断、破断又は粉砕する機構を備えた燃料貯留部が設けることもでき、その場合、該燃料貯留部において前記燃料供給体が分解される。
一方、本開示に係る他のバイオ燃料電池システムは、一部又は全部が生体高分子を主成分とする材料により形成された燃料供給体と、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えた発電部及び一次燃料を電子を放出し得る二次燃料に改質する燃料改質部を少なくとも備えるバイオ燃料電池と、を有し、前記バイオ電池の燃料改質部には、前記燃料供給体を構成する生体高分子を分解する生体触媒が、収容又は固定化されている。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、生体触媒によって、燃料供給体を代謝分解することが可能であるため、ユーザビリティーが向上すると共に、エネルギー容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本開示の第1の実施形態の燃料供給体の構成を模式的に示す図である。
【図2】本開示の第2の実施形態の燃料供給体において、燃料5の粒子と生体触媒6の粒子とが混在して収容されている状態を模式的に示す図である。
【図3】本開示の第2の実施形態の燃料供給体において、生体触媒6が燃料5に挟み込まれている状態を模式的に示す図である。
【図4】本開示の第2の実施形態の燃料供給体において、燃料5内に生体触媒6が包含されている状態を模式的に示す図である。
【図5】本開示の第3の実施形態のバイオ燃料電池システムにおいて、吸着剤を使用して生体高分子以外の成分を分離する方法を示す模式図である。
【図6】本開示の第3の実施形態のバイオ燃料電池システムにおいて、電場により生体高分子以外の成分を分離する方法を示す模式図である。
【図7】本開示の第3の実施形態のバイオ燃料電池システムにおいて、磁場により生体高分子以外の成分を分離する方法を示す模式図である。
【図8】本開示の第3の実施形態のバイオ燃料電池システムにおいて、低極性有機溶媒により生体高分子以外の成分を分離する方法を示す模式図である。
【図9】本開示の第4の実施形態のバイオ燃料電池システムにおいて使用するバイオ燃料電池の燃料改質器の構成を示す概念図である。
【図10】酵素を使用したバイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態
(燃料収容部と生体触媒収容部とが設けられている燃料供給体の例)
2.第2の実施の形態
(生体触媒収容部が独立して設けられていない燃料供給体の例)
3.第3の実施の形態
(生体触媒を備えた燃料供給体を用いたバイオ燃料電池システムの例)
4.第4の実施の形態
(生体触媒が電池に収容又は固定されているバイオ燃料電池システムの例)

【0014】
<1.第1の実施の形態>
[燃料供給体の全体構成]
先ず、本開示の第1の実施形態に係るバイオ燃料電池用燃料供給体について説明する。図1は本実施形態の燃料供給体の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の燃料供給体1には、燃料5が収容される燃料収容部2と、燃料電池に燃料5を供給するための燃料供給孔3と、生体触媒6が収容される生体触媒収容部4が設けられている。
【0015】
[燃料収容部2]
燃料収容部2は、生体高分子を主成分とする材料で形成されており、その内部には、燃料5が収容される。ここでいう燃料5とは、糖、アルコール、アルデヒド、脂質及びタンパク質などの燃料成分又はこれら燃料成分のうち少なくとも1種を含有する溶液である。具体的には、グルコース、フルクトース、ソルボースなどの糖類、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン、ポリビニルアルコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、酢酸、蟻酸、ピルビン酸などの有機酸などが挙げられる。
【0016】
その他、脂肪類やタンパク質、これらの糖代謝の中間生成物である有機酸などを燃料成分として使用することも可能である。また、燃料5の形態は特に限定されるものではなく、液体状、粉体状、固体状など種々の形態のものを使用することができる。
【0017】
一方、燃料収容部2を構成する生体高分子は、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース及びセルロースなどの糖質(炭水化物)、カゼイン、コラーゲン、ケラチン及びフィブロインなどのタンパク質(酵素やペプチド)、DNAやRNAなどの核酸、ポリ乳酸などの生分解性高分子などが挙げられる。これらの生体高分子の中でも、炭水化物を使用することが好ましく、特に、澱粉やセルロースが好適である。
【0018】
なお、燃料収容部2を構成する生体高分子は、燃料5に含まれるものと同じにしてもよく、また、燃料5とは異なる生体高分子を使用してもよい。更に、複数種の生体高分子を混合して使用することもできる。
【0019】
また、燃料収容部2を、セルロースなどの吸湿性が高い材料で形成した場合、液状の燃料5が燃料収容部2から漏れたり、外部が加湿条件のときに水分が侵入して固体状又は粉体状の燃料5が劣化したりする虞がある。このため、燃料収容部2は、水バリア性を有していることが望ましい。燃料収容部2に水バリア性を付与する方法は、特に限定されるものではないが、例えばセルロースの場合は、質量密度を高めて水分が透過する孔を減らし、更に、燃料収容部2の表面(或いは内面及び外面)に疎水性コーティングを施せばよい。
【0020】
その際、疎水性のタンパク質膜でコーティングすることにより、燃料収容部2の全てを生分解性の材料で形成することができる。このように、燃料収容部2の水バリア性を高めることにより、虫や菌の混入による燃料5の劣化を防止することもできる。
【0021】
[燃料導入出孔3]
燃料導入出孔3は、燃料5などを出し入れするためのものであり、燃料収容部2に収容されている燃料5をバイオ燃料電池に供給したり、燃料収容部2に燃料5を再充填したり、バイオ燃料電池内の廃液を回収したりするときなどに使用される。また、この燃料導入出孔3は、開閉機構(図示せず)によって、任意に開閉可能となっている。
【0022】
その開閉機構の構成は、特に限定されるものではないが、例えば燃料収容部2の一部に切れ目を設け、その部分を押圧することで、燃料導入出孔3を開く構成や、紙やプラスチック材料などにより燃料導入出孔3をシールする構成などが考えられる。そして、本実施形態の燃料供給体1では、燃料導入出孔3は、通常は閉じられており、燃料5などの出し入れを行うときにだけ開放される。これにより、水分、菌及び虫などの侵入を防ぎ、燃料5の劣化を防止することができる。
【0023】
更に、燃料導入出孔3は、バイオ燃料電池に設けられた燃料導入口と連結可能な構造とすることもできる。なお、燃料導入出孔3の数や位置は、特に限定されるものではなく、バイオ燃料電池の構成に応じて適宜設定することができる。
【0024】
[生体触媒収容部4]
生体触媒収容部4は、生体高分子を代謝分解する生体触媒が収容されるものであり、前述した燃料収容部2と同様に、糖質(炭水化物)、タンパク質、核酸、生分解性高分子などの生体高分子を主成分とする材料で形成されている。この生体触媒収容部4を構成する生体高分子には、炭水化物を使用することが好ましく、特に、澱粉やセルロースが好適である。
【0025】
なお、生体触媒収容部4は、燃料収容部2と同じ材料で形成してもよいが、異なる生体高分子を含む材料で形成することもできる。また、生体触媒収容部4も、燃料5に含まれる生体高分子と同じものを使用しても、燃料5とは異なる生体高分子を使用してもよい。更に、複数種の生体高分子を混合して使用することもできる。更に、生体触媒収容部4も、水バリア性を有していることが望ましく、これにより虫や菌の混入による生体触媒6の劣化を防止することもできる。
【0026】
一方、生体触媒収容部4に収容される生体触媒6は、少なくとも燃料収容部2及び生体触媒収容部4を分解可能なものを含んでいればよく、例えばセルラーゼ、アミラーゼ、グリコシダーゼ、プロテアーゼなどの酵素や微生物を使用することができる。特に、燃料収容部2及び生体触媒収容部4を構成する生体高分子がセルロースである場合はセルラーゼが好適であり、澱粉の場合はアミラーゼが好適である。
【0027】
また、生体触媒収容部4には、燃料収容部2及び生体触媒収容部4を構成する生体高分子に加えて、燃料5に含まれる生体高分子を代謝分解する生体触媒が収容されていてもよい。これにより、バイオ燃料電池における負極での生体触媒反応が早くなったり、回復したりするため、電池性能を向上させることができる。
【0028】
更に、生体触媒収容部4に生体触媒取出孔7を設け、この生体触媒取出孔7を介して、生体触媒6や燃料5に含まれる生体高分子を代謝分解する生体触媒を、バイオ燃料電池や燃料改質器内に導入することもできる。これにより、電池性能や燃料改質性能を向上させたり、回復させたりすることができる。その場合、生体触媒取出孔7も、前述した燃料供給孔3と同様に生体触媒6の劣化などを防止するため、シールなどの開閉機構(図示せず)によって、任意に開閉可能となっていることが望ましい。
【0029】
ここで、生体触媒6は、活性がある状態で収容されていてもよいが、乾燥などの方法で不活性化した状態で収容されていることが望ましい。これにより、生体触媒6を長期間、安定に存在させることができる。一方、生体触媒6を活性な状態で収容する場合は、代謝反応が起こらないように、生体触媒収容部4の生体触媒6が接触する面に、生体触媒6で分解されない層を形成しておく必要がある。
【0030】
更にまた、生体触媒収容部4は、耐熱構造及び/又は断熱構造になっていることが望ましい。これにより、外部からの熱による生体触媒の劣化を防止することができる。なお、図1に示す燃料供給体1では、分離壁8により生体触媒6と燃料5とが接触しない構成となっているが、本開示はこれに限定されるものではなく、例えば燃料収容部2の内部、例えば中心部に、生体触媒収容部4を設けることもできる。
【0031】
[燃料供給体1の外面]
本実施形態の燃料供給体1は、その外面に、虫や菌を寄せ付けない抗菌コートや害虫忌避剤コートが施されていることが望ましい。また、光反射層などを設けて遮光性を付与したり、断熱層を設けて耐熱性を付与したりすることもできる。更に、表面に印刷する場合は、大豆由来のインクを使用することで、生体触媒6により、この印刷部分も分解することが可能となる。
【0032】
[使用方法]
次に、前述した燃料供給体1の使用方法について説明する。図1に示す燃料供給体1を使用する際は、燃料収容部2に燃料5を充填すると共に、生体触媒収容部に生体触媒6を封入しておく。そして、必要に応じて、燃料供給孔3を介してバイオ燃料電池に燃料5を供給し、燃料収容部2内の燃料5が全て供給し終えた後、生体触媒収容部4内の生体触媒6によって燃料貯留部2を代謝分解する。
【0033】
また、生体触媒6を、燃料5と共に又は単独で、バイオ燃料電池又はその燃料改質器に供給することもできる。更に、本実施形態の燃料供給体1は、燃料5及び生体触媒6を再充填して使用することもできる。
【0034】
一方、燃料供給体1の分解方法は、特に限定されるものではないが、例えば、生体触媒収容部4と燃料収容部2との間の分離壁8を破壊若しくは除去したり、又は燃料供給体1全体をシュレッダーなどにより粉砕したりすることによって、生体触媒収容部4及び燃料収容部2を構成する生体高分子と生体触媒6とを接触させる。これにより、生体触媒6により、燃料収容部2及び生体触媒収容部4を構成する生体高分子の分解が開始する。なお、生体触媒6が固体状や乾燥状態などの不活性な状態で収容されている場合でも、液体状の燃料5や電解液と接触することにより、生体触媒6は活性となる。
【0035】
本実施形態の燃料供給体1においては、生体高分子を主成分とする材料で燃料収容部2及び生体触媒収容部4を形成すると共に、生体触媒収容部4にこの生体高分子を代謝分解する生体触媒6が収容されているため、使用後は生体触媒6により燃料収容部2及び生体触媒収容部4を分解処理することができる。これにより、燃料供給体1のリサイクルコストが不要となり、ユーザビリティーも向上する。
【0036】
更に、本実施形態の燃料供給体1に充填される燃料5は、従来の燃料電池に比べて安全性が高いものであるため、強固な筐体で密閉したりする必要がない。このため、従来の燃料カートリッジに比べて、構造を簡素化することが可能であり、軽量化及び低コスト化が実現でき、更には、カートリッジ全体でのエネルギー容量を増加させることもできる。
【0037】
なお、本実施形態の燃料供給体1は、燃料収容部2及び生体触媒収容部4だけでなく、その他の部分も生体高分子を主成分とする材料で形成することも可能である。その場合、セルロースや澱粉などを燃料とするバイオ燃料電池の燃料投入部に、シュレッダーなどの粉砕機構を設けることにより、使用後の燃料供給体1を燃料として使用することが可能となる。これにより、再生可能エネルギー100%のカートリッジを実現することができる。
【0038】
<2.第2の実施の形態>
[燃料供給体の全体構成]
次に、本開示の第2の実施形態に係る燃料供給体について説明する。図1に示す燃料供給体1では、生体触媒収容部4と燃料収容部2とがそれぞれ独立して設けられ、生体触媒6と燃料5とが接触しない構成となっているが、本開示はこれに限定されるものではなく、生体触媒収容部が独立して設けられていない構成も含む。
【0039】
[燃料5及び触媒6の収容状態]
図2〜図4は本開示の第2の実施形態の燃料供給体における燃料5及び触媒6の収容状態例を模式的に示す図である。例えば、図2に示すように、燃料5が固体状である場合は、燃料収容部2が生体触媒収容部4を兼ねた構成、即ち、燃料収容部2兼生体触媒収容部4に、燃料5の粒子と生体触媒6の粒子の両方が収容され、混在している構成にすることもできる。
【0040】
また、燃料供給体1自体又は燃料5に生体触媒6が固定された構成とすることもできる。具体的には、シート状の燃料5の一方又は両方の面に生体触媒6がコーティングされていてもよい。又は、図2に示すように生体触媒6が燃料5で挟み込んだ状態や、図3に示すように略球体状の燃料5内に生体触媒6が包含された状態で収容することもできる。
【0041】
更に、燃料供給体1の表面の一部又は全部や、生体触媒6を含有する材料で燃料供給体1の一部又は全部を形成したりすることもできる。この場合、特に、燃料5と接触する部分は、生体触媒6を固定又は生体触媒6を含有する材料で形成することが望ましい。ただし、前述した各収容状態をとる場合、燃料5と生体触媒6とが接するため、必要に応じて、生体触媒6に燃料5を分解しないものを使用したり、生体触媒6を不活性な状態にしたりすることが望ましい。
【0042】
このように、燃料5と生体触媒6とが混在、又は燃料5や燃料供給1自体に生体触媒6が固定されていると、燃料5と生体触媒6との接触面積が大きくなるため、分解時の反応速度を上昇させることができる。なお、本実施形態の燃料供給体における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0043】
<3.第3の実施の形態>
[バイオ燃料電池システムの全体構成]
次に、本開示の第3の実施形態に係るバイオ燃料電池システムについて説明する。本実施形態のバイオ燃料電池システムでは、前述した第1又は第2の燃料供給体を使用して、バイオ燃料電池に、燃料や、燃料に含まれる生体高分子を代謝分解する生体触媒を供給する。
【0044】
具体的には、本システムのバイオ燃料電池は、少なくとも、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備える発電部と、この発電部に導入される燃料を貯留する燃料貯留部とを備えている。そして、燃料供給体に充填された燃料は、この燃料貯留部に供給される。
【0045】
[燃料貯留部]
一方、このバイオ燃料電池の燃料貯留部には、燃料供給体を切断、破断又は粉砕などするための機構(以下、これらをまとめて粉砕機構という。)が設けられている。そして、この粉砕機構によって、燃料供給体を粉砕などすることにより、生体触媒によって、燃料収容部2及び生体触媒収容部4を構成する生体高分子を分解することが可能となる。その結果、本実施形態のバイオ燃料電池システムでは、燃料供給体自体を燃料として使用することができる。
【0046】
[不要成分の分離・回収機構]
ここで、燃料供給体を燃料として使用する場合、生体高分子以外の成分の存在が問題となる。図5〜8は生体高分子以外の成分を分離回収する方法を模式的に示す図である。前述したように、燃料貯留部に投入され、粉砕機構により粉砕された燃料供給体の粉砕体1aは、生体触媒によって生体高分子成分が徐々に分解される。
【0047】
それに伴いインク、プラスチック及び金属などの生体高分子以外の成分が、生体触媒を含有する溶液(生体触媒・生体高分子含有溶液6a)中に遊離してくる。そして、この生体高分子以外の成分により、生体高分子の分解が阻害される可能性がある。このため、燃料供給体を、バイオ燃料電池の燃料として使用する場合は、生体高分子以外の成分を分離回収する必要がある。
【0048】
具体的には、図5に示すように、燃料貯留部において、活性炭やゼオライトなどの吸着剤21を使用して、生体高分子以外の成分を分離・回収する方法や、図6に示すように、電場を印加することにより、電気泳動効果でインク成分22などを分離・回収する方法などが考えられる。図6に示す方法の場合、バイオ燃料電池で発電した電力の一部を使用することもできる。
【0049】
また、図7に示すように、磁石23を設置することにより、磁性成分24を分離・回収する方法もある。更に、図8に示すように、低極性有機溶剤25などにより低極性層を形成すると、インク成分22やプラスチック成分26を分離することができる。
【0050】
本実施形態の燃料電池システムでは、前述した第1又は第2の燃料供給体を使用すると共に、バイオ燃料電池の燃料貯留部にこれらを粉砕などする粉砕機構が設けられているため、燃料供給体自体を燃料として使用可能となる。その結果、燃料供給体のリサイクルコストが不要となり、ユーザビリティーが向上すると共に、エネルギー容量を高めることができる。
【0051】
更に、生体高分子以外の成分を分離・回収することにより、生体触媒の性能劣化を防止することができる。そして、分離・回収した各成分を再利用することで、材料費の削減、環境負荷の低減及び資源の節約が期待できる。
【0052】
<4.第4の実施形態>
[バイオ燃料電池システムの全体構成]
次に、本開示の第4の実施形態に係るバイオ燃料電池システムについて説明する。前述した第3の実施形態においては、生体触媒を備える燃料供給体を使用したバイオ燃料電池システムについて説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、生体触媒を備えるバイオ燃料電池を使用することもできる。
【0053】
具体的には、本システムのバイオ燃料電池は、少なくとも、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備える発電部と、燃料改質部とを備えており、この燃料改質部に生体触媒が収容又は固定化されている。そして、この燃料改質部で改質された燃料が、発電部に導入される。この場合、燃料供給体が生体触媒を備えている必要はなく、燃料供給体の一部又は全部が、燃料改質部に収容又は固定化された生体触媒で分解可能な生体高分子及び/又はその他の生体高分子を主成分とする材料により形成されていればよい。
【0054】
[燃料改質部]
図9は本実施形態のバイオ燃料電池システムにおいて使用するバイオ燃料電池の燃料改質器の構成を示す概念図である。図9に示すように本実施形態における燃料改質器は、一次燃料を導入するための一次燃料導入部11と、一次燃料を二次燃料に改質する燃料改質部12と、二次燃料を燃料電池に供給するための二次燃料供給部13と、を少なくとも備えている。また、必要に応じて、燃料精製部14や電解質溶液供給部15などを備えることもある。
【0055】
そして、例えば、燃料供給体を構成する生体高分子がセルロースや澱粉などである場合は、この燃料改質器の燃料改質部12又は燃料生成部14において、セルロースや澱粉などの一次燃料を、生体触媒による酸化還元反応によって、電子を放出し得る二次燃料に改質する。
【0056】
このように、本実施形態のバイオ燃料電池システムにおいては、バイオ燃料電池に、生体触媒を備える燃料改質部が設けられているため、燃料供給体が生体高分子で形成されていれば、生体触媒を備えていなくとも、燃料として使用することが可能となる。更に、前述した第1又は第2の実施形態のような生体触媒を備える燃料供給体を使用することにより、分解性能を向上又は回復させることができる。なお、本実施形態のバイオ燃料電池システムにおける上記以外の構成及び効果は、前述した第3の実施形態と同様である。
【0057】
なお、本開示は、以下のような構成もとることができる。
(1)
一部又は全部が生体高分子を主成分とする材料により形成されており、
該生体高分子を代謝分解する生体触媒が収容又は固定化されているバイオ燃料電池用燃料供給体。
(2)
燃料が収容される燃料収容部と、
前記生体触媒が収容される生体触媒収容部と、
を有し、
前記燃料収容部及び前記生体触媒収容部は、生体高分子を主成分とする材料により形成されている(1)に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(3)
前記燃料収容部と前記生体触媒収容部とがそれぞれ独立して設けられている(2)に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(4)
前記燃料が固体状であり、前記燃料収容部が前記生体触媒収容部を兼ねている(2)又は(3)に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(5)
前記生体触媒が不活性な状態で収容又は固定化されている(1)〜(4)のいずれかに記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(6)
前記生体高分子が炭水化物である(1)〜(5)のいずれかに記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(7)
前記生体高分子がセルロースであり、前記生体触媒がセルラーゼである(1)〜(5)のいずれかに記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(8)
前記生体高分子が澱粉であり、前記生体触媒がアミラーゼである(1)〜(5)のいずれかに記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(9)
前記燃料収容部及び前記生体触媒収容部が前記燃料とは異なる生体高分子を主成分とする材料により形成されており、
前記生体触媒収容部には、前記材料の主成分である生体高分子を代謝分解する第1の生体触媒と、前記燃料に含まれる生体高分子を代謝分解する第2の生体触媒とが収容される(2)〜(5)のいずれかに記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
(10)
(1)〜(9)のいずれかに記載の燃料供給体と、
表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えるバイオ燃料電池と、
を有し、
前記燃料供給体から前記バイオ燃料電池に燃料及び/又は生体触媒が供給されると共に、前記燃料供給体自体も燃料として使用するバイオ燃料電池システム。
(11)
前記バイオ燃料電池には、前記燃料供給体を切断、破断又は粉砕する機構を備えた燃料貯留部が設けられており、該燃料貯留部において前記燃料供給体が分解される(10)に記載のバイオ燃料電池システム。
(11)
一部又は全部が生体高分子を主成分とする材料により形成された燃料供給体と、
表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えた発電部及び一次燃料を電子を放出し得る二次燃料に改質する燃料改質部を少なくとも備えるバイオ燃料電池と、
を有し、
前記バイオ電池の燃料改質部には、前記燃料供給体を構成する生体高分子を分解する生体触媒が、収容又は固定化されているバイオ燃料電池システム。
【符号の説明】
【0058】
1 燃料供給体
1a 粉砕物
2 燃料収容部
3 燃料供給孔
4 生体触媒収容部
5 燃料
6 生体触媒
6a 生体触媒含有溶液
7 生体触媒取出孔
8 分離壁
10 燃料貯留部
11 一次燃料導入部
12 燃料改質部
13 二次燃料供給部
14 燃料精製部
15 電解質溶液供給部
21 吸着剤
22 インク成分
23 磁石
24 磁性成分
25 低極性有機溶剤
26 プラスチック成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部又は全部が生体高分子を主成分とする材料により形成されており、
該生体高分子を代謝分解する生体触媒が収容又は固定化されているバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項2】
燃料が収容される燃料収容部と、
前記生体触媒が収容される生体触媒収容部と、
を有し、
前記燃料収容部及び前記生体触媒収容部は、生体高分子を主成分とする材料により形成されている請求項1に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項3】
前記燃料収容部と前記生体触媒収容部とがそれぞれ独立して設けられている請求項2に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項4】
前記燃料が固体状であり、前記燃料収容部が前記生体触媒収容部を兼ねている請求項2に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項5】
前記生体触媒が不活性な状態で収容又は固定化されている請求項1に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項6】
前記生体高分子が炭水化物である請求項1に記載のバイオ燃料電池用供給体。
【請求項7】
前記生体高分子がセルロースであり、前記生体触媒がセルラーゼである請求項1に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項8】
前記生体高分子が澱粉であり、前記生体触媒がアミラーゼである請求項1に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項9】
前記燃料収容部及び前記生体触媒収容部が前記燃料とは異なる生体高分子を主成分とする材料により形成されており、
前記生体触媒収容部には、前記材料の主成分である生体高分子を代謝分解する第1の生体触媒と、前記燃料に含まれる生体高分子を代謝分解する第2の生体触媒とが収容される請求項2に記載のバイオ燃料電池用燃料供給体。
【請求項10】
請求項1に記載の燃料供給体と、
表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えるバイオ燃料電池と、
を有し、
前記燃料供給体から前記バイオ燃料電池に燃料及び/又は生体触媒が供給されると共に、前記燃料供給体自体も燃料として使用するバイオ燃料電池システム。
【請求項11】
前記バイオ燃料電池には、前記燃料供給体を切断、破断又は粉砕する機構を備えた燃料貯留部が設けられており、該燃料貯留部において前記燃料供給体が分解される請求項10に記載のバイオ燃料電池システム。
【請求項12】
一部又は全部が生体高分子を主成分とする材料により形成された燃料供給体と、
表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えた発電部及び一次燃料を電子を放出し得る二次燃料に改質する燃料改質部を少なくとも備えるバイオ燃料電池と、
を有し、
前記バイオ電池の燃料改質部には、前記燃料供給体を構成する生体高分子を分解する生体触媒が、収容又は固定化されているバイオ燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−221832(P2012−221832A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88248(P2011−88248)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】