説明

バイオ物質の検出方法

【課題】バイオ物質の検出のためのサンドイッチ法のうち、第2バイオ物質で修飾された磁性粒子に他の磁性粒子を結合させてから光学的に観察する方法を、検出領域面上にマーカーを設けることなく実施できるように改良する。
【解決手段】バイオ物質の検出のためのサンドイッチ法で、検出の対象となる抗体2を抗原で挟みこみ、一方の抗原が基板6の検出領域7に結合し、他方の抗原が第1磁性粒子1と結合した状態を作る(図4(a))。その後、第1磁性粒子1よりも大きな第2磁性粒子9を含む第2溶液を基板6に供給して(図4(b))から磁場をかけて、第2磁性粒子9を第1磁性粒子1に結合させる(図4(c))。その後、第1磁性粒子1に結合していない第2磁性粒子9を洗い流してから(図4(d))、基板6の光学的な観察を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ物質の検出のための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやタンパク質、酵素といった生体分子の検出が、必要となる場合がある。
【0003】
生体分子を検出する方法としては、例えば、特異性の高い生体分子反応を利用し、酵素反応に基づく発色・発光をシグナルに用いるELISA測定法が知られている。
しかし、この方法は、感度が不十分な場合が多く、他方、感度を高めるためには生体物質の増幅が必要となるため生体物質の検出に要する時間が長く、また、この方法は装置のコストが高い。そのため、この方法は、救急車内での緊急検査や在宅診断、学校や職場での定期検診、飛行場での検査等といった研究室、病院等の専門機関外で用いるには課題がある。
【0004】
そこで、近年、磁性粒子を用いたバイオ物質の検出方法が注目されている。これは、検出の対象となる生体分子(以下、「バイオ物質」という。)である第1バイオ物質(例えば、抗原)とこれに特異的に結合する性質を持つバイオ物質である第2バイオ物質、及び第3バイオ物質(第2バイオ物質、及び第3バイオ物質は、例えば、抗体である。)が互いに結合することを利用するものである。
具体的には、この検出法では、まず、ポリマーで覆われた磁性粒子の表面を第2バイオ物質で修飾したものの当該第2バイオ物質を、第1バイオ物質が含まれる可能性のある溶液に投入する。もし、その溶液に第1バイオ物質が含まれれば第1バイオ物質は磁性粒子の表面を修飾する第2バイオ物質と結合する。そして、第3バイオ物質(もっとも第3バイオ物質は第2バイオ物質と同じ物である場合もあり得る。)で、その表面の少なくとも一部が修飾された検出領域面(例えば、プレパラートの表面)に、第2バイオ物質を介してその表面に第1バイオ物質が結合した上述の磁性粒子を供給し、当該磁性粒子と結合した第1バイオ物質を、検出領域面を修飾する第3バイオ物質と結合させる。これにより、第1バイオ物質は、検出領域面上で第2バイオ物質、及び第3バイオ物質とに挟まれた状態となり、検出領域面側から、検出領域面、第3バイオ物質、第1バイオ物質、第2バイオ物質、磁性粒子という並びができあがる。そして、この磁性粒子が第1バイオ物質の検出のための標識として用いられる。なお、この方法は、第1バイオ物質を第2バイオ物質、及び第3バイオ物質とで挟んだ状態を作るため、サンドイッチ法と呼ばれる場合がある。
ここで、磁性粒子を標識として用いるというのは、磁性粒子の存在を検出することにより、間接的に第1バイオ物質の検出を行うということを意味する。例えば、上述の方法を実施した後に、検出領域面上に存在する磁性粒子を、その存在によって発生する磁場、或いは電場の変化などを例えば磁気センサ、或いは電界センサを用いて検出することにより、間接的に第1バイオ物質の検出を行うという技術が知られている。
【0005】
しかしながら、上述のような磁場、電場の変化などによる磁性粒子の検出は、磁性粒子が小さいこともあり、それほど簡単ではない。磁性粒子には、それに第2バイオ物質を介して固定された第1バイオ物質が検出領域面を修飾する第3バイオ物質と高確率で結合できるようにするための移動のし易さが必要であり、また、そのような結合が生じた後でもその結合が壊されないことが必要となるため、その径が小さいことが必要とされる。磁性粒子を修飾する第2バイオ物質と結合した第1バイオ物質と第3バイオ物質とを結合させるには両者を遭遇させないとならないが、それは磁性粒子を含む液体中の分子のブラウン運動による磁性粒子の移動によって引き起こされるため、磁性粒子は小さく、軽い方が有利である。実際、上述の磁性粒子の径は、一般的には、nmのオーダーである。磁性粒子の検出における誤差は、そのまま、第1バイオ物質の検出精度を落とすことにつながるため好ましくない。
【0006】
このような点に鑑みて、本願の発明者の一人は、以下のような発明をなした。
この発明では、上述の方法によって検出領域面に磁性粒子を固定した後、検出領域面に、多数の他の磁性粒子を含む溶液を供給する。そして、検出領域面に磁場をかけることにより、後から供給した上述の他の磁性粒子を検出領域面に固定された磁性粒子に結合させる。磁性粒子に後から供給した他の磁性粒子を結合させることにより2つの第2バイオ物質とその間の第1バイオ物質とを介して検出領域面に結合している磁性粒子は、他の磁性粒子が多数結合した場合には、それを含む大きな磁性粒子の塊(球形に近い形状に限定されず、磁性粒子が一列に配列されるような場合も含む。)を作る。そしてこの塊は、後から供給する他の磁性粒子の径を検出領域面に固定されている磁性粒子の径よりも大きくした場合には特に、一般的な顕微鏡を用いて観察することのできる程度の大きさとすることが容易なため、結果としてその存在を光学的な観察により検出できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−115590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学的な観察により磁性粒子の存在を検知し、それにより第1バイオ物質の存在を確認する上述の技術は、第2バイオ物質で修飾された磁性粒子を、それと結合させる多数の他の磁性粒子によって、いわばその大きさについて増幅するものであるが、それに要する時間が極めて短く、また、電場或いは磁場の変化を検出するための手段を用いずに実行できるため装置も安いという利点がある。
しかし、この技術にも改良すべき点がある。
この技術における光学的な観察は、検出領域面を略垂直方向から観察することにより行われる。上述したように、第2バイオ物質で修飾された磁性粒子を介して検出領域面に固定された塊を作った他の磁性粒子は、例えば一般的な顕微鏡を用いて光学的に観察可能である。しかしながら、検出領域面上には、第2バイオ物質で修飾された磁性粒子を介して検出領域面に固定されていない他の磁性粒子も存在する。そして、これら第2バイオ物質で修飾された磁性粒子を介して検出領域面に固定されていない他の磁性粒子も磁場の存在により、塊を作りうる。
つまり、この技術では、磁性粒子の塊が発見されたということが直ちには第2バイオ物質で修飾された磁性粒子が検出領域面上に固定されているということを意味せず、また、第1バイオ物質が検出されたということも意味しない。
そのような点を考慮し、第2バイオ物質で修飾された磁性粒子を介して検出領域面に固定された塊を作った他の磁性粒子と、塊を作ったものの第2バイオ物質で修飾された磁性粒子を介して検出領域面に固定されていない他の磁性粒子とを区別するために、第1バイオ物質と結合する第3バイオ物質が存在する位置を検出領域面上で特定するためのマーカーを検出領域面上に設けるということが行われている。
つまり、光学的な観察により、このマーカー上、或いはその近傍に磁性粒子の塊が発見された場合には、その塊を構成する磁性粒子をは第2バイオ物質で修飾された磁性粒子を介して検出領域面上に固定されていると判断できるから、そのような磁性粒子の塊が発見された場合には、それを、第1バイオ物質の検出と意味付けることができるようになる。
【0009】
しかしながら、従来のマーカーは、検出領域面上に金を真空蒸着させるなどして作られているが、検出領域面上にマーカーを設けるのは煩雑でコストがかかる。
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、バイオ物質の検出のためのサンドイッチ法のうち、第2バイオ物質で修飾された磁性粒子に他の磁性粒子を結合させてから光学的に観察する方法を、検出領域面上にマーカーを設けることなく実施できるように改良することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、上述の課題を解決するために、以下のようなバイオ物質の検出方法を提案する。
【0011】
本発明のバイオ物質の検出方法は、以下のようなものである。
すなわち、本発明は、検出の対象となるバイオ物質である第1バイオ物質が、前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第2バイオ物質を介して、前記第2バイオ物質で修飾された、磁場を印加することにより磁化可能な磁性粒子である第1磁性粒子と結合しているとともに、前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第3バイオ物質を介して、前記第3バイオ物質でその表面の一部が修飾された検出領域面に結合している状態で実行されるバイオ物質の検出方法である。
そして、このバイオ物質の検出方法は、磁場を印加することにより磁化可能であり、磁場内で前記第1磁性粒子と磁力により結合可能な磁性粒子である第2磁性粒子を多数含む溶液である第2溶液を、前記検出領域面上に供給する過程と、前記検出領域面上に磁場を印加することにより、前記第1磁性粒子に前記第2磁性粒子を磁力により結合させる過程と、磁場を印加した状態で、前記第1磁性粒子に直接又は他の第2磁性粒子を介して間接的に結合していない前記第2磁性粒子を前記検出領域面から洗い流す過程と、前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す前記過程の後、前記検出領域面を光学的に観察する過程と、を含む。
このバイオ物質の検出方法は、光学的な観察を行う前に、前記第1磁性粒子に直接又は他の第2磁性粒子を介して間接的に結合していない前記第2磁性粒子を前記検出領域面から洗い流す。したがって、光学的な観察を行うことで発見される第1磁性粒子と結合した第2磁性粒子の塊は、それに含まれる第1磁性粒子を修飾する第2バイオ物質、当該第2バイオ物質と結合した第1バイオ物質、当該第1バイオ物質と結合した検出領域面を修飾する第3バイオ物質、を介して検出領域面に固定されている。つまり、このバイオ物質の検出方法で行われる光学的な観察により、第1磁性粒子と結合した第2磁性粒子の塊が発見された場合には、上述の如きマーカーがなくとも、その塊の発見を、第1バイオ物質が検出されたと意味付けることができる。
なお、本願発明では、前記第1磁性粒子よりも大きい前記第2磁性粒子を用いることができる。このようにした場合には、第2磁性粒子の塊の光学的な検出が容易になる一方で、第1バイオ物質検出に役立たないノイズとしての第2磁性粒子の塊も目立ちやすくなるので、第1バイオ物質検出のために不要な第2磁性粒子を流し去ることの意味が大きくなる。
なお、本願における第2バイオ物質と第3バイオ物質とは同じものである場合もあるし、そうでない場合もあり得る。
【0012】
本発明のバイオ物質の検出方法は、以下のようなものとしてもよい。このバイオ物質の検出方法でも、光学的な観察により、第1磁性粒子と第2磁性粒子による塊が発見された場合には、上述の如きマーカーがなくとも、その塊の発見を、第1バイオ物質が検出されたと意味付けることができるという作用効果を得られる。
その方法は、検出の対象となるバイオ物質である第1バイオ物質が、その表面を修飾する前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第2バイオ物質を介して結合した、磁場を印加することにより磁化可能な磁性粒子である第1磁性粒子を含む溶液である第1溶液を、前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第3バイオ物質でその表面の一部が修飾された検出領域面上に供給する過程と、前記第1磁性粒子を修飾する前記第3バイオ物質を介して前記第1磁性粒子に結合した前記第1バイオ物質を、前記検出領域面を修飾した前記第2バイオ物質と結合させる過程と、磁場を印加することにより磁化可能であり、磁場内で前記第1磁性粒子と磁力により結合可能な磁性粒子である第2磁性粒子を多数含む溶液である第2溶液を、前記検出領域面上に供給する過程と、前記検出領域面上に磁場を印加することにより、前記第1磁性粒子に前記第2磁性粒子を磁力により結合させる過程と、磁場を印加した状態で、前記第1磁性粒子に直接又は他の第2磁性粒子を介して間接的に結合していない前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す過程と、前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す前記過程の後、前記検出領域面を光学的に観察する過程と、を含む、バイオ物質の検出方法である。
なお、この方法の場合には、前記第1磁性粒子を修飾する前記第2バイオ物質を介して前記第1磁性粒子に結合した前記第1バイオ物質を、前記検出領域面を修飾した前記第3バイオ物質と結合させる前記過程の後に、その表面を修飾した前記第2バイオ物質を介して結合した前記第1バイオ物質が、前記第1検出領域面を修飾した前記第3バイオ物質と結合していない第1磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す過程、を行ってもよい。
このようにすると、その表面を修飾する第2バイオ物質に結合した第1バイオ物質が検出領域面上を修飾する第3バイオ物質に結合していない第1磁性粒子、換言すれば検出領域面に固定されていない第1磁性粒子も光学的な観察を行うときには存在しなくなっているので、光学的な観察を更に行い易くなる。
【0013】
磁場を印加した状態で、前記第1磁性粒子に直接又は他の第2磁性粒子を介して間接的に結合していない前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す前記過程は、どのようにして行ってもよい。例えば、ピペットで前記検出領域面上に液体を供給することによりこれを行うことができる。
その表面を修飾した前記第2バイオ物質を介して結合した前記第1バイオ物質が前記第1磁性粒子を修飾した前記第2バイオ物質と結合していない第1磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す過程も同様に、例えば、ピペットで前記検出領域面上に液体を供給することによりを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態で用いる第1磁性粒子を抗体で修飾した状態を示す図。
【図2】前処理溶液に図1で示した第1磁性粒子を供給した後の処理を示す図。
【図3】抗原と抗体を介して結合した第1磁性粒子を基板の上に供給した状態を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係る状態保存方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
この実施形態のバイオ物質の検出方法では、本発明の第1バイオ物質にあたる適当な抗原を検出対象とし、これを、サンドイッチ法を用いて検出することとする。この実施形態のサンドイッチ法では、抗原を挟む本発明の第2バイオ物質、及び第3バイオ物質としてともに、当該抗原と特異的に結合する性質を有する抗体を用いることとする。また、この実施形態のバイオ物質の検出は、光学的な観察によるものとする。
なお、抗体と抗原は互いに入れ替えても構わないし、第1バイオ物質と、第2バイオ物質及び第3バイオ物質は、それらが互いに特異的に結合するものである限り、抗体、抗原の一方と他方である必要もない。
【0017】
この実施形態では、まず、図1に示したように、第1磁性粒子1の表面に、抗体2Aを修飾する。
第1磁性粒子1は、それに固定される本発明でいう第2バイオ物質(この実施形態では抗体2A)に対して相対的に大き過ぎない程度の大きさのものとするのが好ましい。例えば単分子DNAに相当する程度の大きさ、具体的には粒径100nm以下のものが利用可能である。この程度の大きさとすることで、第1磁性粒子1と抗体2Aとの大きさの差異が大きくならないから、これらの結合が容易となり、また第1磁性粒子1の移動も生じやすくなる。つまり、第1磁性粒子1よりも大きいマイクロサイズの磁性粒子と比較して、ナノサイズの第1磁性粒子1は、バイオ物質との反応効率がよく、サンドイッチ法への応用に向いている。
第1磁性粒子1に用いることのできる磁性粒子は、公知であり、市販もされているのでそれを利用することができる。この実施形態における第1磁性粒子1は、必ずしもこの限りではないが、本体3を備えており、その表面を官能基を持つ物質によるレイヤー層4で覆った構造となっている。レイヤー層4に含まれる官能基は、上述の抗体2Aと結合させるために用いられる。本体3の中には、第1磁性粒子1を磁性粒子として機能させるためのマグネタイト5が含まれている。マグネタイト5は、小さな磁界を与えるだけで大きく磁化され、また、磁界が消えた場合の残留磁化が小さい方が好ましく、この点を考慮して、超常磁性の性質を持つものを用いるのが好ましい。この実施形態のマグネタイト5は、必ずしもその限りではないが、その径が数nm程度の酸化鉄(Fe)である。
第1磁性粒子1のレイヤー層4に、抗体2Aを固定する方法は、公知の適当な技術を用いればよい。例えば、抗体2Aは、第1磁性粒子1の表面に直接固定されてもよく、或いは抗体2Aを他のタンパク質に化学的に結合させてから吸着させて固定してもよい。前者の例としては、第1磁性粒子1のレイヤー層4に存在するアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、エポキシ基などの官能基の一部を修飾することによって抗体2Aを第1磁性粒子1に固定する方法を挙げられる。後者における他のタンパク質の例としては、アルブミンを挙げることができる。
なお、図1においては第1磁性粒子1を修飾する抗体2Aは1つとなっているが、これが1つに限られないことは当然である。
【0018】
次いで、図2に示したように、検出対象となる抗原が含まれる可能性のある溶液である前処理溶液Xに、抗体2Aで修飾された図1に示した第1磁性粒子1を加える(図2(a))。なお、この実施形態における前処理溶液Xは、例えば血液であり、それに血液の凝固を防止する薬剤である凝固防止剤を添加する等したものである。次いで、その前処理溶液Xを攪拌するなどする。これにより、第1磁性粒子1を修飾する抗体2Aは、前処理溶液X中にそれが存在すればではあるが、前処理溶液X中の抗体2Aと特異的に結合する性質を有する抗原8と結合する(図2(b))。この実施形態における前処理溶液Xは試験管Y内に入れられており、この実施形態では、必ずしもこの限りではないが、試験管Yを振ることで上述の攪拌を行う。
次いで、第1磁性粒子1を磁気回収する。磁気回収の原理は、図2(c)に示したように、例えば磁石Zを試験管Yの外面に当て、磁化した第1磁性粒子1を試験管Y越しに磁石Zに吸着させてから試験管Y外に取出すというものである。
これにより、抗原8と抗体2Aを介して結合したものを含むかもしれない第1磁性粒子1を得る。
【0019】
次いで、上述のようにして得た、抗原8と抗体2Aを介して結合したものを含むかもしれない第1磁性粒子1を、この実施形態では純水である溶媒に混入させて、第1溶液とする。
そして、この第1溶液を、図3(a)に示したようにして、基板6上に供給する。第1溶液の基板6上への供給は、例えば、ピペットなどの公知の器具を用いて行うことができる。
基板6の図3(a)、(b)における上側の面が検出領域面であり、その表面の所定の部分は、抗体2Bで修飾されている。
【0020】
基板6は、この実施形態ではシリコンで形成され、基板6の一部を酸化させることにより検出領域7が形成されている。検出領域7は、この実施形態では、1つとされているが、所定の間隔で、基板6上に点々と設ける等して複数設けられていても構わない。なお、検出領域7を特定のパターンで基板6上に設けるには、フォトレジストなどの公知の手法を用いればよい。検出領域7は、本願でいう第3バイオ物質である抗体2Bで修飾されている。検出領域7を修飾する抗体2Bはこの実施形態では第1磁性粒子1を修飾する抗体2Bと同じものであるが、必ずしも両者は同じものである必要はない。なお、複数の検出領域7を基板6に設けた場合には、検出領域7のそれぞれに、異なる種類の本発明でいう第3バイオ物質を固定することもできる。そうすることにより、複数種類のバイオ物質の検出を一つの基板6で行えるようになる。なお、基板6の上には、特にマーカーは設けられていない。
基板6を抗体2Bで修飾する方法は、これも公知のものでよい。この実施形態では、検出領域7を抗体2Bで修飾するものとする。この実施形態では、シランカップリング剤を用いて生じさせたシランカップリング反応を利用して、検出領域7に抗体2Bを固定することとしている。なお、図3(a)、(b)では、検出領域7に固定された抗体2Bは2つとなっているが、実際にはより多くの、例えば数百程度の抗体2Bが検出領域7に固定される。
【0021】
そのまましばらく放置すると、第1磁性粒子1は第1溶液中を、第1溶液中の水分子のブラウン運動によって生じる振動に押されて泳動し、ある程度の時間放置すると、一定の確率で、基板6を修飾する抗体2Bに近づく。すると、第1磁性粒子1に抗体2Aを介して固定されている抗原8は、基板6を修飾する抗体2Bと結合する。
このようにして、基板6上には、検出領域7、抗体2B、抗原8、抗体2A、第1磁性粒子1という並びができあがる(図3(b))。
【0022】
なお、この状態では、検出領域面上に、その表面を修飾している抗体2Aに結合した抗原8が基板6を修飾する抗体2Bと結合していない第1磁性粒子1が存在している。この実施形態では省略するが、それらを、例えばピペットで純水を検出領域面上に適当な量供給するなどして、検出領域面上から外部に流し出してしまっても構わない。
【0023】
図4(a)は、図3(b)を引いて見た状態である。
次いで、図4(a)に示した基板6の上に、第2磁性粒子9を供給する(図4(b))。より詳細には、第2磁性粒子9を含む溶液である第2溶液を基板6上に供給する。かかる第2溶液の供給は、ピペット等の公知の器具を用いて行うことができる。なお、第2溶液の溶媒は、この実施形態では、純水であり、第2溶液は純水に第2磁性粒子9を加えたものとなっている。
第2磁性粒子9は、大きさを除けばその構成は第1磁性粒子1と特に変わらないものとすることができ、この実施形態ではそうされている。第2磁性粒子9は、バイオ物質での修飾は特に行われていない。
この実施形態では、抗原8や第1磁性粒子1の大きさがナノサイズであるのに対して、第2磁性粒子9の大きさは、これらより大きいマイクロサイズとなっている。第2磁性粒子9は、マイクロサイズであるため、後述するように光学的に観察を行った場合に、その確認が容易になる。
【0024】
次いで、図4(c)に示すように、基板6周辺に磁場を発生させることにより、第1磁性粒子1および第2磁性粒子9を磁化させる。磁場を発生させる方法は、磁場が発生すればどのようなものでもよく、この実施形態では、一般的な磁石を基板6の近くに置くことにより、磁場を検出領域7に対してほぼ垂直な方向に発生させている。
第1磁性粒子1および第2磁性粒子9を磁化させることにより、図4(c)のように、磁性粒子1および第2磁性粒子9が磁場の磁力線Hとほぼ同じ方向に結合する。
【0025】
この状態では、検出領域面上の第2磁性粒子9には、他の第2磁性粒子9や第1磁性粒子1と結合しておらず単独で存在しているものと、他の第2磁性粒子9と結合して塊を作っているものの第1磁性粒子1と直接的にもまた他の第2磁性粒子9を介して間接的にも結合していないものと、他の第2磁性粒子9と結合して塊を作っており且つ第1磁性粒子1と直接的に或いは他の第2磁性粒子9を介して間接的に結合しているもの、の3種類がある。これらのうち、最後のもののみが、検出領域7に固定されている。
この実施形態では、この状態で、例えばピペットを用いて、検出領域面に例えば純水である液体を供給し、他の第2磁性粒子9と結合して塊を作っており且つ第1磁性粒子1と直接的に或いは他の第2磁性粒子9を介して間接的に結合しているもの以外の第2磁性粒子9を検出領域面上から洗い流す。それにより、他の第2磁性粒子9や第1磁性粒子1と結合しておらず単独で存在している第2磁性粒子9と、他の第2磁性粒子9と結合して塊を作っているものの第1磁性粒子1と直接的にもまた他の第2磁性粒子9を介して間接的にも結合していない第2磁性粒子9とを検出領域面から洗い流す。なお、この場合、他の第2磁性粒子9と結合して塊を作っており且つ第1磁性粒子1と直接的に或いは他の第2磁性粒子9を介して間接的に結合しているものが洗い流されないように注意する。
【0026】
その後、この基板6の検出領域面を顕微鏡で観察する。その結果、検出領域7の上に複数の第2磁性粒子9が結合したものが観察されれば、当該検出領域7の上に配された抗体2と特異的に結合する抗原8が前処理溶液Xに含まれていたと結論づけることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 第1磁性粒子
2A 抗体
2B 抗体
3 本体
4 レイヤー層
5 マグネタイト
6 基板
7 検出領域
8 抗原
9 第2磁性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出の対象となるバイオ物質である第1バイオ物質が、前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第2バイオ物質を介して、前記第2バイオ物質で修飾された、磁場を印加することにより磁化可能な磁性粒子である第1磁性粒子と結合しているとともに、前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第3バイオ物質を介して、前記第3バイオ物質でその表面の一部が修飾された検出領域面に結合している状態で実行される方法であって、
磁場を印加することにより磁化可能であり、磁場内で前記第1磁性粒子と磁力により結合可能な磁性粒子である第2磁性粒子を多数含む溶液である第2溶液を、前記検出領域面上に供給する過程と、
前記検出領域面上に磁場を印加することにより、前記第1磁性粒子に前記第2磁性粒子を磁力により結合させる過程と、
磁場を印加した状態で、前記第1磁性粒子に直接又は他の第2磁性粒子を介して間接的に結合していない前記第2磁性粒子を前記検出領域面から洗い流す過程と、
前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す前記過程の後、前記検出領域面を光学的に観察する過程と、
を含む、バイオ物質の検出方法。
【請求項2】
検出の対象となるバイオ物質である第1バイオ物質が、その表面を修飾する前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第2バイオ物質を介して結合した、磁場を印加することにより磁化可能な磁性粒子である第1磁性粒子を含む溶液である第1溶液を、前記第1バイオ物質と特異的に結合する性質を有する第3バイオ物質でその表面の一部が修飾された検出領域面上に供給する過程と、
前記第1磁性粒子を修飾する前記第2バイオ物質を介して前記第1磁性粒子に結合した前記第1バイオ物質を、前記検出領域面を修飾した前記第3バイオ物質と結合させる過程と、
磁場を印加することにより磁化可能であり、磁場内で前記第1磁性粒子と磁力により結合可能な磁性粒子である第2磁性粒子を多数含む溶液である第2溶液を、前記検出領域面上に供給する過程と、
前記検出領域面上に磁場を印加することにより、前記第1磁性粒子に前記第2磁性粒子を磁力により結合させる過程と、
磁場を印加した状態で、前記第1磁性粒子に直接又は他の第2磁性粒子を介して間接的に結合していない前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す過程と、
前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す前記過程の後、前記検出領域面を光学的に観察する過程と、
を含む、
バイオ物質の検出方法。
【請求項3】
前記第1磁性粒子を修飾する前記第2バイオ物質を介して前記第1磁性粒子に結合した前記第1バイオ物質を、前記検出領域面を修飾した前記第3バイオ物質と結合させる前記過程の後に、
その表面を修飾した前記第2バイオ物質を介して結合した前記第1バイオ物質が、前記第1検出領域面を修飾した前記第3バイオ物質と結合していない第1磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す過程、
を行う、請求項2記載のバイオ物質の検出方法。
【請求項4】
磁場を印加した状態で、前記第1磁性粒子に直接又は他の第2磁性粒子を介して間接的に結合していない前記第2磁性粒子を前記検出領域面上から洗い流す過程は、ピペットで前記検出領域面上に液体を供給することにより行う、
請求項1又は2記載のバイオ物質の検出方法。
【請求項5】
前記第1磁性粒子よりも大きい前記第2磁性粒子を用いる、
請求項1又は2記載のバイオ物質の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−92501(P2013−92501A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236061(P2011−236061)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(300053553)スカラ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】