説明

バイポーラパルス電源及びこのバイポーラパルス電源を複数台並列接続してなる電源装置

【課題】 プラズマに接触する一対の電極に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力供給するバイポーラパルス電源を、ブリッジ回路のスイッチング素子のスイッチング損失が軽減でき、高機能スイッチング素子を用いることなく、高い耐久性を達成できるようにする。
【解決手段】 バイポーラパルス電源は、直流電力供給源1からの正負の直流出力端に接続されたスイッチング素子SW1乃至SW4から構成されるブリッジ回路22と、ブリッジ回路の各スイッチング素子のオン、オフの切換えを制御する制御手段とを備える。直流電力供給源からの正負の直流出力間に出力短絡用のスイッチング素子SW0を設け、この出力短絡用のスイッチング素子の短絡状態で制御手段によりブリッジ回路の各スイッチング素子の切換えを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ及び表面処理装置にバイポーラパルス状の電力供給を可能とするバイポーラパルス電源及びこのバイポーラパルス電源の複数台並列接続してなる電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のバイポーラパルス電源は、例えば処理基板表面に所定の薄膜を形成するスパッタリング装置に用いられ、直流電力を供給する整流回路と、この整流回路の正負の出力端に接続され、4個のスイッチング素子からなるMOSFETブリッジ回路とを有するものが知られている。そして、各スイッチング素子を適宜作動させて、出力端(電極)である一対のターゲットに所定の周波数で交互に極性を切換えて任意のパルス電圧を印加し、各ターゲットをアノード電極、カソード電極に交互に切換えてアノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気を形成し、各ターゲットをスパッタリングする。これにより、ターゲット表面に蓄積する電荷を、反対の位相電圧を印加して打ち消することでより安定的な放電が得られる(例えば、特許文献1)。
【0003】
このようなグロー放電中では、何らかの原因により異常放電(アーク放電)が発生することが知られており、電流変化量の多い(アーク電流の大きい)異常放電が電極間で局所的に生じると、スプラッシュやパーティクルの発生などの問題を誘発し、良好な成膜ができない。このため、上記バイポーラパルス電源では、ブリッジ回路からの出力電流を検出する検出回路を設け、この検出回路で検出した出力電流が定常出力電流値を超えたときに、作動中のスイッチング素子を切換えてその電極への出力を一旦遮断する。そして、過電流が鎮静してその値が定常出力電流値近くになると、その電極への出力を再開するようにしている(特許文献1参照)。つまり、このバイポーラパルス電源では、出力電流が一定の範囲を超えて変化すると、異常放電の前段現象(マイクロアーク)として捉え、その消孤処理を行うことで電流変化量の多い異常放電の発生が抑制できる。
【特許文献1】特許第3639605号公報(例えば、請求項1、段落番号0016の記載参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のものでは、ターゲットの酸化等に起因して放電が安定しないスパッタリング開始当初やスパッタリング中に異常放電が生じて過電流が流れたときに、4個のスイッチング素子自体をそれぞれ高速制御して対処するため、即ち、直流電力が供給された状態で各スイッチング素子のスイッチングが行われるため、個々のスイッチング素子のスイッチング損失が多大であり、使用条件によっては早期に作動不良を生じる虞がある。このため、スイッチング素子として、耐久性が高く、スイッチング速度の高いものを用いる必要があるが、これではコスト高を招く。
【0005】
ここで、従来のスパッタリング装置には、FPD製造の際に用いられる被処理基板のように大面積のものに対し薄膜の形成を可能としたものがある。この種のスパッタリング装置では、被処理基板に対向させて同一形状のターゲットを複数枚並設し、この並設したターゲットのうちそれぞれ対をなすターゲット毎に上述のバイポーラパルス電源を割り当てて設け、相互に通信自在とした各バイポーラパルス電源によって各ターゲットに電力投入することが一般である。
【0006】
但し、従来のバイポーラパルス電源では、それぞれ4個のスイッチング素子があり、しかも、スイッチング素子には、そのスイッチング速度の個体差があると共に(大電流用のスイッチング素子には最大数μSの差が生じる場合がある)、各スイッチング素子の制御回路にも制御速度のばらつきがある。このため、各バイポーラパルス電源からの出力がばらつき、その同期運転が困難である。
【0007】
そこで、上記点に鑑み、本発明の第一の目的は、ブリッジ回路のスイッチング素子のスイッチング損失が軽減でき、高機能スイッチング素子を用いることなく、高い耐久性を達成できるバイポーラパルス電源を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、出力の同期が容易であるバイポーラパルス電源の複数台並列接続してなる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載のバイポーラパルス電源は、直流電力供給源からの正負の直流出力端に接続されたスイッチング素子から構成されるブリッジ回路と、ブリッジ回路の各スイッチング素子のオン、オフの切換えを制御する制御手段とを備え、プラズマに接触する一対の電極に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力供給するバイポーラパルス電源において、前記直流電力供給源からの正負の直流出力間に出力短絡用のスイッチング素子を設け、この出力短絡用のスイッチング素子の短絡状態で制御手段によるブリッジ回路の各スイッチング素子の切換えを行うことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、直流電力供給源からブリッジ回路に直流電力を供給する。次いで、出力短絡用のスイッチング素子を短絡(オン)した状態でブリッジ回路を構成するスイッチング素子のうち一方の電極に出力する2個のスイッチング素子をオンする。その後、出力短絡用のスイッチング素子の短絡を解除(オフ)すると、一方の電極に電力供給(出力)される。次いで、出力短絡用のスイッチング素子を再度短絡し、一方の電極に出力中のスイッチング素子をオフすると共に、他方の電極に出力する2個のスイッチング素子をオンし、その後、出力短絡用のスイッチング素子の短絡を解除すると、他方の電極に出力される。この制御を繰返すことで、プラズマに接触する一対の電極に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力供給される。
【0010】
バイポーラパルス状の電力供給の際、スイッチング損失を1個の出力短絡用のスイッチング素子のみで発生させるため、ブリッジ回路の各スイッチング素子にはスイッチング損失が殆ど発生しない。このため、高機能のスイッチング素子を用いることなく、高い耐久性を達成でき、4個のスイッチング素子でスイッチング損失が発生する場合のような十分な放熱機構も必要でない。よって、バイポーラパルス電源の低コスト化が図れる。
【0011】
尚、前記電極は、スパッタリング法を実施する処理室内に配置した一対のターゲットであることが好ましい。
【0012】
また、前記一対の電極間の出力電流を検出する検出手段と、この出力電流の絶対値が電極への定常出力電流値を超えると、異常放電発生の前段現象として捕える異常放電検出手段とを備え、この異常放電検出手段によって異常放電発生の前段現象が捕えられると、前記出力短絡用のスイッチング素子によって電極への出力を遮断して異常放電の消弧処理を行えば、出力中の2個のスイッチング素子を制御して異常放電の消孤処理を行う場合より、応答性よくその制御ができ、この処理中でもブリッジ回路の各スイッチング素子にはスイッチング損失が殆ど発生せず、その耐久性を一層向上できる。
【0013】
さらに、上記課題を解決するために、請求項4記載の電源装置は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のバイポーラパルス電源を複数台並列接続してなる電源装置であって、同一の処理室内に配置した複数対の電極にバイポーラパルス状の電力供給を行うとき、各バイポーラパルス電源の出力短絡用のスイッチング素子のオン、オフの切換えを制御する統括制御手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、統括制御手段を介して各バイポーラパルス電源の各出力短絡用のスイッチング素子のみを同期させれば良いため、ブリッジ回路のスイッチング素子を十分な余裕を持って作動させることができ、各バイポーラパルス電源のスイッチング素子や制御回路に個体差があっても、その同期運転は容易である。
【0015】
前記統括制御手段によって各バイポーラパルス電源の出力短絡用のスイッチング素子を短絡した状態で、制御手段によるブリッジ回路の各スイッチング素子の切換時期を変更自在としておけば、例えば、同一のバイポーラパルス電源に接続された一対のターゲット間で異常放電が発生した場合に、そのターゲットに隣合うターゲットの電位が異常放電が発生しているターゲットの電位に一致するようにブリッジ回路の各スイッチング素子を制御することができ、異常放電を消孤し易くできてよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のバイポーラパルス電源は、ブリッジ回路のスイッチング素子のスイッチング損失が軽減でき、高機能スイッチング素子を用いることなく、高い耐久性を達成でき、低コスト化が図れるという効果を奏する。また、本発明の電源装置は、各バイポーラパルス電源からの出力の同期が容易であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して、Eは、本発明のバイポーラパルス電源であり、バイポーラパルス電源Eは、例えばスパッタリング装置の真空チャンバにおいて処理基板Sに対向して配置され、プラズマPに接触する電極である一対のターゲットT1、T2に対し所定の周波数でバイポーラパルス状に電力供給するために用いられる。バイポーラパルス電源Eは、直流電力の供給を可能とする直流電力供給部1と、各ターゲットT1、T2への出力(電力供給)を制御する発振部2とから構成される。この場合、出力電圧の波形は、略方形波や略正弦波である。
【0018】
直流電力供給部1は、その作動を制御する第1のCPU回路11と、商用の交流電力(3相AC200V又は400V)が入力される入力部12と、入力された交流電力を整流して直流電力に変換する6個のダイオード13aからなる整流回路13とを有し、正負の直流電力ライン14a、14bを介して直流電力を発振部2に出力する。また、直流電力供給部1には、直流電力ライン14a、14b間に設けたスイッチングトランジスタ15と、第1のCPU回路11に通信自在に接続され、スイッチングトランジスタ15のオン、オフを制御する出力発振用のドライバー回路16とが設けられている。直流電力ライン14a、14b間には、その電流、電圧を検出する検出回路17aが接続され、検出回路17aで検出された電流、電圧は、AD変換回路17bを介して第1のCPU回路11に入力されるようになっている。
【0019】
他方、発振部2には、第1のCPU回路11に通信自在に接続された第2のCPU回路21と、正負の直流電力ライン14a、14b間に接続された4個の第1乃至第4のスイッチングトランジスタSW1乃至SW4からなるブリッジ回路22と、第2のCPU回路21に通信自在に接続され、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4のオン、オフの切換を制御する出力発振用のドライバー回路23とが設けられている。
【0020】
そして、出力発振用のドライバー回路23によって、例えば第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4と、第2及び第3のスイッチングトランジスタSW2、SW3とのオン、オフのタイミングが反転するように各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の切換えを制御すると、ブリッジ回路22からの出力ライン24a、24bを介して一対のターゲットT1、T2にバイポーラパルス状に電力供給される。出力ライン24a、24bには、一対のターゲットT1、T2への出力電流及び出力電圧を検出する検出回路25が接続され、この検出回路25で検出された出力電流及び出力電圧は、AD変換回路26を介して第2のCPU回路11に入力されるようになっている。
【0021】
ここで、上記構成のバイポーラパルス電源Eにおいて、直流電力供給部1から直流電力を出力した状態で各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4を切換えたのでは、それらのスイッチング損失が多大となるため、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の耐久性が向上するようにする必要がある。
【0022】
本実施の形態では、直流電力供給部1からの正負の直流出力ライン14a、14b間に、出力発振用のドライバー回路23によってオン、オフの切換が制御される出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0を設け、出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0の短絡状態(ターゲットT1、T2への出力が遮断される状態)で、ブリッジ回路22の各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の切換えを行うようにした。
【0023】
つまり、図2に示すように、一対のターゲットT1、T2にバイポーラパルス状に電力供給する場合、スイッチングトランジスタSW0の短絡状態(オン)で、例えば第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4をオンし、その後、スイッチングトランジスタSW0の短絡を解除(オフ)して一方のターゲットT1に出力する(ターゲットT1に負の電位が印加される)。次いで、スイッチングトランジスタSW0を再度短絡し、第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4をオフすると共に、第2及び第3のスイッチングトランジスタSW2、SW3をオンし、その後、スイッチングトランジスタSW0をオフして他方のターゲットT2に出力する(ターゲットT2に負の電位が印加される)。
【0024】
そして、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4のオン、オフのタイミングが反転する上記制御を繰り返すことで、一対のターゲットT1、T2の間に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力供給する。これにより、所定圧力に保持された真空チャンバ内にArなどのスパッタガスを導入した状態で、所定の周波数で交互に極性をかえて電力投入される一対のターゲットT1、T2がアノード電極、カソード電極に交互に切換わり、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気が形成され、各ターゲットT1、T2がスパッタリングされる。
【0025】
これにより、ターゲットT1、T2へ出力する際に発生するスイッチング損失は、スイッチングトランジスタSW0でのみ発生し、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4にはスイッチング損失が殆ど発生しない。その結果、高機能のスイッチング素子を用いることなく、高い耐久性を達成でき、しかも、4個のスイッチング素子でスイッチング損失が発生する場合のような十分な放熱機構が不要になり、低コスト化が図れる。
【0026】
上記のようなグロー放電中では、何らかの原因によりアーク放電が発生する場合があり、アーク電流の大きなアーク放電が一対のターゲットT1、T2の間で生じると、スプラッシュやパーティクルの発生などの問題を誘発し、良好な成膜ができない。このため、本実施の形態では、検出回路25で検出された出力電流及び出力電圧が入力されるアーク検出制御回路27を第2のCPU回路21に通信自在に設け(図1参照)、アーク放電の消孤処理を行うようにしている。
【0027】
図3及び図4に示すように、検出回路25で検出した出力電流Vaが、定常出力電流値Vcを超えたとき、アーク検出制御回路27によってアーク放電発生の前段現象として捕えられ、第2のCPU回路21及びアーク検出制御回路27を介して出力発振用のドライバー回路23によって出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0を短絡(オン)される。この場合、ブリッジ回路22の各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4は、いずれか一方のターゲットT1、T2への出力状態に保持されているが、スイッチングトランジスタSW0が短絡されることでターゲットT1、T2への出力が遮断される(マイクロアーク処理)。
【0028】
次いで、所定時間経過後に、出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0を短絡を解除(オフ)し、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の作動状態に応じていずれか一方のターゲットT1、T2への出力を再開する。このとき、アーク検出制御回路27によって出力電流Vaが定常出力電流値Vcを超えているかを判断し、定常出力電流値Vcを未だ超えていれば、出力発振用のドライバー回路23によって出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0を再度短絡する。
【0029】
この一連のマイクロアーク処理を複数回繰り返しても出力電流Vaが定常出力電流値Vcを超えた状態のままであるか、または、出力電流Vaが予め設定された所定値を超えると、スプラッシュやパーティクルの発生を誘発するアーク放電が発生すると判断し、第1のCPU回路11からの制御によってスイッチングトランジスタ15をオフし、直流電力供給部1からの出力を停止する(ハードアーク処理)。
【0030】
上述のようにマイクロアーク処理を実施すれば、出力中の2個のスイッチングトランジスタSW1乃至SW4を切換えてアーク放電の消孤処理を行う場合より、応答性よくその制御ができ、この処理中でもブリッジ回路22の各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4にはスイッチング損失が殆ど発生せず、耐久性を一層向上できる。
【0031】
次に、図5及び図6を参照して、本発明のバイポーラパルス電源Eを複数台並列接続してなる電源装置について説明する。ESは、本発明の電源装置であり、この電源装置ESは、例えば次の構成を有するマグネトロンスパッタリング装置(以下、「スパッタ装置」という)3に用いられている。
【0032】
スパッタ装置3は、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段(図示せず)を介して所定の真空圧(例えば、10−5Pa)に保持できる真空チャンバ31を有し、スパッタ室(処理室)32を構成する。真空チャンバ31の上部には、例えばFPD製造の際に用いられる大面積の処理基板Sを電位的にフローティング状態で保持する基板ホルダー33が設けられている。真空チャンバ31にはまた、プロセスガスをスパッタ室32内に導入するガス導入管(図示せず)が設けられ、Ar等の希ガスからなるスパッタガスや反応性スパッタにより所定の薄膜を形成する場合に処理基板S表面に形成しようとする薄膜の組成に応じて適宜選択されるO、NやHOなどの反応性ガスとが処理室32に導入できる。
【0033】
スパッタ室32には、処理基板Sに対向させて、複数枚(本実施の形態では8枚)のターゲット41a乃至41hが等間隔で並設されている。各ターゲット41a乃至41hは、Al、Ti、Mo、インジウム及び錫の酸化物(ITO)やインジウム及び錫の合金など、処理基板S表面に形成しようとする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製され、例えば略直方体(上面視において長方形)など同形状に形成されている。
【0034】
各ターゲット41a乃至41hは、スパッタ中、ターゲット41a乃至41hを冷却するバッキングプレートに、インジウムやスズなどのボンディング材を介して接合されている。各ターゲット41a乃至41hは、未使用時のスパッタ面が処理基板Sに平行な同一平面上に位置するように、絶縁部材を介して真空チャンバ31に設けられている。また、ターゲット41a乃至41hの後方(スパッタ面と背向する側)には、公知の構造を有する磁石組立体(図示せず)が配置され、各ターゲット41a乃至41hの前方(スパッタ面)側で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉することで、各ターゲット41a乃至41h前方での電子密度を高くしてプラズマ密度が高まり、スパッタレートを高くできる。
【0035】
各ターゲット41a乃至41hは、隣り合う2枚で一対のターゲット(41aと41b、41cと41d、41eと41f、41gと41h)を構成し、一対のターゲット41a乃至41h毎に割り当てて上記実施の形態のバイポーラパルス電源E1乃至E4が設けられ、バイポーラパルス電源E1乃至E4からの出力ライン24a、24bが各一対のターゲット41a、41b(41c及び41d、41e及び41f、41g及び41h)に接続されている。これにより、バイポーラパルス電源E1乃至E4によって、各一対のターゲット41a乃至41hに対し交互に極性をバイポーラパルス状の電力供給が可能になる。
【0036】
本実施の形態では、安定してターゲット41a乃至41hの前方にプラズマを生成するために、相互に隣接するターゲット41a乃至41hの極性が相互に反転するように、各バイポーラパルス電源E1乃至E4を同期させて電力供給される(図5参照)。この同期運転のために、各バイポーラパルス電源E1乃至E4の第2のCPU回路21に通信自在に接続されたCPUからなる統括制御手段5が設けられている。
【0037】
そして、各バイポーラパルス電源E1乃至E4の出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0の短絡状態で、各バイポーラパルス電源E1乃至E4毎に、第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4と、第2及び第3のスイッチングトランジスタSW2、SW3とのオン、オフのタイミングが反転すると共に、相互に隣合うターゲット41a乃至41hへの極性が反転するように各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4を作動させた後、統括制御手段5からの出力でスイッチングトランジスタSW0の短絡が解除され、一対のターゲットのうち一方のもの41a、41c、41e、41gに出力する。
【0038】
次いで、統括制御手段5からの出力で各バイポーラパルス電源E1乃至E4の出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0の短絡し、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4を切換えた後に、統括制御手段5からの出力でスイッチングトランジスタSW0の短絡が解除され、他方の各ターゲット41b、41d、41f、41hに出力する。そして、上記制御を繰り返すことで、各ターゲット41a乃至41hに処置の周波数でバイポーラパルス状に電力供給されて同期運転される。
【0039】
この同期運転の際、統括制御手段5によって各バイポーラパルス電源E1乃至E4の出力短絡用のスイッチング素子SW0のオン、オフの切換えのタイミングのみを同期させれば良いため、各バイポーラパルス電源E1乃至E4のスイッチング素子SW1乃至SW4を十分な余裕を持って作動させることができ、各バイポーラパルス電源のスイッチング素子や制御回路に個体差があっても、その同期運転は容易である。
【0040】
また、各バイポーラパルス電源E1乃至E4は、スパッタリング中に、いずれか1個のバイポーラパルス電源において検出回路25で検出した出力電流Vaが、定常出力電流値Vcを超えたとき、そのバイポーラパルス電源のアーク検出制御回路23による出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0の切換えで上述したマイクロアーク処理を行うように構成されている。
【0041】
いずれか1個のバイポーラパルス電源でマイクロアーク処理を行う際、このバイポーラパルス電源からの出力ケーブル14a、14bが接続された一対のターゲットと、この一対のターゲットに隣合う他のバイポーラパルス電源からの出力ケーブル14a、14bが接続された他のターゲットとの電位が相互に一致していると、異常放電を消孤し易くできる。
【0042】
本実施の形態では、いずれか1個のバイポーラパルス電源E1乃至E4においてマイクロアーク処理を開始したとき、それが、統括制御手段5を介して隣合うターゲットに出力しているバイポーラパルス電源の第2のCPU回路21に出力される。この場合、その第2のCPU回路21を介して、出力発振用のドライバー回路23によって出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0が一旦短絡され、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の作動状態に応じて、電位が相互に一致するように各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の作動のタイミングが変更され、出力短絡用のスイッチングトランジスタSW0の短絡が解除され、ターゲットに出力されるようにしている。
【0043】
尚、本実施の形態では、各バイポーラパルス電源E1乃至E4を同期運転するため統括制御手段を設けたものについて説明したが、いずれか1個の第2のCPU回路21を統括制御手段として構成し(マスター電源)、この統括制御手段の出力によって、他のバイポーラパルス電源E2乃至E(スレーブ電源)の作動が制御されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のバイポーラパルス電源の構成を概略的に示す図。
【図2】本発明のバイポーラパルス電源の出力制御を説明する図。
【図3】本発明のバイポーラパルス電源でのマイクロアーク処理を説明する図。
【図4】本発明のバイポーラパルス電源でのマイクロアーク処理を説明する図。
【図5】本発明の電源装置を用いたスパッタリング装置を概略的に説明する図。
【図6】本発明の電源装置の出力制御を説明する図。
【符号の説明】
【0045】
1 直流電力供給部
2 発振部
22 ブリッジ回路
24a、24b 出力ケーブル
25 出力電流、電圧検出回路
27 アーク検知制御回路
E バイポーラパルス電源
SW0乃至SW4 スイッチング素子
T1、T2 電極(ターゲット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力供給源からの正負の直流出力端に接続されたスイッチング素子から構成されるブリッジ回路と、ブリッジ回路の各スイッチング素子のオン、オフの切換えを制御する制御手段とを備え、プラズマに接触する一対の電極に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力供給するバイポーラパルス電源において、前記直流電力供給源からの正負の直流出力間に出力短絡用のスイッチング素子を設け、この出力短絡用のスイッチング素子の短絡状態で制御手段によるブリッジ回路の各スイッチング素子の切換えを行うことを特徴とするバイポーラパルス電源。
【請求項2】
前記電極は、スパッタリング法を実施する処理室内に配置した一対のターゲットであることを特徴とする請求項1記載のバイポーラパルス電源。
【請求項3】
前記一対の電極間の出力電流を検出する検出手段と、この出力電流の絶対値が電極への定常出力電流値を超えると、異常放電発生の前段現象として捕える異常放電検出手段とを備え、この異常放電検出手段によって異常放電発生の前段現象が捕えられると、前記出力短絡用のスイッチング素子によって電極への出力を遮断して異常放電の消弧処理を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載のバイポーラパルス電源。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のバイポーラパルス電源を複数台並列接続してなる電源装置であって、同一の処理室内に配置した複数対の電極にバイポーラパルス状の電力供給を行うとき、各バイポーラパルス電源の出力短絡用のスイッチング素子のオン、オフの切換えを制御する統括制御手段を備えたことを特徴とする電源装置。
【請求項5】
前記統括制御手段によって各バイポーラパルス電源の出力短絡用のスイッチング素子を短絡した状態で、制御手段によるブリッジ回路の各スイッチング素子の切換時期を変更自在としたことを特徴とする請求項4記載の電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−284734(P2009−284734A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137095(P2008−137095)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】