説明

バイポーラ処置具

【課題】下垂体等の手術において止血することができるバイポーラ処置具を提供する。
【解決手段】フレキシブル芯線と、このフレキシブル芯線を保持する保持具とからなるバイポーラ処置具において、フレキシブル芯線は、フレキシブルチューブ3と、このフレキシブルチューブ内に挿入された二本の被覆電線4,5と、これら二本の被覆電線におけるフレキシブルチューブの先端の絶縁体からなる閉止部6からの裸電線の突出部4a,5aとを具備し、保持具は、フレキシブル芯線を収納可能な長溝を間に有し、この長溝の伸び方向に相互にスライド可能に重ねられた二本のロッドと、これら二本のロッドの先端部にピン結合され、二本のロッド同士のスライドによって首振り動作可能な上記長溝内のフレキシブル芯線の先端部が挿通される筒部と、二本のロッドの後端部に設けられたグリップと、二本のロッド同士をスライドさせるスライド操作部とを具備し、スライド操作部の操作によって筒部に挿入されたフレキシブル芯線が筒部と共に回動可能とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳外科手術等に使用することができるバイポーラ処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、脳下垂体の腫瘍を除去する脳外科手術においては、術野を確保するため腫瘍の回りの細い血管からの出血を止める必要がある。この種の手術では、鼻孔から鉗子等を挿入して腫瘍を取り除くので、止血のためのバイポーラ処置具も鼻孔から挿入することができるような細い構造のものでなければならない。その構造としては、細いパイプの中に二本の電線を通し、各々がパイプの先から突出した箇所を+電極と−電極とすることが考えられる(例えば、特許文献1参照)。両電極を所望の血管に近づけて両電極間に高周波電流を印加することで血管を凝固させることができる。
【0003】
また、一般的な脳外科手術において、側方などにある腫瘍や血管の操作を行うためには弯曲した処置具が必要であるが、狭いスペースから大きく弯曲した処置具を挿入することは極めて困難である。このため、内視鏡の可撓部に形成されたチャンネル内にフレキシブルバイポーラ凝固子を通して、可撓部と共に脳内へと送り、止血を行うことも試みられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−160083号公報
【特許文献2】特開平10−127658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のうち前者はパイプが金属等の硬い材質で出来た直管であるから、頭蓋内の狭い入り組んだ位置に存在する腫瘍等の患部へと電極を到達させることは極めて困難である。また、電極もパイプの先端からパイプの軸線方向に突出しているに過ぎないので、パイプの先端を患部へと到達させることができても、患部における所望の血管に電極を当てることができない場合も多々ある。
【0006】
また、後者にあっては内視鏡の可撓部が太いため、鼻孔から患部へと電極を送ることができない。しかも、可撓部を最大曲率で曲げたとしても、人間の小指の先ほどの大きさである下垂体等の回りで屈曲させるにしては曲率半径が大き過ぎ、望みの血管や出血部に電極を近づけることは到底困難である。
【0007】
したがって、本発明は上記不具合を解消することができるバイポーラ処置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用する。
【0009】
なお、本発明の理解を容易にするため図面の参照符号を括弧書きで付するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
すなわち、請求項1に係る発明は、フレキシブル芯線(1)と、このフレキシブル芯線(1)を保持する保持具(2)とからなるバイポーラ処置具において、上記フレキシブル芯線(1)は、フレキシブルチューブ(3)と、このフレキシブルチューブ(3)内に挿入された二本の被覆電線(4,5)と、これら二本の被覆電線(4,5)における上記フレキシブルチューブ(3)の先端の絶縁体からなる閉止部(6)からの裸電線の突出部(4a,5a)とを具備し、上記保持具(2)は、上記フレキシブル芯線(1)を収納可能な長溝(10a,11a)を間に有し、この長溝(10a,11a)の伸び方向に相互にスライド可能に重ねられた二本のロッド(10,11)と、これら二本のロッド(10,11)の先端部にピン結合され、二本のロッド(10,11)同士のスライドによって首振り動作可能な上記長溝(10a,11a)内のフレキシブル芯線(1)の先端部が挿通される筒部(12)と、上記二本のロッド(10,11)の後端部に設けられたグリップ(13)と、上記二本のロッド(10,11)同士をスライドさせるスライド操作部(14)とを具備し、上記スライド操作部(14)の操作によって上記筒部(12)に挿入された上記フレキシブル芯線(1)が筒部(12)と共に回動可能とされたバイポーラ処置具を採用する。
【0011】
請求項2に記載されるように、請求項1に記載のバイポーラ処置具において、上記二本の裸電線からなる突出部(4a,5a)に各々電極片(4b,5b)が取り付けられたものとすることができる。
【0012】
請求項3に記載されるように、請求項1又は請求項2に記載のバイポーラ処置具において、上記二本のロッド(10,11)が先細り状に形成されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重なった二本のロッド(10,11)を、グリップ(13)を持って患部へと挿入し、先端の筒部(12)を患部に接近させ、スライド操作部(14)を操作して筒部(12)を回動させることにより、筒部(12)から突出したフレキシブル芯線(1)における裸電線の突出部(4a,5a)を、所望の血管に当てることができる。また、裸電線の細い突出部(4a,5a)をそのまま電極とすることから、微小箇所にも高周波電流を印加することができる。したがって、血管や出血部が入り組んだ狭隘な箇所や側方に存在する場合であっても、真直ぐな処置具を鼻孔から挿入し、所望の場所において小さな曲率半径で可撓させることで、目的とする部位に到達して血管を簡易かつ迅速に血管を凝固させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は本発明に係るバイポーラ処置具の部分切欠断面図、(B)は図(A)中B部拡大図である。
【図2】(A)はバイポーラ処置具のフレキシブル芯線を伸長状態にした場合の正面図、(B)は図(A)中B部拡大図である。
【図3】(A)はバイポーラ処置具のフレキシブル芯線を屈曲状態にした場合の正面図、(B)は図(A)中B部拡大図である。
【図4】(A)はフレキシブル芯線の部分切欠斜視図、(B)は図(A)中B部拡大図である。
【図5】図4(B)に示す部分の縦断面図である。
【図6】脳外科手術の一例を示す説明図である。
【図7】(A)は他の実施の形態に係るフレキシブル芯線の先端部を示す斜視図、(B)は分解斜視図である。
【図8】図7(A)に示す部分の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
<実施の形態1>
図1(A)(B)ないし図3(A)(B)に示すように、このバイポーラ処置具は、フレキシブル芯線1と、このフレキシブル芯線1を保持する保持具2とを具備する。
【0017】
フレキシブル芯線1は、図4(A)(B)及び図5に示すように、フレキシブルチューブ3と、このフレキシブルチューブ3内に挿入された二本の被覆電線4,5と、これら二本の被覆電線4,5における上記フレキシブルチューブ3の先端の絶縁体からなる閉止部6からの裸電線の突出部4a,5aとを具備する。
【0018】
フレキシブルチューブ3は、フレキシブル芯線1のシースとなるもので、合成樹脂、ゴム等で柔軟に形成される。フレキシブルチューブ3の外径は例えば2mmであり、長さは例えば400mmである。
【0019】
二本の被覆電線4,5は、フレキシブルチューブ3内において、それらの被覆同士が接するので相互に絶縁状態にある。
【0020】
フレキシブルチューブ3の先端は合成樹脂からなる閉止部6で閉じられる。閉止部6は先細りの流線形に形成される。閉止部6は合成樹脂によって形成されることによって絶縁体とされ、そこから上記二本の被覆電線4,5の被覆が除去された裸電線が突出し、この突出部4a,5aが+と−の電極とされる。例えば各突出部4a,5aの直径は0.2mmφ程度であり、突出量は1mm程度であり、突出部4a,5aの間隔は0.5mm程度である。また、各突出部4a,5aは各々の中間で所望の角度だけ折り曲げられ、先は斜面上でカットされるとともに、尖端が切除される。
【0021】
また、フレキシブルチューブ3の後端からは二本の被覆電線4,5が引き出され、各々の後端にプラグ7,8が取り付けられる。これらプラグ7,8は図1(A)に示す制御部9に接続可能である。制御部9は、市販の装置であり、血管の凝固に適した高周波電流を上記裸電線の突出部4a,5aに印加するようになっている。
【0022】
保持具2は、図1(A)(B)ないし図3(A)(B)に示すように、上記フレキシブル芯線1を収納可能な長溝10a,11aを間に有し、この長溝10a,11aの伸び方向に相互にスライド可能に重ねられた二本のロッド10,11と、これら二本のロッド10,11の先端部にピン結合され、二本のロッド10,11同士のスライドによって首振り動作可能な上記長溝10a,11a内のフレキシブル芯線1の先端部が挿通される筒部12と、上記二本のロッド10,11の後部に設けられたグリップ13と、上記二本のロッド10,11同士をスライドさせるスライド操作部14を具備する。
【0023】
二本のロッド10,11は、各々が例えばステンレス鋼材で形成され、前部、中間部及び後部とに区画される。
【0024】
ロッド10,11の前部は、例えば図6に示すように患者の鼻孔15から頭蓋内に挿入する場合のように、狭い通路の奥へと挿入し易くするため、上下に重なり合った状態で先細り状に形成される。
【0025】
ロッド10,11の中間部は、垂直面内で互いに逆向きに屈曲する二か所の屈曲部を介して前部と後部に連なる。
【0026】
二本のロッド10,11は、前部において略水平な摺接面を介して上下方向で接し、各摺接面にはロッドの長さ方向に伸びる長溝10a,11aが各々形成される。上下の長溝10a,11aが重なり合ってトンネル状の孔が形成され、この孔内に上記フレキシブル芯線1が収納される。この孔は中間部の上側の屈曲部において上側のロッド10を後方に貫通する貫通穴16に連通する。貫通穴16からフレキシブル芯線1が引き出され、そのプラグ7,8が上述したように制御部9に接続される。上側のロッド10の長溝10aとフレキシブル芯線1との間には多少クリアランスが存在し、そのため上側のロッド10は下側のロッド11上で前後方向にスライド可能である。下側のロッド11の長溝11aとフレキシブル芯線1との間にも多少クリアランスが設けられる。
【0027】
二本のロッド10,11の前部の前端には、筒部12が連結される。具体的には、図1(B)、図2(B)及び図3(B)に示すように、短い円筒形の筒部12の一端における直径線上の二箇所が各ロッド10,11の先端に各々ピン17,18及び真円形のピン孔17a,18aを介して接続される。この筒部12内に、上記溝10a,11a内に収納されたフレキシブル芯線1の先端部が挿入され、閉止部6、突出部4a,5a等が筒部12外へと引き出される。
【0028】
これにより、上側のロッド10が下側のロッド11上で前後にスライドすると、図1(B)、図2(B)及び図3(B)に示すように、筒部12が首振り動作を行い、これに伴い電線の突出部4a,5aが所望の方向に向きを変える。この突出部4a,5aの向きは、上記ピン17,18の位置やピン孔17a,18aの形状等を適宜変更することにより、図3(B)の傾斜角度θを例えば0°〜60°に変化させることが可能である。
【0029】
二本のロッド10,11の後部には、略円筒形のグリップ13が被せられる。グリップ13は下側のロッド11に固定され、上側のロッド10に対してスライド可能に接する。
【0030】
上記グリップ13に、スライド操作部14が設けられる。このスライド操作部14は、グリップ13の上記上側のロッド10に対応する箇所に形成されたロッドの長さ方向に伸びる長孔14aと、この長孔14aを通して上側のロッド10の後部に固定される操作片14bとで構成される。
【0031】
グリップ13を把持する手の指で操作片14bを長孔14a内で前後方向に動かすと、上側のロッド10が下側のロッド11上でスライドし、これに伴い上述したように筒部12がピン17,18を支点にして首振り動作を行い、裸電線の突出部4a,5aが所望の方向に向きを変える。
【0032】
次に、上記構成のバイポーラ処置具の作用について説明する。
【0033】
(1)バイポーラ処置具の操作片14bを図1中矢印a方向に操作して、図2の位置に筒部12を回動させる。そこで、フレキシブル芯線1を上側のロッド10の中間部の貫通穴16から上下のロッド10,11間の溝10a,11a内に挿入し、図2(A)(B)のごとく筒部12内へと通す。
【0034】
また、被覆電線4,5の後端のプラグ7,8を制御部9に接続する。
【0035】
(2)例えば、図6に示すように、下垂体Aに出来た腫瘍の除去手術を行うに際して、腫瘍の回りの細い血管からの出血を止めるには、術者が図2の状態にあるバイポーラ処置具のグリップ13を把持してロッド10,11を患者の鼻孔15から頭蓋内の下垂体Aへと挿入し、筒体12から突出したフレキシブル芯線1の先端部を下垂体Aへと接近させる。
【0036】
(3)血流を止めたい血管又は血管からの出血部にフレキシブル芯線1の裸電線の突出部4a,5aを当てて、制御部9で制御された高周波電流を印加する。これにより、血管が凝固し、腫瘍への血流が止められ、あるいは止血されて術野が確保される。
【0037】
また、処置具が真っ直ぐな状態で到達できない位置に血管や腫瘍がある場合等は、術者が操作片14bを図1中矢印b方向に引き操作して図3(A)のように、上側のロッド10を下側のロッド11上で後方にスライドさせる。これにより、筒体12がフレキシブル芯線1を伴って同図(B)のように角度θまで屈曲し、フレキシブル芯線1の先端から突出する裸電線の突出部4a,5aが所望の血管や出血部に接触する。そこで、二本の被覆電線4,5に高周波電流が印加されることで、血管が凝固する。
【0038】
<実施の形態2>
この実施の形態2では、図7(A)(B)及び図8に示すように、バイポーラ処置具のフレキシブル芯線1の先端における裸電線の突出部4a,5aに各々電極片4b,5bが取り付けられる。
【0039】
電極片4b,5bは導電性物質で形成された円錐体をその軸線を含む平面上で二分割した形状に形成され、その各々がフレキシブルチューブ3内に挿入された二本の被覆電線4,5における裸電線の突出部4a,5aに溶接等によって接合される。また、二つの電極片4b,5b間には板状の絶縁体からなるスペーサ19が挿入される。
【0040】
フレキシブル芯線1の先端は実施の形態1における閉止部6とほぼ同様な構成であって、合成樹脂からなるボンディング部であり、これにより電極片4b,5b、スペーサ19等が一体化された状態でフレキシブル芯線1の先端に固定される。
【0041】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態では下垂体の腫瘍の手術でバイポーラ処置具を使用する場合について説明したが、椎間板ヘルニア等他の手術についてこのバイポーラ処置具を使用することも可能である。また、保持具において下側のロッドに対し上側のロッドをスライド可能にしたが、上側のロッドに対して下側のロッドをスライド可能にすることも可能である。更に、ロッドとしてパイプやハーフパイプを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…フレキシブル芯線
2…保持具
3…フレキシブルチューブ
4,5…被覆電線
4a,5a…突出部
4b,5b…電極片
6…閉止部
10,11…ロッド
10a,11a…長溝
12…筒部
13…グリップ
14…スライド操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル芯線と、このフレキシブル芯線を保持する保持具とからなるバイポーラ処置具において、上記フレキシブル芯線は、フレキシブルチューブと、このフレキシブルチューブ内に挿入された二本の被覆電線と、これら二本の被覆電線における上記フレキシブルチューブの先端の絶縁体からなる閉止部からの裸電線の突出部とを具備し、上記保持具は、上記フレキシブル芯線を収納可能な長溝を間に有し、この長溝の伸び方向に相互にスライド可能に重ねられた二本のロッドと、これら二本のロッドの先端部にピン結合され、二本のロッド同士のスライドによって首振り動作可能な上記長溝内のフレキシブル芯線の先端部が挿通される筒部と、上記二本のロッドの後端部に設けられたグリップと、上記二本のロッド同士をスライドさせるスライド操作部とを具備し、上記スライド操作部の操作によって上記筒部に挿入された上記フレキシブル芯線が筒部と共に回動可能とされたことを特徴とするバイポーラ処置具。
【請求項2】
請求項1に記載のバイポーラ処置具において、上記二本の裸電線からなる突出部に各々電極片が取り付けられたことを特徴とするバイポーラ処置具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のバイポーラ処置具において、上記二本のロッドが先細り状に形成されたことを特徴とするバイポーラ処置具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−205618(P2012−205618A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71505(P2011−71505)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】