説明

バウムクーヘン、バウムクーヘンの製造方法

【課題】ふんわり感など、バウムクーヘン独特の風味等の特性を保ったまま、粉末等の添加により、味のバリエーションの多様性を兼ね備えるべく、そのベース素材として、中立的な特性を持ったバウムクーヘン、バウムクーヘンの製造方法を提供する。
【解決手段】バウムクーヘン用の生地の材料として、卵のうち、主に卵白を用いることにより、卵黄独特の風味(こってりした食感)、オレンジ色の色見などを排除することとし、他方で、不足する油脂成分を、生クリーム等を配合することで補い、また卵黄に含まれるレシチンなどの乳化促進作用を有する物質の不足をすでに乳化した状態のクリーム等を配合することにより補うことで、ふんわり感などバウムクーヘン独特の特性を保つことができ、最終工程で粉糖と粉末を振り掛ける工程28、粉末等をまぶす工程30を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状にした生地を、心棒の周りに粘着させて、火にあてて焼く工程を繰り返すことによって、薄い生地層の多数を同心に巻いて形成した年輪形の焼き菓子(バウムクーヘン)と、その製造方法に関するものであり、特に、生地の構成において、油脂成分の配合等、生地の材料を調節することによって食味を改良したバウムクーヘン等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バウムクーヘンのように、小麦粉に鶏卵やバターを加えて作った生地を心棒の回りに粘着させて、各層を形成する度に、焼く工程を繰り返して、薄く焼かれた生地を同芯状に形成させた焼き菓子を作る技術が知られている。
その際、生地を作る澱粉質材料として、たとえば小麦粉が用いられ、これにベーキングパウダーなどの粉末を加えた上で、鶏卵やバター、砂糖などを加えて発泡させ、ソフトな食感を出しつつ、油脂成分を多く配合することでしっとりとした特性を備えた焼き菓子が作られている。
【0003】
このような技術は、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。
特許文献1には、バウムクーヘン用の油脂組成物が記載されており、油脂がバウムクーヘン物性(硬さ、弾性、食感)に大きな影響を与えることが示されている。そして、油脂をどのように構成するか課題となっており、オールインミックス法(生地の材料を最初に一括して投入して生地を製造する方法)を用いる場合において、油脂の全量を流動性ショートニング(主成分は植物性油脂)で構成すると、十分に乳化させるために時間を要し(ミキシング時間が長くなり)、空気を多く含み過ぎる関係で、ソフトになり過ぎて、流通時等に破損しやすくなるなどの弊害が指摘されており、これを防止するために乳化剤を添加し、ミキシング時間を少なくしつつも十分に乳化させる方法が提案されている。
【0004】
しかし、この特許文献1の方法では、昨今の健康ブームにより、添加物に対する関心が高まる中、消費者は添加物を敬遠して、商品性が低下するという欠点がある。また、当社としては、できる限り添加物は用いず、自然のままの食材を使うことを企業ポリシーとしており、その食材もできる限り道内産のものを用いるというこだわりを持っており、添加物に頼ることは企業理念にもそぐわない。
【0005】
また、特許文献2では、バウムクーヘンとしては、ケーキ生地として抹茶やその他の素材を混入したものも商品化されているものの、各層は同じ生地層で形成されるため、味覚に変化が乏しいことが指摘され、ケーキ生地層の間に、フルーツジャムなどのケーキ生地層とは異なる味覚の層を挟んで焼成することにより、新たな味覚と外観上の変化に富んだバウムクーヘンの焼成方法が示されている。この特許文献2に開示の方法によると、確かに、食味が豊かになるという効果を奏するものの、異なる味覚の層を形成する際に、層厚のコントロールが難しく、焼成の際に、剥離するおそれもあるなどの問題があった。
【特許文献1】特開昭60−110238号公報
【特許文献2】特開2000−354453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】

このように、バウムクーヘンの製造者は、様々な工夫を重ねており、当社においても、十年以上の長きにわたって、基本的なバウムクーヘン(卵と、糖質と、小麦粉または薄力粉などの穀物粉と、油脂と、を基本材料として焼成したバウムクーヘンで、果物や抹茶粉末などを添加していないバウムクーヘンを、仮にこう呼ぶことにする)については、生地の配合や焼き方などについて熟成を重ねており、地域の老舗として、顧客から高い評価を得てきた。
【0007】

しかし、他方で、食の文化は多様性を帯びてきており、顧客は、新たな食味、風味を求める傾向にある。 そこで、一般的には、りんごを心材として用い、その外側にバウムクーヘンを焼成する方法(特開2000-224951号公報など)や、パイナップルを心材として用い、その外側にバウムクーヘンを焼成する方法(特公平07-028648号公報など)、あるいは、バウムクーヘンの表面にチョコレートを塗布しチョコレート皮膜を形成する方法(特開2000-004789号公報など)が考案されるに至っており、食味に変化を持たせるという点で一定の効果を奏していたが、異物を用いる関係で、バウムクーヘン本来の食感である「ふんわり感」などの点で、基本的なバウムクーヘンに劣ることは否めなかった。

また、イカ墨や抹茶を添加する製法も知られていたが、卵黄の独特の風味とのマッチングが必ずしもよいとは言えない状況であった。 そこで、バウムクーヘン本来の、食感を生かしつつ、新たな風味を備えたバウムクーヘンの登場が待ち望まれていた。
【0008】

以上、定性的な側面から、現状の課題を説明してきたが、次に、生地の配合成分という技術的側面から、従来技術の抱える問題点および課題を掘り下げてみていくことにする。
バウムクーヘンの生地には、卵(主に鶏卵が用いられる)、糖質、穀粉(小麦粉または薄力粉等)、油脂などが用いられている。
まず、主要構成要素の一つである卵についてみると、一般的には、卵としては全卵(卵白と卵黄で構成される)が用いられており、
このうち、卵白は、水分が約90%弱、タンパク質が約10%という構成であり、タンパク質が主成分となっているが、タンパク質は熱を加えると凝固する性質があり、生地に空気と共に練り込まれることで、焼成時に膨らんだ生地を膨らんだままの状態に維持する作用を有する。
また、卵黄には、油脂成分による焼成温度を高く保ち生地の内部まで均一に焼き込む効果やこってりした食味を出す効果、オレンジ色の色素成分による焼き上がり時の色味がオレンジ色となる作用があり、また卵黄にはレシチンが含まれ、レシチンには乳化促進作用があり、生地全体における乳化を促進し、生地を安定化させることで、均一な焼き上がりおよび、適度な膨らみを与え、ふんわり感を出す作用がある。
しかし、逆に、バウムクーヘンに粉末等を添加して新しい食味のバリエーションを求めようとすると、卵黄の持つこってりした食味や独特の風味および色が前に出て、却ってじゃまになるという側面もあり、卵成分のうち、卵黄の使用をできるだけ制限し、主として卵白を用いて、バウムクーヘンを製造することが課題の一つになっていた。
すなわち、卵黄の成分は、水分が約50%,脂質が約33%、タンパク質が約16%、となっており、水分を除けば大部分を脂質が占めており、このため、一般的なバウムクーヘンの製造方法としては、全卵を使用するところ、主として、卵白を使用し、卵黄をほとんど用いない場合、脂質が不足し、ふんわりと焼きあがらない、あるいは焼き上がりが(厚み、形などの点で)安定しないこととなる。なぜなら、脂質(油脂成分)は、生地に含まれる水分と均一に混ざり合うことで分離せずに安定し(この状態を乳化という)、生地が安定することで、生地の焼き上がりを安定させる役割(および油脂の沸点が高いことを利用し、油脂を含ませることで生地の内部から高温で焼き上げる役割)があるためである。
このため、卵黄を使わない場合には、不足する脂質(油脂成分)を補うために、別途、脂質(油脂成分)を配合する必要がある。
【0009】
また、卵黄に含まれるレシチンは乳化作用を促進する効果があり、卵黄を用いない場合には、これを補う工夫(乳化を促進する材料の配合、あるいは乳化させるために生地の練り込み時間の調整等)が必要となる。
また、新しい風味を備えるためには、前記の卵成分の使い方の工夫により、味を中立的に調えた上で、最終工程で、フルーツパウダーなどの粉末を吹き付ける(あるいは振り掛ける)こととなるが、ふんわりとした食感を損なわないために、フルーツパウダーなどの粉末を(水に溶かしたりせず)粉末のまま吹き付けるために、焼きあがったバウムクーヘンの水分量の調整を企図して、生地の水分含有量を調整する必要がある。
すなわち、前記の粉末の吹き付け工程(ないし振り掛ける工程)で、十分な量の粉末を付着させるためには、一般的なバウムクーヘンの製造の場合よりも、多くの水分を含ませる必要がある。
【0010】
また、バウムクーヘンの製造過程では、1層ごとに心棒に生地を絡み付け、焼成する、という工程を繰り返すことになるが、水分含有比率が高いと、生地を絡みつかせる際に、より薄く絡み付かせることができ、一層当りの厚みを薄く構成することができるという効果を奏することが期待できるが、他方で、絡み付かせる工程における空気量の調整および焼成の工程における熱の加え方、心棒の回転制御などに工夫を要する。
【課題を解決するための手段】
【0011】

上記目的を達成するために、本発明の第1の構成では、卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘンにおいて、卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合して生成した生地を、同芯状に多層に積層して焼成したことを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の構成では、卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘンにおいて、卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれる油脂成分が不足するのを補うために、生クリームを配合した生地を、同芯状に多層に積層して焼成したことを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の構成では、卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘンにおいて、卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれるレシチンが含まれないことにより、乳化を促進する物質が不足することを補うために、すでに乳化状態にあるクリーム類を配合して生成した生地を、同芯状に多層に積層して焼成したことを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の構成では、卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘンにおいて、卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したため、卵黄に含まれる油脂成分が不足することになるが、かかる油脂成分の不足を補うため、および、卵黄に含まれるレシチンが含まれないことにより、乳化を促進する物質が不足することを補うために、生クリームおよびカスタードクリームを配合して生成した生地を、同芯状に多層に積層して焼成したことを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の構成では、前記第1から第4の構成に加えて、さらに、焼成されたバウムクーヘンの表面に、特定の風味を備えた粉末を付着させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バウムクーヘン用の生地の材料として、卵を用いる際に、主として卵白を用いることとしたので、色的に中立な特性を有し、卵黄をほとんど用いないため卵黄独特の風味やこってり感をできるだけ排除した中立的な風味特性を備えた、バウムクーヘン用の生地を提供し、これを一層毎に心棒に絡ませて同芯状に焼成することで、別途添加する粉末等により、新たな風味、色見、香り等を添加するためのベース素材として、好適なバウムクーヘンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
1.生地の製造
バウムクーヘンの製造工程においては、まず、生地が必要となるが、一般的には全卵、砂糖、小麦(または薄力粉等の穀粉)、油脂などが主成分として用いられる。
たとえば、その成分比率は、別途配合する水を除いて、以下のように構成されている。
−配合比率の例(A)−
組成物 重量比率(%)
全卵〜32.0
砂糖〜24.0
小麦粉〜11.0
油脂〜15.0
コーンスターチ(澱粉)〜7.0
その他〜11.0
(なお、別途配合する水は、上記の生地100グラムに対し、重量比率で5〜9%程度とすることが一般的である。ただし、製造の際の、湿度、温度等によって増減する。)
かかる配合比率の場合、卵黄に含まれるレシチンといった乳化促進作用を備えた物質が存在するため、別途添加する水、あるいは卵白など生地材料に含まれる水分を油脂が包み込んで乳化するのを助けるため、全体として生地が安定し、ふんわりとした食感を達成することが容易となる。
【0018】
ここで、油脂成分の配合比率についてみると、一般的には、全卵を使うため、全卵の卵黄に含まれる油脂(脂質)があることにより、別途加える油脂は15%程度で済んでいることが判る。すなわち、全卵における卵黄の重量比率は概ね30%、卵黄における脂質の比率が約33%であるので、0.32×0.3×0.33=3.3%程度の油脂が卵黄でまかなわれていることになり、油脂は全体として、生地の18.3%の重量比率を占めることになる。
これに対し、本願発明における構成では、主として、卵白を使用するので、この卵黄に含まれる油脂に相当する部分が不足することになる。
そこで、油脂が不足するのを補うべく、油脂の比率を単純に増加させた場合、以下のような配合比率となる。この場合において、油脂には、ショートニング(植物性油脂)のほか、バターなどを用いることができる。
−配合比率(B)−
卵白〜32.0
砂糖〜24.0
小麦粉〜11.0
油脂〜15.0
コーンスターチ(澱粉)〜7.0
その他〜11.0
【0019】
このような配合比率で、生地を製造し、バウムクーヘンを焼成した場合、卵白の成分要素にも乳化を促進する作用があるものの、卵黄に含まれるレシチンほどの効果はなく、卵黄に含まれるレシチンなどの乳化促進作用を備えた物質が不足することになるので、通常の製法のままでは、生地が安定せず、(1)均一な膨らみ具合とならない、あるいは、(2)焼きあがった生地の目が粗くなる、あるいは、(3)生地中の気泡が抜けてしまい十分に生地が膨らまない状態となりバウムクーヘン独特のふんわりとした食感が実現できない、などの不具合が生じた。
そこで、当社では、卵白を主として用いて、卵黄の持つ色(オレンジ色)の発色を抑えつつも、なおバウムクーヘンの持つふんわり感やしっとり感を備えつつ、さらに、新たな色見と、風味を備えさせるための、ベースとしての、色的中立性(できるだけ白に近い色)、および味的中立性(卵黄の独特のこってり感をできるだけ表に出さないこと)、を実現するべく、試行錯誤を繰り返し、好適な配合比率を得た。
【0020】
その配合比率は、別途配合する水を除いて、たとえば、以下のように構成される。
−配合比率(C)−
組成物 重量比率(%)
卵白〜32.0
砂糖〜18.0
小麦粉〜10.8
ショートニング(植物性油脂)〜9.0(油脂として約9.0)
バター〜5.4(油脂として約4.5)
生クリーム〜4.5(油脂として約2.0)
カスタードクリーム〜11.3(油脂として約1.0)
コーンスターチ(澱粉)〜7.2
ベーキングパウダー〜0.2
その他 〜1.6
【0021】
まず、油脂が不足するのを補うべく、生クリームを配合することとし、油脂料を適正に保つために、生クリームに含まれる油脂成分の重量比率を見積もった上で、適正な量を配合することとした。
ここで、生クリームの配合については、生クリームを構成する約45%の水分と、約50%の油脂成分とが、すでに乳化した状態にあり、これを生地の材料として配合することで、卵黄をほとんど用いないことで不足するレシチンといった乳化促進作用を有する物質の不足を補うことも、併せて意図している。
すなわち、かかるクリーム類は、すでに乳化した状態にあることで、別途生地中に存在している水分や油脂のいずれとも親和しやすい性質を有し、乳化を連鎖的に促す効果を奏するので、生地全体として必要な乳化状態を得ることが期待できる。
【0022】
なお、卵黄を用いないことでレシチン等の乳化促進物質が不足するのを、仮に、生地を練り込む時間を長くすることだけで対処しようとすると、必要以上の空気を練り込むことで、生地が立ち過ぎる(膨らみ過ぎる)ことになり、1層当りの厚みが厚くなり過ぎ、単位体積当りの層数が減少することで、バウムクーヘン独特の多層構造による食感が損なわれる可能性があるが、本発明のように、クリーム類を別途配合する方法だと、生地の立ち過ぎという問題は生じにくい。
また、カスタードクリームには8%程度の植物性油脂が含まれ、カスタードクリームに対し重量割合で約50%含まれる水を包み込み、乳化した状態にあるので、これを配合することで、同様に乳化作用を促進させる効果を奏する。
なお、生クリームだけで乳化作用の促進を企図すると、必要以上に生クリームを配合することにもなり、生クリーム独特の風味が前に出てくるので、これを、別途カスタードクリームを配合することで、乳化促進作用と風味のバランスを図る趣旨である。
なお、カスタードクリームは、水、小麦粉、澱粉、植物性油脂、脱脂粉乳、砂糖、卵等により構成され、数%程度の卵黄が含まれているが、生地全量に対する重量比でみると、1%未満であるため、生地に与える、こってり感、色、脂質成分等の影響は無視できる。
【0023】
以上のように、通常のバウムクーヘンの製造工程においては、卵黄を使うので、オールインミックス法を用いても、卵黄に含まれるレシチン等により、油脂と水分とを十分に乳化をすることが可能であり、このようなクリーム類の配合は、不要であるのに対し、本発明のように主に卵白を用いる場合には、卵白だけでは乳化力が不足するため、乳化を助けるため、生地を製造する工程に、クリーム類を製造する工程を追加したうえでクリーム類を配合する工程、ないし別途購入等したクリーム類を配合する工程、を要する点で相違することになる。
【0024】
このほか、バターを油脂成分の一つとして配合しているが、バター自体は油脂成分として普通に用いられているものであり、本発明の目的とする、最終工程における粉末の添加処理による、新たな風味、色などの添加処理のためのベース素材としての、中立的な特性(色見の中立性(できるだけ白色に近い状態)、こってり感/あっさり感の中立性)を阻害しない程度に、どのような添加処理にも合うバターの風味を、予め付加しておく趣旨である。
【0025】
ここで、 あらためて、本配合比率における油脂の量をみてみると、まず、バター(無塩バター)における油脂の重量比率は約83%であることから、バターにおける油脂成分は、生地全体に占める重量比でみると約4.5%となる。
また、生クリームにおける油脂の重量比率は約45%であるから、生クリームにおける油脂成分は、生地全体に占める重量比でみると約2.0%となる。
同様に、カスタードクリームにおける油脂の重量比率は約9%であるから、カスタードクリームにおける油脂成分は、生地全体に占める重量比でみると約1.0%となる。
そして、ショートニングの約9.0%を加えると、油脂全体としては、生地に対し、9.0+4.5+2.0+1.0=16.5%の重量比率を占めることがわかる。
【0026】
以上のように、かかる油脂成分の比率は、生地内部に含まれる水分と油脂とを乳化させるのに十分な量であり、また、焼成後の食感としての、しっとり感や、ふんわり感(膨らみ具合)を、必要な程度備えるのに、十分であることがわかる。
ここで、生クリームの生地に対する重量比率は、概ね前記の比率が好ましいが、(生クリームの風味が前に出過ぎない程度で)生クリームに含まれる油脂としての成分比率を増減することで、ふんわり感や、しっとり感を調整することができる(±30%程度の増減の範囲が最適な範囲であるが、たとえば5分の1程度の割合まで減らしたり、2倍程度まで増加させることでも、生地の練り込み時間の調整等により、必要なバウムクーヘンを得ることも可能である)。また、乳化促進作用の兼ね合いで、カスタードクリームの比率も、5分の1程度の割合まで減らしたり、2倍程度まで増加させることが可能である。
【0027】
なお、別途加える水は、一般的な比率である、前記の生地に対する重量比率5〜9%とした場合であっても、本発明では、卵成分として、主に、卵白を使用する関係で、卵白に含まれる水分(重量比で卵白の約90%弱)が加算される関係で、全卵を用いた場合(卵黄の水分含有比率は約50%)に比べて、水分量が多い構成となり、生地を柔らかくすることにつながり、心棒に絡み付かせる際に、1層毎の厚みを薄くする効果が期待できる。
また、かかる水分量が多い構成により、焼成後の水分量が多めに維持され、最終工程で、フルーツパウダー等の粉末を付着させる際に、好適な状態とすることが可能となる。なお、卵白には、保湿作用を有するタンパク質ないしアミノ酸が含まれているので、焼成後においても、水分残留量を多く保つ効果があり、本発明のように卵白の配合比率が高い場合には、生地に、単に水を添加して、多めの水分比率を構成するよりも、フルーツパウダー等の粉末を付着させるのに際して、好適な生地を提供できる。
【0028】
このように、卵成分のうち、卵白を主として用い、生地に含まれる水分を、十分に乳化させるために必要な油脂を補うべく、(バターを配合することは一般的であるが)特に、生クリームを配合することとし、また、すでに乳化された状態にあるクリーム類(生クリームおよびカスタードクリーム)を配合することとしたので、卵黄を用いないことで不足するレシチン等の乳化促進作用を有する物質の不足を補い、必要以上に生地を攪拌することなく、十分に乳化を促進することができるので、生地の立ち具合の適正化を図ることができ、焼き上がりが均一で、ふんわりとした食感を出しつつ、卵黄を使わないことで、色を白色に近い状態とし、また、卵黄の持つこってり感を抑えて、あっさりとした風味とすることに成功した。そして、このことは、後述の、バウムクーヘンの持つ、多層構成による独特の食感を備えた上で、新たな風味を加えるベース素材として好適な意義を有することになる。
【0029】
なお、砂糖が前記一般的なバウムクーヘンの配合比率よりも少ないのは、最終工程で、粉糖とフルーツパウダーを振り掛ける工程により、表面に糖質が付着した状態とするため、生地内部の糖質が少なくて済むためである。また、このことは、結果として、使用する糖質の量を減らすことができ、昨今の健康ブームにおいて、一層、商品力を備えることにも効果を奏する。
【0030】
2.バウムクーヘンの焼成
以下、図1から図5を用いて、バウムクーヘンを製造する装置および工程を説明する。
図1は、 本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造工程を示す図である。
図2は、本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造装置の一実施例を示す図であり、全体の外観を示したものである。
図3は、本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造装置の、断面図である。
図4は、本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの生地を心棒に絡み付ける工程を示す図である。
図5は、本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造装置における心棒を回転させる機構の一部を示すものである。
図6は、心棒に生地が絡み付いていく際の様子を示す図である。
【0031】
まず、図3から図5を用いて、バウムクーヘンを製造する装置の各機構を簡単に説明する。
図4には、心棒240が、その端部242において、回転ドラム200の軸受部250により、潤滑油(図示せず)などを介して、支持されており、回転できるような構造となっていることが示されている。
また、生地用容器140にはバウムクーヘン用の生地10が収容されており、 生地用容器140の下部にはローラー142が備え付けられ、別途設けられた制御部(図示せず)と駆動部(図示せず)により、所定のタイミングで、ガイド144を滑るように斜め上下方向に移動できるようになっていることが分かる。
そして、図5によれば、心棒240の端部242の延長上には、心棒用スプロケット220が備え付けられていることが示されており、図3を併せ参照すると、各心棒には心棒用スプロケット220〜226がそれぞれ備えられており、テンション用スプロケット230〜233を経由する形で、適度なテンションを維持しつつ、チェーンないしベルト(図示せず)を介して、それぞれ連動して回転できるように構成されていることが分かる。当該チェーン(ないしベルト)は、別途、駆動用の電動機(図示せず)に接続され、制御部(図示せず)により、所定の回転速度で制御可能に構成されている。
【0032】
また、図3によれば、回転ドラム200は、軸受部210によって、製造装置100に支持されており、別途設けられたスプロケット(図示せず)と、スプロケットの外周に懸けられたチェーンないしベルト(図示せず)によって回転できるように構成されている。そして、当該チェーン(ないしベルト)は、別途設けられた駆動用の電動機(図示せず)に接続され、制御部(図示せず)により、所定の回転速度で制御可能に構成されている。
ここで、チェーン(ないしベルト)は、これに限定されるものではなく、心棒240、回転ドラム200を回転させる機構であれば足り、別途、ギヤー等も、適宜選択することができる。
【0033】
次に、以上のような構成を備えた、製造装置において、バウムクーヘン用の生地を、心棒に絡み付けて、一層ずつ焼成し、バウムクーヘンを製造する様子について説明する。
心棒240は回転しながら生地10を、心棒の表面(何層か焼成済みの場合にはその表面)に絡みつけていく、絡み付いた生地は、水分含有量が多いため、余分なものは重力の作用によって、生地用容器140に落下しつつ戻される。
心棒の表面(何層か焼成済みの場合にはその表面)に絡み付く生地の量は、生地の水分含有量および心棒の回転速度、生地10に含浸させている時間で調整される。
ここで、生地用容器140の下部にはローラー142が備え付けられ、別途設けられた制御部(図示せず)と駆動部(図示せず)により、ガイド144を滑るように斜め上下方向に移動できるようになっており、心棒240を生地10に含浸させるタイミングおよび含浸時間を調整することができる。
【0034】
心棒の表面(何層か焼成済みの場合にはその表面)に絡み付けられた生地は、前述のような心棒それ自体の回転機構によって回転させられつつ、回転ドラム200の回転に従って(図3でみると右回転)、焼成バーナー130の近傍を、移動されながら、焼成されていく。
そして、焼成バーナー130を離れたあと、回転ドラム200の回転に従って、製造装置内の焼成ゾーン120を移動して、開口部122付近に戻され、再度、生地用容器140に設けられた駆動部によって、生地10に含浸させられ、所定の層数になるまで、繰り返し、焼成の工程を経ることになる。
【0035】
心棒の回転速度を速めると、生地を捲き込みながら、心棒に絡み付けていく際に、(回転速度が早いと、回転する心棒の表面の近傍において、生地の内部に、空気の層30を捲き込んでいく作用が生じるので、生地が空気を抱き込みながら、心棒に絡み付くため)、空気を多く抱き込ませることができるので、生地の比重を軽くすることができる。このため、生地を練りこむ工程とは別に、生地に含ませる空気の比率を、調整する工程を備えたこととなるので、生地が立ち過ぎない範囲で、回転速度を調整することにより、1層当りの厚みを調節しつつ、ふんわり感、柔らかい食感とのバランスを図ることができる(図6参照)。
【0036】
3.最終工程(新たな風味の付加)
そして、焼成が完了すると、バウムクーヘンは心棒から取り外された状態となる(バウムクーヘン22)。さらに、カッターまたはナイフによって、切り込みが入れられた状態となり(バウムクーヘン24)、最終的に、小片化された状態となる(バウムクーヘン24)。
そして、最終工程で、粉糖と、食味に変化を与えるための粉末が、振り掛けられて、最終製品状態となる。
粉糖と、粉末は、振り掛けられただけで、小片化されたバウムクーヘン26の表面に付着させることができる。この工程は、特に、焼きあがった直後において行なうのが効果的である。なぜなら、焼きあがった直後は、内部の水分が蒸気となって湧き出している状態にあり、表面に水分が付着している状態となっているからである。
また、かかる粉末の付着は、前述のように、生地に水分を多く含ませること、および、生地を構成する卵白に含まれるタンパク質ないしアミノ酸の保湿作用によって、焼成後の状態においても適度な水分を含有していることによっても促進されるものである。
なお、この点、粉末を水に溶かし、水溶液の状態で吹き付ける方法もありうるが、この方法は、せっかくふんわりとソフトに焼きあがったバウムクーヘンの性質を阻害することになるため、(この方法を採用することが全くできないというわけではないが)余り好ましくはなく、焼成後の水分量で自然と付着させる方が好ましい。
【0037】
ところで、バウムクーヘンは、小片化された状態にすると、表面積が大きくなるので、粉末をまぶすには、一層適している形態となっている。この点、他方で、小片化しようとすると、切断の際、カッター等の応力が加わるため、生地が沈んでしまう、あるいは切断面が変形してしまって商品性を失うなどの弊害が生じる可能性もあるが、本発明におけるバウムクーヘン用生地には卵白を主成分として含むので、焼成の際に、卵白を構成するタンパク質が抱き込んだ空気を維持したまま凝固し、タンパク質の割合が、一般的なバウムクーヘンに比べて多いので、弾力に富む結果、小片化の工程による悪影響を受け難いという効果を奏する。また、小片化することで、1個当りの重量が軽くなり、流通過程において、自重による変形が少なくて済むという効果を奏する。
【0038】
ここで、当該粉末は、フルーツパウダー等の粉末が使われるが、香り付けの効果や色付けの効果を奏するものであれば足り、たとえば、抹茶粉末、ハッカ粉末等でもよく、フルーツパウダーに限られるものではない。
また、粉末を振り掛ける工程は、付着する量を増やすために、空気圧を利用する形で、吹き付けられるようにすることもできる。
また、かかる、粉末が付着した状態の小片化バウムクーヘンは、卵白を主に用いているために、色的に中立であることから、粉末の選択によって、色の調整も自由であり、新しい商品として、見た目にも楽しむことができ、透明な容器40に収納して商品化することに適しており、一層、商品性を向上させることにも効果を奏する。
【0039】
なお、新しい風味を付加するには、生地が焼成された後に粉末を振り掛けることに限定されず、焼成前の生地にフルーツパウダーなどの粉末を配合することでも、同様に、本発明における「味を中立的に調えた生地の特性」を生かした上で、新しい風味を備えさせることができる。例えば、スライスされたバウムクーヘンを乾燥させて焼き上げて製造されるラスクの素材としても好適であり、従来のバウムクーヘンとは異なる多彩な利用方法が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係るバウムクーヘン用の生地は、バウムクーヘンだけでなく、最終工程で粉末等を塗布して、味のバリエーションを多様化する菓子全般の製造方法等の様々な分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造工程を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造装置の一実施例を示す図であり、全体の外観を示した正面図である。
【図3】本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造装置の、断面図である。
【図4】本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの生地を心棒に絡み付ける工程を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態によるバウムクーヘンの製造装置における心棒を回転させる機構の一部を示すものである。
【図6】心棒に生地が絡み付いていく際の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 バウムクーヘン用生地
20 焼成段階のバウムクーヘン
22 焼成工程を終えて心棒から取り外した状態のバウムクーヘン
24 カットする途中のバウムクーヘン
26 カット後のバウムクーヘン
28 粉糖と粉末を振り掛ける工程
30 まぶす工程
40 透明な容器
100 バウムクーヘンの製造装置
120 製造装置内の焼成ゾーン
122 開口部
130 焼成バーナー
140 生地用容器
142 ローラー

144 ガイド

200 回転ドラム

220〜226 心棒用スプロケット

230〜233 テンション用スプロケット

240 心棒

242 心棒の端部

250 回転ドラム200の軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘンにおいて、卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことを特徴とするバウムクーヘン。
【請求項2】
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれる油脂成分が不足するのを補うために、生クリームを配合した生地を多層に積層して焼成してなることを特徴とする請求項1に記載のバウムクーヘン。
【請求項3】
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれるレシチンが含まれないことにより、乳化を促進する物質が不足することを補うために、すでに乳化状態にあるクリーム類を配合したことを特徴とする請求項1又は2に記載のバウムクーヘン。
【請求項4】
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれるレシチンが含まれないことにより、乳化を促進する物質が不足することを補うために、すでに乳化状態にあるカスタードクリームを配合したことを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか1項に記載のバウムクーヘン。
【請求項5】
表面に、特定の風味を備えた粉末を付着させたことを特徴とする、請求項1〜4のうち、いずれか1項に記載のバウムクーヘン。
【請求項6】
表面に、フルーツパウダーを付着させたことを特徴とする、請求項1〜5のうち、いずれか1項に記載のバウムクーヘン。
【請求項7】
卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘン用生地の生成工程において、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合してバウムクーヘン用生地を生成する工程を備え、
当該生成されたバウムクーヘン用生地を同芯状に多層に積層しつつ焼成することを特徴とするバウムクーヘンの製造方法。
【請求項8】

卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘン用生地の生成工程において、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合してバウムクーヘン用生地を生成する工程と、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれる油脂成分が不足するのを補うために、生クリームを配合する工程とを備え、
当該生成されたバウムクーヘン用生地を同芯状に多層に積層しつつ焼成することを特徴とするバウムクーヘンの製造方法。
【請求項9】
卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘン用生地の生成工程において、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合してバウムクーヘン用生地を生成する工程と、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれるレシチンが含まれないことにより、乳化を促進する物質が不足することを補うために、すでに乳化状態にあるクリーム類を配合する工程と、を備え、
当該生成されたバウムクーヘン用生地を同芯状に多層に積層しつつ焼成することを特徴とするバウムクーヘンの製造方法。
【請求項10】
卵、砂糖、穀粉、油脂を主要構成要素とするバウムクーヘン用生地の生成工程において、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合してバウムクーヘン用生地を生成する工程と、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれる油脂成分が不足するのを補うために、生クリームを配合する工程と、
卵成分として、全卵から卵黄を取り除いた卵白のみを配合したことにより、卵黄に含まれるレシチンが含まれないことにより、乳化を促進する物質が不足することを補うために、すでに乳化状態にあるカスタードクリームを配合する工程と、を備え、
当該生成されたバウムクーヘン用生地を同芯状に多層に積層しつつ焼成することを特徴とするバウムクーヘンの製造方法。
【請求項11】
焼成されたバウムクーヘンを小片化する工程と、
小片化されたバウムクーヘンの表面に、特定の風味を備えた粉末を付着させる工程と、
を備えたことを特徴とする、請求項7〜10のうち、いずれか1項に記載のバウムクーヘンの製造方法。
【請求項12】
焼成されたバウムクーヘンを小片化する工程と、
小片化されたバウムクーヘンの表面に、フルーツパウダーを付着させる工程と、
を備えたことを特徴とする、請求項7〜11のうち、いずれか1項に記載のバウムクーヘンの製造方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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