説明

バクテリアセルロースの生産方法

【課題】その優れた機能性から新規な材料として注目されているバクテリアセルロースは、セルロース産生菌を含有する培養液を培養して生産される。そこで、バクテリアセルロースの生産性が高く、且つ、特殊な材料や高価で複雑な装置を用いることなく経済性の良いバクテリアセルロースの生産方法を提供する。
【解決手段】セルロース産生菌を含有する培養液を用いてセルロース産生菌を培養するに当たり、当該培養液の中に界面活性剤が存在する状態で、セルロース産生菌を培養する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアセルロースの生産方法に関するものであり、詳しくは、セルロース産生菌を培養することにより、高収率でバクテリアセルロースを生産する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース産生菌由来のバクテリアセルロースは、従来から食品として利用されているほか、近年では、化粧品、医薬品としても利用が図られている。また、バクテリアセルロースは、そのミクロフィブリル構造に起因する優れた機械的特性により、新規な材料としても注目されている。
【0003】
一般に、バクテリアセルロースは、セルロース産生菌を用いた静置培養法、振盪培養法もしくは通気撹拌培養法などにより生産される。
【0004】
そこで、セルロース産生菌を用いた各種培養法において、効率よくバクテリアセルロースを得ることを目的として、セルロース産生菌のバクテリアセルロース生産性を向上させる方法が多く検討されている。例えば、下記特許文献1には、セルロース産生菌を静置培養してバクテリアセルロースを生産する際に、酸素透過性の膜を介して培養液に酸素を供給して、バクテリアセルロースの生産性を向上させる方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭61−152296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の方法では、バクテリアセルロースの生産性を向上させるために、酸素を供給する特殊な膜を必要とする。また、酸素濃度や培養条件などの特殊な制御を必要とし、装置が高価で複雑となる。その結果、上記特許文献1の方法は、経済性の点で利用しにくいという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、バクテリアセルロースの生産性が高く、且つ、経済性の良いバクテリアセルロースの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、セルロース産生菌を含有する培養液を用いてセルロース産生菌を培養するに当たり、当該培養液の中に界面活性剤が存在する状態で、セルロース産生菌を培養することにより上記目的を達成できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明に係るバクテリアセルロースの生産方法は、請求項1の記載によれば、セルロース産生菌を含有する培養液の中に界面活性剤が存在する状態で、当該セルロース産生菌の培養を行うことを特徴とする。
【0009】
このように、上記バクテリアセルロースの生産方法においては、セルロース産生菌を含有する培養液を用いてセルロース産生菌の培養を行うに際し、当該培養液の中に界面活性剤が存在する状態でセルロース産生菌の培養を行うことにより、バクテリアセルロースの生産性が向上する。
【0010】
また、上記バクテリアセルロースの生産方法においては、セルロース産生菌の培養に際し、酸素透過性の膜などの特殊な材料を必要とせず、酸素濃度や培養条件などの特殊な制御をするための高価で複雑な装置を用いる必要がない。
【0011】
従って、上記バクテリアセルロースの生産方法は、バクテリアセルロースの生産性が高く、且つ、経済性の良い生産方法である。
【0012】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のバクテリアセルロースの生産方法において、上記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であることを特徴とする。
【0013】
このように、上記バクテリアセルロースの生産方法においては、セルロース産生菌を含有する培養液を用いてセルロース産生菌の培養を行うに際し、当該培養液の中に非イオン性界面活性剤が存在する状態でセルロース産生菌の培養を行うことにより、バクテリアセルロースの生産性が更に向上する。
【0014】
従って、上記バクテリアセルロースの生産方法は、請求項1に記載の発明と同様の作用効果がより一層向上され得る。
【0015】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項2に記載のバクテリアセルロースの生産方法において、上記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする。
【0016】
このように、上記バクテリアセルロースの生産方法においては、セルロース産生菌を含有する培養液を用いてセルロース産生菌の培養を行うに際し、当該培養液の中に非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルが存在する状態でセルロース産生菌の培養を行うことにより、バクテリアセルロースの生産性が更に向上する。
【0017】
従って、上記バクテリアセルロースの生産方法においては、請求項2に記載の発明と同様の作用効果がより一層向上され得る。
【0018】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載のバクテリアセルロースの生産方法において、上記培養液の中に存在する上記界面活性剤の量は、上記培養液に対して0.05ppm〜300ppmの範囲内の量であることを特徴とする。
【0019】
このように、上記バクテリアセルロースの生産方法においては、セルロース産生菌を含有する培養液の中に界面活性剤が存在する状態で、当該セルロース産生菌を培養するに際し、上記界面活性剤の量は、上記培養液に対して0.05ppm〜300ppmの範囲内の量であることが好ましい。また、0.1ppm〜150ppmの範囲内の量であることがより好ましく、更に、0.5ppm〜50ppmの範囲内の量であることが特に好ましい。
【0020】
ここで、上記界面活性剤の量とは、界面活性成分の有効成分の量をいうものである。従って、市販の界面活性剤を使用する場合には、それらは希釈されている場合があり、その場合には、それらの見掛けの使用量から有効成分の量を換算して使用量を決定することになる。
【0021】
これによれば、セルロース産生菌を含有する培養液の中に所定量の界面活性剤が存在する状態で当該セルロース産生菌を培養することにより、バクテリアセルロースの生産性が更に向上する。
【0022】
従って、上記バクテリアセルロースの生産方法においては、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果がより一層向上され得る。
【0023】
なお、本発明において用いられるセルロース産生菌は、酢酸菌が好ましく、特に、 Gluconacetobacter属の酢酸菌、更には Gluconacetobacter xylinus (American Type Culture Collection No.53582)が特に好ましい。
【0024】
また、本発明において界面活性剤とは、親水性部分及び疎水性部分からなる両親媒性の物質であり溶液表面において高い表面活性を示す物質をいう。この界面活性剤には、そのイオン性によって、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤並びに両性界面活性剤がある。
【0025】
ここで、上記陰イオン性界面活性剤には、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、その他の高分子界面活性剤などがある。
【0026】
また、上記非イオン性界面活性剤には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどがある。
【0027】
更に、上記陽イオン性界面活性剤には、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあり、上記両性界面活性剤には、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイドなどがある。
【0028】
特に本発明においては、セルロース産生菌を含有する培養液の中に存在する界面活性剤として、上記各界面活性剤のうち非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0029】
ここで、上記界面活性剤の構造は特に限定するものではなく、それらの親水基の強度または疎水基の長さなどはどのようであってもよい。
【0030】
また、非イオン性界面活性剤のうちポリオキシエチレンアルキルエーテルがバクテリアセルロースの生産性を向上させるためにより好ましい。
【0031】
ここで、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの細部の構造や性質、例えば、ポリオキシエチレン基のモル数、アルキル基の炭素数や分岐の状態、HLB(親水性疎水性バランス)の値、曇点の値などは特に定めるものではなく、どのようなものであってもよいが、その中においてアルキル基の炭素数が12〜15の範囲にあることがより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係るバクテリアセルロースの生産方法の各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本第1実施形態は、界面活性剤として非イオン性界面活性剤のうちポリオキシエチレンアルキルエーテルが存在する培養液を用いてセルロース産生菌を培養するバクテリアセルロースの生産方法に関するものである。また、本第1実施形態においては、培養液中に存在する界面活性剤の濃度を変化させてセルロース産生菌を培養するものである。
【0033】
以下、本第1実施形態の生産方法について説明する。
1.培養液の準備工程
(1)界面活性剤の準備
本第1実施形態に使用する界面活性剤として、非イオン性界面活性剤のうちポリオキシエチレンアルキルエーテルを準備した。
【0034】
具体的には、市販の界面活性剤である、MAC−N(共栄社化学株式会社製)を使用した。MAC−Nのポリオキシエチレンアルキルエーテル含有量は14%であり、アルキル基の炭素数は12〜15の範囲にあった。
(2)培地の準備
培地としてSH培地(Schramm-Hestrin medium)を使用した。SH培地は、グルコース20g、酵母エキス5g、ポリペプトン5g、クエン酸1.15g及びリン酸水素二ナトリウム2.7gを1000mlの蒸留水に溶解して調整した後、120℃のオートクレーブ中で15分間、滅菌処理して使用した。
(3)菌体の準備
酢酸菌 Gluconacetobacter xylinus (American Type Culture Collection No.53582)を試験管で4日間、前々培養し、産生されたゲル状のセルロース(バクテリアセルロースぺリクル)の一部を三角フラスコ中の上記SH培地40mlに移して酢酸菌を植菌し、115rpmの回転式振盪機にて25℃で3日間、前培養した。上記前培養中に産生したセルロースを溶解して菌体の増殖を活発にするために、上記培養液には膜滅菌したセルラーゼ溶液(セルクラスト、ノボザイムズ社製)を0.4ml加えた。培養後の上記培養液を遠心分離し、増殖した菌体を得た。
(4)培養液の準備
上記増殖した菌体を集めて上記SH培地200mlに加え、本第1実施形態に使用するセルロース産生菌の培養液を得た。当該培養液中の菌体量は、波長660nmにおける濁度測定により、OD=0.13であった。
【0035】
この培養液に上記界面活性剤(MAC−N)を下記の量だけ添加して本第1実施形態に係る実施例−1〜実施例−5の培養液を得た。また、比較として界面活性剤を添加していないものを比較例−1の培養液とした。
【0036】
実施例−1:MAC−Nを0.2容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、280ppm含有した培養液)
実施例−2:MAC−Nを0.1容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、140ppm含有した培養液)
実施例−3:MAC−Nを0.05容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、70ppm含有した培養液)
実施例−4:MAC−Nを0.025容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、35ppm含有した培養液)
実施例−5:MAC−Nを0.0125容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、17.5ppm含有した培養液)
比較例−1:界面活性剤を添加していない培養液

2.バクテリアセルロースの生産工程
(1)培養工程
上記培養液の準備工程で得られた実施例−1〜実施例−5、及び比較例−1のセルロース産生菌の各培養液を各々20mlずつガラスシャーレ(Φ95×20mm)に入れ、このガラスシャーレを水平に静置した状態で、室温25℃の条件で3日間培養した。
【0037】
この間、上記ガラスシャーレの上部液面には、バクテリアセルロース膜が生成し培養が進行していることを確認した。
(2)失活・洗浄工程
上記培養後の各バクテリアセルロース膜をガラスシャーレに入れたまま、2重量%の水酸化ナトリウム水溶液中を用いて80℃で30分間、セルロース産生菌の失活操作を行った。その後、上記バクテリアセルロース膜をガラスシャーレに入れたまま十分に洗浄して当該バクテリアセルロース膜からセルロース産生菌を除去した。
(3)乾燥工程
失活・洗浄工程後のバクテリアセルロース膜をガラスシャーレに入れたまま、乾燥機を用いて55℃で乾燥した。このとき、上記バクテリアセルロース膜は、水分を放出して乾燥した状態の乾燥膜となる。
【0038】
上述の各工程を経て、本第1実施形態に係る実施例−1〜実施例−5、及び比較例−1のバクテリアセルロースを得た。
【0039】
得られた各バクテリアセルロース乾燥膜をガラスシャーレに入れたまま重量を測定し、予め測定しておいたガラスシャーレの重量を差し引いて、バクテリアセルロースの生産量(実測値)とした。
【0040】
得られたバクテリアセルロースの生産量(実測値)から、比較例−1の生産量を100としたときの各実施例の生産量(相対値)を算出した。各実施例について、バクテリアセルロースの生産量を実測値及び相対値として表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
この表1によれば、実施例−1〜実施例−5のバクテリアセルロース生産量は、いずれも比較例−1のバクテリアセルロース生産量に比べ、大幅に増量していることが分かる。特に、界面活性剤が低濃度で含有されている培養液において、バクテリアセルロース生産量の向上が顕著である。このことから、本第1実施形態における界面活性剤の濃度を更に低濃度にした状態でも生産性が更に向上する可能性を見出すことができる。
【0043】
以上のことにより、本第1実施形態においては、セルロース産生菌を含有する培養液の中に界面活性剤が存在する状態でセルロース産生菌の培養を行うことにより、バクテリアセルロースの生産性が向上する。また、本第1実施形態においては、セルロース産生菌の培養に際して、酸素透過性の膜などの特殊な材料を必要とせず、酸素濃度や培養条件などの特殊な制御をするための高価で複雑な装置を用いる必要がない。
【0044】
よって、本第1実施形態は、バクテリアセルロースの生産性が高く、且つ、経済性の良いバクテリアセルロースの生産方法を提供することができる。
(第2実施形態)
本第2実施形態は、界面活性剤として上記第1実施形態と同様のポリオキシエチレンアルキルエーテルが存在する培養液を用いてセルロース産生菌を培養するバクテリアセルロースの生産方法に関するものである。なお、本第2実施形態においては、培養液中に存在する界面活性剤の濃度を上記第1実施形態より更に低濃度領域で変化させてセルロース産生菌を培養するものである。
【0045】
以下、本第2実施形態の生産方法については、培養液中に存在する界面活性剤の濃度以外は、上記第1実施形態で説明した培養液の準備工程及びバクテリアセルロースの生産工程と同様にして行った。
【0046】
ここで、本第2実施形態に使用するセルロース産生菌の培養液は、上記第1実施形態と同様の工程を再度実施して得たものを使用した。当該培養液中の菌体量は、波長660nmにおける濁度測定により、OD=0.13であった。
【0047】
この培養液に上記界面活性剤を下記の条件で添加して本第2実施形態に係る実施例−6〜実施例−11の培養液を得た。また、比較として界面活性剤を添加していない培養液を比較例−2の培養液とした。
【0048】
実施例−6:MAC−Nを0.0225容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、31.5ppm含有した培養液)
実施例−7:MAC−Nを0.0175容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、24.5ppm含有した培養液)
実施例−8:MAC−Nを0.0125容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、17.5ppm含有した培養液)
実施例−9:MAC−Nを0.0075容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、10.5ppm含有した培養液)
実施例−10:MAC−Nを0.0025容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、3.5ppm含有した培養液)
実施例−11:MAC−Nを0.00125容量%添加した培養液
(ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、1.75ppm含有した培養液)
比較例−2:界面活性剤を添加していない培養液

上述の第1実施形態と同様の各工程を経て、本第2実施形態に係る実施例−6〜実施例−11、及び比較例−2のバクテリアセルロースを得た。
【0049】
得られた各バクテリアセルロース乾燥膜を第1実施形態と同様の工程により、ガラスシャーレに入れたまま重量を測定し、予め測定しておいたガラスシャーレの重量を差し引いて、バクテリアセルロースの生産量(実測値)とした。
【0050】
得られたバクテリアセルロースの生産量(実測値)から、比較例−2の生産量を100としたときの各実施例の生産量(相対値)を算出した。各実施例について、バクテリアセルロースの生産量を実測値及び相対値として表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
この表2によれば、実施例−6〜実施例−11のバクテリアセルロース生産量は、いずれも比較例−2のバクテリアセルロース生産量に比べ、大幅に増量していることが分かる。この表2においても、界面活性剤の濃度がより低濃度で含有されている培養液において、バクテリアセルロース生産量の向上が大きくなっている。
【0053】
ここで、本第2実施形態と上記第1実施形態のバクテリアセルロース生産量(実測値)を比較すると、同程度の濃度の界面活性剤が存在する実施例、及び比較例においても離れた値を示しているものがある。このことは、本第2実施形態の前培養と上記第1実施形態の前培養が別個の操作であり、セルロース産生菌の活性化状態が異なっていたものと考えられる。
【0054】
しかし、各実施形態においても同様に培養液中に界面活性剤が存在することにより、バクテリアセルロース生産量が大きく向上していることが確認される。
【0055】
以上のことにより、本第2実施形態においては、セルロース産生菌を含有する培養液の中に界面活性剤が存在する状態でセルロース産生菌の培養を行うことにより、バクテリアセルロースの生産性が向上する。また、本第2実施形態においては、セルロース産生菌の培養に際して、酸素透過性の膜などの特殊な材料を必要とせず、酸素濃度や培養条件などの特殊な制御をするための高価で複雑な装置を用いる必要がない。
【0056】
よって、本第2実施形態は、バクテリアセルロースの生産性が高く、且つ、経済性の良いバクテリアセルロースの生産方法を提供することができる。
【0057】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施形態は、界面活性剤として非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用するものであるが、本発明に係るバクテリアセルロースの生産方法は、これに限るものではなく、他の界面活性剤を使用してもよい。
(2)上記各実施形態は、界面活性剤としてアルキル基の炭素数が12〜15の範囲にあるポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用するものであるが、本発明に係るバクテリアセルロースの生産方法は、これに限るものではなく、その他の炭素数を持つポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用してもよい。
(3)上記各実施形態は、セルロース産生菌として酢酸菌のうち、Gluconacetobacter xylinus(American Type Culture Collection No.53582)を使用するものであるが、本発明に係るセルロース産生菌は、これに限るものではなく、他の菌種、他の酢酸菌、例えば、Acetobacter xylinum、Acetobacter aceti、Acetobacter subsp.、Asaia bogorensisなどに属する他の菌株を使用してもよい。
(4)上記各実施形態は、SH培地(Schramm-Hestrin medium)を使用してセルロース産生菌を培養するものであるが、本発明に使用する培地は、これに限るものではなく、他の培地、例えば、CSL培地(Corn Steep Liquor-Sucrose medium)などを使用してもよい。
(5)上記各実施形態は、セルロース産生菌の培養条件として、室温25℃で3日間を採用するものであるが、本発明に係る培養条件は、これに限るものではなく、使用する菌種、使用する培地、又は、使用する界面活性剤の種類と使用量などによって適宜選定すればよい。
(6)上記各実施形態は、静置培養法によりセルロース産生菌を培養するものであるが、本発明に採用する培養法は、これに限るものではなく、他の培養法、例えば、振盪培養法、通気撹拌培養法などを適宜選定すればよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース産生菌を含有する培養液の中に界面活性剤が存在する状態で、前記セルロース産生菌を培養するバクテリアセルロースの生産方法。
【請求項2】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載のバクテリアセルロースの生産方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする請求項2に記載のバクテリアセルロースの生産方法。
【請求項4】
前記培養液の中に存在する前記界面活性剤の量は、前記培養液に対して0.05ppm〜300ppmの範囲内の量であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のバクテリアセルロースの生産方法。