バクテリアセルロース有機ゲルを利用したリチウムイオン導電性材料
【課題】機械的強度に優れ、イオン伝導性が高いリチウムイオン導電性材料を提供する。さらに無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料を提供する。また、バクテリアセルロースエアロゲルを提供する。
【解決手段】バクテリアセルロース産生菌を、無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で培養する。バクテリアセルロースヒドロゲルを脱水乾燥する。
【解決手段】バクテリアセルロース産生菌を、無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で培養する。バクテリアセルロースヒドロゲルを脱水乾燥する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバクテリアセルロース有機ゲル(以下、「バクテリアセルロースオルガノゲル」とも記載する。)、及びそれを利用したリチウムイオン導電性材料、その製造方法、及びそれを用いたリチウムイオン電池に関する。また本発明は、バクテリアセルロースエアロゲル、その製造方法、及びそれを用いた新規複合材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の形式の電池が実用に供されているが、電子機器のワイヤレス化等に対応するために、軽量で高起電力と高エネルギーを得ることができ、しかも自己放電の少ないことからリチウムイオン電池が注目を集めている。特に、近年一層の軽量化と薄膜化の要求に伴い、従来の電解液に代えて、ポリマー電解質を用いたリチウムイオン電池の実用化が急がれている。このようなリチウムイオン電池によれば、従来の電解液電池と比較して、電解液の漏れが少ないので、外装として、従来の金属缶に代えて、アルミニウム薄膜を有するラミネート樹脂フィルム等を用いることができ、かくして、屈曲性を有する薄型電池とすることができる点からも、種々のポリマー電解質を用いたリチウムイオン電池が研究開発されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
ポリマー電解質は、直線状のポリマー分子鎖の三次元の絡み合い、即ち、物理架橋したポリマーからなるマトリックス中に電解液を担持した所謂物理ゲルと、化学架橋したポリマー分子鎖からなるマトリックス中に電解液を担持した所謂化学ゲルに分けられる。化学ゲルを用いて電池を製造する場合には、例えば、電池容器内において、いわばその場でモノマーの重合によって架橋ポリマーを形成させて、簡便に化学ゲルを得ることができる利点があるが、反面、電池の電極やセパレータ中に未反応モノマーや重合開始剤が残存して、電池特性に好ましくない影響を与えるという欠点を有する。物理ゲルを用いて電池を製造する場合には、物理ゲルに適度な機械的強度を付与するために、電解液中のポリマー濃度を増やす必要があり、また、ポリマー濃度を増やさないのであれば、高分子量のポリマーを用いる必要があるが、このような場合には、加熱下に電解液中にポリマーを溶解させることが必要となり、また、そのために多大の時間を要することとなる。更に、加熱による電解質塩の劣化等の問題も生じる。
【0004】
セルロースは、植物細胞壁の主成分であり、紙・パルプの原料としては高等植物である木材のセルロースが蒸解・漂白により利用されている。またセルロースを作るのは高等植物だけではなく、また、その他のセルロース源としてバクテリア、海藻、ホヤ等も知られているが、1886年、A.J.Brownが、ある種の酢酸菌が炭水化物を含む培地にセルロース膜を形成することを報告して以来、この系は生合成モデルとして注目され、研究が行われてきた。その結果、酢酸菌が生産するバクテリアセルロースは、純粋なセルロースとして菌体外に排出され、その形状としては幅数十nmのリボン状微細繊維が網目構造が形成していることが観察されるとともに、パルプ繊維に比較して極端に細いことが明らかにされた。また、その特徴としては、微細な構造を有すること、セルロースとして純度が高いこと、ヤング率が高いこと、生分解性が高いこと等も知られている。その利用は主に高付加価値製品に限定されている。例えば、特開昭59−120159号に開示されている医療用パッド、特開昭61−281800号に開示されている音響用振動板、特開昭62−36467号に開示されている高力学強度成形材料等に詳しく記載されている如くである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−317695
【特許文献2】特開昭59−120159号
【特許文献3】特開昭61−281800号
【特許文献4】特開昭62−36467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な材料としてバクテリアセルロース有機ゲルを利用したリチウムイオン導電性材料を提供する。さらに本発明はその製造方法、及びそれを用いたリチウムイオン電池を提供する。また本発明は、バクテリアセルロースエアロゲル、その製造方法、及びそれを用いた新規複合材料を提供する。さらには本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲル、及びバクテリアセルロースエアロゲルを利用した複合材料とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は新規材料に基づく、従来のリチウムイオン導電性材料の有する上記欠点のない優れたリチウムイオン導電性材料を見出すべく鋭意研究した結果、酢酸菌が生産するバクテリアセルロースヒドロゲルの水分を、リチウムイオンを含有する非水有機溶媒で完全に置換してリチウムイオン含有バクテリアセルロース有機ゲルとすることができ、さらに得られるゲルが良好なリチウムイオン伝導性を有することを見出し本発明を完成した。
【0008】
また、超臨界状態の溶媒を用いてバクテリアセルロースヒドロゲルの水分を形状を損なうことなく完全に乾燥できることを見出し本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲル中の水が、リチウム化合物を含有する非水溶媒で置換されているリチウムイオン導電性材料に関する。
【0010】
また本発明は、かかる非水溶媒が、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択されることを特徴とするリチウムイオン導電性材料に関する。
【0011】
また本発明はかかる非水溶媒が、特にポリエチレングリコールジメチルエーテルであるリチウムイオン導電性材料に関する。
【0012】
さらに本発明は、リチウム化合物が、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択されることを特徴とするリチウムイオン導電性材料に関する。
【0013】
また本発明はリチウム化合物が、特にリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドであるリチウムイオン導電性材料に関する。
【0014】
また、本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲルを、リチウム化合物を含有する非水溶媒中に浸漬させ、減圧及び加熱下に一定期間放置し、引き続き昇温させ更に減圧下で一定期間放置することを特徴とする、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、非水溶媒が、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択されることを特徴とする、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、非水溶媒が、ポリエチレングリコールジメチルエーテルである、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0017】
また本発明は、リチウム化合物が、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択されることを特徴とするリチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0018】
さらに本発明は、一段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ30〜90℃及び12〜36時間であり、かつ二段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ100〜160℃及び12〜36時間である、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0019】
また本発明は、一段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ60℃及び24時間であり、かつ二段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ130℃及び24時間である、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0020】
また、本発明は、陽極、陰極及びその間に配置された本発明にかかるリチウムイオン導電性材料を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池に関する。
【0021】
また本発明者等は、無機物が混合分散された種々の高分子複合材料が種々開発されているが、その機械的、電気的特性、環境保全の観点からも問題があることに鑑み、バクテリアセルロースを用いた複合材料の実用化を目指し、鋭意研究を行った結果、バクテリアセルロースヒドロゲル中に種々の無機物質、有機高分子物質が分散された複合材料の製造方法を見出すに至った。すなわち本発明者は、従来知られていなかった培養条件でバクテリアセルロース産生菌を培養することにより、種々の無機材料及び/又は有機材料をバクテリアセルロースヒドロゲル中に取り込ませることができること、さらに得られた無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロースヒドロゲルを脱水等の処理をすることにより、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料が得られることを見いだし本発明を完成した。
【0022】
以下、本発明の意味する無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料には、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロースヒドロゲル、若しくはその水分の一部を除いたもの、若しくは水分をほぼ完全に除いたものを含む。
【0023】
すなわち本発明は、広範な技術分野に応用できる全く新しい機能を有する複合材料であって、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料に関する。
【0024】
また本発明は、無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする複合材料に関する。
【0025】
さらに本発明は、バクテリアセルロース産生菌を、無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で培養することで、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料を製造する方法に関する。
【0026】
また本発明は、培養培地において、炭素源として、グルコース、マンニトール、スクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖蜜、エタノール、酢酸、クエン酸が使用され、窒素源として、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ポリペプトンが使用され、無機塩類として、リン酸塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩が使用され、有機微量栄養素として、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、カザミノ酸、イーストエキストラクト、大豆蛋白加水分解物が使用されることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0027】
また、本発明は培養培地が、グルコース、ポリペプトン、イーストエクストラクト、マンニトールを含有することを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0028】
また本発明は、バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクター属、グルコノバクター属、アグロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する細菌であることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0029】
さらに本発明は、バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクターキシリナム(IFO NO 13772)であることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0030】
さらに本発明は、バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクターキシリナム(IFO NO 13772)から得られた新種株(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター寄託番号FERM P−20332、国際寄託番号FERM BP−10357)であることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0031】
また本発明は、無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0032】
また本発明者等は、バクテリアセルロースヒドロゲルの形状をほとんど損なうことなく完全に乾燥する方法を鋭意研究した結果、特定の溶媒を超臨界条件を用いて乾燥できることを見出した。
【0033】
従って、本発明は、新規なエアロゲルである、バクテリアセルロースエアロゲルに関する。
【0034】
また、本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲルを、超臨界エタノールで脱水乾燥してバクテリアセルロースエアロゲルを製造する方法に関する。
【0035】
また本発明は、かかるバクテリアセルロースエアロゲルに、水又は塩を含む水を吸収させて、バクテリアヒドロゲルを製造する方法に関する。
【0036】
さらに本発明は、かかるバクテリアセルロースエアロゲルに、有機溶媒又は塩を含む溶媒を吸収させて、バクテリアセルロースオルガノゲルを製造する方法に関する。
【0037】
また、本発明には、バクテリアセルロースエアロゲルから得られたヒドロゲル、オルガノゲル、また種々の塩を含むヒドロゲル、オルガノゲルが含まれる。
【発明の効果】
【0038】
本発明にかかるリチウムイオン導電性材料は、バクテリアセルロースヒドロゲル中の水をリチウム化合物を含有する非水溶媒で完全に置換されたものであることから、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ機械的強度に優れた特性を示す。かかる特性を有するリチウムイオン導電性材料をセパレータとして用いて優れた性能を発揮するリチウムイオン電池が得られる。
【0039】
本発明にかかる製造方法によれば、バクテリアセルロース繊維中に種々の無機材料及び/又は有機材料を取り込ませることができる。従って本発明による製造方法により得られる複合材料は優れた成形性、機械的、電気的特性、生分解性を示す。
【0040】
本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、バクテリアセルロースヒドロゲルの形状にはほとんど変化なく、乾燥したものである。従って、水を始め種々の種類の有機溶媒をほぼ制限なく含ませることができ、ヒドロゲル、オルガノゲルを調製することができる。これらは種々の新規な複合材料の基材となることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1はアセトバクターキシリナムの変異体が形成するバクテリアセルロースゲルの厚さを比較した結果を示す。
【図2】図2は、PEO−BCゲル電解質のCole-Coleプロットを示す(測定温度55℃、膜厚0.1076cm 9.78x10−3S/cm)。
【図3】図3は、実施例7で得られた試料のシリカの存在量を示す。
【図4】図4は、実施例7で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図5】図5は、実施例7で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図6】図6は、実施例8で得られたシラスバルーンバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真を示す。
【図7】図7は、実施例8で得られた試料のシラスバルーンの存在量を示す。
【図8】図8は、実施例8で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図9】図9は、実施例8で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図10】図10は、実施例9で得られたカーボンナノチューブバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真を示す。
【図11】図11は、実施例9で得られた試料のカーボンナノチューブの存在量を示す。
【図12】図12は、実施例9で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図13】図13は、実施例9で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図14】図14は、実施例10で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図15】図15は、実施例10で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図16】図16は、実施例11で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図17】図17は、実施例11で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図18】図18は、実施例13で得られたバクテリアセルロースエアロゲルの電子顕微鏡写真(1万倍)を示す。
【図19】図19は、バクテリアセルロースヒドロゲル、バクテリアセルロースエアロゲル、バクテリアセルロースポリエチレンオキシドゲル、バクテリアセルロースキシレンゲルの圧縮試験結果を示す。
【図20】図20は、実施例18で得られたバクテリアセルロースPEOエーテルの赤外線吸収スペクトルを示す。
【図21】図21は、バクテリアセルロースPEOゲル電解質(Mw250及びMw550)、PEOグラフトバクテリアセルロース固体電解質のリチウムイオン導電率の温度依存性を示す。
【図22】図22は、実施例20で得られたバクテリアセルロースPEOエステルの赤外線吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(リチウムイオン導電性材料)
本発明によるリチウムイオン導電性材料は、バクテリアセルロースヒドロゲル中の水が、リチウム化合物を含有する非水溶媒で置換されたバクテリアセルロース有機ゲルであることを特徴とする。
【0043】
ここで本発明に用いられるバクテリアセルロースヒドロゲルの成分は、微生物により産生されるものであって、セルロース、セルロースを主鎖としたヘテロ多糖、β−1、3、β−1、2等のグルカン、のいずれか或はそれらの混合物である。なお、ヘテロ多糖の場合のセルロース以外の構成成分は、マンノース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸等の6炭糖、5炭糖及び有機酸等である。
【0044】
また本発明において使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルは、セルロース繊維と水とからなるゲル状物質(板状、膜状)であるにも拘わらず、非常に高い機械的強度を有する。かかるバクテリアセルロースの高い機械的強度は、産生菌である酢酸菌の培養条件を適宜調整することにより、培養時にランダムに動き回るため菌細胞から排出された繊維状のセルロースフィブリルをランダムに絡み合わせることにより達成することができる。また本発明において使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルはその高い機械的強度にも拘わらず、バクテリアセルロース中に含まれる固体含分は0.5〜1.0質量%と極めて低いことを特徴とする。
【0045】
本発明において使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルは、いわゆるセルロース生産菌であれば特に限定されない。具体的には、BPR2001株に代表されるアセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・シュクロファーメンタンス(Acetobacter xylinum subsp. sucrofermentans)、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum )ATCC23768、アセトバクター・キシリナムATCC23769、アセトバクター・パスツリアヌス(A. pasteurianus )ATCC10245、アセトバクター キシリナム(IFO NO 13772)、アセトバクター・キシリナムATCC14851、アセトバクター・キシリナムATCC11142及びアセトバクター・キシリナムATCC10821等の酢酸菌(アセトバクター属)、その他に、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属及びズーグレア属並びにそれらをNTG(ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株である。有利にはアセトバクターキシリナム(IFO NO 13772)である。さらに好ましくはアセトバクター・キシリナム(IFO NO 13772)の変異株である。
【0046】
また本発明で使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルの形状についても特に制限はない。培養条件、培養装置等適宜選択することにより、好まし形状(柱状、板状、膜状等の場合には、縦、横、高さ、厚み。円盤状の場合には半径、厚み等)に自由に産性させることができる。また、得られたバクテリアセルロースヒドロゲルはそのまま好ましい形状に切りとることも可能である。具体的には、板状、柱状、膜状、円盤状、リボン状、柱状、線状等が挙げられる。
【0047】
また本発明で使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルは通常公知の保存方法により長期間保存することができる。必要な場合、保存安定剤を添加することもできる。
【0048】
本発明によるバクテリアセルロースヒドロゲルの水分と置換される非水溶媒は、下で説明するリチウム塩を溶解させ、かつ形状を破壊することなくバクテリアセルロースヒドロゲルの水分と完全に置換され得るものであればよく特には限定されない。具体的には、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択される1以上、若しくはそれらの混合物が挙げられる。またリチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐える溶媒が好ましく、この目的のために特にポリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい。
【0049】
さらに本発明により非水溶媒と共に使用されるリチウム化合物は、かかる非水溶媒に十分に溶解し、かつ安定に存在するものであれば特に制限はない。具体的には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択される一種以上を使用することが好ましい。リチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐えるリチウム化合物が好ましく、この目的のために特にリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドが好ましい。
【0050】
さらにリチウムイオンの含有量についても特に制限はなく、本発明にかかるバクテリアセルロース有機ゲルを利用する目的に適した濃度にすることが可能である。具体的にはEO単位に対して0〜20モル%の範囲が可能であり、リチウムイオン電池のリチウムイオン伝導体として使用する場合には、5〜6モル%の範囲が可能である。
【0051】
本発明にかかるバクテリアセルロース有機ゲルは、固形分が極めて低いにも拘わらず極めて高い機械的強度を有することを特徴とする。有機ゲルの機械的強度を評価する種々の測定方法が使用可能である。また、バクテリアセルロース有機ゲルはそのまま好ましい形状に切りとることも可能である。具体的には、板状、柱状、膜状、円盤状、リボン状、柱状、線状等が挙げられる。
【0052】
本発明にかかるバクテリアセルロース有機ゲルは、リチウムイオンを含有するものであり、そのイオン伝導性は種々の測定方法で評価することができる。
【0053】
本発明にかかるリチウムイオンを含有するバクテリアセルロース有機ゲルのリチウムイオン伝導性は非水有機溶媒の種類、含有リチウムイオンの種類と濃度、温度、若しくは形状等に依存する。
【0054】
本発明にかかる製造方法は、バクテリアセルロースヒドロゲルの水分を、リチウム化合物を含有する非水溶媒に完全に置換することを特徴とする。従ってバクテリアセルロースヒドロゲル中の水分子を、ゲルの形状、性質を大きく損なうことなく非水溶媒分子と置換することができる方法であれば特に制限はない。具体的には非水溶媒中にバクテリアセルロースヒドロゲルを浸漬させることにより置換することが可能である。さらに置換をより迅速に、また完全にするために、浸漬を減圧条件下で行うことも可能である。さらに適当な加温条件下で行うことも可能である。より具体的には、非水溶媒中にバクテリアセルロースヒドロゲルを浸漬させ、減圧かつ加熱条件下に一定期間放置し、引き続き昇温させ更に減圧下で一定期間放置することが好ましい。ここで第一段階目の加熱温度及び放置時間は、30〜90℃及び12〜36時間、有利には50〜70℃及び20〜30時間、特に有利には60℃及び24時間である。また第二段階目の加熱温度及び放置時間は、100〜160℃及び12〜36時間、有利には120〜140℃及び20〜30時間、特に有利には130℃及び24時間である。
【0055】
本発明にかかるリチウムイオン電池は、陽極及び陰極と、その間に設けられた本発明にかかるリチウムイオン導電性材料を含むことを特徴とする。ここで、本発明により使用される陽極および陰極材料は特に制限されず、通常公知のリチウムイオン電池で使用される材料であればよい。特に陽極材料としてはLiMnO2、LiCoO2またはLiNiO2である。また本発明により使用される陰極材料としてはリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料である。本発明にかかるリチウムイオン電池のリチウムイオン伝導体の形状についても特に制限はなく、板状、膜状、リボン状等の種々の形状を適宜選択することが可能である。
【0056】
本発明にかかるバクテリアセルロース複合材料は、バクテリアセルロース繊維中に種々の無機材料及び/又は有機材料を取り込ませた構造であることを特徴とする。ここでバクテリアセルロースには水分を含むヒドロゲル、水分を一部含むもの、また水分が除かれた乾燥したものを含む。
【0057】
取り込まれる無機材料及び/又は有機材料の、種類、形状、含有量については特に制限はない。複合材料に望まれる物性を付与するための好ましい無機材料及び/又は有機材料の種類を選択することができる。具体的にはシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ等の無機材料、又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等の有機材料が挙げられる。また形状(又はサイズ)についても球状、針状、棒状、板状、または無定型等種々の形状の材料が取り込まれる。特に本発明の複合体にはナノサイズの材料が取り込まれる。また含有量についても特に制限はなく、複合材料の使用目的に合致するように適宜選択することができる。通常バクテリアセルロース複合材料中の無機材料及び/又は有機材料の含有量は、1〜25重量%の範囲である。
【0058】
さらに、本発明にかかる複合体の構造は、従来知られているような単にセルロース材料と無機材料及び/又は有機材料を混合したものではなく、無機材料及び/又は有機材料がセルロース繊維中にほぼ均一に分散した状態で取り込まれている特徴的な構造を有する。かかる構造は、例えば電子顕微鏡を用いることにより容易に観察することができる。
【0059】
また本発明にかかる複合体には、以下説明する培養方法で得られるバクテリアセルロースヒドロゲルをさらに種々の処理をして得られる物も含まれる。かかる処理は、具体的には脱水乾燥処理、圧縮変形処理、脱水圧縮乾燥処理、成形処理、成形処理後の脱水、乾燥、圧縮変形、脱水圧縮乾燥処理等が挙げられる。かかる処理をおこなうことにより、例えばバクテリアセルロースヒドロゲルを乾燥薄片化して紙状、板状、リボン状に形状変形することができる。また適当な型を用いて圧縮脱水成形させることにより、望ましい立体形状に成形することができる。かかる成形された複合体は、スピーカ用コーン等の音響材、皿、コップ等の食器類、医療用具用材料、玩具文具用材、建築用材、衣類用材、車や家屋の内装用材等に好ましく使用できる。また生分解性においても非常に優れており、環境適合性に優れた材料である。
【0060】
本発明の複合体の有する物性は、従来公知の種々の物性測定方法、装置を用いて評価することができる。またヒドロゲルの状態、乾燥された状態のいずれについても従来公知の種々の物性測定方法、装置を用いて評価することができる。さらに上で説明した処理、成形された複合体についても種々の物性測定方法、装置を用いて評価することができる。
具体的には機械的強度特性は動的粘弾性測定、引張試験により、さらに熱力学的特性については熱重量測定により評価することができる。
【0061】
本発明にかかる製造方法は、バクテリアセルロース産生菌を無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で特定の培養条件下で培養することで、無機材料及び/又は有機材料を取り込んだバクテリアセルロースヒドロゲルを得ることが可能となる方法である。
【0062】
本発明で使用可能なバクテリアセルロース産生菌は、培地中においてセルロースを生産できるものであれば特に限定されるものではなく、例えばアセトバクター属、グルコノバクター属、アグロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。これらのなかでもアセトバクター属の細菌が好ましく、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)、有利にはアセトバクター・キシリナム(IFO NO 13772)が特に好ましい。さらに好ましくはアセトバクター・キシリナム(IFO NO 13772)の変異株である。具体的には独立行政法人産業技術総合研究所に寄託された寄託番号の変異株の使用が好ましい。
【0063】
本発明で使用可能な培地成分は、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する培地を用いればよく、炭素源として、グルコース、マンニトール、スクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖蜜、エタノール、酢酸、クエン酸が使用され、窒素源として、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ポリペプトンが使用され、無機塩類として、リン酸塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩が使用され、有機微量栄養素として、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、カザミノ酸、イーストエキストラクト、大豆蛋白加水分解物が使用される。好ましくはグルコース、ポリペプトン、イーストエクストラクト、マンニトールである。
【0064】
無機材料及び/又は有機材料は培養の任意の時点で添加してよいが、培養を開始する前に添加しておくことが好ましい。本発明の培養条件は、pHは5〜9、温度は10〜40℃、特に好ましくは25〜30℃に制御しつつ1〜15日間、好ましくは1〜3日間程度が良い。本発明で使用可能な培養形態は、静置培養、通気攪拌培養、振盪培養、振動培養、エアリフト型の培養などがあり、本発明は特に限定するものではないが、静置培養が好ましい。培養容器の形状についても特に制限はなく、望む形状でバクテリアセルロースヒドロゲルが生成するように選択することができる。
【0065】
(バクテリアセルロースエアロゲル)
また、本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、バクテリアセルロースヒドロゲルを乾燥して得られる新規なエアロゲルである。構造は電子顕微鏡により容易に観察できる。図5に一例を示した。この写真から、エアロゲル内部は、数十nmの極めて細いセルロースフィブリルが3次元に高度に分岐した構造をもっていることが分かる。乾燥の方法は特に制限はないが、形状を大きく損なわずに脱水乾燥し得る手段であればよい。例えば超臨界溶媒メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、による方法が好ましい。具体的にはエタノールを用いる超臨界乾燥が挙げられる。この場合、圧力が6.38〜11MPa、温度が243〜300℃の範囲が好ましい。
【0066】
得られたエアロゲルの形状はほとんど変化しない。従って密度は非常に小さい。約6mg/lの程度である。本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、白色やや透明である。また種々の材質の表面に付着する傾向がある。ガラス、金属、プラスチック、皮膚等に容易に付着する。この付着は静電気に基づくものではない。また残量表面水分によるものでもない。またナイフ等の鋭利な刃物で容易に切断することができる。
【0067】
本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは水、その他の溶媒に漬けた場合その溶媒を容易に吸い込むことができる。溶媒には水の他、極性有機溶媒、無極性有機溶媒が含まれる。具体的には、水、トルエン、ベンゼン、キシレン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトンメチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(Mw250)ポリエチレングリコール(Mw600)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、n-ヘキサン、テトラヒドロフラン、シリコン油が挙げられる。当該溶媒を含んだオルガノゲルはその形状を維持する。さらにオルガノゲルを溶媒から持ち上げると重力に逆らってゲル内にかなり保持される傾向がある。本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは水、その他の溶媒に漬けた場合その溶媒に同時に存在させて種々の塩を同時に吸い込むことができる。例えば、リチウムイオン導電性材料を得る目的では、溶媒としてポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択される1以上、若しくはそれらの混合物が挙げられる(またリチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐える溶媒が好ましく、この目的のために特にポリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい)。またリチウム塩としては具体的には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択される一種以上を使用することが好ましい(リチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐えるリチウム化合物が好ましく、この目的のために特にリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドが好ましい)。
【実施例】
【0068】
以下では、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)バクテリアセルロースの調製:
1.寒天培地の製造
グルコース0.5g、ポリペプトン0.5g、硫酸マグネシウム0.1g、イーストエクストラクト0.5g、0.5gマンニトールを純粋100mlに溶解させ、該溶液にアガー2gを添加し加熱溶解させた。これを試験管に8mlずつ取り分けウレタン培養栓をする。更に該栓をアルミ箔でしっかり覆う。オートクレーブで120℃、9分間加熱滅菌を行った。滅菌した溶液を一晩斜めにして放置し、生成したゲル状物を斜面培地とした。
【0070】
2.培地への植菌
前記斜面培地へアセトバクターキシリナム(FERM P−20332)を植菌し、30℃で培養を行った。
【0071】
3.培養液の調製
グルコース15g、ポリペプトン2.5g、硫酸マグネシウム0.5g、イーストエクストラクト2.5g、マンニトール2.5gを純粋500mlに溶解させオートクレーブで120℃で9分間加熱滅菌を行った。
【0072】
4.母液の調製
培養液と同様の溶液を作成し、そのうち約5mlを試験管に添加し、斜面培地から菌を洗い取った。該液を再び培養液中に戻し、菌の活性化のために30℃で3日間放置し、これを母液とした。
【0073】
5.培養
母液と培養液とを1:1の割合で混合し、0.4質量%となるようにエタノールを加え、深底シャーレに展開した。これを30℃で25日間静置培養しバクテリアセルロースゲルを得た。
【0074】
6.バクテリアセルロースゲルの漂白
生成したゲルを流水で十分に洗浄し、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸し、細菌体等の不純物を溶解除去した。次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをバクテリアセルロース試料とした。
【0075】
(実施例2)アセトバクター キシリナムの変異株
アセトバクターキシリナム(IFO13772)を実施例1と同様の方法にて培養した。得られたアセトバクターキシリナムはYMNU−01として独立行政法人産業技術総合研究所に寄託した(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター寄託番号FERMP−20332、国際寄託番号FERM BP−10357)であることを特徴とする。図1に示されるように、得られたアセトバクターキシリナムは、極めて厚いゲルを生成することが分かった。
【0076】
(実施例3)バクテリアセルロースゲル電解質の製造
1.リチウムイオン電解液の調製
リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド78.50gをポリエチレングリコールジメチルエーテル200gに溶解させて電解液とした。
2.ゲル電解質の調製
セパラブルフラスコに調製した前記の電解液にバクテリアセルロース試料118gを浸漬させ60℃で減圧下に24時間放置し分散媒混合を行った。次いで段階的に昇温させ、最終的に130℃で減圧下に24時間放置し分散媒交換を行いゲル電解質とした。
【0077】
(実施例4)ゲル電解質のリチウムイオン伝導性の測定
1.インピーダンス測定
インピーダンス測定装置(HP社製、PRECISION LCR METER 4284A型)を用い印加電圧10mV、測定周波数20Hz〜1MHz、30℃ヘリウム雰囲気下、直径23.5mmの銅板で試料を挟みインピーダンスを測定した。測定した試料は直径23.5mm、厚さ3.29mmの円筒形であった。得られたナイキストプロットを図2に示す。これにより該ゲル電解質のイオン伝導率は9.78x10−3[S/cm]であった。
【0078】
(実施例5)リチウムイオン電池の作成
1.陽極の調製
5質量%の硫酸マンガン(II)水溶液を調製した。正極を炭素棒、負極を銅板として直流電圧3Vで電気分解を行い酸化マンガン電極を調製した。
2.陰極の調製
グローブボックス内、窒素雰囲気下で、0.75mm厚のリチウムリボンを20mm×10mmに切断して陰極とした。
3.電池の作成及び電圧の測定
厚さ5mmのバクテリアセルロース試料を20mm×20mmに切断し、陽極と陰極の間に挟みリチウム電池を作成した。該電池の電圧をテスター(DIGITAL MLTMETER CD721型)で複数回測定した結果、平均値3.4Vの電圧が確認された。
【0079】
(実施例6)バクテリアセルロースヒドロゲルを利用した複合材料の製造
ここで寒天培地を次のように製造した。グルコース0.5g、ポリペプトン0.5g、硫酸マグネシウム0.1g、イーストエクストラクト0.5g、0.5gマンニトールを純粋100mlに溶解させ、該溶液にアガー2gを添加し加熱溶解させた。これを試験管に8mlずつ取り分けウレタン培養栓をする。更に該栓をアルミ箔でしっかり覆う。オートクレーブで120℃、9分間加熱滅菌を行った。滅菌した溶液を一晩斜めにして放置し、生成したゲル状物を斜面培地とした。
【0080】
また前記斜面培地へアセトバクター・キシリナムを植菌し、30℃で培養を行った。
【0081】
また培養液を次のように調製した。グルコース15g、ポリペプトン2.5g、イーストエクストラクト2.5g、マンニトール2.5gを純粋500mlに溶解させオートクレーブで120℃で9分間加熱滅菌を行った。
【0082】
さらに、母液を次のように調製した。培養液と同様の溶液を作成し、そのうち約5mlを試験管に添加し、斜面培地から菌を洗い取った。該液を再び培養液中に戻し、菌の活性化のために30℃で3日間放置し、これを母液とした。
【0083】
(実施例7)コロイダルシリカを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製スノーテックスO、スノーテックスS、スノーテックス20)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液80ml、母液100ml、コロイダルシリカ20ml、母液を100mlとし培養液を90ml、コロイダルシリカ10ml及び、培養液95コロイダルシリカ5mlを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.コロイダルシリカバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをコロイダルシリカバクテリアセルロース試料とした。
3.コロイダルシリカバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
コロイダルシリカバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。
4.コロイダルシリカバクテリアセルロース試料中のシリカの存在の測定
コロイダルシリカバクテリアセルロース試料の乾燥フィルムを約100mg秤量し、900℃の電気炉で3時間加熱し、灰分の質量から無機成分の含有量を見積もった。結果を図3に示す。これによりシリカの存在が示唆される。
5.引張試験
結果を図4に示す。この図からコロイダルシリカを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図5に示す。この図からコロイダルシリカを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が向上したことが分かる。
【0084】
(実施例8)シラスバルーンを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.シラスバルーン(パブリック・ストラテジー株式会社製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、シラスバルーン0.1〜2gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.シラスバルーンバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをシラスバルーンバクテリアセルロース試料とした。
3.シラスバルーンバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
シラスバルーンバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。図6は、シラスバルーンバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真であり、シラスバルーン(数μm程度の球状)の表面、及び周囲の空間にバクテリアセルロースのフィブリルが生成していることが分かる。
4.シラスバルーンバクテリアセルロース試料中のシラスバルーンの存在の測定
シラスバルーンバクテリアセルロース試料の乾燥フィルムを約100mg秤量し、900℃の電気炉で3時間加熱し、灰分の質量から無機成分の含有量を見積もった。結果を図7に示す。これによりシラスバルーンの存在が示唆される。
5.引張試験
結果を図8に示す。この図からシラスバルーンの充填量の増加と共にシラスバルーンを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図9に示す。この図から室温以下では、シラスバルーンを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が向上し、室温以上ではシラスバルーンを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が低下したことが分かる。また、tanδピークがシラスバルーン充填量の増加と共にブロード化し、高温側にシフトした。これは、シラノール基のOHとピラノース環のOH基同士の水素結合により、ピラノース環の運動が束縛されたと考えられる。
【0085】
(実施例9)カーボンナノチューブを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.カーボンナノチューブ(株式会社物産ナノテク研究所製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、カーボンナノチューブ0.02〜1gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.カーボンナノチューブバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをカーボンナノチューブバクテリアセルロース試料とした。
3.カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。図10は、カーボンナノチューブバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真であり、カーボンナノチューブ(数nm程度の球状)とバクテリアセルロースのフィブリルが複雑に絡み合う状態であることが分かる。
4.カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料中のカーボンナノチューブの存在の測定
カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料の乾燥フィルムを約100mg秤量し、900℃の電気炉で3時間加熱し、灰分の質量から無機成分の含有量を見積もった。結果を図11に示す。これによりカーボンナノチューブの存在が示唆される。
5.引張試験
結果を図12に示す。この図からカーボンナノチューブを含有しないバクテリアセルロースより破断強度、歪み共に向上したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図13に示す。この図から、カーボンナノチューブを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が向上し、耐熱性も向上したことが分かる。
【0086】
(実施例10)ポリビニルアルコールを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.ポリビニルアルコール(SCIENTIFICPOLYMER PRODUCTS,INC製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、ポリビニルアルコール0.1〜4gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.ポリビニルアルコールバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをポリビニルアルコールバクテリアセルロース試料とした。
3.ポリビニルアルコールバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
ポリビニルアルコールバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。
5.引張試験
結果を図14に示す。この図からポリビニルアルコールを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図15に示す。この図から、ポリビニルアルコールを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が低下したことが分かる。
【0087】
(実施例11)ヒドロキシプロピルセルロースを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜4gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.ヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロース試料とした。
3.ヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
ヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。
5.引張試験
結果を図16に示す。この図からヒドロキシプロピルセルロースを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図17に示す。この図からヒドロキシプロピルセルロースを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が低下したことが分かる。
【0088】
(実施例12)バクテリアセルロースゲルの乾燥
約20mm×20mm×20mm(8g)のバクテリアセルロースゲルを、100ml容積のステンレススチール製オートクレーブに入れた。エタノールを導入して、約6.5MPa、約243℃の条件を維持した。約3分後、圧力を常圧に戻しエタノールを除去した。得られた乾燥バクテリアセルロースゲルは、その形状はほとんど変化せず重量は0.5gであった。この結果バクテリアセルロースゲルは超臨界エタノールにより形状を維持した状態でほぼ完全に乾燥することができることが分かる。
【0089】
また得られた乾燥バクテリアセルロースゲルをそのまま水中に入れ放置するとバクテリアセルロースヒドロゲルが再生された。また得られた乾燥バクテリアセルロースゲルを圧縮して板状とした後、温水に入れて放置すると同様にバクテリアセルロースヒドロゲルが再生された。この結果は乾燥バクテリアセルロースゲルは圧縮しても水酸基の再配列により構造の変化が起こらないことを意味する。
【0090】
(実施例13)バクテリアセルロースエアロゲルの製造
バクテリアセルロースゲルを洗浄し、10mm×10mm×10mmの立方体に切り出し試料とした。得られた試料をエタノール中に24時間浸漬した後エタノールを交換しさらに24時間浸漬した。これを3回繰り返すことにより分散媒を水からエタノールに交換した。試料を50mlのオートクレーブに入れ、エタノールが超臨界状態となる条件として、圧力6.38MPa、温度243℃〜300℃で10分間処理した。得られた乾燥バクテリアセルロースゲル(バクテリアエアロゲル)の形状は10mm×10mm×10mmであった。この結果は、乾燥処理による形状変化がほとんどないことを示す。また重量は6mgであった。この結果から、得られたバクテリアセルロースエアロゲルの密度が約6mg/cm3であり、極めて軽い材料であることが分かる。
【0091】
図18に得られたバクテリアセルロースエアロゲルの断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真像を示す。内部空間はほぼ均一に多くの細いフィブリルがからみあっている網目構造で満たされていることが分かる。またフィブリルはナノメートルオーダーであることも分かる。
【0092】
また万能試験機を用いJIS K7208法で圧縮測定した圧縮強度の結果を図19に示した。ヒドロゲルに比較して約2倍の強度を有することが分かる。この結果はヒドロゲルが水によって可塑化されているものと推定される。
【0093】
(実施例14)
上で得られたエアロゲルを、室温で、11mmHgの真空下で水と接触させることにより水を吸収し、ヒドロゲルとなった。得られたヒドロゲルの形状及び、重量は、10mm×10mm×10mm、1gであった。
【0094】
(実施例15)
上で得られたエアロゲルを、室温で、11mmHgの真空下で次の有機溶媒と接触させることにより、溶媒を吸収し、オルガノゲルとなった。
溶媒:キシレン、形状13.6mmx14.0mmx12.1mm、重量2.104g
溶媒:ポリエチレンオキシド、形状11.9mmx12.12mmx7.3mm、重量1.383g
またJIS K7208法により測定した圧縮強度の結果を図19に示した。溶媒の種類により強度が相違することが分かる。この結果は各種溶媒の粘度及び、極性によるものと推定される。
【0095】
(実施例16)
上で得られたエアロゲルを、室温で、11mmHgの真空下、次の塩を溶解した水又は有機溶媒と接触させることにより、塩を分散したヒドロゲル、又はオルガノゲルを得た。
溶媒(塩):ポリエチレンオキシド(LiN(CF3SO2)2)、形状12.1mmx11.6x11.7mm、重量2.104g
またJIS K7208法により測定した圧縮強度の結果を図19に示した。溶媒の種類により強度が相違することが分かる。この結果は溶媒の粘度及び、セルロースとの相互作用にによるものと推定される。
【0096】
(実施例17) Li+導電性を持つバクテリアセルロース−PEOオルガノゲル
リチウム塩を溶解した分子量250のポリエチレンオキシド(PEO)を減圧下でバクテリアセルロースエアロゲルに加えてLi+導電性を持つバクテリアセルロース−PEOオルガノゲルを得た。図21に示されるように、このLi+電解質はリチウム塩PEO溶液とほぼ同じLi+導電率を示した。
【0097】
また図19にバクテリアセルロースヒドロゲル、バクテリアセルロースエアロゲル、バクテリアセルロース−PEOオルガノゲルの圧縮強度試験の結果を示した。この結果から、ヒドロゲルはエアロゲルよりも弱く、オルガノゲルが最も強いことが分かる。
【0098】
(実施例18)バクテリアセルロースPEOエーテル
バクテリアセルロースエアロゲル(10mmx10mmx10mm、6mg)をキシレン50ml中でナトリウムメトキシド0.027gとともに1時間攪拌して反応させた。後減圧してキシレンを除き、酸化エチレン50gと、8MPaで140℃、6時間反応させた。得られた粗反応生成物をエタノール、水、次いでアセトンで繰り返し洗浄し、バクテリアセルロースPEOエーテルを得た。図20には、得られたPEO側鎖を有するエーテルの赤外線吸収スペクトルを示した。
【0099】
(実施例19)バクテリアセルロースPEOエーテルLiイオン伝導膜
上の実施例で得られたバクテリアセルロースPEOエーテルを、その後、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)のエタノール溶液に、24時間浸した後、120℃にて減圧乾燥してバクテリアセルロースPEOエーテルLiイオン伝導膜を得た。
【0100】
図21に、得られたイオン電動膜のリチウムイオン伝導度測定結果を示した。
(実施例20)バクテリアセルロースPEOエステル
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn350)(PEG−350)8.2gを、アセトン150ml中で、ジョーンズ試薬(57.2g)と48時間攪拌して反応させ、末端の水酸基を酸化した。イソプロピルアルコールを20ml加えて反応を停止させた。後クロロホルムにて抽出し、水で洗浄し、乾燥して末端カルボン酸(PEO-350モノカルボン酸)を得た。
【0101】
バクテリアセルロースヒドロゲル(20mmx20mmx10mm、4g)を、200mlのN、N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)中で24時間保持してこれを5回繰り返し水と、DMAcとを交換した。さらに上のPEO−350モノカルボン酸と、0.2gの4−[N、N’−ジメチルアミノ]ピリジン(DMAP)と、3.3gのN、N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)との存在下、室温にて4日間攪拌して脱水縮合反応させた。得られた粗反応生成物をエタノール、水、次いでアセトンで洗浄し、バクテリアセルロースPEOエステルを得た。図22には、得られたPEO側鎖を有するエステルの赤外線吸収スペクトルを示した。
【0102】
(実施例21)バクテリアセルロースPEOエステルLiイオン伝導膜
上の実施例で得られたバクテリアセルロースPEOエステルを、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)のエタノール溶液に、48時間浸した。後、室温にてにて減圧乾燥してバクテリアセルロースPEOエステルLiイオン伝導膜を得た。
【0103】
図21に、得られたイオン電動膜のリチウムイオン伝導度測定結果を示した。
(実施例22)IPN構造を有する有機−無機複合エアロゲル
バクテリアセルロースヒドロゲル(10mmx10mmx10mm、1g)に、500ml水中でテトラエトキシシラン17.3gを加え、その場重合を行った。得られたゲルをエタノール超臨界乾燥させた。走査型電子顕微鏡観察の結果、有機−無機複合エアロゲルはIPN構造を有することが分かる。
【0104】
(実施例23)バクテリアセルロースエアロゲル脱水物
バクテリアセルロースエアロゲル(30mmx20mmx15mm、52mg)を、丸底フラスコに入れ、真空ポンプを用いて減圧し、0.1mmHgにて350℃、4時間加熱脱水を行い、また黒色スポンジ状のバクテリアセルロースエアロゲル脱水物として1.7mg得た。
【0105】
(実施例24)陽極の作成およびリチウム電池の作成
LiMn204粉末4g、グラファイト0.75g、5wt%ポリフッ化ビニリデン/N-メチルピロリドン溶液0.5gを乳鉢に入れ、混練した。テフロン(登録商標)シート上に混練物をシート上に広げ、100℃乾燥機で1時間乾燥させた。これにステンレスメッシュをかぶせ、常温で3t/cm2でプレスし、圧着を行い、陽極とした。この陽極とリチウム箔でBCゲル電解質をはさみ、電池とした。この電池に6Vの電圧をかけ、30分間充電を行った。
この電池の電圧は3.4Vであった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の材料は新規な材料を用いたリチウムイオン伝導体材料であり、また容易にリチウムイオン電池を構築することができるものである。従って、リチウムイオン伝導性材料やリチウムイオン電池を利用する種々の技術分野、例えば家電、電子機器、自動車、建築、光学機器、航空宇宙関連機器その他あらゆる分野の市場において極めて大きな利用が可能である。
【0107】
本発明にかかるバクテリアセルロース複合材料は、バクテリアセルロース中に無機材料及び/又は有機材料が取り込まれた構造を有する。それゆえにかかる材料は、優れた成形性、機械的、電気的特性、生分解性を奏する。かかる新規な材料によりもたらされる効果は従来知られてきた材料の有する物性からは全く予想できない非常に優れた性質であり、従来の複合材料において強く希望されてきた未解決課題の多くを一掃するものである。種々の技術分野、例えば医薬品、医療用製品、医療装置、家電、電子機器、自動車、建築、光学機器、航空宇宙関連機器その他あらゆる分野の市場において、新規な物性を有する本発明にかかる材料は極めて大きな要求が認められその産業上に利用可能性は極めて高い。
【0108】
本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、優れたフィルター性能、吸水倍率、吸水速度及び液通過性を有し、吸水後のゲルの経時安定性及びゲルの強度に優れている。また該材料は、有機溶媒の吸収能力をも有する。従って、かかる材料は、生理用ナプキン、紙おむつ、成人用シーツ、タンポン、及び衛生綿等の衛生材料に有用である。また、上記材料は、長時間使用してもゲル構造が劣化せず、さらには弾力性に富むので、保水剤、止水剤等の園芸、土壌建築用資材としても使用可能である。更に、上記高吸水性ポリマーは、形状、弾力性、吸水性、及び通気性の重要視される化粧品への応用も期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明はバクテリアセルロース有機ゲル(以下、「バクテリアセルロースオルガノゲル」とも記載する。)、及びそれを利用したリチウムイオン導電性材料、その製造方法、及びそれを用いたリチウムイオン電池に関する。また本発明は、バクテリアセルロースエアロゲル、その製造方法、及びそれを用いた新規複合材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の形式の電池が実用に供されているが、電子機器のワイヤレス化等に対応するために、軽量で高起電力と高エネルギーを得ることができ、しかも自己放電の少ないことからリチウムイオン電池が注目を集めている。特に、近年一層の軽量化と薄膜化の要求に伴い、従来の電解液に代えて、ポリマー電解質を用いたリチウムイオン電池の実用化が急がれている。このようなリチウムイオン電池によれば、従来の電解液電池と比較して、電解液の漏れが少ないので、外装として、従来の金属缶に代えて、アルミニウム薄膜を有するラミネート樹脂フィルム等を用いることができ、かくして、屈曲性を有する薄型電池とすることができる点からも、種々のポリマー電解質を用いたリチウムイオン電池が研究開発されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
ポリマー電解質は、直線状のポリマー分子鎖の三次元の絡み合い、即ち、物理架橋したポリマーからなるマトリックス中に電解液を担持した所謂物理ゲルと、化学架橋したポリマー分子鎖からなるマトリックス中に電解液を担持した所謂化学ゲルに分けられる。化学ゲルを用いて電池を製造する場合には、例えば、電池容器内において、いわばその場でモノマーの重合によって架橋ポリマーを形成させて、簡便に化学ゲルを得ることができる利点があるが、反面、電池の電極やセパレータ中に未反応モノマーや重合開始剤が残存して、電池特性に好ましくない影響を与えるという欠点を有する。物理ゲルを用いて電池を製造する場合には、物理ゲルに適度な機械的強度を付与するために、電解液中のポリマー濃度を増やす必要があり、また、ポリマー濃度を増やさないのであれば、高分子量のポリマーを用いる必要があるが、このような場合には、加熱下に電解液中にポリマーを溶解させることが必要となり、また、そのために多大の時間を要することとなる。更に、加熱による電解質塩の劣化等の問題も生じる。
【0004】
セルロースは、植物細胞壁の主成分であり、紙・パルプの原料としては高等植物である木材のセルロースが蒸解・漂白により利用されている。またセルロースを作るのは高等植物だけではなく、また、その他のセルロース源としてバクテリア、海藻、ホヤ等も知られているが、1886年、A.J.Brownが、ある種の酢酸菌が炭水化物を含む培地にセルロース膜を形成することを報告して以来、この系は生合成モデルとして注目され、研究が行われてきた。その結果、酢酸菌が生産するバクテリアセルロースは、純粋なセルロースとして菌体外に排出され、その形状としては幅数十nmのリボン状微細繊維が網目構造が形成していることが観察されるとともに、パルプ繊維に比較して極端に細いことが明らかにされた。また、その特徴としては、微細な構造を有すること、セルロースとして純度が高いこと、ヤング率が高いこと、生分解性が高いこと等も知られている。その利用は主に高付加価値製品に限定されている。例えば、特開昭59−120159号に開示されている医療用パッド、特開昭61−281800号に開示されている音響用振動板、特開昭62−36467号に開示されている高力学強度成形材料等に詳しく記載されている如くである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−317695
【特許文献2】特開昭59−120159号
【特許文献3】特開昭61−281800号
【特許文献4】特開昭62−36467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な材料としてバクテリアセルロース有機ゲルを利用したリチウムイオン導電性材料を提供する。さらに本発明はその製造方法、及びそれを用いたリチウムイオン電池を提供する。また本発明は、バクテリアセルロースエアロゲル、その製造方法、及びそれを用いた新規複合材料を提供する。さらには本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲル、及びバクテリアセルロースエアロゲルを利用した複合材料とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は新規材料に基づく、従来のリチウムイオン導電性材料の有する上記欠点のない優れたリチウムイオン導電性材料を見出すべく鋭意研究した結果、酢酸菌が生産するバクテリアセルロースヒドロゲルの水分を、リチウムイオンを含有する非水有機溶媒で完全に置換してリチウムイオン含有バクテリアセルロース有機ゲルとすることができ、さらに得られるゲルが良好なリチウムイオン伝導性を有することを見出し本発明を完成した。
【0008】
また、超臨界状態の溶媒を用いてバクテリアセルロースヒドロゲルの水分を形状を損なうことなく完全に乾燥できることを見出し本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲル中の水が、リチウム化合物を含有する非水溶媒で置換されているリチウムイオン導電性材料に関する。
【0010】
また本発明は、かかる非水溶媒が、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択されることを特徴とするリチウムイオン導電性材料に関する。
【0011】
また本発明はかかる非水溶媒が、特にポリエチレングリコールジメチルエーテルであるリチウムイオン導電性材料に関する。
【0012】
さらに本発明は、リチウム化合物が、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択されることを特徴とするリチウムイオン導電性材料に関する。
【0013】
また本発明はリチウム化合物が、特にリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドであるリチウムイオン導電性材料に関する。
【0014】
また、本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲルを、リチウム化合物を含有する非水溶媒中に浸漬させ、減圧及び加熱下に一定期間放置し、引き続き昇温させ更に減圧下で一定期間放置することを特徴とする、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、非水溶媒が、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択されることを特徴とする、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、非水溶媒が、ポリエチレングリコールジメチルエーテルである、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0017】
また本発明は、リチウム化合物が、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択されることを特徴とするリチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0018】
さらに本発明は、一段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ30〜90℃及び12〜36時間であり、かつ二段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ100〜160℃及び12〜36時間である、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0019】
また本発明は、一段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ60℃及び24時間であり、かつ二段階目の加熱温度及び放置時間がそれぞれ130℃及び24時間である、リチウムイオン導電性材料の製造方法に関する。
【0020】
また、本発明は、陽極、陰極及びその間に配置された本発明にかかるリチウムイオン導電性材料を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池に関する。
【0021】
また本発明者等は、無機物が混合分散された種々の高分子複合材料が種々開発されているが、その機械的、電気的特性、環境保全の観点からも問題があることに鑑み、バクテリアセルロースを用いた複合材料の実用化を目指し、鋭意研究を行った結果、バクテリアセルロースヒドロゲル中に種々の無機物質、有機高分子物質が分散された複合材料の製造方法を見出すに至った。すなわち本発明者は、従来知られていなかった培養条件でバクテリアセルロース産生菌を培養することにより、種々の無機材料及び/又は有機材料をバクテリアセルロースヒドロゲル中に取り込ませることができること、さらに得られた無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロースヒドロゲルを脱水等の処理をすることにより、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料が得られることを見いだし本発明を完成した。
【0022】
以下、本発明の意味する無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料には、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロースヒドロゲル、若しくはその水分の一部を除いたもの、若しくは水分をほぼ完全に除いたものを含む。
【0023】
すなわち本発明は、広範な技術分野に応用できる全く新しい機能を有する複合材料であって、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料に関する。
【0024】
また本発明は、無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする複合材料に関する。
【0025】
さらに本発明は、バクテリアセルロース産生菌を、無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で培養することで、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料を製造する方法に関する。
【0026】
また本発明は、培養培地において、炭素源として、グルコース、マンニトール、スクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖蜜、エタノール、酢酸、クエン酸が使用され、窒素源として、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ポリペプトンが使用され、無機塩類として、リン酸塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩が使用され、有機微量栄養素として、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、カザミノ酸、イーストエキストラクト、大豆蛋白加水分解物が使用されることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0027】
また、本発明は培養培地が、グルコース、ポリペプトン、イーストエクストラクト、マンニトールを含有することを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0028】
また本発明は、バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクター属、グルコノバクター属、アグロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する細菌であることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0029】
さらに本発明は、バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクターキシリナム(IFO NO 13772)であることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0030】
さらに本発明は、バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクターキシリナム(IFO NO 13772)から得られた新種株(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター寄託番号FERM P−20332、国際寄託番号FERM BP−10357)であることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0031】
また本発明は、無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法に関する。
【0032】
また本発明者等は、バクテリアセルロースヒドロゲルの形状をほとんど損なうことなく完全に乾燥する方法を鋭意研究した結果、特定の溶媒を超臨界条件を用いて乾燥できることを見出した。
【0033】
従って、本発明は、新規なエアロゲルである、バクテリアセルロースエアロゲルに関する。
【0034】
また、本発明は、バクテリアセルロースヒドロゲルを、超臨界エタノールで脱水乾燥してバクテリアセルロースエアロゲルを製造する方法に関する。
【0035】
また本発明は、かかるバクテリアセルロースエアロゲルに、水又は塩を含む水を吸収させて、バクテリアヒドロゲルを製造する方法に関する。
【0036】
さらに本発明は、かかるバクテリアセルロースエアロゲルに、有機溶媒又は塩を含む溶媒を吸収させて、バクテリアセルロースオルガノゲルを製造する方法に関する。
【0037】
また、本発明には、バクテリアセルロースエアロゲルから得られたヒドロゲル、オルガノゲル、また種々の塩を含むヒドロゲル、オルガノゲルが含まれる。
【発明の効果】
【0038】
本発明にかかるリチウムイオン導電性材料は、バクテリアセルロースヒドロゲル中の水をリチウム化合物を含有する非水溶媒で完全に置換されたものであることから、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ機械的強度に優れた特性を示す。かかる特性を有するリチウムイオン導電性材料をセパレータとして用いて優れた性能を発揮するリチウムイオン電池が得られる。
【0039】
本発明にかかる製造方法によれば、バクテリアセルロース繊維中に種々の無機材料及び/又は有機材料を取り込ませることができる。従って本発明による製造方法により得られる複合材料は優れた成形性、機械的、電気的特性、生分解性を示す。
【0040】
本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、バクテリアセルロースヒドロゲルの形状にはほとんど変化なく、乾燥したものである。従って、水を始め種々の種類の有機溶媒をほぼ制限なく含ませることができ、ヒドロゲル、オルガノゲルを調製することができる。これらは種々の新規な複合材料の基材となることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1はアセトバクターキシリナムの変異体が形成するバクテリアセルロースゲルの厚さを比較した結果を示す。
【図2】図2は、PEO−BCゲル電解質のCole-Coleプロットを示す(測定温度55℃、膜厚0.1076cm 9.78x10−3S/cm)。
【図3】図3は、実施例7で得られた試料のシリカの存在量を示す。
【図4】図4は、実施例7で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図5】図5は、実施例7で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図6】図6は、実施例8で得られたシラスバルーンバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真を示す。
【図7】図7は、実施例8で得られた試料のシラスバルーンの存在量を示す。
【図8】図8は、実施例8で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図9】図9は、実施例8で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図10】図10は、実施例9で得られたカーボンナノチューブバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真を示す。
【図11】図11は、実施例9で得られた試料のカーボンナノチューブの存在量を示す。
【図12】図12は、実施例9で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図13】図13は、実施例9で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図14】図14は、実施例10で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図15】図15は、実施例10で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図16】図16は、実施例11で得られた試料の引張試験結果を示す。
【図17】図17は、実施例11で得られた試料のDMA試験結果を示す。
【図18】図18は、実施例13で得られたバクテリアセルロースエアロゲルの電子顕微鏡写真(1万倍)を示す。
【図19】図19は、バクテリアセルロースヒドロゲル、バクテリアセルロースエアロゲル、バクテリアセルロースポリエチレンオキシドゲル、バクテリアセルロースキシレンゲルの圧縮試験結果を示す。
【図20】図20は、実施例18で得られたバクテリアセルロースPEOエーテルの赤外線吸収スペクトルを示す。
【図21】図21は、バクテリアセルロースPEOゲル電解質(Mw250及びMw550)、PEOグラフトバクテリアセルロース固体電解質のリチウムイオン導電率の温度依存性を示す。
【図22】図22は、実施例20で得られたバクテリアセルロースPEOエステルの赤外線吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(リチウムイオン導電性材料)
本発明によるリチウムイオン導電性材料は、バクテリアセルロースヒドロゲル中の水が、リチウム化合物を含有する非水溶媒で置換されたバクテリアセルロース有機ゲルであることを特徴とする。
【0043】
ここで本発明に用いられるバクテリアセルロースヒドロゲルの成分は、微生物により産生されるものであって、セルロース、セルロースを主鎖としたヘテロ多糖、β−1、3、β−1、2等のグルカン、のいずれか或はそれらの混合物である。なお、ヘテロ多糖の場合のセルロース以外の構成成分は、マンノース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸等の6炭糖、5炭糖及び有機酸等である。
【0044】
また本発明において使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルは、セルロース繊維と水とからなるゲル状物質(板状、膜状)であるにも拘わらず、非常に高い機械的強度を有する。かかるバクテリアセルロースの高い機械的強度は、産生菌である酢酸菌の培養条件を適宜調整することにより、培養時にランダムに動き回るため菌細胞から排出された繊維状のセルロースフィブリルをランダムに絡み合わせることにより達成することができる。また本発明において使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルはその高い機械的強度にも拘わらず、バクテリアセルロース中に含まれる固体含分は0.5〜1.0質量%と極めて低いことを特徴とする。
【0045】
本発明において使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルは、いわゆるセルロース生産菌であれば特に限定されない。具体的には、BPR2001株に代表されるアセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・シュクロファーメンタンス(Acetobacter xylinum subsp. sucrofermentans)、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum )ATCC23768、アセトバクター・キシリナムATCC23769、アセトバクター・パスツリアヌス(A. pasteurianus )ATCC10245、アセトバクター キシリナム(IFO NO 13772)、アセトバクター・キシリナムATCC14851、アセトバクター・キシリナムATCC11142及びアセトバクター・キシリナムATCC10821等の酢酸菌(アセトバクター属)、その他に、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属及びズーグレア属並びにそれらをNTG(ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株である。有利にはアセトバクターキシリナム(IFO NO 13772)である。さらに好ましくはアセトバクター・キシリナム(IFO NO 13772)の変異株である。
【0046】
また本発明で使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルの形状についても特に制限はない。培養条件、培養装置等適宜選択することにより、好まし形状(柱状、板状、膜状等の場合には、縦、横、高さ、厚み。円盤状の場合には半径、厚み等)に自由に産性させることができる。また、得られたバクテリアセルロースヒドロゲルはそのまま好ましい形状に切りとることも可能である。具体的には、板状、柱状、膜状、円盤状、リボン状、柱状、線状等が挙げられる。
【0047】
また本発明で使用可能なバクテリアセルロースヒドロゲルは通常公知の保存方法により長期間保存することができる。必要な場合、保存安定剤を添加することもできる。
【0048】
本発明によるバクテリアセルロースヒドロゲルの水分と置換される非水溶媒は、下で説明するリチウム塩を溶解させ、かつ形状を破壊することなくバクテリアセルロースヒドロゲルの水分と完全に置換され得るものであればよく特には限定されない。具体的には、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択される1以上、若しくはそれらの混合物が挙げられる。またリチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐える溶媒が好ましく、この目的のために特にポリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい。
【0049】
さらに本発明により非水溶媒と共に使用されるリチウム化合物は、かかる非水溶媒に十分に溶解し、かつ安定に存在するものであれば特に制限はない。具体的には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択される一種以上を使用することが好ましい。リチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐えるリチウム化合物が好ましく、この目的のために特にリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドが好ましい。
【0050】
さらにリチウムイオンの含有量についても特に制限はなく、本発明にかかるバクテリアセルロース有機ゲルを利用する目的に適した濃度にすることが可能である。具体的にはEO単位に対して0〜20モル%の範囲が可能であり、リチウムイオン電池のリチウムイオン伝導体として使用する場合には、5〜6モル%の範囲が可能である。
【0051】
本発明にかかるバクテリアセルロース有機ゲルは、固形分が極めて低いにも拘わらず極めて高い機械的強度を有することを特徴とする。有機ゲルの機械的強度を評価する種々の測定方法が使用可能である。また、バクテリアセルロース有機ゲルはそのまま好ましい形状に切りとることも可能である。具体的には、板状、柱状、膜状、円盤状、リボン状、柱状、線状等が挙げられる。
【0052】
本発明にかかるバクテリアセルロース有機ゲルは、リチウムイオンを含有するものであり、そのイオン伝導性は種々の測定方法で評価することができる。
【0053】
本発明にかかるリチウムイオンを含有するバクテリアセルロース有機ゲルのリチウムイオン伝導性は非水有機溶媒の種類、含有リチウムイオンの種類と濃度、温度、若しくは形状等に依存する。
【0054】
本発明にかかる製造方法は、バクテリアセルロースヒドロゲルの水分を、リチウム化合物を含有する非水溶媒に完全に置換することを特徴とする。従ってバクテリアセルロースヒドロゲル中の水分子を、ゲルの形状、性質を大きく損なうことなく非水溶媒分子と置換することができる方法であれば特に制限はない。具体的には非水溶媒中にバクテリアセルロースヒドロゲルを浸漬させることにより置換することが可能である。さらに置換をより迅速に、また完全にするために、浸漬を減圧条件下で行うことも可能である。さらに適当な加温条件下で行うことも可能である。より具体的には、非水溶媒中にバクテリアセルロースヒドロゲルを浸漬させ、減圧かつ加熱条件下に一定期間放置し、引き続き昇温させ更に減圧下で一定期間放置することが好ましい。ここで第一段階目の加熱温度及び放置時間は、30〜90℃及び12〜36時間、有利には50〜70℃及び20〜30時間、特に有利には60℃及び24時間である。また第二段階目の加熱温度及び放置時間は、100〜160℃及び12〜36時間、有利には120〜140℃及び20〜30時間、特に有利には130℃及び24時間である。
【0055】
本発明にかかるリチウムイオン電池は、陽極及び陰極と、その間に設けられた本発明にかかるリチウムイオン導電性材料を含むことを特徴とする。ここで、本発明により使用される陽極および陰極材料は特に制限されず、通常公知のリチウムイオン電池で使用される材料であればよい。特に陽極材料としてはLiMnO2、LiCoO2またはLiNiO2である。また本発明により使用される陰極材料としてはリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料である。本発明にかかるリチウムイオン電池のリチウムイオン伝導体の形状についても特に制限はなく、板状、膜状、リボン状等の種々の形状を適宜選択することが可能である。
【0056】
本発明にかかるバクテリアセルロース複合材料は、バクテリアセルロース繊維中に種々の無機材料及び/又は有機材料を取り込ませた構造であることを特徴とする。ここでバクテリアセルロースには水分を含むヒドロゲル、水分を一部含むもの、また水分が除かれた乾燥したものを含む。
【0057】
取り込まれる無機材料及び/又は有機材料の、種類、形状、含有量については特に制限はない。複合材料に望まれる物性を付与するための好ましい無機材料及び/又は有機材料の種類を選択することができる。具体的にはシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ等の無機材料、又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等の有機材料が挙げられる。また形状(又はサイズ)についても球状、針状、棒状、板状、または無定型等種々の形状の材料が取り込まれる。特に本発明の複合体にはナノサイズの材料が取り込まれる。また含有量についても特に制限はなく、複合材料の使用目的に合致するように適宜選択することができる。通常バクテリアセルロース複合材料中の無機材料及び/又は有機材料の含有量は、1〜25重量%の範囲である。
【0058】
さらに、本発明にかかる複合体の構造は、従来知られているような単にセルロース材料と無機材料及び/又は有機材料を混合したものではなく、無機材料及び/又は有機材料がセルロース繊維中にほぼ均一に分散した状態で取り込まれている特徴的な構造を有する。かかる構造は、例えば電子顕微鏡を用いることにより容易に観察することができる。
【0059】
また本発明にかかる複合体には、以下説明する培養方法で得られるバクテリアセルロースヒドロゲルをさらに種々の処理をして得られる物も含まれる。かかる処理は、具体的には脱水乾燥処理、圧縮変形処理、脱水圧縮乾燥処理、成形処理、成形処理後の脱水、乾燥、圧縮変形、脱水圧縮乾燥処理等が挙げられる。かかる処理をおこなうことにより、例えばバクテリアセルロースヒドロゲルを乾燥薄片化して紙状、板状、リボン状に形状変形することができる。また適当な型を用いて圧縮脱水成形させることにより、望ましい立体形状に成形することができる。かかる成形された複合体は、スピーカ用コーン等の音響材、皿、コップ等の食器類、医療用具用材料、玩具文具用材、建築用材、衣類用材、車や家屋の内装用材等に好ましく使用できる。また生分解性においても非常に優れており、環境適合性に優れた材料である。
【0060】
本発明の複合体の有する物性は、従来公知の種々の物性測定方法、装置を用いて評価することができる。またヒドロゲルの状態、乾燥された状態のいずれについても従来公知の種々の物性測定方法、装置を用いて評価することができる。さらに上で説明した処理、成形された複合体についても種々の物性測定方法、装置を用いて評価することができる。
具体的には機械的強度特性は動的粘弾性測定、引張試験により、さらに熱力学的特性については熱重量測定により評価することができる。
【0061】
本発明にかかる製造方法は、バクテリアセルロース産生菌を無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で特定の培養条件下で培養することで、無機材料及び/又は有機材料を取り込んだバクテリアセルロースヒドロゲルを得ることが可能となる方法である。
【0062】
本発明で使用可能なバクテリアセルロース産生菌は、培地中においてセルロースを生産できるものであれば特に限定されるものではなく、例えばアセトバクター属、グルコノバクター属、アグロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。これらのなかでもアセトバクター属の細菌が好ましく、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)、有利にはアセトバクター・キシリナム(IFO NO 13772)が特に好ましい。さらに好ましくはアセトバクター・キシリナム(IFO NO 13772)の変異株である。具体的には独立行政法人産業技術総合研究所に寄託された寄託番号の変異株の使用が好ましい。
【0063】
本発明で使用可能な培地成分は、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する培地を用いればよく、炭素源として、グルコース、マンニトール、スクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖蜜、エタノール、酢酸、クエン酸が使用され、窒素源として、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ポリペプトンが使用され、無機塩類として、リン酸塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩が使用され、有機微量栄養素として、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、カザミノ酸、イーストエキストラクト、大豆蛋白加水分解物が使用される。好ましくはグルコース、ポリペプトン、イーストエクストラクト、マンニトールである。
【0064】
無機材料及び/又は有機材料は培養の任意の時点で添加してよいが、培養を開始する前に添加しておくことが好ましい。本発明の培養条件は、pHは5〜9、温度は10〜40℃、特に好ましくは25〜30℃に制御しつつ1〜15日間、好ましくは1〜3日間程度が良い。本発明で使用可能な培養形態は、静置培養、通気攪拌培養、振盪培養、振動培養、エアリフト型の培養などがあり、本発明は特に限定するものではないが、静置培養が好ましい。培養容器の形状についても特に制限はなく、望む形状でバクテリアセルロースヒドロゲルが生成するように選択することができる。
【0065】
(バクテリアセルロースエアロゲル)
また、本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、バクテリアセルロースヒドロゲルを乾燥して得られる新規なエアロゲルである。構造は電子顕微鏡により容易に観察できる。図5に一例を示した。この写真から、エアロゲル内部は、数十nmの極めて細いセルロースフィブリルが3次元に高度に分岐した構造をもっていることが分かる。乾燥の方法は特に制限はないが、形状を大きく損なわずに脱水乾燥し得る手段であればよい。例えば超臨界溶媒メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、による方法が好ましい。具体的にはエタノールを用いる超臨界乾燥が挙げられる。この場合、圧力が6.38〜11MPa、温度が243〜300℃の範囲が好ましい。
【0066】
得られたエアロゲルの形状はほとんど変化しない。従って密度は非常に小さい。約6mg/lの程度である。本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、白色やや透明である。また種々の材質の表面に付着する傾向がある。ガラス、金属、プラスチック、皮膚等に容易に付着する。この付着は静電気に基づくものではない。また残量表面水分によるものでもない。またナイフ等の鋭利な刃物で容易に切断することができる。
【0067】
本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは水、その他の溶媒に漬けた場合その溶媒を容易に吸い込むことができる。溶媒には水の他、極性有機溶媒、無極性有機溶媒が含まれる。具体的には、水、トルエン、ベンゼン、キシレン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトンメチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(Mw250)ポリエチレングリコール(Mw600)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、n-ヘキサン、テトラヒドロフラン、シリコン油が挙げられる。当該溶媒を含んだオルガノゲルはその形状を維持する。さらにオルガノゲルを溶媒から持ち上げると重力に逆らってゲル内にかなり保持される傾向がある。本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは水、その他の溶媒に漬けた場合その溶媒に同時に存在させて種々の塩を同時に吸い込むことができる。例えば、リチウムイオン導電性材料を得る目的では、溶媒としてポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートおよびポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択される1以上、若しくはそれらの混合物が挙げられる(またリチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐える溶媒が好ましく、この目的のために特にポリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい)。またリチウム塩としては具体的には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)およびリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(CF3SO2)2)からなる群より選択される一種以上を使用することが好ましい(リチウム電池に使用する場合、リチウム/リチウムイオンの電気化学変化に安定に耐えるリチウム化合物が好ましく、この目的のために特にリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドが好ましい)。
【実施例】
【0068】
以下では、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)バクテリアセルロースの調製:
1.寒天培地の製造
グルコース0.5g、ポリペプトン0.5g、硫酸マグネシウム0.1g、イーストエクストラクト0.5g、0.5gマンニトールを純粋100mlに溶解させ、該溶液にアガー2gを添加し加熱溶解させた。これを試験管に8mlずつ取り分けウレタン培養栓をする。更に該栓をアルミ箔でしっかり覆う。オートクレーブで120℃、9分間加熱滅菌を行った。滅菌した溶液を一晩斜めにして放置し、生成したゲル状物を斜面培地とした。
【0070】
2.培地への植菌
前記斜面培地へアセトバクターキシリナム(FERM P−20332)を植菌し、30℃で培養を行った。
【0071】
3.培養液の調製
グルコース15g、ポリペプトン2.5g、硫酸マグネシウム0.5g、イーストエクストラクト2.5g、マンニトール2.5gを純粋500mlに溶解させオートクレーブで120℃で9分間加熱滅菌を行った。
【0072】
4.母液の調製
培養液と同様の溶液を作成し、そのうち約5mlを試験管に添加し、斜面培地から菌を洗い取った。該液を再び培養液中に戻し、菌の活性化のために30℃で3日間放置し、これを母液とした。
【0073】
5.培養
母液と培養液とを1:1の割合で混合し、0.4質量%となるようにエタノールを加え、深底シャーレに展開した。これを30℃で25日間静置培養しバクテリアセルロースゲルを得た。
【0074】
6.バクテリアセルロースゲルの漂白
生成したゲルを流水で十分に洗浄し、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸し、細菌体等の不純物を溶解除去した。次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをバクテリアセルロース試料とした。
【0075】
(実施例2)アセトバクター キシリナムの変異株
アセトバクターキシリナム(IFO13772)を実施例1と同様の方法にて培養した。得られたアセトバクターキシリナムはYMNU−01として独立行政法人産業技術総合研究所に寄託した(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター寄託番号FERMP−20332、国際寄託番号FERM BP−10357)であることを特徴とする。図1に示されるように、得られたアセトバクターキシリナムは、極めて厚いゲルを生成することが分かった。
【0076】
(実施例3)バクテリアセルロースゲル電解質の製造
1.リチウムイオン電解液の調製
リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド78.50gをポリエチレングリコールジメチルエーテル200gに溶解させて電解液とした。
2.ゲル電解質の調製
セパラブルフラスコに調製した前記の電解液にバクテリアセルロース試料118gを浸漬させ60℃で減圧下に24時間放置し分散媒混合を行った。次いで段階的に昇温させ、最終的に130℃で減圧下に24時間放置し分散媒交換を行いゲル電解質とした。
【0077】
(実施例4)ゲル電解質のリチウムイオン伝導性の測定
1.インピーダンス測定
インピーダンス測定装置(HP社製、PRECISION LCR METER 4284A型)を用い印加電圧10mV、測定周波数20Hz〜1MHz、30℃ヘリウム雰囲気下、直径23.5mmの銅板で試料を挟みインピーダンスを測定した。測定した試料は直径23.5mm、厚さ3.29mmの円筒形であった。得られたナイキストプロットを図2に示す。これにより該ゲル電解質のイオン伝導率は9.78x10−3[S/cm]であった。
【0078】
(実施例5)リチウムイオン電池の作成
1.陽極の調製
5質量%の硫酸マンガン(II)水溶液を調製した。正極を炭素棒、負極を銅板として直流電圧3Vで電気分解を行い酸化マンガン電極を調製した。
2.陰極の調製
グローブボックス内、窒素雰囲気下で、0.75mm厚のリチウムリボンを20mm×10mmに切断して陰極とした。
3.電池の作成及び電圧の測定
厚さ5mmのバクテリアセルロース試料を20mm×20mmに切断し、陽極と陰極の間に挟みリチウム電池を作成した。該電池の電圧をテスター(DIGITAL MLTMETER CD721型)で複数回測定した結果、平均値3.4Vの電圧が確認された。
【0079】
(実施例6)バクテリアセルロースヒドロゲルを利用した複合材料の製造
ここで寒天培地を次のように製造した。グルコース0.5g、ポリペプトン0.5g、硫酸マグネシウム0.1g、イーストエクストラクト0.5g、0.5gマンニトールを純粋100mlに溶解させ、該溶液にアガー2gを添加し加熱溶解させた。これを試験管に8mlずつ取り分けウレタン培養栓をする。更に該栓をアルミ箔でしっかり覆う。オートクレーブで120℃、9分間加熱滅菌を行った。滅菌した溶液を一晩斜めにして放置し、生成したゲル状物を斜面培地とした。
【0080】
また前記斜面培地へアセトバクター・キシリナムを植菌し、30℃で培養を行った。
【0081】
また培養液を次のように調製した。グルコース15g、ポリペプトン2.5g、イーストエクストラクト2.5g、マンニトール2.5gを純粋500mlに溶解させオートクレーブで120℃で9分間加熱滅菌を行った。
【0082】
さらに、母液を次のように調製した。培養液と同様の溶液を作成し、そのうち約5mlを試験管に添加し、斜面培地から菌を洗い取った。該液を再び培養液中に戻し、菌の活性化のために30℃で3日間放置し、これを母液とした。
【0083】
(実施例7)コロイダルシリカを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製スノーテックスO、スノーテックスS、スノーテックス20)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液80ml、母液100ml、コロイダルシリカ20ml、母液を100mlとし培養液を90ml、コロイダルシリカ10ml及び、培養液95コロイダルシリカ5mlを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.コロイダルシリカバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをコロイダルシリカバクテリアセルロース試料とした。
3.コロイダルシリカバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
コロイダルシリカバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。
4.コロイダルシリカバクテリアセルロース試料中のシリカの存在の測定
コロイダルシリカバクテリアセルロース試料の乾燥フィルムを約100mg秤量し、900℃の電気炉で3時間加熱し、灰分の質量から無機成分の含有量を見積もった。結果を図3に示す。これによりシリカの存在が示唆される。
5.引張試験
結果を図4に示す。この図からコロイダルシリカを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図5に示す。この図からコロイダルシリカを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が向上したことが分かる。
【0084】
(実施例8)シラスバルーンを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.シラスバルーン(パブリック・ストラテジー株式会社製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、シラスバルーン0.1〜2gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.シラスバルーンバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをシラスバルーンバクテリアセルロース試料とした。
3.シラスバルーンバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
シラスバルーンバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。図6は、シラスバルーンバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真であり、シラスバルーン(数μm程度の球状)の表面、及び周囲の空間にバクテリアセルロースのフィブリルが生成していることが分かる。
4.シラスバルーンバクテリアセルロース試料中のシラスバルーンの存在の測定
シラスバルーンバクテリアセルロース試料の乾燥フィルムを約100mg秤量し、900℃の電気炉で3時間加熱し、灰分の質量から無機成分の含有量を見積もった。結果を図7に示す。これによりシラスバルーンの存在が示唆される。
5.引張試験
結果を図8に示す。この図からシラスバルーンの充填量の増加と共にシラスバルーンを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図9に示す。この図から室温以下では、シラスバルーンを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が向上し、室温以上ではシラスバルーンを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が低下したことが分かる。また、tanδピークがシラスバルーン充填量の増加と共にブロード化し、高温側にシフトした。これは、シラノール基のOHとピラノース環のOH基同士の水素結合により、ピラノース環の運動が束縛されたと考えられる。
【0085】
(実施例9)カーボンナノチューブを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.カーボンナノチューブ(株式会社物産ナノテク研究所製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、カーボンナノチューブ0.02〜1gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.カーボンナノチューブバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをカーボンナノチューブバクテリアセルロース試料とした。
3.カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。図10は、カーボンナノチューブバクテリアセルロースの電子顕微鏡写真であり、カーボンナノチューブ(数nm程度の球状)とバクテリアセルロースのフィブリルが複雑に絡み合う状態であることが分かる。
4.カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料中のカーボンナノチューブの存在の測定
カーボンナノチューブバクテリアセルロース試料の乾燥フィルムを約100mg秤量し、900℃の電気炉で3時間加熱し、灰分の質量から無機成分の含有量を見積もった。結果を図11に示す。これによりカーボンナノチューブの存在が示唆される。
5.引張試験
結果を図12に示す。この図からカーボンナノチューブを含有しないバクテリアセルロースより破断強度、歪み共に向上したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図13に示す。この図から、カーボンナノチューブを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が向上し、耐熱性も向上したことが分かる。
【0086】
(実施例10)ポリビニルアルコールを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.ポリビニルアルコール(SCIENTIFICPOLYMER PRODUCTS,INC製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、ポリビニルアルコール0.1〜4gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.ポリビニルアルコールバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをポリビニルアルコールバクテリアセルロース試料とした。
3.ポリビニルアルコールバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
ポリビニルアルコールバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。
5.引張試験
結果を図14に示す。この図からポリビニルアルコールを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図15に示す。この図から、ポリビニルアルコールを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が低下したことが分かる。
【0087】
(実施例11)ヒドロキシプロピルセルロースを取り込んだバクテリアセルロースの製造方法
1.ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達製)存在下でのバクテリアセルロース産生菌の培養
培養液100ml、母液100ml、ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜4gを混合し深底シャーレに展開後25日間培養を行った。
2.ヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロースゲルの漂白
25日後に、生成したゲルを流水で十分に洗浄し、次いで0.5質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に12時間浸し漂白を行った後に、流水で十分に洗浄し、これをヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロース試料とした。
3.ヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロース試料の圧縮フィルムの製造
ヒドロキシプロピルセルロースバクテリアセルロース試料をヒートプレスで120℃、1〜2MPaで圧縮し、フィルムとした。
5.引張試験
結果を図16に示す。この図からヒドロキシプロピルセルロースを含有しないバクテリアセルロースより破断強度が低下したことが分かる。
6.DMA試験
結果を図17に示す。この図からヒドロキシプロピルセルロースを含有しないバクテリアセルロースより貯蔵弾性率が低下したことが分かる。
【0088】
(実施例12)バクテリアセルロースゲルの乾燥
約20mm×20mm×20mm(8g)のバクテリアセルロースゲルを、100ml容積のステンレススチール製オートクレーブに入れた。エタノールを導入して、約6.5MPa、約243℃の条件を維持した。約3分後、圧力を常圧に戻しエタノールを除去した。得られた乾燥バクテリアセルロースゲルは、その形状はほとんど変化せず重量は0.5gであった。この結果バクテリアセルロースゲルは超臨界エタノールにより形状を維持した状態でほぼ完全に乾燥することができることが分かる。
【0089】
また得られた乾燥バクテリアセルロースゲルをそのまま水中に入れ放置するとバクテリアセルロースヒドロゲルが再生された。また得られた乾燥バクテリアセルロースゲルを圧縮して板状とした後、温水に入れて放置すると同様にバクテリアセルロースヒドロゲルが再生された。この結果は乾燥バクテリアセルロースゲルは圧縮しても水酸基の再配列により構造の変化が起こらないことを意味する。
【0090】
(実施例13)バクテリアセルロースエアロゲルの製造
バクテリアセルロースゲルを洗浄し、10mm×10mm×10mmの立方体に切り出し試料とした。得られた試料をエタノール中に24時間浸漬した後エタノールを交換しさらに24時間浸漬した。これを3回繰り返すことにより分散媒を水からエタノールに交換した。試料を50mlのオートクレーブに入れ、エタノールが超臨界状態となる条件として、圧力6.38MPa、温度243℃〜300℃で10分間処理した。得られた乾燥バクテリアセルロースゲル(バクテリアエアロゲル)の形状は10mm×10mm×10mmであった。この結果は、乾燥処理による形状変化がほとんどないことを示す。また重量は6mgであった。この結果から、得られたバクテリアセルロースエアロゲルの密度が約6mg/cm3であり、極めて軽い材料であることが分かる。
【0091】
図18に得られたバクテリアセルロースエアロゲルの断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真像を示す。内部空間はほぼ均一に多くの細いフィブリルがからみあっている網目構造で満たされていることが分かる。またフィブリルはナノメートルオーダーであることも分かる。
【0092】
また万能試験機を用いJIS K7208法で圧縮測定した圧縮強度の結果を図19に示した。ヒドロゲルに比較して約2倍の強度を有することが分かる。この結果はヒドロゲルが水によって可塑化されているものと推定される。
【0093】
(実施例14)
上で得られたエアロゲルを、室温で、11mmHgの真空下で水と接触させることにより水を吸収し、ヒドロゲルとなった。得られたヒドロゲルの形状及び、重量は、10mm×10mm×10mm、1gであった。
【0094】
(実施例15)
上で得られたエアロゲルを、室温で、11mmHgの真空下で次の有機溶媒と接触させることにより、溶媒を吸収し、オルガノゲルとなった。
溶媒:キシレン、形状13.6mmx14.0mmx12.1mm、重量2.104g
溶媒:ポリエチレンオキシド、形状11.9mmx12.12mmx7.3mm、重量1.383g
またJIS K7208法により測定した圧縮強度の結果を図19に示した。溶媒の種類により強度が相違することが分かる。この結果は各種溶媒の粘度及び、極性によるものと推定される。
【0095】
(実施例16)
上で得られたエアロゲルを、室温で、11mmHgの真空下、次の塩を溶解した水又は有機溶媒と接触させることにより、塩を分散したヒドロゲル、又はオルガノゲルを得た。
溶媒(塩):ポリエチレンオキシド(LiN(CF3SO2)2)、形状12.1mmx11.6x11.7mm、重量2.104g
またJIS K7208法により測定した圧縮強度の結果を図19に示した。溶媒の種類により強度が相違することが分かる。この結果は溶媒の粘度及び、セルロースとの相互作用にによるものと推定される。
【0096】
(実施例17) Li+導電性を持つバクテリアセルロース−PEOオルガノゲル
リチウム塩を溶解した分子量250のポリエチレンオキシド(PEO)を減圧下でバクテリアセルロースエアロゲルに加えてLi+導電性を持つバクテリアセルロース−PEOオルガノゲルを得た。図21に示されるように、このLi+電解質はリチウム塩PEO溶液とほぼ同じLi+導電率を示した。
【0097】
また図19にバクテリアセルロースヒドロゲル、バクテリアセルロースエアロゲル、バクテリアセルロース−PEOオルガノゲルの圧縮強度試験の結果を示した。この結果から、ヒドロゲルはエアロゲルよりも弱く、オルガノゲルが最も強いことが分かる。
【0098】
(実施例18)バクテリアセルロースPEOエーテル
バクテリアセルロースエアロゲル(10mmx10mmx10mm、6mg)をキシレン50ml中でナトリウムメトキシド0.027gとともに1時間攪拌して反応させた。後減圧してキシレンを除き、酸化エチレン50gと、8MPaで140℃、6時間反応させた。得られた粗反応生成物をエタノール、水、次いでアセトンで繰り返し洗浄し、バクテリアセルロースPEOエーテルを得た。図20には、得られたPEO側鎖を有するエーテルの赤外線吸収スペクトルを示した。
【0099】
(実施例19)バクテリアセルロースPEOエーテルLiイオン伝導膜
上の実施例で得られたバクテリアセルロースPEOエーテルを、その後、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)のエタノール溶液に、24時間浸した後、120℃にて減圧乾燥してバクテリアセルロースPEOエーテルLiイオン伝導膜を得た。
【0100】
図21に、得られたイオン電動膜のリチウムイオン伝導度測定結果を示した。
(実施例20)バクテリアセルロースPEOエステル
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn350)(PEG−350)8.2gを、アセトン150ml中で、ジョーンズ試薬(57.2g)と48時間攪拌して反応させ、末端の水酸基を酸化した。イソプロピルアルコールを20ml加えて反応を停止させた。後クロロホルムにて抽出し、水で洗浄し、乾燥して末端カルボン酸(PEO-350モノカルボン酸)を得た。
【0101】
バクテリアセルロースヒドロゲル(20mmx20mmx10mm、4g)を、200mlのN、N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)中で24時間保持してこれを5回繰り返し水と、DMAcとを交換した。さらに上のPEO−350モノカルボン酸と、0.2gの4−[N、N’−ジメチルアミノ]ピリジン(DMAP)と、3.3gのN、N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)との存在下、室温にて4日間攪拌して脱水縮合反応させた。得られた粗反応生成物をエタノール、水、次いでアセトンで洗浄し、バクテリアセルロースPEOエステルを得た。図22には、得られたPEO側鎖を有するエステルの赤外線吸収スペクトルを示した。
【0102】
(実施例21)バクテリアセルロースPEOエステルLiイオン伝導膜
上の実施例で得られたバクテリアセルロースPEOエステルを、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)のエタノール溶液に、48時間浸した。後、室温にてにて減圧乾燥してバクテリアセルロースPEOエステルLiイオン伝導膜を得た。
【0103】
図21に、得られたイオン電動膜のリチウムイオン伝導度測定結果を示した。
(実施例22)IPN構造を有する有機−無機複合エアロゲル
バクテリアセルロースヒドロゲル(10mmx10mmx10mm、1g)に、500ml水中でテトラエトキシシラン17.3gを加え、その場重合を行った。得られたゲルをエタノール超臨界乾燥させた。走査型電子顕微鏡観察の結果、有機−無機複合エアロゲルはIPN構造を有することが分かる。
【0104】
(実施例23)バクテリアセルロースエアロゲル脱水物
バクテリアセルロースエアロゲル(30mmx20mmx15mm、52mg)を、丸底フラスコに入れ、真空ポンプを用いて減圧し、0.1mmHgにて350℃、4時間加熱脱水を行い、また黒色スポンジ状のバクテリアセルロースエアロゲル脱水物として1.7mg得た。
【0105】
(実施例24)陽極の作成およびリチウム電池の作成
LiMn204粉末4g、グラファイト0.75g、5wt%ポリフッ化ビニリデン/N-メチルピロリドン溶液0.5gを乳鉢に入れ、混練した。テフロン(登録商標)シート上に混練物をシート上に広げ、100℃乾燥機で1時間乾燥させた。これにステンレスメッシュをかぶせ、常温で3t/cm2でプレスし、圧着を行い、陽極とした。この陽極とリチウム箔でBCゲル電解質をはさみ、電池とした。この電池に6Vの電圧をかけ、30分間充電を行った。
この電池の電圧は3.4Vであった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の材料は新規な材料を用いたリチウムイオン伝導体材料であり、また容易にリチウムイオン電池を構築することができるものである。従って、リチウムイオン伝導性材料やリチウムイオン電池を利用する種々の技術分野、例えば家電、電子機器、自動車、建築、光学機器、航空宇宙関連機器その他あらゆる分野の市場において極めて大きな利用が可能である。
【0107】
本発明にかかるバクテリアセルロース複合材料は、バクテリアセルロース中に無機材料及び/又は有機材料が取り込まれた構造を有する。それゆえにかかる材料は、優れた成形性、機械的、電気的特性、生分解性を奏する。かかる新規な材料によりもたらされる効果は従来知られてきた材料の有する物性からは全く予想できない非常に優れた性質であり、従来の複合材料において強く希望されてきた未解決課題の多くを一掃するものである。種々の技術分野、例えば医薬品、医療用製品、医療装置、家電、電子機器、自動車、建築、光学機器、航空宇宙関連機器その他あらゆる分野の市場において、新規な物性を有する本発明にかかる材料は極めて大きな要求が認められその産業上に利用可能性は極めて高い。
【0108】
本発明にかかるバクテリアセルロースエアロゲルは、優れたフィルター性能、吸水倍率、吸水速度及び液通過性を有し、吸水後のゲルの経時安定性及びゲルの強度に優れている。また該材料は、有機溶媒の吸収能力をも有する。従って、かかる材料は、生理用ナプキン、紙おむつ、成人用シーツ、タンポン、及び衛生綿等の衛生材料に有用である。また、上記材料は、長時間使用してもゲル構造が劣化せず、さらには弾力性に富むので、保水剤、止水剤等の園芸、土壌建築用資材としても使用可能である。更に、上記高吸水性ポリマーは、形状、弾力性、吸水性、及び通気性の重要視される化粧品への応用も期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料。
【請求項2】
無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
バクテリアセルロース産生菌を、無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で培養する、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法。
【請求項4】
培養培地において、炭素源として、グルコース、マンニトール、スクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖蜜、エタノール、酢酸、クエン酸が使用され、窒素源として、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ポリペプトンが使用され、無機塩類として、リン酸塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩が使用され、有機微量栄養素として、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、カザミノ酸、イーストエキストラクト、大豆蛋白加水分解物が使用される、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
培養培地が、グルコース、ポリペプトン、イーストエクストラクト、マンニトールを含有する、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクター属、グルコノバクター属、アグロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する細菌である、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクターキシリナムである、請求項3から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項3から7までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
バクテリアセルロースエアロゲル。
【請求項10】
バクテリアセルロースヒドロゲルを、超臨界エタノールで脱水乾燥してバクテリアセルロースエアロゲルを製造する方法。
【請求項11】
バクテリアセルロースエアロゲルに、水又は塩を含む水を吸収させて、バクテリアヒドロゲルを製造する方法。
【請求項12】
バクテリアセルロースエアロゲルに、有機溶媒又は塩を含む溶媒を吸収させて、バクテリアセルロースオルガノゲルを製造する方法。
【請求項1】
無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料。
【請求項2】
無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
バクテリアセルロース産生菌を、無機材料及び/又は有機材料が添加された培養培地中で培養する、無機材料及び/又は有機材料を取り込ませたバクテリアセルロース複合材料の製造方法。
【請求項4】
培養培地において、炭素源として、グルコース、マンニトール、スクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖蜜、エタノール、酢酸、クエン酸が使用され、窒素源として、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ポリペプトンが使用され、無機塩類として、リン酸塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩が使用され、有機微量栄養素として、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、カザミノ酸、イーストエキストラクト、大豆蛋白加水分解物が使用される、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
培養培地が、グルコース、ポリペプトン、イーストエクストラクト、マンニトールを含有する、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクター属、グルコノバクター属、アグロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する細菌である、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
バクテリアセルロース産生菌が、アセトバクターキシリナムである、請求項3から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
無機材料及び/又は有機材料がシリカゲル、シラスバルーン、カーボンナノチューブ及び/又はポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項3から7までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
バクテリアセルロースエアロゲル。
【請求項10】
バクテリアセルロースヒドロゲルを、超臨界エタノールで脱水乾燥してバクテリアセルロースエアロゲルを製造する方法。
【請求項11】
バクテリアセルロースエアロゲルに、水又は塩を含む水を吸収させて、バクテリアヒドロゲルを製造する方法。
【請求項12】
バクテリアセルロースエアロゲルに、有機溶媒又は塩を含む溶媒を吸収させて、バクテリアセルロースオルガノゲルを製造する方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1】
【図6】
【図10】
【図18】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1】
【図6】
【図10】
【図18】
【公開番号】特開2012−126912(P2012−126912A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−39585(P2012−39585)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【分割の表示】特願2006−531321(P2006−531321)の分割
【原出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【分割の表示】特願2006−531321(P2006−531321)の分割
【原出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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