説明

バグフィルタ用濾材

【課題】本発明はPTFE繊維からなるバグフィルタ用濾材に関し、所要の濾過性能を確保しつつ強度増加を可能とすることを目的とする。
【解決手段】バグフィルタ用濾材はPTFE繊維を主たる素材とし、袋状若しくは筒状のバグフィルタ14の下端若しくは上端となる濾材の部位における片面若しくは両面に当布16を縫着する。当布16はPTFE繊維を主たる素材と濾材とは共布とせず、ガラス繊維等の無機繊維にて構成され、当布の表面にはPTFE繊維若しくはポリイミド繊維等の耐熱性短繊維が植設されるかポリイミド等の耐熱性樹脂がコーティングされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は焼却炉等での使用に適し、PTFE繊維からなるバグフィルタ用濾材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼却炉用のバグフィルタでは濾材としてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)繊維を使用したものが最近良く使用される。即ち、PTFE繊維は耐熱性に優れ、処理ガス中の塩素に強く、また処理ガス中の水分が多くても有効であり、焼却炉に適している。PTFE繊維性のバグフィルタは、PTFE繊維フィラメントを織製することにより構成される内層としての基布にPTFE繊維ステープルをニードルパンチ等により植設することにより構成される外層とから構成される。
【0003】
PTFE繊維は処理ガスの温度でも濾過機能を維持することができるという意味では耐熱性に優れていると言い得る。ところが、PTFEの熱挙動を見るとその軟化温度は通常は180℃、高くても230℃であり、処理ガス(燃焼ガス)の温度より相当に低いため、焼却炉での使用中は軟化した柔らないゴムのような状態と化し、強度は通常の強度の1/10程度まで低下し、また、処理ガス中に塩素ガスが含まれる場合は、塩化カルシュームが生成され、これがフィルタに膠着することにより一層の強度低下を惹起せしめる。他方、焼却炉はではバグフィルタはその多数がセルプレートに密接して装着されており、その装着は上端(処理ガス出口)をセルプレートにリテーナと共に嵌着し、下端はフリーになるように行われる。そして、バグフィルタには使用継続によりダストが堆積し、濾過能力を悪化させるので、所定時間に高圧パルスを上端開口部から導入することによりフィルタをリテーナに叩きつけダストをはたき落とすことが行われる。そして、多数のバグフィルタが密接して配置されているため、高温による軟化はこのようダストのはたき落とし動作の際に、近接バグフィルタ同士を衝突せしめ、これによりバグフィルタの損傷を惹起せしめ得る。バグフィルタの構造については例えば特許文献1参照。
【特許文献1】特開2007−237160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高圧パルスによるはたき落とし動作時による隣接したバグフィルタの下端の接触による破損の対策としてバグフィルタの下端に当布を縫着することにより強化することが行われ、特許文献1にも示されている。しかしながら、従来当布はバグフィルタを構成する濾材と同一の素材、即ち、共布により行われるのが通常で、この場合、当布は当然であるが強度よりは濾過性能を意図したものであることから、十分な補強効果が得られず、それ程の寿命延長が得られないことが多かった。
【0005】
この発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、所要の濾過性能を確保しつつ強度増加を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のバグフィルタ用濾材はPTFE繊維を主たる素材とし、バグフィルタの下端若しくは上端となる濾材の部位における片面若しくは両面にPTFE繊維と比較して高温での形態安定性が優れた別の繊維を含む当布を装着している。別の繊維はガラス繊維等の無機繊維が好ましい。
【0007】
当布としは、好ましくは、ガラス繊維等の無機長繊維の織布より構成し、このように構成した当布をバグフィルタの下端若しくは上端となる濾材の部位における片面若しくは両面に装着する。
【0008】
ガラス繊維等の無機長繊維の織布としての当布の表面を被覆するようにPTFEやポリイミド等の耐熱性短繊維が植設するか、又は、PTFEやポリイミド等の耐熱性樹脂が含浸処理せしめられる。
【発明の効果】
【0009】
当布を共布とせず、ガラス繊維等で強化した別布とすることで、当布を装着した部位での濾過性能をあまり犠牲にすることなく耐磨耗性や強度を高め、その寿命延長を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1はこの発明の濾材より構成されるバグフィルタを装着した濾過装置の一例を示しており、濾過装置のケーシング10の内部空間の上部を横切るようにセルプレート12が配置され、セルプレート12には多数のバグフィルタ14が配置される。バグフィルタ14は袋状若しくは筒状であり、上述のようにPTFE繊維フィラメントの織布にPTFE繊維ステープルをニードルパンチ等により植設して構成され、また、下端には(場合によっては上端にも)PTFE繊維にガラス繊維等の無機繊維を含ませることで強化した当布が装着されている。バグフィルタ14の上端は周知のようにセルプレート12に装着され、かつバグフィルタ14の内側には図示しない周知のリテーナが挿入され、バグフィルタ14の上端部と共にセルプレート12に固定されていおり、バグフィルタ14は下端ではフリーとなっている。リテーナは鋼材を籠構造とすることにより構成され、バグフィルタ14の筒形状を維持しつつバグフィルタの外側から内側への処理ガスの流れは阻害しないように構成される。処理ガスは矢印aのように濾過装置のケーシング10に導入され、バグフィルタ14の外周からバグフィルタ14の内部に導入され、バグフィルタ通過時に塵埃はバグフィルタに捕集され、バグフィルタ内部からの処理後のガスは上端部より取り出され、矢印bのように外部に取り出される。バグフィルタ14に捕集されたダストの払い落としのため上端に設けた配管16に高圧空気のパルスが矢印cのように導入され、高圧空気のパルスは各バグフィルタ14に導入される。高圧空気のパルスによりバグフィルタ14は加振されることでバグフィルタに捕集された塵埃は叩き落とされ、ケーシング10のバルブ18及び搬送装置(スクリュコンベヤ等)20より取り出される(矢印d)。
【0011】
最近のバグフィルタ14は処理効率を高めるため長大化しており、かつ相互間をより近接して多数を配置する構造となっている。他方、バグフィルタ14を構成するPTFEは耐熱性であるといっても基本的に熱可塑性素材であるため、180 ℃から230℃といった処理ガスの温度より相当低い温度で軟化するため、ガスの処理中は軟化伸張しかつ強度的にもその本来の強度より相当弱くなっている。そのため、前述の高圧空気のパルスによる払い落とし動作時においてバグフィルタ14の変位は特に下端部において大きくなり隣接のバグフィルタの下端部同士が衝突し、その際の衝撃によりバグフィルタ14の破損が起こり得ていた。図2は図1の部分拡大図で右側のバグフィルタ14が下端で14´のように大きく振れ、隣接したバグフィルタの下端に衝突した状態を示す。
【0012】
以上の問題点に鑑み、この発明のPTFE繊維(フッ素繊維)を主たる素材とするバグフィルタ用濾材はバグフィルタの下端若しくは上端となる濾材の部位における片面若しくは両面にPTFE繊維と比較して高温での形態安定性が優れた別の繊維を含む当布を装着している。図3はバグフィルタ14の1実施形態であり、この発明の濾材は有底筒状に縫着され、下端面14-1は閉じている。バグフィルタ14の下端面14-1を含め下端から適当な長さの部位はこの発明の当布16が装着され、縫製等により固定化されている。図4は別実施形態のバグフィルタであり、バグフィルタを形成する濾材114は筒状であり、筒状の濾材の下端に金属製のキャップ18が嵌着される。バグフィルタを形成する筒状濾材114の下端にはこの発明の当布116が縫製等により装着(縫着)されている。
【0013】
この発明のバグフィルタを構成する濾材はPTFEのスリットヤーンやフィラメント等のPTFE長繊維を織製してなる内層としての基布と、該基布の表面を被覆する表層を形成するべく基布に植設したPTFE短繊維(ステープル)とから成る濾材を袋状若しくは筒状に形成して構成される。濾材を構成する濾布は単糸繊度300〜600デニールのPTFE長繊維を縦12〜40本/インチ、緯12〜40本/インチの織密度で55〜150g/mの目付けに織製して構成される。そして、単糸繊度0.8〜10デニールで長さ20〜60mmのPTFE短繊維をニードルパンチ等により400〜900g/mの目付けにて基布に植設し、これにより濾材が得られる。
【0014】
このように形成された濾材は袋状若しくは筒状に縫製され、袋形状部若しくは筒形状部の下部若しくは上部又はその双方の外側若しくは内側に当布が縫着等により取付けられる。当布は、通常のような濾材と共布で構成する代わりに、この発明にあっては、当布を強度の優れた無機繊維より構成し、無機繊維としてはガラス繊維のフィラメントが好ましい。その太さが600〜1500デニールのガラス繊維のフィラメント(単糸の太さが6〜100デニール)が、縦10〜40本/インチ、緯10〜40本/インチで織密度で一重織若しくは二重織組織にて製織し、目付け200〜1000g/mの目付けにガラス繊維当布に構成することができる。ガラス繊維はPTFE繊維と比較して耐磨耗性に優れており、当布として使用することにより耐磨耗性を高め、バグフィルタにおける強度的な問題部位である下端や上端部に極限して使用することにより濾過性能を損なうことなく寿命の延長を実現することができる。他方、焼却炉では塩化水素除去のためバグフィルタの手前において処理ガスに消石灰などのアルカリ性薬剤を噴霧することが行われるが、ガラス繊維はアルカリ性薬剤に対して弱く、その対策を行っておくことが好ましい。アルカリ性薬剤に対する耐性向上手段としてはPTFE繊維やポリイミド繊維等の耐熱性短繊維を植毛やPTFE樹脂やポリイミド樹脂等の耐熱性樹脂のコーティングが採用可能である。PTFE繊維やポリイミド繊維等の耐熱性短繊維を植毛する場合にあっては、単繊維の繊度が1.0〜8.0デニールで長さ20〜70mmのPTFE短繊維若しくはポリイミド短繊維はガラス繊維基布に400〜700g/mの目付けにて織製され、または、PTFE短繊維が400〜900g/mの目付けでポリイミド短繊維が50〜500g/mの目付けで混合状態で織製される。
【0015】
アルカリ性薬剤に対する耐性向上手段としてPTFE樹脂やポリイミド樹脂等の耐熱性樹脂のコーティングを行う場合は、ガラス繊維織布の表面にPTFE樹脂やポリイミド樹脂の溶媒溶液が塗布・乾燥され、乾燥後の樹脂の付着量は20〜80g/mとするのが好ましい。
【0016】
実施例1
単糸繊度440デニールのPTFEスリットヤーンを縦24本/インチ、緯24本/インチの織密度で700g/mの目付けに織製して基布を構成した。そして、この基布に単糸繊度3デニールで長さ2インチのPTFEステープル(東レ株式会社製商品名トヨフロン)を120g/mの目付けにてニードルパンチングし、これによりバグフィルタ用濾材を得、このバグフィルタ用濾材を図3に示す袋状に形成した。他方1320デニールのガラス繊維フィラメントを縦16本/インチ、緯14本/インチの織密度で700g/mの目付けに織製して当布用基布となし、この当布用基布に、短繊維長さ2インチで繊度3デニールのPTFE繊維と短繊維長さ2インチで繊度2.4デニールのポリイミド繊維とを408:72の比率で混合せしめた短繊維素材(東レ株式会社製商品名トヨフロン)をニードルパンチングすることにより目付け480g/mの当布を得た。このようにして得られた当布を図3に示すように袋状濾材の底部の150mmの長さ部分に縫着してバグフィルタとした。
【0017】
実施例2
単糸繊度440デニールのPTFEスリットヤーンを縦24本/インチ、緯24本/インチの織密度で700g/mの目付けに織製して基布を構成した。そして、この基布に単糸繊度3デニールで長さ2インチのPTFEステープル(東レ株式会社製商品名トヨフロン)を120g/mの目付けの基布にニードルパンチングし、これによりバグフィルタ用濾材を得、このバグフィルタ用濾材を図3に示す袋状に形成した。他方1320デニールのガラス繊維フィラメントを縦16本/インチ、緯14本/インチの織密度で700g/mの目付けに織製して当布用基布となし、この当布用基布にPTFE樹脂(カネダ株式会社製の商品名テフロンOPTFE)に溶液に塗布し乾燥させた。塗布乾燥後のPTFE樹脂の付着量は40パーセントであった。PTFE樹脂塗布乾燥後の当布は実施例1と同様に袋状濾材の底部における150mmの長さ部分に縫着してバグフィルタとした。
【0018】
比較例
単糸繊度440デニールのPTFEスリットヤーンを縦24本/インチ、緯24本/インチの織密度で700g/mの目付けに織製して基布を構成した。そして、この基布に単糸繊度3デニールで長さ2インチのPTFEステープル(東レ株式会社製商品名トヨフロン)を120g/mの目付けにてニードルパンチングし、これによりバグフィルタ用濾材を得、このバグフィルタ用濾材を図3に示す袋状に形成してバグフィルタとした。
実施例1及び2及び比較例につきJIS K7204準拠法 による10000回の磨耗試験に付すと共に、集塵機(JFEエンジニアリング株式会社製のK型)を備えた焼却設備において実機テストし、残存強度割合(初期強度値に対する残存強度の割合)を測定した。結果を下表に示す。
【0019】
表1
実施例1 実施例2 比較例
磨耗試験 32% 83% 測定不能*1
(常温テスト)
実機テスト
(200 ℃で180日) 63% 95% 測定不能*2

*1: 磨耗試験の途中で破損に至り測定不可能であった。
*2: 実機テストの途中で破損に至り測定不可能であった。
【0020】
以上より本発明による改善結果が明らかであり、共布を使用した従来方式では実機で6ヶ月も持たずに破損が生じていたのに本発明では1年を超える期間に亘って使用可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1はバグフィルタを装着した濾過装置の概略構成図。
【図2】図2は図1の濾過装置における近接したバグフィルタの下端図Aの拡大図である。
【図3】図3はバグフィルタの下端における当布の装着状態の概略図。
【図4】図4は図3とは異なった方式におけるバグフィルタの下端における当布の装着状態の概略図。
【符号の説明】
【0022】
10…濾過装置のケーシング
12…セルプレート
14…バグフィルタ
16…当布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTFE繊維を主たる素材とするバグフィルタ用濾材であって、バグフィルタの下端若しくは上端となる濾材の部位における片面若しくは両面にPTFE繊維と比較して高温での形態安定性が優れた別の繊維を含む当布を装着したバグフィルタ用濾材。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、前記別の繊維はガラス繊維等の無機繊維であるバグフィルタ用濾材。
【請求項3】
PTFE繊維を主たる素材とするバグフィルタ用濾材であって、バグフィルタの下端若しくは上端となる濾材の部位における片面若しくは両面にガラス繊維等の無機長繊維の織布としての当布を装着したバグフィルタ用濾材。
【請求項4】
請求項3に記載の発明において、ガラス繊維等の無機長繊維の織布としての当布の表面を被覆するようにPTFEやポリイミド等の耐熱性短繊維が植設されたバグフィルタ用濾材。
【請求項5】
請求項3に記載の発明において、ガラス繊維等の無機長繊維の織布としての当布の表面にPTFEやポリイミド等の耐熱性樹脂が含浸処理せしめられたバグフィルタ用濾材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−99608(P2010−99608A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274284(P2008−274284)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505037648)株式会社相模商会 (9)
【Fターム(参考)】