説明

バスマット

【課題】天然皮革調の高級感ある外観を有するとともに吸水速乾性機能を有するバスマットの提供。
【解決手段】極細長繊維の繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなるバスマットであって、下記条件(1)〜(3):(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、および(3)前記バスマットを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していないことを同時に満足するバスマット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスマットに関する。詳しくは天然皮革様の高級感有るバスマットに関する。さらに詳しくは、表面に付着した水分を急速に吸収し拡散する銀付皮革調のバスマットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パイル地のバスマットとしては、吸水性は良いが濡れ戻りが発生し不快に感じることや乾燥時に乾きにくいこと、さらに高級感に乏しいといった課題があった。
一方、天然皮革は高級感はあるが吸水しにくく、パイル素材に比べて、保水すると乾きにくく乾燥すると硬くなり水濡れの用途には適用さないものであった。
【0003】
現在市販されているバスマットは、色、柄、高級感を追求することで、構造的には毛足の長いカットパイルのものが中心となっている。バスマットを構成する糸の太さは、5千デニールから1万デニールとかなり太いものが使用されているが、一方、このような構造のバスマットは、水の濡れ戻りが大きいといった傾向がある。たとえば一般家庭で家族4人が入浴し、バスマットを使用した場合、大抵4人目に使用する人は入浴前からすでにバスマットに濡れを感じている。これは、バスマットそのものの吸水能力が不足しているというだけでなく、バスマット内での水の移行や伝播性が悪いためマット表面に水がとどまるといった理由も考えられる。一方で洗濯する場合の取り扱いが難しく、洗濯によって毛玉等の発生により外観品位が低下する場合がある。さらに、バスマットの構造上、連続使用に対して自然乾燥が追いつかないことから、濡れ戻り感をいつまでも感じてしまう。そして、バスマットを使用した翌日でも、バスマットは十分乾いていないため、それを知らずに踏んで不快な思いをすることがある。
【0004】
それらの問題を解決するため、例えば表面のパイルを疎水性繊維で構成し、裏面のパイルを吸水性繊維で構成するとともに、特定のパイル密度とすることで吸水性を向上させ、かつ濡れ戻り感を低減できるバスマットが提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら吸収した水がバスマットの内部で十分に拡散されにくく、また十分乾きにくいといった傾向がある。さらにパイル地が主流のため高級感が得られにくいものであった。
【0005】
また高級感を付与するため、天然皮革をバスマットに適用した場合、天然皮革は水を吸いにくく表面に残ること、また数人が使用する事で表面に水が残り冷たく感じてしまうことが予想されることや、時間が経つと水分が浸透して内部に保持されてしまい乾きにくくなること、さらに乾燥すると天然皮革自体が硬くなってしまうといった問題がある。これら致命的な問題から現在天然皮革をバスマットとして適用するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3001698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
天然皮革調の高級感ある外観を有するバスマットであって、吸水速乾性機能を有するバスマットを供給する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記課題を達成するバスマットを見出し本発明に至った。すなわち本発明は、極細長繊維の繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなるバスマットであって、下記条件(1)〜(3):
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、および
(3)前記バスマットを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していないを同時に満足するバスマットである。このバスマットは、高級感のある銀付天然皮革調の外観にも関わらず、吸水速乾性に優れた物であった。
【0009】
さらに本発明は、下記の順次工程:
(1)海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維から海成分を除去して、該極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面(表面および裏面)に移行させ、凝固する工程、
(5)前記皮革様シートの少なくとも片方の表面を海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスし、繊維の一部を融着して銀面を形成する工程、(但し、工程(4)を工程(3)の前に行ってもよい)
を含むバスマットの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバスマットは天然皮革様の高級感を有するともに吸水速乾性機能を有することから濡れ戻り感を低減できるバスマットである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のバスマットを厚さ方向に5等分した状態を示す模式図である。
【図2】本発明のバスマットの表面層における極細長繊維同士の融着状態を示す走査型電子顕微鏡写真(300倍)である。
【図3】実施例1と比較例2のバスマットの水分吸収時間と拡散状態を示す図である。
【図4】実施例1および2、比較例1および2のバスマットの乾燥速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のバスマットは、下記の順次工程により製造することができる。
(1)海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維から海成分を除去して、該極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面(表面および裏面)に移行させ、凝固する工程、
(5)前記絡合不織布の少なくとも片方の表面を海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスし、繊維の一部を融着して銀面を形成する工程、(但し、工程(4)を工程(3)の前に行ってもよい)および
【0013】
以下、各工程について詳述する。
工程(1)では、海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する。海島型長繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型長繊維は、絡合不織布構造体に形成した後、高分子弾性体を含浸させる前または後に海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細長繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
【0014】
島成分ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミド弾性体等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂など、公知の繊維形成性の水不溶性熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、PET、PTT、PBT、これらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすく、充実感のある風合いを有し、耐磨耗性、耐光性、形態安定性などの実用的性能が優れたバスマットが得られる点で特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるので、膨らみ感のある柔らかな風合いを有し、実用的性能が良好なバスマットが得られる点で特に好ましい。
【0015】
島成分ポリマーの融点は160℃以上であるのが好ましく、融点が180〜330℃であり結晶性であるのがより好ましい。なお、本発明でいうポリマーの融点とは、後述するように示差走査熱量計の所為2nd Runでの吸熱ピーク(融点ピーク)のトップ温度である。本発明で使用する島成分ポリマーは示差走査熱量計での1st Run測定において、融点ピークの他にも吸熱ピーク(以下、副吸熱ピークと称する場合がある)を有することが好ましい。副吸熱ピークを有すると、島成分ポリマーの融点以上に昇温しなくても、表面を構成する極細繊維同士が一部融着して銀面(繊維銀面)を形成し易く、良好な表面物性および天然皮革並の柔軟な風合いを兼ね備えた繊維からなる銀付皮革様のバスマットが得られる。
【0016】
島成分ポリマーの副吸熱ピークの温度は、融点よりも30℃以上低いことが、風合いを損なうことなく極細繊維同士を融着処理しやすい点で好ましく、50℃以上低いことがより好ましい。副吸熱ピークの温度の下限は特に限定しないが、融点よりも160℃以上低い場合でも問題なく製造することができる。
また、副吸熱ピークの強度は、良好な表面物性、銀付外観および風合いを兼ね備える点で、融点ピークの強度よりも小さいことが好ましい。副吸熱ピークの強度が融点ピークの強度よりも大きい場合、銀付皮革様外観は得られるものの表面物性が低下する傾向にある。そして、副吸熱ピークの強度は融点ピークの強度の1/2以下であることが、表面に存在する極細繊維の適度な融着状態が得られ易く、良好な銀付皮革様外観、風合いを有し、水の濡れ戻り性を抑えかつ、表面物性を兼ね備える点で好ましく、1/3以下がより好ましい。また副吸熱ピークの強度の下限は本発明の効果が得られる限り特に限定するものではないが、融点ピークの強度の1/200以上であることが銀付調外観を得易い点で好ましい。また、融点ピークと副吸熱ピークとの面積比は100/1以下が好ましく、50/1以下がより好ましく、25/1以下がさらに好ましい。
【0017】
また、副吸熱ピークの温度以上に加熱すると、副吸熱ピークの吸収熱(ピーク面積)は小さくなり、175℃以上に加熱すると島成分ポリマーの副吸熱ピーク面積は加熱前の1/2以下になる場合がある。
このように副吸熱ピークは加熱により小さくなる傾向があるので、副吸熱ピークは島成分ポリマー原料に存在するだけでなく、極細繊維に形成した後にも存在することが、極細繊維同士を融着し易い点で好ましい。本発明では、極細化直後の極細長繊維を形成する島成分ポリマーが、示差走査熱量計での1st Run測定において上記融点ピークの他にも吸熱ピークが観測される島成分ポリマーを用いるのが好ましい。
【0018】
融点ピークと副吸熱ピークを有する島成分ポリマーとしては、前述したポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂の変性物が好ましく用いられる。中でも表面物性、風合い、および極細繊維融着性を兼ね備える点で、変性ポリエステル系樹脂がより好ましく、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂がさらに好ましい。但し、上記変性ポリマーは公知の方法により部分配向(POY)されていることが副吸熱ピークを維持し易い点で好ましい。
【0019】
島成分ポリマーには、着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤、各種安定剤などが添加されていてもよい。
【0020】
海島型長繊維を極細長繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは溶剤または分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型長繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。有機溶剤を用いることなく繊維銀面からなる銀付調バスマットを製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
【0021】
前記水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。
【0022】
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
【0023】
水溶性PVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型長繊維を安定に製造することができる。
【0024】
本発明のバスマットの製造においては、極細繊維束形成性繊維を任意の繊維長にカットして得たステープルにより繊維ウェブを製造してもよいが、本発明では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維束形成性長繊維)をカットすることなく長繊維ウェブにすることが好ましい。海島型長繊維は前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は海島型長繊維を構成するポリマーのそれぞれの融点よりも高く、180〜350℃が融点ピークと副吸熱ピークを存在させ易い点で好ましい。口金から吐出した溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなるウェブを形成する。必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレス等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。このような長繊維ウェブ製造方法は、従来の短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウェブおよびそれを用いて得られるバスマットは連続性の高い長繊維からなるので、強度などの物性においても優れている。
【0025】
海島型長繊維の平均断面積は30〜800μm2であるのが好ましい。海島型長繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比(ポリマー体積比に相当)は5/95〜70/30が好ましい。得られた長繊維ウェブの目付は10〜1000g/m2が好ましい。
【0026】
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、極細化する前の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0027】
工程(2)では、前記長繊維ウェブに絡合処理を施して絡合ウェブを得る。前記長繊維ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、300〜5000パンチ/cm2の範囲が好ましく、より好ましくは500〜3500パンチ/cm2の範囲である。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、海島型長繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、海島型長繊維同士が三次元的に絡合し、厚さ方向に平行な断面において海島型長繊維が平均600〜4000個/mm2の密度で存在する、海島型長繊維が極めて緻密に集合した絡合ウェブが得られる。
【0028】
長繊維ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で油剤を付与してもよい。必要に応じて、70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、長繊維ウェブの絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行うことで海島型長繊維同士をさらに緻密に集合させ、長繊維ウェブの形態を安定にしてもよい。ただし、本発明では、後述のように極細長繊維を構成する島成分ポリマーの副吸熱ピークを利用して低温で銀面(繊維銀面)を形成させるため、該副吸熱ピークが消失しないような温度条件を選ぶ必要がある。尚、ここで言う繊維銀面とは表面層に存在する繊維同士がお互いに一部融着して接着あるいは密着して平滑な銀付天然皮革様の外観を有する面を言う。絡合ウェブの目付は100〜2000g/m2あるのが好ましい。
【0029】
工程(3)では、海成分ポリマーを除去することにより極細繊維束形成性長繊維(海島型長繊維)を極細化して極細長繊維の繊維束からなる絡合不織布を製造する。海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーの非溶剤または非分解剤であり、かつ、海成分ポリマーの溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理する方法が本発明においては好ましく採用される。島成分ポリマーがポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂である場合、海成分ポリマーがポリエチレンであればトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機溶剤が、海成分ポリマー前記水溶性PVAであれば温水が、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革分野において従来採用されている方法により行えばよく、特に制限されない。本発明においては、環境負荷が少なく、また、労働衛生上好ましいので、海成分ポリマーとして前記水溶性PVAを使用し、これを有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細繊維束形成性長繊維を島成分ポリマーからなる極細長繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
【0030】
必要に応じて、極細繊維束形成性長繊維を極細化する前または極細化と同時に、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が好ましくは25%以上、より好ましくは25〜75%、さらに好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、繊維の素抜けが防止され、また、微細空隙を所定数形成することが容易となることで、吸水拡散性が良好になる。
【0031】
極細化前に行う場合、水蒸気雰囲気下で絡合ウェブを収縮処理するのが好ましい。水蒸気による収縮処理は、例えば、絡合ウェブに海成分に対して30〜200質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が70%以上、より好ましくは90%以上、温度が60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理することが好ましい。上記条件で収縮処理すると、水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが島成分ポリマーにより構成される長繊維の収縮力で圧搾・変形するので緻密化が容易になる。次いで、収縮処理した絡合ウェブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理して海成分ポリマーを溶解除去する。また、海成分ポリマーの除去率が95質量%以上になるように、水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。
【0032】
収縮処理と極細化を同時に行う方法としては、例えば、絡合ウェブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、極細繊維束形成性長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した絡合不織布が得られる。
【0033】
任意に行われる収縮処理および海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/m2の目付を有する絡合不織布が得られる。前記絡合不織布中の繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、好ましくは0.7〜5dtexである。極細長繊維の平均繊度は0.001〜2dtex、好ましくは0.002〜0.2dtexである。前記範囲内であると、得られるバスマットの緻密性、その表層部の不織布構造の緻密性が向上する。極細長繊維の平均繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細長繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本である。上記極細繊維束の構成により得られるバスマットは吸水拡散性が良好になる。
【0034】
前記絡合不織布の湿潤時の剥離強力は4kg/25mm以上であることが好ましく、4〜15kg/25mmであることがより好ましい。剥離強力は極細長繊維の繊維束の三次元絡合の度合いの目安である。上記範囲内であると、バスマットを洗濯したときの形態変化を最小限に抑えると共に、形態保持性に優れ、型崩れを抑制する効果が得られる。また絡合不織布および得られるバスマットの表面摩耗が少なく、充実感が良好である。また、高分子弾性体を付与する前に絡合不織布を分散染料で染色してもよい。湿潤時の剥離強力が上記範囲内であると、染色時の繊維の素抜けやほつれを防止することができる。
【0035】
前記絡合不織布を構成する極細繊維束形成性長繊維を極細繊維束に変換する工程(3)以降で、極細繊維がポリエステル系繊維の場合には、必要に応じて、絡合不織布を分散染料で染色してもよい。分散染料による染色は過酷な条件(高温、高圧)で行われるため、高分子弾性体を付与する前に染色(先染め)すると極細繊維の破断などが生じることが多い。本発明では極細繊維が長繊維であるので先染めが可能となる。前記した収縮処理により極細長繊維は高収縮して分散染色条件に十分耐える強度を持つので、先染めする場合には収縮処理することが好ましい。通常、高分子弾性体を含む絡合不織布を染色した場合、高分子弾性体に付着した分散染料を除去して染色堅牢度を向上させるために強アルカリ条件下での還元洗浄工程と中和工程が必要であった。本発明では、工程(4)(高分子弾性体付与)の前に染色することも可能なので、これらの工程が不要になる。また、染色中に高分子弾性体が脱落するなどの問題があったが、先染めによりこの問題が回避されると共に高分子弾性体の選択範囲が広がる。先染めした場合、余分な染料は湯や中性洗剤液等を使用した洗浄で除去できる。従って、極めてマイルドな条件で染色の摩擦堅牢度、特に、湿摩擦堅牢度を向上させることができる。また、高分子弾性体が染色されていないので、繊維と高分子弾性体との染料吸尽性の違いに起因する色斑を防止することもできる。
【0036】
使用する分散染料としては、分子量が200〜800の、モノアゾ系、ジスアゾ系、アントラキノン系、ニトロ系、ナフトキノン系、ジフェニルアミン系、複素環系等のポリエステル染色に通常使用される分散染料が好ましく、用途や色相に応じて単独あるいは配合して使用する。染色濃度は要求される色相に応じて異なるが、30%owfを超える高濃度で染色した場合には湿潤時の摩擦堅牢度が悪化するので、30%owf以下が好ましい。浴比は特に制限はないが、1:30以下の低浴比が、コスト、環境への影響の観点で好ましい。染色温度は、70〜130℃が好ましく、95〜120℃がより好ましい。また、染色時間は30〜90分が好ましく、淡色では30〜60分、濃色では45〜90分がより好ましい。染色後の還元洗浄は染色濃度が10%owf以上の場合は3g/L以下の低濃度の還元剤を使用しても良いが、中性洗剤を使用して40〜60℃の温水で洗浄するのが好ましい。
【0037】
工程(4)では、前記絡合不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えながら高分子弾性体を表面および裏面に移行させ、その後、凝固させてバスマットを製造する。高分子弾性体としては、ポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、(メタ)アクリル系高分子弾性体などから選ばれる少なくとも1種の弾性体を用いることができるが、ポリウレタン弾性体及び/又は(メタ)アクリル系高分子弾性体が特に好ましい。
【0038】
前記高分子弾性体の融点は130〜240℃であるのが好ましく、130℃での熱水膨潤率は好ましくは10%以上、より好ましくは10〜100%であり、損失弾性率のピーク温度は好ましくは10℃以下、より好ましくは−80〜10℃である。一般に、熱水膨潤率が大きい程高分子弾性体は柔軟であるが、分子内の凝集力が弱い為、後の工程や製品の使用時に剥落することが多く、バインダーとしての作用が不十分になる。上記範囲内であるとこのような不都合を避けることができる。熱水膨潤率は後述する方法により求めた。損失弾性率のピーク温度が10℃以下であると、風合いが良好であり、また力学的耐久性も良好である。損失弾性率は後述する方法で求めた。
【0039】
前記高分子弾性体は水溶液または水分散体として前記絡合不織布に含浸させる。水溶液または水分散体中の高分子弾性体含量は0.1〜60質量%が好ましい。高分子弾性体の水溶液または水分散体は、凝固後の高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.001〜0.6(高分子弾性体/極細繊維=0.001/1〜0.6/1を意味する。)、好ましくは0.005〜0.6、より好ましくは0.01〜0.5になるように含浸させる。高分子弾性体の水溶液または水分散体には、得られるバスマットの性質を損なわない範囲で、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料などを添加してもよい。
【0040】
高分子弾性体の水溶液または水分散体を絡合不織布に含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬などにより絡合不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法などが挙げられる。例えば、感熱ゲル化剤などを使用して、含浸した高分子弾性体が絡合不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)するのを防止し、高分子弾性体を絡合不織布中で均一に凝固させている。しかし、本発明においては、含浸した高分子弾性体を絡合不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)させ、その後凝固させて、高分子弾性体の存在量を厚み方向に略連続的に偏在させるのが好ましい。すなわち、本発明のバスマットにおいて、高分子弾性体は厚み方向中央部では疎に、両表層部では密に存在するのが好ましく、表面層の存在量が裏面層よりも密であることがより好ましい。このような分布勾配を得るために、本発明では、高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸させた後、マイグレーション防止手段を講じることなく、絡合不織布の両面を好ましくは110〜150℃で、好ましくは0.5〜30分間加熱する。このような加熱により水分が表面と裏面から蒸散し、それに伴って高分子弾性体を含む水分が両表層部に移行し、高分子弾性体が表面と裏面近傍で凝固する。マイグレーションのための加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面および裏面に吹き付けることにより行うのが好ましく、特に表面に吹き付けることがより好ましい。そして、高分子弾性体の厚み方向での分布勾配を形成することで、バスマットの濡れ戻り性を高めることができる。
【0041】
工程(5)では、工程(4)で得た凝固した高分子弾性体を含有する絡合不織布の少なくとも片方の表面を、前記海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスする。これにより銀面が形成される。銀面が形成される限り特に限定されないが、加熱温度は130℃以上であるのが好ましい。熱プレスは、例えば、加熱した金属ロールによって行われ、1〜1000N/mmの線圧で熱プレスするのが好ましい。なお、熱プレス温度が上記温度(海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低い温度)よりも高い場合は、極細長繊維を構成するポリマー同士の融着が大きくなり、表面層より内部、例えば基体層2(後述する)を構成する極細長繊維同士が融着するため、板状の非常に硬いものになり、吸水性が低下する。一方、熱プレス温度が前記高分子弾性体の融点以上の場合は、高分子弾性体が溶融し、プレス機に接着するため、平滑な銀面は得られず、また、生産性も不良となる。なお、表面付近のウエット感を低減させ、水分を内部に効率的に拡散・蒸散させるには、該熱プレスを表面層の断面に存在する空隙孔の面積が、基体層3(後述する)と裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の80%以下になるように行うことが好ましく、5〜80%になるように行うことがより好ましい。そのためには、表面層のみの熱プレスか、前記工程(4)で両面に高分子弾性体をマイグレーションした後、両面熱プレス後に2分割(スライス処理)することが好ましい。
【0042】
このように本発明の平滑化表面(単に銀面あるいは繊維銀面と称することもある)の形成方法は、人工皮革の公知の銀面層形成方法、例えば高分子弾性体を含浸後の絡合不織布表面に高分子弾性体をさらに塗布し凝固する方法または高分子弾性体のフィルムを貼付する従来の方法とは異なる。すなわち、本発明においては、絡合不織布に高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸し、高分子弾性体を表面及び裏面にマイグレーションさせた後凝固し、高分子弾性体を中心部より表面及び裏面近傍により密に存在させ、次いで、表面を熱プレスすることにより銀面を形成する。或は、両面を熱プレスした後に厚み方向に分割して銀面を形成したバスマットを2枚製造することも効率的に製造可能な点で好ましい。これらの方法によれば、銀面をより低温で形成することができるが、その理由は極細長繊維に存在する副吸熱ピークによる極細繊維の部分的な融着に起因していると考えられる。従来公知の方法である高分子弾性体の塗布または高分子弾性体層の貼付により形成した銀面はプラスチック感、ゴム感が強く、また、表面に付着した水分の吸収速度を低下させるが、本発明の方法により得られた銀面は銀付天然皮革様の外観、低反発性、充実感を有するのみならず、表面に付着した水分を急速に吸収、拡散させる。上記のようにして得られた主に繊維から形成された銀面を有してなるバスマットの厚さは特に限定されないが1mm〜20mmであることが好ましい。
【0043】
必要に応じて、前記平滑化表面上に高分子弾性体の水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程(6)を行うのが好ましい。特に、表面層に選択的に塗布した場合、エンボスによる皮革模様の固定性が良好となり、製品の使用中にその模様が消失し難い傾向がある。工程(6)では、平滑化表面上に、上記した高分子弾性体の水溶液または水分散体を固形分として2〜30g/m2グラビア塗布し、90〜140℃の熱風を吹きつけて乾燥、凝固させて銀付天然皮革様の外観を付与することが好ましい。
【0044】
更に、前記工程(6)の後で、グラビア塗布面を70〜250℃の平滑面に接触させる工程(7)を行うことが、表面のツヤ出し及び2色感を付与させる点で好ましい。接触時間は特に限定しないが、70〜250℃の金属ロールに0.1〜300秒接触させることが上記効果を発現し易い点で好ましい。高分子弾性体、およびその水溶液または水分散体の詳細は上記した通りである。
【0045】
上記方法により製造されたバスマットの表面層を形成する極細長繊維同士は、工程(5)の加圧加熱により少なくとも一部融着している。このように、本発明では、極細長繊維の融着により銀面が形成され、高分子弾性体がその形態を保持している。一方、基体層2を形成する極細長繊維同士は融着していない。「一部融着」とは、図2に示すように、極細長繊維同士が長さ方向に部分的に融着している状態や繊維束のある断面において一部の極細長繊維同士が融着している状態を表す。
【0046】
また、表面層の繊維束の外周または内部には高分子弾性体が付着されていることが表面物性と銀付天然皮革様の外観を得やすい点で好ましい。さらに、基体層2は表面層よりも高分子弾性体の存在量が少ないことが水の吸水速乾性に優れる点で好ましい。
【0047】
本発明のバスマットは、上記条件(1)〜(3)に加えて、下記条件(4)と(5)を満足することが好ましい。
(4)極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が表面1cm2当り8000個以上である。
(5)押圧荷重12kPa(gf/cm2)、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量が30mg以下である。
【0048】
微細空間が上記範囲より広いと表面感が良くなく、凸凹が目立って高級感が低下する傾向がある。上記の構成であると、0.2cc/cm2/sec以上の通気性、および、30℃、80%RHで1000g/m2・24hr以上の透湿度が得られるので好ましい。上記微小空隙は、8000〜100000個であることが良好な吸水性および透湿度を得る上で好ましい。微小空隙のサイズや個数は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0049】
前記極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が表面1cm2当り8000個以上存在するように、海島型長繊維の島の数を12〜1000とすることが好ましい。
【0050】
また、押圧荷重12kPa、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量が30mg以下であると、実使用時の表面磨耗量が少なく、外観変化も少なく、耐久性が良好になるので好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量基準である。なお各特性は以下の方法で測定した。
【0052】
(1)極細長繊維の平均繊度
バスマットを形成している極細長繊維(任意20個)の断面積を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)により測定し平均断面積を求めた。この平均断面積と繊維を形成するポリマーの密度から平均繊度を計算した。
【0053】
(2)繊維束の平均繊度
絡合不織布を形成している繊維束の中から選び出した平均的な繊維束(20個)を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)で観察し、その外接円の半径を測定して平均断面積を求めた。この平均断面積が繊維を形成するポリマーで充填されているとし、該ポリマーの密度から繊維束の平均繊度を計算した。
【0054】
(3)融点
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(2nd Run)に得られた吸熱ピーク(融点ピーク)のピークトップ温度を求めた。
【0055】
(4)副吸熱ピーク温度
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(1st Run)に得られた吸熱ピークの内、上記融点ピークよりも低温側のピークのトップ温度を求めた。
【0056】
(5)損失弾性率のピーク温度
厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを、130℃で30分間熱処理し、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて周波数11Hz、昇温速度3℃/分で測定を行い、損失弾性率のピーク温度を求めた。
【0057】
(6)130℃での熱水膨潤率
厚さ200μmの高分子弾性体フィルムを加圧下130℃で60分間熱水処理し、50℃に冷却後、ピンセットで取り出した。過剰な水をろ紙でふき取り、重量を測定した。浸漬前の重量に対する増加した重量の割合を熱水膨潤率とした。
【0058】
(7)湿潤時の剥離強力
たて15cm、幅2.7cm、厚さ4mmのゴム板の表面を240番のサンドペーパーでバフ掛けし、表面を十分に粗くした。溶剤系の接着剤(US−44)と架橋剤(ディスモジュールRE)の100:5の混合液を該ゴム板の粗面とたて(シート長さ方向)25cm、幅2.5cmの試験片の片面に12cmの長さにガラス棒で塗布し、100℃の乾燥機中で4分間乾燥した。その後、ゴム板と試験片の接着剤塗布部分同士を貼り合わせ、プレスローラーで圧着し、20℃で24時間キュアリングした。蒸留水に10分浸漬した後に、ゴム板と試験片の端をそれぞれチャックで挟み、引張試験機で引張速度50mm/分で剥離した。得られた応力−ひずみ曲線(SS曲線)の平坦部分から湿潤時の平均剥離強力を求めた。結果は、試験片3個の平均値で表した。
【0059】
(8)微細空隙の幅と個数、表面層の断面に存在する空隙孔の面積と基体層3および裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の比率
バスマットの表面を走査型電子顕微鏡(倍率:800倍〜2000倍程度)により観察し極細繊維で囲まれた不定形(20個)空隙の巾を計測し、最大巾と最小幅を求めた。ついで、一定面積(100μm×100μm)中に存在する微細空隙の個数を計測して表面1cm2当りに換算した。また、繊維銀面バスマットの表面層、基体層3および裏面層の断面を走査型電子顕微鏡(倍率:800倍〜2000倍程度)により観察し、任意20箇所(表面層20箇所、基体層3の10箇所、裏面層10箇所)を抽出し、一定面積(100μm×100μm)中に存在する極細繊維および高分子弾性体以外の空間で囲まれた空隙孔の面積を求めその比を求めた。
【0060】
(9)見掛け密度
試料を縦16cm×横16cmに切り取り、天秤にて重量を少数第3位まで秤量し、目付(g/m2)を求めた。次に厚さをJISに準拠して圧接子径8mm、圧荷重240g/m2で測定し、該目付けと厚さから見かけ密度を計算した。
【0061】
(10)吸水拡散速度
試料を15cm×15cmにサンプリングし、その中央部に水を0.3ccスポット状に滴下し、温度:27℃、湿度:52%の温調室に放置して吸水時間と吸水後の拡散面積(単位:cm2)を測定した。
【0062】
(11)乾燥速度
試料を7cm×7cmにサンプリングし、その表面に水1ccを吸水させ、温度:27℃、湿度:52%の温調室に放置して各時間での重量を測定し、残存水分率を計算した。
【0063】
実施例1
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(以下単にPVAと称す。(平均重合度330、ケン化度98.4モル%、融点206℃):(海成分))と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.0デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集し、目付37g/m2の長繊維ウェブを得た。
上記長繊維ウェブに油剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が296g/m2の重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に2400パンチ/cm2でニードルパンチし、絡合ウェブを作成した。このニードルパンチ処理による面積収縮率は80%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は375g/m2であった。
【0064】
絡合ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃熱水中に20秒間浸漬して面積収縮を生じさせた。ついで95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理を実施して変性PVAを溶解除去し、極細長繊維を25本含む、平均繊度2.4デシテックスの繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を作成した。乾燥後に測定した面積収縮率は50〜55%であり、目付は520g/m2、見掛け密度は0.47g/cm3であった。また、剥離強力は、10.0kg/25mmであった。次いで、5%owfの分散染料により茶色に染色した。工程通過性(染色時の繊維の素抜けやほつれ、バフィング時の繊維の抜け等がない)は良好で、発色の良好な極細長繊維からなる絡合不織布を得た。該絡合不織布を構成する極細長繊維の副吸熱ピークを測定した結果、118℃に観測され、融点ピーク(232℃)と副吸熱ピークの面積比は14:1であった。
該絡合不織布をバフィングにより厚みを1.00mmに調整した後、ソフトセグメント
がポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリウレタン(融点が180〜190℃、損失弾性率のピーク温度が−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%の高分子弾性体)を用いて固形分濃度が10質量%の水分散体を調製した。この水分散体を高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.4:99.6となるように上記の染色された絡合不織布に含浸した後、120℃の熱風を表面から吹きつけて乾燥すると同時に高分子弾性体を表面に移行させ、凝固させた。
【0065】
得られた絡合不織布の表面を表面に毛穴シボ模様を有する172℃の金属ロールを用いて線圧100N/mmで熱圧着し(裏面は非加熱のゴムロールに接触)、表面層の繊維の一部を融着させて毛穴シボ模様を有する銀面を形成し、繊維銀面に上記組成の水系ポリウレタンをグラビアにて固形分付着量で10g/m2転写し、110℃の熱風を表面から吹きつけて乾燥し、凝固させて繊維銀面を有するバスマットを得た。
【0066】
また、表面の電子顕微鏡観察の結果、表面には極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が1cm2当り35000個以上存在し、表面層の断面に存在する空隙孔の断面積は、基体層3と裏面層の断面に存在する空隙孔の断面積の25%の比率であった。押圧荷重12kPa(gf/cm2)、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量は0mgであった。
得られたバスマットは銀擦り調で意匠性に優れ、天然皮革様の低反発性、充実感および柔軟性を有しており、また、折り曲げたときに生じる折れシワ感が細かく天然皮革と見間違うほどであった。さらに表面の摩擦堅牢度も良好なものであった。
得られたバスマットの吸水拡散速度と乾燥速度を測定した結果を図3および図4に示した。図3から、バスマットは表面に付着した水滴を迅速に吸収し拡散させることが分かる。また、図4から乾燥速度が非常に速いことが分かる。
得られたバスマットを実際に使用したところ、バスマット表面はドライ感に優れ、足の部分はいつもサラリとして、濡れ戻り感を殆ど感じないものであった。
【0067】
実施例2
実施例1で得られたの表面を170℃の金属ロールに2秒接触させて表面にツヤと2色感のあるバスマットを得た。そしてさらにその裏面に厚さ1mmのウレタン樹脂発泡層を貼り合せて、裏面にウレタン発泡層が積層されたバスマットを得た。図4から明らかなように、乾燥速度は非常に速かった。得られたバスマットを実際に使用したところ、バスマットはクッション性に優れると共に表面のドライ感に優れ、足の部分はいつもサラリとして、濡れ戻り感を殆ど感じないものであった。
【0068】
比較例1
牛革(腰裏)を用いて乾燥速度を測定した。4に示した結果から明らかなように、乾燥速度が遅いものであった。
前記牛革をバスマットに用いて実施例1と同様にしてバスマットを作製し、得られたバスマットを実際に使用したところ、足が湿っぽく汗で不快であった。
【0069】
比較例2
豚革を用いて吸水拡散速度と乾燥速度を測定した。図3に示した結果から明らかなように、表面に付着した水滴の吸収に35分要し、実施例1(29秒)と比べて完全に吸収するまでに約70倍の時間を要した。また、吸収した水分は殆ど拡散せず、実施例1の繊維銀面調バスマットに比べて拡散性が著しく悪かった。また、図4に示した結果から明らかなように、乾燥速度が遅く、速乾性とはいい難かった。前記豚革をバスマットに用いて実施例1と同様にしてバスマットを作製し実際に使用したところ、足が湿っぽく汗で不快であった。
【0070】
比較例3
離型紙にポリウレタン溶液(ME−8115LP(大日精化工業(株)製)を塗布、乾燥し乾燥後厚み50μmのフィルム(最終的に銀面となる)を形成した。このフィルムにポリウレタン(2液型)接着剤(TA−105(DIC(株)製)を乾燥後の厚みが100μmになるように塗布し接着層を形成した。接着層が半乾燥、粘着性が残っている状態で、実施例1と同様の方法で得た高分子弾性体含浸後の絡合不織布の一方の表面に貼り合わせた。さらに40〜50℃の雰囲気中で3日間のエージングを行った後、離型紙を剥離し、銀付調人工皮革からなるバスマットを得た。得られたバスマットの表面に付着した水滴は全く吸収されず、水滴のまま残る状態であった。
【0071】
比較例4
表面に約500dtexに引き揃えられたパイル長4mmのカットパイル(パイル密度40個/cm)の立毛を有するバスマットを実際に使用したところ、前記バスマットはまた高級化にかけるものであり、最初は吸水性が良いものの、部分的に濡れ戻り感の悪い箇所を感じた。また洗濯時の乾燥に時間がかかる状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のバスマットは天然皮革様の低反発性と触感を有し、表面に付着した水分の吸収速度が速く、また、吸収した水分の拡散速度も速い。そのため、本発明のバスマットは水分が付着しても表面のドライ感を維持することで濡れ戻りを殆ど感じない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細長繊維の繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された
高分子弾性体からなるバスマットであって、下記条件(1)〜(3):
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、および
(3)前記バスマットを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していない
を同時に満足するバスマット。
【請求項2】
前記高分子弾性体の130℃での熱水膨潤率が10%以上であり、かつ、損失弾性率のピーク温度が10℃以下である請求項1に記載のバスマット。
【請求項3】
前記極細長繊維が、海成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールであり、島成分が水不溶性熱可塑性ポリマーである海島型断面長繊維から該海成分を除去して得られる請求項1又は2に記載のバスマット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のバスマットの裏面にウレタン樹脂発砲層が積層されるバスマット。
【請求項5】
下記の順次工程:
(1)海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維から海成分を除去して、該極細繊維束形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体の前記極細長繊維に対する質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の両表面(表面および裏面)に移行させ、凝固する工程、
(5)前記絡合不織布の少なくとも片方の表面を海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスし、繊維の一部を融着して銀面を形成する工程、(但し、工程(4)を工程(3)の前に行ってもよい)
を含むバスマットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−156037(P2011−156037A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18521(P2010−18521)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】