説明

バタフライ弁

【課題】中程度の開度までオリフィス側でのキャビテーションを効果的に抑制でき、かつ製作が容易なバタフライ弁を提供する。
【解決手段】弁体4のオリフィス側の下流側に多数の流通孔16を有する半円板状の副弁体5を設け、この副弁体5が弁体4と一体に回動するときに、副弁体5の周縁部が弁箱本体2aの内面のオリフィス側凹球面部11に摺接または近接する構成とすることにより、中程度の開度まで、流体が副弁体5の流通孔16を通過する際に整流されて、オリフィス側でのキャビテーションが抑制されるようにするとともに、多孔の凸球面を有する板部材を用いた従来のものよりも容易かつ安価に製作できるようにしたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁棒の操作により弁体を回動させて弁箱内の流路を開閉するバタフライ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
バタフライ弁は、円筒状の弁箱内の流路と交差するように配置した弁棒に円板状の弁体を固定し、弁棒の操作により弁体を弁棒の軸心まわりに回動させて弁箱内の流路を開閉するもので、構造がシンプルで流量特性がよいことから、各種設備の配管の流量調整弁や開閉弁として幅広く採用されている。しかし、上流側と下流側との差圧が大きい条件で使用すると、弁体の開度(以下、単に「開度」とも記す。)が小さいときに、弁体の下流側(特にオリフィス側)でキャビテーションが発生して、振動や騒音が生じるだけでなく、弁体や配管が損傷してしまうおそれもある。これに対して、弁体のオリフィス側を通過する流体の圧力変化を緩やかにすること等によりキャビテーションを抑制しようとするバタフライ弁が種々開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1で提案されているバタフライ弁は、弁体のオリフィス側の下流側面の周縁部に、外周側が凸球面に形成され、厚み方向に貫通する多数の孔を有する板部材を設け、この板部材の凸球面部を弁箱の弁座(シールリング)に摺接させることにより、流体が板部材の孔を通過する際に整流されるようにして、中程度の開度(30°程度)までオリフィス側でのキャビテーションを抑制しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−329169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような多孔の凸球面を有する板部材を設けたバタフライ弁では、その板部材の製作に非常に手間がかかり、高コストのものとなってしまう問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、中程度の開度までオリフィス側でのキャビテーションを効果的に抑制でき、かつ製作が容易なバタフライ弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、円筒状の弁箱と、弁箱内の流路と交差するように配置された弁棒と、弁棒に固定された円板状の弁体とを備え、前記弁棒の操作により前記弁体を弁棒の軸心まわりに回動させて前記弁箱内の流路を開閉するバタフライ弁において、前記弁体のオリフィス側の下流側面と所定の回動方向隙間をおいて対向する状態で弁体と一体に回動する半円板状の副弁体を設け、前記副弁体にその厚み方向に貫通する複数の流通孔を設けるとともに、前記弁箱のオリフィス側の内面に、前記副弁体が弁体と一体に回動するときに副弁体の周縁部が摺接または近接する凹球面部を設けた構成を採用した。
【0008】
すなわち、弁体のオリフィス側の下流側に複数の流通孔を有する半円板状の副弁体を設け、この副弁体が弁体と一体に回動するときに、副弁体の周縁部が弁箱内面の凹球面部に摺接または近接する構成とすることにより、中程度の開度まで、流体が副弁体の流通孔を通過する際に整流されて、オリフィス側でのキャビテーションが抑制されるようにするとともに、多孔の凸球面を有する板部材を用いた従来のものよりも容易かつ安価に製作できるようにしたのである。
【0009】
上記の構成において、前記弁体のオリフィス側の下流側面の周縁部に複数の突部を設けることにより、開度が微小なときに弁体の突部どうしの間を通過する流体が整流されるようにして、オリフィス側でのキャビテーションをより効果的に抑制することができる。
【0010】
また、前記弁箱のノズル側の内面に、前記弁体が回動するときにそのノズル側の周縁部が摺接または近接する凹球面部を設けるようにすれば、ノズル側でのキャビテーションの発生も防止することができる。このとき、前記弁箱の内面のノズル側凹球面部は、オリフィス側凹球面部と同一球面で形成することが望ましい。弁箱内面の加工がしやすくなるからである。そして、前記弁箱の内面のノズル側凹球面部に、流路方向に沿って延びる複数の流通溝を設ければ、ノズル側でのキャビテーションを抑制しながら中程度の開度までの流量を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバタフライ弁は、上述したように、弁体のオリフィス側の下流側に複数の流通孔を有する半円板状の副弁体を設け、この副弁体が弁体と一体に回動するときに、副弁体の周縁部が弁箱内面の凹球面部に摺接または近接する構成としたものであるから、中程度の開度までオリフィス側でのキャビテーションを効果的に抑制できるとともに、多孔の凸球面を有する板部材を用いた従来のものよりも容易かつ安価に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】aは第1実施形態のバタフライ弁の一部切欠き正面図、bはaの縦断面図
【図2】図1の横断平面図
【図3】図1のバタフライ弁の弁体の外観斜視図
【図4】a〜dは図1のバタフライ弁の動作を説明する横断平面図
【図5】a〜dは第2実施形態のバタフライ弁の構造および動作を説明する横断平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1乃至図4は第1の実施形態を示す。このバタフライ弁は、図1および図2に示すように、内部に流路1が形成される円筒状の本体2aにその径方向外側に延びる筒状の鍔付き首部2bを取り付けた弁箱2と、弁箱2の本体2aおよび首部2bに通されて流路1と直交するように配置された弁棒3と、弁棒3に固定された円板状の弁体4と、弁体4と一体に形成された半円板状の副弁体5とで基本的に構成され、弁箱2の本体2aの両端に図示省略した配管が接続される。そして、弁箱2の首部2bから突出する弁棒3の基端部を治具等で把持して回動操作することにより、弁体4および副弁体5が弁棒3の軸心まわりに一体に回動して流路1を開閉するようになっている。
【0014】
前記弁箱2の本体2aには、弁棒3が挿通される支持孔6、7が首部2bと同心にあけられ、これらの支持孔6、7と交差するように内面に設けられた環状溝8に、弁体4と摺接する弁座(ゴムシート)9が嵌め込まれている。その下側の支持孔7は、外周側から嵌め込まれる蓋10で塞がれている。
【0015】
また、弁箱本体2aのオリフィス側の内面には、副弁体5が弁体4と一体に回動するときに副弁体5の周縁部が摺接または近接する凹球面部11が設けられ、ノズル側の内面には、弁体4が回動するときにそのノズル側の周縁部が摺接または近接する凹球面部12が設けられている。そのオリフィス側凹球面部11とノズル側凹球面部12は同一球面で形成され、弁箱本体2aの内面加工が容易に行えるようになっている。また、ノズル側凹球面部12には、流路方向に沿って延びる複数の流通溝13が設けられている。
【0016】
前記弁棒3は、弁箱2の首部2bから突出する基端部が角形断面、その他の部分が円形断面とされており、弁箱首部2bと弁箱本体2aの支持孔6、7で回動自在に支持されている。
【0017】
前記弁体4は、そのオリフィス側の下流側面と所定の回動方向隙間をおいて対向するように副弁体5が一体形成されており、その回動方向隙間に上下2枚の補強板14が挟み込まれている。また、弁体4のオリフィス側の下流側面の周縁部には複数の突部15が設けられており、副弁体5にはその厚み方向に貫通する多数の流通孔16が設けられている。
【0018】
次に、このバタフライ弁の動作を説明する。まず、弁体4の開度が0°のときは、図2に示したように、弁体4の周縁部全体が弁箱本体2a内面に設けられた弁座9に密接して全閉状態が保持され、上流側の流体は下流側へ流れない。なお、このとき、副弁体5の周縁部は弁箱本体2a内面のオリフィス側凹球面部11の下流側端部に摺接または近接しているが、後述する第2実施形態のように、全閉状態では副弁体5と凹球面部11は離れていてもよい。
【0019】
図2の全閉状態から弁体4と副弁体5を一体に反時計方向に回動させ、開度を約15°とすると、図4(a)に示すように、弁体4のオリフィス側の周縁部が弁座9から離れ、ノズル側の周縁部がノズル側凹球面部12に摺接または近接するようになる。このとき、オリフィス側では、副弁体5の流通孔16で流体が整流されるので、キャビテーションを効果的に抑制できる。さらに、本実施形態では、流体の通過できる面積が最も狭くなる弁体4の周縁部と弁座9との隙間に流れ込んだ流体が、弁体4の下流側面に設けられた突部15どうしの間を通過する際に整流されて下流側へ流れていくので、より効果的にキャビテーションを抑制できる。また、ノズル側では、流体が弁体4と凹球面部12との間をほとんど流れないので、キャビテーションが生じるおそれがない。
【0020】
また、図4(a)の状態からさらに弁体4と副弁体5を回動させ、開度を約25°としても、図4(b)に示すように、オリフィス側で流体が副弁体5の流通孔16で整流されるので、キャビテーションを効果的に抑制できる。このとき、弁体4の周縁部と弁座9との隙間の流体通過面積が副弁体5の流通孔16よりも大きくなるため、弁体4の突部15での整流効果は小さくなるが、弁体4と副弁体5の間の領域は上流側と下流側の中間の圧力となり、下流側との差圧が小さくなることから、この開度でもキャビテーションが生じにくい状態が維持される。
【0021】
さらに開度を広げて約45°とすると、図4(c)に示すように、オリフィス側では、副弁体5が弁座9に摺接または近接するようになるが流量は増え、ノズル側でも凹球面部12に設けた流通溝13を通って流体が流れるようになる。このとき、流通溝13を通る流体はその際に整流されるので、ノズル側でのキャビテーションを抑制しながら比較的大きな流量を確保することができる。
【0022】
そして、開度を90°(全開状態)としたときは、図4(d)に示すように、副弁体5が大きな障害となることなくスムーズに流体を流せるようになる。
【0023】
このバタフライ弁は、上述したように、弁体4のオリフィス側の下流側に設けた多孔の半円板状の副弁体5が弁体4と一体に回動するときに、その周縁部が弁箱本体2a内面の凹球面部11に摺接または近接するようにしたので、中程度の開度までオリフィス側でのキャビテーションを効果的に抑制できる。しかも、副弁体5よりも加工しやすい弁箱本体2a内面に凹球面部11を設けるようにしたので、多孔の凸球面を有する板部材を用いた従来のものよりも容易かつ安価に製作することができる。
【0024】
次に、図5に基づいて第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付けて説明を省略する。
【0025】
この第2実施形態のバタフライ弁は、図5(a)に示すように、弁棒3の設置位置よりも流路1の上流側で弁体4を弁箱本体2aの内面と摺接させる偏心型のものである。その弁箱本体2aは、流路方向に2分割されており、上流側本体2cの内側にオリフィス側凹球面部11の一部とノズル側凹球面部12の一部を構成する環状部材17が嵌め込まれており、下流側本体2dの内面に各凹球面部11、12の残部が設けられている。
【0026】
前記弁体4は、弁棒3に固定される弁板18と、弁板18の上流側面にネジ止めされるシート押さえ19と、弁板18の外周部とシート押さえ19の外周部とに挟持される環状のゴムシート20とからなる。そのゴムシート20は、全閉状態では、図5(a)に示したように、弁箱2の上流側本体2cの内面から突出する環状の弁座部21に密接するようになっている。また、副弁体5は、弁体4と別体に形成されて、弁体4と一体に回動するように弁軸3に取り付けられており、全閉状態ではオリフィス側凹球面部11と離れている。なお、弁体4のオリフィス側の下流側面には、第1実施形態のような突部は設けられていない。
【0027】
このバタフライ弁の基本的な動作は第1の実施形態と同じである。すなわち、弁体4の開度が約15°のときは、図5(b)に示すように、弁体4のオリフィス側のゴムシート20が弁箱2の弁座部21から離れ、ノズル側のゴムシート20がノズル側凹球面部12に、副弁体5がオリフィス側凹球面部11にそれぞれ摺接または近接する。したがって、ノズル側ではキャビテーションが生じるおそれがなく、オリフィス側では、弁体4のゴムシート20と弁座部21との隙間に流れ込んだ流体が、副弁体5の流通孔16を通過する際に整流されて下流側へ流れていくので、キャビテーションが生じにくい。
【0028】
また、開度が約45°のときは、図5(c)に示すように、副弁体5が弁箱2の弁座部21に摺接または近接するが、オリフィス側の流量は増え、ノズル側でも流体が流れるようになって、比較的大きな流量を確保することができる。そして、開度を90°(全開状態)としたときは、図5(d)に示すようになり、副弁体5が大きな障害となることなく流体を流すことができる。
【0029】
なお、本発明において、副弁体が弁体となす角度は、キャビテーション抑制効果と流量確保の観点から、30〜40°とすることが望ましい。
【0030】
また、本発明のキャビテーション抑制効果を高めるためには、第1および第2実施形態のように、小開度のときにノズル側は流体が流れない構造とするとよい。その構造は、実施形態のものに限定されず、例えば、弁体のノズル側に弁箱の弁座と摺接する凸球面部を設けるようにしてもよい。
【0031】
また、上述した各実施形態では、副弁体に多数の流通孔を設けたが、この流通孔は副弁体の外周に開口するもの、すなわち溝状のものとしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 流路
2 弁箱
2a 本体
3 弁棒
4 弁体
5 副弁体
9 弁座
11 オリフィス側凹球面部
12 ノズル側凹球面部
13 流通溝
15 突部
16 流通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の弁箱と、弁箱内の流路と交差するように配置された弁棒と、弁棒に固定された円板状の弁体とを備え、前記弁棒の操作により前記弁体を弁棒の軸心まわりに回動させて前記弁箱内の流路を開閉するバタフライ弁において、前記弁体のオリフィス側の下流側面と所定の回動方向隙間をおいて対向する状態で弁体と一体に回動する半円板状の副弁体を設け、前記副弁体にその厚み方向に貫通する複数の流通孔を設けるとともに、前記弁箱のオリフィス側の内面に、前記副弁体が弁体と一体に回動するときに副弁体の周縁部が摺接または近接する凹球面部を設けたことを特徴とするバタフライ弁。
【請求項2】
前記弁体のオリフィス側の下流側面の周縁部に複数の突部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のバタフライ弁。
【請求項3】
前記弁箱のノズル側の内面に、前記弁体が回動するときにそのノズル側の周縁部が摺接または近接する凹球面部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のバタフライ弁。
【請求項4】
前記弁箱の内面のノズル側凹球面部をオリフィス側凹球面部と同一球面で形成したことを特徴とする請求項3に記載のバタフライ弁。
【請求項5】
前記弁箱の内面のノズル側凹球面部に、流路方向に沿って延びる複数の流通溝を設けたことを特徴とする請求項3または4に記載のバタフライ弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−83285(P2013−83285A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222592(P2011−222592)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】