説明

バターケーキの製造方法

【課題】フラワーバッター法を基礎に更に効率的なバターケーキの製造方法を提供すること。
【解決手段】 バターケーキの製造方法であって、使用する原材料を水分含量が30質量%以上の原材料と水分含量が30質量%未満の原材料に区別し、まず、液状の油脂と水分含量が30質量%未満の原材料全てを使用して前生地を調製し、該前生地に水分含量が30質量%以上の残り原材料を加えバターケーキ生地を調製するバターケーキの製造方法。
【発明の効果】本発明のバターケーキの製造方法によれば、生地の仕込み量が大量の場合でも短時間で生地を調製することができ高品質のミルクパウンドケーキを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バターケーキの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バターケーキの製造方法として、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法やプレミックスを使用する方法などが広く知られている。
前記シュガーバッター法は、バター等の固形油脂と砂糖をすり混ぜてクリーム状とした後、徐々に卵を混ぜ合わせ、最後に粉体(小麦粉、澱粉、膨脹剤)を合わせて生地を調製する方法である(例えば特許文献1参照)。
前記フラワーバッター法は、固形油脂と小麦粉をすり混ぜ合わせ次いで砂糖を混ぜ合わせた後、卵を数回に分けて加え、さらに牛乳等の水分系材料を加えて生地を調製する方法である。
前記オールインミックス法は乳化油脂を用いる製法で全ての材料を一度に混ぜ合わせ生地を調製する方法である。
前記プレミックスを使用する方法はミックスと卵を練り合わせた後、水、牛乳、及び液状の油脂を練り合わせ生地を調製する方法である。
また、小麦粉100重量部、全卵液80〜90重量部、砂糖90〜100重量部、ベーキングパウダー2〜3重量部をビーターにて混合して生地を作り、次に別に油脂70〜80重量部と水55〜65重量部を加熱混合したものを上記の生地に加え撹拌混合して生地を仕上げるパウンドケーキの製造方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−299443号公報
【特許文献2】特開平11−18672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシュガーバッター法、フラワーバッター法又はプレミックスを使用する方法は、通常の仕込み量(例えばミキサー容量に対して20%以下)では作業工程上、混合に関して特段の問題が発生しないが、仕込み量が多くなると生地を混ぜ合わす際の調製がうまくいかず、仕込み後半に行う液状原料混合を行う際、生地の硬さの違いに起因して液状原料が飛び散る、原料がよく混ざらず「だま」が消えないという現象が顕著になり、この対応のため、生地の調製に時間かかるという問題があった。
また、従来の製法ではダマができるとこれをきれいに消すことが困難になり最終生地に残ることから商品価値が下がるという問題があった。
オールインミックス法においても、穀粉、糖類、油脂類など水分含量の少ない原料と卵及び牛乳等の水分の多い原料を一度に投入して混合することは仕込み量が多い場合、均一な混合が困難であった。
従って、本発明の目的は、フラワーバッター法を基礎に更に効率的なバターケーキの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、使用する原材料の水分含量に着目し、原材料を水分含量により2種類に区別し生地の調製工程を2段階として、第一工程で水分含量が少ない原材料を液状とした油脂類と混合し軟らかな生地を調製し、続く第二工程では第一工程で調製した生地に水分含量の多い原材料を一度に加えて生地を調製することにより生地の調製が効率よくできることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、バターケーキの製造方法であって、使用する原材料を水分含量が30質量%以上の原材料と水分含量が30質量%未満の原材料に区別し、まず、液状の油脂と水分含量が30質量%未満の原材料全てを使用して前生地を調製し、該前生地に水分含量が30質量%以上の残り原材料を加えバターケーキ生地を調製するバターケーキの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のバターケーキの製造方法によれば、生地の調製を効率的に行えるので生地の仕込み量が大量の場合でも短時間で生地を調製することができ、シットリして軟らかく口溶けが好い食感の良好なバターケーキを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のバターケーキとは、小麦粉、砂糖、卵、油脂(乳化油脂含む)を主原料とする油脂の使用量が15質量%程度以上の比較的油脂の含有量が多い焼成菓子をいい、例えば、パウンドケーキ、マドレーヌ、カップケーキ、バウムクーヘンなどを挙げることができる。
【0008】
本発明のバターケーキの原材料は、従来のバターケーキに使用されている原材料であれば特に限定なく使用することができる。
本発明において、原材料は、その水分含量により2種類に区別される。
基準となる水分値は30質量%であり、水分含量が30質量%以上の原材料(以下、「高水分原材料」ともいう。)と水分含量が30質量%未満の原材料(以下、「低水分原材料」ともいう。)に区別する。
基準水分値が30質量%を超える原材料は、小麦粉、他の吸水を起こす粉体と混合すると硬いペーストとなり、その後の生地混合で液状原料が飛び散り本発明の効果を得ることができない。
また、本製法では最初に液状とした油脂類で低水分原材料だけを混合するため小麦粉等の吸水する粉体が水分と強く結合して固いダマになることが少ない。
また、液状とした油脂に浸潤性があるため小麦粉を始めとした吸水する粉体が表面的に水分を吸収して内部が乾いたままのダマも出来難い。
さらに、油脂類による粉体への浸潤効果から通常、事前に行う小麦粉他の粉篩いも不要であり、この点からも仕込み時間の短縮が図られる。
さらに好ましい基準となる水分値は20質量%であり、この場合は、水分含量が20質量%以上の原材料と水分含量が20質量%未満の原材料に区別する。
基準となる水分値が20質量%の場合は基準となる水分値が30質量%の場合に比べて前記の効果がより顕著に得られる。
【0009】
本発明のバターケーキの製造工程では、生地の調製は2段階に分けて行う。
まず、水分含量が少ない全ての原料と液状化した油脂とで軟らかなペースト状の前生地を調製する。
液状化した油脂と共に必要に応じて乳化油脂を使用することもできる。
つぎに、前記調製した前生地に残りの原料全てを加えてミキシングし、油分と水分が分離しない一体化した状態のバターケーキ生地を完成する。
ミキシングに使用する装置や器具などは、従来公知のフラワーバッター法と同様でよい。
本発明の方法がフラワーバッター法と違う点は、まず、原材料をその水分含量により2種類に区別して生地を調製する点である。
従来のフラワーバッター法では、前記のとおり油脂と小麦粉をすり混ぜ合わせた後、砂糖、卵、及び牛乳等の水分系材料を加えて生地を調製している。
すなわち、原材料の水分値により区別して生地を調製することは行われていない。
もう一点は、使用する油脂を液状として使用している点である。
例えば、固形油脂であれば加熱して液状とし、乳化油脂も他の油脂と一緒に液状にして使用する。
従来のフラワーバッター法では、油脂は液状とせず小麦粉とすり混ぜて使用している。
【0010】
本発明の方法は、最初の生地の調製を水分含量の少ない材料と液状の油脂を混合して行うため油脂が粉体になじみ易く軟らかいペースト状となり、高水分材料を用いない効果から吸水する粉体が吸水することがすくなく液状の油脂の粉体への浸潤効果でダマになることが少ないので通常事前に行う小麦粉の粉篩いも不要になり仕込み時間の短縮が図られる。
従来のフラワーバッター法では、最初の生地は水分含量の少ない材料のみを使用するが油脂は固形の状態ですり混ぜて行うため油脂の状態(温度、硬さ)の管理や混ぜ方に注意を要する点から熟練を要し、完全に油脂と一体化することが難しく斑になり易く後から加える卵等の高水分の材料と一体化していない粉体からできる粉ダマの発生も防ぎきれない。
本発明の方法では、従来のフラワーバッター法に比べ最初の生地調製段階で生地のなじみが良いため生地の調製が容易となり生地調製に要する時間が少なくてすむ。
仕込み生地量がミキサー容量に対して20%以下であればこのような効果の差はあまり問題とならないが、仕込み生地量がミキサー容量に対して20%以上となる大量仕込みの場合は大きな差となり、マスプロ(大量生産の際の大バッチ仕込み)の場合で40%を超えると顕著になる。
【0011】
従って、本発明の製造方法は、仕込み生地量がミキサー容量に対して20%以上となる大量仕込みの場合に好ましく使用できる製造方法である。
例えば、90リットルミキサーで仕込み生地重量が40kg程度のミルクパウンドケーキ生地を調製する場合、生地の調製に要する時間は、従来のフラワーバッター法と比較して約1/3の時間で生地の調製を完了できる。
【0012】
本発明の方法では、先ず小麦粉、その他の穀粉類、糖類、塩類、液糖類(蜂蜜、水飴)、膨脹剤、着色料、澱粉類、卵類(粉末)、粉末油脂類、種実類(粉末)、豆類(粉末)、果実類(粉末)、野菜類(粉末)、乳類(粉乳類、加糖練乳)、コーヒー類(コーヒー豆粉末、粉末インスタントコーヒー)、ココア類、チョコレート類、茶類(粉末)、藻類(粉末)、調味料類(粉末)、増粘剤、乳化剤(粉末)、濃縮果汁類(高糖度)、菓子屑類など低水分原材料で混合粉体を調製し、これに液状の油脂類と必要に応じて乳化油脂を加えて混合し生地を調製する。
混合粉体は予めミックス粉としておいたものも使用できる。
これらの原材料は素材自体と強く結合していない自由な水分が少ないため小麦粉を始めとした粉体への吸水が少なくその結果、生地が固くなり過ぎず油脂類が染み込んだ軟らかなペースト状生地となり次の高水分原材料との混合が容易となる。
次いで卵、牛乳、生クリーム、水、酒類、シロップ、ピューレなど高水分原材料を一度に加えて、低速次いで高速で混合し、油分と水分が分離しないで滑らかに一体化した状態のバターケーキ生地を完成する。
本発明バターケーキの製造方法は生地調製時間が従来のフラワーバッター法より短く簡便な工程であるにもかかわらず従来のフラワーバッター法よりシットリして軟らかく口溶けが好い食感の良好なバターケーキを得ることができる。
【実施例】
【0013】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1]ミルクパウンドケーキ
薄力粉(日本製粉株式会社製、製品名ハート、水分含量14.0質量%)9.0kg、砂糖(水分含量1質量%)8.0kg、バター(水分含量16質量%)8.0kg(バターは70℃に加温し液状にして使用した。)、加糖練乳(水分含量26質量%)2.0kg、ベーキングパウダー(水分含量2質量%)0.3kgを全て大型縦型ミキサー(容量90リットル、ビーター使用)に投入し低速30秒間、中速1分間混合し前生地を調製した。
なお、薄力粉は篩わず、加糖練乳とベーキングパウダーは液状のバターに簡単に分散させた。
つぎに、液全卵(水分含量76質量%)8.0kg、牛乳(水分含量87質量%)2.0kgを一度に投入し、低速1分間、高速2分間混合し生地を調製した。
仕込み時間(仕込み開始から終了まで)は7分間であった。
生地の比重は1.0、生地温度は26℃であった。
敷き紙を敷いたパウンド型(長さ175mm、幅70mm、高さ60mm)にこの生地を390g注入して、180℃のオーブンで43分焼成しミルクパウンドケーキを得た。
【0014】
[比較例1]ミルクパウンドケーキ
バター(水分含量16質量%)8.0kg(バターは冷蔵庫から出し18℃の温度にしてやや軟らかくして用いた。)薄力粉(日本製粉株式会社製、製品名ハート、水分含量14.0質量%)9.0kg、ベーキングパウダー(水分含量2質量%)0.3kgを大型縦型ミキサー(容量90リットル、ビーター使用)に投入し低速2分間、中速5分間すり混ぜてやや固めの生地を調製した。
薄力粉とベーキングパウダーは一緒にしてから粉篩いを用いて2回篩ってから使用した。
つぎに、砂糖(水分含量1質量%)8.0kgを溶かした液全卵(水分含量76質量%)8.0kgを別のミキサーにてホイッパーを用いて比重0.8に軽く立て、前記のすり混ぜた生地に低速2分で3回に分けて投入し、ミキサーボール、及びビーターに付着した生地をかき落した後、低速で5分間混合し生地を調製した。
つぎに、加糖練乳(水分含量26質量%)2.0kgと牛乳(水分含量87質量%)2.0kgを順に前記の生地に加えて低速2分間混合して生地を調製した。
仕込み時間(仕込み開始から終了まで)は21分間であった。
生地の比重は1.0、生地温度は22℃であった。
この生地を実施例1と同様にして焼成しミルクパウンドケーキを得た。
【0015】
[評価]
実施例1と比較例1とで得られたミルクパウンドケーキの味、食感を10名のパネラーで評価したところ全員が実施例1の方が比較例1に比べシットリして軟らかく口溶けが好いとの評価であった。
実施例1は比較例1に比べ短時間の仕込みで高品質のミルクパウンドケーキを得ることができた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バターケーキの製造方法であって、使用する原材料を水分含量が30質量%以上の原材料と水分含量が30質量%未満の原材料に区別し、まず、液状の油脂と水分含量が30質量%未満の原材料全てを使用して前生地を調製し、該前生地に水分含量が30質量%以上の残り原材料を加えバターケーキ生地を調製するバターケーキの製造方法。