説明

バチルス・マクロイデス菌、及びそれを利用した食品

【課題】
病気の予防・治療、老化防止、あるいは免疫力の向上等に最も寄与している成分を見出すとともに、その成分を利用した新規な健康食品・飲料を提供することを目的とする。
【解決手段】
LB(Luria−Bertani)寒天培地上で辺縁不整形な白褐色コロニーを形成する、バチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)Excel001(NITE P−29)菌株、あるいは、その菌株をさらに栄養源の欠乏状態におくことで芽胞化させたものを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)菌及びそれを利用した食品に関する。さらに詳しくは、病気予防や老化防止、免疫力向上等を目的とする健康食品として利用し得る、バチルス・マクロイデス菌の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、病気予防や老化防止、免疫力向上等を目的として、種々の健康食品・飲料が提案されている。
例えば、(特許文献1)には、アガリクス・ブラゼイ・ムリル(Agaricus blazei murill)菌糸体エキスの製造方法が開示されている。具体的な製造の手順は、請求項1に例として示すように、下記の各段階、すなわち(a)水をベースとする培養液を使用し、アガリクス・ブラゼイ・ムリルの菌糸体を培養可能な培地上で培養液1リットルあたり30〜150gのアガリクス菌糸体を0〜25℃で少なくとも1週間培養する段階、(b)1〜10気圧の圧力で1〜4日間かけて液温を少なくとも30℃に上げてアガリクス・ブラゼイ・ムリルの菌糸体を上記培地から分離させる段階、(c)段階(b)と同一の条件で曝気を続けながら液温を一気に50℃以上に上昇させて1〜4時間保った後に、常温まで放冷して、この温度で1〜15時間保ち、ついで第1回目のろ過を行う段階、(d)1〜4時間15〜30℃の温度で放置して培養系に存在する雑菌を繁殖させた後、段階(b)と同一の条件で曝気を継続させながら常温で1〜5日間温置してアガリクス・ブラゼイ・ムリルの菌糸体を繁殖させた後に、曝気を中止して12〜36時間保持し、そして段階(b)と同一の条件で曝気をしながら第2回目のろ過を行う段階、(e)段階(b)と同一の条件で曝気を継続しながら常温で2〜7時間温置した後、培養系の液温を少なくとも60℃に上昇させこの温度で30分〜4時間保持して繁殖した雑菌を死滅させ、常温まで放冷してこの温度で1〜6時間温置し、そして最終ろ過を行う段階、(f)培養系を少なくとも1日かけて沸騰させた後に、常温まで放冷してこの温度で1〜6時間温置する段階、(g)上記条件下で曝気を行いながら常温で温置し、この温置の際にアガリクス・ブラゼイ・ムリルの菌糸体の濃度を調整する段階、(h)曝気を中止して温置する段階、及び(i)曝気気圧をできる限り下げて常温で温置する段階、を経ることによって目的のアガリクス・ブラゼイ・ムリルの菌糸体エキスを得ることができる、とされている。
【0003】
上記エキスは現在、商品名「大和神茸」として、農事組合法人 大和新茸生産組合により製造販売されており、実際に、ガン、肝臓疾患、糖尿病等の数々の病気に対する予防・治療効果を有することが報告され、好評を博している。
しかしながら、病気の予防・治療、老化防止、あるいは免疫力の向上等に対して、「大和神茸」中のどのような成分が最も作用しているのか、またその成分と病気の予防・治療効果等との因果関係については未だ明確にはされていなかった。
【0004】
【特許文献1】特許第2887756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、「大和神茸」を分析することによって病気の予防・治療、老化防止、あるいは免疫力の向上等に最も寄与している成分を見出すとともに、その成分を利用した新規な健康食品・飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者が鋭意研究を行った結果、「大和神茸」の培養物中に、いずれのバッチにも同一の白褐色コロニーを見出した。このコロニーは、rRNA遺伝子の塩基配列からバチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)と同定され、これにより本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の(1)〜(4)から構成されるものである。
【0007】
(1)LB(Luria−Bertani)寒天培地上で辺縁不整形な白褐色コロニーを形成する、バチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)Excel001(NITE P−29)菌株。
(2)16SrRNA遺伝子が配列番号1に示す塩基配列を有する、バチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)Excel001(NITE P−29)菌株。
(3)さらに栄養源の欠乏状態におくことで芽胞化させたことを特徴とする上記(1)又は(2)記載のバチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)Excel001(NITE P−29)菌株。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか記載のバチルス・マクロイデス菌株の培養物を含むことを特徴とする食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るバチルス・マクロイデス菌を利用することにより、病気の予防・治療作用、老化防止作用、あるいは免疫力向上作用等の特長を有する健康食品・飲料を得ることができる。
さらに、上記バチルス・マクロイデス菌は、栄養源の欠乏状態におき芽胞化させることで、その効果をより高めることができる。この理由は定かではないが、芽胞化により消化酵素の影響を受けずに腸管まで達しそこで発芽することで、腸管免疫に影響を与えるためではないかと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る菌株は、アガリクス系の菌糸体エキスとして製造販売されている「大和神茸」の分析を契機として見出されたものである。
【0010】
まず、「大和神茸」を適当な大きさの三角フラスコに入れ、封をして95℃で
5分程度、オートクレーブにより殺菌を行なう。これとは別に、LB寒天培地を入れた殺菌シャーレを調製する。このLB寒天培地上に、オートクレーブ後冷却した大和神茸を置き、37℃の恒温器にて16時間培養した。その結果、いずれのバッチにも共通して辺縁不整形な白褐色コロニーが形成されたため、このコロニーを分離し、以下のように菌の同定を行った。
【0011】
すなわち、単離したコロニーからゲノムDNAを抽出し、抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRにより、16SrRNA遺伝子の約500bpを増幅後、塩基配列を決定した。塩基配列は配列番号1に示す通りである。このrRNA遺伝子のシークエンスは、バチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)のrRNA遺伝子と99%以上の相同性を示したため、出願人の名称からBacillus macroides Excel001株と命名し、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2004年10月13日付けで寄託申請し、2004年11月1日に受託番号(NITE P−29)が通知された。
【0012】
上記バチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株は、上述のようにLB寒天培地上で辺縁不整形な白褐色コロニーを形成する。また、長期室温保存にてコロニーの中心部が黒褐色となり、さらにコロニーの周辺部の培地の色が黒褐色化する性質を有している。
【0013】
この菌株の培養物は、例えば液体中に懸濁させて健康飲料を調整し、適量を摂取することによって病気の予防・治療作用、老化防止作用、免疫力向上等の種々の優れた効能を得ることができる。対象となる疾病は多岐にわたり、例えばガン、肝臓疾患、糖尿病、悪性リンパ腫、バセドー氏病、アトピー性皮膚炎等の皮膚病、インポテンツ、高血圧症等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。その作用機序については不明であるが、患者の自己免疫機能に何らかの影響を与えるためと推測される。また、健常人が摂取しても良く、健康維持に有効である。
【0014】
上記バチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株の培養物を含む飲料を調製する場合、その菌の濃度は患者の症状等に応じて適宜設定することができる。一例を示せば、一日あたり1×10〜5×10/ml程度が適当である。また、食品の形態は、飲料だけでなく、ヨーグルト等に添加したり、粉末化された乾燥菌体をそのまま健康食品として用いても良い。また、摂取に便利なように錠剤化してもよい。錠剤化に際しては乳糖などの賦形剤等を適宜用いることができる。
【0015】
さらに、本発明のバチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株は、芽胞化させることによって、食品・飲料として摂取した場合に免疫力向上等の作用がより高まることが分かった。芽胞とは、栄養源の欠乏により、菌体内にコア、コルテックス、スポアコート等の層構造から構成される胞子を形成した状態をいい、熱、乾燥、放射線、酸、アルカリ等に対して強い抵抗性を有する。また、本発明に係る菌株は、芽胞化させた場合に強い休眠状態を保つが、培養条件を整えることにより直ちに発芽して増殖分裂を再開することを確認した。
【0016】
上述のように、芽胞化によって効果が高まる理由は定かではないが、一つには芽胞化させることで人体に摂取された場合に消化酵素の影響を受けずに腸管まで達し、そこで発芽することができるため、それによって腸管免疫に影響を与え易いためではないかと推測される。
【0017】
芽胞化させる方法としては、特に限定されるものではなく、バチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株を栄養源の欠乏した適当な培地で培養することにより目的の芽胞を採取することができる。具体的には、例えば、Mgイオン、銅イオン等を含む中性ないしアルカリ性の培地(ニュートリエント培地、酵母エキス・アルブミン培地、ペプトン培地等)を用いて20〜30℃程度で数日間、好気的に培養する方法、1〜5重量%のコーンスティープリカー及び炭素源を含有する培地において、菌株を炭素源が消費し尽くされるまで培養し、その後数十時間通気する方法等を挙げることができる。好気的な培養は、振とう機を用いて振とう培養するか、又はジャーファーメンター等を用いる場合には空気を送り込みながら攪拌することによって行う。
【0018】
なお、芽胞化させたバチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株は、芽胞化させない菌株と適宜併用することができる。
【実施例】
【0019】
(実施例1)バチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株の芽胞を含む飲料の作製
(目的) 低−無栄養の培地である、MCMスタベーションバッファー(MCM starvation buffer)を使用し、バチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株を芽胞化させ、飲料レベルの芽胞水を作製する。
【0020】
(方法) MCMスタベーションバッファー(10mM MOPS、2mM CaCl、4mM MgSO pH7.5(NaOHで調整))を、市販のVolvic water(ミネラルウォーター)を使って作製し、0.25μmのフィルターでろ過した。
【0021】
続いて、50mlのLB培地(Gibco−BRL社製)でバチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株を一晩培養し、3000rpmで10min遠心し、ペレットを作製した。その後、50mlのMCMスタベーションバッファーで2回洗浄し、50mlのMCMスタベーションバッファーに置換した。それを30℃で2日間震盪し、3000rpmで10min遠心後、ペレットを50mlのVolvic waterで3回洗浄し、ペレットを50mlのVolvic waterに置換した。
【0022】
すべての段階を無菌的に行い、三角フラスコなどの容器はすべて市販されている減菌済の容器を使用した。また、洗浄等の各段階で一部のサンプルを回収し、LB培地に播種し、loss等を確認した。
【0023】
(結果および考察) 飲料レベルでバチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株の芽胞水の作製を行った。その結果、生菌および芽胞あわせて1.14×10/μlを含む芽胞水を作製することに成功した。芽胞の確認は、95℃、5minの熱処理後、LBプレート上で培養することにより行った。なお、Volvic waterでの洗浄の間に菌(芽胞)を一部喪失していることが明らかとなった。各遠心の段階で保存しておいた上清を、LBプレートに播種して確認した結果、3000rpm×10minの遠心条件では生菌および芽胞を完全にはペレット化できていないことが判明した。遠心の回転数や時間についてはなお改善の余地がある。
【0024】
作製した芽胞水を本発明者を含む2名で5mlずつ(5.7×10の生菌および芽胞に相当)試飲したところ、腹痛等は認められず、アトピー性皮膚炎が改善する傾向を示した。
【0025】
次に、上記芽胞水を希釈して長期に飲用することを考慮し、その際に重要となるVolvic water中での芽胞の長期保存性について調べた。具体的には、芽胞水4、12、31日目の生菌と芽胞の数を検討した。その結果、芽胞水12、31日目においても、それぞれ670/μl、154/μlの芽胞が検出された。確かに芽胞数の減少は認められたが、長期にわたって十分量の芽胞を維持することが明らかとなった。したがって、製品にする際に非常に有利である。
【0026】
(実施例2)バチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株の芽胞水を作製する際の最適条件の決定
(目的) バチルス・マクロイデス(NITE P−29)菌株の芽胞水を作製する際の最も効率の良い芽胞化条件と芽胞回収方法を検討する。
【0027】
(方法) 基本的には、上記実施例1と同様にして飲料レベルの芽胞水を作製した。変更点は次の通りである。MCMスタベーションバッファー中で10日間震盪して芽胞の数の変化を調べた。また、Volvic waterで洗浄する際の回転数を10000rpmと15000rpmの2種類で行い、その上清中に残る芽胞の量を調べた。
【0028】
MCMスタベーションバッファーで10日間震盪後、2000rpm×10minで遠心し、上清を回収した。この上清1mlを10000rpm×10minで遠心し、その上清を100μl回収した。そして、残りの上清およびペレットを再度15000rpm×10minで遠心し、その上清を100μl回収した。残りの上清を全て除き、ペレットを1mlのVolvic waterで再懸濁した。15000rpm×10minで遠心後、上清を除き、再び1mlのVolvic waterで再懸濁する操作を2回繰り返した。最後に、1mlのVolvic waterで懸濁してLBプレートに播種した。
【0029】
(結果および考察) まず、MCMスタベーションバッファー置換直後の芽胞の数を調べたところ(ネガティブコントロール)、芽胞の形成は認められず、高栄養のLB培地中では芽胞化は起こらないことが分かった。
次に、MCMスタベーションバッファー置換後2、4、6、8、10日目の芽胞の数を測定した。その結果、6日目の芽胞の数が最も多くなり、8日目以降はほとんど芽胞を検出することができなかった。この結果より、MCMスタベーションバッファーでの長期震盪は芽胞数の減少をもたらすことが分かった。
【0030】
また、洗浄等の際に芽胞が喪失することが実施例1で明らかになったので、芽胞ペレットを作製する際の最適な遠心条件の決定を行った。その結果、2000rpmでは、ほとんどの芽胞が上清中に残ることが明らかとなった。これを利用して、2000rpmで10min遠心することで、MCMスタベーションバッファー中での生菌や死菌をペレットにして除く(減らす)ことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LB寒天培地上で辺縁不整形な白褐色コロニーを形成する、バチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)Excel001(NITE P−29)菌株。
【請求項2】
16SrRNA遺伝子が配列番号1に示す塩基配列を有する、バチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)Excel001(NITE P−29)菌株。
【請求項3】
さらに栄養源の欠乏状態におくことで芽胞化させたことを特徴とする請求項1又は2記載のバチルス・マクロイデス(Bacillus macroides)Excel001(NITE P−29)菌株。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のバチルス・マクロイデス菌株の培養物を含むことを特徴とする食品。

【公開番号】特開2008−5702(P2008−5702A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353360(P2004−353360)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(504406519)株式会社エクセルジャパン (1)
【Fターム(参考)】