バックドア開口上側コーナー部の接着構造およびその組立方法
【課題】安価にかつ重量増加なしに、走行中の低周波振動を減衰する。
【解決手段】リアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材30とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材32とによって閉断面状に形成される。ル−フパネルの後縁部下面に、車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材12が接合される。リアヘッダー部材12の車幅方向端部を構成するヒンジレインフォースメント15が、リアピラー側ブロックに接合されたガセット部材33に接合される。ヒンジレインフォースメント15とガセット部材33との接合が、接着領域Sにおいて、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材を用いた接着によって行われる。
【解決手段】リアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材30とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材32とによって閉断面状に形成される。ル−フパネルの後縁部下面に、車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材12が接合される。リアヘッダー部材12の車幅方向端部を構成するヒンジレインフォースメント15が、リアピラー側ブロックに接合されたガセット部材33に接合される。ヒンジレインフォースメント15とガセット部材33との接合が、接着領域Sにおいて、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材を用いた接着によって行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックドア開口上側コーナー部の接着構造およびその組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、ハッチバック車、ワゴン車、1ボックスカー等において見られるように、車体後面に、バックドアによって開閉されるバックドア開口を有するものがある。このバックドア開口は、その上縁部がル−フパネル後縁部に形成された車幅方向に伸びるリアヘッダーにより構成され、その左右側縁部が左右一対のリアピラーによって構成されて、このリアヘッダーの車幅方向端部がリアピラーの上端部に対して接合されている。
【0003】
ところで、走行中においては、車体の変形に起因して、不快な振動となる低周波振動(特に50Hz以下の低周波振動)が発生し易いものとなる。特許文献1には、ロッド状の油圧減衰器を用いて、車体の動的剛性を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−203896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のようなバックドア開口を有する車両にあっては、走行中に、バックドア開口上側にあるコーナー部付近(リアヘッダーとリアピラー部との結合部位付近)で変形を生じやすくて、この部分が不快な低周波振動の発生源となり易いものとなる。このような低周波振動を防止あるいは抑制するため、上記コーナー部について、剛性を向上させたり、特許文献1に記載のような油圧減衰器を用いることが考えられる。しかしながら、単に車体剛性を向上させたのでは、車体重量が大きくなりまたコストも高くなる。また特許文献1に記載のような油圧減衰器を用いた場合は、極めてコストが高くなり、また車体重量も増加することになる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、バックドア開口上側に形成されるコーナー部での低周波振動の低減を、車体重量を増加させることなくかつ安価に行えるようにしたバックドア開口上側コーナー部の接着構造およびその組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明における接着構造にあっては次のような第1の解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成され、
ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されて、該リアヘッダー部材の車幅方向端部が前記リアピラー側ブロックに接合され、
前記リアヘッダー部材と前記リアピラー側ブロックとの接合が、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材を用いた接着によって行われている、
ようにしてある。上記解決手法によれば、走行中にリアヘッダー部材とリアピラー側ブロックとの接合部位が相対変位して低周波振動を発生したとしても、弾性部材となる接着材による振動減衰作用によって低周波振動がすみやかに減衰されて、不快な低周波振動を大幅に低減することができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2〜請求項4に記載のとおりである。すなわち、
前記ピラーインナ部材と前記側辺雨樋部材に、車幅方向内方側に向けて突出する突出部を有するガセット部材が接合され、
前記リアヘッダー部材が、前記ガセット部材における前記突出部の上面に対して、前記接着材によって接着されている、
ようにしてある(請求項2対応)。この場合、ガセット部材によって、リアピラー上端部付近の補強を行いつつ、リアピラー側ブロックのリアヘッダー部材に対する接合面つまり接着材による接着面積を十分に確保することができる。
【0009】
前記ル−フパネルの後端部に、車幅方向に伸びてバックドア開口の上縁部における雨樋部を構成する上辺雨樋部が形成され、
前記上辺雨樋部の車幅方向端部が、前記側辺雨樋部材の上端部上面の一部に対して前記接着材によって接着されている、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、ル−フパネルの接着材による接着を利用して、低周波振動をより一層低減することができる。
【0010】
前記サイドアウタパネル部材に、その上端から一旦下方へ伸びた後車幅方向内方側に向けて伸びるモヒカン部が形成され、
前記リアピラーインナ部材の上端部に形成されたフランジ部が、前記モヒカン部の下面に接合され、
前記モヒカン部の上面に、前記ル−フパネルの車幅方向端部が前記接着材によって接着されている、
ようにしてある(請求項4対応)。この場合、請求項3に対応した効果と同様の効果を得つつ、前後方向に長いモヒカン部を利用して、接着面積の調整代を大きく確保する上でも好ましいものとなる。
【0011】
前記目的を達成するため、本発明における組立方法にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項5に記載のように
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成される一方、ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されてなる、バックドア開口上側コーナー部の組立方法であって、
前記リアヘッダー部材の車幅方向端部と前記リアピラー側ブロックとの接合を、その重ね合わせ部位にあらかじめ接着材を塗布し、その後スポット溶接することによって行ない、
前記接着材として、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上のものを用いる、
ようにしてある。上記解決手法によれば、請求項1に対応した接着構造を得るための組立方法が提供される。また、接着材による接着と合わせて、別途スポット溶接をも行うので、接合強度と低周波振動の低減とを共に高い次元でバランスさせる上でも好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行中におけるバックドア開口上側コーナー部で発生する低周波振動の低減を、車体重量を増加させることなくかつ安価に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用された自動車のボディ構造の一例を示す後方斜視図。
【図2】ル−フパネル側ブロックを取外した状態で左のリアピラー側ブロックを左後上方から見た斜視図。
【図3】ル−フパネル側ブロックを取外した状態で左リアピラー側ブロックを右後上方から見た斜視図。
【図4】図2のX4−X4線相当断面図。
【図5】図1のX5−X5線相当断面図。
【図6】ル−フパネル側ブロックを、ル−フパネルとリアヘッダー部材とに分解して示す斜視図。
【図7】図1のX7−X7線相当断面図。
【図8】リアピラー側ブロックとル−フパネル側ブロックとの接合部位を上方から見た図。
【図9】図8の状態からル−フパネルを取外した状態を示すと共に、接着領域を示す図。
【図10】図9の状態からリアヘッダーアッパ部材を取外した状態を示す図。
【図11】図10の状態から、リアヘッダーロア部材の一部を構成するヒンジレインフォースメントを取外した状態を示す図。
【図12】図11の状態からリアヘッダーロア部材を取外した状態を示す図。
【図13】接着材による接着手法の一例を示す断面図。
【図14】接着材による接着手法の別の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において、自動車のボディBは、その左右側方において前後一対の乗降用の側方開口部1,2を有する。前側方開口部1は図示を略す前サイドドアによって開閉され、後側方開口部2は図示を略すを後サイドドアによって開閉される。また、ボディVは、後方開口部となるバックドア開口3を有して、このバックドア開口3は、図示を略すバックドアによって開閉される。なお、バックドアは、バックドア開口3の上縁部に設けられたヒンジ4を中心として開閉されるもので、ボディBとバックドアとを連結するダンパが符合5で示される。
【0015】
図1において、10はル−フパネルであり、その側縁部は前後方向に伸びるル−フサイドレール11とされている。20はリアピラー、30はリアピラー20を構成するためのサイドアウタパネル部材である。
【0016】
リアピラー20の構成について、図2〜図4を参照しつつ説明する。まず、リアピラー20は、サイドアウタパネル部材30と、リアピラーインナ部材31と、側辺雨樋部材32とによって閉断面に構成されている。側辺雨樋部材32は、バックドア開口3の側縁部において、上下方向に伸びる雨樋を構成するものである。また、側辺雨樋部材32は、その上端部が、若干車幅方向内方側に突出するように伸びて、この突出部分が、後述するル−フパネル10の後縁部に構成される上辺雨樋部10aに連なるようにされている。この側辺雨樋部材32と上辺雨樋部10aとは、その近傍にある車体外表面から若干凹むように位置されて、バックドアを閉めたときに、バックドアの外表面がサイドアウタパネル30やル−フパネル10にほぼ面一に連なるようにされる。
【0017】
図5に示すように、サイドアウタパネル部材30は、その外表面上端から、一旦下方へ伸びた後、車幅方向内方側に向けて短く伸びるモヒカン部30aを有する。また、リアピラーインナ部材31は、その上端部に、車幅方向内方側に向けて伸びるフランジ部31aを有して、このフランジ部31aが、モヒカン部30aの下面に接合されている。そして、モヒカン部30aの上面に、ル−フパネル10の側縁部が接合されている。すなわち、ル−フパネル10の側縁部は、一旦下方へ伸びた後車幅方向外方側へ短く伸びるフランジ部10bを有して、このフランジ部10bが、モヒカン部30aの上面に接合されている。これにより、ル−フパネル10の側縁部には、モヒカン部30aに対応して、下方に若干凹となって前後方向に伸びる側方雨樋部16が形成される。
【0018】
上記サイドアウタパネル部材30とリアピラーインナ部材31と側辺雨樋部材32とによって、リアピラー側ブロックB1が構成される。このリアピラー側ブロックB1に対して、ガセット部材33が接合されている。このガセット部材33は、その車幅方向外側部分がリアピラーインナ部材31(の下面および車幅方向内側面)に接合されると共に、車幅方向内方側に向けて伸びる突出部33aを有する。この突出部33aは、ル−フパネル10と重なる位置とされて、後述するように、ル−フパネル10との接合用として利用される。なお、ガセット部材33は、リアピラー20の上端部から前方(ル−フサイドレール11側)、下方(側辺雨樋部材32側)および車幅方向内方側(突出部33a相当)の3方向に伸びていて、この3方向の交差部つまりバックドア開口上側コーナー部の補強作用を行うものとなっている。
【0019】
前記ル−フパネル10は、図5,図6に示すように、その後縁部下面に、車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材12が接合されている。リアヘッダー部材12は、実施形態では、リアヘッダーアッパ部材13と、リアヘッダーロア部材14と、リアヘッダーロア部材14の車幅方向端部に接合されたヒンジレインフォースメント15とによって構成されている。なお、ヒンジレインフォースメント15は、実質的にリアヘッダーロア部材14の一部を構成するもので、分割形式とすることなく、互いに一体成形することもできる。
【0020】
図7に示すように、上記リアヘッダーアッパ部材13は、その前縁部と後縁部とがル−フパネル10の下面に接合され、リアヘッダーロア部材14は、その前縁部と後縁部とがリアヘッダーアッパ部材12の下面に接合されている。前述した上辺雨樋部10aは、ル−フパネル10の後端部を一旦下方へ伸ばした後に後方へ伸ばし、さらに上方へ短く伸ばすことによって形成されている。そして、リアヘッダー部材12(13,14)の後縁部は、上辺雨樋部10aの下面に接合されている。上述したようなル−フパネル10とリアヘッダー部材12(13,14、15)とによって、ル−フパネル側ブロックB2が構成される。
【0021】
ル−フパネル10、リアヘッダーアッパ部材13,リアヘッダーロア部材14、ヒンジレインフォースメント15の上下の重なり具合は、図5,図8〜図12を参照することによって明らかとなる。この図8〜図12に示すように、リアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2との接合状態(重なり関係)は、次のようになっている。まず、特に図10に示すように、ヒンジレインフォースメント15の車幅方向端部が、ガセット部材33の突出部33a上面のほぼ全面に対して重なって、この重なった部分で接合されている。また、図11に示すように、リアヘッダーロア部材14の車幅方向端部が、ガセット部材33の突出部33aの一部に対して重なって、この重なった部分で接合される。リアヘッダーアッパ部材13は、ガセット部材33を含むリアピラー側ブロックB1に対する直接的な接合は行われていない。さらに、ル−フパネル10は、その後縁部(上辺雨樋部10a)のうちの車幅方向端部の一部が、ガセット部材33の突出部33a上面の一部に重なって、この重なった部分で接合されている。
【0022】
ここで、リアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2との接合に際して、接着材を用いた接着が利用されている。実施形態では、図9破線で囲まれた部分(ドットを施して示す)が、接着領域Sとされている。この接着領域Sは、ガセット部材33(の突出部33a)とヒンジレインフォースメント15との重なり面積のほとんどを占めていて、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との接合が接着材による接着とされている。また、接着領域Sの一部は、ル−フパネル10の後縁部の一部(上辺雨樋部10aの車幅方向端部の一部)と重なるように設定されて、この一部の重なり部分でも接着材による接着が行われている。ル−フパネル10の側縁部の後端部がモヒカン部30aと重なる部分(図5参照)においても、接着材による接着が行われている。
【0023】
上述した接着領域Sにおける接着に用いる接着材としては、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上のものが用いられている。このような接着材を用いることにより、接着領域Sに存在する接着材の減衰作用が効果的に発揮されて、走行中の車体ねじれによってにリアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2とが変位されて低周波の振動を発生したとしても、この低周波の振動(特に20〜30Hzの振動)はすみやかに減衰されることになる(乗員が不快な低周波振動を感じないあるいは感じにくくなる)。ちなみに、リアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2との結合剛性を例えばレインフォースメント等を用いて向上させることによって低周波振動の発生を低減するようにした場合は、レインフォースメントによる大幅な補強が必要になって、コスト高になったり、車体重量の大幅な増加となってしまうことになる。
【0024】
図13には、接着材による接着手法の一例が示される。この図13に示す例では、ガセット部材33(の凸部33a)とリアヘッダーロア部材14の車幅方向端部を実質的に構成するヒンジレインフォースメント15との接着例を示してある。すなわち、接着領域Sにおいては、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との間に、1mm以下のわずかな隙間40が形成されて、この隙間40に接着材41が充填される。そして、隙間40以外の部分では、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15とが密着されて、スポット溶接されている(スポット溶接部分が符合42で示される)。また、接着領域Sの一部についても、スポット溶接42Aが行われている。なお、図13に示すような接着例を得るために、隙間40が形成されるようにかつスポット溶接部分42Aにおいては互いに当接するようにして、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15とをプレス成形しておけばよい(スポット溶接42Aに相当する部位にあらかじめ凹部を形成しておく)。なお、スポット溶接42、42Aは、接着領域Sにあらかじめ接着材41を存在させた状態で行われる。また、接着領域Sにおけるスポット溶接42Aを行わないようにしてもよい。
【0025】
図14は、別の接着例を示すものである。本例では、ボルト45,ナット46,スペーサ47を利用して、隙間40の確保がなされている。すなわち、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との間に、ワッシャ等からなる環状のスペーサ47が介在されて、隙間40が押しつぶされないようにされている。このスペーサ47にそれぞれ対応させて、ガセット部材33の下面にナット46が溶接等により固定され、ヒンジレインフォースメント15に貫通孔48が形成され、ガセット部材33に貫通孔49が形成されている。そして、ヒンジレインフォースメント15の上方から、ボルト45を、貫通孔48,スペーサ47、貫通孔49を貫通させて、ナット46に螺合するようにしてある。スペーサ47によって、隙間40が必要以上に小さくなってしまうのが防止され、またボルト45,ナット46によって、隙間40が必要以上に大きくなってしまうことが防止される。貫通孔48、49は、ボルト45(のねじ部の直径)よりも大径とされて、隙間40が存在する部分では、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15とがその板面方向に若干相対変位可能とされている。なお、ナット46をヒンジレインフォースメント15側に固定するようにしてもよい。
【0026】
図14のような構造を得るには、まず、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との間にスペーサ47を介在させると共に接着材41を塗布し、その後、ボルト45をナット46に螺合し、最後に、隙間40(接着材41)の周囲部分の適宜の位置でスポット溶接42を行うようにすればよい(接着材41の塗布後のスポット溶接実行)。なお、スポット溶接42は、隙間40が存在する部分で行うこともでき、またスポット溶接42を行わないようにすることもできる。
【0027】
ここで、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材としては、例えば、アウタパネルとインナパネルとのヘミング部に多く用いられているシーラーやゴム系の接着材がある。ちなみに、剛体的に接着する構造用接着材においては、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以上でかつ損失係数が0.1よりも大幅に小さいものである。
【0028】
接着領域Sにおける接着材の厚さや面積を調整することによって、静ねじり剛性と振動減衰比(接着材を用いないでスポット溶接のみよる通常の接合構造の場合に対する振動の減衰比で、振動減衰比が大きいほど低周波振動の減衰作用が高いものとなる)との関係を調整することができる。ここで、接着材の厚さは、厚くするほど振動減衰比を大きくすることができるが、振動減衰比の増大には限界があり、しかも接着材41の使用量が増大してしまう。また、接着面積としては大きいほど振動減衰比を大きくすることができるが、接着部位の相対変位を大きくする観点と、接着材41の使用量低減との観点から、極力接着面積を小さくすることが好ましい。ちなみに、接着領域Sに示す面積範囲で、接着材41の厚さを0.1〜1mm程度に設定した場合に、静ねじり剛性の低下を抑制しつつ、振動減衰比を70〜130%増とすることができた(スポット溶接のみによる従来の接合における振動減衰比を0%とする)。また、ル−フパネル10(の一部)をリアピラー側ブロックB1に対して接着材41によって接着することによって、接着面積の調整代つまり振動特性のチューニング代を大きく確保する上で好ましいものとなり、特に前後方向に伸びるモヒカン部30aにおいて接着面積の調整代を大きく確保することができる。
【0029】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。リアヘッダー部材12は、アッパ部材13とロア部材14との2つの部材によって構成する場合に限らず、その一方のみを有するようにしてもよい(ただし、ガセット部材33つまりリアピラー側ブロックB1に重なるような長さに設定される)。ル−フパネル10(特にその側縁部)は、リアピラー側ブロックB1に対して接着材41による接着を行わないようにしてもよい。ガセット部材33を用いることなく、リアヘッダー部材12をリアピラー側ブロックB1に対して直接的に接合することもできる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、自動車の振動(騒音)低減の技術として好ましいものとなる。
【符号の説明】
【0031】
B:ボディ
B1:リアピラー側ブロック
B2:ル−フパネル側ブロック
S:接着領域
3:バックドア開口
10:ル−フパネル
10a:上辺雨樋部
11:ル−フサイドレール
12:リアヘッダー部材
13:リアヘッダーアッパ部材
14:リアヘッダーロア部材
15:ヒンジレインフォースメント
16:側方雨樋部
20:リアピラー
30:サイドアウタパネル部材
30a:モヒカン部
31:リアピラーインナ部材
32:側辺雨樋部材
33:ガセット部材
33a:凸部
40:隙間
41:接着材
42、42A:スポット溶接
45:ボルト
46:ナット
47:スペーサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックドア開口上側コーナー部の接着構造およびその組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、ハッチバック車、ワゴン車、1ボックスカー等において見られるように、車体後面に、バックドアによって開閉されるバックドア開口を有するものがある。このバックドア開口は、その上縁部がル−フパネル後縁部に形成された車幅方向に伸びるリアヘッダーにより構成され、その左右側縁部が左右一対のリアピラーによって構成されて、このリアヘッダーの車幅方向端部がリアピラーの上端部に対して接合されている。
【0003】
ところで、走行中においては、車体の変形に起因して、不快な振動となる低周波振動(特に50Hz以下の低周波振動)が発生し易いものとなる。特許文献1には、ロッド状の油圧減衰器を用いて、車体の動的剛性を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−203896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のようなバックドア開口を有する車両にあっては、走行中に、バックドア開口上側にあるコーナー部付近(リアヘッダーとリアピラー部との結合部位付近)で変形を生じやすくて、この部分が不快な低周波振動の発生源となり易いものとなる。このような低周波振動を防止あるいは抑制するため、上記コーナー部について、剛性を向上させたり、特許文献1に記載のような油圧減衰器を用いることが考えられる。しかしながら、単に車体剛性を向上させたのでは、車体重量が大きくなりまたコストも高くなる。また特許文献1に記載のような油圧減衰器を用いた場合は、極めてコストが高くなり、また車体重量も増加することになる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、バックドア開口上側に形成されるコーナー部での低周波振動の低減を、車体重量を増加させることなくかつ安価に行えるようにしたバックドア開口上側コーナー部の接着構造およびその組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明における接着構造にあっては次のような第1の解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成され、
ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されて、該リアヘッダー部材の車幅方向端部が前記リアピラー側ブロックに接合され、
前記リアヘッダー部材と前記リアピラー側ブロックとの接合が、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材を用いた接着によって行われている、
ようにしてある。上記解決手法によれば、走行中にリアヘッダー部材とリアピラー側ブロックとの接合部位が相対変位して低周波振動を発生したとしても、弾性部材となる接着材による振動減衰作用によって低周波振動がすみやかに減衰されて、不快な低周波振動を大幅に低減することができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2〜請求項4に記載のとおりである。すなわち、
前記ピラーインナ部材と前記側辺雨樋部材に、車幅方向内方側に向けて突出する突出部を有するガセット部材が接合され、
前記リアヘッダー部材が、前記ガセット部材における前記突出部の上面に対して、前記接着材によって接着されている、
ようにしてある(請求項2対応)。この場合、ガセット部材によって、リアピラー上端部付近の補強を行いつつ、リアピラー側ブロックのリアヘッダー部材に対する接合面つまり接着材による接着面積を十分に確保することができる。
【0009】
前記ル−フパネルの後端部に、車幅方向に伸びてバックドア開口の上縁部における雨樋部を構成する上辺雨樋部が形成され、
前記上辺雨樋部の車幅方向端部が、前記側辺雨樋部材の上端部上面の一部に対して前記接着材によって接着されている、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、ル−フパネルの接着材による接着を利用して、低周波振動をより一層低減することができる。
【0010】
前記サイドアウタパネル部材に、その上端から一旦下方へ伸びた後車幅方向内方側に向けて伸びるモヒカン部が形成され、
前記リアピラーインナ部材の上端部に形成されたフランジ部が、前記モヒカン部の下面に接合され、
前記モヒカン部の上面に、前記ル−フパネルの車幅方向端部が前記接着材によって接着されている、
ようにしてある(請求項4対応)。この場合、請求項3に対応した効果と同様の効果を得つつ、前後方向に長いモヒカン部を利用して、接着面積の調整代を大きく確保する上でも好ましいものとなる。
【0011】
前記目的を達成するため、本発明における組立方法にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項5に記載のように
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成される一方、ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されてなる、バックドア開口上側コーナー部の組立方法であって、
前記リアヘッダー部材の車幅方向端部と前記リアピラー側ブロックとの接合を、その重ね合わせ部位にあらかじめ接着材を塗布し、その後スポット溶接することによって行ない、
前記接着材として、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上のものを用いる、
ようにしてある。上記解決手法によれば、請求項1に対応した接着構造を得るための組立方法が提供される。また、接着材による接着と合わせて、別途スポット溶接をも行うので、接合強度と低周波振動の低減とを共に高い次元でバランスさせる上でも好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行中におけるバックドア開口上側コーナー部で発生する低周波振動の低減を、車体重量を増加させることなくかつ安価に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用された自動車のボディ構造の一例を示す後方斜視図。
【図2】ル−フパネル側ブロックを取外した状態で左のリアピラー側ブロックを左後上方から見た斜視図。
【図3】ル−フパネル側ブロックを取外した状態で左リアピラー側ブロックを右後上方から見た斜視図。
【図4】図2のX4−X4線相当断面図。
【図5】図1のX5−X5線相当断面図。
【図6】ル−フパネル側ブロックを、ル−フパネルとリアヘッダー部材とに分解して示す斜視図。
【図7】図1のX7−X7線相当断面図。
【図8】リアピラー側ブロックとル−フパネル側ブロックとの接合部位を上方から見た図。
【図9】図8の状態からル−フパネルを取外した状態を示すと共に、接着領域を示す図。
【図10】図9の状態からリアヘッダーアッパ部材を取外した状態を示す図。
【図11】図10の状態から、リアヘッダーロア部材の一部を構成するヒンジレインフォースメントを取外した状態を示す図。
【図12】図11の状態からリアヘッダーロア部材を取外した状態を示す図。
【図13】接着材による接着手法の一例を示す断面図。
【図14】接着材による接着手法の別の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において、自動車のボディBは、その左右側方において前後一対の乗降用の側方開口部1,2を有する。前側方開口部1は図示を略す前サイドドアによって開閉され、後側方開口部2は図示を略すを後サイドドアによって開閉される。また、ボディVは、後方開口部となるバックドア開口3を有して、このバックドア開口3は、図示を略すバックドアによって開閉される。なお、バックドアは、バックドア開口3の上縁部に設けられたヒンジ4を中心として開閉されるもので、ボディBとバックドアとを連結するダンパが符合5で示される。
【0015】
図1において、10はル−フパネルであり、その側縁部は前後方向に伸びるル−フサイドレール11とされている。20はリアピラー、30はリアピラー20を構成するためのサイドアウタパネル部材である。
【0016】
リアピラー20の構成について、図2〜図4を参照しつつ説明する。まず、リアピラー20は、サイドアウタパネル部材30と、リアピラーインナ部材31と、側辺雨樋部材32とによって閉断面に構成されている。側辺雨樋部材32は、バックドア開口3の側縁部において、上下方向に伸びる雨樋を構成するものである。また、側辺雨樋部材32は、その上端部が、若干車幅方向内方側に突出するように伸びて、この突出部分が、後述するル−フパネル10の後縁部に構成される上辺雨樋部10aに連なるようにされている。この側辺雨樋部材32と上辺雨樋部10aとは、その近傍にある車体外表面から若干凹むように位置されて、バックドアを閉めたときに、バックドアの外表面がサイドアウタパネル30やル−フパネル10にほぼ面一に連なるようにされる。
【0017】
図5に示すように、サイドアウタパネル部材30は、その外表面上端から、一旦下方へ伸びた後、車幅方向内方側に向けて短く伸びるモヒカン部30aを有する。また、リアピラーインナ部材31は、その上端部に、車幅方向内方側に向けて伸びるフランジ部31aを有して、このフランジ部31aが、モヒカン部30aの下面に接合されている。そして、モヒカン部30aの上面に、ル−フパネル10の側縁部が接合されている。すなわち、ル−フパネル10の側縁部は、一旦下方へ伸びた後車幅方向外方側へ短く伸びるフランジ部10bを有して、このフランジ部10bが、モヒカン部30aの上面に接合されている。これにより、ル−フパネル10の側縁部には、モヒカン部30aに対応して、下方に若干凹となって前後方向に伸びる側方雨樋部16が形成される。
【0018】
上記サイドアウタパネル部材30とリアピラーインナ部材31と側辺雨樋部材32とによって、リアピラー側ブロックB1が構成される。このリアピラー側ブロックB1に対して、ガセット部材33が接合されている。このガセット部材33は、その車幅方向外側部分がリアピラーインナ部材31(の下面および車幅方向内側面)に接合されると共に、車幅方向内方側に向けて伸びる突出部33aを有する。この突出部33aは、ル−フパネル10と重なる位置とされて、後述するように、ル−フパネル10との接合用として利用される。なお、ガセット部材33は、リアピラー20の上端部から前方(ル−フサイドレール11側)、下方(側辺雨樋部材32側)および車幅方向内方側(突出部33a相当)の3方向に伸びていて、この3方向の交差部つまりバックドア開口上側コーナー部の補強作用を行うものとなっている。
【0019】
前記ル−フパネル10は、図5,図6に示すように、その後縁部下面に、車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材12が接合されている。リアヘッダー部材12は、実施形態では、リアヘッダーアッパ部材13と、リアヘッダーロア部材14と、リアヘッダーロア部材14の車幅方向端部に接合されたヒンジレインフォースメント15とによって構成されている。なお、ヒンジレインフォースメント15は、実質的にリアヘッダーロア部材14の一部を構成するもので、分割形式とすることなく、互いに一体成形することもできる。
【0020】
図7に示すように、上記リアヘッダーアッパ部材13は、その前縁部と後縁部とがル−フパネル10の下面に接合され、リアヘッダーロア部材14は、その前縁部と後縁部とがリアヘッダーアッパ部材12の下面に接合されている。前述した上辺雨樋部10aは、ル−フパネル10の後端部を一旦下方へ伸ばした後に後方へ伸ばし、さらに上方へ短く伸ばすことによって形成されている。そして、リアヘッダー部材12(13,14)の後縁部は、上辺雨樋部10aの下面に接合されている。上述したようなル−フパネル10とリアヘッダー部材12(13,14、15)とによって、ル−フパネル側ブロックB2が構成される。
【0021】
ル−フパネル10、リアヘッダーアッパ部材13,リアヘッダーロア部材14、ヒンジレインフォースメント15の上下の重なり具合は、図5,図8〜図12を参照することによって明らかとなる。この図8〜図12に示すように、リアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2との接合状態(重なり関係)は、次のようになっている。まず、特に図10に示すように、ヒンジレインフォースメント15の車幅方向端部が、ガセット部材33の突出部33a上面のほぼ全面に対して重なって、この重なった部分で接合されている。また、図11に示すように、リアヘッダーロア部材14の車幅方向端部が、ガセット部材33の突出部33aの一部に対して重なって、この重なった部分で接合される。リアヘッダーアッパ部材13は、ガセット部材33を含むリアピラー側ブロックB1に対する直接的な接合は行われていない。さらに、ル−フパネル10は、その後縁部(上辺雨樋部10a)のうちの車幅方向端部の一部が、ガセット部材33の突出部33a上面の一部に重なって、この重なった部分で接合されている。
【0022】
ここで、リアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2との接合に際して、接着材を用いた接着が利用されている。実施形態では、図9破線で囲まれた部分(ドットを施して示す)が、接着領域Sとされている。この接着領域Sは、ガセット部材33(の突出部33a)とヒンジレインフォースメント15との重なり面積のほとんどを占めていて、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との接合が接着材による接着とされている。また、接着領域Sの一部は、ル−フパネル10の後縁部の一部(上辺雨樋部10aの車幅方向端部の一部)と重なるように設定されて、この一部の重なり部分でも接着材による接着が行われている。ル−フパネル10の側縁部の後端部がモヒカン部30aと重なる部分(図5参照)においても、接着材による接着が行われている。
【0023】
上述した接着領域Sにおける接着に用いる接着材としては、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上のものが用いられている。このような接着材を用いることにより、接着領域Sに存在する接着材の減衰作用が効果的に発揮されて、走行中の車体ねじれによってにリアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2とが変位されて低周波の振動を発生したとしても、この低周波の振動(特に20〜30Hzの振動)はすみやかに減衰されることになる(乗員が不快な低周波振動を感じないあるいは感じにくくなる)。ちなみに、リアピラー側ブロックB1とル−フパネル側ブロックB2との結合剛性を例えばレインフォースメント等を用いて向上させることによって低周波振動の発生を低減するようにした場合は、レインフォースメントによる大幅な補強が必要になって、コスト高になったり、車体重量の大幅な増加となってしまうことになる。
【0024】
図13には、接着材による接着手法の一例が示される。この図13に示す例では、ガセット部材33(の凸部33a)とリアヘッダーロア部材14の車幅方向端部を実質的に構成するヒンジレインフォースメント15との接着例を示してある。すなわち、接着領域Sにおいては、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との間に、1mm以下のわずかな隙間40が形成されて、この隙間40に接着材41が充填される。そして、隙間40以外の部分では、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15とが密着されて、スポット溶接されている(スポット溶接部分が符合42で示される)。また、接着領域Sの一部についても、スポット溶接42Aが行われている。なお、図13に示すような接着例を得るために、隙間40が形成されるようにかつスポット溶接部分42Aにおいては互いに当接するようにして、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15とをプレス成形しておけばよい(スポット溶接42Aに相当する部位にあらかじめ凹部を形成しておく)。なお、スポット溶接42、42Aは、接着領域Sにあらかじめ接着材41を存在させた状態で行われる。また、接着領域Sにおけるスポット溶接42Aを行わないようにしてもよい。
【0025】
図14は、別の接着例を示すものである。本例では、ボルト45,ナット46,スペーサ47を利用して、隙間40の確保がなされている。すなわち、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との間に、ワッシャ等からなる環状のスペーサ47が介在されて、隙間40が押しつぶされないようにされている。このスペーサ47にそれぞれ対応させて、ガセット部材33の下面にナット46が溶接等により固定され、ヒンジレインフォースメント15に貫通孔48が形成され、ガセット部材33に貫通孔49が形成されている。そして、ヒンジレインフォースメント15の上方から、ボルト45を、貫通孔48,スペーサ47、貫通孔49を貫通させて、ナット46に螺合するようにしてある。スペーサ47によって、隙間40が必要以上に小さくなってしまうのが防止され、またボルト45,ナット46によって、隙間40が必要以上に大きくなってしまうことが防止される。貫通孔48、49は、ボルト45(のねじ部の直径)よりも大径とされて、隙間40が存在する部分では、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15とがその板面方向に若干相対変位可能とされている。なお、ナット46をヒンジレインフォースメント15側に固定するようにしてもよい。
【0026】
図14のような構造を得るには、まず、ガセット部材33とヒンジレインフォースメント15との間にスペーサ47を介在させると共に接着材41を塗布し、その後、ボルト45をナット46に螺合し、最後に、隙間40(接着材41)の周囲部分の適宜の位置でスポット溶接42を行うようにすればよい(接着材41の塗布後のスポット溶接実行)。なお、スポット溶接42は、隙間40が存在する部分で行うこともでき、またスポット溶接42を行わないようにすることもできる。
【0027】
ここで、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材としては、例えば、アウタパネルとインナパネルとのヘミング部に多く用いられているシーラーやゴム系の接着材がある。ちなみに、剛体的に接着する構造用接着材においては、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以上でかつ損失係数が0.1よりも大幅に小さいものである。
【0028】
接着領域Sにおける接着材の厚さや面積を調整することによって、静ねじり剛性と振動減衰比(接着材を用いないでスポット溶接のみよる通常の接合構造の場合に対する振動の減衰比で、振動減衰比が大きいほど低周波振動の減衰作用が高いものとなる)との関係を調整することができる。ここで、接着材の厚さは、厚くするほど振動減衰比を大きくすることができるが、振動減衰比の増大には限界があり、しかも接着材41の使用量が増大してしまう。また、接着面積としては大きいほど振動減衰比を大きくすることができるが、接着部位の相対変位を大きくする観点と、接着材41の使用量低減との観点から、極力接着面積を小さくすることが好ましい。ちなみに、接着領域Sに示す面積範囲で、接着材41の厚さを0.1〜1mm程度に設定した場合に、静ねじり剛性の低下を抑制しつつ、振動減衰比を70〜130%増とすることができた(スポット溶接のみによる従来の接合における振動減衰比を0%とする)。また、ル−フパネル10(の一部)をリアピラー側ブロックB1に対して接着材41によって接着することによって、接着面積の調整代つまり振動特性のチューニング代を大きく確保する上で好ましいものとなり、特に前後方向に伸びるモヒカン部30aにおいて接着面積の調整代を大きく確保することができる。
【0029】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。リアヘッダー部材12は、アッパ部材13とロア部材14との2つの部材によって構成する場合に限らず、その一方のみを有するようにしてもよい(ただし、ガセット部材33つまりリアピラー側ブロックB1に重なるような長さに設定される)。ル−フパネル10(特にその側縁部)は、リアピラー側ブロックB1に対して接着材41による接着を行わないようにしてもよい。ガセット部材33を用いることなく、リアヘッダー部材12をリアピラー側ブロックB1に対して直接的に接合することもできる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、自動車の振動(騒音)低減の技術として好ましいものとなる。
【符号の説明】
【0031】
B:ボディ
B1:リアピラー側ブロック
B2:ル−フパネル側ブロック
S:接着領域
3:バックドア開口
10:ル−フパネル
10a:上辺雨樋部
11:ル−フサイドレール
12:リアヘッダー部材
13:リアヘッダーアッパ部材
14:リアヘッダーロア部材
15:ヒンジレインフォースメント
16:側方雨樋部
20:リアピラー
30:サイドアウタパネル部材
30a:モヒカン部
31:リアピラーインナ部材
32:側辺雨樋部材
33:ガセット部材
33a:凸部
40:隙間
41:接着材
42、42A:スポット溶接
45:ボルト
46:ナット
47:スペーサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成され、
ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されて、該リアヘッダー部材の車幅方向端部が前記リアピラー側ブロックに接合され、
前記リアヘッダー部材と前記リアピラー側ブロックとの接合が、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材を用いた接着によって行われている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記ピラーインナ部材と前記側辺雨樋部材に、車幅方向内方側に向けて突出する突出部を有するガセット部材が接合され、
前記リアヘッダー部材が、前記ガセット部材における前記突出部の上面に対して、前記接着材によって接着されている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記ル−フパネルの後端部に、車幅方向に伸びてバックドア開口の上縁部における雨樋部を構成する上辺雨樋部が形成され、
前記上辺雨樋部の車幅方向端部が、前記側辺雨樋部材の上端部上面の一部に対して前記接着材によって接着されている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記サイドアウタパネル部材に、その上端から一旦下方へ伸びた後車幅方向内方側に向けて伸びるモヒカン部が形成され、
前記リアピラーインナ部材の上端部に形成されたフランジ部が、前記モヒカン部の下面に接合され、
前記モヒカン部の上面に、前記ル−フパネルの車幅方向端部が前記接着材によって接着されている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項5】
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成される一方、ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されてなる、バックドア開口上側コーナー部の組立方法であって、
前記リアヘッダー部材の車幅方向端部と前記リアピラー側ブロックとの接合を、その重ね合わせ部位にあらかじめ接着材を塗布し、その後スポット溶接することによって行ない、
前記接着材として、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上のものを用いる、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の組立方法。
【請求項1】
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成され、
ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されて、該リアヘッダー部材の車幅方向端部が前記リアピラー側ブロックに接合され、
前記リアヘッダー部材と前記リアピラー側ブロックとの接合が、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上の接着材を用いた接着によって行われている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記ピラーインナ部材と前記側辺雨樋部材に、車幅方向内方側に向けて突出する突出部を有するガセット部材が接合され、
前記リアヘッダー部材が、前記ガセット部材における前記突出部の上面に対して、前記接着材によって接着されている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記ル−フパネルの後端部に、車幅方向に伸びてバックドア開口の上縁部における雨樋部を構成する上辺雨樋部が形成され、
前記上辺雨樋部の車幅方向端部が、前記側辺雨樋部材の上端部上面の一部に対して前記接着材によって接着されている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記サイドアウタパネル部材に、その上端から一旦下方へ伸びた後車幅方向内方側に向けて伸びるモヒカン部が形成され、
前記リアピラーインナ部材の上端部に形成されたフランジ部が、前記モヒカン部の下面に接合され、
前記モヒカン部の上面に、前記ル−フパネルの車幅方向端部が前記接着材によって接着されている、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の接着構造。
【請求項5】
バックドア開口の側縁部を構成するリアピラー側ブロックが、リアピラーインナ部材とサイドアウタパネル部材とバックドア開口の側縁部における雨樋を構成する側辺雨樋部材とによって閉断面状に形成される一方、ル−フパネルの後縁部下面に車幅方向に伸びて閉断面を構成するリアヘッダー部材が接合されてなる、バックドア開口上側コーナー部の組立方法であって、
前記リアヘッダー部材の車幅方向端部と前記リアピラー側ブロックとの接合を、その重ね合わせ部位にあらかじめ接着材を塗布し、その後スポット溶接することによって行ない、
前記接着材として、温度20度Cにおけるヤング率が500Mpa以下でかつ損失係数が0.1以上のものを用いる、
ことを特徴とするバックドア開口上側コーナー部の組立方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−93449(P2011−93449A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250118(P2009−250118)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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