説明

バックホーローダ

【課題】バックホーローダにおいて、油圧ポンプの負荷を低減して燃費を低減する。
【解決手段】このバックホーローダは、トランスミッション6と、前方向き及び後方向きを取り得る運転席16を内部に有する運転室11と、運転室11の前方に設けられたローダ3と、運転室の後方に設けられたバックホー4と、油圧クラッチに作動油を供給するための油圧ポンプ50と、回路内の油圧を第1油圧に設定するためのメインリリーフ弁53を有する油圧回路52と、運転モードがバックホーを使用したバックホー作業モードであるか否かを判断する作業モード判断手段と、アンロード弁54と、を備えている。アンロード弁54は、作業モード判断手段により、運転モードがバックホー作業モードであると判断されたとき、メインリリーフ弁53のリリーフ圧を第1油圧より低い第2油圧に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックホーローダ、特に、油圧クラッチを備えたトランスミッションを有するバックホーローダに関する。
【背景技術】
【0002】
バックホーローダは、車両の前方にローダバケットを有し、後方にバックホーを有している。また、運転室に設けられた運転席は、走行時やローダバケットでの作業時には前方を向くように、またバックホーでの作業時には後方を向くように、回転可能に構成されている。
【0003】
例えば特許文献1に示されたバックホーローダでは、ローダバケットを最も巻き上げた位置から最も巻き込んだ位置まで作動させたときに、バケット端の掘削力曲線がより平坦になるようにリンクが構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、パワートランスミッションを備えたバックホーローダが示されている。ここでは、パワートランスミッションの主変速操作バルブと油圧ポンプとの間に、モジュレーションリリーフ弁が設けられている。これにより、変速操作に伴う急発進を避け、滑らかな変速が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−105137号公報
【特許文献2】特開昭62−151654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バックホーローダにおいては、走行用の油圧ポンプや作業機駆動用の油圧ポンプ等の複数の油圧ポンプが設けられている。走行用の油圧ポンプは、トランスミッションに設けられた油圧クラッチに作動油を供給するためのポンプである。また、作業機用の油圧ポンプは、作業機を駆動するための油圧シリンダに作動油を供給するためのポンプである。
【0007】
ところで、前述のように、バックホーローダでは、前方のローダバケットを使用して作業する場合と、後方のバックホーを使用して作業をする場合とがある。前方のローダバケットを使用した作業では、走行しながら作業が行われる。一方、後方のバックホーを使用した作業では、車両は停止しており、前後進の切換や速度段の切換が行われることはない。
【0008】
以上のようなバックホーの作業状況からすると、後方のバックホーを使用して作業を行っている場合は、走行のための作動油は必要ない。しかし、従来のバックホーローダでは、各油圧ポンプは常時駆動されている。したがって各油圧ポンプを駆動するためのポンプロスが大きく、省燃費化の妨げになっている。
【0009】
本発明の課題は、バックホーローダにおいて、油圧ポンプの負荷を低減して燃費を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係るバックホーローダは、1つ以上の油圧クラッチを有するトランスミッションと、前方向き及び後方向きの2位置を取り得る運転席を内部に有する運転室と、運転室の前方に設けられたローダと、運転室の後方に設けられたバックホーと、油圧クラッチに作動油を供給するための油圧ポンプと、回路内の油圧を第1油圧に設定するためのリリーフ弁を有し油圧ポンプからの作動油を油圧クラッチに供給する油圧回路と、運転モードがバックホーを使用したバックホー作業モードであるか否かを判断する作業モード判断手段と、リリーフ弁制御手段と、を備えている。リリーフ弁制御手段は、作業モード判断手段により、運転モードがバックホー作業モードであると判断されたとき、リリーフ弁のリリーフ圧を第1油圧より低い第2油圧に制御する。
【0011】
ここでは、バックホーを使用した作業を行っていると判断された場合は、リリーフ弁を制御して、油圧回路の油圧を低くしている。このため、バックホーでの作業中は、トランスミッションに作動油を供給する油圧ポンプの負荷が低減される。したがって、燃費を低減することができる。
【0012】
第2発明に係るバックホーローダは、第1発明のバックホーローダにおいて、運転席の向きを検出する運転席向き検出センサをさらに備え、作業モード判断手段は、運転席向き検出センサが、運転席が後方向きであることを検出することで、バックホー作業モードであると判断する。
【0013】
バックホーを使用して作業を行う場合は、運転席は後方向きにセットされる。したがって、運転席が後方向きにセットされたことが検出されると、バックホー作業モードであると判断される。ここでは、簡単で、かつ確実にバックホー作業モードであることを判断できる。
【0014】
第3発明に係るバックホーローダは、第2発明のバックホーローダにおいて、作業モード判断手段は、さらにエンジンが稼働中であることを検出してバックホー作業モードであると判断する。
【0015】
エンジンが稼働中でない場合でも、運転席が後方向きにセットされている場合がある。そこで、この第3発明では、運転席が後方向きにセットされ、かつエンジンが稼働中であることを検出してバックホー作業モードであると判断される。このため、より確実にバックホー作業モードであることを判断することができる。
【0016】
第4発明に係るバックホーローダは、第3発明のバックホーローダにおいて、作業モード判断手段は、さらに油圧クラッチに作動油の供給指令がなされていないことを検出してバックホー作業モードであると判断する。
【0017】
ここでは、トランスミッションの各油圧クラッチに油圧が供給されていないことを検出してバックホー作業モードであると判断される。したがって、さらに、より確実にバックホー作業モードであることを判断することができる。
【0018】
第5発明に係るバックホーローダは、第1発明のバックホーローダにおいて、運転席の向きを検出する運転席向き検出センサをさらに備え、作業モード判断手段は、運転席向き検出センサが、運転席が後方向きでないことを検出することで、バックホー作業モードでないと判断する。
【0019】
ここで、作業の形態として、オペレータは運転席を前方向きにセットしたままバックホーを操作する場合がある。このような場合に、トランスミッションへの作動油の油圧を低下させると、油圧クラッチがすべる、あるいは油圧クラッチがオン(動力伝達)にならない等の走行上の不具合が生じる。
【0020】
そこで、この第5発明では、運転席が後方向きでない場合は、バックホーを操作することができても、バックホー作業モードではないと判断される。このため、トランスミッションの油圧クラッチがつながらない等の不具合を避けることができる。
【0021】
第6発明に係るバックホーローダは、第1から第5発明のいずれかのバックホーローダにおいて、リリーフ弁制御手段は、油圧ポンプとリリーフ弁との間に設けられ、油圧回路の油圧によってリリーフ弁を制御するパイロット回路を有している。
【0022】
ここでは、リリーフ弁制御手段を簡単な構成で実現できる。
【0023】
第7発明に係るバックホーローダは、第6発明のバックホーローダにおいて、パイロット回路は、運転モードがバックホー作業モード以外の場合は油圧回路の作動油をドレインし、運転モードがバックホー作業モードの場合は油圧回路の作動油のドレインを禁止するアンロード弁を有している。
【発明の効果】
【0024】
以上のような本発明では、バックホーローダにおいて、特にバックホー作業中の油圧ポンプの負荷を低減し、燃費の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るバックホーローダの外観斜視図。
【図2】前記バックホーローダのトランスミッション及び油圧回路の概略構成図。
【図3】アンロード処理のための制御ブロック図。
【図4】アンロード処理の制御フローチャート。
【図5】本発明の他の実施形態による図4に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[全体構成]
図1に本発明の一実施形態によるバックホーローダ1の外観図を示している。バックホーローダ1は、1台で掘削作業及び積み込み作業を行うことができる作業車両である。このバックホーローダは主に、本体2と、ローダ3と、バックホー4と、左右のスタビライザ5と、を備えている。
【0027】
本体2は、エンジン及びトランスミッション6(図2参照)等の機器類を支持するフレーム10と、フレーム10に搭載された運転室11と、それぞれ1対の前輪12及び後輪13と、を備えている。バックホーローダ1の特徴的な構成として、前輪12の径に比較して後輪13の径は大きくなっている。したがって、前輪12に連結されたアクスルは後輪13に連結されたアクスルの位置より低い位置に配置されている。エンジン及びトランスミッション等の機器類は、外装カバー14によって覆われている。運転室11の内部には、オペレータが着座する運転席16が設けられている。運転席16は、前方向きの位置と後方向きの位置とで回転が可能である。また、運転室11の内部には、ステアリングや、各種のペダル、ローダ3やバックホー4を操作するための操作部材が設けられている。
【0028】
エンジンはフレーム10の前部に搭載されている。エンジンは、トランスミッション及びアクスルを介して前輪12及び後輪13を駆動し、また各種油圧機器を作動させるための油圧ポンプを駆動する。
【0029】
トランスミッション6は、詳細は後述するが、図2に示すように、複数の軸を有しており、リヤ出力軸を除く各軸には、油圧クラッチが設けられている。
【0030】
ローダ3は、運転室11の前方に配置されており、積み込み作業を行うための作業機である。ローダ3は、ローダアーム20と、ブラケット21と、リンク22と、ローダバケット23と、バケットシリンダ24と、アームシリンダ25と、を有している。
【0031】
ローダアーム20は、基端部がフレーム10に回動自在に支持され、先端にローダバケット23が回動自在に装着されている。ブラケット21は、基端部がローダアーム20に回動自在に支持され、先端にはバケットシリンダ24のロッドの先端とリンク22の一端とが回動自在に連結されている。バケットシリンダ24の基端部はフレーム10に回動自在に支持されている。また、リンク22の先端はバケット23に回動自在に連結されている。アームシリンダ25は、基端部がフレーム10に回動自在に支持され、アームシリンダ25のロッドの先端がローダアーム20の長手方向の中間部に回動自在に連結されている。
【0032】
以上のような構成によって、アームシリンダ25のロッドが突出するとローダアーム20が上方に回動し、アームシリンダ25のロッドが後退するとローダアーム20が下方に回動する。また、バケットシリンダ24のロッドが突出すると、ブラケット21が前方に回動し、リンク22が前方に移動してローダバケット23が下方に回動する。逆に、アームシリンダ24のロッドが後退すると、ブラケット21が後方に回動し、リンク22が後方に移動してローダバケット23が上方に回動する。
【0033】
バックホー4は、運転室11の後方に配置されており、掘削作業を行うための作業機である。バックホー4は、ブーム30と、アーム31と、バケットリンク32と、バックホーバケット33と、ブームシリンダ34と、アームシリンダ35と、バケットシリンダ36と、を有している。ブーム30は、基端部が図示しないブラケットを介してフレーム10に左右方向に回動可能に支持されている。ブーム30の先端部にはアーム31の基端部が回動自在に連結され、アーム31の先端にバックホーバケット33が回動自在に連結されている。ブームシリンダ34は、一端がフレーム10に固定されたブラケット(図示せず)に回動自在に連結され、他端がブーム30に固定されたブームブラケット37に回動自在に連結されている。アームシリンダ35は、一端がブームブラケット37に回動自在に連結され、他端がアーム31の基端部に回動自在に連結されている。バケットシリンダ36は、基端部がアーム31に回動自在に連結され、先端がバケットリンク32に回動自在に連結されている。
【0034】
以上のような構成によって、ブームシリンダ34のロッドが突出するとブーム30は下方に回動し、ブームシリンダ34のロッドが後退するとブーム30は上方に回動する。また、アームシリンダ35のロッドが突出するとアーム31は下方に回動し、アームシリンダ35のロッドが後退するとアーム31は上方に回動する。さらに、バケットシリンダ36のロッドが突出すると、バケットリンク32を介してバックホーバケット33が回動し、バックホーバケット33の開口部がアーム31に接近する。一方、バケットシリンダ36のロッドが後退すると、バケットリンク32を介してバックホーバケット33が回動し、バックホーバケット33の開口部がアーム31から離間する。
【0035】
なお、図示していないが、バックホー4は、ブーム30をフレーム10に連結しているブームブラケットを左右方向に回動するためのブラケットシリンダを有している。ブラケットシリンダの一端はフレーム10に回動自在に連結され、他端はブームブラケットに回動自在に連結されている。ブラケットシリンダのロッドが突出すると、ブームブラケットは左右方向の一方側に回動し、ブラケットシリンダのロッドが後退すると、ブームブラケットは左右方向の他方側に回動する。
【0036】
左右のスタビライザ5は、バックホー4による作業時に、バックホーローダ1の姿勢を安定させて転倒を防止するためのものである。左右のスタビライザ5はそれぞれフレーム10の後左部及び後右部に設けられている。このスタビライザ5を、バックホーローダ1の左右側方に張り出した状態で接地し、後輪13が地面から離れるまでバックホーローダ1の本体後部を持ち上げることにより、掘削作業時のバックホーローダ1の姿勢を安定させることができる。
【0037】
[トランスミッション及び油圧回路]
図2に、トランスミッション6及びトルクコンバータ40を模式的に示すとともに、これらの作動油を供給するための油圧ポンプ50及び油圧回路52を示している。
【0038】
トランスミッション6は、互いに平行に配置された第1軸41〜第5軸45を有している。第1軸41はエンジン(図示せず)からの動力が入力される入力軸である。第2軸42及び第3軸43はともに中間軸である。第4軸44は前輪12に連結されたフロント出力軸である。第5軸45は後輪13に連結されたリヤ出力軸である。第1軸41には、前進低速段用の油圧クラッチCL及び後進用の油圧クラッチCRが設けられている。第2軸42には、前進高速段用の油圧クラッチCH及び第1速用の油圧クラッチC1が設けられている。第3軸43には、第2速用の油圧クラッチC2及び第3速用の油圧クラッチC3が設けられている。第4軸には、2輪駆動と4輪駆動とを切り替えるための油圧クラッチCSが設けられている。
【0039】
トルクコンバータ40は、周知のインペラ、タービン、ステータを有し、またロックアップクラッチLCを有している。
【0040】
油圧回路52は、メインリリーフ弁53と、複数の電磁比例制御弁ECMV及び1つの電磁制御弁ECVと、アンロード弁54を含むパイロット回路55と、トルクコンバータ用リリーフ弁56と、を有している。
【0041】
メインリリーフ弁53は、フィルタ58を介して油圧ポンプ50に接続されている。メインリリーフ弁53は、油圧ポンプ50から吐出された作動油を所定の圧力に制御する。
【0042】
電磁比例制御弁ECMV及び電磁制御弁ECVは、油圧ポンプ50とメインリリーフ弁53とを接続する油路60から分岐した分岐油路61にフィルタ62を介して設けられている。複数の電磁比例制御弁ECMVは、2輪駆動/4輪駆動切換用油圧クラッチCSを除く複数の油圧クラッチCL,CH,CR,C1〜C3に作動油を供給する。電磁制御弁ECVは2輪駆動/4輪駆動切換用油圧クラッチCSに作動油を供給する。
【0043】
パイロット回路55は、分岐油路61とメインリリーフ弁53との間に設けられている。そして、このパイロット回路55には、アンロード弁54とオリフィス64とが設けられている。アンロード弁54は、ソレノイドを有しており、ソレノイドのオン、オフによってメインリリーフ弁53が制御される。オリフィス64はアンロード弁54と分岐油路62との間に設けられている。アンロード弁54のソレノイドがオフの場合は、アンロード弁54のスプールは図2のAステージの位置であり、パイロット回路55の油路65はドレイン66に接続されている。したがって、分岐油路61を含む油圧回路52の油圧は、オリフィス64の作用によって、例えば20kg/cm2に維持されている。一方、アンロード弁54のソレノイドがオンされると、アンロード弁54のスプールはBステージに移行する。アンロード弁54がBステージに移行すると、パイロット回路55の油路65とドレイン66とは遮断される。このため、油圧回路52の油圧が瞬間的にメインリリーフ弁53に作用し、メインリリーフ弁53は開放状態になる。この状態では、油圧回路52の油圧は、メインリリーフ弁53の下流側の回路抵抗のみの圧力に低下する。
【0044】
トルクコンバータ用リリーフ弁56は、メインリリーフ弁53とトルクコンバータ40との間の油路に設けられており、トルクコンバータ40の作動油圧を制御する。
【0045】
なお、トルクコンバータ40の手前で分岐した作動油、あるいはトルクコンバータ40から排出された作動油は、潤滑油用の油路を介して、各軸41〜45に潤滑油として供給される。
【0046】
[制御ブロック]
このバックホーローダ1は、図3に示すように、制御部70を有している。制御部70には、エンジンが稼働中であるか否かを検出するためのエンジン回転数検出センサ71、運転席が前方向きであるか後方向きであるかを検出する運転席向き検出センサ72、走行用操作部材の位置検出センサ73が接続されている。走行用操作部材の位置検出センサ73は、前進・後進切換用操作部材、2輪駆動・4輪駆動切換用操作部材、変速段切換用変速レバー等の位置をそれぞれ検出するセンサを含んでいる。また、制御部70には、各電磁比例制御弁ECMV及び電磁制御弁ECV、アンロード弁54が接続されている。そして、制御部70は、各センサからの信号を受けて、各電磁比例制御弁ECMV及び電磁制御弁ECVと、アンロード弁54とに制御信号を出力し、トランスミッション6の各軸41〜44に設けられた複数の油圧クラッチのオン/オフ、アンロード弁54を制御する。
【0047】
[制御処理]
図4に、アンロード処理、すなわち、バックホー作業時に、油圧回路の油圧を低下させるための処理を実行するためのフローチャートを示している。以下、このフローチャートに基づいてアンロード処理について説明する。
【0048】
まず、ローダによって作業を行なっている等、バックホー作業モードでない場合は、アンロード弁54のソレノイドには、制御部70から指令は出力されていない。この場合、アンロード弁54のソレノイドはオフであり、スプールはAステージに位置している。この場合は、パイロット回路55においては、オリフィス64の分岐油路61側では、メインリリーフ弁53で設定された油圧(例えば20kg/cm2)に設定される。また、オリフィス64のアンロード弁54側では、アンロード弁54を通じて作動油がドレイン66に接続されるので、メインリリーフ弁53のスプールに対しては、実質的に油圧は作用しない。このため、油圧回路52はメインリリーフ弁53で設定された油圧に維持される。
【0049】
アンロード処理においては、ステップS1において、エンジン回転数検出センサ71からの検出信号によって、エンジンが稼動しているか否かを判断する。また、ステップS2では、運転席向き検出センサ72からの検出信号によって、運転席が後方向きなっているか否かを判断する。運転席向き検出センサ72としては、リミットスイッチあるいは近接スイッチが用いられている。運転席向き検出センサ72として、もちろんポテンショメータを用いてもよいが、この場合は、角度を指定して、後方向きを定義する必要がある。
【0050】
以上の各ステップS1及びステップS2でYESと判断された場合は、ステップS3に移行し、アンロード弁54のソレノイドに対してオン指令を出力する。これにより、アンロード弁54はBステージに移動する。アンロード弁54がBステージに移行すると、パイロット回路55のドレイン66への接続は遮断される。このため、パイロット回路55を通じて、油圧回路52の油圧がメインリリーフ弁53に瞬間的に作用する。これにより、メインリリーフ弁53のスプールが移動して、メインリリーフ弁53は開放される。したがって、油圧回路52の油圧は、メインリリーフ弁53より下流側に設けられている油圧回路の抵抗分だけの油圧になり、油圧ポンプ50の負荷は著しく低減される。
【0051】
なお、このアンロード処理は所定のサイクルで実行される。したがって、アンロード弁54がBステージに位置している状態で、ステップS1及びステップS2のいずれかでNOと判断された場合は、ステップS4に移行する。ステップS4では、アンロード弁54のソレノイドがオフされ、これによりアンロード弁54はAステージに移行する。したがって、前述のように、油圧回路52は、メインリリーフ弁53で設定された油圧(例えば20kg/cm2)に設定される。
【0052】
ここで、作業の形態として、オペレータは運転席を前方向きにセットしたままバックホーを操作することがある。この場合、ローダバケットとバックホーのいずれか一方を選択するスイッチでバックホーを選択している。しかし、運転席が前方向きにセットされているので、バックホーを操作することができても、本格的にバックホー作業を行うことができず、バックホー作業モードではないとしている。
【0053】
運転席向き検出センサ72は、運転席の前方向きも検出できるようになっており、運転席が前方向きであることを検出すると、バックホーローダを走行させることが可能になる。したがって、本実施形態においては、運転席の後方向きを検出したときだけ、トランスミッションへの作動油の油圧を低下させるとすることで、走行時、油圧クラッチがすべる、あるいは油圧クラッチがオン(動力伝達)にならない等の走行上の不具合が生じないようにしている。逆に言えば、運転席向き検出センサ72が運転席の後方向きでないことを検出(つまり、検出値がOFFになったことを検出)した場合、バックホー作業モードでないと判断し、トランスミッションへの作動油の油圧を低下させないように構成されている。
【0054】
[特徴]
(1)バックホー4を使用した作業を行っていると判断された場合は、メインリリーフ弁53を制御して、油圧回路52の油圧を低下させている。このため、バックホー4での作業中は、油圧ポンプ50の負荷が低減されて燃費を低減することができる。
【0055】
(2)エンジンの稼働中、及び運転席が後方向きであることを判断してバックホー作業モードであると判断しているので、簡単にかつ確実にバックホー作業モードであることを判断できる。
【0056】
(3)ローダ3を用いて作業している最中に、運転席が前方向きのままバックホーを使用して作業した場合でも、運転席が後方向きでないので、バックホー作業モードではないと判断される。このため、ローダ作業中にトランスミッション6の各油圧クラッチがつながらない等の不具合を避けることができる。
【0057】
(4)油圧ポンプ50とメインリリーフ弁53との間にパイロット回路55を設けて、メインリリーフ弁53を制御しているので、メインリリーフ弁53を簡単な構成で制御できる。
【0058】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0059】
前記実施例では、パイロット回路を設けてメインリリーフ弁を制御するようにしたが、メインリリーフ弁を制御する構成はこの実施形態に限定されない。
【0060】
また、バックホー作業モードを判断するための条件は、前記実施形態に限定されない。例えば、前記実施形態の条件に加えて、制御部から電磁比例制御弁及び電磁制御弁に油圧クラッチオンの指令が出力されていないことを条件に加えてもよい。この場合の制御フローチャートを図5に示している。
【0061】
ここでは、図4と同様の条件(ステップS1及びステップS2)においてYESと判断され、またステップS5において、電磁比例制御弁ECMV及び電磁制御弁ECVに油圧クラッチオンの指令が出力されていないと判断された場合に、前記同様のステップS3を実行する。また、ステップS1及びステップS2においてYESと判断された場合であっても、電磁比例制御弁ECMV及び電磁制御弁ECVに油圧クラッチオンの指令が出力されている場合は、ステップS3を実行しない。
【0062】
このような実施形態では、ローダ作業中において、走行用の油圧クラッチがすべる、あるいはオンされないといった問題を確実に防止できる。
【0063】
前記実施形態では、運転席向き検出センサ72が運転席の後方向きを検出したときだけ、トランスミッションへの作動油の油圧を低下させているが、運転席向き検出センサ72が運転席の前方向きを検出したときに、トランスミッションへの作動油の油圧を低下させないようにしてもよい。運転席が前方向きの場合、後方向きでないことが明らかなので、運転席向き検出センサ72が運転席の後方向きでないことを検出したとき、バックホー作業モードでないと判断し、トランスミッションへの作動油の油圧を低下させないようになっているといえる。
【0064】
さらに、運転席向き検出センサ72により、運転席の後方向きと前方向きの、所定の中間角度位置で、運転席が後方向きでないことを検出させ、運転席の後方向きでないことを検出した場合、バックホー作業モードでないと判断し、トランスミッションへの作動油の油圧を低下させないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 バックホーローダ
3 ローダ
4 バックホー
6 トランスミッション
11 運転室
12 前輪
13 後輪
16 運転席
50 油圧ポンプ
52 油圧回路
52を示している。
53 メインリリーフ弁
54 アンロード弁
55 パイロット回路
70 制御部
71 エンジン回転数検出センサ
72 運転席向き検出センサ
CL,CH,CR,C1〜C3 油圧クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の油圧クラッチを有するトランスミッションと、
前方向き及び後方向きの2位置を取り得る運転席を有する運転室と、
前記運転室の前方に設けられたローダと、
前記運転室の後方に設けられたバックホーと、
前記油圧クラッチに作動油を供給するための油圧ポンプと、
回路内の油圧を第1油圧に設定するためのリリーフ弁を有し、前記油圧ポンプからの作動油を前記油圧クラッチに供給する油圧回路と、
運転モードが前記バックホーを使用したバックホー作業モードであるか否かを判断する作業モード判断手段と、
前記作業モード判断手段により、運転モードがバックホー作業モードであると判断されたとき、前記リリーフ弁のリリーフ圧を前記第1油圧より低い第2油圧に制御するリリーフ弁制御手段と、
を備えたバックホーローダ。
【請求項2】
運転席の向きを検出する運転席向き検出センサをさらに備え、
前記作業モード判断手段は、前記運転席向き検出センサが、運転席が後方向きであることを検出することで、バックホー作業モードであると判断する、請求項1に記載のバックホーローダ。
【請求項3】
前記作業モード判断手段は、さらに前記エンジンが稼働中であることを検出してバックホー作業モードであると判断する、請求項2に記載のバックホーローダ。
【請求項4】
前記作業モード判断手段は、さらに前記油圧クラッチに作動油の供給指令がなされていないことを検出してバックホー作業モードであると判断する、請求項3に記載のバックホーローダ。
【請求項5】
運転席の向きを検出する運転席向き検出センサをさらに備え、
前記作業モード判断手段は、前記運転席向き検出センサが、運転席が後方向きでないことを検出することで、バックホー作業モードでないと判断する、請求項1に記載のバックホーローダ。
【請求項6】
前記リリーフ弁制御手段は、前記油圧ポンプと前記リリーフ弁との間に設けられ、前記油圧回路の油圧によって前記リリーフ弁を制御するパイロット回路を有している、請求項1から5のいずれかに記載のバックホーローダ。
【請求項7】
前記パイロット回路は、運転モードがバックホー作業モード以外の場合は前記油圧回路の作動油をドレインし、運転モードがバックホー作業モードの場合は前記油圧回路の作動油のドレインを禁止するアンロード弁を有している、請求項6に記載のバックホーローダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36220(P2013−36220A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172751(P2011−172751)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【特許番号】特許第5106662号(P5106662)
【特許公報発行日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】