説明

バッターミックス

【課題】口溶けが向上したベーカリー食品、お好み焼き類、または揚げ物を得ることができるバッターミックスを提供すること。
【解決手段】バッターミックスに、オゾン処理された小麦粉と、ベーキングパウダーを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッターミックスに関し、さらに詳しくは、口溶けが向上し、しかもボリュームおよび食感も向上したベーカリー食品、お好み焼き類、または揚げ物を得ることができるバッターミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ケーキ類に代表される小麦粉を主体としたベーカリー製品や、天ぷらなどに代表される揚げ物の衣においては、組織をソフトにし、食感や口溶けを向上させる目的で、ショートニングやマーガリンの形態で油脂が配合されており、また、食感のみならず風味を向上させる目的で卵も配合されている。また、小麦粉を使用したお好み焼き類においても、風味を向上させる目的で、一般に卵が配合される。
【0003】
例えば、ベーカリー製品については、「小麦粉100質量部に対して、(A)ジアシルグリセロールを20〜80質量部および(B)卵黄を乾燥質量で14〜47質量部含有するベーカリー製品」が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、ベーカリー製品の製造方法としては、「生地を圧延することなく調製するベーカリー製品の製造に際して、主原料として、小麦粉に、酸化澱粉及び/又は酸化アセチル化澱粉、或いは、酸化澱粉及び/又は酸化アセチル化澱粉とα化澱粉質を配合した原料粉を用いることにより、調製されたベーカリー製品に、ソフトでしっとりとし、かつ、歯切れ感と口溶け感の良さを付与することを特徴とするベーカリー製品の製造方法」が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2のいずれの発明によっても、口溶けを向上させるという点において、満足のいくものではなかった。
【0006】
一方、特許文献3には、小麦粉にオゾンを接触させることを特徴とする小麦粉の品質改良法が提案されている。特許文献3には、オゾンを接触させた小麦粉を用いると、パンなどの製造に用いられるドウにおいて、粘弾性が改善され二次加工適性が向上することが記載されている。しかし、特許文献3には、ドウに比べて水分を多く含むバッター生地、およびバッターミックスに関する記載はない。
【0007】
また、特許文献4〜6には、麺類の製造において、麺質や麺類の長期保存性などを改善するために、オゾンを含む練り水を用いて麺生地を調製することや、混捏工程や熟成工程をオゾン雰囲気下で行うことなどが提案されている。しかし、これらの文献は、いずれも麺類に関する文献であり、バッター生地およびバッターミックスに関する記載はない。
【0008】
特許文献7には、オゾン処理した小麦種子から小麦粉を製造する方法が開示されている。特許文献7には、この方法によれば、小麦種子の表面に付着した細菌などの汚染物質が低減され、得られる小麦粉の汚染を防止できることが記載されており、また、この方法によって得られた小麦粉を使うと、パンの特性が改善されることが記載されている。また、特許文献8には、加湿した小麦粒をオゾンと接触させることにより、小麦粒の剥皮に要するエネルギー消費を低減できることが記載されている。しかし、特許文献7、8においては、オゾン処理の対象は小麦種子であり、これらの文献には、小麦粉をオゾン処理することについては記載がなく、また、バッター生地およびバッターミックスに関する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−173091号公報
【特許文献2】特開2009−273421号公報
【特許文献3】特開昭59−48040号公報
【特許文献4】特許第3047303号公報
【特許文献5】特開平02−203756号公報
【特許文献6】特開昭63−133958号公報
【特許文献7】特許第4490617号公報
【特許文献8】特表2009−530094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みて成されたものであり、口溶けが向上したベーカリー食品、お好み焼き類、または揚げ物を得ることができるバッターミックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、オゾン処理された小麦粉と、ベーキングパウダーを含むようにすれば、極めて良い効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、オゾン処理された小麦粉と、ベーキングパウダーを含むことを特徴とするバッターミックスを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、口溶けが向上し、しかもボリュームおよび食感も向上したベーカリー食品、お好み焼き類、または揚げ物を得ることができるバッターミックスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のバッターミックスに用いるオゾン処理された小麦粉は、通常の小麦粉をオゾンで処理することにより得ることができる。小麦粉としては、強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、熱処理小麦粉など、任意の種類の小麦粉が挙げられるが、薄力小麦粉、中力小麦粉などのグルテンの質の弱い小麦粉が好ましい。なお、熱処理小麦粉は、強力系、準強力系、中力系、薄力系の小麦粉を、熱処理(例えば、80〜140℃で40〜60分間)し、グルテンを変性させたものである。
【0014】
上記小麦粉をオゾン処理するには、小麦粉がオゾンと接触すればよく、例えば、小麦粉を密閉可能な容器または袋に入れ、その容器または袋に、気体状態のオゾンを単独でまたは空気と共にオゾンを含有する空気として注入した後、容器または袋を軽く振るなどして、容器または袋の中で、適宜、小麦粉とオゾンを混合すればよい。
【0015】
オゾン処理の際のオゾン使用量は、小麦粉の量を基準として、50〜1000ppmが好ましく、100〜800ppmがさらに好ましく、300〜800ppmがよりに好ましい。かかる割合を満たすには、例えば、小麦粉の入った容器または袋に、オゾン含有空気を注入する場合には、小麦粉の使用量、オゾン含有空気中のオゾン濃度およびオゾン含有空気の注入量を適宜選択すればよい。オゾン含有空気を用いる場合は、そのオゾン濃度は、50〜200g/m3が好ましい。
【0016】
小麦粉とオゾンを混合した後は、容器または袋を密閉状態に保ったまま、10〜30℃(通常、常温でよい)にて1〜14日間放置することが好ましい。また、オゾン処理された小麦粉を使用する際には、開放状態に1時間以上おいてから、使用することが好ましい。
【0017】
本発明のバッターミックス全量中において、オゾン処理された小麦粉は、50〜96質量%含まれていることが好ましく、60〜96質量%含まれていることがより好ましい。
特に、ベーカリー食品の場合には、50〜90質量%含まれていることが好ましい。また、お好み焼き類の場合には、70〜96質量%含まれていることが好ましい。さらに、揚げ物の場合には、50〜96質量%含まれていることが好ましい。
【0018】
本発明のバッターミックスにおいて用いられるベーキングパウダーとしては、通常のもの、例えば、基剤としての重曹と、助剤としての酸性剤(酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、酒石酸、焼ミョウバン、フマル酸、リン酸ナトリウムなど)とを含むものを用いることができる。
【0019】
本発明のバッターミックス全量中において、ベーキングパウダーは、0.5〜5.0質量%含まれていることが好ましく、1.0〜4.0質量%含まれていることがより好ましい。
【0020】
本発明のバッターミックスは、オゾン処理された小麦粉と、ベーキングパウダーの他、用途に応じて、通常の小麦粉、澱粉、色素、香辛料など、バッターミックスに一般的に用いることができる原料を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のバッターミックスは、常法に従って水を加えてバッターとされて、ベーカリー食品、お好み焼き類または揚げ物の衣に好適に用いることができる。
【0022】
上記ベーカリー食品としては、バッター生地を用いて焼成するものであればよく、例えば、ホットケーキ、パンケーキ、クレープ、ワッフル、カステラ、どら焼きなどが挙げられる。バッター生地の調製の際、本発明のバッターミックスのほかに、必要に応じて、従来ベーカリー食品に用いられている粉末原料、例えば、通常の小麦粉、澱粉、色素、香辛料などをこの段階でさらに適宜使用しても構わない。該粉末原料を使用する場合は、本発明のバッターミックスと該粉末原料との混合物におけるオゾン処理された小麦粉の量およびベーキングパウダーの量が、前述の本発明のバッターミックスにおける好ましい量の範囲内となるようにすることが望ましい。本発明のバッターミックスと水とを混合してバッター生地を作製する際には、水の量は、本発明のバッターミックスと必要に応じて使用する上記粉末原料との合計100質量部に対して60〜300質量部の範囲から、ベーカリー食品の種類に応じて適宜選択することが好ましい。なお、水の一部または全部は、牛乳、液卵などの液状原料に置き換えてもよい。また、得られたバッター生地には、必要に応じて、適宜ベーカリー食品の具材を混合してもよい。また、バッター生地を焼成してベーカリー食品を得る際の焼成の条件に特に制限はない。
【0023】
上記お好み焼き類としては、バッター生地を用いて焼成するものであればよく、例えば、お好み焼き、たこ焼きなどが挙げられる。お好み焼き類の製法は、本発明のバッターミックスを使用する点以外は、従来と同様とすることができる。例えば、上述のベーカリー食品の場合に準じて、本発明のバッターミックスを用いてバッター生地を作製し、必要に応じて該バッター生地に適宜具材を混合した後、焼成すればよい。水の量については、お好み焼き類においては、本発明のバッターミックスと必要に応じて使用する上記粉末原料との合計100質量部に対して100〜300質量部の範囲から、お好み焼き類の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0024】
また、上記揚げ物としては、天ぷら、唐揚げなどを挙げることができ、揚げ物の具材、油調の条件に特に制限はない。バッターの調製の際、本発明のバッターミックスのほかに、必要に応じて、従来揚げ物用バッターに用いられている粉末原料、例えば、通常の小麦粉、澱粉、色素、香辛料などをこの段階でさらに適宜使用しても構わない。該粉末原料を使用する場合は、本発明のバッターミックスと該粉末原料との混合物におけるオゾン処理された小麦粉の量およびベーキングパウダーの量が、前述の本発明のバッターミックスにおける好ましい量の範囲内となるようにすることが望ましい。本発明のバッターミックスと水とを混合してバッターを作製する際には、水の量は、本発明のバッターミックスと必要に応じて使用する上記粉末原料との合計100質量部に対して80〜500質量部の範囲から、揚げ物の種類に応じて適宜選択することが好ましい。なお、水の一部または全部は、牛乳、液卵などの液状原料に置き換えてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0026】
〔製造例1〕オゾン処理小麦粉の作製1
ビニール袋に薄力小麦粉1kgをとり、80g/m3のオゾンを含む空気10L(薄力小麦粉の量を基準としてオゾン800ppm)を注入して密閉した後、薄力小麦粉とオゾンとを軽く混合し、常温で6日間放置して、オゾン処理小麦粉1を得た。得られたオゾン処理小麦粉1は、常温での放置開始から6日後にビニール袋を開封状態にして2時間以上おいてから使用した。
【0027】
〔製造例2〕オゾン処理小麦粉の作製2
ビニール袋に中力小麦粉1kgをとり、80g/m3のオゾンを含む空気10L(中力小麦粉の量を基準としてオゾン800ppm)を注入して密閉した後、中力小麦粉とオゾンとを軽く混合し、常温で6日間放置して、オゾン処理小麦粉2を得た。得られたオゾン処理小麦粉2は、常温での放置開始から6日後にビニール袋を開封状態にして2時間以上おいてから使用した。
【0028】
〔実施例1および比較例1〕ホットケーキ
下記のバッターミックス原料を均一に混合してバッターミックスとし、そこへ水80gを加えて均一なバッター生地を作った。190℃に熱した銅板上にバッター生地を50gずつ分けて落とし、3分焼成し、反転し更に2分焼成して、ホットケーキを得た。
【0029】
(バッターミックス原料)
オゾン処理小麦粉1または未処理の薄力小麦粉 70g
砂糖 18g
ブドウ糖 2g
卵粉 5g
全脂粉乳 1g
ベーキングパウダー 3.3g
食塩 0.4g
グリセリン脂肪酸エステル 0.2g
ミルクフレーバー 0.1g
合計 100g
【0030】
得られたホットケーキについて、下記評価基準に従って、口溶けの良さ、ボリュームおよび食感のソフトさを評価した。評価結果を表1に示す。
【0031】
<評価基準>
(口溶けの良さ)
5:良好。
4:やや良好。
3:普通。
2:やや劣る。
1:劣る。
(ボリューム)
5:良好。
4:やや良好。
3:普通。
2:やや劣る。
1:劣る。
(食感のソフトさ)
5:良好。
4:やや良好。
3:普通。
2:やや劣る。
1:劣る。
【0032】
【表1】

【0033】
〔実施例2および比較例2〕お好み焼き
下記のバッターミックス原料を均一に混合してバッターミックスとし、そこへ水110gおよび液卵100gを加えて均一なバッター生地310gを作った。
【0034】
(バッターミックス原料)
オゾン処理小麦粉2または未処理の中力小麦粉 96g
ベーキングパウダー 1g
食塩 2g
だし調味料 1g
合計 100g
【0035】
下記のお好み焼き生地配合に従って、上記バッター生地に具材を混合してお好み焼き生地とし、190℃に熱した鉄板上に2つに分けて円形に落とし、10分焼成し、反転し更に10分焼成して、お好み焼きを得た。
【0036】
(お好み焼き生地配合)
上記バッター生地 310g
千切キャベツ 200g
揚げ玉 40g
紅ショウガ 2g
【0037】
得られたお好み焼きについて、実施例1と同じ評価基準に従って、口溶けの良さ、ボリュームおよび食感のソフトさを評価した。評価結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
〔実施例3および比較例3〕海老天ぷら
下記のバッターミックス原料を均一に混合してバッターミックスとし、そこへ水160gを加えて均一なバッターを作った。21−25サイズの海老に該バッターをつけて、フライして、海老天ぷらを作成した。なお、フライ温度は170℃、フライ時間は2分30秒間とした。
【0040】
(バッターミックス原料)
オゾン処理小麦粉1または未処理の薄力小麦粉 92.5g
ベーキングパウダー 1.5g
澱粉 6g
合計 100g
【0041】
得られた海老天ぷらについて、下記評価基準に従って、口溶けの良さおよび食感(硬さ)を評価した。評価結果を表3に示す。
【0042】
<評価基準>
(口溶けの良さ)
5:良好。
4:やや良好。
3:普通。
2:やや劣る。
1:劣る。
(食感(硬さ))
5:良好。
4:やや良好。
3:普通。
2:やや劣る。
1:劣る。
【0043】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾン処理された小麦粉と、ベーキングパウダーを含むことを特徴とするバッターミックス。
【請求項2】
請求項1に記載のバッターミックスを用いて得られるベーカリー食品。
【請求項3】
請求項1に記載のバッターミックスを用いて得られるお好み焼き類。
【請求項4】
請求項1に記載のバッターミックスを用いて得られる揚げ物。

【公開番号】特開2012−95591(P2012−95591A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245505(P2010−245505)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(398012306)日清フーズ株式会社 (139)
【Fターム(参考)】