説明

バッテリ充放電管理装置および方法

【課題】バッテリ内圧の上昇に起因したバッテリの劣化を良好に抑制しつつ、バッテリにより多くの電力を蓄えられるようにする。
【解決手段】バッテリの充放電電流積算値∫Ibが閾値α以上であるか、あるいはバッテリの充放電電圧Vbが比較的絶対値が大きい負の値である基準充電電圧Vref以下である場合(ステップS120,S130)、バッテリの充電時には充放電要求パワーPb*が充電電力として小さく補正され、バッテリの放電時には充放電要求パワーPb*が放電電力として大きく補正される(ステップS140)。これにより、残容量SOCの増加とバッテリ内圧の上昇とを抑え、バッテリの許容充電電力である入力制限Winが充電電力として小さく制限されてしまうのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの充放電を管理するバッテリ充放電管理装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のバッテリ充放電管理装置として、充電による充電割合(SOC)の増加に伴って電池内圧が上昇すると共に、充電の停止により電池内圧が降下する特性をもったバッテリの充放電を管理するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このバッテリ充放電管理装置は、第1の期間において充電割合が制御上限に達する頻度が所定の閾値を超えると、第2の期間において、バッテリの充電に許容される電力(電池入力)を第1の期間に対して小さくし、それによりバッテリに充電される電力を第1の期間に対して小さくしている。これにより、バッテリの充電割合が制御上限に達する頻度を低減させて電池内圧の上昇を抑え、電池内圧の上昇に応じたバッテリの安全弁の開弁による電解液の減少等に起因したバッテリの劣化(内部抵抗の増加や電池容量の低下等)を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−67280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようにバッテリの内圧の上昇を抑制するためにバッテリの充電に許容される電力が制限されると、バッテリを充電するのに充分な電力が存在しているにも拘わらず、バッテリにより多くの電力を蓄えられない、といった事態を招いてしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、バッテリ内圧の上昇に起因したバッテリの劣化を良好に抑制しつつ、バッテリにより多くの電力を蓄えられるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるバッテリ充放電管理装置および方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明によるバッテリ充放電管理装置は、
バッテリの充放電を管理するバッテリ充放電管理装置において、
前記バッテリの充電に伴ってバッテリ内圧が上昇しないように該バッテリの許容充電電力を設定する許容充電電力設定手段と、
前記バッテリの充電割合に基づいて該バッテリの目標充放電電力を設定する目標充放電電力設定手段と、
前記バッテリ内圧の上昇に応じて、前記充電割合の増加が抑制されるように前記目標充放電電力を補正する目標充放電電力補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
このバッテリ充放電管理装置は、バッテリの充電に伴ってバッテリ内圧が上昇しないように当該バッテリの許容充電電力を設定すると共に、バッテリの充電割合に基づいて当該バッテリの目標充放電電力を設定する。そして、目標充放電電力は、バッテリ内圧の上昇に応じて、充電割合の増加が抑制されるように補正される。このように、バッテリ内圧の上昇に応じて、目標充放電電力の補正により充電割合の増加を抑えることで、バッテリの充電に伴う充電割合の増加に応じたバッテリ内圧の上昇を抑制することが可能となる。そして、バッテリ内圧の上昇を抑えることで、許容充電電力設定手段により許容充電電力が制限されてしまうのを抑制することができる。従って、このバッテリ充放電管理装置によれば、バッテリ内圧の上昇に起因したバッテリの劣化を良好に抑制しつつ、バッテリにより多くの電力を蓄えられるようにすることが可能となる。
【0009】
また、前記目標充放電電力補正手段は、前記バッテリ内圧の上昇に応じて、前記バッテリの充電時には前記目標充放電電力を充電電力として小さくすると共に、前記バッテリの放電時には前記目標充放電電力を放電電力として大きくするものであってもよい。これにより、バッテリ内圧の上昇に応じて、バッテリの充電の制限や放電の促進によりバッテリの充電割合の増加を良好に抑制することが可能となる。
【0010】
更に、前記目標充放電電力補正手段は、前記バッテリの充放電電流の積算値が所定値以上であるか、あるいは前記バッテリの充放電電圧が所定電圧以下である場合に、前記目標充放電電力を補正するものであってもよい。このように、バッテリの充放電電流の積算値や充放電電圧を監視することで、バッテリ内圧を実測することなく、バッテリ内圧の変化をより適正に把握することができることから、バッテリの目標充放電電力をより適正なタイミングで補正することが可能となる。
【0011】
また、前記バッテリは、ニッケル水素二次電池であってもよい。すなわち、ニッケル水素二次電池は、充電による充電割合の増加に伴ってバッテリ内圧が上昇すると共に、充電の停止によりバッテリ内圧が降下する特性を有する。従って、本発明によるバッテリ充放電管理装置によれば、バッテリ内圧の上昇に起因したニッケル水素二次電池の劣化を良好に抑制しつつ、当該ニッケル水素二次電池により多くの電力を蓄えられるようにすることが可能となる。
【0012】
本発明によるバッテリ充放電管理方法は、
バッテリの充放電を管理するバッテリ充放電管理方法において、
(a)前記バッテリの充電割合に基づいて該バッテリの目標充放電電力を設定するステップと、
(b)バッテリ内圧の上昇に応じて、前記充電割合の増加が抑制されるように前記目標充放電電力を補正するステップと、
を含むものである。
【0013】
この方法によれば、バッテリ内圧の上昇に起因したバッテリの劣化を良好に抑制しつつ、バッテリにより多くの電力を蓄えられるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるバッテリ充放電管理装置を含むハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】バッテリ温度Tbと入出力制限のベース値との関係の一例を示す説明図である。
【図3】バッテリの残容量SOCと入力制限用補正係数および出力制限用補正係数との関係の一例を示す説明図である。
【図4】充放電要求パワー設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】充放電要求パワー設定マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明によるバッテリ充放電管理装置を含むハイブリッド自動車20の概略構成図である。同図に示すハイブリッド自動車20は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料を用いて動力を出力するエンジン(内燃機関)22と、シングルピニオン式のプラネタリギヤ30と、主として発電機として動作するモータMG1と、駆動輪39a,39bにギヤ機構37やデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸35に変速機60を介して動力を入出力するモータMG2とを含む。
【0017】
更に、ハイブリッド自動車20は、エンジン22を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24と、モータMG1およびMG2を駆動するためのインバータ41および42と、インバータ41および42に接続されたバッテリ50と、インバータ41および42を介してモータMG1およびMG2を制御するモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40と、バッテリ50を管理する本発明によるバッテリ充放電管理装置としてのバッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)55と、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU55等と通信しながら車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを含む。
【0018】
エンジンECU24は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。エンジンECU24には、エンジン22に対して設けられて当該エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力され、エンジンECU24からは、エンジン22の吸入空気量や燃料噴射量、点火時期等を制御するための制御信号等が出力される。また、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号や上記センサからの信号等に基づいてエンジン22を制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に送信する。
【0019】
プラネタリギヤ30は、モータMG1のロータ(回転軸)に接続されるサンギヤ(第1要素)31と、駆動軸35に接続されると共に変速機60を介してモータMG2のロータ(回転軸)に接続されるリングギヤ(第2要素)32と、複数のピニオンギヤ33を支持すると共にダンパ28を介してエンジン22のクランクシャフト(出力軸)26に接続されるプラネタリキャリア(第3要素)34とを有する。プラネタリギヤ30は、モータMG1がエンジン22からの動力の少なくとも一部を用いて発電する発電機として機能する際にはプラネタリキャリア34に伝達されるエンジン22からの動力をサンギヤ31とリングギヤ32とにそのギヤ比に応じて分配する。また、プラネタリギヤ30は、モータMG1が電動機として機能する際にはプラネタリキャリア34に伝達されるエンジン22からの動力とサンギヤ31に伝達されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、駆動軸35やギヤ機構37、デファレンシャルギヤ38等を介して最終的に駆動輪39a,35bに出力される。
【0020】
変速機60は、例えば複数のプラネタリギヤや複数のブレーキを含み、モータMG2のロータと駆動軸35との接続および当該接続の解除を実行すると共に、当該ロータと駆動軸35との間の変速比を複数段階に設定可能なものである。変速機60は、ハイブリッド自動車20の走行状態等に応じてハイブリッドECU70により制御される。
【0021】
モータMG1およびMG2は、周知の同期発電電動機として構成されており、それぞれインバータ41または42を介してバッテリ50と電力をやり取りする。インバータ41および42とバッテリ50とを接続する電力ライン45は、インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1およびMG2の一方により発電される電力を他方で消費可能とする。従って、バッテリ50は、モータMG1,MG2により発電または消費される電力に応じて充放電され、モータMG1およびMG2間で電力収支のバランスをとれば充放電されないことになる。
【0022】
モータECU40は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。モータECU40には、モータMG1,MG2のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や、図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流等が入力され、モータECU40からは、インバータ41および42へのスイッチング制御信号等が出力される。また、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいてモータMG1およびMG2のロータの回転数Nm1およびNm2を算出する。更に、モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号等に基づいてモータMG1およびMG2を制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の状態に関するデータをハイブリッドECU70に送信する。
【0023】
バッテリ50は、図1に示すように、ニッケル水酸化物からなる正極と水素吸蔵合金からなる負極とを有する複数の電池セル51と、当該複数の電池セル51を収容するケース52とを含み、例えば200〜300Vの定格出力電圧を有するニッケル水素二次電池として構成されている。このようなニッケル水素二次電池では、充電に際して正極から発生する酸素が水素吸蔵合金負極により還元消費されることで、ケース52内の圧力であるバッテリ内圧の上昇が抑制されるが、充電に伴って残容量SOCが高まると、特に低温時において、過充電状態となった正極からの酸素ガスによりバッテリ内圧が上昇するおそれがある。このため、ケース52には、当該ケース52内の圧力であるバッテリ内圧が予め定められた開弁圧に達すると開弁する図示しない安全弁が装着されている。なお、バッテリ50の充電が停止されると、正極から発生した酸素は、負極との再結合反応により消費され、それによりバッテリ内圧は降下することになる。
【0024】
バッテリ充放電管理装置としてのバッテリECU55も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。また、バッテリECU55は、ハイブリッドECU70やエンジンECU24と通信し、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータをハイブリッドECU70等に送信する。そして、バッテリECU55には、図1に示すように、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ56からの充放電電圧(端子間電圧)Vb、バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに設置された電流センサ57からの充放電電流Ib、バッテリ50に設置された温度センサ58からのバッテリ温度Tb等が入力される。なお、充放電電圧Vbや充放電電流Ibは、放電側が正とされ、充電側が負とされる。
【0025】
更に、バッテリECU55は、電流センサ57からの充放電電流Ibの積算値∫Ibを算出すると共に、当該積算値∫Ibに基づいてバッテリ50の充電割合を示す残容量SOCを算出したり、残容量SOCに基づいてバッテリ50の目標充放電電力としての充放電要求パワーPb*(ここでは、放電側を正とし、充電側を負とする)を算出したりする。また、バッテリECU55は、残容量SOCとバッテリ温度Tbとに基づいてバッテリ50の充電に許容される電力である許容充電電力としての入力制限Winとバッテリ50の放電に許容される電力である許容放電電力としての出力制限Woutとを算出する。バッテリ50の入力制限Winは、バッテリ温度Tbに対応したベース値にバッテリ50の残容量SOCに対応した入力制限用補正係数を乗じることにより設定可能であり、出力制限Woutは、バッテリ温度Tbに対応したベース値にバッテリ50の残容量SOCに対応した出力制限用補正係数を乗じることにより設定可能である。
【0026】
図2にバッテリ温度Tbと入出力制限のベース値との関係の一例を示し、図3にバッテリ50の残容量SOCと入力制限用補正係数および出力制限用補正係数との関係の一例を示す。図2に示すように、入力制限のベース値は、バッテリ温度Tbが所定温度(例えば0℃)以下になると、バッテリ温度Tbが低下するにつれて充電電力として小さく(値として大きく)設定される。また、図3からわかるように、入力制限用補正係数は、残容量SOCが所定値Sref以上になると、バッテリ50の残容量SOCが多くなるにつれて小さい値に設定される。すなわち、バッテリECU55は、バッテリ50の充電に伴ってバッテリ内圧が上昇しないように許容充電電力としての入力制限Winを充電電力として小さく(値として大きく)設定し、特にバッテリ温度Tbが低く、かつ残容量SOCが多いほど、入力制限Winは充電電力としてより小さく設定されることになる。
【0027】
ハイブリッドECU70は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。ハイブリッドECU70は、上述したようにエンジンECU24やモータECU40、バッテリECU55等と通信し、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU55等と各種信号やデータのやり取りを行う。また、ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)80からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置(シフトポジション)に対応したシフトレンジSRを検出するシフトレンジセンサ82からのシフトレンジSR、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度(アクセル操作量)Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルストロークセンサ86からのブレーキペダルストロークBS、車速センサ87からの車速V等が入力ポートを介して入力される。
【0028】
そして、ハイブリッドECU70は、ハイブリッド自動車20の走行に際して、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ87からの車速Vに基づいて走行に要求される要求トルクTr*を設定すると共に、次式(1)に従い要求トルクTr*と駆動軸35の回転数Nr(=Nm2/γ、ただし、“γ”は変速機60による現変速比である。)との積と充放電要求パワーPb*とロスLossとの総和を車両全体に要求される要求パワーP*として設定する。そして、エンジン22が運転されている場合、ハイブリッドECU70は、予め定められた動作ラインから要求パワーP*に対応したエンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*を設定してエンジンECU24に送信すると共に、目標回転数Ne*を用いて次式(2)に従いモータMG1の目標回転数Nm1*を算出する。ただし、式(2)中の“ρ”はプラネタリギヤ30のギヤ比(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)である。
【0029】
P*=Tr*×Nm2/γ-Pb*+Loss …(1)
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(γ・ρ) …(2)
【0030】
更に、ハイブリッドECU70は、バッテリ50の入力制限Winおよび出力制限Woutの範囲内で次式(3)および(4)に従ってモータMG1のトルク指令Tm1*とモータMG2のトルク指令Tm2*とを設定し、設定したトルク指令Tm1*およびTm2*をモータECU40に送信する。なお、式(3)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるため、すなわち、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中の“k1”は比例項のゲインであり、“k2”は積分項のゲインである。ハイブリッドECU70から目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とに基づいて吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火時期制御等を実行する。また、ハイブリッドECU70からトルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*に従ってモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*に従ってモータMG2が駆動されるようにインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0031】
Tm1*=-ρ/(1+ρ)・Te*+k1・(Nm1*-Nm1)+k2・∫(Nm1*-Nm1)dt …(3)
Tm2*=(Tr*+Tm1*/ρ)/γ …(4)
【0032】
これにより、バッテリECU55によりバッテリ50の目標充放電電力としての充放電要求パワーPb*が放電側の値(正の値)または充電側の値(負の値)に設定されている場合には、要求トルクTr*に対応した要求走行パワー(Tr*×Nr)とバッテリ50の充放電に要求される充放電要求パワーPb*との和に見合うパワーを出力するようにエンジン22が制御される。また、この際、モータMG1およびMG2は、バッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力されるパワーの全部またはその一部をプラネタリギヤ30と共にトルク変換して要求トルクTr*に対応したトルクを駆動軸35に出力するように制御される。
【0033】
一方、ハイブリッド自動車20の制動に際して、ハイブリッドECU70は、ブレーキペダルストロークセンサ86からのブレーキペダルストロークBSと予め定められた踏力設定マップとを用いて運転者によりブレーキペダル85に加えられたペダル踏力Fpdを算出し、算出したペダル踏力Fpdに基づいて運転者により要求されている要求制動力BF*を設定する。更に、ハイブリッドECU70は、要求制動力BF*と車速センサ87からの車速Vと予め定められた回生分配比設定マップとを用いてモータMG2に対する要求回生制動力RBF*と図示しない油圧摩擦式ブレーキユニット(ブレーキアクチュエータ)に対する要求摩擦制動力FBF*とを設定する。そして、ハイブリッドECU70は、要求回生制動力RBF*に予め定められた換算係数を乗じて得られる要求回生制動トルクRBTに基づいてバッテリ50の入力制限Winおよび出力制限Woutの範囲内でモータMG2に対するトルク指令Tm2*を設定し、当該トルク指令Tm2*をモータECU40に送信すると共に、上記油圧摩擦式ブレーキユニットを制御する図示しないブレーキ用電子制御ユニットに要求摩擦制動力FBF*やトルク指令Tm2*を送信する。
【0034】
次に、上述のように構成されるハイブリッド自動車20におけるバッテリ50の目標充放電電力としての充放電要求パワーPb*の設定手順について説明する。図4は、イグニッションスイッチ80がオンされている間にバッテリECU55により所定時間おきに実行される充放電要求パワー設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0035】
図4の充放電要求パワー設定ルーチンの開始に際して、バッテリECU55の図示しないCPUは、別途算出した充放電電流積算値∫Ibや残容量SOC、電圧センサ56からの充放電電圧Vbといった充放電要求パワーPb*の設定に必要なデータを入力する(ステップS100)。次いで、バッテリECU55のCPUは、ステップS100にて入力した残容量SOCに基づいてバッテリ50の目標充放電電力としての充放電要求パワーPb*を算出する(ステップS110)。ハイブリッド自動車20では、残容量SOCと充放電要求パワーPb*との関係が充放電要求パワー設定マップとして予め定められてバッテリECU55の図示しないROMに記憶されている。そして、バッテリECU55のCPUは、当該マップから残容量SOCに対応した値を読み出して充放電要求パワーPb*として設定する。図5に充放電要求パワー設定マップの一例を示す。
【0036】
ステップS110において、バッテリECU55のCPUは、図5の充放電要求パワー設定マップに従い、残容量SOCが予め定められた強制充電開始値SL(例えば40%)未満になると、バッテリ50が強制的に充電されるように、充放電要求パワーPb*を一定の充電電力(負の値)Pcに設定すると共に、残容量SOCが強制充電開始値SLから当該強制充電開始値SHよりも大きい制御中心S0(例えば50%)までの範囲にあるときには充放電要求パワーPb*を残容量SOCに比例する充電電力(負の値)に設定する。また、バッテリECU55のCPUは、図5の充放電要求パワー設定マップに従い、残容量SOCが制御中心S0から当該制御中心S0よりも大きい所定値SHまでの範囲にあるときに充放電要求パワーPb*を残容量SOCに比例する放電電力(正の値)に設定すると共に、残容量SOCが当該所定値SHを超えると充放電要求パワーPb*を一定の放電電力(正の値)Pdに設定する。
【0037】
バッテリ50の充放電要求パワーPb*を設定した後、バッテリECU55のCPUは、ステップS100にて入力した充放電電流積算値∫Ibが予め定められた負の値である閾値αを上回っているか否かを判定する(ステップS120)。ここで、充放電電流積算値∫Ibは、バッテリ50の残容量SOCの算出のベースとなるものであることから、充放電電流積算値∫Ibを監視することで残容量SOCの変動に応じたバッテリ内圧の変動を把握することが可能であり、充放電電流積算値∫Ibが低下するほどバッテリ内圧が上昇するとみなすことができる。従って、閾値αを適正に設定することで、充放電電流積算値∫Ibが閾値α以下になった段階で、残容量SOCの増加に応じたバッテリ内圧の上昇を抑制するために、その後に入力制限Winが充電電力として小さく制限される可能性が高いか、あるいは入力制限Winが充電電力として小さく制限され始めているとみなすことができる。このため、閾値αは、バッテリ50の入力制限Winが充電電力として小さく制限され始めるときの残容量SOCの値Srefよりも若干小さい値か、値Sref、あるいは値Srefよりも若干大きい値に対応した充放電電流Ibの積算値として予め定められる。
【0038】
ステップS120にて充放電電流積算値∫Ibが閾値α以下であると判断した場合、バッテリECU55のCPUは、ステップS110にて設定した充放電要求パワーPb*に予め定められた正の値である補正値ΔPbを加算することにより充放電要求パワーPb*を補正し(ステップS140)、本ルーチンを一旦終了させる。これにより、エンジン22からの動力によりバッテリ50が充電されている場合には、充放電要求パワーPb*が充電電力として小さく補正され、バッテリ50が放電されている場合には、充放電要求パワーPb*が放電電力として大きく補正されることになる。この結果、バッテリ内圧が上昇しているか、あるいは更なる上昇が予想される場合に、バッテリ50の充電の制限あるいは放電の促進により残容量(充電割合)SOCの増加を抑え、それにより残容量SOCの増加に応じたバッテリ内圧の上昇を抑制し、許容充電電力としての入力制限Winが充電電力として小さく制限されてしまうのを抑制することが可能となる。
【0039】
また、ステップS120にて充放電電流積算値∫Ibが閾値αを上回っていると判断した場合、バッテリECU55のCPUは、更に、ステップS100にて入力した充放電電圧Vbが基準充電電圧(所定電圧)Vref以下であるか否かを判定する(ステップS130)。基準充電電圧Vrefは、比較的絶対値が大きい負の値として予め定められる。そして、充放電電圧Vbが基準充電電圧Vref以下である場合、バッテリECU55のCPUは、大電圧での充電によりバッテリ50の残容量SOCが増加すると共に、それに伴ってバッテリ内圧が上昇するおそれがあるとみなし、ステップS110にて設定した充放電要求パワーPb*に上記補正値ΔPbを加算することにより充放電要求パワーPb*を補正した上で(ステップS140)、本ルーチンを一旦終了させる。この場合、バッテリ50がエンジン22からの動力により充電されていることから、ステップS140では充放電要求パワーPb*が充電電力として小さく補正される。これにより、バッテリ50の充電の制限により残容量(充電割合)SOCの増加を抑え、それにより残容量SOCの増加に応じたバッテリ内圧の上昇を抑制し、許容充電電力としての入力制限Winが充電電力として小さく制限されてしまうのを抑制することが可能となる。なお、ステップS140にて充放電電圧Vbが基準充電電圧Vrefを上回っていると判断した場合、バッテリECU55のCPUは、ステップS140にて充放電要求パワーPb*を補正することなく、本ルーチンを一旦終了させる。
【0040】
以上説明したように、ハイブリッド自動車20のバッテリECU55は、バッテリ50の充電に伴ってバッテリ内圧が上昇しないように当該バッテリ50の許容充電電力である入力制限Winを設定すると共に、残容量(充電割合)SOCに基づいてバッテリ50の目標充放電電力である充放電要求パワーPb*を設定する(図4のステップS110)。そして、充放電要求パワーPb*は、充放電電流積算値∫Ibの低下すなわちバッテリ内圧の上昇に応じて、残容量SOCの増加が抑制されるように補正される(図4のステップS140)。
【0041】
このように、充放電電流積算値∫Ibの低下すなわちバッテリ内圧の上昇に応じて、充放電要求パワーPb*の補正により残容量SOCの増加を抑えることで、バッテリ50の充電に伴う残容量SOCの増加に応じたバッテリ内圧の上昇を抑制することが可能となる。そして、残容量SOCの増加とバッテリ内圧の上昇とを抑えることで、バッテリ50の許容充電電力である入力制限Winが充電電力として小さく制限されてしまうのを抑制することができる。従って、ハイブリッド自動車20では、バッテリ内圧の上昇に起因したバッテリ50の劣化を良好に抑制しつつ、バッテリ50により多くの電力を蓄えられるようにすることが可能となる。すなわち、ハイブリッド自動車20では、バッテリ50の入力制限Winが充電電力として小さく制限されたのに伴ってハイブリッド自動車20の制動に際してモータMG2により回生された電力によるバッテリ50の充電が制限されてしまうのを抑制し、エネルギ効率の向上を図ることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、充放電電流積算値∫Ibの低下すなわちバッテリ内圧の上昇に応じて、バッテリ50の充電時には充放電要求パワーPb*が充電電力として小さく補正されると共に、バッテリ50の放電時には充放電要求パワーPb*が放電電力として大きく補正される。これにより、充放電電流積算値∫Ibの低下すなわちバッテリ内圧の上昇に応じて、バッテリ50の充電の制限あるいは放電の促進によりバッテリ50の残容量SOCの増加を良好に抑制することが可能となる。
【0043】
更に、上記実施形態では、バッテリ50の充放電電流積算値∫Ibが閾値α以上であるか、あるいはバッテリ50の充放電電圧Vbが基準充電電圧Vref以下である場合に、充放電要求パワーPb*が補正される(ステップS120〜S140)。このように、バッテリ50の充放電電流積算値∫Ibや充放電電圧(充電電圧)Vbを監視することで、バッテリ内圧を実測することなく、バッテリ内圧の変化をより適正に把握することができることから、バッテリ50の充放電要求パワーPb*をより適正なタイミングで補正することが可能となる。
【0044】
また、上記バッテリ50は、ニッケル水素二次電池であって、充電による残容量SOCの増加に伴ってバッテリ内圧が上昇すると共に、充電の停止によりバッテリ内圧が降下する特性を有するものであるが、上述のバッテリECU55によりバッテリ50を管理することで、バッテリ内圧の上昇に起因したバッテリ50の劣化を良好に抑制しつつ、当該バッテリ50により多くの電力を蓄えられるようにすることが可能となる。ただし、本発明は、ニッケル水素電池として構成されたバッテリ50以外のリチウムイオン二次電池といった他の形式の二次電池として構成されたバッテリに適用されてもよい。
【0045】
なお、ステップS140における充放電要求パワーPb*の補正処理は、バッテリ50の充電時に充放電要求パワーPb*を充電電力として小さくすると共に、バッテリ50の放電時に充放電要求パワーPb*を放電電力として大きくするものであれば、充放電要求パワーPb*に正の補正値ΔPbを加算するもの以外の如何なる処理であってもよい。また、上記ハイブリッド自動車20は、モータMG1と、モータMG2と、モータMG1のロータに接続されるサンギヤ31と、駆動輪39a,39bに連結される駆動軸35およびモータMG2のロータに接続されるリングギヤ32と、エンジン22のクランクシャフト26に接続されるプラネタリキャリア34とを有するプラネタリギヤ30とを含むものであるが、本発明が適用されるハイブリッド車両は、これに限られるものではなく、いわゆる1モータ式のハイブリッド車両であってもよい。更に、本発明が電気自動車に適用され得ることはいうまでもない。また、上記ハイブリッド自動車20において、変速機60の代わりに、シンプルな減速ギヤ機構が採用されてもよい。
【0046】
ここで、上記実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施形態では、バッテリ50の充電に伴ってバッテリ内圧が上昇しないようにバッテリ温度Tbに対応した入力制限のベース値(図2参照)と残容量SOCに対応した入力制限用補正係数(図3参照)とに基づいてバッテリ50の入力制限Winを設定するバッテリECU55が「許容充電電力設定手段」に相当し、図4のステップS110の処理を実行するバッテリECU55が「目標充放電電力設定手段」に相当し、図4のステップS120〜S140の処理を実行するバッテリECU55が「目標充放電電力補正手段」に相当する。
【0047】
ただし、上記実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一形態であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、上記実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、バッテリの充放電を管理するバッテリ充放電管理装置の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、31 サンギヤ、32 リングギヤ、33 ピニオンギヤ、34 プラネタリキャリア、35 駆動軸、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 電池セル、52 ケース、55 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)56 電圧センサ、57 電流センサ,58 温度センサ、60 変速機、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトレンジセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルストロークセンサ、87 車速センサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの充放電を管理するバッテリ充放電管理装置において、
前記バッテリの充電に伴ってバッテリ内圧が上昇しないように該バッテリの許容充電電力を設定する許容充電電力設定手段と、
前記バッテリの充電割合に基づいて該バッテリの目標充放電電力を設定する目標充放電電力設定手段と、
前記バッテリ内圧の上昇に応じて、前記充電割合の増加が抑制されるように前記目標充放電電力を補正する目標充放電電力補正手段と、
を備えることを特徴とするバッテリ充放電管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ充放電管理装置において、
前記目標充放電電力補正手段は、前記バッテリ内圧の上昇に応じて、前記バッテリの充電時には前記目標充放電電力を充電電力として小さくすると共に、前記バッテリの放電時には前記目標充放電電力を放電電力として大きくすることを特徴とするバッテリ充放電管理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバッテリ充放電管理装置において、
前記目標充放電電力補正手段は、前記バッテリの充放電電流の積算値が所定値以上であるか、あるいは前記バッテリの充電電圧が所定電圧以上である場合に、前記目標充放電電力を補正することを特徴とするバッテリ充放電管理装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のバッテリ充放電管理装置において、
前記バッテリは、ニッケル水素二次電池であることを特徴とするバッテリ充放電管理装置。
【請求項5】
バッテリの充放電を管理するバッテリ充放電管理方法において、
(a)前記バッテリの充電割合に基づいてバッテリの目標充放電電力を設定するステップと、
(b)バッテリ内圧の上昇に応じて、前記充電割合の増加が抑制されるように前記目標充放電電力を補正するステップと、
を含むバッテリ充放電管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−106500(P2013−106500A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251110(P2011−251110)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】