説明

バッテリ状態管理装置及びバッテリ状態管理方法

【課題】バッテリの寿命を長期化する。
【解決手段】バッテリの状態を検出し、得られた検出結果に基づいて、そのバッテリの状態が満充電状態よりも制御誤差δだけ低い状態Idに安定化するようにオルタネータを制御する。特に2〜3年間維持する場合に、満充電を実現するように制御していた従来に比べて、バッテリの劣化の進行を抑えることができる。しかも、バッテリの状態を過放電することをも同時に防止できる。したがって、バッテリの寿命を長期化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルタネータの出力電圧を調整して自動車におけるバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置及びバッテリ状態管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、エンジンの回転力をバッテリに対する回生エネルギーに変換するためのオルタネータが備えられている。エンジンの回転中には、オルタネータにて発電が行われ、ここで発生した電力が各種電気負荷に供給されるとともに、余剰の電力によりバッテリの充電が図られる。
【0003】
ところで、バッテリは、一般に放電を繰り返すたびに充電容量が低下していく。例えば図5に示した鉛バッテリ1において過放電が起きると、電解液3中の硫酸鉛が析出されて、負極5の表面に非晶質の硫酸鉛膜が厚く形成され、この硫酸鉛膜が結晶化してしまい、その結果、鉛バッテリ1が劣化してしまう。
【0004】
逆に、図5に示した鉛バッテリ1において、満充電時に過度な充電(過充電)を行うと、正極9に含まれる集電極の腐食、及び活物質との界面での抵抗膜形成等が発生し、これにより鉛バッテリ1が劣化してしまう。
【0005】
そこで、例えば特許文献1のように、所定の方法でバッテリの容量を推定し、その推定されたバッテリ容量が満充電よりも大きいか否かを比較して、この比較結果に基づいてバッテリの過充電と過放電を防止しながらバッテリ状態をほぼ満充電に維持制御する技術が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−042485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来においては、バッテリの容量を推定し、その推定結果に基づいてバッテリの過充電と過放電を防止制御していたが、バッテリの容量を正確に推定して瞬時に回生電圧を変化させることは困難であり、実際には、図6のようにバッテリ状態(SOC)にバラツキを生じながら徐々に収束させるような制御を行うことになる。したがって、あるバッテリ状態Idを実現しようとする場合には、そのバッテリ状態の値を中心としてバラツキが生じることから、現実にはバッテリの過放電と過充電を確実に防止することが困難であった。
【0008】
ここで、あるバッテリ状態を維持する場合に、1年間維持する場合と、2年間維持する場合と、3年間維持する場合とで、バッテリの劣化の優劣が異なる。例えば図7は、バッテリ状態とバッテリの劣化度の関係について、そのバッテリ状態が1年間維持された場合、2年間、3年間のそれぞれに維持された場合との違いを示す図である。図7中の符号13はバッテリ状態が1年間維持される場合のバッテリ状態とバッテリの劣化度との関係を示す相関曲線、符号15はバッテリ状態が2年間維持される場合のバッテリ状態とバッテリの劣化度との関係を示す相関曲線、符号17はバッテリ状態が3年間維持される場合のバッテリ状態とバッテリの劣化度との関係を示す相関曲線を示している。また、図7の横軸は従来においてバッテリ状態(SOC)を制御しようとした場合の中心値(%)、同じく縦軸はバッテリの劣化度を示しており、縦軸の劣化度が低いほど、バッテリの劣化が進んでいることを意味する。
【0009】
上述のように、図7の横軸上でバッテリ状態(SOC)を一定のレベルに維持しようとする場合は、図6のように、その目標となるレベルIdを中心として、ある誤差範囲でバッテリ状態(SOC)が変化する。したがって、従来のように、バッテリ状態(SOC)を満充電(即ち、図7の横軸上の100%)に維持しようとしても、実際には、図7の横軸上の100%を中心にバラツキが生じて、頻繁に過充電の状態の状態が生じる。
【0010】
ここで、満充電(図7の横軸上の100%)の維持を1年間継続した場合(第1の相関曲線13)には、図7の縦軸において高い値(約0.80)を示し、よってバッテリの劣化はあまり進行しないことが分かる。
【0011】
しかしながら、上述のように過充電の状態が頻発することにより、満充電(図7の横軸上の100%)の維持を2年間または3年間継続した場合(第2の相関曲線15及び第3の相関曲線17)は、図7の縦軸において低い値を示し、よってバッテリの劣化がかなり進むことが分かる。
【0012】
このことは、満充電の状態を維持するようにオルタネータの制御を行う場合、バッテリ状態に誤差が生じることにより、必ずしもバッテリの長寿命化を果たし得ないことを意味する。したがって、バッテリの寿命を可及的に長期化するようなオルタネータの制御が望まれていた。
【0013】
そこで、本発明の課題は、バッテリの寿命を可及的に長期化し得るバッテリ状態管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、オルタネータの出力電圧を調整して自動車におけるバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、エンジンの回転力に応じて発電を行うとともに前記バッテリへの回生電圧を調整して出力する前記オルタネータと、前記バッテリの状態を検出し、その検出結果に基づいて、前記バッテリの状態が満充電状態よりも制御誤差だけ低い状態に安定化するように前記オルタネータを制御する電子制御ユニットとを備えるものである。
【0015】
請求項2に記載の発明は、オルタネータの出力電圧を調整して自動車におけるバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理方法であって、バッテリの状態を検出する第1の工程と、前記第1の工程で得られた検出結果に基づいて、前記バッテリの状態が満充電状態よりも制御誤差だけ低い状態に安定化するようにオルタネータを制御する第2の工程とを備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び請求項2に記載の発明によると、バッテリの状態を安定化させる目標値としての中心値を、満充電よりも制御誤差だけ低い値に設定することで、制御誤差が生じてもバッテリの状態を満充電以下の所定の範囲に収めることができる。したがって、バッテリの寿命を長期化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<原理>
図1は本発明の一の実施形態におけるバッテリ状態の変化を示す図である。この発明は、図1の如く、バッテリ状態について、満充電より低く、且つ過放電よりも大きい所定の状態値が中心となるようにオルタネータを制御することで、過充電及び過放電を共に防止し、バッテリの寿命を可及的に長期化するものである。尚、バッテリ状態(SOC)の検出はバッテリの開放電圧や満充電のタイミングを基準とし、例えば充放電電流の積算値からSOCを得ることができる。
【0018】
具体的には、バッテリの残容量検知及びこの検知結果に基づくオルタネータのフィードバック制御を行うことで、バッテリの満充電の状態を100%とした場合に、そのバッテリ状態の最大値が100%以下に収まるようにする。例えば、オルタネータの制御において±5.5%の制御誤差δが生じる場合は、バッテリ状態を安定化させる目標値としての中心値Idとして、94.5%(=100%−5.5%)に安定化するように、オルタネータの制御を行う。そうすれば、バッテリ状態が最小値=89%(94.5%−5.5%)と最大値=100%(94.5%+5.5%)の範囲内に収まり、バッテリ状態として過充電と過放電の両方を防止できる。
【0019】
このように、バッテリ状態の中心値Idを満充電の状態(100%)よりも小さく設定することで、バッテリ状態を89〜100%の範囲内に収めることができ、図2の如く、バッテリ21の正極23の表面に、充放電が可能な非晶質の硫酸鉛(PbSO4)膜25が形成される。これにより、正極23での硫酸による腐食を防止できる。
【0020】
また、バッテリ21の負極27においては、バッテリ状態を89〜100%の範囲内に収めることで、平均的に若干の放電状態に維持することができ、これにより、負極27の表面に形成される非晶質の硫酸鉛(PbSO4)膜29の厚みは、過放電のときに比べて薄く維持される。過放電の場合には、負極27の表面に形成される非晶質の硫酸鉛膜が厚くなり、これが硫酸鉛の結晶化の原因となっていたのに対して、この実施形態によると、負極27の表面に形成される硫酸鉛膜29の厚みが薄く維持されるため、これが粗大結晶粒に成長するのを防止できる。
【0021】
<構成>
図3は本発明の一の実施形態に係るバッテリ状態管理装置を示すブロック図である。このバッテリ状態管理装置は、図3の如く、電子制御ユニット(ECU)31でバッテリ状態を検出しながらオルタネータ33の制御を行うものである。
【0022】
ここで、オルタネータ33は、図3の如く、エンジン34の回転力を電気エネルギーに変換する発電機33aと、この発電機33aからの出力電圧を制御するレギュレータ33bとを備える。レギュレータ33bは、電子制御ユニット31の制御により回生電圧が調整される。尚、レギュレータ33bの内部には上記の温度センサー33cが設置されており、この温度センサー33cでの温度検出結果に基づいて、バッテリ35に供給する回生電圧を自律的に調整するようになっている。
【0023】
電子制御ユニット31は、バッテリ35の出力電圧、バッテリ35に対する回生電流及びバッテリ35の温度が入力されるアナログ処理部41と、このアナログ処理部41から与えられた信号に応じて所定の演算処理を行う演算処理部43と、この演算処理部43での演算処理結果をアナログ信号に変換してオルタネータ33のレギュレータ33bを制御する変換部45とを備える。
【0024】
アナログ処理部41は、複数の接続端子を有しており、各接続端子は、バッテリ35とオルタネータ33との接続経路と、バッテリ35とオルタネータ33との接続経路に流れる電流を計測するための電流センサ51と、バッテリ35の温度を検出する温度センサ53とに個別に接続され、バッテリ35とオルタネータ33との接続経路からはバッテリ35の出力電圧の値が、電流センサ51からはバッテリ35に対する回生電流の値が、温度センサ53からはバッテリ35の温度の値が各接続端子にそれぞれ入力される。そして、アナログ処理部41は、これらの各接続端子で得られた情報を量子化してディジタル信号に変換し、このディジタル信号を演算処理部43に出力する。
【0025】
演算処理部43は、フラッシュROM等の不揮発性記憶装置及びRAM等が接続された一般的なコンピュータのCPU(マイクプロセッサ)内において所定のソフトウェアプログラムによって動作する機能部品である。演算処理部43の不揮発性記憶装置内には、バッテリ35の出力電圧の値、バッテリ35に対する回生電流の値、及びバッテリ35の温度といった複数のパラメータと、バッテリ状態として適正な中心値(図1に示した中心値Id)との相関関係を示すデータが、データテーブルまたは関数式の形式で予め格納されている。かかる相関関係は、事前の実験またはシミュレーション等によって予め決定付けられているが、バッテリ状態として適正な中心値Idは、満充電の状態(100%)から制御誤差δを差し引いた値が設定される。尚、この制御誤差δも、事前の実験またはシミュレーション等によって予め決定付けられている。そして、演算処理部43のCPUは、アナログ処理部41から与えられたディジタル信号に基づいて、バッテリ状態として中心値Idを中心としたフィードバック制御を実現するように、レギュレータ33bを制御するためのデータを演算し、その演算結果を変換部45に出力する。
【0026】
変換部45は、演算処理部43での演算結果を電圧変換してオルタネータ33内のレギュレータ33bに出力し、レギュレータ33bにPWM信号を与えるなどして、当該レギュレータ33bからの出力電圧として最適な充電電圧を実現するよう制御するものである。
【0027】
<全体の所定動作>
このバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作について、図4を参照して説明する。電子制御ユニット31は、ステップS1でイグニッションスイッチ(以下、「IGスイッチ」という)がオンされるのに伴って、ステップS2で初期充電残量の検出動作を行う。この検出動作では、バッテリ35の開放電圧(実質的に放電が行われていない出力電圧)が測定され、その開放電圧の測定値に基づいてバッテリ35のエンジン始動前の充電残量(初期充電残量)が検出される。
【0028】
電子制御ユニット31は、続くステップS3でスタータが駆動されてエンジン34が始動されるのに伴って、ステップS4でエンジン始動時劣化判定動作を行う。この始動時劣化判定動作はエンジン始動時にバッテリ35の劣化度を判定するものである。
【0029】
また、電子制御ユニット31は、続くステップS5でエンジン始動後劣化判定動作を行う。この始動後劣化判定動作では、エンジン始動後の充電により満充電(又はそれに近い状態)になったバッテリ35への電流流入状況を電流センサ51を介して検出し、その電流流入状況に基づいてバッテリ35の劣化度が判定される。
【0030】
また、電子制御ユニット31は、続くステップS6でバッテリ35に対する充電制御(バッテリ35の充電残量管理)を行う。
【0031】
このステップS5,S6のエンジン始動後劣化判定動作及び充電制御は、エンジンが停止されるまで繰り返し継続される。
【0032】
<充電制御動作>
ここでは、ステップS6の充電制御動作を詳述する。この充電制御において、まず電子制御ユニット31のアナログ処理部41には、バッテリ35とオルタネータ33との接続経路からバッテリ35の出力電圧の値が入力され、電流センサ51からバッテリ35に対する回生電流の値が入力され、温度センサ53からバッテリ35の温度の値が入力される。そして、アナログ処理部41は、これらの各接続端子で得られた情報を量子化してディジタル信号に変換し、このディジタル信号を演算処理部43に出力する。
【0033】
演算処理部43のCPUは、アナログ処理部41から与えられたディジタル信号に基づいて、バッテリ状態として中心値Idを中心としたフィードバック制御を実現するように、レギュレータ33bを制御するためのデータを演算し、その演算結果を変換部45に出力する。かかる中心値Idは、満充電の状態(100%)から制御誤差δを差し引いた値が予め設定されている。
【0034】
変換部45は、演算処理部43での演算結果を電圧変換してオルタネータ33内のレギュレータ33bに出力し、レギュレータ33bにPWM信号を与えるなどして、当該レギュレータ33bからの出力電圧として最適な充電電圧を実現するよう制御する。
【0035】
この際、バッテリ状態として中心値Idを中心としたフィードバック制御を実現するようにしているので、この中心値Idを中心として制御誤差δが生じても、バッテリ35の満充電の状態を100%とした場合に、そのバッテリ状態の最大値が100%以下に収まるようになる。
【0036】
例えば、オルタネータの制御において±5.5%の制御誤差δが生じる場合は、バッテリ状態の中心値Idとして94.5%(=100%−5.5%)に安定化するようにオルタネータの制御を行う。これにより、バッテリ状態が最小値=89%(94.5%−5.5%)と最大値=100%(94.5%+5.5%)の範囲内に収まり、バッテリ状態として過充電と過放電の両方を防止できる。
【0037】
したがって、図2の如く、正極23の表面に非晶質の硫酸鉛膜25が形成されることで、この正極23での硫酸による集電極等の腐食を防止できるとともに、負極27の表面に形成される非晶質の硫酸鉛膜29の厚みが薄く維持されるため、これが粗大結晶粒に成長するのを防止できる。
【0038】
このように、図7において、バッテリ状態の中心値Idを満充電よりも低いId1に設定することで、制御誤差δが生じてもバッテリ状態を満充電以下の所定の範囲Arに収めることができ、その結果、かかる状態を1年間維持することでバッテリ35の劣化度を約0.7に、2年間維持した場合にバッテリ35の劣化度を約0.57に、3年間維持した場合にバッテリ35の劣化度を約0.42に抑えることができ、特に2〜3年間維持する場合に、満充電を実現するように制御していた従来に比べて、バッテリ35の劣化の進行を抑えることができる。しかも、バッテリ35の状態を過放電することをも同時に防止できる。したがって、バッテリの寿命を長期化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一の実施形態に係るバッテリ状態管理動作を示す図である。
【図2】バッテリを示す模式図である。
【図3】本発明の一の実施形態に係るバッテリ状態管理装置を示すブロック図である。
【図4】バッテリ状態管理装置の全体的な処理動作を示すフローチャートである。
【図5】バッテリを示す模式図である。
【図6】フィードバック制御におけるバッテリ状態の変化を示す図である。
【図7】バッテリ状態と劣化度との相関を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
21 バッテリ
23 正極
25,29 硫酸鉛膜
27 負極
31 電子制御ユニット
33 オルタネータ
33a 発電機
33b レギュレータ
33c 温度センサー
34 エンジン
35 バッテリ
41 アナログ処理部
43 演算処理部
45 変換部
51 電流センサ
53 温度センサ
Id 中心値
δ 制御誤差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルタネータの出力電圧を調整して自動車におけるバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
エンジンの回転力に応じて発電を行うとともに前記バッテリへの回生電圧を調整して出力する前記オルタネータと、
前記バッテリの状態を検出し、その検出結果に基づいて、前記バッテリの状態が満充電状態よりも制御誤差だけ低い状態に安定化するように前記オルタネータを制御する電子制御ユニットと
を備えるバッテリ状態管理装置。
【請求項2】
オルタネータの出力電圧を調整して自動車におけるバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理方法であって、
バッテリの状態を検出する第1の工程と、
前記第1の工程で得られた検出結果に基づいて、前記バッテリの状態が満充電状態よりも制御誤差だけ低い状態に安定化するようにオルタネータを制御する第2の工程と
を備えるバッテリ状態管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−20451(P2006−20451A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196905(P2004−196905)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】