バッテリ状態管理装置
【課題】劣化状況によらずに正確な劣化判定が可能なバッテリ状態管理装置を提供する。
【解決手段】このバッテリ状態管理装置では、基準となる基準バッテリ(新品のバッテリ11)の基準開放電圧値VNと、エンジン始動時放電を行わせた際の下限電圧値VLとの関係を示す関係情報を記憶部5に予め記憶させておく一方、車両に搭載されたバッテリ11のエンジン始動時放電が行われた際の開放電圧値VOと下限電圧値VLを測定し、その下限電圧値VLに対応する基準バッテリの基準開放電圧値VNを関係情報に基づいて導出し、開放電圧値VOと、導出した基準開放電圧値VNとの差(D)に基づいて、バッテリ11の劣化度を判定する。
【解決手段】このバッテリ状態管理装置では、基準となる基準バッテリ(新品のバッテリ11)の基準開放電圧値VNと、エンジン始動時放電を行わせた際の下限電圧値VLとの関係を示す関係情報を記憶部5に予め記憶させておく一方、車両に搭載されたバッテリ11のエンジン始動時放電が行われた際の開放電圧値VOと下限電圧値VLを測定し、その下限電圧値VLに対応する基準バッテリの基準開放電圧値VNを関係情報に基づいて導出し、開放電圧値VOと、導出した基準開放電圧値VNとの差(D)に基づいて、バッテリ11の劣化度を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバッテリ状態管理装置におけるバッテリの劣化判定では、エンジン始動時のバッテリの出力電圧の降下量とそのときに流れる電流値とからバッテリの内部抵抗を測定し、その測定した内部抵抗値に基づいてバッテリの劣化度が判定されるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、バッテリの劣化状況には格子腐食とサルフェーションが重なった場合など種々のタイプがあり、劣化状況によっては実際の内部抵抗とバッテリの開放電圧との相関関係が悪くなり、これによって、実際の内部抵抗と、エンジン始動時のバッテリ出力電圧の降下量との相関関係も悪くなる場合がある。この場合、出力電圧の降下量を直接的に用いて劣化判定を行う上記の従来技術では正確な劣化判定が困難となる。
【0004】
そこで、本発明の解決すべき課題は、劣化状況によらずに正確な劣化判定が可能なバッテリ状態管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明では、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、所定の基準バッテリの実質的に放電が行われていない状態における出力電圧である基準開放電圧値と、所定放電を行わせた際の前記基準バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す関係情報を記憶する記憶手段と、実質的に放電が行われていない状態における前記バッテリの出力電圧である開放電圧値を前記電圧検出手段を介して検出するとともに、前記所定放電が行われた際の前記バッテリの出力電圧である放電時電圧値を前記電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値に対応する前記基準バッテリの前記基準開放電圧値を前記関係情報に基づいて導出し、検出した前記開放電圧値と、導出した前記基準開放電圧値との差に基づいて、前記バッテリの劣化度を判定する判定手段とを備える。
【0006】
また、請求項2の発明では、請求項1の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記放電時電圧値は、前記所定放電が行われた際における前記基準バッテリ又は前記バッテリの出力電圧の最低値である。
【0007】
また、請求項3の発明では、請求項1又は2の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記所定放電は、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電である。
【0008】
また、請求項4の発明では、請求項1ないし3のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記基準バッテリは実質的に新品のバッテリである。
【0009】
また、請求項5の発明では、請求項1ないし4のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記判定手段は、検出した前記開放電圧値と導出した前記基準開放電圧値との差の値を検出した前記放電時電圧値に基づいて修正し、その修正値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定する。
【0010】
また、請求項6の発明では、請求項1ないし5のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記判定手段は、検出した前記放電時電圧値が所定の基準レベル以下になっている場合にのみ前記バッテリの劣化度について判定を行う。
【0011】
また、請求項7の発明では、請求項1ないし6のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記バッテリ状態管理装置は、前記バッテリの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、前記判定手段は、前記電圧検出手段を介して検出した前記開放電圧値及び前記放電時電圧値のうちの少なくとも開放電圧値を、前記温度検出手段が検出した前記バッテリの温度に基づいて所定の基準温度の値に補正し、その補正した値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、実質的に放電が行われていない状態の基準バッテリの出力電圧である基準開放電圧値と、所定放電を行わせた際の基準バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す関係情報を記憶手段に予め記憶させておき、実質的に放電が行われていない状態におけるバッテリの出力電圧である開放電圧値を電圧検出手段を介して検出するとともに、所定放電が行われた際のバッテリの出力電圧である放電時電圧値を電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値に対応する基準バッテリの基準開放電圧値を関係情報に基づいて導出し、検出した開放電圧値と、導出した基準開放電圧値との差に基づいて、バッテリの劣化度を判定する構成であり、すなわち、従来のように所定放電時のバッテリの出力電圧の降下量を直接的に用いて劣化判定を行う構成でないため、劣化状況によらずに正確な劣化判定を行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、放電時電圧値として所定放電が行われた際における基準バッテリ又はバッテリの出力電圧の最低値が用いられるため、バッテリの特性を有効に表す放電時電圧値を容易かつ確実に取得することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、劣化判定に用いられる所定放電が、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電であるため、バッテリの劣化判定のための特別な放電をバッテリに行わせる必要がないとともに、走行開始前にバッテリの劣化を検知することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、基準バッテリとして実質的に新品のバッテリが用いられるため、基準バッテリの特性を安定させることができ、これによってバッテリの劣化判定を精度良く行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、検出した開放電圧値と導出した基準開放電圧値との差の値は、放電時電圧値の値に応じて大小に変化するため、その差の値を放電時電圧値に基づいて修正して判定に使用することにより、バッテリの劣化判定の精度を向上させることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、検出した開放電圧値と導出した基準開放電圧値との差の値を用いたバッテリの劣化判定は、放電時電圧値が高くなるほど信頼性が低下する傾向にあるため、放電時電圧値が所定の基準レベル以下である場合にのみ劣化判定を行うことにより、劣化判定の信頼性を保持することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、検出した開放電圧値及び放電時電圧値の少なくとも開放電圧値を検出したバッテリの温度に基づいて所定の基準温度の値に補正し、その補正した値に基づいてバッテリの劣化度を判定する構成であるため、種々の温度環境下でも高精度でバッテリの劣化判定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。このバッテリ状態管理装置は、図1に示すように、電流センサ1、電圧センサ(電圧検出手段)3、処理部(判定手段)5、記憶部(記憶手段)7及び出力部9を備えて構成されており、車両に搭載されたバッテリ11の状態を管理する。
【0020】
電流センサ1は、バッテリ11から出力される電流を検出する。電圧センサ3は、バッテリ11の出力電圧を検出する。処理部5は、CPU等を備えて構成され、バッテリ11の管理のために各種の情報処理動作(制御動作も含む)を行う。記憶部7は、メモリ等により構成され、処理部5が行う各種の情報処理動作に必要な情報等が記憶されている。出力部9は、バッテリ11の状態の判定結果等を出力するためのものである。
【0021】
<全体の所定動作>
まず、このバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作について、図2を参照して説明する。処理部5は、ステップS1でイグニッションスイッチ(以下、「IGスイッチ」という)13がオンされるのに伴って、ステップS2で初期充電残量の検出動作を行う。この検出動作では、バッテリ11の開放電圧(実質的に放電が行われていない出力電圧)が電圧センサ3を介して測定され、その開放電圧の測定値に基づいてバッテリ11のエンジン始動前の充電残量(初期充電残量)が検出される。なお、ここで測定されたバッテリ11の開放電圧は後述のステップS4のエンジン始動時劣化判定に用いられる。
【0022】
処理部5は、続くステップS3でスタータ15が駆動されて図示しないエンジンが始動されるのに伴って、ステップS4でエンジン始動時劣化判定動作を行う。この始動時劣化判定動作はエンジン始動時にバッテリ11の劣化度を判定するものであり、その具体的な内容については後述する。
【0023】
また、処理部5は、続くステップS5でエンジン始動後劣化判定動作を行う。この始動後劣化判定動作では、エンジン始動後の充電により満充電(又はそれに近い状態)になったバッテリ11への電流流入状況を電流センサ1を介して検出し、その電流流入状況に基づいてバッテリ11の劣化度が判定される。
【0024】
また、処理部5は、続くステップS6でバッテリ11に対する充電制御(バッテリ11の充電残量管理)を行う。この充電制御では、電流センサ1の測定電流値を積算することにより、エンジン始動時等の所定の基準時からバッテリ11から放電された全電流量が逐次検出され、その検出結果に基づいてバッテリ11に対して行うべき充電量を決定するようになっている。これによって、走行中におけるバッテリ11の充電残量が所定範囲内に維持されるようになっている。充電量の制御は、例えば、図示しないオルタネータの発電量(出力電圧等)を制御することにより行われる。
【0025】
このステップS5,S6のエンジン始動後劣化判定動作及び充電制御は、エンジンが停止されるまで繰り返し継続される。
【0026】
<エンジン始動時劣化判定動作>
本実施形態では、まず所定の基準バッテリ(ここでは、新品のバッテリ11)に対して試験を行い、その試験結果を用いて実際に車両に搭載されたバッテリ11の劣化判定を行うようになっている。
【0027】
その試験では、新品を含む種々の劣化状況のバッテリ11に対して、その充電残量を種々に変化さ、その充電残量の異なる各状態において、バッテリ11に対してエンジン始動時放電(所定放電)を行わせて、バッテリ11の放電前及び放電中の出力電圧を計測した。そして、劣化状況の異なる各バッテリ11の異なる各充電残量状態における各エンジン始動時放電を行う前の開放電圧値と、エンジン始動時放電が行われた際の下限電圧値(放電時電圧値)との関係を調べた。ここで、エンジン始動時放電とは、スタータ15が駆動されてエンジンが始動される際に行われる放電(あるいはそれと同等な放電)である。また、下限電圧値とは、エンジン始動時放電に伴ってバッテリ11の出力電圧が低下した際のその最低値のことをである。なお、エンジン始動時放電の際に検出するバッテリ11の出力電圧値(放電時電圧値)としては、上記の出力電圧の最低値の他に、エンジン始動時放電が行われている期間中における放電開始から所定時間経過後の出力電圧値を検出して判定に用いるようにしてもよい。
【0028】
図3はその試験結果をグラフ化したものであり、その横軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電開始前のバッテリ11の開放電圧値に対応し、縦軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電中のバッテリ11の下限電圧値に対応している。また、図3中の曲線G1は新品のバッテリ11についての測定結果に基づいて描いたものであり、曲線G2〜G5は使用されてある程度劣化したバッテリ11についての測定結果に基づいて描いたものである。曲線G1〜G5は互いに劣化状況が異なったバッテリ11に対する試験の結果得られたものである。このうち、曲線G2〜G4は通常の使用状態に近い態様で充放電が繰り替えされたバッテリ11に対応し、各曲線G2,G3,G4の順にバッテリ11の使用期間が長くなり劣化が進んでいる。また、曲線G5は頻繁に過充電状態とされたバッテリ11に対応している。曲線G4,G5は劣化状況(劣化の要因)が異なるが、劣化の程度(劣化度)はほぼ同等である。
【0029】
具体的には、新品のバッテリ11が対応する曲線G1に着目した場合、開放電圧体値が約12.9V(ほぼ満充電状態)のときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約9.7Vであり、開放電圧値が約12.1Vのときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約8.1Vであることを示している。また、劣化が進んだバッテリ11が対応する曲線G4に着目した場合、開放電圧値が約12.5Vのときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約8.1Vであることを示している。
【0030】
図3のグラフより、バッテリ11の劣化が進むにつれて対応する曲線G1〜G5がグラフの概ね右方向(又は右下方向)にシフトしていることが分かった。特に、下限電圧値が所定の基準レベル(例えば、9V)以下の領域では、曲線G1を基準とした曲線G2〜G5の右方向へのシフト量が対応するバッテリ11の劣化の進み応じて増加する傾向にあることが分かった。
【0031】
そこで、本願発明者は、エンジン始動時放電を行った際のバッテリ11の開放電圧及び下限電圧により定まる図3のグラフ上の点P1(VO,VL)が、新品のバッテリ11が対応する曲線G1上の対応する点P2(VN,VL)を基準として、横軸右方向にシフトしているシフト量Dを用いてバッテリ11の劣化度を判定することに思い到った。
【0032】
この判定を行うためには、まず基準となる新品のバッテリ11に対する曲線G1に関する情報(すなわち、開放電圧値(基準開放電圧値)VNと下限電圧値VLとの関係を表す関係情報)を記憶部7に予め記憶させておく必要がある。その具体的手段としては、曲線Gを下限電圧値VLを変数した関数として近似的に表現した関係式を記憶部7に記憶させておき、その関係式に測定値である下限電圧値VLを代入して対応する基準開放電圧値VNを導出する構成と、所定の数値間隔で設けられた複数の下限電圧値VLとそれに対応する複数の基準開放電圧値VNとを関連付けてテーブル情報として記憶部7に記憶させておき、測定した下限電圧値VLに対応する基準開放電圧値VNをそのテーブル情報を利用して導出する構成とが考えられる。本実施形態では、例えば前者の構成が採用される。なお、基準バッテリとして必ずしも新品のバッテリ11を用いる必要はなく、新品と同等の能力を有するバッテリ11を基準バッテリとして用いてもよい。
【0033】
本実施形態の具体的構成では、処理部5が、IGスイッチ13がオンされた際(エンジンの始動が行われる直前)のバッテリ11の開放電圧値VOを電圧センサ3を介して測定するとともに、エンジン始動時放電が行われているときのバッテリ11の下限電圧値VLを電圧センサ3を介して測定し、その測定値VO,VLを劣化判定のための次式(1)(評価式)に代入して評価値Qを算出し、その評価値Qを用いてバッテリ11の劣化度を判定するようになっている。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、式(1)中のVNは測定値である下限抵抗値VLの関数として与えられた新品のバッテリ11の開放電圧値VNである。この式(1),(2)に関する情報も記憶部7に予め記憶されており、これを用いて処理部5による劣化判定処理が行われる。
【0036】
式(1)において、VOとVNとの差分値(D)をR(VL)で割り算しているのは、劣化度が同一の場合であっても、下限電圧値VLが高くなるにつれて差分値(D)が小さくなってゆくため、差分値(D)を関数値R(VL)で割り算して修正することにより、下限電圧値VLの値によらずに実質的に劣化度のみよって変化する評価値Qを導出できるようにしたものである。なお、ここでは、劣化度が同一とした場合における下限電圧値VLが変化した場合の差分値(D)の変化態様をVLの2次関数で近似することとし、関数値R(VL)の設定を行っている(上式(2)参照)。より具体的には、例えば、式(2)中の係数C1,C2,C3は、C1=0.088,C2=−1.36,C3=4.94に設定される。
【0037】
なお、本実施形態では、差分値Dを関数値R(VL)で割り算した値で値eを累乗したものを評価値Qとして使用するようにしたが、差分値Dを関数値R(VL)で割り算した値をそのまま劣化判定に用いたり、他の評価関数に代入するようにしてもよい。例えば、上式(1)を1次又は2次までべき級数展開したものを評価関数として用いるようにしてもよい。
【0038】
評価値Qの具体例としては、例えば、図3の曲線G1が対応する新品のバッテリ11の場合はQ=1.0となり、曲線G2が対応するバッテリ11の場合はQ=0.6となり、曲線G3が対応するバッテリ11の場合はQ=0.4となり、曲線G4,G5が対応するバッテリ11の場合はQ=0.3となる。そして、例えば評価値Qが所定値以下になった場合に、バッテリ11が劣化していると判定される。
【0039】
図4は、処理部5による劣化判定処理に関するフローチャートである。前述の図2のステップS3でスタータが駆動されるの伴って、処理部5は、ステップS4にて図4に示す手順で始動時劣化判定処理を行うようになっている。
【0040】
すなわち、処理部5は、エンジン始動時放電が行われているときのバッテリ11の下限電圧値VLを電圧センサ3を介して測定し(ステップS11)、その測定した下限電圧値VLが所定の基準レベル(例えば、9V)以下であるか否かを判断し(ステップS12)、基準レベル以下である場合にはステップS13に進んで劣化判定処理を行う一方、基準レベルを上回っている場合には劣化判定処理を行うことなく次の処理(図2のステップS5)を行う。
【0041】
ステップS13の劣化判定処理では、前述の図2のステップS2で測定した開放電圧値VOと、ステップS11で測定した下限電圧値VLとが上式(1)に代入されて評価値Qが算出され、その評価値Qに基づいてバッテリ11の劣化度の判定が行われる。
【0042】
そして、その判定結果は、例えば図5に示す出力態様で、出力部9を介して出力される。例えば、出力部9に設けられた表示部21において、バッテリ11に劣化の問題がない場合には表示領域21aが点灯され、バッテリ11が劣化している場合には表示領域21bが点灯される。また、この表示部21には、バッテリ11の充電残量を表示するための表示領域21cも設けられている。
【0043】
以上のように、基準となる基準バッテリ(新品のバッテリ11)の基準開放電圧値VNと、エンジン始動時放電を行わせた際の下限電圧値VLとの関係を示す関係情報(関係式)を記憶部5に予め記憶させておく一方、車両に搭載されたバッテリ11のエンジン始動時放電が行われた際の開放電圧値VOと下限電圧値VLを測定し、その下限電圧値VLに対応する基準バッテリの基準開放電圧値VNを関係情報に基づいて導出し、開放電圧値VOと、導出した基準開放電圧値VNとの差(D)に基づいて、バッテリ11の劣化度を判定する構成であり、すなわち、従来のようにエンジン始動時放電によるバッテリ11の出力電圧の降下量を直接的に用いて劣化判定を行う構成でないため、劣化状況によらずに正確な劣化判定を行うことができる。
【0044】
また、エンジン始動時放電が行われた際におけるバッテリ11の下限電圧値VLを用いて劣化判定を行うため、バッテリ11の特性を有効に表す放電時電圧値を容易かつ確実に取得することができる。
【0045】
また、エンジン始動時放電を利用してエンジン始動時劣化判定が行われるため、バッテリの劣化判定のための特別な放電をバッテリ11に行わせる必要がないとともに、走行開始前にバッテリ11の劣化を検知することができる。
【0046】
また、基準バッテリとして新品のバッテリ11が用いられるため、基準バッテリの特性を安定させることができ、これによってバッテリ11の劣化判定を精度良く行うことができる。
【0047】
また、開放電圧値VOと基準開放電圧値VNとの差分値(D)をR(VL)で割り算した値を用いて劣化判定を行うため、下限電圧値VLの値によらずに実質的に劣化度のみよって変化する評価値Qを導出でき、その結果、バッテリ11の劣化判定の精度を向上させることができる。
【0048】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。本実施形態に係るバッテリ状態管理装置が第1実施形態に係るバッテリ状態管理装置と実質的に異なる点は、バッテリ11の温度を検出する温度センサ(温度検出手段)23を設け、バッテリ11の温度を加味してバッテリ11の劣化判定を行うようにした点のみであり、対応する部分には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0049】
本実施形態では、所定の基準温度Tc(例えば、25℃)に設定された環境下で、前述の図3に対応する試験を行い、基準温度Tc下における基準バッテリの基準開放電圧VNcと下限電圧値VLcとの関係式(又は対応関係を示すテーブル情報)を作成して記憶部7に記憶させておく。そして、その関係式等を用いてバッテリ11の劣化判定を行うようになっている。
【0050】
このため、本実施形態では、処理部5に、実際の温度環境下で実測されたバッテリ11の開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtを温度センサ23を介して検出した温度T1に基づいて補正させることにより、基準温度Tcにおける補正開放電圧値VOc及び補正下限電圧値VLcを導出(換算)させ、その導出させた補正値(VOc,VLc)を用いて劣化判定を行わせるようになっている。温度補正の具体的内容については後述する。
【0051】
具体的には、処理部5は、予め記憶部7に記憶されている基準温度Tc下における基準バッテリの基準開放電圧VNcと下限電圧値VLcとの関係式(又は対応関係を示すテーブル情報)に基づいて、温度補正により導出した補正下限電圧値VLcに対応する基準開放電圧値VNcを導出し、その導出した基準開放電圧値VNc、温度補正により導出した補正開放電圧値VOc及び補正下限電圧値VLcを上式(1)に代入して評価値Qを算出し、劣化判定を行うようになっている。なお、劣化判定を行うか否かの判断は、例えば実測値である下限電圧値VLtが前記基準電圧レベル以下になっているか否か基づいて行われる。
【0052】
次に、実測値である開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtに対する温度補正の具体的な内容について説明する。
【0053】
温度補正のための具体的構成としては、テーブル情報を用いて温度補正を行う構成と、関係式を用いて温度補正を行う構成とが考えられる。テーブル情報を用いる構成の場合は、例えば、実測された温度T1とその温度T1下での開放電圧値VOtと、基準温度Tcにおける補正開放電圧値VOcとの関係を示すテーブル情報、及び、実測された温度T1とその温度T1下での下限電圧値VLtと、基準温度Tcにおける補正下限電圧値VLcとの関係を示すテーブル情報を記憶部7に予め登録しておき、それらのテーブル情報を用いて実測値(VOt,VLt)から補正値(VOc,VLc)を導出する。但し、温度Tが約10℃以上では、下限電圧値VLの温度依存性は無視し得る程度であるため(詳細は後述)、測定温度が約10℃以上の場合は下限電圧値VLtは補正せずにそのまま劣化判定に用いられる。なお、前記テーブル情報の取得は、各種関係式等を用いて理論的に取得してもよいし、試験によって取得してもよい。
【0054】
続いて、関係式を用いて温度補正を行う構成について説明する。まず、開放電圧値VOtに対する温度補正について説明する。鉛蓄電池であるバッテリ11の起電力(出力電圧)Eは、ネルンストの関係式により次のように表される。
【0055】
E=E0+(RT/nF)×ln(aav12/aav22) (3)
上式(3)におけるE以外の変数は、
aav1:硫酸の平均活量、
aav2:水の平均活量、
n:反応に関与する電子数(ここではn=2)、
F:ファラデー定数(9.648×104Cmol-1)、
R:気体定数(8.314Jmol-1K-1)、
E0:バッテリの標準起電力(単セル2.0485Vで6セルで12.291V)、
T:バッテリの溶液温度、
である。
【0056】
水の平均活量aav2を1で近似すると、上式(3)より近似的に、
E=E0+(RT/F)×ln(aav1) (4)
の関係が得られる。これをaav1(以下、単に「aav」と記載する)について解くと、
aav=exp((F/RT)×(E-E0)) (5)
が得られる。
【0057】
このため、上式(5)の関係式に、電圧センサ3及び温度センサ23による測定値(VOt(VOt=E),T1)、及び記憶部7に予め登録された既知の値F,R,E0を代入することより、バッテリ11の硫酸の平均活量を推定した平均活量値aavを導出できる。
【0058】
図7ないし図9は、65℃、25℃及び−30℃時におけるバッテリ11の硫酸の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。本実施形態では、まず、図7ないし図9に例示するグラフのように、バッテリ11の異なる複数の温度について、バッテリ11の硫酸の活量を硫酸の質量モル濃度を変化させて実測し、各温度におけるバッテリ11の硫酸の活量と硫酸の質量モル濃度との関係を調べた。図7ないし図9のグラフにおける各黒点は実測値を示している。
【0059】
この測定の結果、本願発明者は、バッテリ11の温度にかかわらず、バッテリ11の硫酸の活量の対数値と質量モル濃度との間に比例関係があることに気づいた。例えば、硫酸の質量モル濃度を横軸、硫酸の活量の対数値を縦軸にとった図7ないし図9のグラフにおいて、各実測値は近似的に直線グラフG11〜G13上に沿って分布している。
【0060】
よって、上式(5)により導出した硫酸の平均活量値aavに基づき、次の関係式により硫酸の質量モル濃度を推定した推定濃度値mを導出することができる。
【0061】
m=(ln(aav/A))/B (6)
上式(6)において、変数A,Bは、平均活量値aavと推定濃度値mとの関係式を規定するための係数であり、上式(6)における平均活量値aavと推定濃度値mの関係が実測値に近接するような値に予め設定されている。また、この係数A,Bは、バッテリ11の異なる温度ごとに設定される。図10には、−30℃、25℃、65℃における係数A,Bの値が例示的に示されている。また、図11及び図12は、バッテリ11の温度と係数A,Bの値の関係を示している。なお、係数A,Bは、必要な温度範囲内において設定された複数温度について上述の図7ないし図9のグラフに示すような実測を行って、その実測結果に基づいてその複数温度における係数A,Bを決定し、必要な温度範囲内における他の温度における係数A,Bの値は、その実測により決定した係数A,Bの値から推定して決定するのが効率的で好ましい。
【0062】
また、濃度値mとバッテリ11の溶液の比重との関係は、周知の事項であり、その対応関係を関係式で表すことも可能である。
【0063】
また、比重Sと温度変化との関係を示す関係式は、
Sc=St+0.0007(T−Tc) (7)
で与えられることが知られている。ここで、Stは実際の温度T下での比重値、Scは基準温度Tcのときの比重値を示している。
【0064】
よって、これらの関係を用いることにより、実際の温度T1における実測値である開放電圧値VOtを補正して基準温度Tcにおける補正開放電圧値VOcを導出することができる。具体的には、実際の温度T1とその温度下での実測値である開放電圧値VOtとを上式(5)に代入して平均活量値aavを導出し、その平均活量値aavと、温度T1のときの係数A,Bの値とを上式(6)に代入して推定濃度値mtを導出する。その推定濃度値mtを、上記の濃度値mと比重との関係式を用いて比重に換算して温度T1における比重値Stを導出する。その比重値Stと温度T1とを上式(7)に代入することにより、濃度値Stを基準温度Tcにおける補正濃度値Scに補正(換算)する。その補正濃度値Scを、上記の濃度値mと比重との関係式を用いて補正濃度値mcに換算し、その値mcを用いて上式(6)に基づいて基準温度Tcに対応する補正平均活量値aavcを導出する。このとき、式(6)の係数A,Bとしては基準温度Tcのときの値を用いる。そして、その導出した補正平均活量値aavを用いて上式(5)に基づいて基準温度Tcに対応する補正開放電圧値VOcを導出する。このとき、式(5)に代入する温度値は基準温度Tcを用いる。
【0065】
次に、下限電圧値VLtに対する温度補正について説明する。図13は温度とバッテリ11の内部抵抗との関係を試験により調べた結果を示すグラフであり、図14はバッテリ11に所定放電を行わせた際のバッテリ11の内部抵抗と放電時の電圧降下との関係を試験により調べた結果を示すグラフである。図13のグラフG21より、約10℃を上回った温度領域では温度変化に対して内部抵抗が殆ど変化しないのに対し、約10℃を下回った温度領域では温度の低下に対して傾きαで内部抵抗が増大することが分かる。また、図14のグラフG22より、バッテリ11の内部抵抗の増加に対して傾きβで放電時の電圧降下が増大することが分かる。
【0066】
そこで、このような試験結果に基づき、実測された温度T1が10℃以上の場合には、実測値である下限電圧値VLtに対する温度補正を行わず、その下限電圧値VLtをそのまま用いて劣化判定を行うこととする。
【0067】
一方、実測された温度T1が10℃未満である場合には、
VLc=VOc−(VOt−VLt−γ・dT1) (8)
の換算式を用いて実測値(VLt)についての温度補正を行い、それによって得られた基準温度Tcのときの補正下限電圧値VLcを用いて劣化判定を行うこととする。上式(8)において、VOcは上記の要領で実測値(VOt)を温度補正して得られた基準温度Tcのときの補正開放電圧値であり、γはγ=α・βで与えられる係数であり、dT1はdT1=T1−10(℃)で与えられるパラメータである。
【0068】
実際に処理部5に実測値である開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtの温度補正を行わせる際には、値(T1,VOt)をパラメータとした開放電圧値VOtの補正のための関係式、及び値(T1,VOt,VOc,VLt)をパラメータとした下限電圧値VLtの補正のための関係式(8)を記憶部7に予め記憶させておき、その関係式を用いて処理部5に温度補正処理を行わせるようにする必要がある。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、上述の第1実施形態とほぼ同様な効果が得られるとともに、実測値である開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtを基準温度Tcの値に補正した値を用いて劣化判定を行う構成であるため、種々の温度環境下でも高精度でバッテリ11の劣化判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。
【図2】図1のバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作を示すフローチャートである。
【図3】劣化状況及び充電残量の異なるバッテリについて開放電圧とエンジン始動時の下限電圧とを試験により測定した測定結果を示すグラフである。
【図4】劣化判定処理に関するフローチャートである。
【図5】バッテリの判定結果の出力例を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。
【図7】65℃時の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。
【図8】25℃時の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。
【図9】−30℃時の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。
【図10】各温度における係数A,Bの値を示す図である。
【図11】温度と係数Aとの関係を示すグラフである。
【図12】温度と係数Bとの関係を示すグラフである。
【図13】温度とバッテリの内部抵抗との関係を調べた試験結果を示すグラフである。
【図14】バッテリに所定放電を行わせた際のバッテリの内部抵抗と放電時の電圧降下との関係を調べた試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 電流センサ
3 電圧センサ
5 処理部
7 記憶部
9 出力部
11 バッテリ
13 IGスイッチ
15 スタータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバッテリ状態管理装置におけるバッテリの劣化判定では、エンジン始動時のバッテリの出力電圧の降下量とそのときに流れる電流値とからバッテリの内部抵抗を測定し、その測定した内部抵抗値に基づいてバッテリの劣化度が判定されるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、バッテリの劣化状況には格子腐食とサルフェーションが重なった場合など種々のタイプがあり、劣化状況によっては実際の内部抵抗とバッテリの開放電圧との相関関係が悪くなり、これによって、実際の内部抵抗と、エンジン始動時のバッテリ出力電圧の降下量との相関関係も悪くなる場合がある。この場合、出力電圧の降下量を直接的に用いて劣化判定を行う上記の従来技術では正確な劣化判定が困難となる。
【0004】
そこで、本発明の解決すべき課題は、劣化状況によらずに正確な劣化判定が可能なバッテリ状態管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明では、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、所定の基準バッテリの実質的に放電が行われていない状態における出力電圧である基準開放電圧値と、所定放電を行わせた際の前記基準バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す関係情報を記憶する記憶手段と、実質的に放電が行われていない状態における前記バッテリの出力電圧である開放電圧値を前記電圧検出手段を介して検出するとともに、前記所定放電が行われた際の前記バッテリの出力電圧である放電時電圧値を前記電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値に対応する前記基準バッテリの前記基準開放電圧値を前記関係情報に基づいて導出し、検出した前記開放電圧値と、導出した前記基準開放電圧値との差に基づいて、前記バッテリの劣化度を判定する判定手段とを備える。
【0006】
また、請求項2の発明では、請求項1の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記放電時電圧値は、前記所定放電が行われた際における前記基準バッテリ又は前記バッテリの出力電圧の最低値である。
【0007】
また、請求項3の発明では、請求項1又は2の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記所定放電は、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電である。
【0008】
また、請求項4の発明では、請求項1ないし3のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記基準バッテリは実質的に新品のバッテリである。
【0009】
また、請求項5の発明では、請求項1ないし4のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記判定手段は、検出した前記開放電圧値と導出した前記基準開放電圧値との差の値を検出した前記放電時電圧値に基づいて修正し、その修正値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定する。
【0010】
また、請求項6の発明では、請求項1ないし5のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記判定手段は、検出した前記放電時電圧値が所定の基準レベル以下になっている場合にのみ前記バッテリの劣化度について判定を行う。
【0011】
また、請求項7の発明では、請求項1ないし6のいずれかの発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記バッテリ状態管理装置は、前記バッテリの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、前記判定手段は、前記電圧検出手段を介して検出した前記開放電圧値及び前記放電時電圧値のうちの少なくとも開放電圧値を、前記温度検出手段が検出した前記バッテリの温度に基づいて所定の基準温度の値に補正し、その補正した値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、実質的に放電が行われていない状態の基準バッテリの出力電圧である基準開放電圧値と、所定放電を行わせた際の基準バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す関係情報を記憶手段に予め記憶させておき、実質的に放電が行われていない状態におけるバッテリの出力電圧である開放電圧値を電圧検出手段を介して検出するとともに、所定放電が行われた際のバッテリの出力電圧である放電時電圧値を電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値に対応する基準バッテリの基準開放電圧値を関係情報に基づいて導出し、検出した開放電圧値と、導出した基準開放電圧値との差に基づいて、バッテリの劣化度を判定する構成であり、すなわち、従来のように所定放電時のバッテリの出力電圧の降下量を直接的に用いて劣化判定を行う構成でないため、劣化状況によらずに正確な劣化判定を行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、放電時電圧値として所定放電が行われた際における基準バッテリ又はバッテリの出力電圧の最低値が用いられるため、バッテリの特性を有効に表す放電時電圧値を容易かつ確実に取得することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、劣化判定に用いられる所定放電が、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電であるため、バッテリの劣化判定のための特別な放電をバッテリに行わせる必要がないとともに、走行開始前にバッテリの劣化を検知することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、基準バッテリとして実質的に新品のバッテリが用いられるため、基準バッテリの特性を安定させることができ、これによってバッテリの劣化判定を精度良く行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、検出した開放電圧値と導出した基準開放電圧値との差の値は、放電時電圧値の値に応じて大小に変化するため、その差の値を放電時電圧値に基づいて修正して判定に使用することにより、バッテリの劣化判定の精度を向上させることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、検出した開放電圧値と導出した基準開放電圧値との差の値を用いたバッテリの劣化判定は、放電時電圧値が高くなるほど信頼性が低下する傾向にあるため、放電時電圧値が所定の基準レベル以下である場合にのみ劣化判定を行うことにより、劣化判定の信頼性を保持することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、検出した開放電圧値及び放電時電圧値の少なくとも開放電圧値を検出したバッテリの温度に基づいて所定の基準温度の値に補正し、その補正した値に基づいてバッテリの劣化度を判定する構成であるため、種々の温度環境下でも高精度でバッテリの劣化判定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。このバッテリ状態管理装置は、図1に示すように、電流センサ1、電圧センサ(電圧検出手段)3、処理部(判定手段)5、記憶部(記憶手段)7及び出力部9を備えて構成されており、車両に搭載されたバッテリ11の状態を管理する。
【0020】
電流センサ1は、バッテリ11から出力される電流を検出する。電圧センサ3は、バッテリ11の出力電圧を検出する。処理部5は、CPU等を備えて構成され、バッテリ11の管理のために各種の情報処理動作(制御動作も含む)を行う。記憶部7は、メモリ等により構成され、処理部5が行う各種の情報処理動作に必要な情報等が記憶されている。出力部9は、バッテリ11の状態の判定結果等を出力するためのものである。
【0021】
<全体の所定動作>
まず、このバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作について、図2を参照して説明する。処理部5は、ステップS1でイグニッションスイッチ(以下、「IGスイッチ」という)13がオンされるのに伴って、ステップS2で初期充電残量の検出動作を行う。この検出動作では、バッテリ11の開放電圧(実質的に放電が行われていない出力電圧)が電圧センサ3を介して測定され、その開放電圧の測定値に基づいてバッテリ11のエンジン始動前の充電残量(初期充電残量)が検出される。なお、ここで測定されたバッテリ11の開放電圧は後述のステップS4のエンジン始動時劣化判定に用いられる。
【0022】
処理部5は、続くステップS3でスタータ15が駆動されて図示しないエンジンが始動されるのに伴って、ステップS4でエンジン始動時劣化判定動作を行う。この始動時劣化判定動作はエンジン始動時にバッテリ11の劣化度を判定するものであり、その具体的な内容については後述する。
【0023】
また、処理部5は、続くステップS5でエンジン始動後劣化判定動作を行う。この始動後劣化判定動作では、エンジン始動後の充電により満充電(又はそれに近い状態)になったバッテリ11への電流流入状況を電流センサ1を介して検出し、その電流流入状況に基づいてバッテリ11の劣化度が判定される。
【0024】
また、処理部5は、続くステップS6でバッテリ11に対する充電制御(バッテリ11の充電残量管理)を行う。この充電制御では、電流センサ1の測定電流値を積算することにより、エンジン始動時等の所定の基準時からバッテリ11から放電された全電流量が逐次検出され、その検出結果に基づいてバッテリ11に対して行うべき充電量を決定するようになっている。これによって、走行中におけるバッテリ11の充電残量が所定範囲内に維持されるようになっている。充電量の制御は、例えば、図示しないオルタネータの発電量(出力電圧等)を制御することにより行われる。
【0025】
このステップS5,S6のエンジン始動後劣化判定動作及び充電制御は、エンジンが停止されるまで繰り返し継続される。
【0026】
<エンジン始動時劣化判定動作>
本実施形態では、まず所定の基準バッテリ(ここでは、新品のバッテリ11)に対して試験を行い、その試験結果を用いて実際に車両に搭載されたバッテリ11の劣化判定を行うようになっている。
【0027】
その試験では、新品を含む種々の劣化状況のバッテリ11に対して、その充電残量を種々に変化さ、その充電残量の異なる各状態において、バッテリ11に対してエンジン始動時放電(所定放電)を行わせて、バッテリ11の放電前及び放電中の出力電圧を計測した。そして、劣化状況の異なる各バッテリ11の異なる各充電残量状態における各エンジン始動時放電を行う前の開放電圧値と、エンジン始動時放電が行われた際の下限電圧値(放電時電圧値)との関係を調べた。ここで、エンジン始動時放電とは、スタータ15が駆動されてエンジンが始動される際に行われる放電(あるいはそれと同等な放電)である。また、下限電圧値とは、エンジン始動時放電に伴ってバッテリ11の出力電圧が低下した際のその最低値のことをである。なお、エンジン始動時放電の際に検出するバッテリ11の出力電圧値(放電時電圧値)としては、上記の出力電圧の最低値の他に、エンジン始動時放電が行われている期間中における放電開始から所定時間経過後の出力電圧値を検出して判定に用いるようにしてもよい。
【0028】
図3はその試験結果をグラフ化したものであり、その横軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電開始前のバッテリ11の開放電圧値に対応し、縦軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電中のバッテリ11の下限電圧値に対応している。また、図3中の曲線G1は新品のバッテリ11についての測定結果に基づいて描いたものであり、曲線G2〜G5は使用されてある程度劣化したバッテリ11についての測定結果に基づいて描いたものである。曲線G1〜G5は互いに劣化状況が異なったバッテリ11に対する試験の結果得られたものである。このうち、曲線G2〜G4は通常の使用状態に近い態様で充放電が繰り替えされたバッテリ11に対応し、各曲線G2,G3,G4の順にバッテリ11の使用期間が長くなり劣化が進んでいる。また、曲線G5は頻繁に過充電状態とされたバッテリ11に対応している。曲線G4,G5は劣化状況(劣化の要因)が異なるが、劣化の程度(劣化度)はほぼ同等である。
【0029】
具体的には、新品のバッテリ11が対応する曲線G1に着目した場合、開放電圧体値が約12.9V(ほぼ満充電状態)のときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約9.7Vであり、開放電圧値が約12.1Vのときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約8.1Vであることを示している。また、劣化が進んだバッテリ11が対応する曲線G4に着目した場合、開放電圧値が約12.5Vのときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約8.1Vであることを示している。
【0030】
図3のグラフより、バッテリ11の劣化が進むにつれて対応する曲線G1〜G5がグラフの概ね右方向(又は右下方向)にシフトしていることが分かった。特に、下限電圧値が所定の基準レベル(例えば、9V)以下の領域では、曲線G1を基準とした曲線G2〜G5の右方向へのシフト量が対応するバッテリ11の劣化の進み応じて増加する傾向にあることが分かった。
【0031】
そこで、本願発明者は、エンジン始動時放電を行った際のバッテリ11の開放電圧及び下限電圧により定まる図3のグラフ上の点P1(VO,VL)が、新品のバッテリ11が対応する曲線G1上の対応する点P2(VN,VL)を基準として、横軸右方向にシフトしているシフト量Dを用いてバッテリ11の劣化度を判定することに思い到った。
【0032】
この判定を行うためには、まず基準となる新品のバッテリ11に対する曲線G1に関する情報(すなわち、開放電圧値(基準開放電圧値)VNと下限電圧値VLとの関係を表す関係情報)を記憶部7に予め記憶させておく必要がある。その具体的手段としては、曲線Gを下限電圧値VLを変数した関数として近似的に表現した関係式を記憶部7に記憶させておき、その関係式に測定値である下限電圧値VLを代入して対応する基準開放電圧値VNを導出する構成と、所定の数値間隔で設けられた複数の下限電圧値VLとそれに対応する複数の基準開放電圧値VNとを関連付けてテーブル情報として記憶部7に記憶させておき、測定した下限電圧値VLに対応する基準開放電圧値VNをそのテーブル情報を利用して導出する構成とが考えられる。本実施形態では、例えば前者の構成が採用される。なお、基準バッテリとして必ずしも新品のバッテリ11を用いる必要はなく、新品と同等の能力を有するバッテリ11を基準バッテリとして用いてもよい。
【0033】
本実施形態の具体的構成では、処理部5が、IGスイッチ13がオンされた際(エンジンの始動が行われる直前)のバッテリ11の開放電圧値VOを電圧センサ3を介して測定するとともに、エンジン始動時放電が行われているときのバッテリ11の下限電圧値VLを電圧センサ3を介して測定し、その測定値VO,VLを劣化判定のための次式(1)(評価式)に代入して評価値Qを算出し、その評価値Qを用いてバッテリ11の劣化度を判定するようになっている。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、式(1)中のVNは測定値である下限抵抗値VLの関数として与えられた新品のバッテリ11の開放電圧値VNである。この式(1),(2)に関する情報も記憶部7に予め記憶されており、これを用いて処理部5による劣化判定処理が行われる。
【0036】
式(1)において、VOとVNとの差分値(D)をR(VL)で割り算しているのは、劣化度が同一の場合であっても、下限電圧値VLが高くなるにつれて差分値(D)が小さくなってゆくため、差分値(D)を関数値R(VL)で割り算して修正することにより、下限電圧値VLの値によらずに実質的に劣化度のみよって変化する評価値Qを導出できるようにしたものである。なお、ここでは、劣化度が同一とした場合における下限電圧値VLが変化した場合の差分値(D)の変化態様をVLの2次関数で近似することとし、関数値R(VL)の設定を行っている(上式(2)参照)。より具体的には、例えば、式(2)中の係数C1,C2,C3は、C1=0.088,C2=−1.36,C3=4.94に設定される。
【0037】
なお、本実施形態では、差分値Dを関数値R(VL)で割り算した値で値eを累乗したものを評価値Qとして使用するようにしたが、差分値Dを関数値R(VL)で割り算した値をそのまま劣化判定に用いたり、他の評価関数に代入するようにしてもよい。例えば、上式(1)を1次又は2次までべき級数展開したものを評価関数として用いるようにしてもよい。
【0038】
評価値Qの具体例としては、例えば、図3の曲線G1が対応する新品のバッテリ11の場合はQ=1.0となり、曲線G2が対応するバッテリ11の場合はQ=0.6となり、曲線G3が対応するバッテリ11の場合はQ=0.4となり、曲線G4,G5が対応するバッテリ11の場合はQ=0.3となる。そして、例えば評価値Qが所定値以下になった場合に、バッテリ11が劣化していると判定される。
【0039】
図4は、処理部5による劣化判定処理に関するフローチャートである。前述の図2のステップS3でスタータが駆動されるの伴って、処理部5は、ステップS4にて図4に示す手順で始動時劣化判定処理を行うようになっている。
【0040】
すなわち、処理部5は、エンジン始動時放電が行われているときのバッテリ11の下限電圧値VLを電圧センサ3を介して測定し(ステップS11)、その測定した下限電圧値VLが所定の基準レベル(例えば、9V)以下であるか否かを判断し(ステップS12)、基準レベル以下である場合にはステップS13に進んで劣化判定処理を行う一方、基準レベルを上回っている場合には劣化判定処理を行うことなく次の処理(図2のステップS5)を行う。
【0041】
ステップS13の劣化判定処理では、前述の図2のステップS2で測定した開放電圧値VOと、ステップS11で測定した下限電圧値VLとが上式(1)に代入されて評価値Qが算出され、その評価値Qに基づいてバッテリ11の劣化度の判定が行われる。
【0042】
そして、その判定結果は、例えば図5に示す出力態様で、出力部9を介して出力される。例えば、出力部9に設けられた表示部21において、バッテリ11に劣化の問題がない場合には表示領域21aが点灯され、バッテリ11が劣化している場合には表示領域21bが点灯される。また、この表示部21には、バッテリ11の充電残量を表示するための表示領域21cも設けられている。
【0043】
以上のように、基準となる基準バッテリ(新品のバッテリ11)の基準開放電圧値VNと、エンジン始動時放電を行わせた際の下限電圧値VLとの関係を示す関係情報(関係式)を記憶部5に予め記憶させておく一方、車両に搭載されたバッテリ11のエンジン始動時放電が行われた際の開放電圧値VOと下限電圧値VLを測定し、その下限電圧値VLに対応する基準バッテリの基準開放電圧値VNを関係情報に基づいて導出し、開放電圧値VOと、導出した基準開放電圧値VNとの差(D)に基づいて、バッテリ11の劣化度を判定する構成であり、すなわち、従来のようにエンジン始動時放電によるバッテリ11の出力電圧の降下量を直接的に用いて劣化判定を行う構成でないため、劣化状況によらずに正確な劣化判定を行うことができる。
【0044】
また、エンジン始動時放電が行われた際におけるバッテリ11の下限電圧値VLを用いて劣化判定を行うため、バッテリ11の特性を有効に表す放電時電圧値を容易かつ確実に取得することができる。
【0045】
また、エンジン始動時放電を利用してエンジン始動時劣化判定が行われるため、バッテリの劣化判定のための特別な放電をバッテリ11に行わせる必要がないとともに、走行開始前にバッテリ11の劣化を検知することができる。
【0046】
また、基準バッテリとして新品のバッテリ11が用いられるため、基準バッテリの特性を安定させることができ、これによってバッテリ11の劣化判定を精度良く行うことができる。
【0047】
また、開放電圧値VOと基準開放電圧値VNとの差分値(D)をR(VL)で割り算した値を用いて劣化判定を行うため、下限電圧値VLの値によらずに実質的に劣化度のみよって変化する評価値Qを導出でき、その結果、バッテリ11の劣化判定の精度を向上させることができる。
【0048】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。本実施形態に係るバッテリ状態管理装置が第1実施形態に係るバッテリ状態管理装置と実質的に異なる点は、バッテリ11の温度を検出する温度センサ(温度検出手段)23を設け、バッテリ11の温度を加味してバッテリ11の劣化判定を行うようにした点のみであり、対応する部分には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0049】
本実施形態では、所定の基準温度Tc(例えば、25℃)に設定された環境下で、前述の図3に対応する試験を行い、基準温度Tc下における基準バッテリの基準開放電圧VNcと下限電圧値VLcとの関係式(又は対応関係を示すテーブル情報)を作成して記憶部7に記憶させておく。そして、その関係式等を用いてバッテリ11の劣化判定を行うようになっている。
【0050】
このため、本実施形態では、処理部5に、実際の温度環境下で実測されたバッテリ11の開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtを温度センサ23を介して検出した温度T1に基づいて補正させることにより、基準温度Tcにおける補正開放電圧値VOc及び補正下限電圧値VLcを導出(換算)させ、その導出させた補正値(VOc,VLc)を用いて劣化判定を行わせるようになっている。温度補正の具体的内容については後述する。
【0051】
具体的には、処理部5は、予め記憶部7に記憶されている基準温度Tc下における基準バッテリの基準開放電圧VNcと下限電圧値VLcとの関係式(又は対応関係を示すテーブル情報)に基づいて、温度補正により導出した補正下限電圧値VLcに対応する基準開放電圧値VNcを導出し、その導出した基準開放電圧値VNc、温度補正により導出した補正開放電圧値VOc及び補正下限電圧値VLcを上式(1)に代入して評価値Qを算出し、劣化判定を行うようになっている。なお、劣化判定を行うか否かの判断は、例えば実測値である下限電圧値VLtが前記基準電圧レベル以下になっているか否か基づいて行われる。
【0052】
次に、実測値である開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtに対する温度補正の具体的な内容について説明する。
【0053】
温度補正のための具体的構成としては、テーブル情報を用いて温度補正を行う構成と、関係式を用いて温度補正を行う構成とが考えられる。テーブル情報を用いる構成の場合は、例えば、実測された温度T1とその温度T1下での開放電圧値VOtと、基準温度Tcにおける補正開放電圧値VOcとの関係を示すテーブル情報、及び、実測された温度T1とその温度T1下での下限電圧値VLtと、基準温度Tcにおける補正下限電圧値VLcとの関係を示すテーブル情報を記憶部7に予め登録しておき、それらのテーブル情報を用いて実測値(VOt,VLt)から補正値(VOc,VLc)を導出する。但し、温度Tが約10℃以上では、下限電圧値VLの温度依存性は無視し得る程度であるため(詳細は後述)、測定温度が約10℃以上の場合は下限電圧値VLtは補正せずにそのまま劣化判定に用いられる。なお、前記テーブル情報の取得は、各種関係式等を用いて理論的に取得してもよいし、試験によって取得してもよい。
【0054】
続いて、関係式を用いて温度補正を行う構成について説明する。まず、開放電圧値VOtに対する温度補正について説明する。鉛蓄電池であるバッテリ11の起電力(出力電圧)Eは、ネルンストの関係式により次のように表される。
【0055】
E=E0+(RT/nF)×ln(aav12/aav22) (3)
上式(3)におけるE以外の変数は、
aav1:硫酸の平均活量、
aav2:水の平均活量、
n:反応に関与する電子数(ここではn=2)、
F:ファラデー定数(9.648×104Cmol-1)、
R:気体定数(8.314Jmol-1K-1)、
E0:バッテリの標準起電力(単セル2.0485Vで6セルで12.291V)、
T:バッテリの溶液温度、
である。
【0056】
水の平均活量aav2を1で近似すると、上式(3)より近似的に、
E=E0+(RT/F)×ln(aav1) (4)
の関係が得られる。これをaav1(以下、単に「aav」と記載する)について解くと、
aav=exp((F/RT)×(E-E0)) (5)
が得られる。
【0057】
このため、上式(5)の関係式に、電圧センサ3及び温度センサ23による測定値(VOt(VOt=E),T1)、及び記憶部7に予め登録された既知の値F,R,E0を代入することより、バッテリ11の硫酸の平均活量を推定した平均活量値aavを導出できる。
【0058】
図7ないし図9は、65℃、25℃及び−30℃時におけるバッテリ11の硫酸の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。本実施形態では、まず、図7ないし図9に例示するグラフのように、バッテリ11の異なる複数の温度について、バッテリ11の硫酸の活量を硫酸の質量モル濃度を変化させて実測し、各温度におけるバッテリ11の硫酸の活量と硫酸の質量モル濃度との関係を調べた。図7ないし図9のグラフにおける各黒点は実測値を示している。
【0059】
この測定の結果、本願発明者は、バッテリ11の温度にかかわらず、バッテリ11の硫酸の活量の対数値と質量モル濃度との間に比例関係があることに気づいた。例えば、硫酸の質量モル濃度を横軸、硫酸の活量の対数値を縦軸にとった図7ないし図9のグラフにおいて、各実測値は近似的に直線グラフG11〜G13上に沿って分布している。
【0060】
よって、上式(5)により導出した硫酸の平均活量値aavに基づき、次の関係式により硫酸の質量モル濃度を推定した推定濃度値mを導出することができる。
【0061】
m=(ln(aav/A))/B (6)
上式(6)において、変数A,Bは、平均活量値aavと推定濃度値mとの関係式を規定するための係数であり、上式(6)における平均活量値aavと推定濃度値mの関係が実測値に近接するような値に予め設定されている。また、この係数A,Bは、バッテリ11の異なる温度ごとに設定される。図10には、−30℃、25℃、65℃における係数A,Bの値が例示的に示されている。また、図11及び図12は、バッテリ11の温度と係数A,Bの値の関係を示している。なお、係数A,Bは、必要な温度範囲内において設定された複数温度について上述の図7ないし図9のグラフに示すような実測を行って、その実測結果に基づいてその複数温度における係数A,Bを決定し、必要な温度範囲内における他の温度における係数A,Bの値は、その実測により決定した係数A,Bの値から推定して決定するのが効率的で好ましい。
【0062】
また、濃度値mとバッテリ11の溶液の比重との関係は、周知の事項であり、その対応関係を関係式で表すことも可能である。
【0063】
また、比重Sと温度変化との関係を示す関係式は、
Sc=St+0.0007(T−Tc) (7)
で与えられることが知られている。ここで、Stは実際の温度T下での比重値、Scは基準温度Tcのときの比重値を示している。
【0064】
よって、これらの関係を用いることにより、実際の温度T1における実測値である開放電圧値VOtを補正して基準温度Tcにおける補正開放電圧値VOcを導出することができる。具体的には、実際の温度T1とその温度下での実測値である開放電圧値VOtとを上式(5)に代入して平均活量値aavを導出し、その平均活量値aavと、温度T1のときの係数A,Bの値とを上式(6)に代入して推定濃度値mtを導出する。その推定濃度値mtを、上記の濃度値mと比重との関係式を用いて比重に換算して温度T1における比重値Stを導出する。その比重値Stと温度T1とを上式(7)に代入することにより、濃度値Stを基準温度Tcにおける補正濃度値Scに補正(換算)する。その補正濃度値Scを、上記の濃度値mと比重との関係式を用いて補正濃度値mcに換算し、その値mcを用いて上式(6)に基づいて基準温度Tcに対応する補正平均活量値aavcを導出する。このとき、式(6)の係数A,Bとしては基準温度Tcのときの値を用いる。そして、その導出した補正平均活量値aavを用いて上式(5)に基づいて基準温度Tcに対応する補正開放電圧値VOcを導出する。このとき、式(5)に代入する温度値は基準温度Tcを用いる。
【0065】
次に、下限電圧値VLtに対する温度補正について説明する。図13は温度とバッテリ11の内部抵抗との関係を試験により調べた結果を示すグラフであり、図14はバッテリ11に所定放電を行わせた際のバッテリ11の内部抵抗と放電時の電圧降下との関係を試験により調べた結果を示すグラフである。図13のグラフG21より、約10℃を上回った温度領域では温度変化に対して内部抵抗が殆ど変化しないのに対し、約10℃を下回った温度領域では温度の低下に対して傾きαで内部抵抗が増大することが分かる。また、図14のグラフG22より、バッテリ11の内部抵抗の増加に対して傾きβで放電時の電圧降下が増大することが分かる。
【0066】
そこで、このような試験結果に基づき、実測された温度T1が10℃以上の場合には、実測値である下限電圧値VLtに対する温度補正を行わず、その下限電圧値VLtをそのまま用いて劣化判定を行うこととする。
【0067】
一方、実測された温度T1が10℃未満である場合には、
VLc=VOc−(VOt−VLt−γ・dT1) (8)
の換算式を用いて実測値(VLt)についての温度補正を行い、それによって得られた基準温度Tcのときの補正下限電圧値VLcを用いて劣化判定を行うこととする。上式(8)において、VOcは上記の要領で実測値(VOt)を温度補正して得られた基準温度Tcのときの補正開放電圧値であり、γはγ=α・βで与えられる係数であり、dT1はdT1=T1−10(℃)で与えられるパラメータである。
【0068】
実際に処理部5に実測値である開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtの温度補正を行わせる際には、値(T1,VOt)をパラメータとした開放電圧値VOtの補正のための関係式、及び値(T1,VOt,VOc,VLt)をパラメータとした下限電圧値VLtの補正のための関係式(8)を記憶部7に予め記憶させておき、その関係式を用いて処理部5に温度補正処理を行わせるようにする必要がある。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、上述の第1実施形態とほぼ同様な効果が得られるとともに、実測値である開放電圧値VOt及び下限電圧値VLtを基準温度Tcの値に補正した値を用いて劣化判定を行う構成であるため、種々の温度環境下でも高精度でバッテリ11の劣化判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。
【図2】図1のバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作を示すフローチャートである。
【図3】劣化状況及び充電残量の異なるバッテリについて開放電圧とエンジン始動時の下限電圧とを試験により測定した測定結果を示すグラフである。
【図4】劣化判定処理に関するフローチャートである。
【図5】バッテリの判定結果の出力例を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。
【図7】65℃時の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。
【図8】25℃時の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。
【図9】−30℃時の活量と質量モル濃度との関係を示すグラフである。
【図10】各温度における係数A,Bの値を示す図である。
【図11】温度と係数Aとの関係を示すグラフである。
【図12】温度と係数Bとの関係を示すグラフである。
【図13】温度とバッテリの内部抵抗との関係を調べた試験結果を示すグラフである。
【図14】バッテリに所定放電を行わせた際のバッテリの内部抵抗と放電時の電圧降下との関係を調べた試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 電流センサ
3 電圧センサ
5 処理部
7 記憶部
9 出力部
11 バッテリ
13 IGスイッチ
15 スタータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
所定の基準バッテリの実質的に放電が行われていない状態における出力電圧である基準開放電圧値と、所定放電を行わせた際の前記基準バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す関係情報を記憶する記憶手段と、
実質的に放電が行われていない状態における前記バッテリの出力電圧である開放電圧値を前記電圧検出手段を介して検出するとともに、前記所定放電が行われた際の前記バッテリの出力電圧である放電時電圧値を前記電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値に対応する前記基準バッテリの前記基準開放電圧値を前記関係情報に基づいて導出し、検出した前記開放電圧値と、導出した前記基準開放電圧値との差に基づいて、前記バッテリの劣化度を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ状態管理装置において、
前記放電時電圧値は、前記所定放電が行われた際における前記基準バッテリ又は前記バッテリの出力電圧の最低値であることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバッテリ状態管理装置において、
前記所定放電は、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電であることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記基準バッテリは実質的に新品のバッテリであることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記判定手段は、
検出した前記開放電圧値と導出した前記基準開放電圧値との差の値を検出した前記放電時電圧値に基づいて修正し、その修正値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記判定手段は、
検出した前記放電時電圧値が所定の基準レベル以下になっている場合にのみ前記バッテリの劣化度について判定を行うことを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記バッテリ状態管理装置は、
前記バッテリの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記判定手段は、
前記電圧検出手段を介して検出した前記開放電圧値及び前記放電時電圧値のうちの少なくとも開放電圧値を、前記温度検出手段が検出した前記バッテリの温度に基づいて所定の基準温度の値に補正し、その補正した値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項1】
バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
所定の基準バッテリの実質的に放電が行われていない状態における出力電圧である基準開放電圧値と、所定放電を行わせた際の前記基準バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す関係情報を記憶する記憶手段と、
実質的に放電が行われていない状態における前記バッテリの出力電圧である開放電圧値を前記電圧検出手段を介して検出するとともに、前記所定放電が行われた際の前記バッテリの出力電圧である放電時電圧値を前記電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値に対応する前記基準バッテリの前記基準開放電圧値を前記関係情報に基づいて導出し、検出した前記開放電圧値と、導出した前記基準開放電圧値との差に基づいて、前記バッテリの劣化度を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ状態管理装置において、
前記放電時電圧値は、前記所定放電が行われた際における前記基準バッテリ又は前記バッテリの出力電圧の最低値であることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバッテリ状態管理装置において、
前記所定放電は、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電であることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記基準バッテリは実質的に新品のバッテリであることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記判定手段は、
検出した前記開放電圧値と導出した前記基準開放電圧値との差の値を検出した前記放電時電圧値に基づいて修正し、その修正値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記判定手段は、
検出した前記放電時電圧値が所定の基準レベル以下になっている場合にのみ前記バッテリの劣化度について判定を行うことを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置において、
前記バッテリ状態管理装置は、
前記バッテリの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記判定手段は、
前記電圧検出手段を介して検出した前記開放電圧値及び前記放電時電圧値のうちの少なくとも開放電圧値を、前記温度検出手段が検出した前記バッテリの温度に基づいて所定の基準温度の値に補正し、その補正した値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−15914(P2006−15914A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196918(P2004−196918)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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