説明

バッテリ状態管理装置

【課題】エンジン始動前のバッテリ充電状態によらずに正確な劣化判定が可能なバッテリ状態管理装置を提供する。
【解決手段】このバッテリ状態管理装置では、充電によりバッテリ11が実質的に満充電となり充電電流値が実質的に安定した際に、電流センサ1を介して検出されるその安定した充電電流値が、所定の基準電流値レベル以下になっているか否かに基づいてバッテリ11の劣化度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバッテリ状態管理装置におけるバッテリの劣化判定では、エンジン始動時のバッテリの出力電圧の降下量とそのときに流れる電流値とからバッテリの内部抵抗を測定し、その測定した内部抵抗値に基づいてバッテリの劣化度が判定されるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、バッテリの劣化状況には格子腐食とサルフェーションが重なった場合など種々のタイプがあり、充電状態によっては実際の内部抵抗と劣化度合いとの相関関係が悪くなる場合がある。この場合、所定放電時に検出した出力電圧の降下量を直接的に用いて劣化判定を行う上記の従来技術では正確な劣化判定が困難となる。
【0004】
そこで、本発明の解決すべき課題は、エンジン始動前のバッテリ充電状態によらずに正確な劣化判定が可能なバッテリ状態管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明では、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、前記バッテリに入力される充電電流値を検出する電流検出手段と、前記バッテリに対する充電が行われている際に、前記バッテリに入力される充電電流値を前記電流検出手段を介して検出し、その充電電流値が所定の基準電流値レベル以下に達するか否かに基づいて前記バッテリの劣化度を判定する判定手段とを備える。
【0006】
また、請求項2の発明では、バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、前記バッテリに入力される充電電流値を検出する電流検出手段と、前記バッテリに対する充電が行われて前記充電電流値が実質的に安定した際に、前記電流検出手段を介して検出されるその安定した充電電流値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定する判定手段とを備える。
【0007】
また、請求項3の発明では、請求項2の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記判定手段は、安定した前記充電電流値が所定の基準電流値レベル以下であるか否かに基づいて前記バッテリの劣化度を判定する。
【0008】
また、請求項4の発明では、請求項1又は3の発明に係るバッテリ状態管理装置において、前記バッテリの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、前記判定手段は、前記温度検出手段を介して検出した前記バッテリの温度に応じて前記基準電流値レベルを変更して前記劣化度の判定を行う。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、バッテリに対する充電が行われている際に、バッテリに入力される充電電流値を電流検出手段を介して検出し、その充電電流値が所定の基準電流値レベル以下に達するか否かに基づいてバッテリの劣化度を判定する構成であり、すなわち、従来のように所定放電時に検出した出力電圧の降下量を用いて劣化判定を行う構成でないため、エンジン始動前のバッテリ充電状態によらずに正確な劣化判定を行うことができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、バッテリに対する充電が行われて充電電流値が実質的に安定した際に、電流検出手段を介して検出されるその安定した充電電流値に基づいてバッテリの劣化度を判定する構成であり、すなわち、従来のように所定放電時に検出した出力電圧の降下量を用いて劣化判定を行う構成でないため、エンジン始動前のバッテリ充電状態によらずに正確な劣化判定を行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、充電の進行に伴ってバッテリの充電電流値が安定した際のその充電電流値が所定の基準電流値レベル以下であるか否かに基づいてバッテリの劣化度を判定する構成であるため、容易に劣化判定を行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、バッテリの温度に応じて基準電流値レベルを変更して劣化判定を行う構成のため、種々の温度環境下でも高精度でバッテリの劣化判定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。このバッテリ状態管理装置は、図1に示すように、電流センサ(電流検出手段)1、電圧センサ3、処理部5、記憶部7及び出力部9を備えて構成されており、車両に搭載されたバッテリ11の状態を管理する。このうち、処理部5及び記憶部7が本発明に係る判定手段に相当している。
【0014】
電流センサ1は、バッテリ11の入出力電流値(放電電流値、充電電流値)を検出する。電圧センサ3は、バッテリ11の出力電圧を検出する。処理部5は、CPU等を備えて構成され、バッテリ11の管理のために各種の情報処理動作(制御動作も含む)を行う。記憶部7は、メモリ等により構成され、処理部5が行う各種の情報処理動作に必要な情報等が記憶されている。出力部9は、バッテリ11の状態の判定結果等を出力するためのものである。
【0015】
<全体の所定動作>
まず、このバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作について、図2を参照して説明する。処理部5は、ステップS1でイグニッションスイッチ(以下、「IGスイッチ」という)13がオンされるのに伴って、ステップS2で初期充電残量の検出動作を行う。この検出動作では、バッテリ11の開放電圧(実質的に放電が行われていない出力電圧)が電圧センサ3を介して測定され、その開放電圧の測定値に基づいてバッテリ11のエンジン始動前の充電残量(初期充電残量)が検出される。なお、ここで測定されたバッテリ11の開放電圧は後述のステップS4のエンジン始動時劣化判定に用いられる。
【0016】
処理部5は、続くステップS3でスタータ15が駆動されて図示しないエンジンが始動されるのに伴って、ステップS4でエンジン始動時劣化判定動作を行う。この始動時劣化判定動作はエンジン始動時にバッテリ11の劣化度を判定するものであり、例えば、エンジンの始動に伴う放電(特に、スタータ駆動のための放電)が行われる際のその放電前後におけるバッテリ11の出力電圧が検出され、その検出結果に基づいてバッテリ11の劣化判定が行われる。
【0017】
また、処理部5は、続くステップS5でエンジン始動後劣化判定動作を行う。この始動後劣化判定動作の詳細な内容は後述する。
【0018】
また、処理部5は、続くステップS6でバッテリ11に対する充電制御(バッテリ11の充電残量管理)を行う。この充電制御では、電流センサ1の測定電流値を積算することにより、エンジン始動時等の所定の基準時からバッテリ11から放電された全電流量が逐次検出され、その検出結果に基づいてバッテリ11に対して行うべき充電量を決定するようになっている。これによって、走行中におけるバッテリ11の充電残量が所定範囲内に維持されるようになっている。充電量の制御は、例えば、図示しないオルタネータの発電量(出力電圧等)を制御することにより行われる。
【0019】
このステップS5,S6のエンジン始動後劣化判定動作及び充電制御は、エンジンが停止されるまで繰り返し継続される。
【0020】
<エンジン始動後劣化判定動作>
本実施形態では、まず劣化状況の異なる種々のバッテリ11に対して試験を行い、その試験結果を用いて実際に車両に搭載されたバッテリ11の劣化判定を行うようになっている。
【0021】
その試験では、種々の劣化状況のバッテリ11に対して充電を行い、充電によるバッテリ11の充電残量の増加に伴ってバッテリ11の充電電流値が減少してゆく際のその充電電流値の挙動を調べた。図3は、充電開始時からの経過時間(充電時間)とバッテリ11の充電電流値との関係を示すグラフである。図3中の曲線G1,G2は、劣化度が異なったバッテリ11に対する試験結果を示している。
【0022】
その結果、その充電の進行に伴って充電電流値が減少する際の挙動と、バッテリ11の劣化度との間に相関があることが分かった。具体的には、例えば、バッテリ11の充電電流値は、バッテリ11の充電の進行に伴って減少してゆき、実質的に満充電となった際にほぼ一定の値に安定するのであるが、その安定時の充電電流値が、バッテリ11の劣化の進行に伴って大きくなることが分かった。
【0023】
そこで、本実施形態では、処理部5が、エンジン始動に伴ってバッテリ11の充電が開始され、バッテリ11の充電が進み、充電電流値が一定の値に安定した際の電流値(安定充電電流値)が所定の基準電流値レベル(例えば、0.5A)以下になっているか否かを判定することにより、バッテリ11の劣化度を判定する。すなわち、安定充電電流値が前記基準電流値レベル以下になったときは、バッテリ11が正常と判定され、安定充電電流値が前記基準電流値レベルを上回っているときは、バッテリ11が劣化していると判定される。前記安定充電電流値は、電流センサ1によって検出されたものが用いられる、判定基準となる前記基準電流値レベルは、記憶部7に予め記憶されているものが用いられる。
【0024】
この安定充電電流値を用いた劣化判定は、例えば、充電電流値が安定するのに伴って行われるのであるが、その判定タイミングの設定形態としては種々の形態が考えられる。第1の例としては、処理部5に電流センサ1を介してバッテリ11の充電電流値を監視させ、充電電流値が実質的に一定の値に安定したこと(例えば、充電電流値の所定時間当たりの減少量が所定の基準レベル以下になったこと)を処理部5が検出した場合に、そのときの充電電流値を用いて劣化判定を行う形態が考えられる。また、第2の例として、エンジン始動に伴うバッテリ11の充電開始時から予め設定された時間(充電によりバッテリ11が実質的に満充電となるのに要する時間に応じて設定された時間)が経過した時点で、その時点における充電電流値を用いて劣化判定を行う形態などが考えられる。なお、本実施形態では、例えば前記第1の例による形態が採用されている。
【0025】
図4は、処理部5によるエンジン始動後劣化判定処理に関するフローチャートである。処理部5は、前述の図2のステップS4でエンジン始動時劣化判定処理を行った後、そのステップS5にて図4に示す手順でエンジン始動後劣化判定処理を行うようになっている。
【0026】
すなわち、処理部5は、ステップS11で、電流センサ1を介してバッテリ11の充電電流値を監視し、充電電流値が実質的に一定の値に安定したか否か(例えば、充電電流値の所定時間当たりの減少量が所定の基準レベル以下になったか否か)を判定し、充電電流値が安定した場合にはステップS12に進む一方、充電電流値が安定していない場合には安定するまでステップS11の処理を繰り返す。
【0027】
そして、処理部5は、ステップS12で、その時点におけるバッテリ11の充電電流値(安定充電電流値)が前記所定の基準電流値レベル以下になっているか否かを判定することにより、劣化判定を行う。そして、ステップS13で、その判定結果が例えば図5に示す出力態様で出力部9を介して出力される。例えば、出力部9に設けられた表示部21において、バッテリ11に劣化の問題がない場合には表示領域21aが点灯され、バッテリ11が劣化している場合には表示領域21bが点灯される。また、この表示部21には、バッテリ11の充電残量を表示するための表示領域21cも設けられている。
【0028】
<効果>
以上のように、本実施形態によれば、バッテリ11に対する充電が行われて充電電流値が実質的に安定した際に、電流センサ1を介して検出されるその安定した充電電流値(安定充電電流値)に基づいてバッテリ11の劣化度を判定する構成であり、すなわち、従来のように所定放電時に検出した出力電圧の降下量を用いて劣化判定を行う構成でないため、エンジン始動前のバッテリ充電状態によらずに正確な劣化判定を行うことができる。例えば、バッテリ溶液の減液による劣化も確実に検出できる。
【0029】
また、検出した安定充電電流値が前記基準電流値レベル以下であるか否かに基づいてバッテリ11の劣化度を判定する構成であるため、容易に劣化判定を行うことができる。
【0030】
<変形例>
上述の実施形態の変形例として、次のような構成が考えられる。すなわち、バッテリ11の温度を検出する温度センサ(温度検出手段)を設けるとともに、劣化判定基準である複数の基準電流値レベルを異なる温度値に対応付けて記憶部7に予め記憶させておく。そして、処理部5に、劣化判定の際に、記憶部7に記憶された複数の基準電流値レベルのうちの温度センサが検出したバッテリ11の温度に対応する基準電流値レベルを用いて、劣化判定を行わせる。この場合、安定充電電流値がバッテリ11の温度値に対応して選択された基準電流値レベル以下になっているか否かにより劣化判定が行われる。その結果、種々の温度環境下でも高精度でバッテリ11の劣化判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係るバッテリ状態管理装置のブロック図である。
【図2】図1のバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作を示すフローチャートである。
【図3】充電開始時からの経過時間(充電時間)とバッテリ11の充電電流値との関係を示すグラフである。
【図4】エンジン始動後劣化判定処理に関するフローチャートである。
【図5】バッテリの判定結果の出力例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 電流センサ
3 電圧センサ
5 処理部
7 記憶部
9 出力部
11 バッテリ
13 IGスイッチ
15 スタータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
前記バッテリに入力される充電電流値を検出する電流検出手段と、
前記バッテリに対する充電が行われている際に、前記バッテリに入力される充電電流値を前記電流検出手段を介して検出し、その充電電流値が所定の基準電流値レベル以下に達するか否かに基づいて前記バッテリの劣化度を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項2】
バッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
前記バッテリに入力される充電電流値を検出する電流検出手段と、
前記バッテリに対する充電が行われて前記充電電流値が実質的に安定した際に、前記電流検出手段を介して検出されるその安定した充電電流値に基づいて前記バッテリの劣化度を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のバッテリ状態管理装置において、
前記判定手段は、
安定した前記充電電流値が所定の基準電流値レベル以下であるか否かに基づいて前記バッテリの劣化度を判定することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項4】
請求項1又は3に記載のバッテリ状態管理装置において、
前記バッテリの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記判定手段は、
前記温度検出手段を介して検出した前記バッテリの温度に応じて前記基準電流値レベルを変更して前記劣化度の判定を行うことを特徴とするバッテリ状態管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−40689(P2006−40689A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218405(P2004−218405)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】