説明

バッテリ配設構造

【課題】 バッテリが原因で前方衝突時のクラッシュストロークが減少するのを抑える。
【解決手段】 エンジンルーム2の前端を規定するシュラウドパネル17には、その上角隅部に前側破壊部材28が取付けられており、前側破壊部材28は、後方に向けて尖った形状を有する板状部材で構成されている。前側破壊部材28の後方にはバッテリ23が配設されている。前方衝突によるシュラウドパネル17の後方変位に伴って前側破壊部材28が後方移動することによりバッテリ23の前面が破壊され、これによりシュラウドパネル17の更なる後方への変位が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンルーム内に配設されるバッテリの配設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の自動車は、その前端部に位置するエンジンルームが前方衝突の際の衝撃吸収ゾーンとなるように設計される。エンジンルームには、エンジンや各種の補機類などのような剛体の搭載されることから、前方衝突の際に、これら剛体が相互に干渉してクラッシュストロークが減少するのを回避することが重要である。特に、エンジンの前後方向長さが比較的小さいショートノーズの車両の衝撃吸収性能を確保するのにクラッシュストロークの減少を回避することが重要課題となる。
【0003】
バッテリは一般的にエンジンルームに配設される。エンジンルームの設計では、バッテリを剛体とみなしており、その認識に立脚してバッテリの配設構造が設計されている。この基本的な考えに基づく例として特許文献1を挙げることができる。
【0004】
特許文献1は、エンジンルームに配設されたバッテリ及びその後方に配置された例えばリレーボックスに関する発明を開示している。すなわち、特許文献1は、リレーボックスを車体から上方に分離可能に取付けると共に、その前方に位置するバッテリと対向する面にガイド面を形成することを提案している。この提案によれば、前方衝突に伴ってバッテリが後方移動すると、このバッテリの後方移動の荷重をガイド面が受けてリレーボックスを上方に変位させ、これによりリレーボックスを車体から分離させることでバッテリの後方移動を確保することできる。
【特許文献1】特開2002−362254
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バッテリの構造を検討してみると、バッテリケースは樹脂で作られ、このバッテリケースの内部に数多くの正、負の電極板が交互に横並びに配設されている。
【0006】
本発明の発明者は、バッテリケースが樹脂製であり、この樹脂は破壊可能である点に着目して本発明を案出するに至ったものである。
【0007】
本発明の目的は、バッテリが原因で前方衝突時のクラッシュストロークが減少するのを抑えることのできるバッテリ配設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題は、本発明によれば、
自動車のエンジンルームに、樹脂製のケース本体を備えたバッテリを搭載したバッテリ配設構造であって、
車幅方向に延び且つ前記エンジンルームの前端を規定するシュラウドパネルの上端部に、その後方に配設された前記バッテリの前面を破壊するための前側破壊部材が設けられ、
前方衝突により前記シュラウドパネルが後方に変位したときに、これに伴う前記前側衝突部材の後方移動によって前記バッテリの前面を破壊可能であることを特徴とするバッテリ配設構造を提供することにより達成される。
【0009】
本発明によれば、前方衝突に伴うシュラウドパネルの後方の変位により、このシュラウドパネルと共に後方移動する前側破壊部材によってバッテリの前面が破壊されることから、シュラウドパネルの更なる後方変位が可能になる。したがって、シュラウドパネルの後方変位がバッテリによって阻害されるのを抑えることができるため、これによりバッテリが原因で前方衝突時のクラッシュストロークが減少するのを抑えることのできる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態にあっては、シュラウドパネルが、車幅方向に延びるシュラウドアッパ部と、該シュラウドアッパ部から垂下する立柱部とを有し、この立柱部とシュラウドアッパ部とが合流するシュラウドパネルの上角隅部に前側衝突部材が取り付けられている。これにより、シュラウドパネルの剛性の高い上角隅部に前側衝突部材が設置されるため、前方衝突時の前側衝突部材によるバッテリの前面の破壊を確かなものにすることができる。この前側衝突部材によるバッテリの前面の破壊の確実性を高めるのに、前側破壊部材をシュラウドパネルの上端部から後方に突設させるのが好ましい。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態にあっては、シュラウドパネルに設けられた前側衝突部材に加えて、バッテリの後方に、前方衝突に伴ってバッテリが後方移動したときにバッテリの後面を破壊する後側破壊部材を設けるのがよい。この後側破壊部材は、エンジンルームを囲む車体部材、例えば、カウル部材や、左右のサスペンションタワー部を連結するタワーバーに設けるのがよい。
【0012】
このように後側衝突部材を追加することにより、前方衝突に伴ってバッテリが後方移動して、バッテリの後面が後側衝突部材によって破壊されることにより、バッテリの更なる後方移動が可能となる。後側破壊部材を追加するときには、前側破壊部材と後側破壊部材が略同一の高さ位置に配置するのが好ましい。これによれば、前側破壊部材及び後側破壊部材がバッテリを破壊活動する際に、略水平な仮想回動軸を中心としてバッテリが回動することを防ぐことができ、これにより前側破壊部材及び後側破壊部材によるバッテリの破壊の確実性を高めることができる。
【0013】
このバッテリの破壊の確実性を高めるのに、前側破壊部材と後側破壊部材とが、平面視したときに、車体前後方向に延びる一つの軸線上に配置するのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0015】
第1実施例(図1〜図3)
図1は、自動車の前部に設けられたエンジンルームを囲む車体部材を説明するための図である。この図1において、参照符号1は、ダッシュロアパネルであり、このダッシュロアパネル1によってエンジンルーム2と車室3とが区画されている。
【0016】
ダッシュロアパネル1の上部には、図1〜図3に示すように、車幅方向に延びるカウルボックス(カウル部)4が設けられている。カウルボックス4は、既知のようにフロントウインドガラス(図示略)の下端を支持する部材であり、この図3からカウルボックス4は、従来と同様に、ダッシュアッパパネル5と、カウルレインフォースメント6と、カウルフロント7とを含んでいる(図3)。
【0017】
ダッシュアッパパネル5は、ダッシュロアパネル1の上端に連結され、断面視したときにダッシュロアパネル1から車体前方に延びて、その前端にカウルフロント7が連結されている。カウルフロント7は、断面視したときに前方に延びた後に屈曲して上方に延びており、このカウルフロント7の前端部はボンネット8の後端部によって覆われている。尚、ボンネット8の後端部とカウルフロント7の前端部との間に介在されるシール部材は図3では図示が省略されている。
【0018】
エンジンルーム2の下部領域における左右両側に、左右一対のフロントサイドフレーム9a(9b)が配設されている。フロントサイドフレーム9a(9b)は、ダッシュロアパネル1から前方に延びて、フロントサイドフレーム9a(9b)の前端はクラッシュカン10を介してバンパーレインフォースメント11に連結されている(図2参照)。
【0019】
エンジンルーム2の上部領域には、左右一対のエプロンレインフォースメント12が配設され、フロントサイドフレーム9a(9b)とエプロンレインフォースメント12との間にはエプロンパネル13が配設され、エプロンパネル13にホイールハウス部14及びサスペンションタワー部15(一部のみ図示)が形成されている。任意であるが、左右のサスペンションタワー部15はタワーバー16によって連結される。
【0020】
前記エンジンルーム2の前端は、図1〜図3に示すように、シュラウドパネル17によって規定されている。シュラウドパネル17は、車幅方向に延びるシュラウドアッパ部18と、シュラウドアッパ部18の車幅方向両側から垂下する左右一対の立柱部19a(19b)と、左右一対の立柱部19a(19b)の下端部を連結して車幅方向に延びるシュラウドロア部20とで開口部17a(図1)が形成され、この開口部17aにラジエータ22が搭載される。
【0021】
エンジンルーム2には、図示を省略したエンジンや各種の補機類の他にバッテリ23が搭載される。バッテリ23は、既知のように、直方体形状の樹脂(ポリプロピレン、ABS等)製のケース本体24と、樹脂製(ポリプロピレン、ABS等)蓋25とでバッテリケース23Aが作られている(図9)。バッテリ23は、エンジンルーム2の後部且つ側部に配設されている。より具体的には、バッテリ23は、トレイ26等やアームなどを介してフロントサイドフレーム9aに取付けられるのが好ましい。このバッテリ23の配置によれば、バッテリ23の前方に上述したシュラウドパネル17の上角隅部が位置している。なお、図示の例では、バッテリ23は、その長手方向を車体前後方向に向けて配置されているが、長手方向を車幅方向に向けるようにして配置してよい。
【0022】
バッテリ23の後面に隣接したカウルボックス4のカウルフロント7の側部には、図1〜図3に示すように、好ましくは後側破壊部材27が取付けられる。後側破壊部材27は、カウルフロント7から車体前方に突出する尖った形状を有し、後側破壊部材27の尖った先端はバッテリ23の後面の車幅方向中間部分に隣接して位置している。
【0023】
他方、エンジンルーム2の前端を規定するシュラウドパネル17の上角隅部、つまり、バッテリ23の高さ方向中間部分と同じ高さ位置に位置する、シュラウドアッパ部18と立柱部19a(19b)との合流部分に、前側破壊部材28が取付けられている。前側破壊部材28は、後方に向けて尖った形状を有する板状部材で構成され、エンジンルーム2を正面視したときに、前側破壊部材28の尖った先端は、バッテリ23の前面の車幅方向中間部分に向けられており、好ましくは、前側破壊部材28の尖った先端と、後側破壊部材27の尖った先端とが、平面視したときに、車体前後方向に延びる一つの軸線Lの上に位置するのがよい。
【0024】
後側及び前側の破壊部材27、28は、実施例では、板面を水平面に沿った先細りの板状部材で構成されているが、板面を垂直面に沿って配設するようにしてよい。また、板部材をV字状に折り曲げることにより後側破壊部材27及び前側破壊部材28を作ってもよく、このV字状に折り曲げた後側破壊部材27及び前側破壊部材28の先端の稜線を上下方向に向けて配設してもよいし、水平方向に向けて配設するようにしてもよい。
【0025】
上述したように、エンジンルーム2の一側部に配置したバッテリ23に関連してシュラウドパネル17に設けられた前側破壊部材28は、前方衝突によってシュラウドパネル17と一緒に後方に移動してバッテリ23の前面を破壊することができる。特に、前側破壊部材28が、シュラウドパネル17の角隅部に配設されていることから、このシュラウドパネル17の角隅部でしっかりと支えられた状態で前側破壊部材28がバッテリ23を破壊することになる。この前側破壊部材28がバッテリ23を破壊することにより、シュラウドパネル17の更なる後方変位が可能となる。
【0026】
更に、エンジンルーム2を正面視したときにバッテリ23と重複して位置する後側破壊部材27がバッテリ23の後方に好ましくは配置された場合には、この後側破壊部材27の尖った先端がバッテリ23の後面に近接して位置している。そして、この後側破壊部材27は、略閉断面のカウルボックス4のカウルフロント7に取付けられている。このことから、車両が前方衝突して、それに伴ってバッテリ23が後方に移動するとバッテリ23の後面が後側破壊部材27により破壊される。そして、このバッテリ23の破壊によりバッテリ23の更なる後方移動が可能になる。このようにバッテリ23を破壊することで、シュラウドパネル17及びバッテリ23が更に後方移動できることから、前方衝突時のエンジンルーム2のクラッシュストロークつまり衝撃吸収変形を確保することできる。
【0027】
このように、バッテリ23の前面や後面を破壊することにより、もはやバッテリ23は剛体として存在することができなくなる。そして、バッテリ23の破壊活動は、前側破壊部材28が先行し、後側破壊部材27よりも早い時点でバッテリ23を破壊するため、バッテリ23の存在によってシュラウドパネル17の後方変位が阻害されるのを低減することができる。そして、バッテリ23が後方移動すると、バッテリ23の後面が後側破壊部材27により破壊され、バッテリ23の破壊によりバッテリ23の更なる後方移動が可能になる。したがって、自動車を設計する際に、バッテリ23を剛体として取り扱う必要性を希薄化することができ、特にショートノーズ車両を設計する際の自由度を高めることができる。
【0028】
実施例では前側破壊部材28と後側破壊部材27の高さ位置が後側破壊部材27の方が若干高い位置に配設されているが、後側破壊部材27を設ける場合には、両者28、27の高さ位置をほぼ一致させてもよい。このように前側破壊部材28と後側破壊部材27の高さ位置を略同一に設定することにより、前側破壊部材28及び後側破壊部材27からバッテリ23に衝撃荷重が入力される際、水平な仮想回動軸を中心としてバッテリ23が回動してしまうのを防止することができ、これにより、前側破壊部材28及び後側破壊部材27によるバッテリ23の破壊活動の確実性を高めることができる。
【0029】
同様に、前側破壊部材28と後側破壊部材27とを車体前後方向に延びる軸線Lに一致させて配設することにより、前側破壊部材28及び後側破壊部材27からバッテリ23に衝撃荷重が入力される際、垂直な仮想回動軸を中心としてバッテリ23が回動してしまうのを防止することができ、これにより、前側破壊部材28及び後側破壊部材27によるバッテリ23の破壊活動の確実性を高めることができる。
【0030】
また、上述した第1実施例では、カウルボックス4から前方に突出して位置するカウルフロント7に後側破壊部材27を取り付けるようにしたことから、後側破壊部材27の尖った先端をバッテリ23の後面に近接して配置させるのが容易であるという利点がある。
【0031】
図4以降の図面は他の実施例を示すものであり、これら他の実施例において、上述した第1実施例と同一構成要素には同一の参照符号を付してその説明を省略し、各実施例の特徴部分を中心に説明する。
【0032】
第2実施例(図4〜図7)
図4〜図6は第2実施例を示し、図7はその変形例を示す。この第2実施例にあっては、補機類に含まれるABSアクチュエータ29の支持ブラケット31に、好ましくは、後側破壊部材27が取り付けられる。ABSアクチュエータ29はエンジンルーム2の後角部に配設され、このABSアクチュエータ29はバッテリ23の直後方に位置している。そして、ABSアクチュエータ29の支持ブラケット31はフロントサイドフレーム9aに固定されている。ABSアクチュエータ29の支持ブラケット31には、後側破壊部材27が車体前方に突出した状態で取付けられる。
【0033】
この支持ブラケット31の高さ位置は、前述したシュラウドパネル17の上角隅部と略一致した高さレベルに位置しており、このシュラウドパネル17の上角隅部には、第1実施例と同様に前側破壊部材28が設置される。
【0034】
したがって、この第2実施例にあっても、前記第1実施例と同様の作用効果を得ることができるばかりでなく、ABSアクチュエータ29の支持ブラケット31に後側破壊部材27を取り付けた場合には、この支持ブラケット31がフロントサイドフレーム9aに固定されていることから、前方衝突時にバッテリ23を後側破壊部材27によって破壊する反力が、直接、ダッシュロアパネル1に入力するのを防止することができ、前方衝突時にバッテリ23を破壊することに伴ってダッシュロアパネル1が後退するのを防止することができる。
【0035】
後側破壊部材27及び前側破壊部材28は、第1実施例のように、板面を水平面に沿って配設した先細り形状の板部材で構成してもよいし、これを垂直面に沿って配設してもよい。また、板部材をV字状に折り曲げることにより後側破壊部材27及び前側破壊部材28を作ってもよく、このV字状に折り曲げた後側破壊部材27及び前側破壊部材28の先端の稜線を上下方向に向けて配設してもよいし、水平方向に向けて配設するようにしてもよい。
【0036】
尚、好ましい態様として後側破壊部材27を設置する場合に、この後側破壊部材27を取り付ける部材としてABSアクチュエータ29の支持ブラケット31を用いたが、この支持ブラケット31は一例に過ぎない。バッテリ23の後方領域に他の補機類を配設するのであれば、この補機類を支持するブラケットに後側破壊部材27を設置するようにしてもよい。この種のブラケットは、十分な強度が与えられている部材であることから、このブラケットに後側破壊部材27を設けることで、後側破壊部材27がバッテリ23に衝突した際にブラケットが変形して後側破壊部材27がバッテリ23を破壊することなく後退してしまうことを回避することができる。このように補機類を支持するブラケットを利用して後側破壊部材27を取り付けることで、後側破壊部材27のために、別途、強固な支持体を新設する必要がないという利点もある。以上、補機類の支持ブラケットを利用して後側破壊部材27を取り付ける例を説明したが、前側破壊部材28についても同様であり、前側破壊部材28を補機類の支持ブラケットに取り付けるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0037】
第2実施例の変形例として、左右のサスペンションタワー部15を連結するタワーバー16を備えた車両であれば、図7に例示するように、このタワーバー16に後側破壊部材27を取付けてもよい(図1の仮想線を参照)。このタワーバー16に設けた後側破壊部材27は、V字状に折り曲げて先細りの形状に形作った部材に一対の孔を設け、この孔にタワーバー16に貫通させて溶接により所定位置に固定されている。
【0038】
第3実施例(図8、図9)
図8、図9に示す第3実施例は、好ましい態様として、ブレーキ用気圧倍力装置31から車体前方側に突出するマスタシリンダ32を後側破壊部材27として利用してバッテリ23の後面を破壊する例を示す。
【0039】
ブレーキペダル33に関連付けられる倍力装置31はエンジンルーム2の後部且つ側部に配設されているが、このブレーキ用気圧倍力装置31の前端から前方に延びるマスタシリンダ32の前端部を先細り形状に形成して、この先細り部32aを後側破壊部材27として利用することができる。
【0040】
これによれば、エンジンルーム2の後部且つ側部にバッテリ23を配置したときに、バッテリ23の後面の近傍にマスタシリンダ32の先細り先端部32aを位置させることは容易である。この第3実施例にあっても、第1実施例で説明した前側破壊部材28が設けられていることは勿論である。
【0041】
マスタシリンダ32の先細りの先端部32aで後側破壊部材27を構成する場合には、例えば図9から理解できるようにマスタシリンダ32を前方に向かうに従って上方に向かう傾斜姿勢に設置するのが好ましく、これによりマスタシリンダ32の先細り先端部32aの高さ位置を前側破壊部材28の高さレベルに容易に一致させることができる。
【0042】
この第3実施例によれば、上述した第1、第2実施例と実質的に同じ作用効果を奏することができるのは勿論であるが、前方衝突時にバッテリ23が後方に移動すると、マスタシリンダ32の先細り先端部32aがバッテリ23に突き刺さり、これによりバッテリ23が更に後方に移動することができる。
【0043】
上述した第1実施例では、バッテリ23の配置の変形例として説明したが、上記第2、第3実施例においても、図10に示すようにバッテリ23の長手方向を車幅方向に向けた横置き状態でエンジンルーム2に搭載してもよい。
【0044】
バッテリ23は、図10に図示のように、樹脂製ケース本体24の内部に長手方向に間隔を隔てて複数の仕切板34が配設されて複数の液室35が区画されており、各液室35内に複数の正、負の電極板36が交互に配設されている。
【0045】
バッテリ23を横置きに設置した場合には、後部破壊部材27や前側破壊部材28がバッテリ23の内部に侵入しながらケース本体24を破壊する際に、後部破壊部材27や前側破壊部材28の侵入が仕切板34の板面に沿った動きになるため、後部破壊部材27や前側破壊部材28によるバッテリ23の破壊が容易になる。後部破壊部材27や前側破壊部材28が仕切板34の抵抗を極力受けないでバッテリ23の内部に侵入できるように、図9に示すように、後部破壊部材27や前側破壊部材28を垂直面で広がる板部材で構成するのが好ましい。勿論、第3実施例のようにマスタシリンダ32の先端部32aを先細り形状にしてこれを後側破壊部材27として利用するのであれば、バッテリ23を横置きに設置することで、マスタシリンダ32の先細り先端部32aがバッテリ23を貫入するときに仕切板34の抵抗を受け難くなるため、マスタシリンダ32の先細り先端部32aが容易にバッテリ23の内部に侵入してバッテリ23を破壊することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】車体前部構造を示す斜視図であり、車体前部のエンジンルームを囲む車体部材を説明するための図である。
【図2】第1実施例のバッテリ配設構造を説明するための平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った縦断面図である。
【図4】第2実施例のバッテリ配設構造を説明するための平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿った縦断面図である。
【図6】図4及び図5からバッテリ及び前後の破壊部材を抽出してバッテリ配設構造を説明するための要部斜視図である。
【図7】第2実施例の変形例として、左右のサスペンションタワー部を連結するタワーバーに後側破壊部材を取り付けた例を説明するための図である。
【図8】第3実施例のバッテリ配設構造を説明するための斜視図である。
【図9】図8のIX−IX線に沿った縦断面図である。
【図10】変形例としてバッテリを横置きでエンジンルームに搭載した例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0047】
2 エンジンルーム
4 カウルボックス
7 カウルフロント
17 シュラウドパネル
18 シュラウドアッパ部
19a 立柱部
23 バッテリ
24 樹脂製ケーシング
27 後側破壊部材
28 前側破壊部材
34 バッテリの仕切板
35 バッテリの液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のエンジンルームに、樹脂製のケース本体を備えたバッテリを搭載したバッテリ配設構造であって、
車幅方向に延び且つ前記エンジンルームの前端を規定するシュラウドパネルの上端部に、その後方に配設された前記バッテリの前面を破壊するための前側破壊部材が設けられ、
前方衝突により前記シュラウドパネルが後方に変位したときに、これに伴う前記前側衝突部材の後方移動によって前記バッテリの前面を破壊可能であることを特徴とするバッテリ配設構造。
【請求項2】
前記シュラウドパネルが、車幅方向に延びるシュラウドアッパ部と、該シュラウドアッパ部から垂下する立柱部とを有し、
前記前側破壊部材が、前記立柱部と前記シュラウドアッパ部とが合流する前記シュラウドパネルの上角隅部に取り付けられている、請求項1に記載のバッテリ配設構造。
【請求項3】
前記前側破壊部材が、前記シュラウドパネルの上端部から、その後方に位置する前記バッテリに向けて突設されている、請求項1に記載のバッテリ配設構造。
【請求項4】
前記バッテリの後方に、前方衝突に伴って前記バッテリが後方移動したときに該バッテリの後面を破壊する後側破壊部材が設けられ、該後側破壊部材が、前記エンジンルームを囲む車体部材に設けられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のバッテリ配設構造。
【請求項5】
前記前側破壊部材と前記後側破壊部材が、略同一の高さ位置に配置されている、請求項4に記載のバッテリ配設構造。
【請求項6】
前記前側破壊部材と前記後側破壊部材とが、平面視したときに、車体前後方向に延びる一つの軸線上に配置されている、請求項4に記載のバッテリ配設構造。
【請求項7】
前記バッテリは、そのケース本体が直方体の形状を有し、また、該ケース本体には長手方向に間隔を隔てて複数の仕切板が配置されて該複数の仕切板によって複数の液室が区画され、
前記バッテリは、長手方向を車幅方向に向けた横置きの状態で前記エンジンルームに搭載されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のバッテリ配設構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−83962(P2007−83962A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277504(P2005−277504)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】