説明

バッテリ配設構造

【課題】 本発明の目的は、バッテリが原因で後方衝突時のクラッシュストロークが減少するのを抑える。
【解決手段】 車体後端部の側部つまりリアホールハウス5の後面部5aから後方に延びる凹部8にバッテリ23が搭載される。バッテリ23を前後に挟み込むように、リヤホイールハウス5の後面部5aと車体後壁3には、夫々、前側破壊部材28と後側破壊部材27とが設置されており、後方衝突時に、これら前後の破壊部材27、28によってバッテリ23が破壊される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体後部に配設されるバッテリの配設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の自動車は、電子制御や数多くの各種の電装品を搭載する傾向にあり、また、回生エネルギの回収なども実用化されていることから、容量の大きなバッテリが車両に搭載される傾向にある。バッテリは比較的重量物であり、車両の設計にあたって、重量の前後バランスを損なうことが無いようにバッテリの搭載場所が選定され、必要であれば、バッテリを2個に分けて、1個をエンジンルームに搭載し、他の1個をトランクルームなどの車体後部に搭載することが行われている。特許文献1は、車体後部にバッテリを搭載した例を開示している。
【特許文献1】特開平11−115808
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近時の自動車は、キャビンを挟んで車体前部に位置するエンジンルームとトランクルームなどの車体後部が衝突の際の衝撃吸収ゾーンとなるように設計されるが、車両設計において、バッテリは剛体として取り扱われている。したがって、車体後部にバッテリを搭載する場合には、このバッテリに存在によってクラッシュストロークが減少し衝撃吸収能力が低下しまうのを回避することが重要課題となる。
【0004】
バッテリの構造を検討してみると、バッテリケースは樹脂で作られ、このバッテリケースの内部に数多くの正、負の極板が交互に横並びに配設されている。本発明の発明者は、バッテリケースが樹脂製であり、この樹脂は破壊可能である点に着目して本発明を案出するに至ったものである。
【0005】
本発明の目的は、バッテリが原因で後方衝突時のクラッシュストロークが減少するのを抑えることのできるバッテリ配設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題は、本発明によれば、
自動車の車体後端部のフロアパネルに形成された凹部に、樹脂製のケース本体を備えたバッテリを搭載したバッテリ配設構造において、
前記凹部を規定する前壁部及び/又は後壁部に、後方衝突に伴う車体後部の変形によって前記バッテリを破壊するための破壊部材が設けられていることを特徴とするバッテリ配設構造を提供することにより達成される。
【0007】
すなわち、本発明によれば、後方衝突の際に、破壊部材によってバッテリを積極的に破壊するようにしてあることから、バッテリを破壊することによりバッテリはもはや剛体として存在では無くなるため、車体後部に搭載したバッテリの存在によって後方衝突時の車体後部のクラッシュストロークが減少するのを抑えることができる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態では、前記破壊部材が、前記凹部を規定する前壁部及び/又は後壁部から前記バッテリに向けて突設されており、これにより、破壊部材をバッテリに近づけることができ、車両の後方衝突に際して、早い時点でバッテリを破壊できる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態では、前記凹部が、車体後端部の側部に設けられ且つリアホイールハウスの後面部と車体後壁との間に亘って延びている。したがって、リアホイールハウスの後面部を破壊部材の取付け部材として利用することができるだけでなく、後方からの衝突物とタイヤやサスペンションとの間に挟み込んだ状態でバッテリを破壊することができ、破壊したバッテリが車室側に移動することを防止できる。
【0010】
バッテリは、一般的にケース本体が直方体の形状を有し、また、該ケース本体には長手方向に間隔を隔てて複数の仕切板が配設されて該複数の仕切壁によって複数の液室が区画されていることから、バッテリの長手方向車幅方向に向けた横置きの状態でバッテリを凹部に搭載することで、破壊部材はバッテリの仕切壁に沿ってバッテリに侵入することができ、これによりバッテリの破壊の確実性を高めることができる。
【0011】
前記破壊部材はバッテリの前面又は後面から離間した状態で配設してもよいが、破壊部材の先端をバッテリの前面又は後面に当接ないしは近接して配置することで、バッテリの取付け、取り外しの際に破壊部材をバッテリのガイド部材として利用できる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態では、破壊部材が先細りの形状を有し、該破壊部材の先細りの先端の稜線が上下方向に延びている。破壊部材をこのような形状及び配置に設定することにより、バッテリを縦割り状態で左右に破壊することができ、これを上下に2分割するように破壊するのに比べて、バッテリの一部が凹部から上方に飛び出すのを阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【0014】
第1実施例(図1〜図3)
図1に示す参照符号1はトランクルームであり、トランクルーム1は、既知のように、図示しないトランクリッドによって開閉可能である。トランクルーム1は、その後部が、左右のリアサイドパネル2と車体後壁3とフロアパネル4とで形成されている。
【0015】
フロアパネル4の後端部には、図1〜図3に示すように、上方に向けて開放した凹部8が形成されている。凹部8は、リアサイドフレーム7よりも車幅方向外側に位置し、また、リアホイールハウス5から車体後方に延びている。凹部8は、前壁部9と、後壁部10と、内方側の側壁部11と、底壁部12と、外方側の側壁部13とで規定されている。本実施例では、前壁部9がリアホイールハウス5の後面部5aで構成され、また、後壁部10が車体後壁3で構成されている。すなわち、凹部8はリアホイールハウス5から車体後壁3まで前後方向に延在している。
【0016】
上記の凹部8はバッテリ23や工具(図示せず)を収容する空間として使用される。バッテリ23は、既知のように、直方体形状のバッテリケース本体24を蓋25で密閉した構造を有し、バッテリケース本体24及び蓋25は、共にポリプロピレン、ABS等などの樹脂から作られている。
【0017】
バッテリ23は、その長手方向を車体前後方向に向けた縦置き状態で凹部8に収容されており、凹部8の深さ寸法はバッテリ23の高さ寸法と実質的に等しくなるように設計されている。このバッテリ23の上面には、前後方向に離置した一対のキャップ14、14が設けられており、この一対のキャップ14、14の間を横断する固定バー15によってバッテリ23は凹部8に固定される。すなわち、固定バー15は、バッテリ23を横断するように車幅方向に延在しており、固定バー15の車幅方向外端部を係止部16に係合することによりバッテリ23を固定することができ、これにより、バッテリ23は、車体前後方向及び上方への変位が規制される。
【0018】
凹部8の後壁部10と前壁部9とには、夫々、後側破壊部材27と前側破壊部材28とが設けられている。後側破壊部材27と前側破壊部材28は共にバッテリ23に向けて突設され、その形状は、バッテリ23の後端面と前端面に向けて先細りの形状を有している。より詳しくは、後側破壊部材27と前側破壊部材28は、共に、板部材を屈曲させることにより形成された略三角の水平断面形状を有し、先端の稜線は上下方向に延びている。バッテリ23の搭載位置との関係で、前側破壊部材28の先端はバッテリ23の前端面と当接又はこれに近接して位置し、他方、後側破壊部材27は、バッテリ23の後端面から離間して位置している。また、後側破壊部材27と前側破壊部材28は、好ましくは、その先端がバッテリ23の幅方向中央に位置するように配設され、その高さレベルは略同一であるのがよい。すなわち、後側破壊部材27と前側破壊部材28は同一の高さレベルに配置され且つ共通の車体前後方向軸線上に配置されるのが好ましい。
【0019】
上述したバッテリの配設構造によれば、車両の後側から衝突されて車体後部が変形すると、この変形によって後側破壊部材27の先細りの先端がバッテリ23の後端面に衝突してこれを破壊しながらバッテリ23を前方に押し付け、これに伴ってバッテリ23の前端面に前側破壊部材28が食い込んでバッテリ23の前端面が破壊される。
【0020】
このように、後側からの衝突によって車体後部が変形するとバッテリ23が破壊されるため、バッテリ23は剛体としての存在では無くなり、したがって車体後端部に配置したバッテリ23の存在に伴うクラッシュストロークの減少を抑えることができる。
【0021】
第1実施例のように前側破壊部材28と後側破壊部材27とを略同一の高さレベルに配置したときには、後側破壊部材27及び前側破壊部材28からバッテリ23に衝撃荷重が入力される際、略水平な仮想回動軸を中心としてバッテリ23が回動するのを防止することができ、ロス無く衝撃荷重を使って後側破壊部材27及び前側破壊部材28によるバッテリ23の破壊活動を実行させることができる。
【0022】
同様に、後側破壊部材27と前側破壊部材28とを、共通の車体前後軸線上に配置することにより、後側破壊部材27及び前側破壊部材28からバッテリ23に衝撃荷重が入力される際、略垂直な仮想回動軸を中心としてバッテリ23が回動するのを防止することができ、ロス無く衝撃荷重を使って後側破壊部材27及び前側破壊部材28によるバッテリ23の破壊活動を実行させることができる。
【0023】
また、後側破壊部材27及び前側破壊部材28が、共に、上下方向に延びる稜線を備えた先細りの形状を有しているため、バッテリ23を縦割り状態で破壊することができ、破壊したバッテリ23が凹部8から飛び出す可能性を低減することができる。換言すれば、後側破壊部材27及び前側破壊部材28が、水平方向に延びる稜線を備えた先細りの形状を有していた場合には、バッテリ23を上下に二分割する状態でバッテリ23が破壊される可能性があり、上側の半割りバッテリが凹部8から飛び出してしまう可能性がある。
【0024】
また、第1実施例のように、前側破壊部材28の先細りの先端がバッテリ23の前端面に近接又は当接して位置しているため、バッテリ23を凹部8に搭載する際に、前側破壊部材28に沿ってバッテリ23を凹部8の中に入れることでバッテリ23を仮位置決めすることができ、固定バー15でバッテリ23を固定する際の手間を軽減することができる。
【0025】
尚、この第1実施例において、バッテリ23を挟んで、前側破壊部材28、後側破壊部材27を配置した例を説明したが、前側破壊部材28、後側破壊部材27のいずれか一方を省いてもよいことは言うまでもない。更に、トランクルーム1を例に第1実施例を説明したが、ワンボックスカーのような車両に対しても適用可能であることは言うまでもない。
【0026】
第2実施例(図4〜図6)
図4〜図6は第2実施例を示す。この第2実施例において、前記第1実施例と同一構成要素については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0027】
第2実施例では、左右一対のリアサイドフレーム7、7で挟まれたフロア領域の中間部分に凹部8が形成されている。すなわち、凹部8は、一対のリアサイドフレーム7間において、前後方向に比較的広い面積を占めており、凹部8の前壁部9は平面視で円弧状の形状を有し、後壁部9はリアエンドクロスメンバ31により形成され、リアエンドクロスメンバ31は、アウターパネル32とインナーパネル33とを接合した閉断面構造を有している。車両によっては、凹部8の後壁部9はリアエンドパネルで構成されてもよい。
【0028】
フロアパネル4の下方領域には、凹部8の前端に隣接して強度部品40が配設され、また、燃料タンク41が配設され、また、クロスメンバ42によってフロアパネル4が補強されている。
【0029】
前記凹部8の後端部には、バッテリ23がベースプレート43を介して底壁部12に固定されている。このバッテリ23の搭載位置の設定は任意であり、仮想線で示すように凹部8の前端部に搭載するようにしてもよい。ベースプレート43は複数のスタッドボルト44を用いて底壁部12に固定され、バッテリ23は2本のバンド45を使ってベースプレート43に脱着可能に固定される。
【0030】
この第2実施例にあっても、バッテリ23を前後に挟むようにして、後側破壊部材27及び前側破壊部材28が設置されている。尚、図4〜図6中、符号46はボードであり、このボード46によって実質的に車両後部の荷室空間の床又はスペアタイヤを搭載する床が形成される。
【0031】
後側破壊部材27及び前側破壊部材28は、共に第1実施例と同様に、板部材を曲げ成形することにより作られた先細りの水平断面略三角形の形状を有し且つその先端の稜線が上下方向に延びるようにして設置されている。
【0032】
図5などで実線で示すバッテリ搭載位置では、バッテリ23は、リアエンドクロスメンバ31から前方に突出するようにして配設された後側破壊部材27の先端に近接又は当接した状態にある。他方、前側破壊部材28は、バッテリ23の前方にバッテリ23から間隔を隔てて配設されている。
【0033】
この第2実施例では、バッテリ23がその長手方向を車幅方向に向けた横置きの状態で凹部8に搭載される。バッテリ23は、図7に示すように、樹脂製バッテリケース24の内部に、長手方向に間隔を隔てて配置された複数の仕切板34を有し、この仕切板34によって形成された複数の液室35内に複数の正、負の極板36を収容した構造を有している。したがって、バッテリ23を横置きに搭載した場合には、バッテリ23の仕切壁34及び極板36が車体前後方向に沿って位置することになる。
【0034】
バッテリ23を挟んで位置する前後の破壊部材27、28は、その先端を結ぶ仮想軸線が車体前後方向に延び且つバッテリ23の長手方向中間部分と交差する共通の軸線上に位置するのがよく、また、前後の破壊部材27、28は、第1実施例と同様に、同一の高さレベルに配置されるのが好ましい。
【0035】
この第2実施例にあっても、後方からの衝突により、前後の破壊部材27、28によってバッテリ23を左右に2分割する状態でバッテリ23を破壊することで、バッテリ23の存在に伴うクラッシュストロークの減少を抑えることができる等、第1実施例と実質的に同じ作用効果を奏する。第2実施例では、バッテリ23が横置きに搭載されているため、前後の破壊部材27、28はバッテリ23に対して、バッテリ23の仕切壁34及び極板36の延び方向と一致する車体前後方向に侵入するため、比較的簡単にバッテリ23を破壊することができる。勿論、第2実施例にあってもバッテリ23を縦置きの状態で凹部8に搭載するようにしてもよい。
【0036】
尚、この第2実施例においても、前側破壊部材28、後側破壊部材27のいずれか一方を省いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1実施例のバッテリ配設構造を示し、車体後端部の側部にバッテリを搭載した例を示す部分斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】第2実施例のバッテリ配設構造を示し、左右のリアサイドフレームの間のフロアパネルに凹部を形成し、この凹部にバッテリを搭載した例を示す部分斜視図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図4の平面図である。
【図7】バッテリの構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
4 フロアパネル
5 リアホイールハウス
5a リアホイールハウスの後面部
7 リアサイドフレーム
8 凹部
9 凹部の前壁部
10 凹部の後壁部
23 バッテリ
24 バッテリケース本体
27 後側破壊部材
28 前側破壊部材
34 バッテリの仕切壁
35 バッテリの液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体後端部のフロアパネルに形成された凹部に、樹脂製のケース本体を備えたバッテリを搭載したバッテリ配設構造において、
前記凹部を規定する前壁部及び/又は後壁部に、後方衝突に伴う車体後部の変形によって前記バッテリを破壊するための破壊部材が設けられていることを特徴とするバッテリ配設構造。
【請求項2】
前記破壊部材が、前記凹部を規定する前壁部及び/又は後壁部から前記バッテリに向けて突設されている、請求項1に記載のバッテリ配設構造。
【請求項3】
前記凹部が、車体後端部の側部に設けられ且つリアホイールハウスの後面部と車体後壁との間に亘って延びている、請求項1又は2に記載のバッテリ配設構造。
【請求項4】
前記凹部が、左右一対のリアサイドフレームの間のフロアパネルに形成され、該凹部の後端壁がリアエンドクロスメンバ又はリアエンドパネルによって構成されている、請求項1又は2に記載のバッテリ配設構造。
【請求項5】
前記バッテリは、そのケース本体が直方体の形状を有し、また、該ケース本体には長手方向に間隔を隔てて複数の仕切板が配設されて該複数の仕切壁によって複数の液室が区画され、
前記バッテリは、長手方向を車幅方向に向けた横置きの状態で前記凹部に搭載されている、請求項4に記載のバッテリ配設構造。
【請求項6】
前記破壊部材の先端が、前記凹部に搭載された前記バッテリの前端又は後端に当接ないしは近接して位置している、請求項2〜5のいずれか一項に記載のバッテリ配設構造。
【請求項7】
前記破壊部材が先細りの形状を有し、該破壊部材の先細りの先端の稜線が上下方向に延びている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のバッテリ配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−83963(P2007−83963A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277505(P2005−277505)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】