説明

バッファーチャンバー方式ガス収支測定装置

【課題】本発明は、簡素な構造で、かつ外気に影響されることなく、高精度に、水蒸気、水分蒸散量、二酸化炭素等のガス収支を測定する、汎用性のある測定装置を提供することを目的とする。【解決手段】上記課題を解決するために、測定物を覆い又は格納する測定チャンバーに、給気管と排気管により、バッファーチャンバーを連結し、両チャンバー内部のガスをファンを用いて循環させ、測定物がターゲットガスを放出ないしは吸収することによる、チャンバー内のターゲットガスの濃度の変化を測定するセンサからなることを特徴とするガス収支測定装置を構成した。前記装置は、従来、測定チャンバーのデッドスペースを小さくすることに伴って生じる、ガス濃度変化が測定物に影響する問題に対して、ガス濃度変化速度を緩和し、安定した計測ができる測定時間を確保できるよう、バッファーチャンバーの容積を調節することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバーを用いた、植物の光合成、動植物の呼吸及び蒸散や土壌の呼吸及び地表面蒸発等に伴うターゲットガスの収支を測定するガス収支測定装置、同ガス収支測定装置の検定方法及び同ガス収支測定装置の連続測定機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チャンバーを用いたガス収支測定装置は、例えば、皮膚から蒸発する水分の測定、実験動物の呼吸量の測定、植物の光合成蒸散測定、土壌中の微生物の呼吸の測定、地表面からの蒸発測定など、多方面にわたって用いられている。その装置は大きく閉鎖式と開放式に分類される。
【0003】
閉鎖式のガス収支測定装置は、測定物をチャンバーで覆い、あるいはチャンバー内に入れ、密閉したチャンバー内のガス濃度の変化を測定するもので、土壌呼吸の測定をその代表例にあげることができる。
【0004】
開放式のガス収支測定装置は、チャンバーへの給気、排気の両方でガス濃度測定し、ガス濃度の差に給気量を乗じてガス収支を測定するもので、光合成の測定をその代表例にあげることができる。
【0005】
閉鎖式のガス収支測定装置については、特許文献1に、測定環境を限定したプロ−ブ周囲の空気に影響されることなく、あらゆる角度で短時間に被験者の皮膚から蒸散された水分量を正確に測定できる水分蒸散量測定装置が公開されている。特許文献1に記載の水分蒸散量測定装置は、プロ−ブ周囲の空気に影響されないために、プロ−ブを皮膚に密着させた後は、密閉された空気回路にしてプロ−ブ周囲の空気が前記空気回路内に入らないようにするとともに、空気回路内で空気を環流してあらゆる角度においても空気回路内で蒸散する水分に応じた水分量を得られるようにし、さらに空気回路内の総体積を少なくして環流による水分増加の応答性を早め測定時間を短縮する。これらにより、密閉された空気回路内で環流される空気の絶対湿度の増加特性を検知することにより、正確な水分蒸散量を測定することができるというものである。
【特許文献1】特開2003−339647号公報
【0006】
また、開放式のガス収支測定装置については、特許文献2に、チャンバーへの供給ガス及び各排気ガスをサンプリングして1つのセンサで交互に測定することにより、測定結果に機械的誤差が生じないようにした、ガス収支測定装置が公開されている。
【特許文献2】特開2005−333921号公報
【0007】
閉鎖式、開放式を問わず、チャンバーを用いたガス収支測定では、チャンバー内のガス濃度のムラが問題となる。従来、この問題を解決するには、チャンバーのデッドスペースを小さくすることが効果的とされてきた。しかし、チャンバー容積の縮小はチャンバー内のガス濃度変化速度を大きくする。その結果、ガス濃度変化が測定物に影響を及ぼすという問題を生じる。
【0008】
ガス濃度変化が測定物に影響する問題に対して、閉鎖式では、特許文献1に見られるように、測定時間を短縮することで対処しようとするが、測定時間の短縮は相対的にノイズを大きくし、測定の安定性を低下させるという問題を生じる。
【0009】
一方、開放式のガス収支測定装置では、ガス濃度変化が測定物に影響する問題に対して、給気量を大きくすることで対処するが、それはチャンバー内のガス濃度変化を小さくするため、給気、排気の差の測定に高精度が要求される。給気、排気を別々のセンサで計測する場合、しばしば両センサの校正が問題となる。特許文献2では給気、排気を交互にサンプリングすることで、1本のセンサを利用し、この問題を解決しようとしているが、サンプリングの切換えに伴う、タイムラグの影響が問題となる。タイムラグを小さくするには、測定時間の短縮が必要で、測定時間の短縮は測定の安定性を低下させるという問題を生じる。
【0010】
さらに、閉鎖式の一般的問題点として、例えば植物のように測定物が立体の場合、チャンバーの縮小には限界があり、測定対象は非常に限られることがある。また、開放式の一般的問題点として、給気がガス収支に影響することから、給気量の精密な制御、外気の変化への対策等が必要で、装置は複雑で大掛かりなものとなることがあげられる。
【0011】
以上、述べてきたことから、ガス収支測定装置は測定対象ごとに専用の測定装置が使用され、汎用性が低い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み創案されたものであって、簡素な構造で、かつ外気に影響されることなく、高精度に、水蒸気、水分蒸散量、二酸化炭素等のガス収支を測定する、汎用性のある測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、測定物を覆い又は格納する測定チャンバーに、給気管と排気管により、バッファーチャンバーを連結し、両チャンバー内部のガスをファンを用いて循環させ、測定物がターゲットガスを放出ないしは吸収することによる、チャンバー内のターゲットガスの濃度の変化を測定するセンサからなることを特徴とするガス収支測定装置を構成した。前記装置は、従来、測定チャンバーのデッドスペースを小さくすることに伴って生じる、ガス濃度変化が測定物に影響する問題に対して、ガス濃度変化速度を緩和し、安定した計測ができる測定時間を確保できるよう、バッファーチャンバーの容積を調節することを特徴とする。前記装置の応答感度、測定精度、チャンバーの実容積は次のようにして検定する。即ち、チャンバーに既知量のガスを入れ、ガスの循環によるガス濃度安定に要する時間を応答感度とし、ガスの投入量と測定値の相関係数によって、前記装置の測定精度を判定し、回帰式から前記空間内の容積を求める。前記装置のバッファーチャンバーに、外気の吸気ファンと圧力放出弁を付加し、バッファーチャンバーを換気することで、ターゲットガスの濃度を測定開始時の濃度にリセットして、ターゲットガスのチャンバー内の濃度変化が測定物に及ぼす影響を消去することを繰り返すことで、連続測定が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上の構成であるから、簡素な構造で、精度が高く、汎用性を備えている。
【0015】
即ち、本発明のガス収支測定装置は、チャンバーの容積を変えることで、センサを変えることなく、多様な測定を行うことができる。例えば、COセンサにより、植物の光合成または呼吸、土壌呼吸、動物の代謝量が計測できる。温湿度センサにより、地表面からの蒸発量あるいは蒸発散量、植物の蒸散量、動物の水分蒸散量が計測できる。
【0016】
さらにセンサを組み合わせて、たとえばCOセンサと温湿度センサを同時に使用すれば、植物の光合成と蒸散量、動物の代謝量と蒸散量を同時に計測することが可能である。
【0017】
また、本発明のガス収支測定装置は、広範な対象の測定が可能である。例えば、人体の皮膚の一部分、マウス、牛などの家畜、トマトの葉、植物体、樹木というように大きさ、設置場所に制限されることなく、種種の対象が測定可能である。
【0018】
そして、ガス収支測定装置内に圧力を生じないことから、気密要求性が低く製作は容易である。さらに、簡易な構成であるから、従来のガス収支測定装置に比し数十分の1コストで製作できる。
【0019】
以上は、本発明の利用例の一部にすぎないが、上述の例は全て、同一の環境測定用COセンサと温湿度センサを用いてチャンバーを変更するだけで実施可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ターゲットガスの収支を精度よく、簡易に、測定対象、測定場所を制限することなく、測定する目的を、測定物を覆い又は格納する測定チャンバーに、給気管と排気管により、バッファーチャンバーを連結し、両チャンバー内部のガスをファンを用いて循環させ、測定物がターゲットガスを放出ないしは吸収することによる、チャンバー内のターゲットガスの濃度の変化を測定するセンサからなることを特徴とするガス収支測定装置をの構成とすることで実現した。これにより、従来、測定チャンバーのデッドスペースを小さくすることに伴って生じる、ガス濃度変化が測定物に影響する問題に対して、ガス濃度変化速度を緩和し、安定した計測ができる測定時間を確保できるよう、バッファーチャンバーの容積を調節することができるようにしたことを特徴とする。
【0021】
以下、添付図面に基づいて、本発明であるガス収支測定装置、ガス収支測定装置の検定方法及びガス収支測定方法について詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明であるガス収支測定装置の第1の実施形態の概略図である。ガス収支測定装置1は、測定物8を覆う中空の密閉された測定チャンバー2と、前記測定チャンバー2の側面上部に接続したガス体が通る排気管4、及び前記測定チャンバー2の側面下部に接続したガス体が通る給気管5とを介して連結する中空のバッファーチャンバー3と、前記測定チャンバー2の内部と、前記バッファーチャンバー3の内部のガス体を循環させる循環ファン6と、ターゲットガスの濃度を測定する検出器に接続するセンサ7からなる。
【0023】
測定チャンバー2は、中空な容器2aと、蓋2bからなる。容器2aの中に、測定物を入れた後、蓋2bを閉める。測定物が小さな場合は、望ましくは密閉する。また、測定チャンバー2の素材は、測定物8の性質に合わせ、ガラス、アクリル、金属、プラスチックなどから、適宜、選択する。例えば、自然光による植物などの測定物8の光合成量を測定する場合は、光を減衰させない、透明なガラス、アクリル素材を選択する。
【0024】
ここで、測定物8とは、植物、動物、微生物、土壌、皮膚など、ガスの収支を測定することができる素材であり、目的により選択され、その測定物8の大きさに合わせ、測定チャンバー2の容積は任意に選択できる。
【0025】
バッファーチャンバー3の容積を調節することにより、従来からの問題であった、ガス濃度変化が測定物に影響する問題に対して、ガス濃度変化速度を緩和し、安定した計測ができる測定時間を確保できる。
【0026】
排気管4は、中が空洞の筒で、測定チャンバー2とバッファーチャンバー3とを連結し、ターゲットガスがその中を測定チャンバー2からバッファーチャンバー3へと流れる。
【0027】
給気管5は、中が空洞の筒で、測定チャンバー2とバッファーチャンバー3とを連結し、ターゲットガスがその中をバッファーチャンバー3から測定チャンバー2へと流れる。
【0028】
循環ファン6は、連続的に送風することができる送風機であればよい。特に、パソコン用ファンが、安定的な送風が可能でよい。なお、図中排気管4、給気管5内部に記載された矢印が、内部空間の気体の流れる方向である。
【0029】
センサ7は、ターゲットガスに合わせ、選択し、複数使用することができる。例えば、COセンサにより、植物の光合成または呼吸、土壌呼吸、動物の代謝量が計測できる。温湿度センサにより地表面からの蒸発量あるいは蒸発散量、植物の蒸散量、動物の水分蒸散量が計測できる。さらにCOセンサと温湿度センサを同時に使用すれば植物の光合成と蒸散量、動物の代謝量と蒸散量を同時に計測することが可能である。
【0030】
ここでは、センサ7は、給気管5内部に取り付けられ、内部気体の流れ方向に対して、循環ファン6より後方に位置するが、バッファーチャンバー3内部であっても、排気管4内部に挿入してもよい。循環ファン6より後方が、内部気体の濃度ムラが少ないため、より望ましい。
【0031】
本発明であるガス収支測定装置1は、ガスの循環により強制給排気となることから、測定チャンバー2の内部の濃度ムラが生じにくく、ガス収支測定装置1の内部全体のガス収支はバッファーチャンバー3のガス濃度変化速度に比例する。また、閉鎖式であるため外気の変化の影響を受けない利点を有する。
【0032】
ここで、ガス収支測定装置1を用いたガスの測定方法を説明する。測定チャンバー2およびバッファーチャンバー3は外気等で満たしておく。バッファーチャンバー3から循環ファン6により測定チャンバー2にガスが給気される。測定物8がターゲットガスを放出ないしは吸収することで、循環する空気中のターゲットガスの濃度が変化する。給気管5に設置したセンサ7によりターゲットガスの濃度変化を測定することでガス収支を測定する。
【0033】
測定チャンバー2は、測定物8に応じて有底または無底のものを使用する。循環機構のため、測定チャンバー2への供給に等しい量のガスがバッファーチャンバー3に吸引されるため、測定チャンバー2の機密性は測定にほとんど影響しない。
【0034】
ガス収支測定装置1の全体の内容積は、測定物のガス放出量ないしは吸収量をもとに使用するセンサ7の感度に合わせて決定する。測定チャンバー2は測定物に合わせて作成し、残りの容積をバッファーチャンバーの容積とする。測定物が、例えば地表面蒸発のように、測定面積で調節可能なものであれば、測定チャンバーの形状を変更して、測定面積を変えることで調節してもよい。
【実施例2】
【0035】
図2は、本発明であるガス収支測定装置の第2の実施形態の概略図である。ガス収支測定装置1aは、第1の実施形態において、測定チャンバー10が、地植えされた植物8aの周りの地表を覆う底板2cと、植物を覆う容器2aと、前記植物8aと前記底板2cとの隙間を埋めるシール部材9とからなることを特徴とするガス収支測定装置1aの構成とした。
【0036】
底板2cは、複数枚に分割(ここでは2枚)でき、植物8aの幹などを取り囲むように配置する。このとき植物8aと、底板2cの孔2dとの隙間をシール部材9で埋める。シール部材9は、測定物、測定目的に合わせ選択する。ゴム、シリコン、綿などでよい。接合部2eは、分割した底板2cの接合部分である。
【0037】
ここでは、センサ7として、COセンサ7a、温湿度センサ7bを使用している。市販のハンディータイプのものでもよい。その他構成は、第1の実施形態で説明した通りである。
【0038】
これによるガス収支測定装置1aは、地面からの影響を遮断し、地面に植生した植物などの測定物8のガス収支を測定することができる。このような場合、測定チャンバー10とバッファーチャンバー3の内部の容積比はおよそ1:5とすればよい。
【実施例3】
【0039】
図3は、本発明であるガス収支測定装置の第3の実施形態の概略図である。ガス収支測定装置1bは、地植えされた植物8aの周りの地表を覆う底板2cと、前記植物8aと前記底板2cとの隙間を埋めるシール部材9と、植物8aを覆う容器2gよりなる測定チャンバー10と、前記測定チャンバー10の側面上部又は上面に接続したガス体が通る排気管4b、及び前記測定チャンバーの側面下部に接続したガス体が通る給気管5aとを介して、排気管4bを下部に、給気管5aを側面上部又は上面に、連結する中空のバッファーチャンバー3と、前記測定チャンバー10の内部と、前記バッファーチャンバー3の内部のガス体を循環させる循環ファン6と、ターゲットガスの濃度を測定する検出器に接続するセンサ7からなる。容器2gの連結孔2fで排気間4bと接続する。
【0040】
ガス収支測定装置1bは、ガス収支測定装置1bにおいて、排気管4と給気管5の接続位置がクロスするようにしたものである。これにより、空間内部の気体の循環がスムーズになり、濃度ムラが一層解消され、優れている。特に、屋外で測定する場合、即ち外部の温度条件を管理することが出来ない環境では、測定チャンバー10、バッファーチャンバー3の内部に上昇気流が生じることから、特にこの排気管4a、給気管5aの接続方法を採用することで、ガスの濃度ムラが解消され、測定精度が増す。その他構成は、第1の実施形態で説明した通りである。
【実施例4】
【0041】
図4は、本発明であるガス収支測定装置の第4の実施形態の概略図である。ガス収支測定装置1cは、測定物を覆う中空で底が開放した測定チャンバー10aと、前記測定チャンバー10aの側面上部又は上面に接続したガス体が通る排気管4b、及び前記測定チャンバー10aの側面下部に接続したガス体が通る給気管5aとを介して連結する中空のバッファーチャンバーと、前記測定チャンバー10の内部と、前記バッファーチャンバー3の内部のガス体を循環させる循環ファン6と、ターゲットガスの濃度を測定する検出器に接続するセンサ7からなる。
【0042】
ガス収支測定装置1cは、ガス収支測定装置1bにおいて、底板2cを使用しないガス収支測定に使用するのに適している。その他構成は、第3の実施形態で説明した通りである。
【実施例5】
【0043】
図5は、バッファーチャンバーの他の形態の概略図である。バッファーチャンバー3aは、上面に換気ファン3bと、圧力開放弁3cを付加したチャンバーである。
【0044】
バッファーチャンバーの換気により、ガス収支測定装置のガスの濃度を測定初期の状態にリセットすることができ、測定物により放出または吸収されるターゲットガスの濃度変化が測定物に及ぼす影響を消去して、ガス収支を連続的に測定することができる。これらの制御は、必要に応じて、手動、タイマー、あるいはマイクロコンピュータによってセンサ7の測定値に連動させる
【0045】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明に係るガス収支測定装置は上記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得る。
【0046】
以下、上記ガス収支測定装置を用いた、検査方法、測定方法、測定結果について述べる。
【0047】
図6は、第3の実施形態を用いて本発明であるガス収支測定装置を検定した結果を示す図である。なお、横軸は蒸発量(g)、縦軸は露点温度(℃)である。
【0048】
第3の実施形態であるガス収支測定装置1cの構成について、詳細に説明する。測定チャンバー10aは、約40Lの底部が開放したプラスチック製容器2g及び孔2dが穿孔されない底板2cからなる。バッファーチャンバー3は、プラスチックの約130Lの容器と蓋からなる。排気管4b、給気管5aは、プラスチック製チューブを使用した。
【0049】
循環ファン6は、パソコン電源BOX用ファン(電圧10Vで使用)を用いた。センサ7として、ハンディータープの温湿度センサ(Extech社製、EA−20)、COセンサ(TESTO社製、535)を使用した。
【0050】
測定物として、水を採用した。検定方法は、精密天秤に蒸発皿を置き、200gの水を注ぎ、重量変化と、露点温度(絶対温度)を1分間隔で測定した。5分経過後、蒸発皿を取り除き、さらに2分間測定した。なお、外気温は、23.3℃であった。図6中の△は、蒸発皿取り除いた後、1分後、2分後の値であり、同位置にプロットされている。
【0051】
その結果、露点温度と蒸発量の相関関数は、0.9971で、ガス収支測定装置1c内部空間の湿度の均一性は極めて高いことが分かる。また、蒸発量と露点温度の関係から、ここで使用したガス収支測定装置の空間内部の実容積173Lであった。さらに、蒸発皿を取り除いた後、1分後と2分後の測定値が等しかったことから気密性に問題がなく、応答感度は、1分以下と判断された。
【0052】
なお、実容積の算出は次式による。
飽和水蒸気圧(hPa) E(t)=6.11×10^(7.5t/(t+237.3) Tetens(1930)の式
絶対湿度(g/m3) a=217×e/(t+273.15) 水蒸気の状態方程式から導かれる式
いま、蒸発質量xと露点温度yがy=bx+cの関係にあるとき、測定システムの容積V(m3)は
V=1/(1325.87*10^((7.5*(b+c)/((b+c)+237.3)))/((b+c)+273.15)-
1325.87*10^((7.5*c/(c+237.3)))/(c+273.15))で求められる。
この式に、検定によって得られた係数b=8.1724、c=8.8234を代入すると、
1/(1325.87*10^((7.5*(8.1724+8.8234)/((8.1724+8.8234)+237.3)))/((8.1724+8.8234)+273.15)-1325.87*10^((7.5*8.8234/(8.8234+237.3)))/(8.8234+273.15))
=0.173
【0053】
この結果から、本発明であるガス収支測定装置は、内部空間の実容積を測定することができ、ガス収支測定に十分な測定速度、濃度の均一性、即ち精度があると言える。なお、ここでは水を測定物としたが、既知の揮発性溶液あるいはガスと、その濃度を測定できるセンサ7を使用すれば、検定方法の測定物とし、水に限定されることなく、測定物を試験の目的に合わせて適宜選択することができる。
【0054】
図7は、第3の実施形態を用いて地植え植物(トマト)の同化速度、蒸散速度を測定したときの測定結果を示す図である。なお、横軸は経過時間(秒)、第1縦軸はCO濃度(ppm)、第2縦軸は露点温度(0.1℃間隔)である。図7中の■はCO濃度、▲は露点温度の各経過時間における値である。
【0055】
地植えトマトを測定物として、トマトの茎、葉、全ての部位の同化速度、蒸散速度を、第3の実施形態のガス収支測定装置1cを用いて圃場(屋外)で測定した。なお、底板2cは、孔2dが穿孔され、孔とトマトの茎の隙間は、トマトの葉面積に比して極めて小さい上、土壌が乾燥してガスの放出が無かったことから、そのままとした。これ以外は、図7における説明と同様なガス収支測定装置1cの構成である。
【0056】
測定方法は、センサ7として、COセンサ7a、温湿度センサ7bを用いて、30秒ごとにCO濃度(ppm)、露点温度を測定した。
【0057】
その結果、CO濃度と測定時間の相関関数は、0.9809で、極めて安定した測定ができていることが分かる。また、蒸散量と測定時間の相関関数は、0.9851で、同様に極めて安定した測定ができていることが分かる。また、同化量と蒸発量の変化の傾向は、一般に言われている変化傾向を示し、ガス収支測定装置1cで地植え植物の同化量と、蒸散量を同時に測定できることが分かった。
【0058】
これから、本発明であるガス収支測定装置は、測定場所を選ばす、簡易に、且つ精度よく地植え植物の同化量、蒸散量を測定することができると言える。また、測定チャンバー10およびバッファーチャンバー3の容積を変えることで気体濃度の変化速度を測定物およびセンサ7の感度に合うよう調節することで安定したガス収支計測を行うことが可能になる。
【0059】
図8は、第4の実施形態を用いて野菜(トマト)の同化速度、蒸散速度を連続的に長時間測定した時の測定結果を示す図である。図8(A)は同化量(g/cm2/day)であり、図8(B)は蒸散量(g/cm2/day)である。なお、横軸は(A)(B)共に測定時間を表す。
【0060】
測定物であるトマトの果実を地面に直接置き、底が開放した透明なアクリル製の容器2gで前記トマトの果実を覆い、約1日間連続的に測定を行った。
【0061】
測定方法は、センサ7として、COセンサ7a、温湿度センサ7bを用いて、約3時間ごとにCO濃度(ppm)、蒸散量を測定した。
【0062】
その結果、同化量変化と、蒸散量変化が相関している様子が、よく確認することができた。従って、このことから、本発明であるガス収支測定装置によって、有効にガス収支を測定することができると言える。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明であるガス収支測定装置の第1の実施形態の概略図である。
【図2】本発明であるガス収支測定装置の第2の実施形態の概略図である。
【図3】本発明であるガス収支測定装置の第3の実施形態の概略図である。
【図4】本発明であるガス収支測定装置の第4の実施形態の概略図である。
【図5】バッファーチャンバーの他の形態の概略図である。
【図6】第3の実施形態を用いて本発明であるガス収支測定装置を検定した結果である。
【図7】第2の実施形態を用いて地植え植物(トマト)の同化速度、蒸散速度を測定したときの測定結果である。
【図8】第4の実施形態を用いて野菜(トマト)の同化速度、蒸散速度を連続的に長時間測定した時の測定結果である。
【符号の説明】
【0064】
1 ガス収支測定装置
1a ガス収支測定装置
1b ガス収支測定装置
2 測定チャンバー
2a 容器
2b 蓋
2c 底板
2d 孔
2e 接合部
2f 連結孔
2g 容器
3 バッファーチャンバー
3a バッファーチャンバー
3b 換気ファン
3c 圧力開放弁
4 排気管
4a 排気管
4b 排気管
5 給気管
5a 給気管
6 循環ファン
7 センサ
7a COセンサ
7b 温湿度センサ
8 測定物
8a 植物
9 シール部材
10 測定チャンバー
10a測定チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物を覆い又は格納する測定チャンバーに、給気管と排気管により、バッファーチャンバーを連結し、両チャンバー内部のガスをファンを用いて循環させ、測定物がターゲットガスを放出ないしは吸収することによる、チャンバー内のターゲットガスの濃度の変化を測定するセンサからなることを特徴とするガス収支測定装置。
【請求項2】
前記装置のチャンバーの容積を変化させることで、ガス濃度変化速度をセンサの感度に合わせて調節することを特徴とする、前記装置の使用方法。
【請求項3】
前記装置のチャンバーに既知量のガスを入れ、ガスの循環によるガス濃度安定に要する時間を応答感度とし、ガスの投入量と測定値の相関係数によって、前記装置の測定精度を判定し、ガスの投入量と測定値の直線回帰式から前記装置の空間内の容積を求める前記装置の検定方法。
【請求項4】
前記装置のバッファーチャンバーに、外気の吸気ファンと圧力放出弁を付加し、バッファーチャンバーを換気することで、ターゲットガスの濃度を測定開始時の濃度にリセットして、ターゲットガスのチャンバー内の濃度変化が測定物に及ぼす影響を消去し、連続測定を可能とする機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−274908(P2007−274908A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101782(P2006−101782)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【特許番号】特許第3968728号(P3968728)
【特許公報発行日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(501174550)独立行政法人国際農林水産業研究センター (22)
【Fターム(参考)】