説明

バナジウム電解水及びその製造方法

【課題】バナジウムを含有する水において、5価バナジウムを効率よく4価バナジウムに変換する、バナジウム電解水を製造する方法、および当該バナジウム電解水の提供。
【解決手段】バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解することを特徴とするバナジウム電解水の製造方法。5価バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解することを特徴とする、4価バナジウム電解水の製造方法。バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解したことを特徴とするバナジウム電解水。5価バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解したことを特徴とする、4価バナジウム電解水。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウム電解水の製造方法に関する。さらに、本発明は、それによって得られるバナジウム電解水に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎えた今日の日本社会において、糖尿病に代表される種々の生活習慣病が大きな社会問題となっている。糖尿病は慢性化するとともに、3大合併症である糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症を併発することも多い。その場合、糖尿病患者の生活の質の低下や医療費の増大が一層深刻となる。
【0003】
糖尿病には、大きく分けて、1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)と2型糖尿病がある。前者は、すい臓でインスリンを分泌する細胞が壊れて、体内で通常必要とされるインスリン量が絶対的に不足することによって起こる。その一方、後者は、すい臓からのインスリン分泌量が少ないために起こるものと、インスリン刺激を受けて糖の取り込みを行う肝臓や筋肉のインスリン感受性が低下することによって起こるものとがある。国内の糖尿病の95%は、2型糖尿病であると言われる。
【0004】
糖尿病の治療方法としては、食事療法、運動療法、および薬物療法がある。1型糖尿病や2型糖尿病の一部の患者に対しては、インスリン投与がなされる。4価バナジウムはインスリン作用を有する無機物質として知られており、これを経口摂取することにより糖尿病の改善および予防の効果が期待できる。
【0005】
元素周期表において遷移金属に分類されるバナジウムは、多くの食品中に含まれており、例えば、ホヤ、エビ、カニ、マッシュルーム、黒コショウ、およびパセリ等に含まれる。ヒトにとって必須のミネラルとしては認められていないが、微量元素として体内に存在し、種々の化学形態をとっており、例えば、4価および5価バナジウムとして存在すると考えられている。
【0006】
上記のような食品以外に、バナジウムを含有する天然水も存在し、市販されている。
【0007】
一方で、上記の抗糖尿病作用の観点とは異なるが、バナジウムを水素吸着剤として水に添加した活性酸素消去剤の濃縮液が知られている。さらに詳しくは、炭素、白金、白金塩、金、バナジウム、またはパラジウムを水に添加し、該水を電気分解することによって、活性酸素消去活性が高く維持された活性酸素消去剤の濃縮液を製造する方法が、特許文献1に記載されている。また、原料である水の性質に応じて、定圧電気分解と定電流電気分解を切り換える電解水製造装置が、特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開2001−145880号公報
【特許文献2】特開平10−309580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
4価バナジウムはインスリン様抗糖尿病作用を有することが示唆されている。また、5価バナジウムよりも4価バナジウムの方が血糖値低下作用が優れているので、当該抗糖尿病作用も良いと期待されている。
【0009】
そこで、本発明は、バナジウムを含有する水において、5価バナジウムを効率よく4価バナジウムに変換する、バナジウム電解水を製造する方法、および当該バナジウム電解水を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のバナジウム電解水の製造方法は、バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解することを特徴とする。さらに詳しくは、本発明の4価バナジウム電解水の製造方法は、5価バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解することを特徴とする。
【0011】
本発明のバナジウム電解水は、バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解したことを特徴とする。さらに詳しくは、本発明の4価バナジウム電解水は、5価バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解したことを特徴とする。
【0012】
本発明において「バナジウム電解水」とは、バナジウムを含有する水を電気分解することによって生成する、バナジウムを含有する電解水の意味である。また、本発明における「4価バナジウム電解水」とは、4価バナジウムを含有する前記バナジウム電解水の意味である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバナジウム電解水の製造方法によれば、4価バナジウム電解水を効率よく製造することができる。さらに詳しくは、本発明のバナジウム電解水の製造方法によれば、5価バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解することで、5価バナジウムを4価バナジウムに効率よく変換した、4価バナジウム電解水を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。図1は本発明の4価バナジウム電解水を製造する方法で用いることのできる装置の1例を示した概略図である。
【0015】
図1に例示するように、本発明の方法で用いることのできる装置の主な構成は、電解槽1と、電解槽1中のバナジウム含有水に浸漬する電極である陽極2および陰極3と、該電極に通電するための電源ユニット4である。
【0016】
図1に例示した装置を用いて当該バナジウム電解水を製造する工程は次の通りである。上記装置の電解槽1にバナジウムを含有する水を導入し、該水に陽極2と陰極3とを浸漬し、当該電極に電源ユニット4から10V以上15V以下の定電圧を供給し、当該バナジウムを含有する水を定電圧電気分解することで、前記バナジウム電解水を製造することができる。
【0017】
4価バナジウム電解水を効率よく製造する観点から、定電圧電気分解が用いられ、また、その際の電圧値は10V以上15V以下である。前記定電圧電気分解によって前記4価バナジウム電解水を製造しうる理由としては、陰極表面において5価バナジウムが電子を受け取り、4価バナジウムに還元されたためと推察される。また、前記定電圧電気分解において、10V以上15V以下の範囲の定電圧が、前記4価バナジウム電解水を製造し得る理由としては、当該範囲の定電圧の印加が5価バナジウムの4価への還元と、前記電解水中の4価バナジウムの安定化に適しているためと推測される。
【0018】
以下に、装置の構成をさらに詳述する。電解槽1としては、特に制限はなく、例えば非導電性および/または耐水性のプラスチックが挙げられる。電解槽1に水を供給及び/又は排出する配管5と、電解槽1から水を供給及び/又は排出する配管6を備えていても良い。また、電解槽1は、隔膜7で隔てられて陽極室と陰極室とに分けられていても良く、該場合は陽極室に陽極2を浸漬して、陰極室には陰極3を浸漬する。隔膜7としては、特に制限はなく、例えばイオン透過膜、陽イオン不透過膜、陰イオン不透過膜又は両性膜が挙げられる。電解槽1へ浸漬する電極としては、特に制限はなく、例えば、炭素、白金、金、またはバナジウム含有の導電体を用いることができる。電源ユニット6としては、電解槽1で当該電極に通電する際に当該バナジウム含有水の定電圧電気分解を行うことができるもの、さらに詳しくは、当該定電圧電気分解を10V以上15V以下で行うことができるものであれば、特に制限はない。
【0019】
本発明で使用される水に含有されるバナジウムの由来は、採水した天然水にもともと含有されるものであっても良いし、採水した水に後から添加したものであっても良い。水にバナジウムを添加する方法としては、特に制限はないが、例えば、バナジウムを含有する化合物を水に溶解させても良いし、バナジウムを含有する電極を用いて通電し、水を電気分解する際に溶解させても良いし、これら2つの方法を併用しても良い。バナジウムを含有する化合物としては、例えば硫酸バナジウム、メタバナジン酸ナトリウムが挙げられる。また、バナジウムを含有した電極を用いて通電し、バナジウムを水に溶解させる方法として、例えば特許文献1の方法が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0021】
<装置>
図1と同じ装置構成をもつARTEC社製のSUPER WATERMINI 電解装置において、外部電源の接続が可能に改造を施した、改良隔膜型電解装置を使用して、下記の試験を行った。
【0022】
<電気分解による水特性の変化>
まず、当該定電圧電気分解による水特性の変化を測定した。測定項目は、溶存酸素(DO)、溶存水素(DH)、電気伝導率(EC)、残留塩素(Cl)、酸化還元電位(ORP)、およびpHとした。
【0023】
当該測定に用いた各装置として、溶存酸素計はワイエスアイ・ナノテック社製のModel−5100、溶存水素計は東亞デイーケーケー社製のDH35−A、電気伝導率計はHORIBA社製のES−14、残留塩素計はオルガノ社製のOR−52、酸化還元電位計はメトラートレド社製のSEVEN GO、pH計はHORIBA社製のF−22を使用した。
【0024】
前記電解装置を用いて、市販の「アサヒバナジウム天然水」を、印加電圧12V、電流0.03〜0.05A、および電解時間15分の試験条件で、定電圧電気分解を行った。該結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
上記の結果から、前記試験条件の定電圧電気分解によって、陽極側と陰極側とで、水特性が異なるように変化することが確認された。特にDO,DH,ORP値が大きく変化しており、陰極側でDH値は増加する傾向にあり、陰極側でORP値は低くなる傾向であった。一般に、DH値およびCl値はORP値の変化に連動する指標であることが知られている。
【0027】
<バナジウムの定量および定性分析>
つぎに、試料水中に含まれるバナジウムの定性および定量分析をイオンクロマトグラフィーによって行った。
【0028】
当該クロマトグラフィー用の装置として、DIONEX社製のDX−500を使用した。該装置に設置するカラムとして、DIONEX社製のIonPacCS5Aを用いた。
【0029】
イオンクロマトグラフィー測定における溶離液としては、0.5Mシュウ酸、75mM硫酸ナトリウム、95mM水酸化リチウムの組成で調製された水溶液を使用した。何れの化合物も和光純薬社製を使用した。
【0030】
当該測定における検量線作成に際しては、4価バナジウムは酸化硫酸バナジウムを希硫酸で調製したもの、5価バナジウムは和光純薬株式会社社の販売するバナジウム標準液とを混合し、バナジウム濃度を20ppbに調製した溶液(V4+5+混合溶液)を使用した。
【0031】
前記装置および溶液を使用して、ダイレクト濃縮分析法によって、前記V4+5+混合溶液および超純水を試料としたイオンクロマトグラフィーを行った。該結果をそれぞれ、図2および3に示す。
【0032】
図2のチャートでは、第一ピーク(保持時間約5分)および第二ピーク(保持時間約16分)の2つのピークが現れた。図3のチャートでは、ピークは現れなかった。
図2および3を参照すると、図2の各ピークはバナジウムに由来するものと考えられる。したがって、図2の第二ピークは5価バナジウムに由来するピークであると考えられ、図2の第一ピークは4価バナジウムに由来するピークであるという結論が得られた。
【0033】
つづいて、アサヒバナジウム天然水のイオンクロマトグラフィーを行った。該チャートを図4に示す。
図4のチャートでは、5価バナジウムに帰属されるピークのみが現れた。したがって、アサヒバナジウム天然水には4価バナジウムの含有は検出限界以下であり、一方、5価バナジウムが含有されることが確認できた。
【0034】
[実施例1]
<バナジウム天然水の定電圧電気分解>
つぎに、5価バナジウムを含有することが明らかになったアサヒバナジウム天然水を、前記電解装置を用いて定電圧電気分解を行った。該条件は、印加電圧が12Vで電解時間は15分とした。
【0035】
該定電圧電気分解で得られた、陰極室のバナジウム電解水を試料として、前述のイオンクロマトグラフィーを行った。該チャートを図5に示す。
【0036】
図5のチャートでは、4価バナジウムに帰属される相対的に大きなピークが現れたが、5価バナジウムに帰属されるピークは相対的に極めて小さいピークのみが現れた。
これらの結果から、アサヒバナジウム天然水に含有されていた5価バナジウムを、当該定電圧電気分解によって、4価バナジウムへ効率的に変換しうることが明らかとなった。
【0037】
[実施例2]
<酸化バナジウム水溶液の電気分解>
5価バナジウムを含有する水として、五酸化二バナジウムを超純水に溶解して0.5mMで調製した。該五酸化二バナジウム水溶液を、さらに超純水で10倍希釈したものを試料として、前記イオンクロマトグラフィーを行った。該チャートを図6に示す。
つぎに、当該0.5mM五酸化二バナジウム水溶液を試料として、前記電解装置を用いて定電圧電気分解を行った。該条件は、印加電圧が15Vで電解時間は15分とした。該結果得られたバナジウム電解水を、陽極室と陰極室とからそれぞれ回収し、超純水で10倍に希釈した後、前記のようにイオンクロマトグラフィーを行った。それぞれのチャートを、それぞれ図7(陽極室側)および図8(陰極室側)に示す。
【0038】
図6のチャートでは、5価バナジウムに帰属される相対的に大きなピーク(保持時間約12〜16分)が現れ、図8(陰極室側)を見ると5価バナジウムから還元されたと思われる4価バナジウムに帰属されるピークが検出された。
尚、図6〜8において、5価バナジウムに帰属されるピークの保持時間が、図2の5価バナジウムに帰属されるピークの保持時間よりも拡がっている理由として、測定試料中に含まれる5価バナジウムが高濃度であるからだと考えられる。
【0039】
以上の結果から、超純水に5酸化二バナジウムを溶解したバナジウム含有水を、前記15Vの定電圧電気分解することによって、4価バナジウム電解水を製造しうることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のバナジウム電解水を製造する方法で用いることのできる装置の一例を示した概略図
【図2】V4+5+混合溶液のイオンクロマトグラフィーのチャート
【図3】超純水のイオンクロマトグラフィーのチャート
【図4】アサヒバナジウム天然水のイオンクロマトグラフィーのチャート
【図5】アサヒバナジウム天然水を定電圧電気分解して得られた陰極室のバナジウム電解水のイオンクロマトグラフィーのチャート
【図6】0.05mM 酸化バナジウム水溶液のイオンクロマトグラフィーのチャート
【図7】陽極側のバナジウム電解水のイオンクロマトグラフィーのチャート
【図8】陰極側のバナジウム電解水のイオンクロマトグラフィーのチャート
【符号の説明】
【0041】
1 …電解槽 2 …陽極
3 …陰極 4 …電源ユニット
5 …配管 6 …配管
7 …隔膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解することを特徴とするバナジウム電解水の製造方法。
【請求項2】
5価バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解することを特徴とする、4価バナジウム電解水の製造方法。
【請求項3】
バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解したことを特徴とするバナジウム電解水。
【請求項4】
5価バナジウムを含有する水を10V以上15V以下の電圧で定電圧電気分解したことを特徴とする、4価バナジウム電解水。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−131523(P2010−131523A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309824(P2008−309824)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】