バニシングツール
【課題】外周面に段差を有するワークにおいても効率よくローラバニシング加工を行うことができるバニシングツールを提供する。
【解決手段】バニシングツール1は、バニシングローラ2をフレーム3の先端に、回動可能に軸支してなる。バニシングローラ2は、一方側端面231と外周面22との間に一方側加工角部211を有し、他方側端面232と外周面22との間に他方側加工角部212を有している。外周面22には、一方側外周面221と他方側外周面222とが形成してある。一方側加工角部211と他方側加工角部212とは、バニシングローラ2の軸線方向において、所定の間隔を介して設けてある。一方側加工角部211の最大外径は、他方側加工角部212の最大外径よりも大きい。
【解決手段】バニシングツール1は、バニシングローラ2をフレーム3の先端に、回動可能に軸支してなる。バニシングローラ2は、一方側端面231と外周面22との間に一方側加工角部211を有し、他方側端面232と外周面22との間に他方側加工角部212を有している。外周面22には、一方側外周面221と他方側外周面222とが形成してある。一方側加工角部211と他方側加工角部212とは、バニシングローラ2の軸線方向において、所定の間隔を介して設けてある。一方側加工角部211の最大外径は、他方側加工角部212の最大外径よりも大きい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラバニシング加工を行うためのバニシングツールに関する。
【背景技術】
【0002】
バイト等を用いた切削加工を行った後の加工面の面粗さを向上させる加工としては、ローラバニシング加工が知られている。ローラバニシング加工は、ワークの表面をバニシングローラで転圧して押しならすことにより、面粗さを大幅に向上させ平滑な仕上がり面を得るものである。また、ローラバニシング加工は加工面の表面を加工硬化させるため、耐久性、耐摩耗性にも優れた仕上がり面を得ることができる。
【0003】
円筒上のワークに対して、ローラバニシング加工を行うのに用いられるバニシングツールとしては、円筒状の保持軸の先端に、この保持軸の軸方向と略平行に軸方向を向けたバニシングローラを備えたものが知られている(特許文献1)。このバニシングツール91は、図10に示すごとく、バニシングローラ912の軸線が保持軸911の軸線に対して偏心すると共に、保持軸911に対してバニシングローラ912が数度の傾斜をもって配されている。バニシングツール91は、保持軸911の軸線方向とワーク99の軸線方向とが略平行となるようにして用いる。このバニシングツール91は、保持軸911の軸線方向と垂直な方向に押圧力をかけると共に、保持軸911の軸線方向にバニシングツール91を送ることで回転させたワークにローラバニシング加工を行う。
【0004】
また、図11及び図12に示すごとく、保持軸の軸方向と略直交する方向にバニシングローラの軸方向を向けたバニシングツールも知られている。このバニシングツール92は、保持軸921の軸線方向とワーク99の軸線方向とを直交させると共に、バニシングローラ922の軸線方向とワーク99の軸線方向とを平行とするようにして用いる。バニシングローラ922の形状は、円筒状をなすもの(図11)や、略そろばん玉状をなすもの(図12)がある。このバニシングツール92は、保持軸921の軸線方向に押圧力をかけると共に、バニシングローラ922の軸線方向にバニシングツール92を送ることで回転させるワークに対してローラバニシング加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−288557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のバニシングツール91においては、外周面に段差が形成されたワークにローラバニシング加工を行えない場合がある。例えば、図10に示すごとくワーク99が大径部991の両側に小径部992、992Aを有する場合、バニシングツール91の送り方向において大径部991よりも先にある小径部992Aの外周面にローラバニシング加工を行うことができない。したがって、小径部992Aにローラバニシング加工を行うためには、ワーク99の保持方向を変更したり、複数のバニシングツールを用いる必要がある。これにより、ローラバニシング加工にかかる加工時間が増大したり、設備費用が増大するおそれがある。
【0007】
また、円筒状のバニシングローラ922を用いたバニシングツール92によれば、大径部991と小径部992とからなるワーク99に対してもローラバニシング加工を行うことができる。しかし、この場合、ワーク99とバニシングローラ922の接触幅が増大するため、バニシングローラ922とワーク99とを局所的に接触させることができず、バニシングローラ922の押圧力を大きくしなければならない。
【0008】
また、略そろばん玉形状のバニシングローラ922を用いたバニシングツール92によれば、バニシングローラ922とワーク99とを局所的に接触させ大径部991の両側の小径部992、992Aを加工することはできる。しかし、バニシングローラ922の端面924から加工部923までの距離が大きくなり、小径部922、992Aの加工を行う際に、段差の端面の近傍までは加工を行うことができない。また、バニシングローラ922を傾ければ段差の端面近傍を加工ことができるが、大径部991の両側の小径部992、992Aを加工する場合はバニシングローラ922の傾き方向を変更する必要がある。そのため、この場合にもワーク99の保持方向を変更したり、複数のバニシングツールを用いる必要がある。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、外周面に段差を有するワークにおいても効率よくローラバニシング加工を行うことができるバニシングツールを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ローラバニシング加工を行うためのバニシングローラをフレームの先端に、回動可能に軸支してなり、
上記バニシングローラは、略円筒形状をなしており、その一方側端面と外周面との間に曲面状の一方側加工角部を有するとともに、他方側端面と外周面との間に曲面状の他方側加工角部を有しており、
上記外周面には、上記一方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面と、上記他方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面とが形成してあり、
上記一方側加工角部の最大外径は、上記他方側加工角部の最大外径よりも大きいことを特徴とするバニシングツールにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバニシングツールは、一方側加工角部によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワークの加工面に一方側加工角部を押し当てながら、バニシングローラの軸方向において他方側外周面の縮径方向へ移動させる。このとき、一方側加工角部の最大外径が他方側加工角部の最大外径よりも大きいため、他方側加工角部は加工面に接触しない。一方、バニシングツールは、他方側加工角部によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワークの加工面に他方側加工角部を押し当てながら、上記バニシングローラの軸方向において一方側外周面の縮径方向へ移動させる。尚、このときには、一方側加工角部を加工面の端部よりも外側に配することにより一方側加工角部は、加工面に接触しない。
【0012】
このようなバニシングツールの構成により、大径部の両側に小径部を有するワークにおいても、一方の小径部の加工には、一方側加工角部を用い、他方の小径部の加工には、他方側加工部を用いてローラバニシング加工を行うことができる。したがって、ワークの保持方向の変更や、複数のバニシングツールを用いることなく、ローラバニシング加工を行うことができる。それゆえ、ローラバニシング加工にかかる時間を短縮すると共に、設備費用を低減することができる。
【0013】
また、一方側外周面と他方側外周面を設け、一方側加工角部の送り方向を一方側外周面の縮径方向とし、他方側加工角部の送り方向を他方側外周面の縮径方向とすることにより、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。すなわち、一方側外周面及び他方側外周面を設けることにより、ワーク加工面の凸部を滑らかに押し潰すことができ、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。したがって、より良好な仕上がり面を得ることができる。
【0014】
また、一方側加工角部または他方側加工角部のいずれか一方をワークに押し当て、ローラバニシング加工を行うため、バニシングローラとワークとを局所的に接触させることができる。これにより、バニシングローラを介してワークに伝わる押圧力を安定させることができる。それゆえ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【0015】
また、一方側加工角部及び他方側加工角部は、バニシングローラの軸方向における両端に形成してある。そのため、ワークの外周面に形成された段差の端面と近い位置にバニシングツールを配することができる。これにより、段差の端面の近傍まで加工を行うことができる。
【0016】
上記のごとく、本発明によれば、外周面に段差を有するワークにおいても効率よくローラバニシング加工を行うことができるバニシングツールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、バニシングツールを示す説明図。
【図2】実施例1における、バニシングローラを示す部分拡大図。
【図3】実施例1における、第1加工面に対してローラバニシング加工を行う説明図。
【図4】実施例1における、第2加工面に対してローラバニシング加工を行う説明図。
【図5】実施例1における、第3加工面に対してローラバニシング加工を行う説明図。
【図6】比較例1における、バニシングローラ及び加工面を示す拡大断面図。
【図7】比較例1における、潰し量を示すグラフ。
【図8】実施例2における、バニシングツールを示す部分拡大図。
【図9】実施例2における、ローラ支承部の構造を変更したバニシングツールを示す部分拡大図。
【図10】背景技術における、バニシングローラの軸線と保持部の軸線が略平行なバニシングツールを示す説明図。
【図11】背景技術における、円筒状のバニシングローラを用いたバニシングツールを示す説明図。
【図12】背景技術における、そろばん玉形状のバニシングローラを用いたバニシングツールを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のバニシングツールにおいて、上記バニシングローラは、上記一方側加工角部と一方側外周面とを形成した一方側ローラと、上記他方側加工角部と他方側外周面とを形成した他方側ローラとを有していることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラの形状を単純な形状とすることができる。そのため、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラの生産性を向上させることができ、その生産コストを低減することができる。また、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラが摩耗した際には、摩耗面を研磨することで上記一方側ローラ及び上記他方側ローラを再利用することも可能となる。また、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラが損傷したり、研磨による再利用ができなくなった場合には、上記フレームに新しく上記一方側ローラ及び上記他方側ローラを取り付けて使用することができる。この場合、上記バニシングツールにかかる費用を低減することができる。
【0019】
また、上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差は、0.4mm〜1.0mmの範囲内にあることが好ましい(請求項3)。
上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差が、0.4mm未満の場合には、上記一方側加工角部と上記他方側加工角部の両方が加工面に接触するおそれがある。
また、上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差が、1.0mmを超える場合には、上記一方側加工角部又は上記一方側外周面がワーク又は、ワークを保持する部材に干渉し、上記他方側加工角部によってローラバニシング加工を行えなくなるおそれがある。
【0020】
また、上記一方側端面及び上記他方側端面は、上記バニシングローラの軸方向と垂直な平面上に形成されており、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度は、86°〜89°の範囲内にあることが好ましい(請求項4)。
上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度が86°未満の場合には、上記一方側外周面及び上記他方側外周面による潰し量が小さくなるため、上記バニシングツールの送りを大きくとれない。
また、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度が89°を超える場合には、上記加工面に接触する面積が大きくなり、バニシングローラからワークに加える押圧力大きくする必要が生じる。
【0021】
また、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度が87°〜88°の範囲内にある場合、上記バニシングツールの押圧力と送りとを最適にすることができる。それゆえ、上記加工面の凹凸における凸部を効果的かつ効率的に滑らかに押し潰すことができ、特に好ましい。
【0022】
また、上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径は、0.8mm〜1.2mmの範囲内にあることが好ましい(請求項5)。上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径が、0.8mm未満の場合には、上記加工面の凹凸における凸部を滑らかに押し潰すことができないおそれがある。
また、上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径が、1.2mmを超える場合には、上記加工面に接触する面積が大きくなり、ワークにおける段差の端面の近傍まで下降しにくくなる。
【0023】
また、上記バニシングローラの外周面には、上記フレームに配置したスプリングによる押圧力が付与されるよう構成されていることが好ましい(請求項6)。この場合には、上記バニシングツールの押圧力を一定に保つことができ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるバニシングツール1について、図1〜図5を参照して説明する。
尚、図1〜図5においては、バニシングツール1の形状等を誇張して描いてある。(後述の図6、図8及び図9も同様である)。
本例のバニシングツール1は、図1に示すごとく、ローラバニシング加工を行うためのバニシングローラ2を、ワーク7の軸線方向と直交して配されるフレーム3の先端に、回動可能に軸支してなる。バニシングローラ2は、略円筒形状をなしており、その一方側端面231と外周面22との間に曲面状の一方側加工角部211を有するとともに、他方側端面232と外周面22との間に曲面状の他方側加工角部212を有している。外周面22には、一方側加工角部211から外周面22の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面221と、他方側加工角部212から外周面22の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面222とを形成してあり、一方側加工角部211と他方側加工角部212とは、バニシングローラ2の軸線方向において、所定の間隔を介して設けてある。バニシングローラ2は、その軸線方向がワーク7の軸線方向と略同一となるように配されており、一方側加工角部211の最大外径は、他方側加工角部212の最大外径よりも大きい。
【0025】
以下、本例に示すバニシングツール1について、詳細に説明する。
本例のワーク7は、図3〜図5に示すごとく、大径部72と、この大径部72の両端に配された2つの小径部73とからなる。大径部72の最大外径は、小径部73の最大外径よりも大きく、大径部72と小径部73とは同心上に配してある。ワーク7は、円筒形状の素材に旋盤加工を施して形成されており、小径部73の外周面22において大径部72と隣り合う位置には、逃げ溝733が形成されている。本例においては、大径部72の外周面22を第1加工面721とし、後述するバニシングローラ2における他方側加工角部212が配される側の小径部73の外周面22を第2加工面731とし、他方の小径部73の外周面22を第3加工面732とした。尚、第2加工面731及び第3加工面732は、逃げ溝733を除いた外周面22を指すものである。また、ワーク7の中心軸線上には、貫通穴71が形成してあり、この貫通穴71の一端を内径チャック81により保持すると共に、他端を芯押し台(図示略)のセンタ82により支持されている。そして、内径チャック81に連結された回転駆動源(図示略)を回転させることでワーク7を回転させる。
【0026】
本例のバニシングツール1は、ワーク7の第1加工面721〜第3加工面732に対してローラバニシング加工を行うためのものである。
バニシングツール1は、図1に示すごとく、加工角部21を設けたバニシングローラ2と、該バニシングローラ2を回動可能に軸支するフレーム3とからなる。
フレーム3は、バニシングローラ2を軸支するローラ支承部31と、該ローラ支承部31と連結し、図示しない加工機の工具チャックと接続可能に構成された接続部32とからなる。
ローラ支承部31は、その下端から下方に垂下した2つの軸支部311を有しており、軸支部311には、バニシングローラ2の回動軸26を保持することができる。
【0027】
接続部32は、図1に示すごとく、上記工具チャックと連結する円筒形状の外管321と、この外管321内に先端側から挿通配置されるローラ支承部31の基部312と、外管321の内側において基部312との間に配されたスプリング323とからなる。外管321の基端側には、スプリング323からローラ支承部31の基部312にかかる付勢力を調整する調整ネジ部322が配してある。スプリング323は、その一端を調整ネジ部322の先端面に当接し、他端を基部312の基端面に当接してある。したがって、ローラ支承部31は、スプリング323により先端に向かう付勢力を受けながら保持されたフローティング構造をなしている。
【0028】
ローラ支承部31に回動可能に軸支されたバニシングローラ2は、図1及び図2に示すごとく、略円筒形状をなしている。バニシングローラ2は、その軸線方向における一端に配された一方側端面231と、該一方側端面231の反対側に配された他方側端面232と、一方側端面231と他方側端面232とを繋ぐ外周面22とを有している。一方側端面231及び他方側端面232は、バニシングローラ2の軸線方向に対して垂直な平面上に形成してある。一方側端面231と外周面22との間には、曲面状の一方側加工角部211を有しており、他方側端面232と外周面22との間には、曲面状の他方側加工角部212を有している。一方側加工角部211の曲率半径R1と、他方側加工角部212の曲率半径R2とは、共に0.8mmとした。上記のごとく、一方側加工角部211は、一方側端面231に形成されており、他方側加工角部212は、他方側端面232に形成されている。
【0029】
バニシングローラ2の外周面22には、一方側加工角部211から外周面22の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面221と、他方側加工角部212から上記外周面22の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面222とを形成してある。一方側外周面221は、一方側加工角部211をなす曲面に接する面からなり、他方側外周面222は、他方側加工角部212をなす曲面に接する面からなる。このとき、一方側端面231と一方側外周面221との間の傾斜角度θ1と、他方側端面232と他方側外周面222との間の傾斜角度θ2は、共に87°とした。
【0030】
また、一方側加工角部211の最大外径D1は36mmとし、他方側加工角部212の最大外径D2は35mmに設定してある。したがって、一方側加工角部211の最大外径は、他方側加工角部212の最大外径よりも大きく設定してある。
また、一方側加工角部211と他方側加工角部212との間の距離Lは、20mmとした。尚、距離Lは、一方側加工角部211における最大外径となる箇所と他方側加工角部212の最大外径となる箇所との間において、バニシングローラ2の軸線と平行な方向における距離を示すものである。尚、距離Lは、加工面の軸方向における長さに応じて設定することが好ましい。
【0031】
上記のごとく構成されたバニシングツール1を用いて、ローラバニシング加工を行う手順について説明する。
本例のワーク7における第1加工面721〜第3加工面732には、旋盤による前加工を施してある。この前加工における加工は、刃先の曲率半径が0.8mm、先端角が80°のバイトを用いて、ワーク7と対向する刃先側面とワーク7の軸線との間の角度を5°として、刃物台(図示略)へと取り付けてある。
【0032】
バニシングツール1は、接続部32の軸線方向がワーク7の軸線方向に対して直交するように配されると共に、バニシングローラ2の軸線方向とワーク7の軸線方向とが平行となるよう、加工機の工具チャックに保持されている。
【0033】
まず、第1加工面721に対してローラバニシング加工を行う。第1加工面721におけるローラバニシング加工は、図3に示すごとく、一方側加工角部211によって行う。加工機の工具チャックに保持されたバニシングツール1を、予め決められた第1移動始点まで移動させる。この第1移動始点は、一方側加工角部211の先端位置が、第1加工面721に対してバニシングツール1の送り方向における手前側に外れた位置で、かつワーク7の径方向において第1加工面721から1mm内側の位置となるように設定した。
【0034】
次いで、バニシングツール1を送り方向へと移動させ、第1加工面721にバニシングローラ2を当接させる。このとき、一方側外周面221が第1加工面721の端部に当接する。そして、バニシングツール1の移動に伴い、第1加工面721の端部に一方側外周面221を添わせると共に、フレーム3の接続部32におけるフローティング機構を収縮させる。さらにバニシングツール1を移動させ、一方側加工角部211が第1加工面721上に当設した状態において、接続部32は1mm収縮することとなる。接続部32において、フローティングが収縮することにより内蔵したスプリング323の付勢力がローラ支承部31へと伝達され、ワーク7に対してバニシングローラ2を押圧する押圧力が発生する。そして、バニシングらバニシングローラ2の軸線方向において他方側加工角部212側へ向けて、バニシングツール1を移動させることにより、ローラバニシング加工が行われる。
【0035】
次いで、第2加工面731に対してローラバニシング加工を行う。第2加工面731におけるローラバニシング加工は、図4に示すごとく、一方側加工角部211によって行う。加工機の工具チャックに保持されたバニシングツール1を、予め決められた第2移動始点まで移動させる。この第2移動始点は、一方側加工角部211の先端位置が、第2加工面731に隣り合って形成された逃げ溝733部上で、かつワーク7の径方向における1mm内側の位置となるように設定した。
【0036】
次いで、バニシングツール1を送り方向へと移動させる。このとき、一方側外周面221が第2加工面731の端部に当接する。そして、バニシングツール1の移動に伴い、第2加工面731の端部に一方側外周面221を添わせると共に、フレーム3の接続部32におけるフローティング機構を収縮させる。さらにバニシングツール1を移動させ、一方側加工角部211が第2加工面731上に当設した状態において、接続部32は1mm収縮することとなる。接続部32において、フローティングが収縮することにより内蔵したスプリング323の付勢力がローラ支承部31へと伝達され、ワーク7に対してバニシングローラ2を押圧する押圧力が発生する。そして、バニシングらバニシングローラ2の軸線方向において他方側加工角部212側へ向けて、バニシングツール1を移動させることにより、ローラバニシング加工が行われる。
【0037】
次いで、第3加工面732に対してローラバニシング加工を行う。第3加工面732におけるローラバニシング加工は、図5に示すごとく、他方側加工角部212によって行う。加工機の工具チャックに保持されたバニシングツール1を、予め決められた第3移動始点まで移動させる。この第3移動始点は、他方側加工角部212の先端位置が、第3加工面732に隣り合って形成された逃げ溝733部上で、かつワーク7の径方向における1mm内側の位置となるように設定した。
【0038】
次いで、バニシングツール1を送り方向へと移動させる。このとき、他方側外周面222が第3加工面732の端部に当接する。そして、バニシングツール1の移動に伴い、第3加工面732の端部に他方側外周面222を添わせると共に、フレーム3の接続部32におけるフローティング機構を収縮させる。さらにバニシングツール1を移動させ、他方側加工角部212が第3加工面732上に当設した状態において、接続部32は1mm収縮することとなる。接続部32において、フローティングが収縮することにより内蔵したスプリング323の付勢力がローラ支承部31へと伝達され、ワーク7に対してバニシングローラ2を押圧する押圧力が発生する。そして、バニシングらバニシングローラ2の軸線方向において一方側加工角部211側へ向けて、バニシングツール1を移動させることにより、ローラバニシング加工が行われる。
【0039】
次に、本例における作用効果を説明する。
バニシングツール1は、一方側加工角部211によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワーク7の第1加工面721及び第2加工面731に一方側加工角部211を押し当てながら、バニシングローラ2の軸方向において他方側外周面222の縮径方向へ移動させる。このとき、一方側加工角部211の最大外径が他方側加工角部212の最大外径よりも大きいため、他方側加工角部212は第1加工面721及び第2加工面731に接触しない。一方、バニシングツール1は、他方側加工角部212によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワーク7の第3加工面732に他方側加工角部212を押し当てながら、バニシングローラ2の軸方向において一方側外周面221の縮径方向へ移動させる。尚、このときには、一方側加工角部211を第3加工面732の端部よりも外側に配することにより一方側加工角部211は、第3加工面732に接触しない。
【0040】
このようなバニシングツール1の構成により、大径部72の両側に小径部73を有するワーク7においても、一方の小径部73の加工には、一方側加工角部211を用い、他方の小径部73の加工には、他方側加工部を用いてローラバニシング加工を行うことができる。したがって、ワーク7の保持方向の変更や、複数のバニシングツール1を用いることなく、ローラバニシング加工を行うことができる。それゆえ、ローラバニシング加工にかかる時間を短縮すると共に、設備費用を低減することができる。
【0041】
また、一方側外周面221と他方側外周面222を設け、一方側加工角部211の送り方向を一方側外周面221の縮径方向とし、他方側加工角部212の送り方向を他方側外周面222の縮径方向とすることにより、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。すなわち、一方側外周面221及び他方側外周面222を設けることにより、ワーク7における第1加工面721〜第3加工面732の凸部を滑らかに押し潰すことができ、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。したがって、より良好な仕上がり面を得ることができる。
【0042】
また、一方側加工角部211または他方側加工角部212のいずれか一方をワーク7に押し当て、ローラバニシング加工を行うため、バニシングローラ2とワーク7とを局所的に接触させることができる。これにより、バニシングローラ2を介してワーク7に伝わる押圧力を安定させることができる。それゆえ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【0043】
また、一方側加工角部211及び他方側加工角部212は、バニシングローラ2の軸方向における両端に形成してある。そのため、ワーク7の外周面に形成された段差の端面と近い位置にバニシングツール1を配することができる。これにより、段差の端面の近傍まで加工を行うことができる。
【0044】
また、一方側加工角部211の最大外径と、他方側加工角部212の最大外径との差は、1.0mmとしてある。
【0045】
また、一方側端面231及び他方側端面は、バニシングローラ2の軸方向と垂直な平面上に形成されており、一方側端面231と一方側外周面221との間の角度、及び他方側端面232と他方側外周面222との間の角度は、87°としてある。そのため、バニシングツール1の押圧力と送りとを最適にすることができる。それゆえ、加工面の凹凸における凸部を効果的かつ効率的に滑らかに押し潰すことができる。
【0046】
また、バニシングローラ2の外周面には、フレーム3に配置したスプリング323による押圧力が付与されるよう構成されている。そのため、バニシングツール1の押圧力を一定に保つことができ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【0047】
上記のごとく、本発明によれば、外周面に段差を有するワークにおいても効率よくローラバニシング加工を行うことができるバニシングツールを提供することができる。
【0048】
(確認試験)
実施例1のバニシングツール1において、バニシングローラ2の外周面22(一方側外周面221、他方側外周面222)と端部(一方側端面231、他方側端面232)との間の傾斜角度θを変化させた場合における凸部の潰し量を検証した。
本例においては、バニシングローラ2の外周面22と端部との傾斜角度θは、85°、86°、87°、88°及び89°の5つの角度に設定した。その他の構成は実施例1と同様である。
また、上記前加工の旋盤加工における、バイトの送り速度は、0.15mm/rev、0.20mm/rev及び0.25mm/revの3つの送り速度に設定した。前加工に関わるその他の条件は実施例1と同様である。
尚、上記前加工後の加工面における表面粗さは8z〜12zであり、ローラバニシング加工後の加工面における表面粗さは約3.2zとした。
【0049】
本例において、図6に示すごとく、上記前加工により形成される形成される凹凸部の底部74と頂部74との間におけるワーク7径方向の距離を高さH(mm)とした。また、加工角部21の先端が底部74に位置した際に外周面22の輪郭線と凸部の輪郭線との交点Pと底部74との間におけるワーク7径方向の距離を押圧後高さL(mm)とした。そして、高さH(mm)と押圧後高さL(mm)との差を本例における外周面22による潰し量K(mm)とした。
【0050】
図7は、外周面22の傾斜角度θと、各傾斜角度θにおける潰し量K(mm)とを示したグラフである。縦軸に潰し量K(mm)を示し、横軸に傾斜角度θを示してある。また、実線Xは、前加工における送り速度を0.15mm/revとした場合を示し、実線Yは、前加工における送り速度を0.20mm/revとした場合を示してある。また、実線Zは、前加工における送り速度を0.25mm/revとした場合を示してある。
【0051】
図7に示すグラフから、前加工における送り速度に関わらず、傾斜角度θが86°〜89°の間においてワーク7の外周面22に形成された凹凸の凸部を滑らかに潰せることがわかった。また、潰し量から、外周面22の傾斜角度θを87°〜88°の間に設定することにより、バニシングツール1の押圧力と送りとを最適にすることができ、上記加工面の凹凸における凸部を効果的かつ効率的に滑らかに押し潰すことができる。したがって、外周面22の傾斜角度θは、87°〜88°とすることが最適であることがわかった。
【0052】
(実施例2)
本例に示すバニシングツール1は、図8及び図9に示すごとく、一方側加工角部211と一方側外周面221とを形成した一方側ローラ24と、他方側加工角部212と他方側外周面222とを形成した他方側ローラ25とを有している。一方側ローラ24に形成された一方側加工角部211の形状と一方側外周面221の形状、及び他方側ローラ25に形成された他方側加工角部212の形状と他方側外周面222の形状は、実施例1と同様である。
【0053】
図8に示すバニシングツール1は、一方側ローラ24と他方側ローラ25との間にスリーブ27を挟んでフレーム3に軸視してある。
また、図9に示すバニシングツール1は、ローラ支承部31から垂下する1つのバニシングローラ2軸支部311を有している。一方側ローラ24は、バニシングローラ2軸支部311の一方の端面23に回動可能に配してあり、他方側ローラ25は、バニシングローラ2軸支部311の他方の端面23に回動可能に配してある。
その他の構成は、実施例1と同様である。
【0054】
本例のバニシングツール1において、バニシングローラ2は、一方側加工角部211と一方側外周面221とを形成した一方側ローラ24と、他方側加工角部212と他方側外周面222とを形成した他方側ローラ25とを有している。そのため、一方側ローラ24及び他方側ローラ25の形状を単純な形状とすることができる。したがって、一方側ローラ24及び他方側ローラ25の生産性を向上させることができ、その生産コストを低減することができる。また、一方側ローラ24及び他方側ローラ25が摩耗した際には、摩耗面を研磨することで一方側ローラ24及び他方側ローラ25を再利用することも可能となる。また、一方側ローラ24及び他方側ローラ25が損傷したり、研磨による再利用ができなくなった場合には、フレーム3に新しく一方側ローラ24及び他方側ローラ25を取り付けて使用することができる。この場合、バニシングツール1にかかる費用を低減することができる。
また、本例においても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 バニシングツール
2 バニシングローラ
211 一方側加工角部
212 他方側加工角部
221 一方側外周面
222 他方側外周面
231 一方側端面
232 他方側端面
3 フレーム
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラバニシング加工を行うためのバニシングツールに関する。
【背景技術】
【0002】
バイト等を用いた切削加工を行った後の加工面の面粗さを向上させる加工としては、ローラバニシング加工が知られている。ローラバニシング加工は、ワークの表面をバニシングローラで転圧して押しならすことにより、面粗さを大幅に向上させ平滑な仕上がり面を得るものである。また、ローラバニシング加工は加工面の表面を加工硬化させるため、耐久性、耐摩耗性にも優れた仕上がり面を得ることができる。
【0003】
円筒上のワークに対して、ローラバニシング加工を行うのに用いられるバニシングツールとしては、円筒状の保持軸の先端に、この保持軸の軸方向と略平行に軸方向を向けたバニシングローラを備えたものが知られている(特許文献1)。このバニシングツール91は、図10に示すごとく、バニシングローラ912の軸線が保持軸911の軸線に対して偏心すると共に、保持軸911に対してバニシングローラ912が数度の傾斜をもって配されている。バニシングツール91は、保持軸911の軸線方向とワーク99の軸線方向とが略平行となるようにして用いる。このバニシングツール91は、保持軸911の軸線方向と垂直な方向に押圧力をかけると共に、保持軸911の軸線方向にバニシングツール91を送ることで回転させたワークにローラバニシング加工を行う。
【0004】
また、図11及び図12に示すごとく、保持軸の軸方向と略直交する方向にバニシングローラの軸方向を向けたバニシングツールも知られている。このバニシングツール92は、保持軸921の軸線方向とワーク99の軸線方向とを直交させると共に、バニシングローラ922の軸線方向とワーク99の軸線方向とを平行とするようにして用いる。バニシングローラ922の形状は、円筒状をなすもの(図11)や、略そろばん玉状をなすもの(図12)がある。このバニシングツール92は、保持軸921の軸線方向に押圧力をかけると共に、バニシングローラ922の軸線方向にバニシングツール92を送ることで回転させるワークに対してローラバニシング加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−288557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のバニシングツール91においては、外周面に段差が形成されたワークにローラバニシング加工を行えない場合がある。例えば、図10に示すごとくワーク99が大径部991の両側に小径部992、992Aを有する場合、バニシングツール91の送り方向において大径部991よりも先にある小径部992Aの外周面にローラバニシング加工を行うことができない。したがって、小径部992Aにローラバニシング加工を行うためには、ワーク99の保持方向を変更したり、複数のバニシングツールを用いる必要がある。これにより、ローラバニシング加工にかかる加工時間が増大したり、設備費用が増大するおそれがある。
【0007】
また、円筒状のバニシングローラ922を用いたバニシングツール92によれば、大径部991と小径部992とからなるワーク99に対してもローラバニシング加工を行うことができる。しかし、この場合、ワーク99とバニシングローラ922の接触幅が増大するため、バニシングローラ922とワーク99とを局所的に接触させることができず、バニシングローラ922の押圧力を大きくしなければならない。
【0008】
また、略そろばん玉形状のバニシングローラ922を用いたバニシングツール92によれば、バニシングローラ922とワーク99とを局所的に接触させ大径部991の両側の小径部992、992Aを加工することはできる。しかし、バニシングローラ922の端面924から加工部923までの距離が大きくなり、小径部922、992Aの加工を行う際に、段差の端面の近傍までは加工を行うことができない。また、バニシングローラ922を傾ければ段差の端面近傍を加工ことができるが、大径部991の両側の小径部992、992Aを加工する場合はバニシングローラ922の傾き方向を変更する必要がある。そのため、この場合にもワーク99の保持方向を変更したり、複数のバニシングツールを用いる必要がある。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、外周面に段差を有するワークにおいても効率よくローラバニシング加工を行うことができるバニシングツールを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ローラバニシング加工を行うためのバニシングローラをフレームの先端に、回動可能に軸支してなり、
上記バニシングローラは、略円筒形状をなしており、その一方側端面と外周面との間に曲面状の一方側加工角部を有するとともに、他方側端面と外周面との間に曲面状の他方側加工角部を有しており、
上記外周面には、上記一方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面と、上記他方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面とが形成してあり、
上記一方側加工角部の最大外径は、上記他方側加工角部の最大外径よりも大きいことを特徴とするバニシングツールにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバニシングツールは、一方側加工角部によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワークの加工面に一方側加工角部を押し当てながら、バニシングローラの軸方向において他方側外周面の縮径方向へ移動させる。このとき、一方側加工角部の最大外径が他方側加工角部の最大外径よりも大きいため、他方側加工角部は加工面に接触しない。一方、バニシングツールは、他方側加工角部によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワークの加工面に他方側加工角部を押し当てながら、上記バニシングローラの軸方向において一方側外周面の縮径方向へ移動させる。尚、このときには、一方側加工角部を加工面の端部よりも外側に配することにより一方側加工角部は、加工面に接触しない。
【0012】
このようなバニシングツールの構成により、大径部の両側に小径部を有するワークにおいても、一方の小径部の加工には、一方側加工角部を用い、他方の小径部の加工には、他方側加工部を用いてローラバニシング加工を行うことができる。したがって、ワークの保持方向の変更や、複数のバニシングツールを用いることなく、ローラバニシング加工を行うことができる。それゆえ、ローラバニシング加工にかかる時間を短縮すると共に、設備費用を低減することができる。
【0013】
また、一方側外周面と他方側外周面を設け、一方側加工角部の送り方向を一方側外周面の縮径方向とし、他方側加工角部の送り方向を他方側外周面の縮径方向とすることにより、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。すなわち、一方側外周面及び他方側外周面を設けることにより、ワーク加工面の凸部を滑らかに押し潰すことができ、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。したがって、より良好な仕上がり面を得ることができる。
【0014】
また、一方側加工角部または他方側加工角部のいずれか一方をワークに押し当て、ローラバニシング加工を行うため、バニシングローラとワークとを局所的に接触させることができる。これにより、バニシングローラを介してワークに伝わる押圧力を安定させることができる。それゆえ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【0015】
また、一方側加工角部及び他方側加工角部は、バニシングローラの軸方向における両端に形成してある。そのため、ワークの外周面に形成された段差の端面と近い位置にバニシングツールを配することができる。これにより、段差の端面の近傍まで加工を行うことができる。
【0016】
上記のごとく、本発明によれば、外周面に段差を有するワークにおいても効率よくローラバニシング加工を行うことができるバニシングツールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、バニシングツールを示す説明図。
【図2】実施例1における、バニシングローラを示す部分拡大図。
【図3】実施例1における、第1加工面に対してローラバニシング加工を行う説明図。
【図4】実施例1における、第2加工面に対してローラバニシング加工を行う説明図。
【図5】実施例1における、第3加工面に対してローラバニシング加工を行う説明図。
【図6】比較例1における、バニシングローラ及び加工面を示す拡大断面図。
【図7】比較例1における、潰し量を示すグラフ。
【図8】実施例2における、バニシングツールを示す部分拡大図。
【図9】実施例2における、ローラ支承部の構造を変更したバニシングツールを示す部分拡大図。
【図10】背景技術における、バニシングローラの軸線と保持部の軸線が略平行なバニシングツールを示す説明図。
【図11】背景技術における、円筒状のバニシングローラを用いたバニシングツールを示す説明図。
【図12】背景技術における、そろばん玉形状のバニシングローラを用いたバニシングツールを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のバニシングツールにおいて、上記バニシングローラは、上記一方側加工角部と一方側外周面とを形成した一方側ローラと、上記他方側加工角部と他方側外周面とを形成した他方側ローラとを有していることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラの形状を単純な形状とすることができる。そのため、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラの生産性を向上させることができ、その生産コストを低減することができる。また、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラが摩耗した際には、摩耗面を研磨することで上記一方側ローラ及び上記他方側ローラを再利用することも可能となる。また、上記一方側ローラ及び上記他方側ローラが損傷したり、研磨による再利用ができなくなった場合には、上記フレームに新しく上記一方側ローラ及び上記他方側ローラを取り付けて使用することができる。この場合、上記バニシングツールにかかる費用を低減することができる。
【0019】
また、上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差は、0.4mm〜1.0mmの範囲内にあることが好ましい(請求項3)。
上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差が、0.4mm未満の場合には、上記一方側加工角部と上記他方側加工角部の両方が加工面に接触するおそれがある。
また、上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差が、1.0mmを超える場合には、上記一方側加工角部又は上記一方側外周面がワーク又は、ワークを保持する部材に干渉し、上記他方側加工角部によってローラバニシング加工を行えなくなるおそれがある。
【0020】
また、上記一方側端面及び上記他方側端面は、上記バニシングローラの軸方向と垂直な平面上に形成されており、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度は、86°〜89°の範囲内にあることが好ましい(請求項4)。
上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度が86°未満の場合には、上記一方側外周面及び上記他方側外周面による潰し量が小さくなるため、上記バニシングツールの送りを大きくとれない。
また、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度が89°を超える場合には、上記加工面に接触する面積が大きくなり、バニシングローラからワークに加える押圧力大きくする必要が生じる。
【0021】
また、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度が87°〜88°の範囲内にある場合、上記バニシングツールの押圧力と送りとを最適にすることができる。それゆえ、上記加工面の凹凸における凸部を効果的かつ効率的に滑らかに押し潰すことができ、特に好ましい。
【0022】
また、上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径は、0.8mm〜1.2mmの範囲内にあることが好ましい(請求項5)。上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径が、0.8mm未満の場合には、上記加工面の凹凸における凸部を滑らかに押し潰すことができないおそれがある。
また、上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径が、1.2mmを超える場合には、上記加工面に接触する面積が大きくなり、ワークにおける段差の端面の近傍まで下降しにくくなる。
【0023】
また、上記バニシングローラの外周面には、上記フレームに配置したスプリングによる押圧力が付与されるよう構成されていることが好ましい(請求項6)。この場合には、上記バニシングツールの押圧力を一定に保つことができ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるバニシングツール1について、図1〜図5を参照して説明する。
尚、図1〜図5においては、バニシングツール1の形状等を誇張して描いてある。(後述の図6、図8及び図9も同様である)。
本例のバニシングツール1は、図1に示すごとく、ローラバニシング加工を行うためのバニシングローラ2を、ワーク7の軸線方向と直交して配されるフレーム3の先端に、回動可能に軸支してなる。バニシングローラ2は、略円筒形状をなしており、その一方側端面231と外周面22との間に曲面状の一方側加工角部211を有するとともに、他方側端面232と外周面22との間に曲面状の他方側加工角部212を有している。外周面22には、一方側加工角部211から外周面22の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面221と、他方側加工角部212から外周面22の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面222とを形成してあり、一方側加工角部211と他方側加工角部212とは、バニシングローラ2の軸線方向において、所定の間隔を介して設けてある。バニシングローラ2は、その軸線方向がワーク7の軸線方向と略同一となるように配されており、一方側加工角部211の最大外径は、他方側加工角部212の最大外径よりも大きい。
【0025】
以下、本例に示すバニシングツール1について、詳細に説明する。
本例のワーク7は、図3〜図5に示すごとく、大径部72と、この大径部72の両端に配された2つの小径部73とからなる。大径部72の最大外径は、小径部73の最大外径よりも大きく、大径部72と小径部73とは同心上に配してある。ワーク7は、円筒形状の素材に旋盤加工を施して形成されており、小径部73の外周面22において大径部72と隣り合う位置には、逃げ溝733が形成されている。本例においては、大径部72の外周面22を第1加工面721とし、後述するバニシングローラ2における他方側加工角部212が配される側の小径部73の外周面22を第2加工面731とし、他方の小径部73の外周面22を第3加工面732とした。尚、第2加工面731及び第3加工面732は、逃げ溝733を除いた外周面22を指すものである。また、ワーク7の中心軸線上には、貫通穴71が形成してあり、この貫通穴71の一端を内径チャック81により保持すると共に、他端を芯押し台(図示略)のセンタ82により支持されている。そして、内径チャック81に連結された回転駆動源(図示略)を回転させることでワーク7を回転させる。
【0026】
本例のバニシングツール1は、ワーク7の第1加工面721〜第3加工面732に対してローラバニシング加工を行うためのものである。
バニシングツール1は、図1に示すごとく、加工角部21を設けたバニシングローラ2と、該バニシングローラ2を回動可能に軸支するフレーム3とからなる。
フレーム3は、バニシングローラ2を軸支するローラ支承部31と、該ローラ支承部31と連結し、図示しない加工機の工具チャックと接続可能に構成された接続部32とからなる。
ローラ支承部31は、その下端から下方に垂下した2つの軸支部311を有しており、軸支部311には、バニシングローラ2の回動軸26を保持することができる。
【0027】
接続部32は、図1に示すごとく、上記工具チャックと連結する円筒形状の外管321と、この外管321内に先端側から挿通配置されるローラ支承部31の基部312と、外管321の内側において基部312との間に配されたスプリング323とからなる。外管321の基端側には、スプリング323からローラ支承部31の基部312にかかる付勢力を調整する調整ネジ部322が配してある。スプリング323は、その一端を調整ネジ部322の先端面に当接し、他端を基部312の基端面に当接してある。したがって、ローラ支承部31は、スプリング323により先端に向かう付勢力を受けながら保持されたフローティング構造をなしている。
【0028】
ローラ支承部31に回動可能に軸支されたバニシングローラ2は、図1及び図2に示すごとく、略円筒形状をなしている。バニシングローラ2は、その軸線方向における一端に配された一方側端面231と、該一方側端面231の反対側に配された他方側端面232と、一方側端面231と他方側端面232とを繋ぐ外周面22とを有している。一方側端面231及び他方側端面232は、バニシングローラ2の軸線方向に対して垂直な平面上に形成してある。一方側端面231と外周面22との間には、曲面状の一方側加工角部211を有しており、他方側端面232と外周面22との間には、曲面状の他方側加工角部212を有している。一方側加工角部211の曲率半径R1と、他方側加工角部212の曲率半径R2とは、共に0.8mmとした。上記のごとく、一方側加工角部211は、一方側端面231に形成されており、他方側加工角部212は、他方側端面232に形成されている。
【0029】
バニシングローラ2の外周面22には、一方側加工角部211から外周面22の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面221と、他方側加工角部212から上記外周面22の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面222とを形成してある。一方側外周面221は、一方側加工角部211をなす曲面に接する面からなり、他方側外周面222は、他方側加工角部212をなす曲面に接する面からなる。このとき、一方側端面231と一方側外周面221との間の傾斜角度θ1と、他方側端面232と他方側外周面222との間の傾斜角度θ2は、共に87°とした。
【0030】
また、一方側加工角部211の最大外径D1は36mmとし、他方側加工角部212の最大外径D2は35mmに設定してある。したがって、一方側加工角部211の最大外径は、他方側加工角部212の最大外径よりも大きく設定してある。
また、一方側加工角部211と他方側加工角部212との間の距離Lは、20mmとした。尚、距離Lは、一方側加工角部211における最大外径となる箇所と他方側加工角部212の最大外径となる箇所との間において、バニシングローラ2の軸線と平行な方向における距離を示すものである。尚、距離Lは、加工面の軸方向における長さに応じて設定することが好ましい。
【0031】
上記のごとく構成されたバニシングツール1を用いて、ローラバニシング加工を行う手順について説明する。
本例のワーク7における第1加工面721〜第3加工面732には、旋盤による前加工を施してある。この前加工における加工は、刃先の曲率半径が0.8mm、先端角が80°のバイトを用いて、ワーク7と対向する刃先側面とワーク7の軸線との間の角度を5°として、刃物台(図示略)へと取り付けてある。
【0032】
バニシングツール1は、接続部32の軸線方向がワーク7の軸線方向に対して直交するように配されると共に、バニシングローラ2の軸線方向とワーク7の軸線方向とが平行となるよう、加工機の工具チャックに保持されている。
【0033】
まず、第1加工面721に対してローラバニシング加工を行う。第1加工面721におけるローラバニシング加工は、図3に示すごとく、一方側加工角部211によって行う。加工機の工具チャックに保持されたバニシングツール1を、予め決められた第1移動始点まで移動させる。この第1移動始点は、一方側加工角部211の先端位置が、第1加工面721に対してバニシングツール1の送り方向における手前側に外れた位置で、かつワーク7の径方向において第1加工面721から1mm内側の位置となるように設定した。
【0034】
次いで、バニシングツール1を送り方向へと移動させ、第1加工面721にバニシングローラ2を当接させる。このとき、一方側外周面221が第1加工面721の端部に当接する。そして、バニシングツール1の移動に伴い、第1加工面721の端部に一方側外周面221を添わせると共に、フレーム3の接続部32におけるフローティング機構を収縮させる。さらにバニシングツール1を移動させ、一方側加工角部211が第1加工面721上に当設した状態において、接続部32は1mm収縮することとなる。接続部32において、フローティングが収縮することにより内蔵したスプリング323の付勢力がローラ支承部31へと伝達され、ワーク7に対してバニシングローラ2を押圧する押圧力が発生する。そして、バニシングらバニシングローラ2の軸線方向において他方側加工角部212側へ向けて、バニシングツール1を移動させることにより、ローラバニシング加工が行われる。
【0035】
次いで、第2加工面731に対してローラバニシング加工を行う。第2加工面731におけるローラバニシング加工は、図4に示すごとく、一方側加工角部211によって行う。加工機の工具チャックに保持されたバニシングツール1を、予め決められた第2移動始点まで移動させる。この第2移動始点は、一方側加工角部211の先端位置が、第2加工面731に隣り合って形成された逃げ溝733部上で、かつワーク7の径方向における1mm内側の位置となるように設定した。
【0036】
次いで、バニシングツール1を送り方向へと移動させる。このとき、一方側外周面221が第2加工面731の端部に当接する。そして、バニシングツール1の移動に伴い、第2加工面731の端部に一方側外周面221を添わせると共に、フレーム3の接続部32におけるフローティング機構を収縮させる。さらにバニシングツール1を移動させ、一方側加工角部211が第2加工面731上に当設した状態において、接続部32は1mm収縮することとなる。接続部32において、フローティングが収縮することにより内蔵したスプリング323の付勢力がローラ支承部31へと伝達され、ワーク7に対してバニシングローラ2を押圧する押圧力が発生する。そして、バニシングらバニシングローラ2の軸線方向において他方側加工角部212側へ向けて、バニシングツール1を移動させることにより、ローラバニシング加工が行われる。
【0037】
次いで、第3加工面732に対してローラバニシング加工を行う。第3加工面732におけるローラバニシング加工は、図5に示すごとく、他方側加工角部212によって行う。加工機の工具チャックに保持されたバニシングツール1を、予め決められた第3移動始点まで移動させる。この第3移動始点は、他方側加工角部212の先端位置が、第3加工面732に隣り合って形成された逃げ溝733部上で、かつワーク7の径方向における1mm内側の位置となるように設定した。
【0038】
次いで、バニシングツール1を送り方向へと移動させる。このとき、他方側外周面222が第3加工面732の端部に当接する。そして、バニシングツール1の移動に伴い、第3加工面732の端部に他方側外周面222を添わせると共に、フレーム3の接続部32におけるフローティング機構を収縮させる。さらにバニシングツール1を移動させ、他方側加工角部212が第3加工面732上に当設した状態において、接続部32は1mm収縮することとなる。接続部32において、フローティングが収縮することにより内蔵したスプリング323の付勢力がローラ支承部31へと伝達され、ワーク7に対してバニシングローラ2を押圧する押圧力が発生する。そして、バニシングらバニシングローラ2の軸線方向において一方側加工角部211側へ向けて、バニシングツール1を移動させることにより、ローラバニシング加工が行われる。
【0039】
次に、本例における作用効果を説明する。
バニシングツール1は、一方側加工角部211によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワーク7の第1加工面721及び第2加工面731に一方側加工角部211を押し当てながら、バニシングローラ2の軸方向において他方側外周面222の縮径方向へ移動させる。このとき、一方側加工角部211の最大外径が他方側加工角部212の最大外径よりも大きいため、他方側加工角部212は第1加工面721及び第2加工面731に接触しない。一方、バニシングツール1は、他方側加工角部212によってローラバニシング加工を行う際には、回転するワーク7の第3加工面732に他方側加工角部212を押し当てながら、バニシングローラ2の軸方向において一方側外周面221の縮径方向へ移動させる。尚、このときには、一方側加工角部211を第3加工面732の端部よりも外側に配することにより一方側加工角部211は、第3加工面732に接触しない。
【0040】
このようなバニシングツール1の構成により、大径部72の両側に小径部73を有するワーク7においても、一方の小径部73の加工には、一方側加工角部211を用い、他方の小径部73の加工には、他方側加工部を用いてローラバニシング加工を行うことができる。したがって、ワーク7の保持方向の変更や、複数のバニシングツール1を用いることなく、ローラバニシング加工を行うことができる。それゆえ、ローラバニシング加工にかかる時間を短縮すると共に、設備費用を低減することができる。
【0041】
また、一方側外周面221と他方側外周面222を設け、一方側加工角部211の送り方向を一方側外周面221の縮径方向とし、他方側加工角部212の送り方向を他方側外周面222の縮径方向とすることにより、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。すなわち、一方側外周面221及び他方側外周面222を設けることにより、ワーク7における第1加工面721〜第3加工面732の凸部を滑らかに押し潰すことができ、効果的にローラバニシング加工を行うことができる。したがって、より良好な仕上がり面を得ることができる。
【0042】
また、一方側加工角部211または他方側加工角部212のいずれか一方をワーク7に押し当て、ローラバニシング加工を行うため、バニシングローラ2とワーク7とを局所的に接触させることができる。これにより、バニシングローラ2を介してワーク7に伝わる押圧力を安定させることができる。それゆえ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【0043】
また、一方側加工角部211及び他方側加工角部212は、バニシングローラ2の軸方向における両端に形成してある。そのため、ワーク7の外周面に形成された段差の端面と近い位置にバニシングツール1を配することができる。これにより、段差の端面の近傍まで加工を行うことができる。
【0044】
また、一方側加工角部211の最大外径と、他方側加工角部212の最大外径との差は、1.0mmとしてある。
【0045】
また、一方側端面231及び他方側端面は、バニシングローラ2の軸方向と垂直な平面上に形成されており、一方側端面231と一方側外周面221との間の角度、及び他方側端面232と他方側外周面222との間の角度は、87°としてある。そのため、バニシングツール1の押圧力と送りとを最適にすることができる。それゆえ、加工面の凹凸における凸部を効果的かつ効率的に滑らかに押し潰すことができる。
【0046】
また、バニシングローラ2の外周面には、フレーム3に配置したスプリング323による押圧力が付与されるよう構成されている。そのため、バニシングツール1の押圧力を一定に保つことができ、均一な仕上がり面を得ることができる。
【0047】
上記のごとく、本発明によれば、外周面に段差を有するワークにおいても効率よくローラバニシング加工を行うことができるバニシングツールを提供することができる。
【0048】
(確認試験)
実施例1のバニシングツール1において、バニシングローラ2の外周面22(一方側外周面221、他方側外周面222)と端部(一方側端面231、他方側端面232)との間の傾斜角度θを変化させた場合における凸部の潰し量を検証した。
本例においては、バニシングローラ2の外周面22と端部との傾斜角度θは、85°、86°、87°、88°及び89°の5つの角度に設定した。その他の構成は実施例1と同様である。
また、上記前加工の旋盤加工における、バイトの送り速度は、0.15mm/rev、0.20mm/rev及び0.25mm/revの3つの送り速度に設定した。前加工に関わるその他の条件は実施例1と同様である。
尚、上記前加工後の加工面における表面粗さは8z〜12zであり、ローラバニシング加工後の加工面における表面粗さは約3.2zとした。
【0049】
本例において、図6に示すごとく、上記前加工により形成される形成される凹凸部の底部74と頂部74との間におけるワーク7径方向の距離を高さH(mm)とした。また、加工角部21の先端が底部74に位置した際に外周面22の輪郭線と凸部の輪郭線との交点Pと底部74との間におけるワーク7径方向の距離を押圧後高さL(mm)とした。そして、高さH(mm)と押圧後高さL(mm)との差を本例における外周面22による潰し量K(mm)とした。
【0050】
図7は、外周面22の傾斜角度θと、各傾斜角度θにおける潰し量K(mm)とを示したグラフである。縦軸に潰し量K(mm)を示し、横軸に傾斜角度θを示してある。また、実線Xは、前加工における送り速度を0.15mm/revとした場合を示し、実線Yは、前加工における送り速度を0.20mm/revとした場合を示してある。また、実線Zは、前加工における送り速度を0.25mm/revとした場合を示してある。
【0051】
図7に示すグラフから、前加工における送り速度に関わらず、傾斜角度θが86°〜89°の間においてワーク7の外周面22に形成された凹凸の凸部を滑らかに潰せることがわかった。また、潰し量から、外周面22の傾斜角度θを87°〜88°の間に設定することにより、バニシングツール1の押圧力と送りとを最適にすることができ、上記加工面の凹凸における凸部を効果的かつ効率的に滑らかに押し潰すことができる。したがって、外周面22の傾斜角度θは、87°〜88°とすることが最適であることがわかった。
【0052】
(実施例2)
本例に示すバニシングツール1は、図8及び図9に示すごとく、一方側加工角部211と一方側外周面221とを形成した一方側ローラ24と、他方側加工角部212と他方側外周面222とを形成した他方側ローラ25とを有している。一方側ローラ24に形成された一方側加工角部211の形状と一方側外周面221の形状、及び他方側ローラ25に形成された他方側加工角部212の形状と他方側外周面222の形状は、実施例1と同様である。
【0053】
図8に示すバニシングツール1は、一方側ローラ24と他方側ローラ25との間にスリーブ27を挟んでフレーム3に軸視してある。
また、図9に示すバニシングツール1は、ローラ支承部31から垂下する1つのバニシングローラ2軸支部311を有している。一方側ローラ24は、バニシングローラ2軸支部311の一方の端面23に回動可能に配してあり、他方側ローラ25は、バニシングローラ2軸支部311の他方の端面23に回動可能に配してある。
その他の構成は、実施例1と同様である。
【0054】
本例のバニシングツール1において、バニシングローラ2は、一方側加工角部211と一方側外周面221とを形成した一方側ローラ24と、他方側加工角部212と他方側外周面222とを形成した他方側ローラ25とを有している。そのため、一方側ローラ24及び他方側ローラ25の形状を単純な形状とすることができる。したがって、一方側ローラ24及び他方側ローラ25の生産性を向上させることができ、その生産コストを低減することができる。また、一方側ローラ24及び他方側ローラ25が摩耗した際には、摩耗面を研磨することで一方側ローラ24及び他方側ローラ25を再利用することも可能となる。また、一方側ローラ24及び他方側ローラ25が損傷したり、研磨による再利用ができなくなった場合には、フレーム3に新しく一方側ローラ24及び他方側ローラ25を取り付けて使用することができる。この場合、バニシングツール1にかかる費用を低減することができる。
また、本例においても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 バニシングツール
2 バニシングローラ
211 一方側加工角部
212 他方側加工角部
221 一方側外周面
222 他方側外周面
231 一方側端面
232 他方側端面
3 フレーム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラバニシング加工を行うためのバニシングローラをフレームの先端に、回動可能に軸支してなり、
上記バニシングローラは、略円筒形状をなしており、その一方側端面と外周面との間に曲面状の一方側加工角部を有するとともに、他方側端面と外周面との間に曲面状の他方側加工角部を有しており、
上記外周面には、上記一方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面と、上記他方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面とが形成してあり、
上記一方側加工角部の最大外径は、上記他方側加工角部の最大外径よりも大きいことを特徴とするバニシングツール。
【請求項2】
請求項1に記載のバニシングツールにおいて、上記バニシングローラは、上記一方側加工角部と一方側外周面とを形成した一方側ローラと、上記他方側加工角部と他方側外周面とを形成した他方側ローラとを有していることを特徴とするバニシングツール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバニシングツールにおいて、上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差は、0.4mm〜1.0mmの範囲内にあることを特徴とするバニシングツール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のバニシングツールにおいて、上記一方側端面及び上記他方側端面は、上記バニシングローラの軸方向と垂直な平面上に形成されており、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度は、86°〜89°の範囲内にあることを特徴とするバニシングツール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のバニシングツールにおいて、上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径は、0.8mm〜1.2mmの範囲内にあることを特徴とするバニシングツール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のバニシングツールにおいて、上記バニシングローラの外周面には、上記フレームに配置したスプリングによる押圧力が付与されるよう構成されていることを特徴とするバニシングツール。
【請求項1】
ローラバニシング加工を行うためのバニシングローラをフレームの先端に、回動可能に軸支してなり、
上記バニシングローラは、略円筒形状をなしており、その一方側端面と外周面との間に曲面状の一方側加工角部を有するとともに、他方側端面と外周面との間に曲面状の他方側加工角部を有しており、
上記外周面には、上記一方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する一方側外周面と、上記他方側加工角部から上記外周面の軸方向内側に向けて縮径する他方側外周面とが形成してあり、
上記一方側加工角部の最大外径は、上記他方側加工角部の最大外径よりも大きいことを特徴とするバニシングツール。
【請求項2】
請求項1に記載のバニシングツールにおいて、上記バニシングローラは、上記一方側加工角部と一方側外周面とを形成した一方側ローラと、上記他方側加工角部と他方側外周面とを形成した他方側ローラとを有していることを特徴とするバニシングツール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバニシングツールにおいて、上記一方側加工角部の最大外径と、上記他方側加工角部の最大外径との差は、0.4mm〜1.0mmの範囲内にあることを特徴とするバニシングツール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のバニシングツールにおいて、上記一方側端面及び上記他方側端面は、上記バニシングローラの軸方向と垂直な平面上に形成されており、上記一方側端面と上記一方側外周面との間の角度、及び上記他方側端面と上記他方側外周面との間の角度は、86°〜89°の範囲内にあることを特徴とするバニシングツール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のバニシングツールにおいて、上記一方側加工角部及び上記他方側加工角部の曲率半径は、0.8mm〜1.2mmの範囲内にあることを特徴とするバニシングツール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のバニシングツールにおいて、上記バニシングローラの外周面には、上記フレームに配置したスプリングによる押圧力が付与されるよう構成されていることを特徴とするバニシングツール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−210669(P2012−210669A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76961(P2011−76961)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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