説明

バニリン、オイゲノール、マルトールまたはそれら類縁化合物を酸化重合させて得られるリパーゼ阻害剤

【課題】食経験等ヒトへの使用経験が豊富な単量体を原料とし、優れたリパーゼ阻害活性を示す重合体を提供する。
【解決手段】本発明の重合体は、バニリン、オイゲノール、マルトールまたはそれらの類縁化合物を酸化重合して得られる。バニリンの類縁化合物は、所定のフェニル化合物であり、オイゲノールの類縁化合物は、所定のフェノール誘導体であり、マルトールの類縁化合物は、所定のマルトール誘導体である。酸化重合をする際に、オキシダーゼまたはペルオキシダーゼを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バニリン、オイゲノール、マルトールまたはそれら類縁化合物を酸化重合させて得られ、リパーゼ阻害活性を示す重合体、ならびにこれを含有したリパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病の有病者、その予備群の人口が増加の一途を辿り、国民の健康に対する大きな脅威となっている。
糖尿病等に代表される生活習慣病は、遺伝因子と環境因子の相乗作用により発症し、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化および動脈硬化を原因とした脳血管障害、心臓病等の合併症・重症化による深刻な疾患に進行することが多い。
このような合併症・重症化を引き起こすまでには、エネルギー・食塩・脂肪等の過剰摂取や運動不足等の不適切な生活習慣の継続により、肥満や高血糖等の予備群の初期段階から、内臓脂肪症候群(以下、メタボリックシンドロームということがある)としての生活習慣病の段階へ、さらに重症化・合併症を引き起こす深刻な段階へと進行していく。
このような状況下、生活習慣病の前症状であるメタボリックシンドローム段階での予防が注目されている。
【0003】
メタボリックシンドロームの予防策として重要なのが肥満対策である。問題となる内臓脂肪型肥満の主たる要因は、栄養脂肪の過剰摂取にある。また、栄養脂肪の過剰摂取は、肥満のみならず、肥満に起因する糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化等を発症させることが知られている。
【0004】
肥満を予防するためには、食事制限により摂取カロリーを減らすことが有効な手段ではあるものの、日常生活において実行することは困難である場合が多い。
食物中の脂肪が体内に吸収されることを安全かつ健康的に抑制することは、肥満及びそれに関連する疾患の治療あるいは健康増進の目的で、現実的で有用な方策であると考えられる。
【0005】
食物中の脂肪は、膵臓が分泌するリパーゼの作用により分解され、小腸から吸収される。そのため、膵臓リパーゼの酵素活性を阻害するリパーゼ阻害剤を用いて、食物中の脂肪分の分解を抑制することで体内への脂肪分の吸収を防ぎ、肥満等の病態を予防あるいは改善することができる。
【0006】
特許文献1には、茶に含まれる種々のポリフェノールのリパーゼ阻害活性を評価した結果、プロアントシアニジン類、特にガレート基を有するプロアントシアニジン類が強いリパーゼ阻害活性を有すると記載されている。特許文献2には、茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)の二量体がリパーゼ阻害活性を有すると記載されている。特許文献3には、ショウガ科ウコン(Curcuma longa L.)の根茎に由来するクルクミンにリパーゼ阻害作用があることが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、精製ポリフェノールを酸化重合することにより合成されるポリフェノール重合物を含有するリパーゼ阻害剤が記載されている。具体例としては、ナリンギン、αG−ヘスペリジン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、フロリジン、レスベラトロール、ロスマリン酸、それらを含有する抽出物の重合体が、一定のリパーゼ阻害活性を有することが開示されている。
【0008】
しかしながら、食品等に含有させて利用するには精製された高純度原料から得られるリパーゼ阻害剤よりも常食される天然物を原料としたリパーゼ阻害剤のほうが一般消費者に好まれる場合も考えられる。
【0009】
天然物としては、特許文献5、特許文献6に各種植物抽出物のリパーゼ阻害活性が開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの植物抽出物の中には安定的かつ安価に大量に調達することが困難なものが多く、また食経験等ヒトへの使用経験が不十分で安全性に問題があるものが多い。さらに、これら植物抽出物はほとんどが独特の苦味・渋味等好ましからざる風味を有し、飲食品等への添加量が制限され十分効果が期待できる製品を作ることが難しい。そのため、風味を改良するために加工すると、コストの増大を招く問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−1909号公報
【特許文献2】特開2006−16367号公報
【特許文献3】特開2004−137190号公報
【特許文献4】特開2008−253256号公報
【特許文献5】特開2003−192605号公報
【特許文献6】特開2005−8572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、食経験等ヒトへの使用経験が豊富な単量体を原料とし、優れたリパーゼ阻害活性を示す重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、食経験等ヒトへの使用経験が豊富で、優れた風味を有するバニリン、オイゲノール、マルトールまたはそれら類縁化合物を酸化重合して得られる重合体は、高いリパーゼ阻害活性を有するという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) バニリン、オイゲノール、マルトールまたはそれらの類縁化合物を酸化重合して得られる重合体。
(2) 前記バニリンまたはその類縁化合物が、下記一般式(A)で表されるフェニル化合物である前記(1)に記載の重合体。
【化1】


(式中のR1は、アルデヒド基またはカルボキシル基の官能基を示し、R2〜R4のうち少なくとも2箇所以上は、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基またはグリコシド結合した糖より選ばれる同一または異なる官能基を示す。)
(3) 前記バニリンの類縁化合物が、イソバニリン、オルトバニリン、バニリン酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンズアルデヒド、2−ヒドロキシ−5−メチルベンズアルデヒド、オルシノールである前記(1)または(2)に記載の重合体
(4) 前記オイゲノールまたはその類縁化合物が、下記一般式(B)で表されるフェノール誘導体である前記(1)に記載の重合体。
【化2】


(式中のR5およびR6はアルキル基、水酸基、アルコキシ基より選ばれる同一または異なる官能基を示す。)
(5) 前記オイゲノールの類縁化合物が、バニトロープまたはオイゲノールである前記(1)または(4)に記載の重合体。
(6) 前記マルトールまたはその類縁化合物が、下記一般式(C)で表されるマルトール誘導体である前記(1)に記載の重合体。
【化3】


(式中のR7は、アルキル基を示す。)
(7) 前記マルトールの類縁化合物が、マルトール、またはエチルマルトースである前記(1)または(6)に記載の重合体。
(8) 前記酸化重合が、オキシダーゼまたはペルオキシダーゼを用いて行われる前記(1)〜(7)のいずれかに記載の重合体。
(9) 飲食料、動物飼料、香料、医薬組成物、化粧料または外用薬の形態で使用される前記(1)〜(8)のいずれかに記載の重合体。
(10) 前記(1)〜(8)のいずれかに記載の重合体を含有するリパーゼ阻害剤。
(11) 前記(1)〜(8)のいずれかに記載の重合体を有効成分として含有するリパーゼ阻害剤の飲食料、動物飼料、香料、医薬組成物、化粧料または外用薬の形態での使用。
(12) 前記(1)〜(8)のいずれかに記載の重合体を含有する抗肥満剤。
(13) 前記(1)〜(8)のいずれかに記載の重合体を含有する皮膚保全剤。
(14) 前記(1)〜(8)のいずれかに記載の重合体の食品、香料、医薬組成物、化粧品または動物用飼料への使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、強いリパーゼ阻害活性を有し、原料が有する独特のオフフレーバー(苦味・渋味等このましくない風味)のない重合体を提供できる。そのため、食品等への添加量が制限されないので、これを食品(飲食料等)、香料、医薬組成物、動物用飼料等に含有させることにより、食物中の脂肪の分解を抑制でき、体内への脂質吸収阻害作用、抗肥満作用が充分に発揮される食品等を提供でき、メタボリックシンドロームの予防の手段として、特に肥満対策に有用であり、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化および動脈硬化を原因とした脳血管障害、心臓病等の重症化・合併症を引き起こす深刻な段階への進行を予防する効果が期待される。さらに、高い皮膚保全作用をも有するので、皮膚の保全を目的とする、化粧料または外用薬等に幅広く利用することができる。
また、本発明の重合体の原料は、食品等として使用経験が豊富な天然物であるため、本発明の重合体はヒトや動物に対する安全性が高いという効果があり、香料や香辛料抽出物を製造後に発生する残渣を利用することもできるので入手が容易であるため、安価に調達できる利点が挙げられる。さらに、香料等に用いられる素材であるので、他の天然物にくらべ風味がマイルドである点も有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の重合体は、バニリン、オイゲノール、マルトールおよびそれら類縁化合物(以下、単量体という)を酸化重合して得られる。単量体は優れた風味を有することから、得られる重合体の風味はマイルドである。
【0017】
バニリンまたはその類縁化合物としては、前記一般式(A)で表されるフェニル化合物であり、具体的には、バニリン(4-Hydroxy-3-methoxybenzaldehyde、CAS:121-33-5)、イソバニリン(3-Hydroxy-4-methoxybenzaldehyde、CAS:621-59-0)、オルトバニリン(2-Hydroxy-3-methoxybenzaldehyde、CAS:148-53-8)、バニリン酸(4-Hydroxy-3-methoxybenzoic acid、CAS:121-34-6)、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンズアルデヒド(4-hydroxy-3,5-Dimethylbenzaldehyde、CAS:2233-18-3)、2−ヒドロキシ−5−メチルベンズアルデヒド(2-Hydroxy-5-methylbenzaldehyde、CAS:613-84-3)またはオルシノール(1,3-Dihydroxy-5-methylbenzene、CAS:504-15-4)等が挙げられる。
【0018】
前記一般式(A)で表させるフェニル化合物は、食経験等ヒトへの使用経験が豊富な天然物として、バニラ豆、安息香、アスパラガス等から得られる。これら天然物は、優れた風味を有する。
【0019】
オイゲノールまたはその類縁化合物としては、前記一般式(B)で表されるフェノール誘導体であり、具体的には、バニトロープ(trans-2-Ethoxy-5-(1-propenyl)phenol、CAS:94-86-0)またはオイゲノール(2-Methoxy-4-(2-propenyl)phenol、CAS:97-53-0)等が挙げられる。
【0020】
前記一般式(B)で表させるフェノール誘導体は、食経験等ヒトへの使用経験が豊富な天然物として、丁子油、シナモン葉油、メボウキ油等から得られる。これら天然物は、優れた風味を有する。
【0021】
前記マルトールまたはその類縁化合物としては、前記一般式(C)で表されるマルトール誘導体であり、具体的には、マルトール(3-Hydroxy-2-methyl-4H-pyran-4-one、CAS:118-71-8)またはエチルマルトース(2-Ethyl-3-hydroxy-4H-pyran-4-one、CAS:4940-11-8)等が挙げられる。
【0022】
前記一般式(C)で表させるマルトール誘導体は、食経験等ヒトへの使用経験が豊富な天然物として、イチゴ、大麦、カカオ、しょうゆ等から得られる。これら天然物は、優れた風味を有する。
【0023】
本発明における単量体は、反応を制御しやすい点では合成品、または天然物より精製した高純度の単量体を用いることが望ましいが、実用上、単量体を含む抽出液、精油等、天然物を未精製のまま混合物として酸化重合に用いてもよい。
【0024】
本発明における酸化重合は、単量体の酸化反応を促進させるため、酵素(以下、酵素触媒という。)を利用する。酵素触媒としては、酸化剤を利用し、単量体に対して十分な酸化能を有するものであれば特に制限はないが、オキシダーゼまたはペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.7)を使用するのが好ましい。
【0025】
オキシダーゼとしては、例えば、ラッカーゼ(EC 1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC 1.10.3.1)、チロシナーゼ(EC 1.14.18.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC 1.3.3.5)等が挙げられる。これらの酵素触媒は種々の起源のものが使用でき、特に制限はなく、例えば植物由来、細菌由来、坦子菌類由来のものを使用することができる。
これらの中でも、ラッカーゼは、酸化重合における酸化剤として空気中の酸素(三重項酸素)を利用し、単量体に対して特に高い酸化能を有することから、本発明における酸化重合に際して、特に好適である。
【0026】
ラッカーゼの例としては、漆の木から得られるラッカーゼ、またはTrametes属、Pycnoporus属、Pyricularia属、Pleurotus属、Polystictus属、Myceliophthora属もしくはNeurospora属等の微生物ラッカーゼ等を挙げることができる。これらの中でも、コスト・生産量等の実用性の観点から、特にTrametes属、Myceliophthora属の微生物ラッカーゼを好ましく使用できる。なお、使用する酵素触媒は、精製・未精製を問わない。
【0027】
本発明における酸化重合にオキシダーゼを用いるに際し、酸素の濃度は、特に限定されず、高純度の酸素ガスのみならず、空気をそのまま後述する懸濁液等の反応液に接触させてもよい。酸素の総接触量は、単量体の総量に対して0.1〜100倍モルが好ましく、より好ましくは0.5〜10倍モルが特に好ましい。オキシダーゼの接触量は、単量体1gに対して通常0.001〜10g、より好ましくは0.01〜1gである。
【0028】
ペルオキシダーゼは酸化剤を利用し、単量体に対して酸化能が非常に高いという特質がある。
ペルオキシダーゼの例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、大根ペルオキシダーゼおよびキャベツペルオキシダーゼ等が挙げられる。
これらの中でも、西洋ワサビペルオキシダーゼおよび大豆ペルオキシダーゼは、酸化剤として過酸化水素を利用し、単量体に対して特に高い酸化能を有する。しかも量産されて安価であるため、本発明では好ましく使用することができる。
【0029】
ペルオキシダーゼを用いる際の酸化剤は、ペルオキシダーゼの存在下で単量体の酸化反応を開始させることができればよく、一般的には過酸化物が用いられる。過酸化物としては、過酸化水素、有機過酸化物および無機過酸化物のいずれでも良い。この中で特に好ましいものとして、過酸化水素を挙げることができる。
本発明における酸化重合にペルオキシダーゼを用いるに際し、過酸化物の濃度は、特に限定されず、酸化剤である過酸化物の使用量は、単量体の総量に対して0.1〜10倍モルが好ましく、より好ましくは0.3〜3倍モルが特に好ましい。ペルオキシダーゼの使用量は、単量体1gに対して通常1〜1,000,000ユニット、好ましくは5〜200,000である。
【0030】
本発明における酸化重合を行うためには、単量体に酵素触媒を接触させる必要があり、その方法としては、とくに限定されないが、例えば酵素触媒を溶媒に懸濁させた懸濁液を単量体に噴霧し、酸化重合させる方法、単量体を溶媒に懸濁または溶解させ、酵素触媒を添加して、撹拌し、酸化重合させる方法等が挙げられ、中でも、後者の方法を採用するのがよい。
この際、単量体は、それぞれ単一で用いてもよいし、2種以上の単量体を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明における酸化重合に使用される溶媒としては、単量体と酵素触媒が共に懸濁分散または溶解し、pHが2〜12の範囲であるものが好ましく、例えば、水、有機溶媒と水の混合溶媒または緩衝液等が挙げられる。
水としては、例えば蒸留水や脱イオン水等が挙げられる。
緩衝液としては、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
混合溶媒を構成する有機溶媒としては、有機溶媒は水と相溶する溶媒がより好ましく、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、2,2,2−トリフルオロエタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ピリジン、1,4−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらは単独あるいは混合物として使用される。
また、有機溶媒と水の混合比は単量体と酵素触媒が共に溶解する任意の量を用いることができる。好ましくは1:99〜90:10、特に好ましくは1:99〜70:30の範囲が望ましい。
【0033】
本発明における酸化重合の反応温度は、酵素触媒が単量体の酸化反応を促進させる触媒能活性を示す温度である必要があり、用いる酵素触媒によって適宜設定すればよいが、好ましくは0〜100℃の範囲であり、より好ましくは10〜60℃の範囲である。酸化重合の反応温度が100℃より高い場合は、一般に酵素触媒の触媒能は失活するが、混合溶媒系によっては、あるいは酵素触媒の固定化処理を行なうと、酵素触媒の触媒能を安定化するので、その場合は高い反応温度も採用可能となる。
【0034】
次に本発明にかかるリパーゼ阻害剤を説明する。このリパーゼ阻害剤は、酵素触媒を用いて酸化重合化反応させることにより得られる本発明の重合体を有効成分とする。
【0035】
本発明における単量体自体は、それぞれまったくリパーゼ阻害活性が認められないが、上記のように単量体を酵素触媒、特にオキシダーゼまたはペルオキシダーゼを用いて酸化重合させて得られる重合体は、非常に強いリパーゼ阻害活性を有する。
【0036】
本発明のリパーゼ阻害剤は、あらゆる飲食料に添加することができる。本発明における飲食料の具体例としては、ジュース等の清涼飲料、コーヒー、紅茶、リキュール、牛乳、乳清飲料、乳酸菌飲料、キャンデー、チューインガム、チョコレート、ビスケット、飴、グミ、ヨーグルト、アイスクリーム、プディング等が挙げられる。
本発明のリパーゼ阻害剤は、強いリパーゼ阻害活性を有するので、これら飲食料に微量に添加されても有効であり、本発明の重合体の食品への含有量は、0.01〜100mg/gの範囲が適当である。しかしながら、この範囲よりも多量に配合しても、ヒトに対する安全性やリパーゼ阻害効果に問題はない。
【0037】
本発明のリパーゼ阻害剤は、動物飼料にも含有させることができる。本発明における動物飼料の具体例としては、家畜用飼料、キャットフード、ドッグフード等のペットフード等が挙げられる。本発明の重合体の動物飼料への配合量は0.01〜100mg/gの範囲が適当であるが、この範囲よりも多量に配合しても動物へ対する安全性やリパーゼ阻害効果に問題はない。
【0038】
本発明のリパーゼ阻害剤は、あらゆる香料に添加することができる。本発明における香料の具体例としては、アイスクリーム、乳製品、チョコレート、ココア、コーヒー、プディング、ワイン、焼き菓子等の食品に用いられる香料のほか、オリエンタル調調合香料等、香粧品香料にも含有することができる。
【0039】
本発明のリパーゼ阻害剤は、医薬組成物の形態で使用することもできる。医薬組成物として使用する際には、治療及び予防に有効な量のリパーゼ阻害剤が製薬学的に許容できる担体または希釈剤とともに製剤化されるとよい。製剤中の有効成分の量も限定されるものではないし、本発明の効果を損なわない範囲内で他の薬剤と併用することも可能である。
【0040】
また、当該医薬組成物は経口または非経口のいずれでも投与できる。非経口投与として胃カテーテル、経皮吸収等の投与経路が挙げられる。投与量は年齢、個人差、病状等に依るので特に限定されないが、0.01〜500mg/kg(体重)、好ましくは0.1〜50mg/kg(体重)で、通常、一日量を1回又は数回に分けて投与する
【0041】
本発明のリパーゼ阻害剤は、そのリパーゼ阻害機能に基づき、例えば微生物性のリパーゼを阻害してニキビ,皮膚炎,フケ等を抑制または予防する外用薬または化粧料として用いるのに好適である。すなわち、皮脂腺の肥大増殖や毛嚢孔の角化亢進等が原因となって皮脂が溜まると、毛嚢の毛漏斗に存在する皮膚常在菌のニキビ桿菌や皮膚ブドウ状球菌が増加し、これらの菌のリパーゼが皮脂を構成している皮質成分の内のトリグリセリドを分解して遊離脂肪酸に変え、この遊離脂肪酸が上皮に作用し、各種の酵素を産生して、ニキビ,皮膚炎,フケ等の要因になり得る。本発明のリパーゼ阻害剤を用いた外用薬または化粧料は、局所適用等で微生物性リパーゼに対する阻害効果を有効に発揮し得る。
【0042】
本発明のリパーゼ阻害剤を外用薬または化粧料として用いる場合、リパーゼ阻害剤に加えて、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常の外用薬や化粧品に用いられる他の成分、例えば油性成分、界面活性剤、アルコール類、水、保湿剤、美白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0043】
また、外用薬や化粧料の形態は特に限定されるものではなく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、ゲル等の任意の形態が適用される。具体的には、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック、ファンデーション、毛髪用化粧料等に適用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明の重合体は、その強いリパーゼ阻害活性を利用して、抗肥満剤として幅広く用いられる。
【0045】
本発明の重合体は、その強いリパーゼ阻害活性を利用して、皮膚保全剤として幅広く用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
なお、各実施例における測定値は以下の方法にて求めた。
【0047】
1.(リパーゼ阻害活性の評価)
リパーゼ活性の測定は、基質に蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステル(4−UMO)を使用し、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光を測定することにより実施した。測定にあたり、緩衝液は、150mM NaCl、1.36mM CaCl2を含む13mM Tris−HCl (pH 8.0)を用いた。基質である4−UMO(Sigma社製)は0.1MのDMSO(ジメチルスルホキシド)溶液として調製し上記緩衝液で1000倍希釈したものを、また、リパーゼ(ブタ膵由来;TypeII; Sigma社製)は上記緩衝液を用い400U/ml溶液として調製したものを酵素測定に供した。
酵素反応は、25℃条件下において、75μlのリパーゼ溶液に75μlの30%DMSO(あるいは試料溶液)を添加し混合、25℃下5分間プレインキュベートした。150μlの4−UMO溶液を添加し、30分間反応を行った。300μlの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)を添加して反応を停止させ、生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光(励起波長360nm、蛍光波長460nm)をJASCO社製の「FP−777 Spectrofluorometer」を用いて測定した。
被験試料のリパーゼ阻害活性は、IC50(対照〔30%DMSO〕の活性に対して50%阻害を与える試料量)として求めた。
【0048】
2.(数平均分子量(Mn)の測定)
東ソー社製のゲルろ過クロマトグラフィを用いて重合体の数平均分子量(Mn)を測定した。測定条件は以下の通りである。
溶離液 :0.1mol/LのLiClを含むジメチルホルムアミド(DMF)溶液
流速 :1.0ml/min
カラム温度:60℃
基準物質 :ポリエチレンスタンダード
供試試料は全てアセチル化物をDMFに溶解し、メンブレンフィルターにてろ過したのち測定に供した。
【0049】
[実施例1]
(ペルオキシダーゼを用いる酸化重合体の合成)
バニリン500mgに30%のメタノールを含む50mlのリン酸緩衝液(pH=7)を加えて溶液を調製した。この溶液に1mlのリン酸緩衝液に溶かした西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ(和光純薬工業製)(10mg、1000unit)溶液を加えた。その後、過酸化水素水(30%、62.5μl)を2分おきに4回加え、室温で撹拌した。3時間後、排除分子量1000の透析チューブを用いて、反応混合物の透析を行った。透析チューブ内の溶液を凍結乾燥し、ペルオキシダーゼ処理した重合体を得た。
【0050】
[実施例2〜13]
(オキシダーゼを用いる酸化重合体の合成)
下記表1に記載の実施例2〜13の単量体について、それぞれ100または500mgの原料に30%のメタノールを含む50mlの酢酸緩衝液(pH=5)を加えて溶液を調製した。この溶液に15mgのTrametes sp.由来ラッカーゼ(大和化成製)を下記表1に示す所定量を加え、空気下、室温で撹拌した。24時間後、排除分子量1000の透析チューブを用いて、反応混合物の透析を行った。透析後、透析チューブ内の溶液を凍結乾燥し、ラッカーゼ処理した重合体を得た。
【0051】
これらの実施例の処理条件を表1に示す。さらに、各実施例で得た重合体の収率、数平均分子量および分子量分布を表2に示す。
また、得られた重合体には、それぞれ単量体が有する独特のオフフレーバー(苦味・渋味等)はなかった。
【0052】
[比較例]
比較のため、表1における実施例1〜13の単量体について、ラッカーゼおよびペルオキシダーゼ未処理の原料モノマー(対照)についても同様の評価を行ったところ、すべての原料モノマーでIC50>2000マイクロg/mlを示し、リパーゼ阻害活性はまったく認められなかった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表2から明らかなように、番号1〜13の単量体をラッカーゼまたはペルオキシダーゼで処理した重合体は、非常に強いリパーゼ阻害活性を有することがわかった。
このことから本発明の重合体は、メタボリックシンドローム予防食品、香料、医薬組成物、動物用飼料、または皮膚の保全作用が期待される化粧用素材として、幅広く利用することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バニリン、オイゲノール、マルトールまたはそれらの類縁化合物を酸化重合して得られる重合体。
【請求項2】
前記バニリンまたはその類縁化合物が、下記一般式(A)で表されるフェニル化合物である請求項1に記載の重合体。
【化4】


(式中のR1は、アルデヒド基またはカルボキシル基の官能基を示し、R2〜R4のうち少なくとも2箇所以上は、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基またはグリコシド結合した糖より選ばれる同一または異なる官能基を示す。)
【請求項3】
前記バニリンの類縁化合物が、イソバニリン、オルトバニリン、バニリン酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンズアルデヒド、2−ヒドロキシ−5−メチルベンズアルデヒド、オルシノールである請求項1または2に記載の重合体
【請求項4】
前記オイゲノールまたはその類縁化合物が、下記一般式(B)で表されるフェノール誘導体である請求項1に記載の重合体。
【化5】


(式中のR5およびR6はアルキル基、水酸基、アルコキシ基より選ばれる同一または異なる官能基を示す。)
【請求項5】
前記オイゲノールの類縁化合物が、バニトロープまたはオイゲノールである請求項1または請求項4に記載の重合体。
【請求項6】
前記マルトールまたはその類縁化合物が、下記一般式(C)で表されるマルトール誘導体である請求項1に記載の重合体。
【化6】


(式中のR7は、アルキル基を示す。)
【請求項7】
前記マルトールの類縁化合物が、マルトール、またはエチルマルトースである請求項1または6に記載の重合体。
【請求項8】
前記酸化重合が、オキシダーゼまたはペルオキシダーゼを用いて行われる請求項1〜7のいずれかに記載の重合体。
【請求項9】
飲食料、動物飼料、香料、医薬組成物、化粧料または外用薬の形態で使用される請求項1〜8のいずれかに記載の重合体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の重合体を含有するリパーゼ阻害剤。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の重合体を有効成分として含有するリパーゼ阻害剤の飲食料、動物飼料、香料、医薬組成物、化粧料または外用薬の形態での使用。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の重合体を含有する抗肥満剤。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の重合体を含有する皮膚保全剤。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の重合体の食品、香料、医薬組成物、化粧品または動物用飼料への使用。

【公開番号】特開2011−182746(P2011−182746A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53587(P2010−53587)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(591016839)長岡香料株式会社 (20)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】