説明

バラスト水の処理装置およびバラスト水の処理方法

【課題】バラスト水から効率的に濁質や微生物を濾過することが可能で、船舶に搭載可能な船舶用バラスト水の処理装置を提供する。
【解決手段】軸線を囲むように円筒配置されたフィルターと、フィルターを囲むように設けられた外筒部を有するケースと、フィルターを軸線を中心に回転させる回転機構と、フィルターの外周面と外筒部により形成されたフィルター外部領域に被処理水を流出する被処理水ノズルと、フィルターの外周面に向けて洗浄水を流出する洗浄水ノズルと、フィルターを透過した濾過水をフィルターの内部領域からケースの外部へ導出する濾過水流路と、フィルターを透過していない排出水をフィルター外部領域からケースの外部へ排出する排出流路とを備えたバラスト水の処理装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルタンカー等の船舶に航行時の安定のために貯留されるバラスト水の処理システムに関するものであり、特に船上に搭載され海水からの微生物除去に用いられる船舶用バラスト水の処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶に積載するバラスト水の処理が問題となっている。バラスト水は空荷状態でも安全に航行するために船舶に積載される海水である。バラスト水は出港時に付近の海域から取水し、入港時の積荷の積載時に海洋へ排水される。このようにバラスト水が取水した海域と異なる海域に排水されると、海水中の生物が本来の生息地でない海域に移動させられることとなり、海洋の生態系に大きな影響を及ぼすこととなる。
【0003】
このため、バラスト水を浄化処理して微生物を除去あるいは死滅、不活性化する方法が種々検討されている。たとえば特許文献1には海水を加熱して水中生物を殺菌する方法が記載され、特許文献2には蒸気を用いる方法や紫外線照射による方法が開示され、その他、電圧印加や衝撃波などの電気的方法や、次亜塩素酸ソーダなどの薬剤を投入する方法等が提案されている。また、前記死滅処理の前段として、あるいは比較的大きな微生物の除去の目的で濾過を用いる方法も検討されており、たとえば特許文献3には濾過膜を用いたバラスト水の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3660984号公報
【特許文献2】特許第4261955号公報
【特許文献3】特開2006−728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のバラスト水処理はそれぞれに短所を有している。たとえば、加熱による方法では加熱のためのエネルギー確保が課題であり、また微生物の完全な死滅が難しい。電気的手段によるものでは、やはり微生物の完全な死滅が困難であり、多くの電力を要する。薬剤を用いる方法は、高濃度の薬剤を必要とし、その排水の中和等が課題となる。紫外線ランプを用いる方法は比較的有効に用いられるが、微生物の完全な死滅のために多数のランプを必要とし、設置コストの問題がある。濾過膜による方法は、非常に孔径の小さな膜が必要であり、濾過には時間がかかることや目詰まり除去のための洗浄が必要なことから、大量の海水を処理することは実用的ではない。
【0006】
このようにバラスト水処理の手法は種々検討されているものの、決定的なものは未だ無く、さらなる機能向上が求められているところである。本発明の目的は、船舶から排出される、あるいは船舶に積み込まれるバラスト水から効率的に濁質や微生物を濾過することが可能で、船舶に搭載可能な船舶用バラスト水の処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、船上に設置でき効率的にバラスト水の浄化処理が行えるバラスト水の処理装置として特に濾過方式による処理装置を開発する中で新たな課題に対応するため本願発明に至った。
【0008】
本願発明の1の態様は、軸線を囲むように円筒配置されたフィルターと、前記フィルターを囲むように設けられた外筒部を有するケースと、前記フィルターを前記軸線を中心に回転させる回転機構と、前記フィルターの外周面と前記外筒部により形成されたフィルター外部領域に被処理水を流出する被処理水ノズルと、前記フィルターの外周面に向けて洗浄水を流出する洗浄水ノズルと、前記フィルターを透過した濾過水を前記フィルターの内部領域から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、前記フィルターを透過していない排出水を前記フィルター外部領域から前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備えたバラスト水の処理装置である(請求項1)。
【0009】
発明者らは円筒配置されたフィルターの外周面に被処理水を噴出し、円筒内部から濾過水を取り出す方式の処理装置をバラスト水処理の新たな装置として検討している。かかる装置では被処理水の噴出をフィルター外周面に向けて行うことでフィルターの洗浄効果をも発揮しつつ濾過を行うことが特徴とされる。しかし、この構成において連続運転するためには、洗浄のために単位時間当たりに一定量以上の水量を常に被処理水ノズルからフィルター面に噴出すること必要とされる。このため、わずかな処理水量で良い場合などの運転調整を任意に行うことが困難であった。
【0010】
本発明の態様では、被処理水を流し込むノズルには洗浄効果を持たせることなく、洗浄効果は別の洗浄水ノズルにより得る。このため、被処理水ノズルからは処理が求められるだけの水量を投入し、フィルター面の洗浄は洗浄水ノズルで行い続けることが可能となる。
【0011】
なお、上記態様において、処理の対象となる海水は特に制限されないが、一般的に船舶が停泊する港湾域の海水には、微生物や濁質が含まれており、濁度が1〜100度程度である。問題とされる海水中の微生物として大腸菌、コレラ菌、腸球菌、ミジンコやヒトデ、アジア昆布等の幼生等が挙げられ、これらの微生物の大きさはほとんどが0.3μmから数μmである。ここでのフィルターは、海水中からの濁質除去と共に微生物の除去を目的とするものである。フィルターとしては不織布やポリエステル製などの比較的丈夫なフィルターを用いることができる。除去対象である濁質にはシリカ等の無機質成分などが含まれており、その大きさは様々である。バラスト水としては10μm以上の微生物や濁質を除去することが求められており、これらを効果的に除去できるフィルターであれば材質は特に制限されない。また、膜厚は厚くなるほど濾過流量の低下を招き、薄いと破れやすくなることから、材質にもよるが0.1mm以上1mm以下が好ましい。
【0012】
回転機構は特に限定されないが、一般的な電気的なモータを用いることができる。その他、水流自身によって回転させることや他の駆動系からの力による回転機構であってもよい。処理流量の確保のため、回転数は20rpm以上150rpm以下が好ましい。20rpm未満では少なくとも安定して求められる5ton/時間の処理を得ることが困難であり、一方で150rpmを超えると、回転の遠心力の影響に対抗して濾過するために被処理水を過大に大きな圧力で加える必要が生じる。たとえば20ton/時間の処理量を得るために、より好ましくは30rpm以上80rpm以下である。
【0013】
ここで、前記フィルター外部領域または前記排出流路から洗浄水を取り出す取水流路と、該洗浄水を前記洗浄水ノズルに供給する循環流路とをさらに備えると良い(請求項2)。
【0014】
すなわち、洗浄水ノズルには一旦被処理水としてフィルターに供給され、濾過されなかった排出水を循環させて用いることができる。循環流路には循環させるためのポンプが備わっており、被処理水の処理量とは無関係に洗浄水ノズルから洗浄に必要な量の被処理水を洗浄水として噴出することができる。具体的な構成は濾過水量にかかわらず洗浄水として必要な水量を洗浄水ノズルに供給できる構成であれば良く、例えば循環流路にはさらに新たな被処理水等をも加えることも可能である。また、濾過されなかった排出水の一部を被処理水として利用可能となる位置に戻すための流路を別途備えて再度被処理水として利用すること自体は、クロスフローとも呼ばれる技術であり、かかるクロスフローのための流路から洗浄水を取り出すように取水流路を設けても良い。
【0015】
前記被処理水ノズルのノズル口は、前記被処理水の流出方向が前記フィルターの外周面と交錯しない方向に設ければ良い(請求項3)。フィルターに向けて洗浄する効果を必要としないからである。フィルターに直接噴出しない任意の方向にノズル口を向けることで、流体抵抗の設計も自由度が増し、任意の被処理水水量で運転させるというシステム設計もさらに容易にできる。
【0016】
前記洗浄水ノズルのノズル口は、前記洗浄水の流出方向が前記フィルターの円筒面と略直行する方向に設けられることが好ましい(請求項4)。洗浄効果を高めることができるからである。
【0017】
前記フィルターは、円筒半径方向に折り曲げられたプリーツ形状を有するプリーツフィルターであることが好ましい(請求項5)。
【0018】
フィルターの有効な濾過面積を広く確保することができるためである。バラスト水の処理装置は船上に搭載されることが多く、狭い設置場所で、例えば毎分数10リットルから数100リットルという多くの濾過を行うことが特徴であり、そのためには同じ設置面積に対して効率よくフィルターの濾過面積を大きく確保できる構造、装置の小型化が可能な構造が求められる。
【0019】
プリーツ形状とは、円筒状に配置されたフィルター面に多数の折り目をつけて山と谷が繰り返す形状としたものをいう。プリーツ形状のプリーツ深さとプリーツ数は、面積増大のためには大きい程好ましいが、目詰まりの程度と洗浄の容易さに影響を与え、直径100〜800mm程度の円筒フィルターにおいては、プリーツ深さは30mm以上150mm以下が好ましく、さらに50mm以上がより好ましい、プリーツ数は100以上500以下が好ましい。プリーツ深さと数は多いほど面積が増加して好ましいが、プリーツが深くなると洗浄が難しくなり好ましくない。
【0020】
前記洗浄水ノズルのノズル口は、前記軸線の方向を長辺方向とする長形開口であることが好ましい(請求項6)。
【0021】
フィルターの軸線方向全体に亘って被処理水を流出することが可能となる。これによりフィルター全体を有効に活用することができ、かつ全体の洗浄も効率的に行われる。そのため長形開口の長辺長さはフィルターの軸線方向長さと略等しいとよい。フィルター全面に有効に作用するためである。正確に長さが一致する必要はなく、流出した被処理水がフィルター全面に到達する範囲で構成されていればよい。ここで、長形開口とは長辺と短辺を有する長細い開口を意味する。代表的には略長方形の矩形開口であり、短径側が円弧をなすトラック様の形状や楕円形状なども含まれる。
【0022】
フィルターがプリーツ形状でノズル口が長形開口の場合、開口の短辺長さがプリーツフィルターのプリーツ間隔の3倍未満であることが好ましい。プリーツ間隔とは円筒外側に向かう山部の隣接する頂点の間隔長さをいい、各頂点間隔の平均値である。すなわち、プリーツが等間隔で製造されている場合において山部の円周長を山の数で割った値となる。ノズルの開口の幅がプリーツ間隔の3倍になると、水流によるフィルターの洗浄効果が十分に得られない。また、好ましくは開口の短辺長さはプリーツ間隔の1/2以上である。1/2未満まで細めると、相対的に被処理水の供給圧力が大きくなり、または同一圧力では供給水量が少なくなり、結果として大きなポンプを使用しなければならない、消費電力が増える等の不利益が生じるからである。さらに好ましくはプリーツ開口未満の場合よりもプリーツ開口以上の場合の方が、フィルターの洗浄効果が高い。特に長形開口の場合には効果的である。
【0023】
前記フィルターを複数備え、該複数のフィルターは、軸線が一致するように配置されているとさらに良い(請求項7)。
【0024】
船上への装置の設置には設置面積の制約が大きく、一般に地上におかれる水処理設備に対して設置面積の極小化が求められる。複数のフィルターを用いることにより濾過面積を多く確保することができる。円筒状の複数のフィルターを同軸に多段縦型配置することによって、同じ設置面積においてフィルターの有効濾過面積を段数分だけ多くすることができる。また、同軸配置された複数のフィルターを、回転機構として同じモータの回転軸に連結することで回転機構の数や設置場所をも節約することができ、装置全体の構成を簡単にしつつ大きな濾過面積の確保が可能とできる。
【0025】
本発明はこのように、上述のバラスト水の処理装置を用いてバラスト水の濾過を行う、バラスト水の処理方法をも提供する(請求項8)。
【発明の効果】
【0026】
以上の発明によれば、船舶から排出される、あるいは船舶に積み込まれるバラスト水から効率的に濁質や微生物を濾過することが可能で、船舶に搭載可能な船舶用バラスト水の処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明によるバラスト水の処理装置の構成を示すために装置の縦断面を模式的に示す図である。
【図2】図1のA−A断面を示す図である。
【図3】本発明に用いられるプリーツフィルターの構造を示す図である。
【図4】本発明の別な態様であるバラスト水の処理装置の構成を示すために装置の縦断面を模式的に示す図である。
【図5】図4のA−A断面を示す図である。
【図6】本発明のさらに別な態様であるバラスト水の処理装置の構成を示すために装置の縦断面を模式的に示す図である。
【図7】洗浄水ノズルのノズル口として矩形開口の構成例を示す図である。
【図8】フィルターのプリーツ形状と洗浄水ノズルとの寸法関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明にかかる船舶用バラスト水の処理装置の構成を図面を参照して説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一または相応する要素を示すものとする。本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
図1は、本発明による船舶用バラスト水の処理装置の一例を示す図であり、装置縦断面を模式的に示している。また、図2は図1におけるA−A横断面を示す図である。円筒形状のフィルター1は回転中心となる軸線Cを囲むように配置されており、中心に配置された中心配管4(配管は回転しない)の周囲を自在に回転できるよう取り付けられている。図1ではフィルター1として円筒の半径方向に山谷を繰り返すように折り目が付けられたプリーツフィルターを示している。フィルターの上下面は水密に塞がれている。回転自在な取り付け構造は、同じく水密構造とする必要があるが、特に限定されることなく既知の構造が用いられる。フィルター全体を覆うようにケース3が設けられる。ケース3は外筒部31、蓋部32、底部33で構成され、底部33には排出流路8が設けられる。ケース3内に被処理水としての海水を導入するために、被処理水流路9と被処理水ノズル90が設けられている。被処理水ノズル90は、そのノズル口91をケース3内に備えるように被処理水流路9から延設され、被処理水がノズル口から流出し、フィルター外部領域に流入するように構成されている。
【0030】
被処理水の一部はフィルターによって濾過され、濾過水がフィルターの円筒内部に透過する。なお、図はケース内の構造をわかりやすくするために各部材を模式的に描いており、実際の寸法や細部構造は処理水量等の要求性能に応じて設計される。濾過されない被処理水および、ケース内に沈殿した濁質分は、ケース底部の排出流路8から順次排出される。このように濁質分や残った被処理水が連続的に常に排出されつつ濾過が進行される点もこの装置の特徴であり、バラスト水に求められる10〜20ton/時間、さらには100ton/時間を超える処理量を確保するために有用である。なお、図では排出流路にバルブなどを記載していないが、保守用や流量調節用に必要な機器を設けることができる。一方、フィルター1により濾過された濾過水はフィルター内部にて中心配管4に設けられた取水穴を通して濾過水流路7に導かれ、ケース外部に流出される。
【0031】
以上の動作において、フィルター1の外周面には濁質が付着し、長期間の運転のためにはフィルターの交換や洗浄が必要となる。ここで、本構成においては、被処理水ノズル90ではノズル口91が、被処理水の流出方向がフィルターの外周面と交錯しない方向となるように設けられているため、流入した被処理水がフィルター表面に直接勢いよく接することによる洗浄効果は期待しない。そこで、本構成では洗浄用ノズル2を別に設けている。洗浄用ノズル2は、ケース3の外筒部を貫通するように設けられ、そのノズル口21をフィルター面に向けて取り付けている。図1を参照して説明する。ケース3の一部に設けられた取水配管61から濾過されていない被処理水が取水され洗浄水とされる。洗浄水は、ポンプ63により循環流路62を介して洗浄水流路6へと供給される。配管途中には流量計64が設けられ、ポンプ63による流量の制御に利用されると良い。洗浄水流路6はケース外筒部31を貫通して設けられる洗浄水ノズル2へとつながる。
【0032】
図2は、図1のA−A断面を説明する図である。図2を参照して、ケース外筒部31の中にはプリーツフィルター1が納められ、その円筒中心には中心配管4がある。外筒部を貫通して洗浄水フィルターの外周面に向けて、洗浄用ノズル2が設けられている。本例では、ノズルは、洗浄水の流出方向がフィルターの円筒面と略直行する方向に設けられている。すなわち、ノズルの方向は円筒中心を向いている。ノズル口21から洗浄水がフィルター1の外周面に向けて噴出される。洗浄水はフィルター外周面に勢いよく接することで、フィルターの洗浄が行われる。
【0033】
以上の構成において、フィルターはモータ100によって回転するように構成されている。すなわち、モータ100の軸101はフィルター中心軸Cと同軸になるようにモータ100が設けられており、フィルターを強制的に回転させる構成としている。モータにより回転させることで、フィルター面が順次洗浄水により洗浄されつつ、フィルター外周面全体で濾過を継続することができる。回転速度を任意に設定、変更できる点でもメリットがある。モータ100はモータカバー102で覆われて収納され、駆動制御部(図示せず)からの電力により駆動される。モータの回転数は一定でも良いし、人為的に任意に定めることも可能であるが、濾過の状態に応じて制御するとより好ましい。濾過水の状態や流量などを検出する検出部設け、検出情報に応じて回転数を変化させるように制御を行うと良い。濾過水の検出部としては、具体的には、濾過水流量検出部、濾過水圧力検出部や、濁度検出部等が挙げられる。
【0034】
図3は、本発明に好適に用いられるプリーツフィルターの代表的構成を説明する斜視模式図である。このフィルターは帯状の平面基材を山谷交互に折りたたむことで、いわゆるプリーツ形状とし、さらに円筒状につなぎ合わせて構成されたものである。図3において円筒状プリーツフィルター10の円筒外側から濾過対象となる被処理水が供給され、フィルター1によって濾過された液が円筒内側から排出される。
【0035】
フィルターの基材には多孔質樹脂シートが用いられる。材質として例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等からなる延伸多孔質体、相分離多孔体、不織布等の多孔質構造物が利用される。バラスト水処理では高流量処理を行うため、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる不織布が特に好適に用いられる。また、寸法例として、100ton/時間の処理を行うバラスト水の処理装置に用いる例として、プリーツフィルターの外径は700mm、軸方向長さ320mm、有効面積としての高さ280mm、プリーツ深さ70mm、プリーツ数420折、が挙げられる。
【0036】
次に図4は、本発明の別な構成例を説明する図、図5は図4のA−A断面を示す図である。図1との違いは、被処理水ノズルの構成にある。図4および図5の構成において、被処理水ノズル90は被処理水流路9から延設しており、ノズル口91をケース3の内部に有する。本構成では、ノズル口91はフィルターの円周方向に沿った方向を向いている。図1での被処理水ノズル口91はフィルターの概ね軸方向を向いている点で異なる。これらのように、被処理水ノズルは洗浄水ノズルとは別に設けられており、被処理水ノズルからの被処理水の流出そのものにはフィルターの洗浄効果を期待していない。このため、被処理水ノズルを任意の方向に向けることが可能であり、その流量も任意に制御することが可能である。特に、被処理水ノズル90のノズル口91が、被処理水の流出方向がフィルターの外周面と交錯しない方向となるように設けられていることで、洗浄効果と被処理水の流量を全く別に扱うことができ、また被処理水の流出がフィルターの回転等に影響しないため、任意の運転制御を実現できる点で好ましい。
【0037】
本発明の別な構成例を図6を用いて説明する。図6は、フィルターを複数備えており、複数のフィルターは、互いの軸線が一致するように配置されているように構成されたものである。例としてフィルターの数が2つの場合を示しており、ケースを共通としている。ケースを複数に分ける構成も可能である。
【0038】
円筒形状のフィルター1aとフィルター1bは回転中心となる共通の軸線(図示せず)を囲むように配置されており、それぞれの中心に配置された中心配管4aおよび中心配管4bの周囲を自在に回転できるよう取り付けられている。図1と同じくフィルターとしてプリーツフィルターを例示している。フィルターの上下面は水密に塞がれている。回転自在な取り付け構造は、同じく水密構造とする必要があるが、特に限定されることなく既知の構造が用いられる。複数のフィルター全体を覆うようにケース3が設けられる。ケース3は外筒部31、蓋部32、底部33で構成され、底部33には排出流路8が設けられる。ケース3内に被処理水としての海水を導入するために、被処理水流路9と被処理水ノズル90が設けられている。被処理水ノズル90は、そのノズル口91をケース3内に備えるように被処理水流路9から延設され、被処理水がノズル口から流出し、フィルター外部領域に流入するように構成されている。
【0039】
被処理水の一部はフィルターによって濾過され、濾過水がフィルターの円筒内部に透過する。濾過されない被処理水および、ケース内に沈殿した濁質分は、ケース底部の排出流路8から順次排出される。なお、図では排出流路にバルブなどを記載していないが、保守用や流量調節用に必要な機器を設けることができる。一方、フィルター1により濾過された濾過水はフィルター内部にて中心配管4a、4bに設けられた取水穴を通して濾過水流路7a、7bに導かれ、ケース外部に流出される。
【0040】
本構成においては、被処理水ノズル90ではノズル口91が、被処理水の流出方向がフィルターの外周面と交錯しない方向となるように設けられているため、流入した被処理水がフィルター表面に直接勢いよく接することによる洗浄効果は期待しない。本構成では洗浄用ノズル2a,2bを各フィルター1a,1bに対応して個別に設けている。洗浄用ノズル2a,2bは、ケース3の外筒部を貫通するように設けられ、そのノズル口をフィルター面に向けて取り付けている。ここで、ケース3の一部に設けられた取水配管61から濾過されていない被処理水が取水され洗浄水とされる。洗浄水は、ポンプ63により循環配管62を介して洗浄水流路6へと供給される。配管途中には流量計64が設けられ、ポンプ63による流量の制御に利用されると良い。洗浄水流路6はケース外筒部31を貫通して設けられる洗浄用ノズル2a,2bの各々へとつながる。洗浄水ノズルはそれぞれが、洗浄水の流出方向がフィルターの円筒面と略直行する方向に設けられており、ノズル口から洗浄水がフィルターの外周面に向けて噴出される。洗浄水がフィルター外周面に勢いよく接することで、フィルターの洗浄が行われる。
【0041】
フィルター1a,1bは共にモータ100によって回転するように構成されている。すなわち、モータ100の軸101はフィルター中心軸と同軸に設けられており、モータの回転によってフィルターが回転させられる。モータにより回転させることで、フィルター面が順次洗浄水により洗浄されつつ、フィルター外周面全体で濾過を継続することができる。回転速度を任意に設定、変更できる点でもメリットがある。モータ100はモータカバー102で覆われて収納され、駆動制御部(図示せず)からの電力により駆動される。
【0042】
以上の例では、中心配管および濾過水流路はフィルター毎に個別に設けているが、共通の配管にすることも可能である。また、洗浄水流路6を個別に設けたり、洗浄水ノズルを一体として形成したりするバリエーションはいずれも本発明の範囲に含まれる。
【0043】
以下、ノズル口を長形開口とした構成例を説明する。図7は、本発明による船舶用バラスト水の処理装置として洗浄水ノズルのノズル口が長形開口の構成例を示す図である。ノズル口が矩形開口、すなわち、開口部の短辺長さがa、長辺長さがbの略長方形を成している。長辺長さは特に限定されないが、プリーツフィルター全体に被処理水を効果的に供給するために、プリーツフィルターの軸方向長さと略等しい(±10%以内)かそれ以上であることが好ましい。短辺長さについての好ましい態様を図8を参照して説明する。図8はプリーツフィルターとそれに対向して設けられたノズルの開口部の一部を切り出して模式的に示した図である。短辺長さはプリーツフィルターの山谷との関係において、山部の間隔pの3倍以下(p<3a)とすることが好ましく、より好ましくは2倍以下、さらに好ましくはp<aとする方がプリーツフィルターの洗浄効果がより高まる。今回、プリーツ間隔p=5mmのフィルターに対して、被処理水ノズル開口の短辺長さaを変えて洗浄効果を確認したところ、a=15mmでは洗浄が不十分であり、a=8mmでは非常に効果的に洗浄されており、a=3mmでは実用範囲で効果的な洗浄が得られるものの8mmの場合よりは劣る結果であった。なお、開口が矩形ではなく、丸みを帯びた角部を有した形状や、全体が楕円のような形状の場合には、長辺長さはフィルター軸方向の最大長さとし、短辺長さは長辺に直角な方向の開口部最大幅とする。
【符号の説明】
【0044】
1,1a,1b フィルター
2,2a,2b 洗浄用ノズル
21 ノズル口
3 ケース
31 外筒部
32 蓋部
33 底部
4,4a、4b 中心配管
6 洗浄水流路
61 取水配管
62 循環流路
63 ポンプ
64 流量計
7,7a、7b 濾過水流路
8 排出流路
9 被処理水流路
90 被処理水ノズル
91 ノズル口
100 モータ
101 軸
102 モータカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を囲むように円筒配置されたフィルターと、
前記フィルターを囲むように設けられた外筒部を有するケースと、
前記フィルターを前記軸線を中心に回転させる回転機構と、
前記フィルターの外周面と前記外筒部により形成されたフィルター外部領域に被処理水を流出する被処理水ノズルと、
前記フィルターの外周面に向けて洗浄水を流出する洗浄水ノズルと、
前記フィルターを透過した濾過水を前記フィルターの内部領域から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、
前記フィルターを透過していない排出水を前記フィルター外部領域から前記ケースの外部へ排出する排出流路と、
を備えたバラスト水の処理装置。
【請求項2】
前記フィルター外部領域または前記排出流路から洗浄水を取り出す取水流路と、該洗浄水を前記洗浄水ノズルに供給する循環流路とをさらに備えた、請求項1に記載のバラスト水の処理装置。
【請求項3】
前記被処理水ノズルのノズル口は、前記被処理水の流出方向が前記フィルターの外周面と交錯しない方向に設けられている、請求項1または2に記載のバラスト水の処理装置。
【請求項4】
前記洗浄水ノズルのノズル口は、前記洗浄水の流出方向が前記フィルターの円筒面と略直行する方向に設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバラスト水の処理装置。
【請求項5】
前記フィルターは、円筒半径方向に折り曲げられたプリーツ形状を有するプリーツフィルターである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバラスト水の処理装置。
【請求項6】
前記洗浄水ノズルのノズル口は、前記軸線の方向を長辺方向とする長形開口である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバラスト水の処理装置。
【請求項7】
前記フィルターを複数備え、該複数のフィルターは、軸線が一致するように配置されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバラスト水の処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のバラスト水の処理装置を用いてバラスト水の濾過を行う、バラスト水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48998(P2013−48998A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187000(P2011−187000)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】