説明

バラスト水中の残留オキシダント(TRO)濃度の監視方法

【課題】バラスト水の残留オキシダント(TRO)濃度を監視することができるTRO濃度の測定装置を提供する。また、このTRO測定装置によりバラスト水処理システムにおいてTRO濃度の監視を行う。
【解決手段】DPD吸光光度法によりバラスト水中のTRO濃度を測定するTROモニタ1である。このTROモニタ1は、船舶に取水されるバラスト水を処理するバラスト水処理システムにおいて、バラスト水の排出時のTRO濃度を監視する。次亜塩素酸ナトリウムを用いてバラスト水を処理するシステムでは、TRO濃度を監視するとともに、TROモニタ1のTRO濃度の計測値に基づいて次亜塩素酸ナトリウム量およびTROを中和する中和剤の注入量を制御する。また、オゾンを用いてバラスト水を処理するシステムでは、TROモニタ1のTRO濃度の計測値に基づいて、バラスト水の排水処理の手順を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶に搭載され、バラスト水中のTRO濃度を測定する測定装置および、このTRO濃度の測定装置を用いたバラスト水中のTRO濃度の監視方法に係る。
【背景技術】
【0002】
コンテナ船やタンカーなどの大型貨物船は、積荷が少ない状態の航路において、出発港でバラスト水を汲み上げて船内のタンクに貯留し、航行中に船体が浮かび上がるのを防ぎ、到着港ではそのバラスト水を放出している。その際、バラスト水中に含まれる動植物プランクトン、海藻の断片、底生生物や魚類等の幼生や卵などが、バラスト水とともに新たな環境に移動・拡散し、本来その地域に生息していない「外来種」として生態系をかく乱する等の悪影響を及ぼすことがあり、世界各地で問題となっている。
【0003】
バラスト水問題は、国際海事機構(International Maritime Organization:IMO)が中心となって、1980年代から国際的な議論が進められ、2004年2月にロンドンで開催された会議において、「船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約」(バラスト水管理条約)が採択された。同条約では、船舶におけるバラスト水排出基準を示すとともに、バラスト水処理システムの搭載義務を定めている。バラスト水処理システムは一般的に(1)海水を取水して海水中の水生生物を殺滅処理する、(2)処理した海水をバラストタンクに保管する、(3)貨物積載時に不要になったバラスト水の水質をモニタ後、海に排出するといった手順をとる。
【0004】
このバラスト水中の水生生物を除去する方法としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウムを注入する方法(例えば、非特許文献1)、凝集分離過程と磁気分離過程からなる方法(例えば、特許文献1)、物理的な破砕機構とオゾンによる滅菌を組み合わせた方法(例えば、特許文献2、3、非特許文献2)等がある。
【0005】
IMOでは、次亜塩素酸ナトリウムやオゾン等の活性物質の投与によりバラスト水中の水生生物を殺滅するシステムについて、海洋環境に有害なままバラスト水が排出されることを規制する目的で処理システムでの活性物質の使用に関し承認基準を設けている。故に、バラスト水に活性物質を注入してバラスト水を処理するシステムでは、G9(活性物質を使用するバラスト水管理システムの承認に関する手順)による評価試験を行って承認を受ける必要がある。また、上記承認基準では、活性物質の投与により生成される物質も関連物質として規制対象となっている。例えば、活性物質がオゾンの場合、オゾンと海水中の臭素イオン(Br-)との反応で生成される関連物質は、ブロモホルム(CHBr3)、臭素酸イオン(BrO3-)、残留オキシダント(Total Residual Oxidants:TRO)となる。
【0006】
TROとは、中性ヨウ化カリウム溶液と反応し、ヨウ素を遊離する物質の総称であり、光化学オキシダント、オゾン等と同様の酸化性物質である。
【0007】
これら酸化性物質の測定は従来から行われており、例えば、大気汚染の原因となるオゾン濃度の連続測定法としては、化学発光法、紫外線吸収法、吸光光度法、電量法がある。
【0008】
一方、バラスト水中のTRO濃度測定法としては、ヨウ化カリウムとオキシダントとの反応に基づく反応生成物を測定するKI法が用いられている(例えば、特許文献4、5)。このKI法の測定原理について、オゾンを測定する例を示して説明する。まず、中性ヨウ化カリウムとオゾンが反応することでヨウ素(I2)が遊離する。反応式を(1)式に示す。
2KI + O3 + H2O → I2 + 2KOH + O2 … (1)
そして、遊離したヨウ素量は、滴定または、波長365nmの吸光度に基づいて測定され、オゾン濃度が算出される。
【0009】
また、TROの一つである残留塩素を測定する残留塩素濃度計には、DPD(ジエチル‐p‐フェニレンジアンモニウム)吸光光度法(例えば、JIS K0102 33.2)やポーラログラフ方式を用いたものがある。残留塩素濃度計は、滅菌のために排水に注入された塩素の監視に用いられ、下水処理でも処理水に塩素注入を行った後、放流するため欠かせない計測器である。下水や排水には、一般に結合残留塩素が多く含まれることから有試薬方式が用いられる。
【0010】
有試薬方式の一つであるDPD吸光光度法は、残留塩素がDPD試薬との反応で生じる桃色から桃赤色を、波長510nmないし555nm付近の吸光度を測定し、試料中の残留塩素濃度を求める。DPD試薬との反応により、遊離残留塩素だけが定量される。さらに、ヨウ化カリウムを加えることで、結合残留塩素の発色が起こり、この吸光度(波長510nmないし555nm付近の吸光度)を測定することで遊離残留塩素と結合残留塩素とを合量として定量できる。結合残留塩素は、この合量値から遊離残留塩素分を差し引くことで求めることができる。なお、このDPD吸光光度法では、臭素、二酸化塩素、過マンガン酸、オゾン等の酸化性物質がプラスの誤差として測定値に加算される。
【0011】
一方、上水の遊離残留塩素の測定では、オンライン式自動測定が可能であるポーラログラフ法が用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−112978号公報
【特許文献2】特開2006−314902号公報
【特許文献3】特表2007−527798号公報
【特許文献4】特開平9−248580号公報
【特許文献5】特開平4−90892号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】岡本幸彦、外2名、“船舶用バラスト水処理システムの実用化”、JFE技報、No.25、2010年2月、p.1−6
【非特許文献2】植木修次、外5名、“オゾン利用によるバラスト水処理システムの開発”、三井造船技報、No.196、2009年2月、p.1−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、ポーラログラフ方式による遊離残留塩素計は、遊離残留塩素濃度が同一であっても、試料水の電気伝導率や他の還元性物質の濃度の違いから計測値が不安定となる特性があった。そのため、測定値が不安定となる要因を有するバラスト水処理システムの制御にポーラログラフ方式を適用することは難しかった。
【0015】
また、KI法では、呈色のための反応時間に約10分を要し(例えば、特許文献4)、迅速性に欠けるためにバラスト水の水質を連続的にモニタリングする計測方式として採用されるまでには至らなかった。
【0016】
よって、本発明は、迅速にTRO濃度を測定でき、バラスト水処理システムの制御に利用可能な測定精度を有するTRO濃度の測定装置を提供することを目的としている。また、このTRO濃度の測定装置を用いて、バラスト水処理システムから排出されるバラスト水が基準を満たすようにバラスト水のTRO濃度を監視する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明の残留オキシダント濃度の測定装置は、船舶に取水されたバラスト水に、このバラスト水中の残留オキシダントと反応して呈色する指示試薬を注入し、前記呈色した指示試薬の吸光度に基づいて前記バラスト水中の残留オキシダント濃度を測定することを特徴としている。
【0018】
また、上記課題を解決する本発明の残留オキシダント濃度の測定装置は、上記残留オキシダント濃度の測定装置において、前記指示試薬がN,N‐ジエチル‐p‐フェニレンジアミン塩である様態が挙げられる。
【0019】
また、上記課題を解決する本発明のバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法は、船舶に取水されたバラスト水に、このバラスト水中の残留オキシダントと反応して呈色する指示試薬を注入し、前記呈色した指示試薬の吸光度に基づいて前記バラスト水中の残留オキシダント濃度を測定する残留オキシダント測定装置による、前記バラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法であって、前記バラスト水の排出時に、前記測定装置が、排出されるバラスト水中の残留オキシダント濃度を測定し、この測定された残留オキシダント濃度が予め定められた設定値以下であることを監視することを特徴としている。
【0020】
また、上記課題を解決する本発明のバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法は、上記バラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法において、前記バラスト水取水時に、前記測定装置が、前記バラスト水中の水生生物を殺滅するための活性物質と前記バラスト水との反応により生成する残留オキシダントを測定し、この残留オキシダントの測定値に基づいて、前記バラスト水への活性物質注入量を制御することを特徴としている。
【0021】
また、上記課題を解決する本発明のバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法は、上記バラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法において、前記測定装置が排出されるバラスト水中の残留オキシダント濃度を測定し、この測定結果に基づいて、前記残留オキシダントを中和する中和剤の注入量を制御することを特徴としている。
【0022】
また、上記課題を解決する本発明のバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法は、上記バラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法において、前記測定装置により測定された残留オキシダント濃度が前記設定値以上であった場合、前記バラスト水から前記残留オキシダントを除去する処理を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
以上の発明によれば、バラスト水中の残留オキシダント(TRO)濃度を迅速に測定できるTRO濃度の測定装置を得ることができる。そして、このTRO濃度の測定装置で、バラスト水処理システムのTRO濃度を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るTRO濃度測定装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るTRO濃度測定装置のTRO測定値とKI法によるTRO測定値との相関図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るバラスト水処理システムの構成図である。
【図4】本発明の実施形態2に係るバラスト水処理システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る残留オキシダント(TRO)濃度の測定装置(以後、TROモニタという)は、DPD(ジエチル‐p‐フェニレンジアミン)吸光光度法によりバラスト水中のTROを迅速に測定し、且つ従来のKI法によるTRO濃度測定方法と同等以上の精度でTROを測定するものである。
【0026】
本発明の実施形態に係るTROモニタは、被測定水にDPD試薬を添加し、DPD試薬とTROとの反応で生じる物質の吸光度(例えば、波長510nmないし550nm付近の吸光度)を測定することにより被測定水のTRO濃度を計測する。
【0027】
また、本発明の実施形態に係るTROモニタによるバラスト水中のTRO濃度監視方法は、本発明に係るTROモニタでバラスト水中のTRO濃度を計測することで、バラスト水中のTRO濃度を監視するものである。
【0028】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るTROモニタ1は、測定セル2と、光源3、光検出器4、制御部5より構成される。
【0029】
測定セル2は、バラスト水がサンプリングされ、このサンプリングされたバラスト水にDPD試薬が注入される。
【0030】
光源3は、DPD試薬とTROとの反応で生成される物質が吸収する波長を含む光を照射できるものであればよく、LED等既知の光源を用いればよい。
【0031】
光検出器4は、光源3より照射されセルを透過した光の強度を検出する。
【0032】
制御部5は、光検出器4により検出された光の強度に基づいて、吸光光度法によりセル中の吸光度の変化を測定する。
【0033】
上記構成からなるTROモニタ1によるTROの測定手順ついて説明する。まず、測定セル2にバラスト水を導入する。バラスト水は、測定したい箇所のバラスト水から一定量採取する。この時、測定セル2へのバラスト水の導入と排出を複数回繰り返すことで測定セル2を洗浄する。この試料採取は、オーバーフロー方式により測定セル2の洗浄を兼ねてもよい。TROモニタ1のブランクとして、バラスト水が注入された測定セル2に光源3より光を照射し、測定セル2を透過した光の強度を光検出器4で検出する。
【0034】
次に、導入されたバラスト水に試薬貯留部6よりDPD試薬および緩衝液を注入する。緩衝液は、サンプルを適切なpHに保つ働きをするものであり、例えば、リン酸緩衝溶液を用いてサンプルのpHを6.3〜6.6とするとよい。DPD試薬は、N,N‐ジエチル‐p‐フェニレンジアミン塩(例えば、硫酸塩等)として市販されているものを用いた。DPD試薬がバラスト水中のTROと反応することで、サンプルがTROの濃度に応じて発色する。なお、具体的なDPD試薬の注入量は、例えば、JISで規格されているDPD吸光光度法(JIS K0102 33.2)に基づいて設定される。
【0035】
DPD試薬を注入後、所定時間(例えば、2分以内)経過後に、光源3より測定セル2に光を照射し、光検出器4で透過光強度を検出する。そして、この透過光強度とブランクの透過光強度の差に基づいて、吸光度が算出される。サンプル中のTRO濃度とそのTRO濃度での吸光度の検量線を予め作成しておくことで、検出された吸光度に基づいてTRO濃度が算出される。
【0036】
図2に示すようにDPD吸光光度法によるTRO測定値とKI法によるTRO測定値には相関性があり、DPD吸光光度法によるTRO濃度の測定精度はTROモニタとしてバラスト水処理の制御に供することが可能な測定精度を有することがわかる。なお、図2に示すように、DPD試薬を注入後に所定時間経過後に測定されたTRO濃度の測定値と、KI法によるTRO濃度の測定値は異なっている。この差異は、KI法では安定的な酸化性物質まで測定対象となるためと考えられる。
【0037】
以上の動作により、TROモニタ1は、DPD試薬を添加したバラスト水の吸光度に基づいて、バラスト水中のTRO濃度を計測することができる。このDPD吸光光度法によるTRO濃度の計測は迅速に行われ(例えば、1分以内)、かつTRO濃度測定精度が従来の測定方法と同程度以上であるので、バラスト水中のTRO濃度を監視するTROモニタとしてバラスト水処理システムの制御に供することができる。このTRO濃度の計測操作を繰り返す(例えば、2.5分間隔)ことで、バラスト水中のTRO濃度をモニタリングできる。
【0038】
(実施形態1)
本発明に係るTROモニタ1は、バラスト水中のTROを迅速に、且つ精度よく測定することができる。よって、バラスト水処理システムのTROモニタ1として、バラスト水中のTRO濃度をモニタすることができる。
【0039】
本発明に係るTROモニタ1を備えた第1の実施形態に係るバラスト水処理システムについて、活性物質として次亜塩素酸ナトリウムを用いたバラスト水処理システムを例示して説明する。なお、活性物質は、この実施形態に限定されるものではなく、塩素、二酸化塩素、過酸化水素等既知の活性物質を用いてもよい。
【0040】
活性物質として次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合、次亜塩素酸ナトリウムとバラスト水との反応により、遊離残留塩素、結合残留塩素等の関連物質が生じる。遊離残留塩素とは、塩素(Cl2)、次亜塩素酸イオン(ClO-)等のことであり、強い殺菌力を有し、バラスト水中の水生生物の殺滅効果を有するものである。また、結合残留塩素とは、モノクロラミン(NH2Cl)、ジクロラミン(NHCl2)のように塩素とアンモニアが結合した物質等のことである。
【0041】
ここで、従来の水質のモニタの概要について説明する。上述の遊離残留塩素や結合残留塩素等の関連物質は、水中にTROとして残留する。このTROの濃度は、それぞれが有する酸化力を特定の機能を持つ計測器によりモニタリングしていた。これらの計測器は、水中に含有する酸化性物質の濃度や強度を計測可能な残留塩素計や酸化還元電位計またはそれらの組合せによりそれぞれのTRO濃度を計測していた。
【0042】
具体的には、活性物質として次亜塩素酸ナトリウムを用いる方法では、バラスト水の取水時には、遊離残留塩素濃度がバラスト水中の水生生物を殺滅するために必要な濃度となるように、次亜塩素酸ナトリウムが注入されたバラスト水中の遊離残留塩素濃度を測定し、この測定値に基づいて次亜塩素酸ナトリウムの注入量の制御を行う。また、バラスト水排出時には、排出する前にバラスト水中の遊離残留塩素を測定し、この計測値に応じて遊離残留塩素を中和するための薬剤の注入量を制御する。また、中和剤が注入された後のバラスト水中のTRO濃度を測定し、排出されるバラスト水が排出基準を満たしているかを確認している。
【0043】
本発明に係るTROモニタ1は、DPD試薬を添加してTRO濃度を計測することで、迅速にバラスト水中のTRO濃度をモニタリングする。このTROモニタ1は、バラスト水を次亜塩素酸ナトリウムを用いて処理するシステムのバラスト水の取水時と排出時において、バラスト水のTRO濃度の監視を行う。つまり、バラスト水取水時には、活性物質注入後のバラスト水中のTRO濃度の計測値に基づいて、バラスト水に注入される活性物質の注入量を制御する。そして、バラスト水排出時には、バラスト水中のTRO濃度の計測値に基づいて、注入された活性物質の残存量を中和する中和剤の注入量を制御する。さらに、中和剤注入後のバラスト水中のTRO濃度の計測値に基づいて、排出されるバラスト水が排出基準を満たしているかどうかを確認する。
【0044】
図3に示すように、本発明の実施形態1に係るバラスト水処理システム7は、バラストタンク8、活性物質注入部9、中和剤注入部10、TROモニタ1、および薬品量制御部11より構成される。
【0045】
バラストタンク8は、船舶の積荷が少ない状態の航路において、航行中に船体が浮かび上がるのを防止するバラスト水を貯留する。
【0046】
活性物質注入部9は、ポンプ12を介してバラストタンク8に接続され、バラストタンク8に移送されるバラスト水に次亜塩素酸ナトリウムを注入する。
【0047】
中和剤注入部10は、バラストタンク8の下流に備えられ、バラスト水中の関連物質等を除去するための中和剤を注入する。中和剤としては、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、シュウ酸、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等が例示される。
【0048】
TROモニタ1は、注入された次亜塩素酸ナトリウムと海水との反応で生成したバラスト水中のTRO濃度を計測する。
【0049】
薬品量制御部11は、TROモニタ1の計測データが入力され、活性物質注入部9に対して活性物質の注入量を制御する制御信号を送信し、中和剤注入部10に対しては中和剤の注入量を制御する制御信号を送信する。
【0050】
上記構成からなる本発明の実施形態1に係るバラスト水処理システム7の動作について説明する。
【0051】
バラスト水取水時には、ポンプ12が駆動され、海水または淡水がフィルタ13、活性物質注入部9を介してバラストタンク8に移送される。この時、活性物質注入部9において、活性物質注入部9を通過するバラスト水の流量に応じた所定の注入率で次亜塩素酸ナトリウムがバラスト水に注入される。なお、ポンプ12を備えず、水頭差により、海水または淡水をバラストタンク8に移送してもよい。
【0052】
TROモニタ1は、次亜塩素酸ナトリウムが注入されたバラスト水のTRO濃度を計測し、計測結果を薬品量制御部11に送信する。薬品量制御部11では、この計測結果に基づいて活性物質注入部9に制御信号を送信し、TRO濃度の計測値が予め設定された目標値になるように、バラスト水に注入される次亜塩素酸ナトリウムの注入量を制御する。このように、バラスト水中のTRO濃度を一定以上に保つことで、バラストタンク8にバラスト水を貯留している間、水生生物の再増殖やプランクトン等の孵化を防止することができる。
【0053】
一方、バラスト水排出時には、ポンプ14を駆動することでバラストタンク8に貯留されたバラスト水が中和剤注入部10を介して船外に排出される。この時、TROモニタ1が、中和剤が注入される前のバラスト水中のTRO濃度を計測し、この計測結果を薬品量制御部11に送信する。薬品量制御部11は、TROモニタ1の計測値に基づいて、中和剤注入後のバラスト水が還元状態(すなわち、TROが検出されない状態)となるために必要な中和剤の注入率を演算する。そして、薬品量制御部11がこの中和剤の注入率に基づいて中和剤注入部10を制御し、中和剤がバラスト水に注入され、バラスト水中の関連物質が除去される。
【0054】
さらに、TROモニタ1は、中和剤注入後のバラスト水のTRO濃度を計測し、中和剤注入後のバラスト水中に一定レベル以上のTRO濃度が計測された場合には、薬品量制御部11は、中和剤の注入操作を停止させ、バラスト水の排出用ポンプ14を停止させる。これにより、バラスト水中の関連物質の中和が不十分であって、排水基準を満たさないバラスト水の排出操作は、確実に停止できる。
【0055】
以上のように、実施形態1に係るバラスト水処理システム7によれば、バラスト水取水時には、TROモニタ1によりTRO濃度を計測し、バラスト水に注入される次亜塩素酸ナトリウム量を水生生物の殺滅に必要かつ過剰にならない量に制御することができる。また、バラスト水排出時には、TROモニタ1によりTRO濃度を計測して、遊離残留塩素を中和するための中和剤を必要かつ過剰にならない量に制御することができる。さらに、TROモニタ1で、中和剤注入後のTRO濃度を計測することで、バラスト排水の水質をモニタリングすることができる。なお、バラスト水処理において、バラスト水の取水工程とバラスト水の排出工程とが同時に実施されることはないので、1台のTROモニタ1でバラスト水の取水工程および排出工程のTRO濃度を計測しても測定に支障が生じない。
【0056】
そして、本発明に係るTROモニタ1は、バラスト水中のTROを迅速かつ精度よく計測できるので、このTROモニタ1をバラスト水処理システムに適用することで、バラスト水処理プロセスにおける活性物質および中和剤の注入量を最小化できる。よって、船舶に積載される活性物質および中和剤の量を抑えることができる。さらに、バラスト水取水時とバラスト水排出時に水質をモニタリングする計測を1つのTROモニタ1で行うことで、TRO濃度を計測するTROモニタの台数を低減でき、バラスト水処理システムの省スペース化が実現できる。
【0057】
また、実施形態1に係るバラスト水処理システム7は、吸着剤を使用せず、関連物質を中和する中和剤をバラスト水に注入することで関連物質を除去することができる。つまり、このシステムによれば、活性物質とともに中和剤の補充、保管が必要となるが、吸着設備の設置スペースが不要であり、吸着設備の設置に伴う定期的な吸着剤の交換費用の削減が図れる。
【0058】
(実施形態2)
本発明に係るTROモニタ1は、バラスト水中のTROを迅速に、精度よく測定することができる。よって、バラスト水処理システムのTROモニタ1として、バラスト水中のTRO濃度をモニタすることができる。
【0059】
本発明に係るTROモニタ1を備えた第2の実施形態に係るバラスト水処理システムについて、活性物質としてオゾンを用いたバラスト水処理システムを例示して説明する。なお、活性物質は、この実施例に限定されるものではなく、既知の活性物質を用いてもよい。
【0060】
活性物質としてオゾンを使用すると、オゾンと海水中の臭素イオンの反応で、臭素酸イオン、ブロモホルム、TRO等の関連物質が生成される。排出時のバラスト水に関連物質による毒性が残ったままバラスト水を排出すると、第2の環境汚染を引き起こしてしまうため、排出されるバラスト水中の関連物質を除去する必要がある。
【0061】
そこで、従来は、バラスト水の排出経路に、吸着剤を充填した排出処理槽を備え、バラスト水の排出時に上記バラスト水の関連物質の除去を行っている。この吸着剤は、関連物質等に対する吸着等の除去能力は優れているが、その能力には限界がある。そして、吸着能力に関しては、通水を継続すると吸着剤を充填した吸着層は逐次飽和となり、ついには破過となり吸着能力がなくなる。つまり、排出処理槽に充填された吸着剤の飽和吸着量以上の吸着除去は不可能である。
【0062】
そのため、排出処理槽での関連物質除去性能の監視を確実なものにするために、排出処理槽通過後のバラスト水の水質をTROモニタにより常に監視していた。
【0063】
この方法では、上記TROモニタの計測値が排出基準を満たさなかった場合、通常の手順でバラスト水を海中に排水できなくなり、結果的に積荷の積載が遅れる等の弊害が生じるおそれがあった。こうした事態を防ぐため、別途予備の吸着装置を用意して、バラスト排出中の関連物質の除去を行う必要がある。しかし、予備の吸着装置を用意すると、この吸着剤を保管する余分なスペースが必要となってしまう。
【0064】
本発明の実施形態2に係るバラスト水処理システム15は、図4に示すように、バラストタンク8、オゾン注入部16、排出処理部17、TROモニタ1、および排出制御部18より構成される。
【0065】
バラストタンク8は、船舶の積荷が少ない状態の航路において、航行中に船体が浮かび上がるのを防止するバラスト水を貯留する。
【0066】
オゾン注入部16には、バラスト水を取水するためのポンプ12を介してバラストタンク8が接続され、バラストタンク8に送水されるバラスト水にオゾンを注入する。
【0067】
排出処理部17は、バラスト水を船外に排出するポンプ19とバラスト水の流路を制御するバルブ20を介してバラストタンク8に接続されている。このバルブ20は、後述の排出制御部18により制御される。そして、バルブ20には、排出処理部17を介さずに船外にバラスト水を排出するための配管21が接続されている。
【0068】
TROモニタ1は、バラスト水排出時に、排出処理部17の処理前と処理後のバラスト水中のTRO濃度を計測する。TROモニタ1は、排出処理部17の入口と出口それぞれのバラスト水について、それぞれ時間をずらしてサンプリングして、サンプリングされたバラスト水中のTRO濃度を計測する。この計測データは後述の排出制御部18に送信される。
【0069】
排出制御部18は、TROモニタ1の計測値が入力され、この計測値に基づいて、ポンプ19およびバルブ20を制御する。
【0070】
上記構成からなる本発明の実施形態2に係るバラスト水処理システム15の動作について説明する。
【0071】
バラスト水取水時には、ポンプ12が駆動され、海水または淡水がフィルタ13、オゾン注入部16を介してバラストタンク8に移送される。なお、ポンプ12を備えず、水頭差を利用してバラスト水をバラストタンク8に導入してもよい。
【0072】
オゾン注入部16では、オゾン注入部16を通過するバラスト水の流量に応じて、バラスト水中のオゾン濃度が水生生物を殺滅するために必要な濃度となるようにバラスト水中に所定量のオゾンが注入される。そして、オゾンが注入されたバラスト水は、バラストタンク8に貯留される。なお、バラストタンク8の上流の配管には図示省略の脱気処理部が備えられ、この脱気処理部で余剰のオゾンがバラスト水より除去される。このようにオゾンはバラスト水から脱気処理されるとともに、バラスト水に残存するオゾンは分解しやすい物質であるため、バラストタンク8に移送されたバラスト水中には、オゾンはほとんど残留していない。
【0073】
一方、バラスト水排出時には、ポンプ19を駆動しバラストタンク8に貯留されたバラスト水が排出処理部17を介して船外に移送される。この時、TROモニタ1では、排出処理部17による処理前と処理後のバラスト水中のTRO濃度を計測し、この計測結果が排出制御部18に送信される。TROモニタ1による処理前と処理後のバラスト水のTRO濃度計測は、排水処理部17で処理する前のバラスト水をサンプルする手順と、排水処理部17で処理した後のバラスト水をサンプルする手順を一定時間毎に切り替えることで行うことができる。
【0074】
排出処理部17は、バラスト水中の関連物質(ブロモホルム、残留オキシダント等)を化学反応や吸着等により除去する。排出処理部17に充填される吸着剤としては、石炭活性炭、ヤシガラ活性炭、ゼオライト、セラミック等、既知の吸着剤が例示される。また、吸着材の形状は、粒状、粉末状、繊維状等いずれの形状のものを用いてもよい。
【0075】
具体例として、ヤシガラ活性炭2m3を充填した排出処理部17をバラストタンク8の下流に配置し、処理流量に対して4mg/lになるようにオゾンが注入された試験水を流量200m3/hで排出処理部17に流通させる実験を行った。この実験により、排出処理槽17を通過したバラスト水中の関連物質(主として、TRO)除去性能は、長時間十分性能を満足することが確認された。G9では関連物質の挙動が厳しくチェックされるので、このように、第2の環境汚染を引き起こさないように排出処理部17でバラスト水の処理を行う。
【0076】
排出制御部18では、TROモニタ1の計測値に基づいて、バラスト水の処理ルートを制御する。すなわち、排出処理部17の入口側のTRO濃度が、予め設定した値(例えば、0.15mg/l等)以下の場合、排出制御部18がバルブ20を制御し、バラスト水が配管21を通過して船外に放出される。つまり、排出処理部17を通過させずにバラスト水を船外に放流する。したがって、排出処理部17に充填された吸着剤の消耗を防止することができる。
【0077】
一方、排出処理部17入口側のTRO濃度が、予め設定した値(例えば、0.15mg/l等)以上の場合、排出制御部18は、バルブ20を制御することで、バラスト水を排出処理部17に移送する。したがって、バラスト水を排出処理部17で処理し、バラスト水中の関連物質を除去することで、IMOが採択した船舶バラスト水管理条約に適合したバラスト水を船外に排出することができる。この時、排出処理部17を通過した後のTRO濃度をTROモニタ1で計測して、バラスト水中のTRO濃度が予め設定した値(例えば、0.15mg/l等)以下であることを確認することができる。
【0078】
もし、バラスト水中のTRO濃度が予め設定した値以上となった場合には、ポンプ19を停止させることで、排水基準を満たさないバラスト水の排出操作は確実に停止できる。
【0079】
以上のように、実施形態2に係るバラスト水処理システム15によれば、排出処理部17に導入される前のバラスト水中のTRO濃度を計測し、この計測結果に基づいてバラスト水を排出処理部17に導入するか否かを制御することができる。
【0080】
本発明に係るTROモニタ1によれば、バラスト水中のTRO濃度を迅速かつ精度よく計測できる。そして、このTROモニタ1を用いて、排水処理の処理ルートを制御することで、排出処理部17に充填される吸着剤の積載量の適正化と併せて、吸着剤の吸着能力の延命化を図ることができる。
【0081】
なお、本発明に係るTROモニタ1およびTROモニタ1によるバラスト水中のTRO濃度を監視する方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の作用効果を損なわない範囲で適宜設定変更が可能である。例えば、指示試薬は、DPDに限らず、バラスト水中のTROと速やかに反応して呈色反応を示すものであれば、本発明に適用できる。
【0082】
以上のように、本発明のTROモニタ1によれば、バラスト水中のTRO濃度を迅速かつ精度よく計測することができる。また、本発明のTROモニタは、KI法によるTRO濃度の計測のように、安定的な他の酸化性物質を測定することなく、生物にとって毒性を有するTROを精度よく計測できる。よって、バラスト水排水時に、バラスト水中のTRO濃度が排出基準を満たしているかどうか監視することができる。また、バラスト水中のTROを中和処理する場合には、TROを中和する中和剤の注入量を必要且つ十分となるように抑制することができる。また、TRO除去操作を行う場合においても、生物にとって毒性を有するTROを精度よく計測できるので、過剰な除去操作を行うことを防止することができる。
【0083】
そして、本発明のTROモニタはバラスト水のTRO濃度を監視することができるので、バラスト水処理システムの制御に用いることができる。また、本発明のTROモニタは、バラスト水処理のシステムにおいて、1つのTROモニタで複数個所の処理水のTRO濃度をモニタリングすることができる。よって、バラスト水処理システムに使用されるTROモニタの数を低減することができ、バラスト水処理システムの省スペース化が実現する。
【符号の説明】
【0084】
1…TROモニタ(残留オキシダント濃度の測定装置)
2…測定セル
3…光源
4…光検知器
7…バラスト水処理システム
8…バラストタンク
9…活性物質注入部
10…中和剤注入部
11…薬品量制御部
9、12、14…ポンプ
15…バラスト水処理システム
16…オゾン注入部
17…排出処理部
18…排出制御部
20…バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に取水されたバラスト水に、このバラスト水中の残留オキシダントと反応して呈色する指示試薬を注入し、前記呈色した指示試薬の吸光度に基づいて前記バラスト水中の残留オキシダント濃度を測定する
ことを特徴とする残留オキシダント濃度の測定装置。
【請求項2】
前記指示試薬は、N,N‐ジエチル‐p‐フェニレンジアミン塩である
ことを特徴とする請求項1に記載の残留オキシダント濃度の測定装置。
【請求項3】
船舶に取水されたバラスト水に、このバラスト水中の残留オキシダントと反応して呈色する指示試薬を注入し、前記呈色した指示試薬の吸光度に基づいて前記バラスト水中の残留オキシダント濃度を測定する残留オキシダント測定装置による、前記バラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法であって、
前記バラスト水の排出時に、前記測定装置が、排出されるバラスト水中の残留オキシダント濃度を測定し、この測定された残留オキシダント濃度が予め定められた設定値以下であることを監視する
ことを特徴とするバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法。
【請求項4】
前記バラスト水取水時に、前記測定装置が、前記バラスト水中の水生生物を殺滅するために前記バラスト水に注入される活性物質と前記バラスト水との反応により生成する残留オキシダントを測定し、この残留オキシダントの測定値に基づいて、前記バラスト水に注入される前記活性物質の注入量を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載のバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法。
【請求項5】
前記測定装置は、排出されるバラスト水中の残留オキシダント濃度を測定し、この測定結果に基づいて、前記残留オキシダントを中和する中和剤の注入量を制御する、
ことを特徴とする請求項4に記載のバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法。
【請求項6】
前記測定装置により測定された残留オキシダント濃度が前記設定値以上であった場合、前記バラスト水から前記残留オキシダントを除去する処理を行う
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のバラスト水中の残留オキシダント濃度の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−7969(P2012−7969A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143343(P2010−143343)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【特許番号】特許第4701310号(P4701310)
【特許公報発行日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 日本工業出版株式会社 〔刊行物名〕 環境浄化技術 〔巻数〕 2010 Vol.9 〔号数〕 No.4 〔発行年月日〕 平成22年4月1日
【出願人】(591031212)北斗電工株式会社 (20)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】