説明

バラスト水処理方法および装置

【課題】 バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するために化学薬品を利用するとともに、低濃度で長時間かつタンク内で均一に殺滅効果を保持するようにしたバラスト水処理方法およびその装置を提供する。
【解決手段】 バラストタンク50にバラスト水を漲水後、バラスト水循環回路10によりバラスト水を前記バラストタンクの底部から吸い込み、上部から注入するようにバラスト水を循環しながら、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するための化学薬品を前記バラスト水循環回路10に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のバラスト水に含まれる有害生物(動・植物プランクトン、病原菌等)を化学薬品により殺滅するようにしたバラスト水処理方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バラスト水は、貨物運搬船等が空荷で航行する際、船体を安定させるために積み込む海水であるが、バラスト水の排出に伴ってバラスト水中の有害生物が各国の海域を移動することになり、それによって排水海域での生態系が破壊され深刻な問題となっている。
そのため、最近ではバラストタンク内に化学薬品を添加してバラスト水中の有害生物を殺滅する方法が考えられている。例えば、カナダや中国では次亜鉛素酸ナトリウムによる殺滅法、ドイツではペラクリーン(登録商標)と称する化学薬品を使用したペラクリーンオーシャン(PeracleanOcean)なる殺滅法などが研究されている。
そして、前者の殺滅法では、バラストタンクへの漲水時に、バラスト水系統配管内へ化学薬品を注入する方法、バラストタンク漲水後にバラストタンク内へ化学薬品を直接かつ常時注入する方法が考えられている。後者の殺滅法では、バラストタンクへの漲水時に、バラスト水系統配管内へ化学薬品を注入する方法で考えられている。いずれも、有害生物の殺滅効果に対する、薬品自体およびその濃度、装置の規模、処理コストについて研究が進められているのが現状である。
【0003】
また、化学薬品を使用しない方法としては、例えば特許文献1がある。この方法は、船舶の主機関から排出される高温の排気ガスを利用して、バラスト水の熱殺菌を行う方法である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−181443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化学薬品を利用するバラスト水処理方法では、バラスト水の薬品濃度の選定が課題の一つになっている。有害生物を確実に殺滅するためには、高濃度の化学薬品を使用する必要があるが、そうすると化学薬品貯蔵施設が大きくなったり、補充する薬品の頻度が増えたりする問題がある。また、化学薬品により船体(鉄鋼板、配管等)腐食や、バラスト水排出時における投入薬品による海洋環境への悪影響が懸念される。
逆に、化学薬品を低濃度で利用する場合は、有害生物の殺滅効果が低減するおそれがある。
【0006】
一方、特許文献1に示されるバラスト水の熱殺菌方法では、主機関がガスタービンであり、一般的に使用されるディーゼル機関ではバラスト水温度をあまり高温にできないので、有害生物の殺滅効果が必ずしも十分でないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたもので、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するために化学薬品を利用するとともに、低濃度で長時間かつタンク内で均一に殺滅効果を保持するようにしたバラスト水処理方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係るバラスト水処理方法は、バラストタンクにバラスト水を漲水後、バラスト水循環回路によりバラスト水を前記バラストタンクの底部から吸い込み、上部から注入するようにバラスト水を循環しながら、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するための化学薬品を前記バラスト水循環回路に注入するものである。
【0009】
本発明に係るバラスト水処理装置は、バラスト水をバラストタンクの底部から吸い込み、上部から注入するバラスト水循環回路と、該バラスト水循環回路に接続され、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するための化学薬品を注入する化学薬品注入回路とを備えたものである。
【0010】
また、本発明のバラスト水処理装置は、バラスト水の吸水口と注水口を、バラストタンクに対して対角状に配置する。
【0011】
また、本発明のバラスト水処理装置は、バラスト水循環回路が、バラストポンプと、各バラストタンクの底部に吸水口を臨ませた吸水管と、上甲板上に配管され、各バラストタンクの上部に注水口を臨ませた送水管とを備え、注水口は、前記送水管から垂下される注水管の下端に設けられた衝突板と、注水管の側面に設けられた複数の噴出口とからなるものである。
【0012】
また、本発明のバラスト水処理装置は、バラストタンクのデッドゾーンとなる領域に補助的に第2の注水管を配設する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バラストタンクにバラスト水を漲水後、バラスト水循環回路によりバラスト水を循環させながら、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するための化学薬品をバラスト水循環回路に注入するようにしたので、バラストタンク内の化学薬品濃度を低濃度で長時間一定に保つことができ、これによってバラスト水に含まれる有害生物を完全に殺滅することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を説明する。図1は本発明のバラスト水処理装置の概要を示す側面図、図2は本バラスト水処理装置のバラスト水の吸水口と注水口の配置を示す概略上面図である。
【0015】
本バラスト水処理装置は、例えば貨物運搬船に装備されるものであり、バラスト水をバラストタンク50の底部から吸い込み、上部から注入するバラスト水循環回路10と、このバラスト水循環回路10に接続され、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するための化学薬品を注入する化学薬品注入回路30とを備えるものである。なお、図示の矢印aはバラスト水の循環時の方向を、矢印bは化学薬品の流れ方向を示している。
【0016】
バラスト水循環回路10は、バラストポンプ11と、各バラストタンク50の底部に吸水口12を臨ませた吸水管13と、各バラストタンク50の上部に注水口14を臨ませた送水管15とからなっている。注水口14は送水管15に分岐状に垂設された注水管16の先端部(下端部)に設けられている。また、バラストポンプ11の吸い込み側に接続される吸水管13の本管および分岐管にそれぞれ電磁弁17、18が設けられている。バラストポンプ11の吐出側に接続される送水管15は、上甲板51上に配管されており、この配管より各バラストタンク50の上部に注水管16が垂下されている。なお、図1において、19は送水管15に設けられた電磁弁、20はバラストポンプ11のポンプ駆動モータである。
【0017】
吸水口12と注水口14の位置は、図2に示すようにバラストタンク50に対して対角状に配置するのが好ましく、このような配置とすることによって、バラストタンク50内の化学薬品濃度を均一にすることが可能である。
【0018】
また、注水口14は、例えば、図3(a)あるいは(b)のように構成されている。それぞれの上図は注水管16の上面図、下図は断面側面図である。いずれも注水管16の下端にバラスト水の衝突板21を設け、注水管16の側面には複数の噴出口22を設けた構成となっている。
注水管16は衝突板21により塞がれているため、バラスト水は注水管16の半径方向に設けられた複数の噴出口22より、図示矢印で示すように、放射方向に均一に噴出する。したがって、化学薬品を含むバラスト水をバラストタンク50上で放射状に均一に噴射することができる。
なお、衝突板21を図3(a)のように注水管16よりも径大にすることにより、注水管16の中心軸との噴出角度を大きくすることができ、また穴を複数設けることにより注水管16の強度低下を防ぐため、噴出口22を軸方向に複数段にわたって各段毎に角度をずらして設けることもできる。
【0019】
上記のように構成されたバラスト水循環回路10にはその送水管15に化学薬品注入回路30が接続される。有害生物(動・植物プランクトン、病原菌等)を殺滅するための化学薬品としては、例えば、次亜鉛素酸ナトリウム、ペラクリーン(登録商標)等が用いられる。また、化学薬品注入回路30は、フィルター43を介して海水循環回路40に接続されている。なお、図1において、矢印bは化学薬品の流れ方向を、矢印cは海水の流れ方向を示す。
【0020】
化学薬品注入回路30は、化学薬品注入機31をもつ化学薬品注入管32の一端をフィルター43を介して海水循環回路40に接続するとともに、化学薬品注入管32の他端を電磁弁33を介してバラスト水循環回路10の送水管15に接続してなるものである。
【0021】
海水循環回路40は、海水吸入口41、海水循環ポンプ42、フィルター43および電磁弁44を備えている。さらに、海水吸入口41とバラストポンプ11の間は電磁弁45を介して配管接続され、また海水吸入口41と送水管15とは電磁弁46を介して配管接続され、バラストポンプ11と吸水管13とは電磁弁17を介して配管接続されている。
【0022】
また、図1において、34は濃度計であり、濃度計34はバラスト水循環回路10への注入ポイントAより上流側の配管(送水管15または吸水管13)に設けられている。濃度計34としては、例えば赤外線分光計を用いることができる。また、各バラストタンク50の化学薬品濃度は、例えば150ppm〜0.1ppmの範囲内に保持される。
【0023】
化学薬品注入機31は、例えば、高濃度の薬液を貯蔵する貯蔵タンク(図示せず)を備え、その貯蔵タンクの底部からベンチュリーあるいは絞り弁などを介して所定濃度の薬液を少量ずつ連続的もしくは断続的に化学薬品注入管32に注入するようになっている。
【0024】
次に、本バラスト水処理装置の動作について説明する。バラスト水は、元栓の電磁弁45および送水管15の電磁弁19を開くことにより、海水吸入口41からバラストポンプ11で吸い上げ、それぞれ対応する注水口14から各バラストタンク50に注入することができる。あるいは、バラストタンク50の底部からバラスト水を入れることもでき、この場合は、電磁弁45、47とバラストタンク50毎の電磁弁18を開くことで、各バラストタンク50に注入することができる。
【0025】
バラストタンク50へのバラスト水漲水後においては、バラスト水循環回路10によりバラスト水を循環させる。この場合は、電磁弁45、46、47を閉じ、電磁弁17、18、19を開き、バラストポンプ11により各バラストタンク50の底部に臨ませた吸水口12よりバラスト水を吸い込み、送水管15により上甲板51まで上げて注水管16の注水口14より各バラストタンク50の上部からバラスト水を注入する。
【0026】
このように、バラストタンク50内のバラスト水を循環させながら、有害生物を殺滅する化学薬品を化学薬品注入回路30によりバラスト水循環回路10に注入する。この場合は、海水循環回路40により、あらかじめ海水を循環させておき、化学薬品注入時には、フィルター43を切り替えることにより、海水を化学薬品注入管32から電磁弁33を介して送水管15に注入する。化学薬品注入管32には化学薬品注入機31から所定濃度の化学薬品が少量ずつ連続的または断続的に注入されるので、これを送水管15に注入することによって、循環するバラスト水により希釈され、さらに低濃度となって注水口14から各バラストタンク50に注入することができる。また、化学薬品の濃度は濃度計34により監視されており、各バラストタンク50の濃度が設定濃度(150ppm〜0.1ppm)になるように制御されている。
【0027】
上述のように、バラストタンク50内のバラスト水を循環しながら、所定濃度の化学薬品を少量ずつ連続的または断続的に注入することにより、バラストタンク50内の化学薬品濃度を常時低濃度に保つことができる。
また、バラスト水の吸水口12と注水口14はバラストタンク50に対して対角状に配置されているので、バラストタンク50内のフロアープレートやロンジ材などの存在にもかかわらず化学薬品を含んだバラスト水を均一に分散させることができる。特に、デッドゾーンとなる領域には、後述するように補助的に第2の注水管を配設することにより、化学薬品を含んだバラスト水をより均一に分散させることができる。
さらに、バラスト水の注入時、注水口14の構造を図3(a)または(b)に示すように、注水管16の下端に設けた衝突板21と側面に設けた複数の噴出口22とからなる構成とすることにより、化学薬品を含んだバラスト水を放射状に噴出するので、拡散・対流により化学薬品濃度の均一化を促進することができる。
【0028】
したがって、本バラスト水処理装置によれば、各バラストタンク内では、化学薬品を含んだバラスト水が隅々まで均一に行きわたっているため、各バラストタンク内の化学薬品濃度を長時間低濃度に保有することができ、これによってバラスト水に含まれる有害生物を完全に殺滅することができる。
また、バラスト水を排出する際にも、化学薬品濃度が低濃度であるため、海洋環境の汚染のおそれはない。
さらに、化学薬品貯蔵設備の小型化が可能であり、また既設のバラストポンプを利用して、上甲板上に送水管および注水管を配管するとともに、この送水管に化学薬品注入管を配管接続すればよいので、設備コストを著しく低減することが可能である。
【0029】
ところで、貨物運搬船の船体構造には、ダブルハルタイプとシングルハルタイプとがある。ダブルハルタイプ(Double Hull Type)とは、トップサイドタンクと下部ホッパータンクとがダブルサイドタンクで結合されたバラストタンク形状であり、シングルハルタイプ(Single Hull Type)とは、トップサイドタンクと下部ホッパータンクとが連結トランクで結合されたバラストタンク形状である。
本発明の適用例を、ダブルハルタイプの場合を図4〜図7に、シングルハルタイプの場合を図8〜図11に示す。
【0030】
バラストタンク50の内部にはフロアープレートやロンジ材などが存在するため、バラスト水の流れを考えると、これらの部材が流れの妨げとなって、水の交換が少ないエリア、いわゆるデッドゾーンが生じるおそれがある。ダブルハルタイプの場合、図4〜図7にドットで示す領域(ドットエリア)60がデッドゾーンとなる。
注水口14は、トップサイドタンク52の船央側エリア(または斜線部領域)61に配置される。バラスト水は、トップサイドタンク52からダブルサイドタンク53、下部ホッパータンク54を経て二重底55内に流入する。そして、吸水口12は二重底55の船央側後部に注水口14と対角状に配置される。
【0031】
ダブルハルタイプの場合、トップサイドタンク52および下部ホッパータンク54の舷側にデッドゾーン60が生じるおそれがあるので、このデッドゾーン60となる領域に補助的に第2の注水管24を配設することが好ましい。第2の注水管24により、デッドゾーン60における水の交換が積極的に行われるので、化学薬品を含んだバラスト水がバラストタンク50の隅々まで均一な低濃度で拡散することになる。
【0032】
図8〜図11に示すシングルハルタイプの場合も同様の考え方で、第2の注水管24を補助的にデッドゾーン60となる領域に配設するものである。なお、図8において、56は連結トランクであり、バラスト水は、この連結トランク56を介してトップサイドタンク52から下部ホッパータンク54を経て二重底55内に流入する。また、補助的な第2の注水管24は上甲板51上の送水管15より分岐させればよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のバラスト水処理装置の概略側面図。
【図2】バラスト水処理装置のバラスト水の吸水口と注水口の配置を示す概略上面図。
【図3】注水口の構成例(a)、(b)を示す上面図と断面側面図。
【図4】ダブルハルタイプの船体断面図。
【図5】図4のA−A断面図。
【図6】図4のB−B断面図。
【図7】図4のC−C断面図。
【図8】シングルハルタイプの船体断面図。
【図9】図5のD−D断面図。
【図10】図5のE−E断面図。
【図11】図5のF−F断面図。
【符号の説明】
【0034】
10 バラスト水循環回路
11 バラストポンプ
12 吸水口
13 吸水管
14 注水口
15 送水管
16 注水管
21 衝突板
22 噴出口
24 第2の注水管
30 化学薬品注入回路
31 化学薬品注入機
32 化学薬品注入管
40 海水循環回路
50 バラストタンク
51 上甲板
60 デッドゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラストタンクにバラスト水を漲水後、バラスト水循環回路によりバラスト水を前記バラストタンクの底部から吸い込み、上部から注入するようにバラスト水を循環しながら、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するための化学薬品を前記バラスト水循環回路に注入することを特徴とするバラスト水処理方法。
【請求項2】
バラスト水をバラストタンクの底部から吸い込み、上部から注入するバラスト水循環回路と、該バラスト水循環回路に接続され、バラスト水に含まれる有害生物を殺滅するための化学薬品を注入する化学薬品注入回路とを備えたことを特徴とするバラスト水処理装置。
【請求項3】
バラスト水の吸水口と注水口を、バラストタンクに対して対角状に配置してなることを特徴とする請求項2記載のバラスト水処理装置。
【請求項4】
バラスト水循環回路は、バラストポンプと、各バラストタンクの底部に吸水口を臨ませた吸水管と、上甲板上に配管され、各バラストタンクの上部に注水口を臨ませた送水管とを備え、注水口は、前記送水管から垂下される注水管の下端に設けられた衝突板と、注水管の側面に設けられた複数の噴出口とからなることを特徴とする請求項2または3記載のバラスト水処理装置。
【請求項5】
バラストタンクのデッドゾーンとなる領域に補助的に第2の注水管を配設することを特徴とする請求項2乃至4に記載のバラスト水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−123577(P2006−123577A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310522(P2004−310522)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)