説明

バラスト水処理装置、このバラスト水処理装置を搭載した船舶、及びバラスト水処理方法

【課題】濾過手段でのバイオフィルムの繁殖を防止できるとともに、オンバラスト時の高速流量化を実現すること。
【解決手段】本発明のバラスト水処理装置は、バラストタンク30に貯える水を取水する取水手段10と、取水手段10で取水した水を濾過する濾過手段20と、濾過手段20を再生するための洗浄を行う洗浄手段50を備え、洗浄手段50による濾過手段20の洗浄時に殺滅物質供給手段40から供給される薬剤又は活性物質を含む水で洗浄を行い、洗浄後の汚染水を汚染水タンク31に貯えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水の注排水に伴う微生物の移動を防止するためのバラスト水処理装置、このバラスト水処理装置を搭載した船舶、及びバラスト水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な活性物質(アクティブサブスタンス)添加型のバラスト水管理システム(BWMS:Ballast Water Management System)は、バラスト水取水時に10〜50ミクロンメッシュのフィルターで大型生物(Lサイズプランクトン)を除去し、フィルターメッシュに残された生物は、連続的に行われるフィルター逆洗水とともに取水海域に戻し、フィルターを通過したバクテリアやSサイズプランクトンの入った濾過水に活性物質を加え、殺滅し、バラストタンクへと導く方式をとる。これによって、Lサイズプランクトン殺滅が苦手な薬剤の濃度を下げられ、活性物質起因の船体や配管系の腐食、環境への活性物質による二次汚染のリスクを最小に押さえる努力がなされている。
【0003】
通常の海域ではこの方式は有効な手段として国際海事機関(IMO)のBWMSガイドラインであるG9(活性物質を使用したバラスト水管理システム承認のための手続(2005年7月))やG8(バラスト水管理システムの承認のためのガイドライン(2005年7月))を取得しているBWMSは少なくない。
しかし、上記の手段ではフィルターを通過する海水には活性物質を入れられない関係上、東京湾や大阪湾といった陸上からの河川等を通じての栄養分が豊富な海水では、季節要因の海水温度や潮位変化等により、フィルターにバクテリアの一種であるバイオフィルムが繁殖する場合がある。一度、このバイオフィルムが付着すると逆洗が不可能な状態に陥り、フィルターが閉塞状態となってバラスト水を取水することが不可能になるというリスクを抱えている。
【0004】
一方、原油の輸送を主な目的とする大型タンカーのうち、20万〜30万重量トンのVLCC(Very Large Crude Oil Carrier)用のBWMSでは、オンバラストにおいて、最低でも3000トン/hが求められており(バラスト水排出時には更に高速流量化が求められ、6000トン/h以上、場合によっては1万トン/h)、熱回収型BWMSは排出時処理であることから、この高速流量化を達成するには、熱交換器の寸法や価格面からいささか無理があり、現実面を直視した場合には一部、活性物質を導入せざるを得ない状況である。
【0005】
ところで、特許文献1では、フィルターへの残留物を殺菌した後に、フィルターを通過した清浄水と混合し、バラスト水として貯留する装置が提案されている。
また、特許文献2では、バラスト水タンク内の液体を洗浄水としてフィルター装置上流側に環流させ、フィルター洗浄後の液体を、バラスト水の供給海域へ排出する装置が提案されている。
また、特許文献3では、バラストタンクからの排水の際にも、濾過装置を通過させる装置が提案されている。
また、特許文献4では、膜の洗浄時に薬剤を用いる装置が提案されている。
また、特許文献5では、濾過膜を船舶航行中に薬剤を用いて洗浄を行う装置が提案されている。
また、特許文献6では、サイズの大きな海生物とサイズの小さな海生物に分離し、サイズの小さな海生物に対して薬剤殺菌を行う装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−102283号公報
【特許文献2】特開2007−229575号公報
【特許文献3】特開2008−212901号公報
【特許文献4】特開2009−6213号公報
【特許文献5】特開2010−94584号公報
【特許文献6】国際公開第2008/114793号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、殺菌した残留物を清浄水と混合するために、薬液が清浄水によって薄まり、生き残ったバクテリアが貯留中に繁殖してしまうという問題を抱えている。また、フィルターでのバイオフィルムの繁殖を有効に防止することができず、フィルターが閉塞状態となってしまうリスクを抱えている。
また、特許文献2から特許文献5では、バラスト水取水時には、フィルターに残留するプランクトンやバクテリアの繁殖を抑えることはできず、取水時から洗浄時までの時間が長くなってしまうと、バクテリアの繁殖により付着したバイオフィルムの除去が困難となってしまう。また、フィルターで分離される処理排水を海域に排出し、フィルターを通過した水だけをバラスト水として利用するため、バラスト水の貯留に時間がかかってしまうという問題を有する。
また、特許文献6では、フィルターに残留するプランクトンやバクテリアの繁殖を抑えることはできず、付着したバイオフィルムの除去が困難となってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、濾過手段でのバイオフィルムの繁殖を防止できるとともに、オンバラスト時の高速流量化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の本発明に対応したバラスト水処理装置においては、バラストタンクに貯える水を取水する取水手段と、取水手段で取水した水を濾過する濾過手段と、濾過手段を再生するための洗浄を行う洗浄手段を備えたバラスト水処理装置において、洗浄手段による濾過手段の洗浄時に薬剤又は活性物質を含む水で洗浄を行い、洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、薬剤又は活性物質を含む水で濾過手段を洗浄することでバクテリアやプランクトンを殺滅し、濾過手段でのバイオフィルムの繁殖を防止でき、また洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることでバラストとして利用できる。
【0010】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載のバラスト水処理装置において、洗浄手段による濾過手段の洗浄を、取水手段による取水時に行うことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、取水手段による取水時に濾過手段の洗浄を行うことで、洗浄を連続的に行えるとともに、汚染水をバラストに用いるために、オンバラスト時間を短縮できる。
【0011】
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載のバラスト水処理装置において、濾過手段の上流側で、薬剤又は活性物質を取水した水に添加することを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、濾過手段の上流側で薬剤又は活性物質を添加することで、濾過手段にバイオフィルムが繁殖することがなく、濾過手段の機能低下を防止できる。
【0012】
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のバラスト水処理装置において、薬剤又は活性物質を無害化する無害化手段をさらに備えたことを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、薬剤又は活性物質を無害化して汚染水を海域に戻すことができる。
【0013】
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のバラスト水処理装置において、薬剤又は活性物質の濃度を検出する濃度検出手段をさらに備え、薬剤又は活性物質の濃度管理を行うことを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、薬剤又は活性物質の濃度管理を行うことでバクテリアやプランクトンを確実に殺滅できるとともに薬剤又は活性物質の濃度を適正に管理することができる。
【0014】
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載のバラスト水処理装置において、汚染水タンクに貯えられた汚染水を熱処理する熱処理手段をさらに備え、熱処理手段で熱処理した汚染水を外部へ排出することを特徴とする。請求項6に記載の本発明によれば、熱処理を行うことで、バクテリアやプランクトンを殺滅することができるとともに、例えば活性物質として塩素を用いている場合などでは無害化を行うことができる。
【0015】
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載のバラスト水処理装置において、熱処理手段として熱回収型熱交換器を用いたことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、熱交換器のバイオフィルム汚損による性能劣化を防止でき、熱回収によって省エネ化を図ることができる。
【0016】
請求項8記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のバラスト水処理装置において、汚染水を汚染水タンクに貯えるときに、高濃度の薬剤又は活性物質で汚染水を処理したことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、濾過手段の洗浄時に添加する薬剤又は活性物質では死滅しない、例えばLサイズプランクトンを殺滅することができる。また、汚染水タンクに蓄えている間に時間をかけて薬剤や活性物質の効力を低下させることができるので、バラスト排出時の無害化への負担を軽減できる。
【0017】
請求項9記載の本発明に対応した船舶においては、請求項1から請求項8のいずれかに記載のバラスト水処理装置を搭載したことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、薬剤又は活性物質を含む水で濾過手段を洗浄することでバクテリアやプランクトンを殺滅し、濾過手段でのバイオフィルムの繁殖を防止でき、また洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることでバラストとして利用できる。
【0018】
請求項10記載の本発明に対応したバラスト水処理方法においては、バラストタンクに貯える水を取水し、取水した水を濾過手段で濾過するとともに、濾過手段の再生のための洗浄を薬剤又は活性物質を含む水で洗浄を行い、洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることを特徴とする。請求項10に記載の本発明によれば、薬剤又は活性物質を含む水で濾過手段を洗浄することでバクテリアやプランクトンを殺滅し、濾過手段でのバイオフィルムの繁殖を防止でき、また洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることでバラストとして利用できる。
【0019】
請求項11記載の本発明は、請求項10に記載のバラスト水処理方法において、洗浄手段による濾過手段の洗浄を、取水手段による取水時に行うことを特徴とする。請求項11に記載の本発明によれば、取水手段による取水時に濾過手段の洗浄を行うことで、洗浄を連続的に行えるとともに、汚染水をバラストに用いるために、オンバラスト時間を短縮できる。
【0020】
請求項12記載の本発明は、請求項10又は請求項11に記載のバラスト水処理方法において、薬剤又は活性物質を、濾過手段の上流側で取水した水に添加することを特徴とする。請求項12に記載の本発明によれば、濾過手段の上流側で薬剤又は活性物質を添加することで、濾過手段にバイオフィルムが繁殖することがなく、濾過手段の機能低下を防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、薬剤又は活性物質を含む水で濾過手段を洗浄することでバクテリアやプランクトンを殺滅し、濾過手段でのバイオフィルムの繁殖を防止でき、また洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることでバラストとして利用できる。
【0022】
また、洗浄手段による濾過手段の洗浄を、取水手段による取水時に行う場合には、取水手段による取水時に濾過手段の洗浄を行うことで、洗浄を連続的に行えるとともに、汚染水をバラストに用いるために、オンバラスト時間を短縮できる。
【0023】
また、濾過手段の上流側で、薬剤又は活性物質を取水した水に添加する場合には、濾過手段の上流側で薬剤又は活性物質を添加することで、濾過手段にバイオフィルムが繁殖することがなく、濾過手段の機能低下を防止できる。
【0024】
また、薬剤又は活性物質を無害化する無害化手段をさらに備えた場合には、薬剤又は活性物質を無害化することで、汚染水を海域に戻すことができる。
【0025】
また、薬剤又は活性物質の濃度を検出する濃度検出手段をさらに備え、薬剤又は活性物質の濃度管理を行う場合には、薬剤又は活性物質の濃度管理を行うことでバクテリアやプランクトンを確実に殺滅できるとともに薬剤又は活性物質を必要以上に添加することを防止することができる。
【0026】
また、汚染水タンクに貯えられた汚染水を熱処理する熱処理手段をさらに備え、熱処理手段で熱処理した汚染水を外部へ排出する場合には、熱処理を行うことで、バクテリアやプランクトンを殺滅することができるとともに、例えば活性物質として塩素を用いている場合などでは無害化を行うことができる。
【0027】
また、熱処理手段として熱回収型熱交換器を用いた場合には、熱交換器のバイオフィルム汚損による性能劣化を防止でき、熱回収によって省エネ化を図ることができる。
【0028】
また、汚染水を汚染水タンクに貯えるときに、高濃度の薬剤又は活性物質で汚染水を処理した場合には、濾過手段の洗浄時に添加する薬剤又は活性物質では死滅しないプランクトンを殺滅することができ、汚染水タンクに蓄えている間に時間をかけて薬剤や活性物質の効力を低下させることができるので、バラスト排出時の無害化への負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態によるバラスト水処理装置のライン図
【図2】同バラスト水処理装置のオンバラスト時の流れを示すライン図
【図3】同バラスト水処理装置のオンバラスト時(濾過手段の洗浄)の流れを示すライン図
【図4】同バラスト水処理装置のデバラスト時の流れを示すライン図
【図5】同バラスト水処理装置のデバラスト時(汚染水の排出)の流れを示すライン図
【図6】同バラスト水処理装置に用いる洗浄手段付濾過手段の概念構成図
【図7】同バラスト水処理装置を搭載した船舶の概略構成図
【図8】本発明の他の実施形態によるバラスト水処理装置のライン図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態によるバラスト水処理装置について説明する。
図1は本発明の実施形態によるバラスト水処理装置のライン図、図2は同バラスト水処理装置のオンバラスト時の流れを示すライン図、図3は同バラスト水処理装置のオンバラスト時(濾過手段の洗浄)の流れを示すライン図、図4は同バラスト水処理装置のデバラスト時の流れを示すライン図、図5は同バラスト水処理装置のデバラスト時(汚染水の排出)の流れを示すライン図、図6は同バラスト水処理装置に用いる洗浄手段付濾過手段の概念構成図、図7は同バラスト水処理装置を搭載した船舶の概略構成図である。
【0031】
まず、図1を用いてバラスト水処理装置の構成を説明する。
図1に示すように、本実施形態のバラスト水処理装置は、水(海水)を取水する取水手段10と、取水手段10で取水した水を濾過する濾過手段20と、濾過手段20で濾過した水を貯えるバラストタンク30と、取水手段10で取水した水に添加する薬剤又は活性物質を貯える殺滅物質供給手段40と、バラストタンク30に貯えた水を海域に排水するときに薬剤又は活性物質を無害化する無害化手段60と、濾過手段20の洗浄後の汚染水を貯える汚染水タンク31と、汚染水タンク31に貯えられた汚染水を熱処理する熱処理手段70とを備えている。
【0032】
本実施形態における濾過手段20は、濾過手段20を再生するための洗浄を行う洗浄手段50を備えている。
取水手段10には、バラストポンプが用いられ、バラストポンプで取水シーチェスト11から水を取水する。
濾過手段20には、例えば10〜50ミクロンメッシュのフィルターが用いられ、10〜50ミクロンメッシュのフィルターでは大型生物(Lサイズプランクトン)が除去される。
バラストタンク30は複数のタンクで構成され、バラストタンク30の一部のタンクを汚染水タンク31として用いることができる。
【0033】
殺滅物質供給手段40には、薬剤又は活性物質を貯える薬液タンクを用いることができるが、活性物質としては例えば塩素を用いることができる。また、殺滅物質供給手段40には、電気分解生成器や紫外線照射器を用いることができる。
無害化手段60には、薬剤又は活性物質を中和する中和液を貯える中和液タンクを用いることができ、中和液としては例えばチオ硫酸ナトリウムを用いることができる。無害化手段60は、バラストタンク30の残留薬剤等の無害化に用いられるとともに、汚染水タンク31の残留薬剤等の無害化にも用いられる。また、無害化手段60には、塩素を飛ばす加熱器を用いることができる。
熱処理手段70には、熱回収型熱交換器を用いることができる。熱処理手段70での熱処理によって、バクテリアやプランクトンを殺滅処理するが、例えば活性物質として塩素を用いる場合には殺滅物質の無害化を行うことができる。
【0034】
取水シーチェスト11から取水手段10までの配管には、開閉バルブV1が設けられている。
開閉バルブV1から取水手段10までの配管には、混合弁91が設けられ、混合弁91に殺滅物質供給手段40からの給水管41が接続されている。給水管41には、殺滅物質供給ポンプYP1が設けられている。
取水手段10から濾過手段20までの配管には、開閉バルブV2が設けられている。
取水手段10から開閉バルブV2までの配管には、切替弁92が設けられ、切替弁92に排水シーチェスト81への排水管82が接続されている。排水管82には、開閉バルブV3が設けられている。
【0035】
濾過手段20の出口は、配管によってバラストタンク30に接続されている。濾過手段20とバラストタンク30を接続する配管には、分岐弁93が設けられ、分岐弁93に逆洗用ポンプ51への分岐管83が接続されている。なお、本実施形態では、分岐弁93として説明するが、分岐弁93は切替弁であってもよい。分岐弁93を用いた場合には、バラストタンク30への取水を継続して行いながら、濾過手段20の洗浄を行うことができ、分岐弁93に代えて切替弁を用いた場合には、バラストタンク30への取水の停止時に濾過手段20の洗浄を行うことができる。
【0036】
逆洗用ポンプ51の出口は、洗浄用配管84によって濾過手段20に接続されている。
濾過手段20には排出管85が接続され、洗浄用配管84によって供給され、濾過手段20を洗浄した後の汚染水は、排出管85によって汚染水タンク31に貯えられる。
汚染水タンク31と熱処理手段70とは配管86で接続され、熱処理手段70の下流側の配管87は、切替弁94に接続されている。
切替弁94は、分岐弁93とバラストタンク30との間の配管に設けられている。
分岐弁93と切替弁94との間の配管には切替弁95が設けられている。
【0037】
また、混合弁91と取水手段10との間の配管には、切替弁96が設けられている。
そして、切替弁95と切替弁96とは、配管88で接続されている。
配管88には、開閉バルブV4が設けられている。開閉バルブV4から切替弁96までの間の配管88には、混合弁97が設けられている。
混合弁97には、無害化手段60からの配管61が接続され、配管61にはポンプYP2が設けられている。
【0038】
熱処理手段70は、ポンプ71と熱回収型熱交換器72と熱交換器73とから構成されている。ポンプ71によって汚染水タンク31から導出させた汚染水は、熱回収型熱交換器72で吸熱した後に熱交換器73で更に加熱され、その後熱回収型熱交換器72で放熱し、配管87に導出される。
熱交換器73は、熱源手段74によって加熱される。熱源手段74は、熱交換器73、復水タンク75、循環ポンプ76とともに配管にて環状に接続され、配管内を熱媒体が循環する。熱源手段74には、補助ボイラーや排熱回収サイレンサーが用いられる。
【0039】
本実施形態のバラスト水処理装置は、混合弁91の下流側に薬剤又は活性物質の濃度を検出する濃度検出手段98を備えている。
濃度検出手段98は、取水手段10から濾過手段20までの配管に設けることが好ましい。特に、取水手段10と切替弁92の間に設けることにより、デバラスト時にも濃度検出を行うことができる。
本実施形態のバラスト水処理装置は、濃度検出手段98を備えることで、薬剤又は活性物質の濃度管理を行い、殺滅物質供給手段40から供給する薬剤又は活性物質の調整を行う。
【0040】
次に、図2を用いてバラスト水処理装置のオンバラスト時の流れを説明する。
取水手段10によって、取水シーチェスト11から取水した水は、濾過手段20で濾過された後に、バラストタンク30に貯えられる。
この取水時には、殺滅物質供給手段40の薬剤又は活性物質が、混合弁96から水に添加される。
従って、薬剤又は活性物質が添加された水は、取水手段10で混合が促進され、濾過手段20に至る。
【0041】
オンバラスト時には、開閉弁V1及び開閉弁V2を開、開閉弁V3及び開閉弁V4を閉としている。
また、オンバラスト時には、切替弁94は配管87への流れを閉とし、切替弁96は配管88への流れを閉としている。
濃度検出手段98は、取水手段10の下流側に設けているため、取水手段10により薬剤又は活性物質が攪拌され、安定した濃度を検出することができる。
【0042】
このように濾過手段20に至った水は、薬剤又は活性物質が添加されているため、バクテリアやプランクトンを殺滅し、濾過手段20でのバイオフィルムの繁殖を防止できる。
また、濃度検出手段98によって、薬剤又は活性物質の濃度を検出し、薬剤又は活性物質の濃度管理を行うことで、バクテリアやプランクトンを確実に殺滅できるとともに薬剤又は活性物質を必要以上に添加することを防止することができる。
【0043】
次に、図3を用いてバラスト水処理装置のオンバラスト時(濾過手段の洗浄)の流れを説明する。
なお、図3では濾過手段20の洗浄時の流れを説明するために、図2と別に説明するが、本実施形態では分岐弁93を用いているため、図2の流れと図3の流れは同時に行われる。
【0044】
取水手段10によって、取水シーチェスト11から取水し、濾過手段20で濾過された後の水の一部は、逆洗用ポンプ51によって分岐弁93から濾過手段20に戻される。
濾過手段20で濾過された後の水の一部には、殺滅物質供給手段40の薬剤又は活性物質が添加されている。
【0045】
オンバラスト時には、開閉弁V1及び開閉弁V2を開、開閉弁V3及び開閉弁V4を閉としている。
また、オンバラスト時には、切替弁94は配管87への流れを閉とし、切替弁96は配管88への流れを閉としている。
洗浄用配管84によって供給され、濾過手段20に至った水は、洗浄手段50によって濾過手段20を洗浄し、濾過手段20を洗浄した後の汚染水は、排出管85によって汚染水タンク31に貯えられる。
この汚染水には、薬剤又は活性物質が添加されているため、バクテリアやプランクトンを殺滅し、濾過手段20でのバイオフィルムの繁殖を防止できる。
【0046】
次に、図4を用いてバラスト水処理装置のデバラスト時の流れを説明する。
取水手段10によって、バラストタンク30内のバラスト水は、配管88及び排水管82を経由して排水シーチェスト81から排出される。
このバラスト水の排出時には、薬剤又は活性物質を中和する中和液が、無害化手段60から供給され、混合弁97から水に添加される。
無害化手段60から供給される中和液で、薬剤又は活性物質を無害化することで、バラスト水を海域に戻すことができる。
【0047】
デバラスト時には、開閉弁V1及び開閉弁V2を閉、開閉弁V3及び開閉弁V4を開としている。
また、デバラスト時には、切替弁95及び切替弁96は配管88とを接続している。
【0048】
次に、図5を用いてバラスト水処理装置のデバラスト時(汚染水の排出)の流れを説明する。
ポンプ71によって、汚染水タンク31内の汚染水は、配管86から熱処理手段70を経由し、熱処理された汚染水は、切替弁94、切替弁95、配管88及び排水管82を経由して排水シーチェスト81から排出される。
熱処理手段70によって熱処理を行うことで、バクテリアやプランクトンを殺滅することができるとともに、例えば活性物質として塩素を用いている場合などでは無害化を行うことができる。
またバラスト水の排出時には、薬剤又は活性物質を中和する中和液が、無害化手段60から供給され、混合弁97から水に添加される。
無害化手段60から供給される中和液で、薬剤又は活性物質を無害化することで、バラスト水を海域に戻すことができる。
【0049】
デバラスト時には、開閉弁V1及び開閉弁V2を閉、開閉弁V3及び開閉弁V4を開としている。
また、デバラスト時には、切替弁95及び切替弁96は配管88とを接続している。
なお、本実施形態では、バラストタンク30からの排水と、汚染水タンク31からの排水を別々に行う説明を行ったが、バラストタンク30からの排水と、汚染水タンク31からの排水を同時に行うこともできる。
【0050】
次に、図6を用いてバラスト水処理装置に用いる洗浄手段付濾過手段の構成について説明する。
濾過手段20は、円筒状のフィルター部材21で構成され、フィルター部材21の外周部から内周部に水が導入されることで濾過が行われる。
フィルター部材21は、例えば、リング状のディスクを積層したものや、金網、ノッチワイヤー、不織布によって構成されたものが用いられる。
【0051】
洗浄手段50は、フィルター部材21の一部を区画し、逆洗水を流すための隔壁52、53と、フィルター部材21を回転させるモータ(図示せず)とから構成される。一対の隔壁52は、フィルター部材21の内部を区画し、一対の隔壁53はフィルター部材21の外部を区画している。
洗浄用配管84は、一対の隔壁52で区画された領域に接続され、排出管85は、一対の隔壁53で区画された領域に接続される。
【0052】
上記構成によって、一対の隔壁53で囲まれた領域以外では、フィルター部材21には、取水シーチェスト11から取水され、薬剤又は活性物質が添加された水が導入され、フィルター部材21で濾過された水は、一対の隔壁52で囲まれた領域以外から、バラストタンク30に導出される。
一方、一対の隔壁52で囲まれた領域では、フィルター部材21には、洗浄用配管84から、薬剤又は活性物質が添加された水が導入され、フィルター部材21を洗浄した後の汚染水は、一対の隔壁53で囲まれた領域から、排出管85を通って汚染水タンク31に導出される。
フィルター部材21が回転することで、濾過時のフィルター部材21の汚れは、連続して洗浄される。
【0053】
次に、図7を用いてバラスト水処理装置を搭載した船舶の構成を説明する。
船体1の船尾2側には、補助ボイラーや排熱回収サイレンサーなどで構成される熱源手段74が配置されている。
汚染水タンク31の汚染水は、ポンプ71によって熱回収型熱交換器72、熱交換器73に導かれ、熱処理される。熱処理された汚染水は、熱回収型熱交換器72で、熱処理前の汚染水を加熱する。従って、熱交換器73では、熱ロス分の熱を、熱源手段74から補充すればよい。
【0054】
以下に本発明の他の実施形態によるバラスト水処理装置について説明する。図8は同バラスト水処理装置のライン図である。上記実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0055】
図8に示すバラスト水処理装置では、上記実施形態における熱処理手段70に代えて高濃度滅菌物質供給手段100を備えている。
なお、高濃度滅菌物質供給手段100として薬剤を用いる場合は、前述の殺滅物質供給手段40から高濃度の薬液供給を受けることも可能である。
高濃度滅菌物質供給手段100は、汚染水タンク31に貯える汚染水に添加する高濃度の薬剤又は活性物質を貯えている。ここで、高濃度滅菌物質供給手段100から供給される高濃度の薬剤又は活性物質は、殺滅物質供給手段40から添加される薬剤又は活性物質の濃度では死滅しないLサイズプランクトンを殺滅する濃度の薬剤又は活性物質である。例えば、殺滅物質供給手段40から添加される塩素の濃度が5ppmであるとき、高濃度滅菌物質供給手段100から添加される塩酸濃度を30ppmとする。
濾過手段20から汚染水タンク31までの排出管85には、混合弁99が設けられ、混合弁99に高濃度滅菌物質供給手段100からの給水管101が接続されている。給水管101には、高濃度殺滅物質供給ポンプYP3が設けられている。
【0056】
本実施形態におけるバラスト水処理装置は、上記実施形態における図3に示すオンバラスト時(濾過手段の洗浄)に、高濃度滅菌物質供給手段100から高濃度の薬剤又は活性物質を、排出管85を流れる汚染水に添加する。
また、本実施形態におけるバラスト水処理装置は、上記実施形態における図5に示すバラスト水処理装置のデバラスト時(汚染水の排出)に、配管86からポンプ71によって、汚染水は、配管87、切替弁94、切替弁95、配管88及び排水管82を経由して排水シーチェスト81から排出される。なお、ポンプ71を省略したい場合は各バラストタンクに繋がる通常の配管系を通じて排出することが出来る。
【0057】
本実施形態によれば、濾過手段20の洗浄時に添加する薬剤又は活性物質では死滅しない、例えばLサイズプランクトンを殺滅することができる。また、汚染水タンク31に蓄えている間に時間をかけて薬剤や活性物質の効力を低下させることができる。
なお、図8に示すバラスト水処理装置では、上記実施形態における熱処理手段70に代えて高濃度滅菌物質供給手段100を備える場合で説明したが、熱処理手段70とともに高濃度滅菌物質供給手段100を用いてもよい。
【0058】
以上のように本実施形態は、バラストタンク30に貯える水を取水する取水手段10と、取水手段10で取水した水を濾過する濾過手段20と、濾過手段20を再生するための洗浄を行う洗浄手段50を備え、洗浄手段50による濾過手段20の洗浄時に薬剤又は活性物質を含む水で洗浄を行い、洗浄後の汚染水を汚染水タンク31に貯えるものであり、本実施形態によれば、薬剤又は活性物質を含む水で濾過手段20を洗浄することでバクテリアやプランクトンを殺滅し、濾過手段20でのバイオフィルムの繁殖を防止でき、また洗浄後の汚染水を汚染水タンク31に貯えることでバラストとして利用できる。
【0059】
また本実施形態によれば、洗浄手段50による濾過手段20の洗浄を、取水手段10による取水時に行うことで、洗浄を連続的に行えるとともに、汚染水をバラストに用いるために、オンバラスト時間を短縮できる。
【0060】
また本実施形態によれば、薬剤又は活性物質を、濾過手段20の上流側で水に添加することで、濾過手段20にバイオフィルムが繁殖することがなく、濾過手段20の機能低下を防止できる。
【0061】
また本実施形態によれば、薬剤又は活性物質を無害化する無害化手段60をさらに備え、薬剤又は活性物質を無害化することで、汚染水を海域に戻すことができる。
【0062】
また本実施形態によれば、薬剤又は活性物質の濃度を検出する濃度検出手段98をさらに備え、薬剤又は活性物質の濃度管理を行うことでバクテリアやプランクトンを確実に殺滅できるとともに薬剤又は活性物質を必要以上に添加することを防止することができる。
【0063】
また本実施形態によれば、汚染水タンク31に貯えられた汚染水を熱処理する熱処理手段70をさらに備え、熱処理手段70で熱処理した汚染水を外部へ排出することで、バクテリアやプランクトンを殺滅することができるとともに、例えば活性物質として塩素を用いている場合などでは無害化を行うことができる。
【0064】
また本実施形態によれば、熱処理手段70として熱回収型熱交換器72を用いたことで、熱回収によって省エネ化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、特に原油の輸送を主な目的とする大型タンカーに適したバラスト水処理装置、このバラスト水処理装置を搭載した船舶、及びバラスト水処理方法である。
【符号の説明】
【0066】
10 取水手段
20 濾過手段
30 バラストタンク
31 汚染水タンク
40 殺滅物質供給手段
50 洗浄手段
60 無害化手段
70 熱処理手段
72 熱回収型熱交換器
98 濃度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラストタンクに貯える水を取水する取水手段と、前記取水手段で取水した前記水を濾過する濾過手段と、前記濾過手段を再生するための洗浄を行う洗浄手段を備えたバラスト水処理装置において、前記洗浄手段による前記濾過手段の洗浄時に薬剤又は活性物質を含む水で洗浄を行い、洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることを特徴とするバラスト水処理装置。
【請求項2】
前記洗浄手段による前記濾過手段の洗浄を、前記取水手段による取水時に行うことを特徴とする請求項1に記載のバラスト水処理装置。
【請求項3】
前記濾過手段の上流側で、前記薬剤又は前記活性物質を前記取水した前記水に添加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバラスト水処理装置。
【請求項4】
前記薬剤又は前記活性物質を無害化する無害化手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のバラスト水処理装置。
【請求項5】
前記薬剤又は前記活性物質の濃度を検出する濃度検出手段をさらに備え、前記薬剤又は前記活性物質の濃度管理を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のバラスト水処理装置。
【請求項6】
前記汚染水タンクに貯えられた前記汚染水を熱処理する熱処理手段をさらに備え、前記熱処理手段で熱処理した前記汚染水を外部へ排出することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のバラスト水処理装置。
【請求項7】
前記熱処理手段として熱回収型熱交換器を用いたことを特徴とする請求項6に記載のバラスト水処理装置。
【請求項8】
前記汚染水を前記汚染水タンクに貯えるときに、高濃度の薬剤又は活性物質で前記汚染水を処理したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のバラスト水処理装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載のバラスト水処理装置を搭載したことを特徴とする船舶。
【請求項10】
バラストタンクに貯える水を取水し、取水した前記水を濾過手段で濾過するとともに、前記濾過手段の再生のための洗浄を薬剤又は活性物質を含む水で洗浄を行い、洗浄後の汚染水を汚染水タンクに貯えることを特徴とするバラスト水処理方法。
【請求項11】
前記洗浄手段による前記濾過手段の洗浄を、前記取水手段による取水時に行うことを特徴とする請求項10に記載のバラスト水処理方法。
【請求項12】
前記薬剤又は前記活性物質を、前記濾過手段の上流側で前記取水した前記水に添加することを特徴とする請求項10又は請求項11に記載のバラスト水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91438(P2013−91438A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235147(P2011−235147)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(395008333)株式会社大晃産業 (12)
【出願人】(000193586)水野ストレーナー工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】