説明

バリアフィルム及びその製造方法

【課題】プラスチックフィルムの表面粗さに左右されることなく、所望の水蒸気バリア性を確保できるバリアフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】上記バリアフィルムは、プラスチックフィルムで形成された基材11と、基材11の上に形成された紫外線硬化樹脂からなる下地層12と、下地層12の上にスパッタ法で形成されたSi−Cr−Zr系酸化物からなるバリア層13とを具備する。下地層12は、基材11の表面平坦度の改善を目的として形成され、バリア層13による基材表面の被覆性を高める。これにより、バリア層13の膜質が高まり、所望の水蒸気バリア性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気等に対するバリア性を有するバリアフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの表面に酸化アルミニウム、酸化珪素等の金属酸化物薄膜を形成したバリアフィルムが知られている。この種のバリアフィルムは、酸素または水蒸気の遮断を必要とする物品の包装、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。また近年では、包装用途以外にも有機ELなどの表示素子、太陽電池などのエレクトロニクス分野にもバリアフィルムの適用が広まってきている。
【0003】
近年、例えばエレクトロニクス用途のバリアフィルムにおいては、水蒸気バリア性だけでなく高い透明性が要求されている。このためバリア層の支持基材にはプラスチックフィルムが広く用いられている。例えば下記特許文献1には、プラスチックフィルムの少なくとも片面に、酸化ジルコニウムと酸化珪素の2つの成分からなる薄膜が形成されたガスバリアフィルムが記載されている。また下記特許文献2には、フィルムの少なくとも片面に、少なくともSiとMgとZrとからなる酸化物薄膜が設けられたバリアフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3252929号公報
【特許文献2】特許第4435397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラスチックフィルム製の基材は、その種類によっては所定以上の表面粗さを有する。このためスパッタ法でバリア層を形成する場合、基材表面の凹凸に追従できずに所望の水蒸気バリア性を確保することが困難である。また、スパッタ法はCVD法等の他の成膜方法に比べて成膜レートが低いため、生産性の観点から、基材表面の凹凸を吸収できる程度の厚みでバリア層を形成することは現実的ではない。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、プラスチックフィルムの表面粗さに左右されることなく、所望の水蒸気バリア性を確保できるバリアフィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るバリアフィルムは、基材と、下地層と、第1のバリア層とを具備する。
上記基材は、プラスチックフィルムで形成される。
上記下地層は、上記基材の上に形成され、紫外線硬化樹脂からなる。
上記第1のバリア層は、上記下地層の上にスパッタ法で形成され、Si−Cr−Zr系酸化物からなる。
【0008】
上記バリアフィルムにおいて下地層は、基材の表面平坦度の改善を目的として形成され、第1のバリア層による基材表面の被覆性を高める。これにより、下地層の表面にスパッタ法で成膜されるSi−Cr−Zr系酸化物からなる第1のバリア層の膜質が高まり、所望の水蒸気バリア性を確保することができる。
【0009】
上記下地層の表面粗さは、基材の表面粗さよりも小さければ特に限定されず、例えば算術平均粗さ(Ra)が1nm以下、最大高さ(Rz)が10nm以下である。これにより、スパッタ法で成膜される第1のバリア層の基材表面に対するカバレッジ性を高めることができる。
【0010】
上記バリアフィルムは、中間層と、第2のバリア層とをさらに具備してもよい。
上記中間層は、上記第1のバリア層の上に形成され、接着材料からなる。
上記第2のバリア層は、上記中間層の上に形成され、Si−Cr−Zr系酸化物からなる。
【0011】
上記のように中間層を介してバリア層を積層することにより、バリア層の界面が増加し、これにより水蒸気バリア性を高めることができる。バリア層の積層数は2層に限られず、3層以上であってもよい。
【0012】
上記バリアフィルムは、第3のバリア層をさらに具備してもよい。上記第3のバリア層は、上記第1のバリア層の上に原子層堆積法によって形成され、水蒸気バリア性を有する無機材料からなる。
第3のバリア層は、原子層堆積法(ALD(Atomic Layer Deposition)法ともいう。)によって形成されるため、カバレッジ性が高く緻密な膜を得ることができる。これにより水蒸気バリア性をさらに向上させることができる。
【0013】
上記バリアフィルムは、水蒸気バリア性を必要とする表示装置、携帯型電子機器、半導体装置、電池などの電気・電子デバイス、あるいは、食品、精密機器、カード類、美術品などの包装部材に適用可能である。
【0014】
本発明の一形態に係るバリアフィルムの製造方法は、プラスチックフィルム上に紫外線硬化樹脂からなる下地層を形成する工程を含む。
上記下地層の上には、Si−Cr−Zr系酸化物からなる第1のバリア層がスパッタ法で形成される。
【0015】
上記バリアフィルムの製造方法において下地層は、基材の表面平坦度の改善を目的として形成され、第1のバリア層による基材表面の被覆性を高める。これにより、下地層の表面にスパッタ法で成膜されるSi−Cr−Zr系酸化物からなる第1のバリア層の膜質が高まり、水蒸気バリア性の高いバリアフィルムを製造することができる。
【0016】
上記バリアフィルムの製造方法は、さらに、上記第1のバリア層の上に、Si−Cr−Zr系酸化物からなる第2のバリア層を、接着剤を介して接合してもよい。
これによりバリア層の界面が増加し、これにより水蒸気バリア性を高めることができる。バリア層の積層数は2層に限られず、3層以上であってもよい。
【0017】
上記バリアフィルムの製造方法は、さらに、上記第1のバリア層の上に、水蒸気バリア性を有する無機材料からなる第3のバリア層を原子層堆積法で形成してもよい。
第3のバリア層は、ALD法によって形成されるため、カバレッジ性が高く緻密な膜を得ることができる。これにより水蒸気バリア性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プラスチックフィルムの表面粗さに左右されることなく、所望の水蒸気バリア性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るバリアフィルムを模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るバリアフィルムを模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示すバリアフィルムの変形例を示す断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るバリアフィルムを模式的に示す断面図である。
【図5】図4に示すバリアフィルムの第3のバリア層の形成方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。本実施形態では有機ELディスプレイ、太陽電池モジュール等に適用されるバリアフィルムを例に挙げて説明する。
【0021】
<第1の実施形態>
[バリアフィルム]
図1は、本発明の一実施形態に係るバリアフィルムを模式的に示す断面図である。本実施形態のバリアフィルム10は、基材11と、下地層12と、バリア層13との積層構造を有する。
【0022】
(基材)
基材11は、フレキシブル性を有するプラスチックフィルムで形成することができる。この種のプラスチックフィルムとしては、透光性を有するプラスチック材料が用いられ、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリスチレン(PS)、アラミド、トリアセチルセルロース(TAC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などが挙げられる。
【0023】
基材11の厚みは特に限定されず、例えば10μm以上1000μm以下である。厚みが10μm以下の場合、ハンドリング性や信頼性が低下するおそれがある。一方、厚みが1000μmを超えると、光の透過率の低下が顕著となる。基材11の好ましい厚みは、例えば、50μm以上200μm以下である。特に200μm以下にすることによって、ロール・ツー・ロール方式での成膜処理を適用することが容易となる。
【0024】
(下地層)
下地層12は、基材11の表面に形成され、基材11の表面の平滑性を高める目的で形成される。下地層12は、透光性を有する紫外線硬化樹脂で形成されており、これにより目的とする透明性、表面平坦性を得ることができる。紫外線硬化樹脂としては、例えばアクリル系の紫外線硬化樹脂が用いられる。
【0025】
下地層12の表面粗さは、基材11の表面粗さよりも小さければ特に限定されず、例えば算術平均粗さ(Ra)が1nm以下、かつ最大高さ(Rz)が10nm以下である。Raが1nmを超え、かつ、Rzが10nmを超える場合、基材11の表面平滑性の改善効果が小さい。下地層12の表面粗さを上述の大きさにすることで、スパッタ法で成膜される第1のバリア層の基材表面に対するカバレッジ性を高めることができる。
【0026】
下地層12の厚みは特に限定されず、基材11の表面の平坦度を改善できる程度の厚みで足り、使用される基材11の表面粗さや紫外線硬化樹脂の粘度等に応じて、例えば5μm以上50μm以下とすることができる。
【0027】
下地層12は、基材11の表面に塗布された未硬化の紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することで形成される。紫外線硬化樹脂の塗布方法は特に限定されず、スピンコート法、ロールコート法、バーコート法などの適宜の塗布技術を用いることができる。
【0028】
(バリア層)
バリア層13は、水蒸気バリア性と透光性とを有する無機材料で形成される。本実施形態では、バリア層13は、Si−Cr−Zr系酸化物(SiO2−Cr23−ZrO2)で形成され、下地層12の表面にスパッタ法で成膜される。基材11の表面に下地層12が形成されているため、基材11の表面粗さが比較的大きい場合であっても、バリア層13は基材11の上に高い被覆性(カバレッジ性)をもって形成される。
【0029】
バリア層13の厚みは特に限定されず、例えば5nm以上100nm以下である。成膜均一性および生産性を考慮すると、バリア層13は、例えば10nm以上50nm以下の厚みとされる。
【0030】
バリア層13をスパッタ成膜するためのスパッタリングターゲットには、典型的にはSi−Cr−Zr系酸化物の焼結体が用いられる。これ以外にも、SiO2、Cr23及びZrO2の各ターゲットを同時にスパッタしたり、Si、Cr及びZrの各ターゲットを酸素雰囲気中で同時にスパッタしたりすることで、バリア層13を形成してもよい。
【0031】
本実施形態によれば、基材11の表面にその表面平滑性を高める下地層12が形成されているため、スパッタ法で成膜されるバリア層13による基材表面の被覆性が高まり、所望の水蒸気バリア性を確保することができる。また、バリア層13の成膜方法にスパッタ法が採用されているため、例えばCVD法による成膜方法と比較して生産にかかる設備コストを低減することができる。
【0032】
ここで、本発明者が行った実験例について説明する。種類の異なる紫外線硬化樹脂を用いてプラスチックフィルム製の基材の表面に下地層を形成し、その下地層の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz))を測定した。その後、下地層の上にSi−Cr−Zr系酸化物からなるバリア層をスパッタ法で成膜することで、図1に示すバリアフィルムのサンプルを作製し、各サンプルの水蒸気透過率を測定した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表面粗さの測定には、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments Nanoscope IIIa)を用いた。水蒸気透過率(WVTR)は、イリノイインスツルメンツ社製7002型測定器の測定値を用い、環境条件は40℃、90%RHとした。バリア層の成膜には、直径150mmのSiO2−Cr23−Zr23系焼結体ターゲットを用いた。チャンバ内のベース圧(成膜圧力)は0.5Paのアルゴン雰囲気とし、ターゲットへの投入電力は500W(13.56MHz)とした。
【0035】
(サンプル1)
比較例として、厚み400μmのポリカーボネート(PC)フィルムからなる基材の上に直接バリア層を10nmの厚みで成膜した。基材の表面粗さは、Ra=0.50nm、Rz=10.66nmであった。サンプル1の水蒸気透過率(WVTR)は、5.98[g/m2/day]であった。
【0036】
(サンプル2)
上記PC基材の上に、紫外線硬化樹脂A(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス社製)をスピンコート法により塗布後、硬化させることで厚み5μmの下地層を形成した。下地層の表面粗さは、Ra=0.34nm、Rz=3.35nmであった。その後、下地層の上に厚み10nmのバリア層を形成した。サンプル2の水蒸気透過率(WVTR)は、0.02[g/m2/day]未満であった。
【0037】
(サンプル3)
上記PC基材の上に、紫外線硬化樹脂B(ソニーケミカル&インフォメーション社製)をスピンコート法により塗布後、硬化させることで厚み5μmの下地層を形成した。下地層の表面粗さは、Ra=0.37nm、Rz=3.84nmであった。その後、下地層の上に厚み10nmのバリア層を形成した。サンプル3の水蒸気透過率(WVTR)は、0.02[g/m2/day]未満であった。
【0038】
(サンプル4)
上記PC基材の上に、紫外線硬化樹脂C(スリーボンド社製)をスピンコート法により塗布後、硬化させることで厚み5μmの下地層を形成した。下地層の表面粗さは、Ra=0.28nm、Rz=2.98nmであった。その後、下地層の上に厚み10nmのバリア層を形成した。サンプル4の水蒸気透過率(WVTR)は、0.02[g/m2/day]未満であった。
【0039】
(サンプル5)
比較例として、厚み125μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムからなる基材の上に直接バリア層を10nmの厚みで成膜した。基材の表面粗さは、Ra=1.2nm、Rz=16.3nmであった。サンプル5の水蒸気透過率(WVTR)は、1.53[g/m2/day]であった。
【0040】
(サンプル6)
上記PEN基材の上に、紫外線硬化樹脂A(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス社製)をバーコート法により塗布後、硬化させることで厚み20μmの下地層を形成した。下地層の表面粗さは、Ra=0.4nm、Rz=4.1nmであった。その後、下地層の上に厚み10nmのバリア層を形成した。サンプル6の水蒸気透過率(WVTR)は、0.013[g/m2/day]であった。
【0041】
(サンプル7)
上記PEN基材の上に、紫外線硬化樹脂D(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス社製)をバーコート法により塗布後、硬化させることで厚み5μmの下地層を形成した。下地層の表面粗さは、Ra=0.7nm、Rz=7.2nmであった。その後、下地層の上に厚み10nmのバリア層を形成した。サンプル7の水蒸気透過率(WVTR)は、0.007[g/m2/day]であった。
【0042】
表1の結果より、基材、紫外線硬化樹脂の種類及びその塗布方法に関係なく、バリア層の下地面の表面粗さがRaで1nm以下、かつRzで10nm以下の場合に、0.02[g/m2/day]未満の水蒸気透過率を安定して確保できることが確認された。
【0043】
<第2の実施形態>
図2は、本発明の第2の実施形態に係るバリアフィルムを模式的に示す断面図である。本実施形態では、第1の実施形態の構成および作用と同様な部分についてはその説明を省略または簡略化し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0044】
本実施形態のバリアフィルム20は、基材11と、下地層12と、第1のバリア層13aと、中間層14と、第2のバリア層13bとの積層構造を有する。
【0045】
第1のバリア層13a及び第2のバリア層13bは、いずれもスパッタ法で成膜されたSi−Cr−Zr系酸化物(SiO2−Cr23−ZrO2)からなる。第1のバリア層13a及び第2のバリア層13bの厚みは特に限定されず、例えば5nm以上100nm以下である。第1のバリア層13aの厚みと第2のバリア層13bの厚みは同一でもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0046】
中間層14は、第1のバリア層13aと第2のバリア層13bとの間を接合する透明な接着剤で構成され、例えば下地層12と同様な紫外線硬化樹脂が中間層14として用いられる。中間層14の厚みは特に限定されず、例えば下地層12と同等の厚みとすることができる。第2のバリア層13bを支持する中間層14の表面粗さは、下地層12と同等の表面粗さに規定されてもよい。これにより第2のバリア層13bを高いカバレッジ性で中間層14の上に成膜することができる。
【0047】
本実施形態のバリアフィルム20は、中間層14を介して複数のバリア層13a,13bが積層されていることにより、バリア層の界面が増加し、これにより水蒸気バリア性を高めることができる。バリア層の積層数は2層に限られず、3層以上であってもよい。これによりバリア層の界面をさらに増加させることができる。
【0048】
図3は、本実施形態の変形例に係るバリアフィルムを模式的に示す断面図である。図3に示すバリアフィルム30は、第1のバリア層13aと中間層14と第2のバリア層13bとの積層体31を有し、当該積層体31が接着層15を介して2段積層されている。接着層15は、例えば中間層14と同様な紫外線硬化樹脂で形成される。このようにバリア層の界面を増加させることにより、バリア層の厚みを単純に厚くする場合と比較して、水蒸気バリア性を向上させることができる。これにより、マイナス4乗オーダ以下の水蒸気透過率を実現することができる。
【0049】
<第3の実施形態>
図4は、本発明の第3の実施形態に係るバリアフィルムを模式的に示す断面図である。本実施形態では、第1の実施形態の構成および作用と同様な部分についてはその説明を省略または簡略化し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0050】
本実施形態のバリアフィルム40は、基材11と、下地層12と、第1のバリア層13と、第3のバリア層16との積層構造を有する。第1のバリア層13は、下地層12の上にスパッタ法で成膜されたSi−Cr−Zr系酸化物(SiO2−Cr23−ZrO2)からなる。第3のバリア層16は、第1のバリア層13の上にALD法で成膜された無機材料層からなる。
【0051】
第3のバリア層16は、水蒸気バリア性と透光性とを有する無機材料で形成される。この種の無機材料としては、例えば、Al、Zn、Si、Cr、Zr、Cu、Mg等の金属元素を少なくとも1種含む酸化物や窒化物等が挙げられる。第3のバリア層16を構成する無機材料は、第1のバリア層13を構成する無機材料と同種の材料で形成されてもよいし、異種の材料で形成されてもよい。本実施形態では、第3のバリア層16は、酸化アルミニウム(アルミナ)で形成される。
【0052】
第3のバリア層16は、ALD法によって第1のバリア層13の表面に成膜される。第3のバリア層16は、その厚みが大きいほど高い水蒸気バリア性を示す。しかし厚みが大きすぎると、内部ストレスによる反りやクラックの発生のおそれがある。このような観点から、第3のバリア層16の厚みは、例えば10nm以上100nm以下、好ましくは20nm以上60nm以下である。
【0053】
ここで、第3のバリア層16の形成方法について説明する。上述のように第3のバリア層16は、ALD法によって成膜される。ALD法は、チャンバ内に複数種の原料ガス(前駆体ガス)を交互に導入し、チャンバに設置された基材の表面に一原子層ずつ反応生成物を堆積させる薄膜形成方法である。原料ガスの反応を促進するため、チャンバ内にプラズマを形成する方法(プラズマALD法)、基材を加熱する方法(熱ALD法)等が知られており、いずれの方法も適用可能である。
【0054】
第3のバリア層16を酸化アルミニウム薄膜で形成する場合、第1の前駆体ガスと第2の前駆体ガスとが用いられる。第1の前駆体ガスとしては、例えばTMA(トリメチルアルミニウム;(CH33Al)等が挙げられる。第2の前駆体ガスとしては、例えば水(H2O)等が挙げられる。
【0055】
なお、これらの前駆体ガスとしては、この他にも、例えば以下の材料を用いることができる。
ビス(テル−ブチルイミノ)ビス(ジメチルアミノ)タングステン(VI);((CH33CN)2W(N(CH322、トリス(テル−ブトキシ)シラノール;((CH33CO)3SiOH、ジエチル亜鉛;(C252Zn、トリス(ジエチルアミド)(テル−ブチルイミド)タンタル(V);(CH33CNTa(N(C2523、トリス(テル−ペントキシ)シラノール;(CH3CH2C(CH32O)3SiOH、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金(IV);C54CH3Pt(CH33、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II);C79RuC79、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン;H2N(CH23Si(OC253、四塩化珪素;SiCl4、四塩化チタン;TiCl4、チタン(IV)イソプロポキシド;Ti[(OCH)(CH324、テトラキス(ジメチルアミド)チタン(IV);[(CH32N]4Ti、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV);[(CH32N]4Zr、トリス[N,N−ビス(トリメチルシリル)アミド]イットリウム;[[(CH33Si]2]N)3
【0056】
図5は、ALDによる薄膜形成法を説明する工程図である。ここでは、バッチ処理を例に挙げて第3のバリア層16の形成方法を説明するが、ロール・ツー・ロール方式での成膜処理を適用することも可能である。
【0057】
図5(A)〜(D)に示すように、第1の前駆体ガス17A、パージガス17P、第2の前駆体ガス17B及びパージガス17Pに基材フィルム18を順次曝すことで、酸化アルミニウムの単分子層16Cが形成される。基材フィルム18は、図4に示した基材11と下地層12と第1のバリア層13との積層体に相当する。
【0058】
基材フィルム18は、所定の圧力に真空排気されたチャンバ内に搬入される。図5(A)に示すようにチャンバ内に導入された第1の前駆体ガス17Aが基材フィルム18の表面に吸着することで、前駆体ガス17Aからなる第1の前駆体層16Aが基材フィルム18の表面に形成される。
【0059】
次いで図5(B)に示すようにパージガス17Pがチャンバ内に導入される。これにより基材フィルム18の表面がパージガス17Pに曝され、基材フィルム18の表面に残存する未結合の前駆体ガス17Aが除去される。パージガス17Pとしては、酸化アルミニウムの薄膜を形成する場合には、例えばアルゴン(Ar)が挙げられる。これ以外にも、例えば窒素、水素、酸素、二酸化炭素等がパージガスとして用いられ得る。
【0060】
続いて図5(C)に示すようにチャンバ内に第2の前駆体ガス17Bが導入される。第2の前駆体ガス17Bは基材フィルム18の表面に吸着し、第1の前駆体層16Aの上に前駆体ガス17Bからなる第2の前駆体層16Bを形成する。その結果、第1の前駆体層16Aと第2の前駆体層16Bとの相互の化学反応によって、酸化アルミニウムの単分子層16Cが形成される。その後、図5(D)に示すようにパージガス17Pが再びチャンバ内に導入され、基材フィルム18の表面に残存する未結合の前駆体ガス17Bが除去される。
【0061】
以上の処理が繰り返し行われることで、基材フィルム18の表面に所定厚みの第3のバリア層16が形成される。
【0062】
第3のバリア層16は、ALD法によって形成されるため、カバレッジ性が高く緻密な膜を得ることができる。これにより水蒸気バリア性をさらに向上させることができる。本発明者らの実験によれば、第1のバリア層13の厚みを20nm、第3のバリア層16の厚みを20nmとしたときに、3.5E−5(3.5×10−5)[g/m2/day]の水蒸気透過率を得られたことが確認された。なお水蒸気透過率の測定には、株式会社三ツワフロンテック製カルシウム腐食観察装置「MFB-1000」を用い、測定条件は40℃、90%RH(相対湿度)とした。
【0063】
また、第3のバリア層16は、バリアフィルムの最上層に形成されることで所望とする水蒸気バリア性を得ることができる。図2及び図3に示したバリアフィルム20,30においても、最上層に第3のバリア層16が形成されてもよい。なお第3のバリア層の上に、当該バリア層の耐久性を高めるための保護層が別途形成されてもよい。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0065】
例えば以上の実施形態では、有機ELディスプレイ、太陽電池モジュール等に適用されるバリアフィルムを例に挙げて説明したが、適用対象はこれに限定されず、水蒸気バリア性を必要とするあらゆる製品の部材として適用可能である。例えば、表示装置、携帯型電子機器、半導体装置、電池、包装部材などに適用可能である。ここで、表示装置としては、上述した有機ELディスプレイの他、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネル、電子ペーパーなどが挙げられる。携帯型電子機器としては、例えば、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、データカードなどが挙げられ、表示機能を備えたものも含まれる。半導体装置としては、例えば、TFT(Thin Film Transistor、薄膜トランジスタ)、ICチップ、ICタグ、半導体メモリ、半導体センサ、MEMS(Micro Electro-Mechanical System)素子、太陽電池モジュールに組み込まれる光電変換素子などが挙げられる。電池としては、上述した太陽電池モジュールのほか、例えば、一次電池、リチウムイオン電池などの二次電池、燃料電池、蓄電池などが挙げられる。また、水蒸気バリア性を必要とする他の電気電子デバイスにも本発明は適用可能である。また、水蒸気バリア性を必要とする、食品、精密機器、カード類、美術品などの包装部材にも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10、20、30、40…バリアフィルム
11…基材
12…下地層
13…バリア層
13a…第1のバリア層
13b…第2のバリア層
16…第3のバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムで形成された基材と、
前記基材の上に形成された、紫外線硬化樹脂からなる下地層と、
前記下地層の上にスパッタ法で形成された、Si−Cr−Zr系酸化物からなる第1のバリア層と
を具備するバリアフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のバリアフィルムであって、
前記下地層は、算術平均粗さ(Ra)が1nm以下、かつ最大高さ(Rz)が10nm以下の表面粗さを有する
バリアフィルム。
【請求項3】
請求項1に記載のバリアフィルムであって、
前記第1のバリア層の上に形成された接着材料からなる中間層と、
前記中間層の上に形成された、Si−Cr−Zr系酸化物からなる第2のバリア層とをさらに具備する
バリアフィルム。
【請求項4】
請求項1に記載のバリアフィルムであって、
前記第1のバリア層の上に原子層堆積法によって形成され、水蒸気バリア性を有する無機材料からなる第3のバリア層をさらに具備する
バリアフィルム。
【請求項5】
請求項4に記載のバリアフィルムであって、
前記無機材料は、酸化アルミニウムである
バリアフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリアフィルムを有する表示装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリアフィルムを有する携帯型電子機器。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリアフィルムを有する半導体装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリアフィルムを有する電池。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリアフィルムを有する包装部材。
【請求項11】
プラスチックフィルム上に紫外線硬化樹脂からなる下地層を形成し、
前記下地層の上に、Si−Cr−Zr系酸化物からなる第1のバリア層をスパッタ法で形成する
バリアフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のバリアフィルムの製造方法であって、さらに、
前記第1のバリア層の上に、Si−Cr−Zr系酸化物からなる第2のバリア層を、接着剤を介して接合する
バリアフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載のバリアフィルムの製造方法であって、さらに、
前記第1のバリア層の上に、水蒸気バリア性を有する無機材料からなる第3のバリア層を原子層堆積法で形成する
バリアフィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のバリアフィルムの製造方法であって、
前記無機材料は、酸化アルミニウムである
バリアフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116151(P2012−116151A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269920(P2010−269920)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】