説明

バリア性積層体、ガスバリアフィルムおよびこれらを用いたデバイス

【課題】バリア性が高く、透明性に優れたバリア性積層体の提供。
【解決手段】有機層と、該有機層に隣接する無機バリア層とを有し、前記有機層は、1分子あたり2以上の重合性基を有する重合性化合物を重合させてなるポリマーを含み、かつ、屈折率が1.60以上であり、さらに、前記無機バリア層の屈折率が1.60以上であることを特徴とする、バリア性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性積層体、ガスバリアフィルムおよびこれらを用いたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化、窒化、酸窒化珪素等の金属酸化物薄膜を形成したガスバリアフィルムは、水蒸気や酸素など各種ガスの遮断を必要とする物品の包装や、食品、工業用品および医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。
【0003】
近年、有機デバイス(有機ELデバイス、有機太陽電池デバイス、有機TFTデバイス等)の分野においては、ガラス基板に代わって、透明ガスバリアフィルムに対するニーズが高まっている。透明ガスバリアフィルムは軽量であり、ロールトゥロール(Roll to Roll)方式に適用可能であることから、コストの点で有利である。しかし、透明ガスバリアフィルムはガラス基板と比較して水蒸気バリア性に劣るという問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1には有機層と無機バリア層の複数層の交互積層体(バリア性積層体)により、水蒸気透過率として0.005g/m2/day未満を実現する技術が開示されている。該特許文献1によれば有機層と無機バリア層がそれぞれ1層ずつしか積層されていない場合は、水蒸気透過率が0.011g/m2/dayであり、多層積層することの技術的価値が明確に示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、多層積層することで層間界面での光反射が増大し、透明性が悪化することである。
【0006】
多層積層による透明性悪化の解決手段としては、特許文献2で、積層する各層の屈折率の相対関係を最適化する技術が、開示されている。具体的には、特許文献2では、基材フィルムに近い下層は高屈折率とし、上層は低屈折率となるように積層するもので、これにより、層間界面での光反射による着色が低減される。しかしながら、この技術では、上層は下層よりも低屈折率とする要件を満たすために、無機バリア層に低屈折率の材料を使用せざるを得なくなる制約がある。本発明者等の知見では、無機バリア層が高密度で高屈折率の材料ほど高いバリア性能が得られる傾向があるため、特許文献2の制約は、高いバリア性能を得るためには不利である。そのため、少ない積層数であっても、高いバリア性が得られる技術が求められていた。
【0007】
少ない積層数であっても、高いバリア性を発現するための手段として、特許文献3には、有機層にガラス転移温度(Tg)が高く、かつプラズマ耐性の高い重合体を使用する技術が開示されている。具体的には、重合体の前駆体である重合性化合物の分子構造を、芳香環の比率が高く、かつ、多くの重合性基を有する構造とするというものである。
【0008】
特許文献2の技術は、バリア性向上の手段として有効であるが、有機デバイスで求められる水蒸気透過率1×10-4g/m2/day以下を得ようとすると、有機層と無機バリア層の積層を2組以上積層する必要があり、また、ヘイズが大きいという問題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,413,645号明細書
【特許文献2】特開2007−76207号明細書
【特許文献3】特開2010−228446号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の状況を鑑み、高いバリア性能と透明性の両立という課題を解決することを目的としたものであり、さらにはそのような性能の透明ガスバリアフィルムを低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題のもと、発明者が鋭意検討を行った結果、下記手段<1>により、好ましくは、<2>〜<10>により、上記課題を解決しうることを見出した。
<1>有機層と、該有機層に隣接する無機バリア層とを有し、前記有機層は、1分子あたり2以上の重合性基を有する重合性化合物を重合させてなるポリマーを含み、かつ、屈折率が1.60以上であり、さらに、前記無機バリア層の屈折率が1.60以上であることを特徴とする、バリア性積層体。
<2>前記無機バリア層が、珪素を含む、酸化物、窒化物、炭化物、または、これらの混合物を含む、<1>に記載のバリア性積層体。
<3>前記有機層が、シランカップリング剤を含む重合性組成物を重合させてなるポリマーを含む、<1>または<2>に記載のバリア性積層体。
<4>前記重合性化合物が、下記一般式(1)〜(4)から選択される少なくとも1種である、<1>〜<3>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、Rは、置換基を表し、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜5の整数を表し、3つのnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、さらに、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Rの少なくとも1つは重合性基を含む。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、Rは、水素原子または低級アルキル基を示し、R’は水素原子またはメチル基を示す。nは、0〜20の整数である。)
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、Xは下記式(3a)で示される単位であり、nは0〜20までの整数である。)
式(3a)
【化4】

(式(3a)中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である。)
一般式(4)
【化5】

(一般式(4)中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子またはメチル基を表し、X1、X2、Y1およびY2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、またはアリールチオ基を表す。)
<5>少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機バリア層が、交互に積層している、<1>〜<4>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<6>基材フィルム上に、<1>〜<5>のいずれか1項に記載のバリア性積層体を有するガスバリアフィルム。
<7><1>〜<5>のいずれか1項に記載のバリア性積層体または<6に記載のガスバリアフィルムを有するデバイス。
<8>前記デバイスが、電子デバイスである、<7>に記載のデバイス。
<9>前記デバイスが、有機EL素子または太陽電池素子である、<8>に記載のデバイス。
<10><1>〜<5>のいずれか1項に記載のバリア性積層体または<6>に記載のガスバリアフィルムを用いた封止用袋。
【発明の効果】
【0012】
本発明における有機層を採用することにより、高いバリア性能と透明性の両立したバリア性積層体を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を含む意味で使用される。
本発明において、屈折率は、一般的な慣習に従い、波長589.3nmの光(ナトリウムのD線)についての値を指す。
【0014】
<バリア性積層体>
本発明のガスバリアフィルム積層体は、有機層と、該有機層に隣接する無機バリア層とを有し、前記有機層は、1分子あたり2以上の重合性基を有する重合性化合物を重合させてなるポリマーを含み、かつ、屈折率が1.60以上であり、さらに、前記無機バリア層の屈折率が1.60以上であることを特徴とする。このような態様とすることにより、ガスバリア性能の向上とヘイズの低減を同時に達成することができる。ここで、有機層が無機バリア層に隣接するとは、有機層が、無機バリア層の表面に設けられいるか、無機バリア層が有機層の表面に設けられていることをいう。
【0015】
本発明におけるヘイズの低減効果は、定性的には有機層とそれに隣接する無機バリア層の屈折率差が縮小し、有機層と無機バリア層の界面での光反射が少なくなることに因ると理解される。ここで、隣接する有機層と無機バリア層の屈折率差を小さくするために、屈折率1.60未満の低屈折率の材料を無機バリア層に用いると、高いバリア性能を得にくくなる問題がある。本発明は、この点に鑑み、屈折率1.60以上の高屈折率の材料を無機バリア層に用いて高いバリア性能を確保しつつ、かつ、有機層の屈折率を1.60以上とすることによって、バリア性積層体の透明性を確保している。
【0016】
さらに、有機層の屈折率を1.60以上とすることにより、透明性だけではなく、バリア性能がさらに向上するという、予期していなかった効果も得られる。これについては、屈折率1.60以上となるまで有機層を緻密化すると、無機膜形成時の熱あるいはプラズマ等からのダメージを被りにくいと推定されるが、詳細な点は未解明である。
【0017】
(有機層)
有機層を、本発明の態様である、1分子あたり2以上の重合性基を有する重合性化合物を重合させてなるポリマーを含み、かつ、屈折率を1.60以上とするための具体的手段として、有機層を、以下に示す、一般式(1)〜(4)の重合性化合物のいずれか1種以上を含む組成物を重合させることにより形成する方法が挙げられる。
【0018】
一般式(1)
【化6】

(一般式(1)中、Rは、置換基を表し、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜5の整数を表し、3つのnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、さらに、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Rの少なくとも1つは重合性基を含む。)
【0019】
Rの置換基としては、−CR12−(R1は水素原子または置換基)、−CO−、−O−、フェニレン基、−S−、−C≡C−、−NR2−(R2は水素原子または置換基)、−CR3=CR4−(R3およびR4は、ぞれぞれ、水素原子または置換基)の1つ以上と、重合性基との組み合わせからなる基が挙げられ、−CR12−(R1は水素原子または置換基)、−CO−、−O−および−NR2−(R2は水素原子または置換基)の1つ以上と、重合性基との組み合わせからなる基が好ましい。
Rが重合性基を有さない置換基である場合、ならびに、R1およびR2で表される置換基としては、それぞれ、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が例示され、水素原子または炭素数5以下のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基が好ましく、水素原子または炭素数3以下のアルキル基がより好ましい。
【0020】
1は、水素原子または置換基であるが、好ましくは、水素原子またはヒドロキシ基である。
Rが結合している位置としては、少なくともパラ位に結合していることが好ましい。
nは、それぞれ、0〜5の整数を示し、0〜2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。本発明では、3つのnがいずれも1であることが特に好ましい。
【0021】
一般式(1)で表される化合物は、Rの少なくとも2つが同じ構造であることが好ましい。
さらに、nはいずれも1であり、3つのRの少なくとも2つが同じ構造であることがより好ましく、nはいずれも1であり、3つのRが同じ構造であることがさらに好ましい。
一般式(1)が有する重合性基は、(メタ)アクリロイル基またはエポキシ基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。一般式(1)が有する重合性基の数は、3つ以上であることが好ましい。上限は特に定めるものではないが、6つ以下であることが好ましい。
【0022】
本発明では、一般式(1)で表される化合物を1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上含んでいる場合、例えば、同じ構造のRを含み、かつ、該Rの数が異なる化合物およびそれらの異性体を含んでいる組成物が挙げられる。
【0023】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、これによって本発明が限定されることはない。また、下記化合物では、一般式(1)の3つのnがいずれも1の場合を例示しているが、一般式(1)の3つのnのうち、1つまたは2つが0のもの(例えば、1官能や2官能化合物等)や、3つのnのうち、1つまたは2つが2つ以上のもの(R1が1つの環に、2つ以上結合しているもの(例えば、4官能や5官能化合物等)も本発明の好ましい化合物として例示される。
【0024】
【化7】

【0025】
一般式(2)
【化8】

(一般式(2)中、Rは、水素原子または低級アルキル基を示し、R’は水素原子またはメチル基を示す。nは、0〜20の整数である。)
【0026】
Rとしての低級アルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
nは、nの値が大きいと、粘度が高く扱いにくいため、0〜2が好ましい。
【0027】
一般式(3)
【化9】

(一般式(3)中、Xは下記式(3a)で示される単位であり、nは0〜20までの整数である。)
式(3a)
【化10】

(式(3a)中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である。)
【0028】
Rは、水素原子、メチル基またはエチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。nは、粘度が高く扱いにくいため、0〜2が好ましく、0がより好ましい。
【0029】
一般式(4)
【化11】

(一般式(4)中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子またはメチル基を表し、X1、X2、Y1およびY2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、またはアリールチオ基を表す。)
1、X2、Y1およびY2は、それぞれ、水素原子、炭素数3以下のアルキル基、炭素数3以下のアルコキシ基、または炭素数3以下のアルキルチオ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0030】
(重合性組成物)
本発明における有機層は、好ましくは、上記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物の少なくとも1種を含む重合性組成物を硬化して得られる。さらに、本発明で用いる重合性組成物は、一般式(1)〜(4)で表される重合性化合物以外に、その他の重合性化合物、光重合開始剤、溶媒、その他添加剤を含有しても良い。一般式(1)〜(4)のいずれかで表される重合性化合物およびその他の重合性化合物が、重合性組成物の固形分(揮発分が揮発した後の残分)中に占める割合は、通常、70質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。一般式(1)〜(4)で表される重合性化合物が、重合性組成物の固形分中に占める割合は、50〜99質量%であることが好ましく、90〜98質量%がさらに好ましい。
【0031】
本発明において、その他の重合性化合物としては、公知の重合性化合物を広く採用することができ、(メタ)アクリレートが好ましく、芳香族基を含有する(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0032】
本発明において併用することのできる(メタ)アクリレートの具体例としては、以下に示す化合物が例示される。本発明はこれらに限定されない。
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
【化14】

【0035】
【化15】

【0036】
【化16】

【0037】
【化17】

【化18】

【0038】
(シランカップリング剤)
本発明においては、バリア性積層体の湿熱耐久性付与の観点で、無機バリア層と隣接する有機層にシランカップリング剤を添加することが好ましい。特に、無機バリア層が、珪素を含む、酸化物、窒化物、炭化物、または、これらの混合物を含むときに、この効果は効果的に発揮される。これは、無機バリア層との密着性が強化されることによるものと推測される。
本発明において、シランカップリング剤は、無機物と反応する加水分解基、および有機物と反応する有機官能基の両方を一分子中にもつ有機ケイ素化合物からなる。無機物と反応する加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、アセトキシ基およびクロロ基などが挙げられる。また、有機物と反応する有機官能基としては、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基、イソシアネート基、アミノ基、およびメルカプト基が挙げられるが、本発明では(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0039】
該有機ケイ素化合物は、無機物および有機物のいずれとも反応しないアルキル基やフェニル基を有していてもよい。また、有機官能基を有しないケイ素化合物、例えば加水分解基のみを有するアルコキシシランのような化合物と混合することもできる。本発明において、シランカップリング剤は、1種類または2種類以上の混合物であっても良い。
【0040】
本発明において用いられるシランカップリング剤としては、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
本発明では、また、下記一般式(5)で表されるシランカップリング剤も好ましく用いられる。
【0042】
一般式(5)
【化19】

(一般式(5)中、R1〜R6は、それぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。但し、R1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である。)
【0043】
1〜R6は、それぞれ置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基である。R1〜R6は、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基である場合を除き、無置換のアルキル基または無置換のアリール基が好ましい。アルキル基としては炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。アリール基としては、フェニル基が好ましい。R1〜R6は、メチル基が特に好ましい。
【0044】
1〜R6のうち少なくとも1つは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基を有し、R1〜R6の2つがラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基であることが好ましい。さらに、R1〜R3のなかでラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基を有するものの数が1であって、R4〜R6のなかでラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基を有するものの数が1であることが特に好ましい。
一般式(5)で表されるシランカップリング剤が2つ以上のラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基は、それぞれの置換基は同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0045】
ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基は、−X−Yで表されることが好ましい。ここで、Xは、単結合、炭素数1〜6のアルキレン基、アリーレン基であり、好ましくは、単結合、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基である。Yは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合基であり、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、ビニル基、プロペニル基、ビニルオキシ基、ビニルスルホニル基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0046】
また、R1〜R6はラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を含む置換基以外の置換基を有しても良い。置換基の例としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アシル基(例えば、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基等)、スルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、等が挙げられる。
【0047】
以下に、一般式(5)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【化20】

【化21】

【0048】
本発明における、シランカップリング剤の量は、重合性組成物の固形分(揮発分が揮発した後の残分)中に占める割合は、1〜20質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0049】
(重合開始剤)
本発明における有機層は、通常、重合性芳香族シランカップリング剤等の重合性化合物を含む重合性組成物を塗布硬化させて得られる。本発明では、前記重合性組成物に熱または各種のエネルギー線を照射して重合、架橋させることにより高分子を主成分とする有機層を形成する。エネルギー線の例としては紫外線、可視光線、赤外線、電子線、エックス線、ガンマ線等が挙げられる。このとき、熱で重合させる場合は熱重合開始剤を、紫外線で重合させる場合は光重合開始剤を、可視光線で重合させる場合は光重合開始剤と増感剤を用いる。以上の中では、光重合開始剤を含有する重合性化合物を紫外線で重合、架橋することが好ましい。
光重合開始剤を用いる場合、その含量は、重合性化合物の合計量の0.1モル%以上であることが好ましく、0.5〜2モル%であることがより好ましい。このような組成とすることにより、活性成分生成反応を経由する重合反応を適切に制御することができる。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZTなど)等が挙げられる。
【0050】
(有機層の形成方法)
有機層は、前記重合性組成物を溶液塗布もしくは真空成膜することによって薄膜とした後に、エネルギー線の照射により重合させて形成する。溶液塗布法としては、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法が例示される。真空成膜法としては、例えばフラッシュ蒸着法が例示される。
重合方法としては、光照射法、電子ビーム照射法等が挙げられ、光照射法が好ましい。光照射法の中でも紫外線照射法が特に好ましい。紫外線照射法においては、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線が照射される。照射エネルギーは0.2J/cm2以上が好ましく、0.6J/cm2以上がより好ましい。重合性組成物の硬化反応は、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で1J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0051】
本発明における有機層は、平滑で、膜硬度が高いあることが好ましい。有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。有機層の平滑性は1μm角の平均粗さ(Ra値)として10nm未満であることが好ましく、0.52nm未満であることがより好ましい。モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
有機層の屈折率は、1.60以上である。上限値は特に定めるものではないが、例えば、1.7以下とすることができる。隣接する無機バリア層の屈折率以下であることが好ましい。隣接する無機バリア層の屈折率の差は、0〜0.35の範囲が好ましく、0〜0.1の範囲がより好ましい。屈折率を1.60以上とすることでバリア性能が向上する効果が得られ、無機バリア層との屈折差を上記の範囲とすることにより、ヘイズ値が減少するという効果が発揮される。
【0052】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは50nm〜5000nmが好ましく、500nm〜2500nmがより好ましい。
有機層の硬度は高いほうが好ましい。有機層の硬度が高いと、無機バリア層が平滑に成膜されその結果としてバリア能が向上することがわかっている。有機層の硬度はナノインデンテーション法に基づく微小硬度として表すことができる。有機層の微小硬度は150N/mm以上であることが好ましく、180N/mm以上であることがより好ましく、200N/mm以上であることが特に好ましい。
【0053】
(無機バリア層)
無機バリア層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。本発明における無機バリア層は、屈折率が1.60以上であり、好ましくは1.8〜2である。無機バリア層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。特に、CVD法、スパッタリング法は、緻密でバリア性能に優れた無機バリア層を形成できる点で好ましい。本発明の無機バリア層の組成は、珪素および/またはアルミを含む、酸化物、窒化物、炭化物、または、これらの混合物が好ましく、珪素を含む、酸化物、窒化物、炭化物、または、これらの混合物がより好ましい。さらに、他の金属酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を併用することが可能である。好ましくは、本発明における無機バリア層は、実質的に、珪素および/またはアルミを含む、酸化物、窒化物、炭化物、または、これらの混合物から成ることが好ましい。実質的にとは、他の無機物を積極的に添加しないことをいい、例えば、無機バリア層の全質量の98質量%がこれらの化合物でなることをいう。
他の金属酸化物等としては、例えば、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物、炭化物もしくは酸化窒化物、酸化窒化炭化物などを好ましく併用することができる。これらの中でも、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。また無機バリア層は、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。本発明により形成される無機バリア層の平滑性は、1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.5nm以下がより好ましい。このため、無機バリア層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0054】
無機バリア層の厚みに関しては、1層に付き、15〜100nmであることが好ましく、20〜50nmであることがより好ましい。バリア性能向上の観点では、定性的には、無機バリア層の厚みは厚い方が有利であるが、無機バリア層形成工程の生産性は無機バリア層の厚み概ね反比例して悪化する傾向にある。無機バリア層製造工程の生産性は、バリアフイルムの生産コストの律速要因であるため、無機バリア層を厚くすることはコストアップに直結する。また、無機バリア層の厚みが100nmを超えるとバリアフイルムを曲げた場合に、無機バリア層にクラック状の欠陥が生じるリスクが増大する傾向にある。一方、無機バリア層が上記より薄いと、無機バリア層形成時のピンホール発生確率が増大し、バリア性能が大きく悪化する傾向にある。
【0055】
(有機層と無機バリア層の積層)
有機層と無機バリア層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機バリア層を順次繰り返し成膜することにより行うことができる。
【0056】
(機能層)
本発明のデバイスにおいては、バリア性積層体上、もしくはその他の位置に、機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0057】
バリア性積層体の用途
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体には、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はガスバリアフィルムのバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、バリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0058】
<ガスバリアフィルム>
ガスバリアフィルムは、基材フィルムと、該基材フィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。ガスバリアフィルムにおいて、本発明のバリア性積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、基材フィルム側から無機バリア層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機バリア層の順に積層していてもよい。本発明の積層体の最上層は無機バリア層でも有機層でもよい。
また、本発明におけるガスバリアフィルムは大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
ガスバリアフィルムはバリア性積層体、基材フィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体と基材フィルムの間、基材フィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0059】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるガスバリアフィルムは、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機バリア層等の積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。基材フィルムについては、特開2011−102042号公報の段落番号0027〜0036に記載のプラスチックフィルム基材が好ましく採用される。
【0060】
本発明のガスバリアフィルムに用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0061】
本発明のバリア性積層体および/またはガスバリアフィルムは、水蒸気供給側の雰囲気が、40℃、相対湿度は90%の条件で、有機層と無機バリア層が1スタックの場合、1×10-4g/m2/day以下の水蒸気透過率とすることができ、さらには2スタックの場合、2×10-5g/m2/day以下の水蒸気透過率とすることができる。
【0062】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0063】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0064】
本発明のガスバリアフィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリアフィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0065】
(有機EL素子)
ガスバリアフィルム用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0066】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリアフィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)、IPS型(In Plane Switching)であることが好ましい。
【0067】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特願平7−160334号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
【0068】
<光学部材>
本発明のガスバリアフィルムを用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるガスバリアフィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0070】
(重合性化合物(AC44)の合成)
4,4‘‐[1‐[4‐[1‐(4−ヒドロキシフェニル)‐1‐メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール(4.25g)、トリエチルアミン(3.34g)、テトラヒドロフラン(7g部)を仕込み、0℃に冷却した。その後、アクリル酸クロリド(2.99g)を滴下し、反応温度0℃で1時間撹拌した後、25℃で3時間撹拌した。この反応混合物に酢酸エチル(50mL)を加えて希釈し、水(50mL)で2回洗浄した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(80mL)で1回、水(50mL)で1回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機層を分取した。これを無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過した。得られた濾液から溶媒を減圧下に留去して、目的物である重合性化合物(AC44)(72.1g)を酢酸エチル溶液として得た。生成物の1H NMRの測定結果は以下のとおりであった。
【0071】
1H NMRデータ
【化22】

【0072】
(化合物1の合成)
化合物1を合成は、先ず、水酸化ナトリウム存在下、下記(1−1)のアントロン化合物(X、Yは水素原子)と、エピクロロヒドリンをメタノール溶媒中で65℃加熱することで、下記(1−2)のオキシアントラセン化合物(X、Yは水素原子)を合成した。ついでこれに、10℃下でメタルハライドランプ(中心波長365nm)の光を照射することで二量化し、下記(1−3)のアントラセン骨格を有するジグリシジルオキシ化合物(X1、X2、Y1、Y2は水素原子)を合成すした。最後に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの溶媒で、ハイドロキノン500ppmを重合禁止剤として存在させた下で90〜120℃の温度範囲でアクリル酸と反応させて、アクリル基を導入することで、化合物1を合成した。
【0073】
【化23】

【0074】
(化合物2の合成)
化合物2の合成は、先ず、下記式のRが水素原子であるビスフェニルフェノールフルオレン化合物にエピクロルヒドリンを作用させ、さらに、下記に示すビスフェニルフェノールフルオレン型エポキシ化合物(Xは前記のビスフェニルフェノールフルオレン化合物)を合成した。これにアクリル酸を反応させることにより、ビスフェニルフェノールフルオレン型のエポキシアクリレート樹脂である化合物2を合成した。上記ビスフェニルフェノールフルオレン化合物とエピクロルヒドリンとの反応は、50〜120℃の温度範囲において行い、アクリル酸との反応は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの溶媒で、ハイドロキノン500ppmを重合禁止剤としての存在させた下90〜120℃の温度範囲で行なった。
【0075】
【化24】

【0076】
(化合物4の合成)化合物1は、下記式に示される両末端がグリシジルエーテル化されたエポキシ化合物を、セロソルブアセテート等の溶媒に溶かし、2−エチル−4−イミダゾールを触媒として、メチルハイドロキノン500ppmを重合禁止剤としての存在させた下、アクリル酸と110〜120℃で反応させることにより合成された。
【0077】
【化25】

【0078】
実施例1
(ガスバリアフィルムの作製)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)社製、コスモシャインA4300、厚さ100μm)上に、後述する有機層および無機バリア層を、この順番で交互に積層することにより、ガスバリアフィルムを作製した。後述する表に示すとおり、有機層および無機バリア層を1組積層した1スタック品と2組積層した2スタック品の2通りの積層形態のガスバリアフィルムを作製した。
【0079】
(有機層の形成)
固形分となる、重合性化合物、必要に応じて、シランカップリング剤(信越化学工業(株)製のKBM5103または、下記に示すシランカップリング剤(1))と、重合開始剤(Lamberti社製、Esacure KTO46)を、下記表に示す組成で含有し、2−ブタノンを溶媒とする、固形分濃度15質量%の重合性組成物を作製した。成膜後の膜厚が1.5μmとなるように塗布し、酸素含有量100ppm以下の窒素雰囲気下で、主要波長365nmの紫外線を照射量0.6J/cm2で照射して光重合で硬化させ、有機層を作製した。
成膜後の有機層の屈折率は、直径100mmのSiウエハ上に、前述の方法で有機層を作製したサンプルを、米国J.A.Woollam社製分光エリプソメトリM-200Uを使用して、入射波と反射波の偏光の位相差と反射振幅比角を測定し、同機のデータベース上で解析処理することにより求めた。
シランカップリング剤(1)
【化26】

【0080】
(無機バリア層の形成)
アンモニア、シラン、水素を原料ガスとするプラズマCVD法を用い、前記で作製した有機層表面に、膜厚35nmの窒化珪素(屈折率1.95)を成膜した。
【0081】
【表1】

【0082】
上記表中、化合物3は、下記化合物である(東亜合成(株)製、アロニックス M−309)。
【化27】

【0083】
(ガスバリアフィルムの性能評価)
得られたガスバリアフィルムについて、下記手法により、透明性(ヘイズ)、バリア性能(水蒸気透過率)、および湿熱耐久性(湿熱経時後のバリア性能)を評価した。
【0084】
[透明性の評価]
透明性は、JIS−K7105に準拠し、スガ試験機(株)社製ヘーズメーターHZ−1を使用し測定した、ヘイズ値で評価した。ヘイズ値が小さいほど、透明性が良い。
【0085】
[バリア性能の評価]
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-1438頁に記載の方法を用いて測定した水蒸気透過率(g/m2/day)で評価した。水蒸気供給側の雰囲気は、40℃、相対湿度は90%とした。
【0086】
[湿熱耐久性の評価]
作製したガスバリアフィルムを、85℃85%RH雰囲気下で2000時間経時させた後に、前述した[バリア性能の評価]と同じ方法でバリア性能を評価した。経時前性能に対して水蒸気透過率の上昇幅が少ないほど、湿熱耐久性が良い。
【0087】
これらの結果を下記表に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
上記結果から明らかなとおり、本発明の有機層を用いたガスバリアフィルムは、ヘイズ値が小さく透明性が良好で、バリア性能に優れている。さらに、本発明の有機層にシランカップリング剤を適量用いることにより、比較例に対し大幅に湿熱耐久性を改善できることが分かった。また、本発明の有機層/無機バリア層が1スタック品のバリア性能は水蒸気透過率1×10-4g/m2/day未満に到達しており、水蒸気透過率1×10-4g/m2/dayのバリアフイルム基板を、スタック数節減で低コスト化して作製することも可能である。
【0090】
(実施例2)
実施例1の試料102、104において、無機バリア層の材質と厚みを表3に示すように変更したガスバリアフィルムを作製し、バリア性能(水蒸気透過率)を評価した。窒化珪素は実施例1で用いたプラズマCVD法、酸化アルミ(屈折率1.63)はスパッタリング法、酸化珪素(屈折率1.45)は電子ビーム蒸着法でそれぞれ成膜した。
【0091】
【表3】

【0092】
上記結果より、低屈折率の二酸化珪素の無機バリア層を用いた試料は、高屈折率の窒化珪素、酸化アルミの無機バリア層を用いた試料に対しバリア性能が大きく劣ることが判る。本発明の要件の1つである高屈折率無機バリア層の重要性は上記結果で、明らかである。
また、屈折率が1.60以上であれば、酸化アルミからなる無機バリア層でも、優れたバリア性を示すことがわかった。但し、窒化珪素からなる無機バリア層の方が選りすぐれたバリア性能を示した。
一方、上記結果より有機層を本発明の態様とすることによる水蒸気透過率の低下率を計算してみると、本発明における無機層バリア層の厚み35nmの場合は50%強低下するが、無機層バリア層の厚みが13nmの場合は低下率が30%強、無機層バリア層の厚みが90nmの場合は低下率が40%弱しか低下しないことがわかる。このことは、本発明の効果が最も顕著に発揮される無機バリア層の厚み領域が35nmの周辺であることを示している。本発明者らの検討では無機バリア層の厚みが20〜50nmの領域で最も効果が顕著に発揮されることがわかった。
【0093】
有機EL発光素子での評価
バリア性を評価するために、水蒸気や酸素で黒点(ダークスポット)欠陥を生じる有機EL素子を作成し評価した。まず、ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン:膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン:膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム:膜厚60nm
(電子注入層)
フッ化リチウム:膜厚1nm
この上に、金属アルミニウムを100nm蒸着して陰極とし、その上に厚さ3μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
次に、熱硬化型接着剤(エポテック310、ダイゾーニチモリ(株))を用いて、作成した有機EL素子上と、上記で作製した各ガスバリアフィルムを、バリア層が有機EL素子の側となるように貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を各20素子ずつ作成した。
作成直後の有機EL素子をソースメジャーユニット(SMU2400型、Keithley社製)を用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
最後に、各素子を60℃・相対湿度90%の暗い室内に24時間静置した後、発光面状を観察した。直径300μmよりも大きいダークスポットが観察された素子の比率を故障率と定義し、各素子の故障率を算出した。故障率は、本発明の素子については、いずれも、5%以下と良好であった。
【0094】
太陽電池の作成
上記実施例1で作成したガスバリアフィルムを用いて、太陽電池モジュールを作成した。具体的には、太陽電池モジュール用充填剤として、スタンダードキュアタイプのエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた。10cm角の強化ガラス上に厚さ450μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体でアモルファス系のシリコン太陽電池セルを挟み込み充填し、さらにその上のガスバリアフィルムを設置することで太陽電池モジュールを作成した。設置条件は、150℃にて真空引き3分行ったあと、9分間圧着を行った。本方法で作成した太陽電池モジュールは、良好に作動し、85℃、85%相対湿度の環境下でも良好な電気出力特性を示した。
【0095】
封止用袋の作成
上記実施例1で作成したガスバリアフィルムを用いて、封止用袋を作成した。ガスバリアフィルムの基材フィルム側と、樹脂フィルムからなるバック(ポリエチレン製のバッグ)をヒートシール法によって融着し、封止用袋を作成した。得られた封止用袋に、薬剤として、セファゾリンナトリウム(大塚製薬工場製)を封入し、40℃相対湿度75%の条件で6ヶ月保存して色調の変化を評価したところ、色調に変化はほとんど見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のガスバリアフィルムは、高いバリア性能と透明性を有するため、多種の電子デバイス、好ましくは、有機ELあるいは太陽電池の表側の封止に適用することができる。また、湿熱耐久性の高いガスバリアフィルムが作成可能なので、屋外で用いられる電子デバイスの保護に、特に好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機層と、該有機層に隣接する無機バリア層とを有し、前記有機層は、1分子あたり2以上の重合性基を有する重合性化合物を重合させてなるポリマーを含み、かつ、屈折率が1.60以上であり、さらに、前記無機バリア層の屈折率が1.60以上であることを特徴とする、バリア性積層体。
【請求項2】
前記無機バリア層が、珪素を含む、酸化物、窒化物、炭化物、または、これらの混合物を含む、請求項1に記載のバリア性積層体。
【請求項3】
前記有機層が、シランカップリング剤を含む重合性組成物を重合させてなるポリマーを含む、請求項1または2に記載のバリア性積層体。
【請求項4】
前記重合性化合物が、下記一般式(1)〜(4)から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、Rは、置換基を表し、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜5の整数を表し、3つのnのうち、少なくとも1つは1以上の整数であり、さらに、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Rの少なくとも1つは重合性基を含む。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、Rは、水素原子または低級アルキル基を示し、R’は水素原子またはメチル基を示す。nは、0〜20の整数である。)
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、Xは下記式(3a)で示される単位であり、nは0〜20までの整数である。)
式(3a)
【化4】

(式(3a)中、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である。)
一般式(4)
【化5】

(一般式(4)中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子またはメチル基を表し、X1、X2、Y1およびY2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、またはアリールチオ基を表す。)
【請求項5】
少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機バリア層が、交互に積層している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
基材フィルム上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体を有するガスバリアフィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体または請求項6に記載のガスバリアフィルムを有するデバイス。
【請求項8】
前記デバイスが、電子デバイスである、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスが、有機EL素子または太陽電池素子である、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体または請求項6に記載のガスバリアフィルムを用いた封止用袋。

【公開番号】特開2013−67146(P2013−67146A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209076(P2011−209076)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】