説明

バリ取り工具

【課題】被加工物の穿孔への装着が容易で、しかも被加工物の裏側のバリを表側から効率的に除去可能なバリ取り工具を提供する。
【解決手段】被加工物1の穿孔2時に発生した裏側のバリ3を表側から除去するバリ取り工具10であって、穿孔2に挿通可能な外筒11と、外筒11に対して軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に内嵌した操作軸12と、外筒11の先端部に周方向に間隔をあけて形成した複数の開口部13に枢支ピン14を介して回動自在に装着されて、外筒11外へ突出した使用位置と、外筒11内に収納した収納位置とに出没可能なバリ取りチップ15と、操作軸12とバリ取りチップ15とに設けられ、操作軸12の軸方向への操作により、バリ取りチップ15を使用位置と収納位置とに切換可能な切換手段16とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラムなどの閉断面状の被加工物の穿孔時に発生した、裏側のバリを表側から除去するバリ取り工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工物に対してドリルにより穿孔を形成すると、被加工物の裏面側に穿孔の口縁に沿ってバリが突出形成され、手指を傷つけたり、穿孔へのボルト組付時に、ボルトの座りが不安定になったりするので、穿孔形成後にバリ取り作業を行なっている。
【0003】
通常、被加工物からのバリ取り作業は、被加工物の裏面側から、電動工具により穿孔の口縁に座繰りを形成することで除去している。しかし、高層ビルなどの建築物で使用される角形コラムなどのように閉断面状の被加工物に対してドリルにより穿孔を形成した場合には、コラムの内側に電動工具を配置できないので、次のようにしてバリを除去している。即ち、電動工具の先端部に球状の砥石や球状の切削具などのバリ取り工具を取付けて、該バリ取り工具をコラムの外面側から穿孔に刺し通し、該バリ取り具でバリを除去する方法が採用されている。しかし、この方法によりバリを除去する場合には、穿孔の口縁に沿ってバリ取り工具を移動させながらバリを除去する必要があることから、多くの作業時間を要するとともに、一様に綺麗にバリを除去できないという問題があった。
【0004】
そこで、被加工物の穿孔を挿通可能な筒状体と、筒状体の先端の開口部内に出没可能に設けられ、筒状体と一体に回転可能なバリ取り部材と、筒状体に軸方向に移動自在に設けられて、バリ取り部材を筒状体の周面よりも外方へ突出させる押圧部材と、押圧部材を軸方向に操作可能な操作部材と、操作部材の復帰用バネとを有するバリ取り工具が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−144553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1記載のバリ取り工具は、手動操作でバリを除去することを前提としてなされたものであり、復帰用バネの付勢力に抗して押圧部材を押し操作しながら、バリ取り工具を回転させて、バリを除去する関係上、バリ除去作業が人手による大変煩雑な作業になっていた。しかも、復帰用バネにより押圧部材を復帰させた状態で、バリ取り部材が出没自在な状態となるので、水平方向に形成した穿孔に対してバリ取り工具を挿入する際に、1乃至複数のバリ取り部材がその自重によって外方へ突出することがあり、この外方へ突出したバリ取り部材が穿孔の口縁に引っ掛かって、穿孔に対するバリ取り工具の挿入作業に手間取るという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、被加工物の穿孔への装着が容易で、しかも被加工物の裏側のバリを表側から効率的に除去可能なバリ取り工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るバリ取り工具は、被加工物の穿孔時に発生した裏側のバリを表側から除去するバリ取り工具であって、前記穿孔に挿通可能な外筒と、前記外筒に対して軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に内嵌した操作軸と、前記外筒の先端部に周方向に間隔をあけて形成した複数の開口部に枢支ピンを介して回動自在に装着されて、外筒外へ突出した使用位置と、外筒内に収納した収納位置とに出没可能なバリ取りチップと、前記操作軸とバリ取りチップとに設けられ、操作軸の軸方向への操作により、バリ取りチップを使用位置と収納位置とに切換可能な切換手段とを備えたものである。
【0009】
このバリ取り工具では、切換手段によりバリ取りチップを収納位置に没入させた状態で、先端部が被加工物の裏側へ突出するまで、バリ取り工具を被加工物の穿孔に挿入し、その後切換手段によりバリ取りチップを使用位置に突出させ、バリ取り工具を電動工具で回転させながら引き抜き方向へバリ取り工具を移動させて、外筒とともに回転するバリ取りチップにより、被加工物の穿孔時に発生した裏側のバリを切削除去することになる。そして、バリ除去後、切換手段によりバリ取りチップを収納位置に回動させて、バリ取り工具を被加工物の穿孔から抜き取ることになる。このように、このバリ取り工具では、切換手段によりバリ取りチップを使用位置と収納位置とに位置切換えできるので、バリ取り工具を被加工物の穿孔に挿入するときに、バリ取りチップの自重により、一部のバリ取りチップが使用位置側へ回動することを効果的に防止して、被加工物の穿孔に対してバリ取り工具を円滑に挿入することが可能となり、またバリを除去する際には、バリ取り工具を被加工物の穿孔にバリ取り工具を挿入させて、バリ取りチップを使用位置に回動させてから、電動工具でバリ取り工具を回転させることで、穿孔の口縁のバリを全周にわたって円滑に且つ綺麗に除去することができる。
【0010】
ここで、前記切換手段として、操作軸の先端近傍部に環状溝を形成し、バリ取りチップの基端部に環状溝に挿入される突起を形成することが好ましい実施の形態である。この場合には、バリ取りチップの突起が環状溝の一方の軸方向端面に当接して、バリ取りチップが使用位置又は収納位置の一方に切換えられ、バリ取りチップの突起が環状溝の他方の軸方向端面に当接することで、バリ取りチップが使用位置又は収納位置の他方に切換えられる。そして、このような環状溝と突起とからなる簡単な構成の切換手段により、バリ取りチップを使用位置と収納位置とに確実に安定的に位置切換することができる。
【0011】
前記バリ取りチップの一方の基端角部を前記枢支ピンで枢支し、バリ取りチップの他方の基端角部に、バリ取りチップを使用位置に保持した状態で、操作軸の先端外周面に当接する当接部を形成することも好ましい実施の形態である。この場合には、当接部が操作軸に当接することで、バリ除去時においてバリ取りチップに作用する、バリ取り工具の引き抜き方向への操作力に対する反力を無理なく確実に受け止めることができる。
【0012】
前記外筒に対する操作軸の移動を規制して、バリ取りチップを使用位置と収納位置とに位置切換可能に保持するクリック機構を設けることも好ましい実施の形態である。この場合には、バリ取り工具の操作時における振動等で、使用位置に移動させたバリ取りチップが収納位置側へ回動したり、収納位置に移動させたバリ取りチップが使用位置側に回動したりすることを効果的に防止でき、バリ取り工具の操作性を向上できる。
【0013】
前記被加工物の表面側における穿孔の口縁に嵌合して外筒の基部側を穿孔に回転自在に位置決めする位置決め手段を設けることも好ましい実施の形態である。このような位置決め手段を設けると、バリ取り工具の基部側を穿孔と同心状に位置決めできるので、バリ除去時におけるバリ取り工具の安定性を向上できる。
【0014】
前記操作軸の基端部に外筒から外方へ突出して、電動工具のチャックに着脱自在に保持されるチャッキング部を形成することも好ましい。このように構成すると、外筒を電動工具のチャックに保持させる場合と比較して、バリ取り工具の部品点数を少なくして、その製作コストを低減できる。
【0015】
前記外筒の先端部に円錐状のガイド部材を取り付けることもできる。この場合には、被加工物の穿孔に対するバリ取り工具の挿入性をガイド部材により向上できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るバリ取り工具によれば、切換手段によりバリ取りチップを使用位置と収納位置とに位置切換えできるので、バリ取り工具を被加工物の穿孔に挿入するときに、バリ取りチップの自重により、一部のバリ取りチップが使用位置側へ回動することを効果的に防止して、被加工物の穿孔に対してバリ取り工具を円滑に挿入することが可能となり、またバリを除去する際には、バリ取り工具を被加工物の穿孔にバリ取り工具を挿入させて、バリ取りチップを使用位置に回動させてから、電動工具でバリ取り工具を回転させることで、穿孔の口縁のバリを全周にわたって円滑に且つ綺麗に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】バリ取り工具の斜視図
【図2】バリ取り工具の(a)はバリ取りチップを収納位置に回動させた状態での縦断面図、(b)はバリ取りチップを使用位置に回動させた状態での縦断面図
【図3】バリ取り工具の(a)はバリ取りチップを収納位置に回動させた状態での要部縦断面図、(b)はバリ取りチップを使用位置に回動させた状態での要部縦断面図
【図4】クリック機構付近の縦断面図
【図5】図2のV-V線端面図
【図6】図2のVI-VI線断面図
【図7】位置決め手段を取り付けた状態でのバリ取り工具の(a)はバリ取りチップを収納位置に回動させた状態での縦断面図、(b)はバリ取りチップを使用置に回動させた状態での縦断面図
【図8】他の構成のバリ取り工具の斜視図
【図9】同バリ取り工具の(a)はバリ取りチップを使用位置に回動させた状態での縦断面図、(b)はバリ取りチップを収納位置に回動させた状態での縦断面図
【図10】同バリ取り工具の正面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施例)
図1〜図6に示すように、このバリ取り工具10は、被加工物1に形成した穿孔2に挿通可能な外筒11と、外筒11に対して軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に内嵌した操作軸12と、外筒11の先端部に周方向に間隔をあけて形成した複数の開口部13に枢支ピン14を介して回動自在に装着されて、外筒11外へ突出した使用位置と、外筒11内に収納した収納位置とに出没可能なバリ取りチップ15と、操作軸12とバリ取りチップ15とに設けられ、操作軸12の軸方向への操作により、バリ取りチップ15を使用位置と収納位置とに切換可能な切換手段16とを備えている。
【0019】
外筒11は、被加工物1に形成した穿孔2よりも小径な筒状部材で構成され、外筒11の中央部には貫通孔20が全長にわたって形成されている。外筒11の先端部には軸方向に延びる3本のスリット21が周方向に一定間隔おきに形成され、外筒11の先端部にはスリット21の先端側部分に嵌合する3つの脚部22aを有する円錐状のガイド部材22がビス23で固定されている。外筒11の先端部にガイド部材22を固定した状態で、スリット21の基部側には貫通孔20に連通する角孔状の開口部13が形成される。開口部13の個数は、本実施の形態では3個に設定したが、バリ取りチップ15の個数に応じた任意の個数に設定することができる。ただし、バリ3を切削除去するときにおける切削バランスを考慮して、周方向に一定間隔おきに複数本設けることが好ましい。なお、ガイド部材22は、穿孔2へのバリ取り工具10の挿入性を向上するために設けたが、必須の構成ではなく、省略することも可能である。
【0020】
外筒11の貫通孔20の基端側には先端側よりも大径の基部貫通孔20aが段差部24を介して形成され、この基部貫通孔20aの基端側には軸方向に延びる4本のスプライン溝20bが形成され、貫通孔20の基端部にはスナップリング25が装着されている。
【0021】
操作軸12は外筒11の貫通孔20に内嵌装着されている。操作軸12の基端部は、外筒11から外部へ突出されて、図示外の電動工具のチャックに対して着脱自在に取り付けられるチャッキング部12aとされている。操作軸12の基端近傍部には、チャッキング部12aよりも大径の大径軸部12bが形成され、大径軸部12bの軸方向への移動が基部貫通孔20aの段差部24とスナップリング25とで規制されることにより、外筒11に対する操作軸12の軸方向への移動範囲が規制されている。大径軸部12bの基端側にはスプライン溝20bに嵌合する4本のスプライン突条12cが形成され、操作軸12は、スプライン溝20bとスプライン突条12cとのスプライン嵌合により、外筒11に対して軸方向に相対移動自在で且つ相対回転不能に嵌合されている。
【0022】
外筒11の先端部には3本の枢支ピン14が、外筒11の軸芯から一定距離あけて直交状に交差するように取り付けられ、枢支ピン14の途中部は開口部13の中央部内に露出されている。開口部13には略長方形状のバリ取りチップ15が装着されて、バリ取りチップ15は、図2(a)に図示の使用位置と図2(b)に図示の収納位置とにわたって回動自在に枢支ピン14に枢支され、使用位置においてその先端側半部が外筒11の外周面よりも外方へ突出し、バリ取りチップ15に形成した刃部15aによりバリ3を除去できるように構成され、収納位置においてバリ取りチップ15の略全体が外筒11の外周面よりも内側に配置されて、バリ取り工具10を穿孔2に対して円滑に挿入できるように構成されている。なお、バリ取りチップ15としては、外筒11の外周面外へ突出した使用位置と、外筒11の外周面内に没入した収納位置とに出没可能なものであれば、長方形以外の任意の形状のものを採用することができる。
【0023】
切換手段16について説明すると、操作軸12の先端近傍部には環状溝12dが形成され、先端部には途中部と同径の受圧部12eが形成されている。バリ取りチップ15は、その一方の基端角部が枢支ピン14で枢支されるとともに、一方の基端角部には環状溝12d内へ突出する尖鋭な突起15bが形成され、また他方の基端角部には使用位置において受圧部12eに当接して、バリ取りチップ15の更なる回動を規制する当接部15cが形成されている。この切換手段16では、操作軸12を外筒11に対して軸方向の先端側へ相対移動させることで、バリ取りチップ15の突起15bが環状溝12dの基端側端面12fで押し操作されて、図3(a)に示すように、バリ取りチップ15が収納位置に回動し、操作軸12を外筒11に対して軸方向の基端側へ相対移動させることで、バリ取りチップ15の突起15bが環状溝12dの先端側端面12gで押し操作されて、図3(b)に示すように、バリ取りチップ15が枢支ピン14を中心に使用位置に回動することになる。また、バリ3を切削除去するときに、バリ取りチップ15に対しては、使用位置から更に収納位置とは反対側へバリ取りチップ15を回動させようとする力が作用するが、この力は操作軸12の受圧部12eにバリ取りチップ15の当接部15cが当接することで受け止められる。ただし、切換手段16としては、バリ取りチップ15を収納位置と使用位置とに切換可能な構成のものであれば、前述した以外の構成を採用することも可能で、例えば操作軸12にラックを形成し、バリ取りチップ15にピニオンを形成して、ラックピニオン機構により、バリ取りチップ15を位置切換可能に構成したり、操作軸12側に突起を形成し、バリ取りチップ15側に凹部を形成して、バリ取りチップ15を位置切換可能に構成したりしたものを採用することもできる。
【0024】
バリ取り工具10の軸方向の途中部には、バリ取りチップ15を収納位置と使用位置とに位置切換可能に保持するクリック機構30が設けられている。このクリック機構30について説明すると、操作軸12の途中部には軸方に細長いガイド溝31が、外筒11に対する操作軸12の相対移動範囲にわたって形成され、ガイド溝31には、収納位置と使用位置とに対応する操作軸12の軸方向位置に対応させて、保持凹部32、33が形成されている。外筒11にはガイド溝31に対応させて取付孔11aが形成され、取付孔11aにはガイド溝31に嵌合する鋼球34と、鋼球34をガイド溝31側へ付勢するバネ部材35と、バネ部材35の抜け止め用のプラグ36とが奥部側から順番に取付けられている。このクリック機構30では、操作軸12を軸方向へ移動させると、鋼球34がガイド溝31に沿って移動し、図2(a)、図4に示すように、操作軸12を外筒11の先端側へ移動させて鋼球34が基端側の保持凹部32に係合すると、バリ取りチップ15が収納位置に保持され、図2(b)、図4に示すように、操作軸12を外筒11の基端側へ移動させて鋼球34が先端側の保持凹部33に係合すると、バリ取りチップ15が使用位置に保持される。そして、操作軸12をバリ取りチップ15の収納位置又は使用位置に対応する位置に保持された状態で、バネ部材35の付勢力に抗して操作軸12を軸方向に操作することで、保持凹部32、33から鋼球34を離脱させて、操作軸12を軸方向に移動できるように構成されている。
【0025】
このバリ取り工具10を用いたバリ3取り方法について説明すると、先ず、チャッキング部12aを電動工具のチャックに固定保持させる。次に、図2(a)に示すように、操作軸12を外筒11の先端側へ相対移動させて、バリ取りチップ15を収納位置に移動させ、この状態でバリ取り工具10を被加工物1の穿孔2内に挿入する。このとき、クリック機構30の鋼球34がガイド溝31の保持凹部32に係合して、操作軸12の移動が規制され、バリ取りチップ15が収納位置に保持されて、バリ取りチップ15がその自重により使用位置側へ移動することが規制されるので、バリ取り工具10を穿孔2に対して円滑に挿入することができる。
【0026】
次に、バリ取り工具10を穿孔2に挿入した状態で、図2(b)に示すように、操作軸12を外筒11の基端側へ相対移動させて、バリ取りチップ15を使用位置に回動させる。この状態で、クリック機構30の鋼球34がガイド溝31の保持凹部33に係合して、操作軸12の移動が規制され、バリ取りチップ15が使用位置に保持されることになる。そして、バリ取りチップ15を使用位置に保持させた状態で、電動工具によりバリ取り工具10を回転させながら、引き抜き方向へ移動させることで、バリ取りチップ15の刃部15aで、被加工物1の裏面側において穿孔2の口縁に形成されたバリ3を除去することになる。このように、バリ取り工具10を後方へ移動させることで、穿孔2の口縁に沿って形成されるバリ3を除去できるので、従来のように球状の砥石等を用いてバリ3を除去する場合と比較して、簡単な操作で、しかも短時間で綺麗にバリ3を除去することが可能となる。
【0027】
こうして、バリ3を除去した後、バリ取り工具10を停止させ、図2(a)に示すように、操作軸12を外筒11の先端側へ相対移動させて、バリ取りチップ15を収納位置に移動させた状態で、バリ取り工具10を被加工物1の穿孔2から抜き取ることになる。また、複数の穿孔2のバリ3を除去する場合には、前記作業を繰り返して、複数の穿孔2のバリ3を順次除去することになる。
【0028】
なお、バリ3取り装置に対して、次のような構成の位置決め手段40を設けることもできる。図7に示すように、この位置決め手段40は、外筒11に対して軸方向に移動自在に装着される位置調整リング41と、位置調整リング41を外筒11の所望の軸方向位置に固定する固定ネジ42と、位置調整リング41よりも外筒11の先端側に軸方向に移動自在に外装されたベアリング43と、穿孔2の端部に嵌合して穿孔2と同心状に位置決めされる円錐部44aを有し、ベアリング43を介して外筒11に回転自在に外嵌される位置決め部材44と、位置調整リング41と位置決め部材44間に設けられて位置決め部材44を外筒11の先端側へ付勢する圧縮バネ45と、圧縮バネ45と位置決め部材44間に介装したスラストベアリング46とを備えている。
【0029】
この位置決め手段40を設けたバリ取り工具10では、図7(a)に示すように、前述と同様にして、バリ取りチップ15を収納位置に保持した状態で、バリ取り工具10を被加工物1の穿孔2に挿入し、その後、図7(b)に示すように、バリ取りチップ15を使用位置に回動させる。そして、この状態で、位置調整リング41を外筒11の先端側へ移動させて、圧縮バネ45が一定量だけ圧縮されるまで、位置決め部材44を外筒11の先端側へ移動させ、円錐部44aを穿孔2の表面側の口縁に嵌合させる。そして、円錐部44aとバリ取りチップ15間に圧縮バネ45の付勢力で被加工物1が挟持されるまで、位置調整リング41を外筒11の先端側へ移動させてから、固定ネジ42で位置調整リング41を外筒11に固定する。
【0030】
こうして位置決め手段40をバリ取り工具10に取り付けてから、圧縮バネ45の付勢力に抗して穿孔2の奥部側へ外筒11を押し込んで、バリ取りチップ15を被加工物1から離間させた状態で、電動工具にてバリ取り工具10を回転させ、圧縮バネ45の付勢力で、外筒11を引く抜き方向へ移動させながらバリ3を除去することになる。このとき、バリ取り工具10の基部側は位置決め部材44の円錐部44aで穿孔2と同心状に位置決めされるので、円滑にバリ3を除去することできる。また、バリ取り工具10を穿孔2から抜き取るときには、圧縮バネ45の付勢力に抗してバリ取り工具10を穿孔2の奥部側へ移動させてから、バリ取りチップ15を収納位置へ移動させて抜き取ることになり、次のバリ取り作業で、異なる厚さの被加工物1に形成した穿孔2のバリ3を除去する際には、前記と同様に、位置決め手段40の取り付け位置を調整することになるが、同じ厚さの被加工物1に形成した穿孔2のバリ3を除去する際には、位置調整リング41の位置を調整することなく、前記と同様に、円錐部44aとバリ取りチップ15間に圧縮バネ45の付勢力で被加工物1を挟持させて、バリ3を除去することができる。つまり、位置決め手段40の取り付け位置を一旦調整すると、バリ取り工具10を複数の穿孔2に対して順次位置決めしながら、穿孔2の裏面側のバリ3を除去することができる。
【0031】
(第2実施例)
図8〜図10に示すように、このバリ取り工具50は、被加工物1に形成した穿孔2に挿通可能な外筒51と、外筒51に対して軸方向に移動自在に内嵌した操作軸52と、操作軸52を外筒51に対して軸方向に操作するための操作手段53と、外筒51の先端部に周方向に間隔をあけて形成した複数の開口部54に枢支ピン55を介して回動自在に装着されて、外筒51外へ突出した使用位置と、外筒51内に収納した収納位置とに出没可能なバリ取りチップ56と、操作軸52とバリ取りチップ56とに設けられ、操作軸52の軸方向への操作により、バリ取りチップ56を使用位置と収納位置とに切換可能な切換手段57とを備えている。
【0032】
外筒51は、被加工物1に形成した穿孔2よりも小径な筒状部材で構成され、外筒51の中央部には貫通孔60が全長にわたって形成されている。外筒51の先端部には軸方向に延びる3本のスリット61が周方向に一定間隔おきに形成され、外筒51の先端部には円板状のカバー部材62がビス63で固定されている。外筒51の先端部にカバー部材62を固定した状態で、スリット61により貫通孔60に連通する角孔状の開口部54が形成される。開口部54の個数は、本実施の形態では3個に設定したが、バリ取りチップ56の個数に応じた任意の個数に設定することができる。ただし、バリを切削除去するときにおける切削バランスを考慮して、周方向に一定間隔おきに複数本設けることが好ましい。なお、カバー部材62は、前記第1実施例のガイド部材22と同様に尖鋭に構成することも可能であるし、省略することも可能である。
【0033】
外筒51の貫通孔60の基部側にはネジ孔64が形成され、ネジ孔64の基端部にはプラグ65がネジ部65aにおいて締結固定されている。プラグ65には外方へ突出するチャッキング部65bが外筒51と同軸上に設けられ、このチャッキング部65bを図示外の電動工具のチャックで挟持して、外筒51を回転操作できるように構成されている。
【0034】
外筒51の後端近傍部にはリング状の操作部材66が軸方向に移動自在に外嵌され、外筒51の後端近傍部には軸方向に細長い1対のガイドスリット70が形成され、操作軸52の基端部には挿通孔52aが軸心直交方向に形成され、挿通孔52aにはガイドスリット70を通って操作部材66に連結される連結ピン67が取り付けられ、操作部材66及び操作軸52はガイドスリット70及び連結ピン67を介して一定長さだけ軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に外筒51に取り付けられている。
【0035】
操作軸52の途中部には鍔部52bが形成され、ネジ孔64の奥部には操作軸52の途中部が挿通するリング状のネジ部材68が装着され、鍔部52bとネジ部材68間には操作軸52を外筒51に対して先端側へ常時付勢するバネ部材69が設けられている。
【0036】
外筒51の先端部には3本の枢支ピン55が、外筒51の軸芯から一定距離あけて直交状に交差するように取り付けられ、枢支ピン55の途中部は開口部54の中央部内に露出されている。開口部54には略長方形状のバリ取りチップ56が装着され、バリ取りチップ56は、図9(a)に図示の使用位置と図9(b)に図示の収納位置とにわたって回動自在に枢支ピン55に枢支され、使用位置においてその先端側半部が外筒51の外周面よりも外方へ突出し、バリ取りチップ56に形成した刃部56aによりバリ3を除去できるように構成され、収納位置においてバリ取りチップ56の略全体が外筒51の外周面よりも内側に配置されて、バリ取り工具50を穿孔2に対して円滑に挿入できるように構成されている。なお、バリ取りチップ56としては、外筒51の外周面外へ突出した使用位置と、外筒51の外周面内に没入した収納位置とに出没可能なものであれば、長方形以外の任意の形状のものを採用することができる。
【0037】
切換手段57について説明すると、操作軸52の先端近傍部には環状溝52cが形成され、操作軸52の先端部にはやや大径の切換部52dが形成されている。バリ取りチップ56は、その一方の基端角部が枢支ピン55で枢支されるとともに、該一方の基端角部には突起56bが形成されている。この切換手段57では、操作部材66とともに操作軸52がバネ部材69の付勢力により外筒51の軸方向の先端側へ相対移動することで、バリ取りチップ56の突起56bが環状溝52cの基端側端面52eで押し操作されて、図9(a)に示すように、バリ取りチップ56が枢支ピン55を中心として使用位置に回動し、操作部材66とともに操作軸52をバネ部材69の付勢力に抗して外筒51の軸方向の基端側へ相対移動させることで、バリ取りチップ56の突起56bが環状溝52cの先端側端面52fで押し操作されて、図9(b)に示すように、バリ取りチップ56がバリ取りチップ56が枢支ピン55を中心として収納位置に回動することになる。また、バリ3を除去するときに、バリ取りチップ56に対しては、使用位置から更に収納位置とは反対側へバリ取りチップ56を回動させようとする力が作用するが、この力はバリ取りチップ56の基端面が操作軸52の外周面に当接することで受け止められる。ただし、切換手段57としては、バリ取りチップ56を収納位置と使用位置とに切換可能な構成のものであれば、前述した以外の構成を採用することも可能で、例えば操作軸52にラックを形成し、バリ取りチップ56にピニオンを形成して、ラックピニオン機構により、バリ取りチップ56を位置切換可能に構成したり、操作軸52側に突起56bを形成し、バリ取りチップ56側に凹部を形成して、バリ取りチップ56を位置切換可能に構成したりしたものを採用することもできる。
【0038】
このバリ取り工具50を用いたバリ取り方法について説明すると、先ず、チャッキング部65bを電動工具のチャックに固定保持させる。次に、図9(b)に示すように、操作部材66を操作して、操作軸52をバネ部材69の付勢力に抗して外筒51の基端側へ相対移動させ、バリ取りチップ56を収納位置に移動させた状態で、バリ取り工具50を被加工物1の穿孔2内に挿入する。このように、操作部材66を操作してバリ取りチップ56を収納位置に保持させているので、バリ取りチップ56がその自重により使用位置側へ移動することが規制されるので、バリ取り工具50を穿孔2に対して円滑に挿入することができる。
【0039】
次に、バリ取り工具50を穿孔2に挿入した状態で、操作部材66から手を離し、図9(a)に示すように、操作軸52をバネ部材69の付勢力により外筒51の先端側へ相対移動させ、バリ取りチップ56を使用位置に回動させる。そして、バリ取りチップ56を使用位置に保持させた状態で、電動工具によりバリ取り工具50を回転させながら、バリ取り工具50を引き抜き方向へ移動させることで、バリ取りチップ56の刃部56aで、被加工物1の裏面側において穿孔2の口縁に形成されたバリ3を除去することになる。このように、バリ取り工具50を抜き取り方向へ移動させることで、穿孔2の口縁に沿って形成されるバリ3を除去できるので、従来のように球状の砥石等を用いてバリ3を除去する場合と比較して、簡単な操作で、しかも短時間で綺麗にバリ3を除去することが可能となる。
【0040】
こうして、バリ3を除去した後、バリ取り工具50を停止させ、図9(b)に示すように、操作部材66により、操作軸52を外筒51の基端側へ相対移動させて、バリ取りチップ56を収納位置に移動させた状態で、バリ取り工具50を被加工物1の穿孔2から抜き取ることになる。また、複数の穿孔2のバリ3を除去する場合には、前記作業を繰り返して、複数の穿孔2のバリ3を順次除去することになる。なお、この第2実施例のバリ取り工具50に対しても、前記第1実施例と同様の位置決め手段40を備えさせることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 被加工物 2 穿孔
3 バリ
10 バリ取り工具
11 外筒 11a 取付孔
12 操作軸 12a チャッキング部
12b 大径軸部 12c スプライン突条
12d 環状溝 12e 受圧部
12f 基端側端面 12g 先端側端面
13 開口部 14 枢支ピン
15 バリ取りチップ 15a 刃部
15b 突起 15c 当接部
16 切換手段
20 貫通孔 20a 基部貫通孔
20b スプライン溝 21 スリット
22 ガイド部材 22a 脚部
23 ビス 24 段差部
25 スナップリング
30 クリック機構 31 ガイド溝
32 保持凹部 33 保持凹部
34 鋼球 35 バネ部材
36 プラグ
40 位置決め手段 41 位置調整リング
42 固定ネジ 43 ベアリング
44 位置決め部材 44a 円錐部
45 圧縮バネ 46 スラストベアリング
50 バリ取り工具 51 外筒
52 操作軸 52a 挿通孔
52b 鍔部 52c 環状溝
52d 切換部 52e 基端側端面
52f 先端側端面
53 操作手段 54 開口部
55 枢支ピン 56 バリ取りチップ
56a 刃部 56b 突起
57 切換手段
60 貫通孔 61 スリット
62 カバー部材 63 ビス
64 ネジ孔 65 プラグ
65a ネジ部 65b チャッキング部
66 操作部材 67 連結ピン
68 ネジ部材 69 バネ部材
70 ガイドスリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の穿孔時に発生した裏側のバリを表側から除去するバリ取り工具であって、
前記穿孔に挿通可能な外筒と、
前記外筒に対して軸方向に移動自在で且つ相対回転不能に内嵌した操作軸と、
前記外筒の先端部に周方向に間隔をあけて形成した複数の開口部に枢支ピンを介して回動自在に装着されて、外筒外へ突出した使用位置と、外筒内に収納した収納位置とに出没可能なバリ取りチップと、
前記操作軸とバリ取りチップとに設けられ、操作軸の軸方向への操作により、バリ取りチップを使用位置と収納位置とに切換可能な切換手段と、
を備えたことを特徴とするバリ取り工具。
【請求項2】
前記切換手段として、操作軸の先端近傍部に環状溝を形成し、バリ取りチップの基端部に環状溝に挿入される突起を形成した請求項1記載のバリ取り工具。
【請求項3】
前記バリ取りチップの一方の基端角部を前記枢支ピンで枢支し、バリ取りチップの他方の基端角部に、バリ取りチップを使用位置に保持した状態で、操作軸の先端外周面に当接する当接部を形成した請求項1又は2記載のバリ取り工具。
【請求項4】
前記外筒に対する操作軸の移動を規制して、バリ取りチップを使用位置と収納位置とに位置切換可能に保持するクリック機構を設けた請求項1〜3のいずれか1項記載のバリ取り工具。
【請求項5】
前記被加工物の表面側における穿孔の口縁に嵌合して外筒の基部側を穿孔に回転自在に位置決めする位置決め手段を設けた請求項1〜4のいずれか1項記載のバリ取り工具。
【請求項6】
前記操作軸の基端部に外筒から外方へ突出して、電動機のチャックに着脱自在に保持されるチャッキング部を形成した請求項1〜5のいずれか1項記載のバリ取り工具。
【請求項7】
前記外筒の先端部に円錐状のガイド部材を取り付けた請求項1〜6のいずれか1項記載のバリ取り工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−11268(P2011−11268A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154822(P2009−154822)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(398075781)ジロー株式會社 (16)
【Fターム(参考)】