説明

バルクハウゼンノイズ検査装置およびバルクハウゼンノイズ検査方法

【課題】 幅広い周波数帯域のバルクハウゼンノイズを検出することができるバルクハウゼンノイズ検査装置を提供する。
【解決手段】 検査対象物40を磁化する励磁コイル2、および磁化された検査対象物40が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出センサ3を有する検出ヘッド1と、励磁コイル2に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する交流電源12とを備える。検出センサ3は、コイル非使用型の磁界センサであって、検査対象物40の表面磁束を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行うバルクハウゼンノイズ検査装置およびバルクハウゼンノイズ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体の金属材料が磁化する過程では、金属材料中に混在する非磁性体や内部欠陥などにピンニングされて磁壁の移動が不連続性を有することで、バルクハウゼンノイズが発生する。このバルクハウゼンノイズの大きさは、金属材料の硬度や残留応力などと相関を持つため、バルクハウゼンノイズを測定することで、金属材料からなる検査対象物を破壊することなく金属組織推定に用いることができる情報を得ることが可能となる。
【0003】
このバルクハウゼンノイズを利用した非破壊検査装置として、測定者が検出ヘッドを検査対象物に押し当てて検査するバルクハウゼンノイズ検査装置が知られている(例えば特許文献1)。検出ヘッドには、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルが含まれる。特許文献1に開示のバルクハウゼンノイズ検査装置では、予め検査対象物の材質ごとにバルクハウゼンノイズの大きさと材料の硬度との関係性を測定しておいて、検出されるバルクハウゼンノイズの大きさから検査対象物の表面における研削焼けによる異常箇所を検出する。このときの測定深さは、検出するバルクハウゼンノイズの周波数によって決まるため、幅広い周波数帯域でのバルクハウゼンノイズを均一な条件のもとで検出できる検出機構が必要となる。また、この場合の検査対象物での検出情報には、研削焼けのほか、残留応力、硬度、荷重などがある(例えば特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−262958号公報
【特許文献2】特許第2956007号公報
【特許文献3】特開2001−133441号公報
【特許文献4】特開2006−266686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルクハウゼンノイズの検出にコイルを用いる方法が提案されているが(例えば特許文献2)、インダクタとケーブルによる共振周波数により検出されるバルクハウゼンノイズの周波数帯域が制限される。この場合に、前記共振周波数を高くして検出されるバルクハウゼンノイズの周波数帯域を広げるには、検出コイルのインダクタンスを低下させる必要があるが、それでは検出信号のS/Nが低下してしまう。
【0006】
また、バルクハウゼンノイズは、検査対象物の残留磁気により変化する。検査対象物が軸受などの機械部品である場合、その製作の研磨工程でマグネットチャックなどを使用するため、機械部品に磁気が残留する場合がある。この場合、バルクハウゼンノイズの値が機械部品の残留磁気の影響を受けるため、研削焼けなどの検出精度が悪くなる。
【0007】
この発明の目的は、幅広い周波数帯域のバルクハウゼンノイズを検出することができるバルクハウゼンノイズ検査装置を提供することである。
この発明の他の目的は、検査対象物の残留磁気の影響を受けることなく精度良くバルクハウゼンノイズを検出することができるバルクハウゼンノイズ検査装置、およびバルクハウゼンノイズ検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる第1のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出センサを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する交流電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記検出センサが、コイル非使用型の磁界センサであって、前記検査対象物の表面磁束を検出するものであることを特徴とする。
この構成によると、磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出センサとして、コイル非使用型の磁界センサを用いたので、バルクハウゼンノイズの周波数による検出信号への影響が少ない。そのため、磁界センサが検出する検査対象物の表面磁束の強さから幅広い周波数帯域のバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0009】
この発明において、前記磁界センサは、例えばホールセンサ、MRセンサ(磁気抵抗効果素子を使用したセンサ)、GMRセンサ(巨大磁気抵抗効果素子を使用したセンサ)、MIセンサ(磁気インピーダンス効果を使用したセンサ)のいずれかである。
【0010】
この発明において、バンドパスフィルタを用いて、前記磁界センサの検出信号から特定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出する出力信号処理手段を設けても良い。この構成の場合、要求される検出深さに最適な周波数のバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0011】
この発明において、前記出力信号処理手段は、前記バンドパスフィルタのカットオフ周波数を可変設定するカットオフ周波数変更手段を有するものとしても良い。この構成の場合、バンドパスフィルタのカットオフ周波数を、カットオフ周波数変更手段で可変設定することにより、幅広い周波数のバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0012】
この発明において、前記交流電源は、前記励磁コイルに供給する交流電流の周波数を可変設定する交流電流周波数変更手段を有するものとしても良い。この構成の場合、要求される検出深さに応じて、検査対象物を励磁する交流磁界の周波数を変更することで、検出深さに最適な周波数のバルクハウゼンノイズを効果的に検出することができる。
【0013】
この発明において、前記励磁コイルによる磁化前の検査対象物の表面磁束を検出する磁化前検出用磁界センサと、この磁化前検出用磁界センサの検出した表面磁束に基づき、前記検出センサの検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正手段とを設けても良い。
この構成の場合、励磁コイルにより磁化される前の検査対象物の表面磁束を磁化前検査用磁界センサで検出することで、検査対象物に残留磁気がある場合に、これを検出することができる。この後、磁化した検査対象物から磁界センサで検出したバルクハウゼンノイズを、前記磁化前検査用磁界センサによる検出信号に基づいて補正手段により補正するようにしているので、検査対象物に残留磁気がある場合にその残留磁気がバルクハウゼンノイズの検出値に影響を及ぼすのを解消することができ、精度良くバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0014】
この発明において、前記磁化前検出用磁界センサは直流磁界の検出が可能なものであっても良い。この構成の場合、残留磁気の検出を効果的に行うことができる。
【0015】
この発明において、前記磁化前検出用磁界センサは、例えばホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサのいずれかである。
【0016】
この発明において、バルクハウゼンノイズ検出用磁界センサと磁化前検出用磁界センサを1つの磁界センサで共用するとともに、前記1つの磁界センサの出力をバルクハウゼンノイズ検出用信号の処理回路と前記補正手段とに切り換えて入力する切換回路を設けても良い。この構成の場合、1つの磁界センサをバルクハウゼンノイズ検出用と磁化前の表面磁束の検出用とに共用できるので、装置をコンパクトに構成することができる。
【0017】
この発明において、バルクハウゼンノイズ検査装置は、前記検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから金属製品の研削焼けを検出する研削焼け検出手段を設けたものであっても良い。
【0018】
この発明において、バルクハウゼンノイズ検査装置は、前記検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから転動装置または転動装置部品の残留応力のを検出する残留応力測定手段を設けたものであっても良い。
【0019】
この発明にかかる第2のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する交流電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記励磁コイルによる磁化前の前記検査対象物の表面磁束を検出する磁界センサと、この磁界センサの検出した表面磁束に基づき、前記検出コイルの検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正手段とを設けたことを特徴とする。
この構成によると、励磁コイルにより磁化される前の検査対象物の表面磁束を磁化前検査用磁界センサで検出し、磁化した検査対象物から検出コイルで検出したバルクハウゼンノイズを、磁化前検査用磁界センサによる検出信号に基づいて補正手段により補正することで、検査対象物の残留磁気がバルクハウゼンノイズの検出値に影響を及ぼすのを解消することができ、精度良くバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0020】
この発明において、前記磁界センサは直流磁界の検出が可能なものであっても良い。この構成の場合、残留磁気の検出を効果的に行うことができる。
【0021】
この発明において、前記磁界センサは、例えばホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサのいずれかである。
【0022】
この発明において、バルクハウゼンノイズ検査装置は、転動装置または転動装置部品の情報の検出に用いるものとしても良い。また、その検出ヘッドは、転動装置または転動装置部品の表面に摺接してバルクハウゼンノイズを検出するものとしても良い。
【0023】
この発明において、前記情報は、例えば転動装置または転動装置部品の表面の研削焼け、残留応力、欠陥のいずれかである。
【0024】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査方法は、交流磁界により検査対象物を磁化する磁化過程と、この磁化過程において前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出過程とを備えたバルクハウゼンノイズ検査方法において、前記磁化過程に先立ち、検査対象物の表面磁束を検出する磁化前検出過程と、この磁化前検出過程で検出した表面磁束に基づき、前記検出過程で検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正過程とを有することを特徴とする。
このバルクハウゼンノイズ検査方法によると、磁化前検出過程で検出した表面磁束に基づき、検出過程で検出したバルクハウゼンノイズを補正するので、検査対象物の残留磁気の影響を受けることなく精度良くバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明にかかる第1のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出センサを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する交流電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記検出センサが、コイル非使用型の磁界センサであって、前記検査対象物の表面磁束を検出するものとしたため、幅広い周波数帯域のバルクハウゼンノイズを検出することができる。
この発明にかかる第1のバルクハウゼノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する交流電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記励磁コイルによる磁化前の前記検査対象物の表面磁束を検出する磁界センサと、この磁界センサの検出した表面磁束に基づき、前記検出コイルの検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正手段とを設けたため、検査対象物の残留磁気の影響を受けることなく精度良くバルクハウゼンノイズを検出することができる。
この発明にかかるバルクハウゼンノイズ検査方法は、交流磁界により検査対象物を磁化する磁化過程と、この磁化過程において前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出過程とを備えたバルクハウゼンノイズ検査方法において、前記磁化過程に先立ち、検査対象物の表面磁束を検出する磁化前検出過程と、この磁化前検出過程で検出した表面磁束に基づき、前記検出過程で検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正過程とを有する方法としたため、検査対象物の残留磁気の影響を受けることなく精度良くバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の一実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図2】この発明の他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図3】この発明のさらに他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図5】同バルクハウゼンノイズ検査装置における検出ヘッドの概略構成図である。
【図6】同バルクハウゼンノイズ検査装置の一使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行う装置であって、励磁コイル2と磁界センサ3を含む検出ヘッド1と、コントローラ10とを備える。検査時には、前記検出ヘッド1が検査対象物40の表面に押し当てられる。
【0028】
検出ヘッド1における励磁コイル2は、検査対象物40を磁化するためのコイルであって、磁心となる鉄心4に巻かれている。鉄心4は、フェライトなどの磁性酸化物や積層ケイ素鋼板などからなる。磁化センサ3は、磁化された前記検査対象物40が発するバルクハウゼンノイズを検出するためのコイル非使用型のセンサであり、具体的には検査対象物40の表面磁束を検出する。この磁界センサ3として、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサのいずれかが使用される。検出ヘッド1を検査対象物40の表面に押し当てた状態で、前記励磁コイル2の磁心となる鉄心4と前記磁界センサ3とが検査対象物40の表面に押し当てられる。前記検出ヘッド1には、前記励磁コイル2や磁界センサ3のほか、検査対象物40を励磁する磁束を検出する磁束検出センサ5が設けられている。ここでは、磁束検出センサ5として磁界センサが用いられる。
【0029】
コントローラ10は、励磁コイル2に励磁用の交流電流を供給する交流電源12を含む電流制御部11と、磁界センサ3の出力信号を処理する手段である出力信号処理部15とを備える。電流制御部11は、前記磁束検出センサ5が検出する磁束の強さに基づき前記交流電源12の交流電流を制御して検査対象物40を励磁する磁束を一定に保つ制御装置13と、交流電源12から励磁コイル2に供給する交流電流の周波数を可変設定する交流電流周波数変更手段14とを有する。
【0030】
出力信号処理部15は、バルクハウゼンノイズ検出回路16と、性状検出手段17とを有する。バルクハウゼンノイズ検出回路16は、磁界センサ3の検出信号からバルクハウゼンノイズを抽出する回路であり、磁界センサ3の検出信号を増幅する増幅器などを含むセンサ回路18と、センサ回路18で処理された検出信号から特定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出するバンドパスフィルタ19と、このバンドパスフィルタ19のカットオフ周波数を可変設定するカットオフ周波数変更手段20とを有する。バンドパスフィルタ19では、抽出したバルクハウゼンノイズ信号の実効値、振幅の最大値や平均値、包絡線の振幅などから、実際に用いるバルクハウゼンノイズ値を算出する。このバルクハウゼンノイズ値は、交流磁界の数サイクル分のバルクハウゼンノイズの値を測定し、それらの平均値を求めたものであっても良い。
【0031】
性状検出手段17は、バルクハウゼンノイズ検出回路16で抽出されたバルクハウゼンノイズから、検査対象物40の検出目的の性状を検出する手段である。検出目的の性状は、バルクハウゼンノイズから検出可能な性状であれば良いが、ここでは研削焼けおよび残留応力とされる。これら研削焼けおよび残留応力は、性状検出手段17を構成する研削焼け検出手段21および残留応力測定手段22によってそれぞれ検出される。
【0032】
次に、このバルクハウゼンノイズ検査装置の動作を説明する。検査対象物40に検出ヘッド1を押し当てると、励磁コイル2の磁心である鉄心4および磁界センサ3が検査対象物40に接触し、鉄心4と検査対象物40とで磁気閉回路が構成される。励磁コイル2は交流電源12から交流電流を供給されて交流磁界を発生させ、これにより検査対象物40が磁化する。磁界センサ3は、磁化された検査対象物40の表面磁束を検出する。磁界センサ3の検出信号が入力される出力信号処理部15のバルクハウゼンノイズ検出回路16では、その検出信号から、所定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出する。さらに、性状検出手段17では、抽出されたバルクハウゼンノイズから、検査対象物40における研削焼けと残留応力を検出する。
【0033】
この構成のバルクハウゼンノイズ検査装置によると、磁化された検査対象物40が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出センサとしてコイル非使用型の磁界センサ3を用いたので、バルクハウゼンノイズの周波数による検出信号への影響が少ない。そのため、磁界センサ3が検出する検査対象物40の表面磁束の強さから、幅広い周波数帯域のバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0034】
バルクハウゼンノイズの測定深さは、バルクハウゼンノイズの周波数帯域によって決まる。つまり、バルクハウゼンノイズの周波数帯域が高くなるほど、そのバルクハウゼンノイズの測定される深さは浅くなる。この実施形態では、出力信号処理部15のバルクハウゼンノイズ検出回路16において、バンドパスフィルタ19を用いて、前記磁界センサ3の検出信号から特定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出するものとしているので、バンドパスフィルタ19において、検査対象物40における要求される測定深さに対応したカットオフ周波数を設定することにより、要求される深さのバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0035】
また、この実施形態では、前記バンドパスフィルタ19のカットオフ周波数を可変設定するカットオフ周波数変更手段20を設けているので、バンドパスフィルタ19のカットオフ周波数をカットオフ周波数変更手段20で可変設定することで、幅広い周波数のバルクハウゼンノイズを検出することができる。
【0036】
また、この実施形態では、電流制御部11における交流電源12において、励磁コイル2に供給する交流電流の周波数を可変設定する交流電流周波数変更手段14を設けているので、要求される測定深さに応じて、検査対象物40を励磁する交流磁界の周波数を変更することで、測定深さに最適な周波数のバルクハウゼンノイズを効果的に検出することができる。
【0037】
図2は、この発明の他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、図1の実施形態において、励磁コイル2による磁化前の検査対象物40の表面磁束を検出する磁化前検出用磁界センサ3Aを検出ヘッド1に追加すると共に、コントローラ10における出力信号処理部15には、前記磁化前検出用磁界センサ3Aの検出した表面磁束に基づき、バルクハウゼンノイズ検出回路16の抽出するバルクハウゼンノイズを補正する補正手段24を付加している。磁化前検出用磁界センサ3Aは直流磁界を測定可能なセンサであり、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサのいずれかが使用される。磁化前検出用磁界センサ3Aの検出信号は、増幅器などを含むセンサ回路23で処理されてから前記補正手段24に入力される。その他の構成は図1の実施形態の場合と同様である。
【0038】
この実施形態では、励磁コイル2により磁化される前の検査対象物40の表面磁束を磁化前検査用磁界センサ3Aで検出することで、検査対象物40に残留磁気がある場合に、これを検出することができる。ここでは、磁化前検査用磁界センサ3Aとして、直流磁界を測定可能なセンサを用いているので、残留磁気の検出を効果的に行うことができる。
このあと、磁化した検査対象物40から磁界センサ3で検出したバルクハウゼンノイズを、前記磁化前検査用磁界センサ3Aによる検出信号に基づいて補正手段24により補正するため、検査対象物40に残留磁気がある場合にその残留磁気がバルクハウゼンノイズの検出値に影響を及ぼすのを解消することができ、検査対象物40の研削焼け、残留応力の検出精度を高めることができる。
【0039】
図3は、この発明のさらに他の実施形態を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置では、図2の実施形態において、磁化前検出用磁界センサ3Aを省略して、バルクハウゼンノイズ検出用の磁界センサ3を磁化前検出用に共用すると共に、この磁界センサ3の検出信号を、磁化前にはセンサ回路23から補正手段24に入力し、バルクハウゼンノイズ検出時にはバルクハウゼンノイズ検出回路16に切換入力する切換回路25を出力信号処理部15に設けている。その他の構成は図3の実施形態の場合と同様である。
【0040】
このように、この実施形態では、1つの磁界センサ3を、バルクハウゼンノイズ検出用と磁化前検出用に共用しているので、装置をコンパクトに構成することができる。
【0041】
図4および図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。なお、この実施形態において、図1〜図3の実施形態の場合と同一機能を有する構成部分には、図1〜図3の場合と同一符号を付して示している。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、図4に示すように、励磁コイル2、検出コイル6、および磁化前検出用磁界センサ3Aを有する検出ヘッド1と、装置本体9とを備える。検出コイル6は、図1〜図3の実施形態における磁界センサ3に代わって、磁化された検査対象物40が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出センサとなるものである。検出ヘッド1は、図4、図5に示すように、筒状のハウジング7内に励磁コイル2を巻いた鉄心4と、検出コイル6を巻いた鉄心8と、磁化前検出用磁界センサ3Aとを設置して構成される。鉄心4,8は、フェライトなどの磁性酸化物や積層ケイ素鋼板などからなる。励磁コイル2は巻枠29を介して鉄心4に巻かれ、検出コイル6は、巻枠30を介して鉄心8に巻かれる。検出コイル6は、鉄心8を有しない空心コイルであっても良い。励磁コイル2と検出コイル6は、モールド材31,32により前記ハウジング7内で一体化されている。
【0042】
装置本体9は、コントローラ10と表示部33とでなる。コントローラ10には、交流電源12、バルクハウゼンノイズ検出回路16のほかに、同検出回路16で抽出されたバルクハウゼンノイズを信号処理する信号処理回路27を有する。交流電源12は、上記したように励磁コイル2に交流電流を供給するが、その交流電流の振幅、周波数および波形を変化させることができ、この交流電流に直流バイアスを重畳することも可能である。信号処理回路27は、バルクハウゼンノイズ検出回路16で抽出されたバルクハウゼンノイズを信号処理する回路であり、バルクハウゼンノイズ信号の振幅の実効値、最大値や平均値、包絡線の振幅などを測定し、これをバルクハウゼンノイズ値とする。バルクハウゼンノイズ値は、交流磁界の数サイクル分のバルクハウゼンノイズの値を測定し、それらの平均値を求めたものであっても良い。
【0043】
信号処理回路27は、磁化前検出用磁界センサ3Aの検出信号に基づき、バルクハウゼンノイズ検出回路16で抽出されたバルクハウゼンノイズを補正する補正手段24と、求められた前記バルクハウゼンノイズ値から検査対象物40の性状を検出する性状検出手段17とを有する。信号処理回路27では、バルクハウゼンノイズ検出回路16で抽出されたバルクハウゼンノイズの振幅の最大値や、実効値、平均値、包絡線の振幅などから実際に用いるバルクハウゼンノイズ値を算出する。磁化前検出用磁界センサ3Aの検出信号は、増幅器などを有するセンサ回路23で処理されて前記補正手段24に入力される。性状検出手段17は、研削焼けを検出する研削焼け検出手段21と、残留応力を検出する残留応力測定手段22と、欠陥を検出する欠陥検出手段26を有する。これらの研削焼け検出手段21、残留応力測定手段22、欠陥検出手段26は、得られたバルクハウゼンノイズ値があらかじめ定められたしきい値を超えたとき、研削焼けなどの異常があるものと判断する。表示部33は、信号処理回路27で得られたバルクハウゼンノイズ値や、研削焼けなどの異常の有無や残留応力の測定値などを表示する。残留応力測定方法として、あらかじめ応力とバルクハウゼンノイズ値を測定して求めた検量線から、残留応力は求められる。信号処理回路27は、例えば上記検量線が設定されていて、バルクハウゼンノイズ値を検量線に当てはめて残留応力を求める。
【0044】
この実施形態のバルクハウゼンノイズ検査装置を用いたバルクハウゼンノイズ検出は以下の手順で行なわれる。検査対象物40に検出ヘッド1を押し当てると、励磁コイル2の磁心である鉄心4および磁化前検出用磁界センサ3Aが検査対象物40に接触し、鉄心4と検査対象物40とで磁気閉回路が構成される。励磁コイル2は交流電源12から交流電流を供給されて交流磁界を発生させ、これにより検査対象物40が磁化する。励磁コイル2による前記磁化に先立ち、磁化前検出用磁界センサ3Aによって、検査対象物40の表面磁束が検出される。これにより、検査対象物40に残留磁気がある場合に、その残留磁気を検出することができる。このあと、励磁コイル2により、磁化された検査対象物40の表面磁束が検出コイル6で検出される。検出コイル6の検出信号は、図1〜図3の実施形態における磁界センサ3の検出信号の場合と同様に出力信号処理部15のバルクハウゼンノイズ検出回路16に入力され、ここで所定の周波数のバルクハウゼンノイズが抽出されて信号処理回路27に入力される。信号処理回路27では、先ず抽出されたバルクハウゼンノイズ信号から実際に使用するバルクハウゼンノイズ値を算出する。次に、そのバルクハウゼンノイズ値が、前記磁化前検出用磁界センサ3Aの検出信号に基づき補正手段24で補正される。信号処理回路27の性状検出手段17では、前記したように補正されたバルクハウゼンノイズ値に基づいて、研削焼け、残留応力、欠陥が検出される。補正方法として、残留磁気とバルクハウゼンノイズ値の関係を測定して補正テーブルを作成し、その補正テーブルを参照して補正を行う。つまり、残留磁気とバルクハウゼンノイズ値との関係を、例えばオペレータが測定して補正テーブルを作成する。この作成された補正テーブルは、出力信号処理部15に設けられた図示外の記憶手段に記憶される。補正手段24は、前記記憶手段に記憶された補正テーブルを読み出し、バルクハウゼンノイズ値を同補正テーブルに照合することで研削焼け等の検出結果が高精度に補正される。
【0045】
このように、励磁コイル2により磁化される前の検査対象物40の表面磁束を磁化前検査用磁界センサ3Aで検出し、磁化した検査対象物40から検出コイル6で検出したバルクハウゼンノイズを、前記磁化前検査用磁界センサ3Aによる検出信号に基づいて補正手段24により補正することで、検査対象物40の残留磁気がバルクハウゼンノイズの検出値に影響を及ぼすのを解消することができ、検査対象物40の研削焼け、残留応力、欠陥の検出精度を高めることができる。
【0046】
図6は、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を使用して行う被破壊検査の一例を示す。ここでは、軸受の内輪41の転走面41aの研削焼けを検出する。バルクハウゼンノイズ検査装置の検出ヘッド1は、移動可能な支持部材42に支持され軸受内輪41の転走面41aに垂直姿勢で接触させられており、支持部材42の移動により転走面41aの表面を摺動しながら異常箇所を検出する。軸受内輪1は回転軸43の外径面に嵌着されており、回転軸43を回転させることで、軸受内輪41の転走面41aの全周面に前記検出ヘッド1を摺動させて研削焼けを検査することができる。
軸受内輪4の製造ライン上で、このようにバルクハウゼンノイズ検査装置を使用すると、軸受内輪41の転走面41aの研削焼けを正確に全数検査することができ、品質保証能力を高めることができる。
【0047】
図6では、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を軸受内輪41の転走面41aにおける研削焼けの検査に用いた例を示したが、検出する表面情報は残留応力や欠陥であっても良い。また、検査対象物は軸受部品である内輪41に限らず、例えば軸受そのものの表面情報を検出するものとしても良い。また、検査対象物は軸受に限らず他の転動装置や転動装置部品であっても良く、この場合にもその転動装置や転動装置部品の表面情報を高い精度で検出することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…検出ヘッド
2…励磁コイル
3…磁界センサ
3A…磁化前検出用磁界センサ
6…検出コイル
12…交流電源
14…交流電流周波数変更手段
15…出力信号処理部
16…バルクハウゼンノイズ検出回路
17…性状検出手段
19…バンドパスフィルタ
20…カットオフ周波数変更手段
21…研削焼け検出手段
22…残留応力測定手段
24…補正手段
25…切換回路
26…欠陥検出手段
40…検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出センサを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する交流電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、
前記検出センサが、コイル非使用型の磁界センサであって、前記検査対象物の表面磁束を検出するものであることを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記磁界センサは、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサのいずれかであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、バンドパスフィルタを用いて、前記磁界センサの検出信号から特定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出する出力信号処理手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項4】
請求項3において、前記出力信号処理手段は、前記バンドパスフィルタのカットオフ周波数を可変設定するカットオフ周波数変更手段を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記交流電源は、前記励磁コイルに供給する交流電流の周波数を可変設定する交流電流周波数変更手段を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記励磁コイルによる磁化前の前記検査対象物の表面磁束を検出する磁化前検出用磁界センサと、この磁化前検出用磁界センサの検出した表面磁束に基づき、前記検出センサの検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正手段とを設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項7】
請求項6において、前記磁化前検出用磁界センサは直流磁界の検出が可能なものであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、前記磁化前検出用磁界センサは、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサのいずれかであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれか1項において、バルクハウゼンノイズ検出用磁界センサと磁化前検出用磁界センサを1つの磁界センサで共用するとともに、この1つの磁界センサの出力をバルクハウゼンノイズ検出用信号の処理回路と前記補正手段とに切り換えて入力する切換回路を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから金属製品の研削焼けを検出する研削焼け検出手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから転動装置または転動装置部品の残留応力を検出する残留応力測定手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項12】
検査対象物を磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する交流電源とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、
前記励磁コイルによる磁化前の前記検査対象物の表面磁束を検出する磁界センサと、この磁界センサの検出した表面磁束に基づき、前記検出コイルの検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正手段とを設けたことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項13】
請求項12において、前記磁界センサは直流磁界の検出が可能なものであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項14】
請求項12または請求項13において、前記磁界センサは、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサのいずれかであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項15】
請求項12ないし請求項14のいずれか1項において、転動装置または転動装置部品の情報の検出に用いられるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項16】
請求項15において、前記検出ヘッドは、転動装置または転動装置部品の表面に摺接してバルクハウゼンノイズを検出するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項17】
請求項15または請求項16において、前記情報が、転動装置または転動装置部品の表面の研削焼け、残留応力、欠陥のいずれかであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項18】
交流磁界により検査対象物を磁化する磁化過程と、この磁化過程において前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出過程とを備えたバルクハウゼンノイズ検査方法において、
前記磁化過程に先立ち、検査対象物の表面磁束を検出する磁化前検出過程と、この磁化前検出過程で検出した表面磁束に基づき、前記検出過程で検出したバルクハウゼンノイズを補正する補正過程とを含むことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−230485(P2010−230485A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78315(P2009−78315)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】