説明

バルクハウゼンノイズ検査装置

【課題】 検査対象物の表面に検出ヘッドを摺動させても検査対象物の表面を傷付けることのないバルクハウゼンノイズ検査装置を提供する。
【解決手段】 バルクハウゼンノイズ検査装置の検出ヘッド1は、検査対象物20を磁化する励磁コイル2と、磁化された検査対象物20が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイル3とを有する。励磁コイル2および検出コイル3の磁心4,5における少なくとも検査対象物20に接する部分にコーティング6,7を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行うバルクハウゼンノイズ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研削焼け、残留応力、硬度、荷重などの非破壊検査を行う検査装置として、バルクハウゼンノイズを利用した種々のバルクハウゼンノイズ検査装置が提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開平02−262958号公報
【特許文献2】特開2001−133441号公報
【特許文献3】特開2006−266686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらのバルクハウゼンノイズ検査装置では、バルクハウゼンノイズを感度よく検出するために、検出ヘッドを検査対象物に押し当てて使用する。検出ヘッドには、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルが含まれ、これらのコイルのヨークはフェライトや鋼材などの強磁性体で製作されている。
【0004】
このようなバルクハウゼンノイズ検査装置を用いて軸受などの鋼材部品の全周面を非破壊検査する場合、検出ヘッドを鋼材部品の周面で摺動させる必要がある。しかし、検出ヘッドを検査対象物である鋼材部品の周面に押し当てると、励磁コイルや検出コイルのヨークが鋼材部品に押し当てられるので、検出ヘッドの摺動により鋼材部品の周面に傷ができる可能性がある。
【0005】
この発明の目的は、検査対象物の表面に検出ヘッドを摺動させても検査対象物の表面を傷付けることのないバルクハウゼンノイズ検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルとを有する検出ヘッドを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記励磁コイルおよび検出コイルの磁心における少なくとも前記検査対象物に接する部分にコーティングを施したことを特徴とする。
この構成によると、励磁コイルおよび検出コイルの磁心における少なくとも検査対象物に接する部分にコーティングを施しているので、検査対象物の表面に検出ヘッドを摺動させても検査対象物の表面に傷が付くのを防止できる。
【0007】
この発明において、前記コーティングの材料は、例えばエポキシ系樹脂であっても良いし、シリコン系弾性材料であっても良い。この構成の場合、コーティングの材料が柔らかいので、検査対象物の表面に傷が付くのをより効果的に防止できる。
【0008】
この発明において、前記コーティングの材料は磁性を有するものとしても良い。
励磁コイルの磁心に施したコーティングの材料が磁性を有するものであると、検査対象物と励磁コイル磁心の間の磁気抵抗が小さくなるため、検査対象物の磁化に必要な電流が小さくなる。また、検出コイルの磁心に施したコーティングの場合も、その材料が磁性を有するものであると、検査対象物と検出コイル磁心の間の磁気抵抗が小さくなるため、バルクハウゼンノイズの検出感度が高くなる。
この場合に、前記コーティングの材料は、非磁性の基材に磁性粉を混入したものとしても良い。これにより、傷付き防止効果と磁気抵抗低減効果を両立させることができる。
【0009】
この発明において、バルクハウゼンノイズ検査装置は、転動装置の表面または転動装置部品の表面の情報の検出に用いるものとしても良い。転動装置は、転がり軸受、ボールねじ、等速ジョイント等の転動体を有する装置を言い、転動装置部品はその転動装置の部品である、軸受軌道輪等の転動面等を有する部品を言う。
この場合に、前記転動装置の表面または転動装置部品の表面に前記検出ヘッドを摺接させることで、表面情報を検出するものとしても良い。また、検出する前記表面情報は、例えば表面の研削焼け、または残留応力、または欠陥であっても良い。
【発明の効果】
【0010】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルとを有する検出ヘッドを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、前記励磁コイルおよび検出コイルの磁心における少なくとも前記検査対象物に接する部分にコーティングを施したため、検査対象物の表面に検出ヘッドを摺動させても検査対象物の表面に傷ができるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の一実施形態を図1ないし図5と共に説明する。図1は、この実施形態のバルクハウゼンノイズ検査装置の概略図を示す。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、励磁コイル2と検出コイル3を含む検出ヘッド1と、検出したバルクハウゼンノイズを信号処理して検査対象物20の表面情報を得る信号処理部14とを備える。検査時には、前記検出ヘッド1が検査対象物20の表面に押し当てられる。
【0012】
検出ヘッド1における励磁コイル2は、検査対象物20を磁化するためのコイルであって、磁心となるヨーク4に巻かれている。また、検出ヘッド1における検出コイル2は、磁化された前記検査対象物20が発するバルクハウゼンノイズを検出するためのコイルであって、磁心となるヨーク5に巻かれている。励磁コイル2のヨーク4は、コ字形に形成されて、その先端面を検査対象物20に対向させるものであり、検出コイル2のヨーク5は励磁コイル2の両側の脚片の中央に直接状に設けられている。前記各ヨーク4,5は、フェライトなどの磁性酸化物や積層ケイ素鋼板などからなる。検出ヘッド1を検査対象物20の表面に押し当てた状態で、前記各ヨーク4,5が検査対象物20の表面に押し当てられる。
【0013】
前記励磁コイル2には、磁化のための交流磁界を発生させる交流電流が信号処理部14の電源15から供給される。前記検出コイル3は信号処理部14のバルクハウゼンノイズ検出回路16に接続されている。バルクハウゼンノイズ検出回路16は、検出コイル3の検出信号からバルクハウゼンノイズを抽出する回路であり、検出信号を増幅する増幅回路や、その増幅された検出信号からバルクハウゼンノイズを抽出するフィルタ回路などからなる。
【0014】
図2(A),(B)に正面断面図および側面断面図で示すように、励磁コイル2の巻かれたヨーク4における前記検査対象物20に接する部分にはコーティング6が施されている。この場合、コーティング6はヨーク4の全面に施しても良い。また、図3(A),(B)に正面断面図および側面図で示すように、検出コイル3の巻かれたヨーク5における前記検査対象物20に接する部分にもコーティング7が施されている。この場合も、コーティング7をヨーク5の全面に施しても良い。前記各ヨーク4,5が鋼材などからなる場合、前記各コーティング6,7は防錆コーティングの役割も果たす。
【0015】
前記各コーティング6,7の材料として、例えばエポキシ系樹脂やシリコン系弾性材料(フッ素系ゴム材料など)など、検査対象物20の材料とされる金属材料よりも柔らかく、金属材料に傷を付けることのないものが用いられる。
【0016】
また、各コーティング6,7の材料は磁性を有することが望ましい。コーティング6の材料が磁性を有するものであると、検査対象物20とヨーク4の間の磁気抵抗が小さくなるため、検査対象物20の磁化に必要な電流が小さくなる。また、コーティング7の場合も、その材料が磁性を有するものであると、検査対象物20とヨーク5の間の磁気抵抗が小さくなるため、バルクハウゼンノイズの検出感度が高くなる。各コーティング6,7に磁性を持たせるために、前記したエポキシ系樹脂やシリコン系弾性材料などの非磁性の基材に磁性粉を混入したものを材料として使用しても良い。
【0017】
図4は、前記バルクハウゼンノイズ検査装置のより具体的な構成例を示す。検出ヘッド1は、筒状のハウジング8内に、励磁コイル2を巻いたヨーク4と、検出コイル3を巻いたヨーク5を設置して構成される。励磁コイル2は巻枠9を介してヨーク4に巻かれ、検出コイル3は巻枠10を介してヨーク5に巻かれる。励磁コイル2と検出コイル3は、モールド材11,12により前記ハウジング8内で一体化されている。
【0018】
バルクハウゼンノイズ検査装置は、前記検出ヘッド1と装置本体13とでなる。装置本体13は、前記信号処理部14と表示部18とでなる。信号処理部14には、前記電源15、バルクハウゼンノイズ検出回路16のほかに、同検出回路16で抽出されたバルクハウゼンノイズを信号処理する信号処理回路17を有する。電源15は、上記したように励磁コイル2に交流電流を供給するが、その交流電流の振幅、周波数および波形を変化させることができ、この交流電流に直流バイアス電流を重畳することも可能である。信号処理回路17は、前段のバルクハウゼンノイズ検出回路16で抽出されたバルクハウゼンノイズを信号処理する回路であり、バルクハウゼンノイズ信号の実効値、振幅の最大値や平均値、包絡線の振幅などを測定し、これをバルクハウゼンノイズ値とする。バルクハウゼンノイズ値は、交流磁界の数サイクル分のバルクハウゼンノイズの値を測定し、それらの平均値を求めたものであっても良い。この信号処理回路17では、測定したバルクハウゼンノイズ値が、予め定められたしきい値を超えたときに、検査対象物20の表面に異常(研削焼けなど)があると判断する。表示部18は、信号処理部14で測定したバルクハウゼンノイズ値や、異常の有無などを表示する。
【0019】
このバルクハウゼンノイズ検査装置によると、励磁コイル2および検出コイル3の磁心であるヨーク4,5の少なくとも検査対象物20に接する部分にコーティング7,8を施しているので、検査対象物20の表面に検出ヘッド1を摺動させても検査対象物20の表面を傷付けることがない。
【0020】
実施形態のように、前記コーティング7,8の材料として、検査対象物20の材料とされる金属材料よりも柔らかいエポキシ系樹脂やシリコン系弾性材料を用いると、検出ヘッド1の摺動による検査対象物20の表面での傷をより確実に防止できる。
また、前記コーティング7,8の材料を、エポキシ系樹脂やシリコン系弾性材料などの非磁性の基材に磁性粉を混入したものとした場合には、傷付き防止効果と磁気抵抗低減効果を両立させることができる。
【0021】
図5は、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を使用して行う非破壊検査の一例を示す。ここでは、転動装置の一種である軸受の品質を検出する装置として使用しており、具体的には軸受の内輪21の転走面21aの研削焼けを検出する。バルクハウゼンノイズ検査装置の検出ヘッド1は、移動可能な支持部材22に支持され、支持部材22の移動により軸受内輪21の転走面21aの表面を摺動しながら異常箇所を検出する。軸受内輪21は回転軸23の外径面に嵌着されており、回転軸23を回転させることで、軸受内輪21の転走面21aの全周面に前記検出ヘッド1を摺動させて研削焼けを検査することができる。
オンライン上で、このようにバルクハウゼンノイズ検査装置を使用すると、軸受内輪21の転走面21aの研削焼けなどの異常を全数検査することができ、品質保証能力を高めることができる。
【0022】
図5では、前記バルクハウゼンノイズ検査装置を軸受内輪21の転走面21aにおける研削焼けの検査に用いた例を示したが、検出する表面情報は残留応力や欠陥であっても良い。また、検査対象物は軸受部品である内輪21に限らず、例えば軸受そのものの表面情報を検出するものとしても良い。また、検査対象物は軸受に限らず他の転動装置や転動装置部品であっても良く、この場合にもその転動装置や転動装置部品の表面情報を表面に傷を付けることなく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図2】(A)は同バルクハウゼンノイズ検査装置における励磁部の正面断面図、(B)は同側面断面図である。
【図3】(A)は同バルクハウゼンノイズ検査装置における検出部の正面断面図、(B)は同側面図である。
【図4】同バルクハウゼンノイズ検査装置の具体的な構成図である。
【図5】同バルクハウゼンノイズ検査装置の一使用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1…検出ヘッド
2…励磁コイル
3…検出コイル
4…ヨーク(励磁コイルの磁心)
5…ヨーク(検出コイルの磁心)
6,7…コーティング
20…検査対象物
21…軸受内輪(転動装置部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を磁化する励磁コイルと、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルとを有する検出ヘッドを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置において、
前記励磁コイルおよび検出コイルの磁心における少なくとも前記検査対象物に接する部分にコーティングを施したことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記コーティングの材料がエポキシ系樹脂であるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項3】
請求項1において、前記コーティングの材料がシリコン系弾性材料であるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記コーティングの材料が磁性を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項5】
請求項4において、前記コーティングの材料は、非磁性の基材に磁性粉を混入したものであるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、転動装置の表面または転動装置部品の表面の情報の検出に用いられるバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項7】
請求項6において、前記転動装置の表面または転動装置部品の表面に前記検出ヘッドを摺接させることで、表面情報を検出するものとしたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、検出する前記表面情報が、表面の研削焼け、または残留応力、または欠陥であるバルクハウゼンノイズ検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−91493(P2010−91493A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263467(P2008−263467)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】