バルブに直角プリズムを備えたランプおよびそのランプを用いた照明装置
【課題】本発明は車両用前照灯などの反射膜または遮光膜を備えたランプの反射効率を高め、配光特性を改善し、製造コストを低減することを目的とする。
【解決手段】車両用前照灯のすれ違いビームフィラメント5の下部側を概略球面に形成して、外側面に稜角直角プリズム2を半環状に形成し、その中心にすれ違いビームフィラメントの軸方向をランプ軸に直交させて水平配置し、走行ビームフィラメント4をバルブの中心より後方に配置する。バルブ先端部3にコーナーキューブプリズム12を概略半球状に形成する。すれ違いビームを稜角直角プリズム2とバルブ先端部コーナーキューブプリズムで全反射してフィラメントの再加熱に利用して効率を改善し、走行ビームは稜角直角プリズム2に臨界角以内で入射するのでバルブ外部に透過する。バルブ成型時にプリズムを同時成型して工程を簡略化し、製造コストを低減する。
【解決手段】車両用前照灯のすれ違いビームフィラメント5の下部側を概略球面に形成して、外側面に稜角直角プリズム2を半環状に形成し、その中心にすれ違いビームフィラメントの軸方向をランプ軸に直交させて水平配置し、走行ビームフィラメント4をバルブの中心より後方に配置する。バルブ先端部3にコーナーキューブプリズム12を概略半球状に形成する。すれ違いビームを稜角直角プリズム2とバルブ先端部コーナーキューブプリズムで全反射してフィラメントの再加熱に利用して効率を改善し、走行ビームは稜角直角プリズム2に臨界角以内で入射するのでバルブ外部に透過する。バルブ成型時にプリズムを同時成型して工程を簡略化し、製造コストを低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用前照灯、間接照明ランプ、反射型電球などの遮光素子または反射素子を備えたランプに関し、これらを全反射素子にすることによって反射効率を高め、製造コストを低減することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
照明器具は反射板などで指向性を狭めて目的の配光特性を得ているが、ランプ自体に遮光素子あるいは反射素子を設けて配光特性の改善、効率の改善、取り扱いの簡便化なども行なわれている。反射形電球は最大径部より口金側にかけてバルブ表面にアルミニウムなどの蒸着膜、無電解メッキなどによる金属膜を設けて電球自体に指向性を持たせた電球である。反射膜の構成と、その製造方法は以下のようなものがある。
蒸着による製法はバルブ成型後にマスキング工程を経て蒸着を行なうか、内面全体に蒸着後、蒸着金属を溶解する方法などが採られているが、工程が長くなる。無電解メッキは液面までメッキされるのでマスキングは不要だが、注入、還元反応、析出、排出、乾燥など工程が多く、銀などの材料費はアルミ蒸着材より高価である。バルブ外面に蒸着を行なう方法は金属の溶解が不要で、マスキングが容易になる反面、膜厚を厚くするか、蒸着膜の保護層が必要になる(特許文献1)。
【0003】
反射鏡の焦点に光源を設けると反射鏡の指向性の他に光源からの拡散光を含んでいる。ランプバルブ先端に反射鏡あるいは遮光体を備えた照明装置はバルブ先端部反射鏡あるいは遮光体によって、直接光による拡散光を含まない配光特性である。ランプ前方に反射鏡フードあるいは遮光フードを用いることでも直接光を避けることが出来るが、ランプ先端側のバルブに反射膜あるいは遮光膜を設けた間接照明ランプはフードを設ける工数と費用の削減だけでなく、フードが反射鏡からの光を遮るのを減らす利点がある。このため、光源からの直接光を避ける必要のある拡散角の狭い店舗、舞台、スタジオなどのスポット照明の他、車両用ヘッドランプなどに広く利用されている。効率、分光特性、寿命特性などからハロゲンランプが多く使用され、反射被膜は銀、アルミニウムなどの提案があるが(特許文献2、特許文献3)、ハロゲンサイクルを達成するのは250℃以上であり、バルブ壁面温度が高い店舗照明用のハロゲンランプではバルブ内温度が約500℃のためNiCrを無電解メッキにより形成されている(特許文献4、図16)。球形バルブの中心にフィラメントが配置されているために電球内の反射鏡で反射した光線はフィラメント方向に戻り、フィラメント表面で反射してランプハウス反射鏡に照射されるか、フィラメントの隙間を通過した光線はランプハウス反射鏡に照射されてフィラメントから発光された光跡と同等の配光特性になる。
特許文献3では金属被膜による反射を全反射と記しているが、界面の臨界角に基づく全反射ではないので銀鏡面でも反射率は93%程度である。特許文献4は図3において全体の反射率の記載になっているが、NiCrの反射率は短波長ほど低く、70%以下である。
【0004】
車両用前照灯はランプ先端部遮光体によって直接光を遮光して反射鏡によって間接照明し、目的の配光特性を得るものが主流である。他に、楕円体反射鏡の焦点が共通なレンズを用いた投射型もあるが、4灯式にするなどランプ先端部遮光体を用いないので省略する。光源からの直接光は拡散性のため対向車のドライバーを照射して幻惑光になるので、この直接光を制限するためにランプの先端部に遮光膜が設けられている。先端部の遮光体は前記間接照明ランプのバルブ内面の反射鏡と異なり、H4型ランプではバルブ内温度は約800℃になるために、耐熱性の高い遮光膜が必要になるなどの理由から、黒色塗料、シリカ、アルミナなどの焼成物が用いられている(特許文献5、特許文献6)。先端部遮光体は黒色塗料が多く用いられ、ブラックトップと呼ばれている。黒色塗料は赤外線を吸収して温度上昇が大きくなるため耐熱性が高く、ガラスとの熱膨張率差が小さい必要がある。黒色塗料による先端部はヘッドライトの鏡面の中に黒く目立つのを防止する目的でランプの外側に金属製遮光体を用いると支持機構が必要になるために、黒色塗料の外側に白色系塗装を行なって黒色遮光体を目立たなくする方法の他、黒色塗料に炭化珪素を混合して灰色にすることでランプハウス反射鏡と同系色にした提案もある(特許文献7)。
【0005】
車両用前照灯のH4型ランプは先端部の遮光体の他に、すれ違いビームフィラメントの下部に遮光体を持つ構造になっている。遮光体はランプハウスの下側反射鏡に向かうすれ違いビームフィラメント光を遮光して上側反射鏡に反射するためにある。すれ違いビームのときはランプハウス反射鏡の下側面を利用せずに上側反射鏡だけで反射され、その反射光が対向車ドライバーの目に入らない配光特性になっている。走行ビームのときは下部の遮光体がないのでランプハウス反射鏡の上下面全てを利用している。
すれ違いビーム遮光体は耐熱性が高く、ハロゲンと反応してもハロゲンサイクルでフィラメントに影響を与えないタングステンまたはタングステン合金などが使用されている。タングステンは反射率が50〜60%と低く、すれ違いビームフィラメントから放射される光の半分は遮光体に当たり、下部に向かった光の40〜50%は吸収されて損失になる。損失を低減するために遮光体のフィラメント側に反射率が80%以上の酸化アルミニウムなどの反射被膜を形成した提案がある(特許文献8、図17)。
【0006】
白熱電球は色温度に基づく分光特性で放射され、赤外光の方が遥かに多くなっている。可視光の比率を高くするために色温度を高くするのはアレニウス則により寿命が非常に短くなるため、干渉多層膜によって赤外光をフィラメントに反射して再加熱に利用し、可視光の比率を高める方法がハロゲンランプに多く採用されている。バルブの形状によっては赤外反射膜による反射光が集中して楕円体バルブなどの焦点にあるフィラメントにホットスポットが発生し、短寿命になる場合があるので楕円体の曲線を円筒に近づけた形状の提案もある(特許文献9)。
【0007】
【特許文献1】特開平10−241640号公報
【特許文献2】特開平11−31482号公報
【特許文献3】特開2002−63871号公報
【特許文献4】特開平5−82107号公報
【特許文献5】特開平7−220694号公報
【特許文献6】特開2001−6626号公報
【特許文献7】特許3998050
【特許文献8】特開平9−45294号公報
【特許文献9】特許3674712
【特許文献10】特許3783445
【特許文献11】特許3882504
【特許文献12】特許4114173
【非特許文献1】JIS C 7506−1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バルブ内温度が高い間接照明用ハロゲンランプは反射率の高い銀、アルミニウムを使用できず、NiCr被膜などが採用されているが、NiCrは反射率が60〜70%程度と低く、30〜40%が吸収されている。低反射率に基づく吸収によっても被膜の温度上昇が増大している。
車両用前照灯のH4型ランプ先端部はクロム、銅、鉄、マンガンなどの黒色焼成物が多く使用され、黒色塗料は直接光を吸収するのでランプ先端部遮光体への放射比率が光量損失になる。吸収による温度上昇が大きいので耐熱塗料が要求され高価格である。
黒色塗料による吸熱を避けるためにシリカ、アルミナなどの白色塗料の提案があり、黒色塗料と炭化珪素を混合して灰色塗料の提案もある。しかし、図18のように、すれ違いビームフィラメントからの光はヘッドランプ先端に設けられている白色塗料または灰色塗料で乱反射されてランプハウス反射鏡の広範囲に反射され、フィラメントから発せられた光線と異なるので幻惑光を含むなどすれ違いビームのシャープな遮断特性を達成できない。このように先端部遮光体は黒色にすると吸熱が増え、反射率を高くするとシャープな遮断特性を達成出来ない問題がある。
【0009】
全放射光量に対するランプ先端部への放射比率は、フィラメント・遮光体境界を結ぶ線が光軸となす角度αとし、フィラメントからバルブ境界までの半径rであるとき、数1のように球全体の表面積に対する先端部の表面積との比で表すことが出来る。
【数1】
H4型車両用前照灯ではJISによるαが40°では黒色塗料遮光体による損失は11.7%である。
ランプの口金方向に放射された光はバルブ封着部などで不定方向に反射されるか、多重反射により吸収されて熱になる。狭い指向性が要求される照明では熱損失になる以上に不定方向に反射される弊害が大きい。
全放射光量に対する口金方向の放射角比率は、口金最大径を結ぶ線が光軸となす角度β、フィラメントからバルブ境界までの半径rとして、β=30°とすると口金方向に放射される光量比率は6.7%である。
【0010】
H4型ランプはすれ違いビームのときはランプハウス反射鏡の下側を利用せずに上側反射鏡だけで反射するために、すれ違いビームフィラメントの下部に遮光体を持つ構造になっている。遮光体は耐熱性が高く、ハロゲンと反応してもハロゲンサイクルでフィラメントに影響を与えないタングステンまたはタングステン合金などが使用されている。タングステンは反射率が50〜60%と低く、下部に向かった光の40〜50%は吸収されて損失になるので、すれ違いビームにおける上部・下部全体として見ると20〜25%が損失になる。遮光体のフィラメント側に酸化アルミニウムなどの反射被膜を形成した提案では反射率が80%以上に改善されるが、すれ違いビームにおける上部・下部全体として見ると10%の損失がある。
【0011】
反射形電球は最大径部より口金側にかけてバルブ表面にアルミニウムなどの金属膜を形成したものである。蒸着膜をバルブ成型後にマスキング工程を経て蒸着を行なう方法、内面全体に蒸着して不要部の蒸着金属を溶解する方法、マスキングが容易なバルブ外面に厚く蒸着を行ない蒸着膜を保護する方法などがあるが、必要な部分のみに蒸着を行なう蒸着工程が必要である。
無電解メッキは液面までメッキされるのでマスキングは不要だが、注入、還元反応、析出、排出、乾燥など工程が多く、銀などの材料費はアルミ蒸着材より高価である。
車両用前照灯の先端部遮光体は約800℃の耐熱性が高い遮光膜が必要になり、黒色塗料などをランプ先端部に焼成する工程が必要である。吸収による温度上昇も加わり耐熱塗料が必要になり高価格である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
2つの平面を直交する側面視直角三角形の直角プリズムは入出射面に入射した光線を2つの平面で全反射条件を満足すれば、図1のように光路差を持って逆進行方向に戻る。光路差は最大でプリズム入出射面の幅になる。
第1の平面への入射角θ1、第2の平面への入射角θ2、プリズムの頂角θ3とすると、反射方向θrは数2のように頂角だけで決定される。
【数2】
θ3=90°の直角プリズムでは180°となって、臨界角θc以上であれば入射角θ1によらず逆進行方向に戻る。直角プリズムは正確な90°とは限らず、公差を持っているが、反射方向は数2のように公差の2倍ずれることになる。
直角プリズム媒体の屈折率をn1、周囲媒体の屈折率をn2とすると、
【数3】
のときのθ1を臨界角θcは、
【数4】
石英ガラスの屈折率n2を1.46、周囲媒体の屈折率n1が1のとき臨界角θc=43.2°となる。第1、第2の平面とも全反射条件を満たさなければ透過するので、全反射するための入射角範囲は45±1.8°になる。直角プリズムは入出射面に垂直に入射する平行光の反射によく利用されているが、光源などの拡散光で使用するには臨界角までの範囲が狭く、臨界角を超えると全反射出来ない。このため、バルブ寸法に比べてフィラメントなどの発光部寸法が小さい場合、あるいは高屈折率材料で臨界角までの余裕が大きい場合に全反射可能である。
光源には寸法があるので、入出射面から光源までの距離Lと光源直径Dと臨界角余裕θcmの関係は、
【数5】
でなければ直交するプリズム面のいずれかで臨界角以内になって透過する。稜線に平行な成分を持つ光が直角プリズムに斜めに入射したときは2つの平面で折り返さないため、元の方向に再帰反射せずに2つの平面に対する入射角と等しい反射角で反射する。
【0013】
2つの平面が1本の直線の稜線で直行する直角プリズムは点光源からの拡散光は直線的稜線に平行な成分は再帰反射しないが、直交する平面を4面、6面などの偶数面にすると対向する面同士は直角プリズムでありながら稜線に平行な入射光に交差する稜線があるため臨界角条件が合致すれば再帰反射が可能である。直交する平面の偶数値を無限大にすると頂角が直角の円錐になる。頂角が直角の円錐は4面、6面などの偶数面よりも金型製作が容易である。
点光源の円周方向に環状の稜線を持つ稜角直角プリズムの場合は放射方向が稜線に垂直なので再帰反射可能である。環状の稜角直角プリズムは1周する円環状とは限らず、円環あるいは楕円環の一部を使用した稜角直角プリズムも環状の稜角直角プリズムとして説明する。実際は点光源ではなく、フィラメントは概略円筒状のため、数5の臨界角による光源の寸法の制限がある。環状の稜角直角プリズムをランプ軸に沿って並べ、その中心にフィラメントのような線光源がある場合は、同軸に配置するよりもランプ軸に対して垂直方向にフィラメント軸を配置した方が数5を満足しやすくなる。環状の稜角直角プリズムをランプ軸の周に沿って並べ、フィラメントをランプ軸に直交して水平配置にしたのが図2である。稜角直角プリズム方向でランプ軸方向成分のみの光線は直角プリズムで反射してフィラメント方向に戻るが、線光源の両端から発せられた稜線に平行成分を持つ斜めの光は、2つの平面で折り返さないため、元の方向に再帰反射せずに平面への入射角と等しい反射角で反射する。図2のようにフィラメントの一方の端部から発せられた稜線に平行成分はフィラメントの他方の端部方向に反射するので、ランプ軸放射方向の光はフィラメントから発せられた光線として扱うことが出来る。
【0014】
3つの平面が直交座標系で交差する三角錐形のコーナーキューブプリズムは図3のように3つの直交座標平面で全反射して光路差をもって逆進行方向に戻る。3つの平面に交差する入出射面に対して垂直に入射する光線が3つの直交座標平面に入射する角度は数6のように、直角プリズムの入射角45°より9.7°臨界角までの余裕が広い特徴がある。
【数6】
低屈折率な石英ガラスは直角プリズムの臨界角までの余裕が1.8°と小さいが、コーナーキューブでは反射面から11.5°傾いた入射光でも全反射することが出来る。
コーナーキューブプリズムは入出射面が空気、不活性ガスなど周囲媒体との界面で屈折を起こすので、周囲媒体からプリズム材に入射する角度では、コーナーキューブの入出射面は点光源に対して石英ガラスでは16.9°傾いていても点光源側に光路差をもって逆進行方向に戻る。
【数7】
点光源が入出射面に近い場合、数5の入射角範囲により周辺側で臨界角条件を満足し得ない境界がある。図4のように発光部からの光を再帰反射するためのコーナーキューブの入出射面から発光部までの距離Lと発光部寸法Dの関係は数5を満足する寸法でなければ直交するプリズム面のいずれかで臨界角以内になって透過してしまう。
【0015】
間接照明電球、反射形電球などに使用されている金属反射膜は最も反射率の高い銀で反射率90〜95%、アルミニウムは85%である。アルミニウムの融点は660℃、銀の融点は961℃のためバルブ内温度の高いハロゲンランプには使用出来ない。これに対し、フィラメント周囲のバルブなどの一部に複数のコーナーキューブまたは直角プリズムなどの再帰反射素子を密接して設けることにより、遮光しつつフィラメントからの光を前述の再帰反射素子で全反射してフィラメントに戻すことが出来る。コーナーキューブまたは直角プリズムのような直角の頂角を有するプリズムを密接して設けた素子を再帰反射素子と呼ぶことにする。バルブの一部に設ける位置によって間接照明電球、反射形電球などとして利用することが出来、バルブ成型と同時に再帰反射素子を成型するので工程を増加せずに実現出来、金属膜、黒色塗装などより安価に製造出来る。再帰反射素子を密接して設けた例として車両用前照灯のH4型ランプを図5、図6に示す。
再帰反射素子を構成する直角プリズムを密接して配置しても、直交する面はガラス成型に際して丸みを帯びて臨界角以内になり透過する成分がある。直交する稜線の丸みによる透過率を小さくするには再帰反射素子を構成する単位の寸法が大きいほど有利になる。その反面、ガラスバルブからの突き出し量が厚くなる。このため、ガラスバルブの外面に再帰反射素子の突き出し量を小さくして臨界角以内になり透過する成分を抑えるには成型精度を高める必要がある。
【0016】
再帰反射素子による全反射を利用することにより金属膜の反射率よりも反射率を向上することが出来る上に、フィラメント方向に戻るのでバルブ形状がフィラメントを焦点とする球形である必要はない。微小な再帰反射プリズムをバルブ先端部など特定部分に隙間なく配置するとフィラメントからの可視光だけでなく赤外光も逆進行方向に光路差の範囲をもってフィラメント方向に戻るので再帰反射素子の部分には赤外反射膜を形成する必要はない。勿論、透過部のバルブ外面に赤外反射膜を設ければ効率を改善することが出来る。
再帰反射素子によりフィラメントに戻った赤外線はフィラメントを再加熱するためその分だけ投入電力を低減することが出来る。フィラメントに戻った可視光の内、フィラメント表面で反射された成分はランプハウス反射鏡に照射されれば目的範囲の照射に活用できる。フィラメントは螺旋などの間隙を有するのでフィラメント近傍を通過する光線もあり、フィラメントから発光された光線と僅かの差しかないので再帰反射光とフィラメントから発光した光線は同一の配光特性で出射することが出来る。赤外反射膜では楕円体や球形バルブの焦点に赤外反射光が集中してホットスポットによる短寿命になる場合があるが、再帰反射ではフィラメントの出射部位近傍に戻るので1ヶ所に集中するということはない。
【0017】
H4型ランプのすれ違いビームフィラメントの下部に設けられている遮光体はタングステンの反射率が50〜60%であり、下側に放射された光の40〜50%は損失になっている。これを再帰反射素子にするとすれ違いビームフィラメントの下部遮光体における損失を低減することが出来る。ランプの軸方向のフィラメント寸法とフィラメント・再帰反射素子間距離Lが数5を満足し、走行ビームを殆ど遮らないようにするには再帰反射素子をすれ違いビームフィラメントに約4mm以下に接近する必要がある。石英ガラスは屈折率が1.46と小さいので数5を満足して構成するのは困難である。アルカリ金属酸化物を含むガラスはハロゲンと反応し、これによってハロゲン化タングステンのタングステンが析出するため無アルカリガラスが必要だが、高屈折率と高耐熱性の両立が難しい。
このため、再帰反射素子を透光セラミックで構成し、フィラメントのコイル径を2.5mmと太くしてフィラメント長を3.0mm以下にしたとき、屈折率1.8ではフィラメントと再帰反射素子の距離Lは3.9mmである。アルミナ系透光セラミックは微粒子アルミナなどをホットプレス法などにより製造されており、ナトリウムランプ、メタルハライドランプでは石英ガラスの代わりに発光管として使用されている(特許文献10)。屈折率1.8のアルミナ系透光セラミックよりも高屈折率のBa(Mg,Ta)O3複合ペロブスカイト構造の透光セラミックは屈折率が1.9以上を実現され(特許文献11)、屈折率2.1のものがレンズなどに使用されている。屈折率2.1ではフィラメントと再帰反射素子の距離Lは3.0mmを実現出来る。H4型ランプのすれ違いビーム遮光体、バルブ先端部遮光体と導入線部に再帰反射素子を設けた例を図7、図8に示す。
【0018】
H4型ランプにおけるすれ違いビームフィラメントの下部側のバルブ下半分に再帰反射素子を設けると、バルブ内部に設けていたすれ違いビーム遮光体を削除することが出来、材料費の削減と製造工程を短縮することが出来る。半球状のバルブには、周方向に環状の稜線を持つ直角プリズムを多数並べている。図9、図10、図11に示すようにすれ違いビームフィラメントの下部は概略半球状を成してすれ違いビームフィラメントに再帰反射している。すれ違いビームフィラメントは図2と同様にランプ軸に直交する水平方向に配置している。これは図2のようにフィラメント端部から発せられた光を他方の端部に反射するため、再帰反射と同様の配光特性とフィラメント再加熱を実現出来るためである。フィラメントを水平に配置すると車両前進方向の指向性を高精度に制御出来、水平方向に指向性の広がった配光特性になるので前照灯に相応しい配光特性である。走行ビームフィラメントからの光は図12のように環状の稜角直角プリズムの臨界角以内になって透過させることが出来る。環状の稜角直角プリズムで屈折するので発光位置が前方にシフトするが、図12のように透過光が通常の走行ビームフィラメントの最前部付近から発せられた特性である。尚、環状の稜角直角プリズムの稜線方向をランプの軸方向にすると、前述の稜線に平行な成分に相当して反射するので走行ビームを透過出来ない。
【0019】
ランプの口金側はバルブ封止部になっており、導入線を固定するガラスロッドなど複雑な形状で成り立っている。このためフィラメントから口金側に放射された光線は不定方向に反射され、吸収された光は熱損失になる。
車両用前照灯のように指向性を制限されている用途ではこの不定方向反射も幻惑光の要因になる。再帰反射素子によってフィラメントに可視光、赤外光を戻す手法は口金側にも応用することが出来る。図5〜図10は導入線を固定するガラスロッドの代わりに半割された再帰反射素子で導入線を挟み込んで融着したものである。従来例における口金方向に吸収されて熱損失となることと不定方向に乱反射を防止し、フィラメント方向に再帰反射することが出来る。
先端部に対向して導入線固定用再帰反射素子が設けられると、フィラメント間隙を通過して先端部の再帰反射素子に反射し、更にステムなど後方側の再帰反射素子を往復する間にフィラメントに当たって、反射率に応じて反射されて照明に利用、あるいは吸収されて加熱に利用される。
【0020】
再帰反射素子を車両用前照灯先端部に設けた構造はスポットライトなどの間接照明電球、店舗照明ハロゲン電球にも応用出来る。間接照明電球は球面の先端部に反射膜が用いられているが、先端部の再帰反射素子によりフィラメント方向に戻るので臨界角範囲内であれば球面に形成する必要は無い。
最大径部から口金側にかけて再帰反射素子を設けると図13のように反射形電球として利用出来る。ソーダ石灰ガラスの屈折率約1.53のとき、コーナーキューブ基準面の入射角は21.3°であり、電球直径φ72mmのときフィラメント最大寸法は17.8mm迄許容できる。
一般的なPS形電球のステムに再帰反射素子を図14のように設けると口金方向の光を有効活用出来、ステムの再帰反射素子への放射角30°で光量比率は6.7%である。更に、バルブ表面に再帰反射素子を設け、放射角55°では光量比率は21.3%あり、この量を効率改善、配光特性改善することが出来る。
【0021】
間接照明電球、店舗照明ハロゲン電球のように先端側の反射鏡による反射光をランプハウス反射鏡により平行光あるいは指向性の狭い拡散光として出射すると、先端側反射鏡に遮られて中央が暗い照明になる。この問題点を解決するには、図15のように先端側再帰反射面の一部に反射面を欠いた開口部を設けて透過させ、透過光をランプ前方に設けたレンズによって平行光に戻し、先端部の反射素子で遮光された部分を補うことにより光軸付近も照明することが出来る。透過光の光学系をランプハウス反射鏡の光束密度と整合を取ることによりむらのない照明が出来る。放物面鏡は光軸側ほど光束密度が高いので、特許文献12のような光束密度均一化凹面鏡を使用することにより全体を均一にすることも出来る。
【0022】
再帰反射素子は赤外線も反射するので再帰反射素子上に更に赤外干渉多層膜を形成する必要はないが、バルブ全体に干渉多層膜を形成する場合であっても影響は受けない。石英ガラスバルブによる再帰反射素子に高屈折率層が形成されると全反射せずに高屈折率層を透過するが、高屈折率層の外層は低屈折率層であり、その界面で全反射して再帰反射素子として機能するのでバルブ全体を浸漬しても悪影響はない。マスキングして必要部分に限定すれば多層膜薬液費用を削減出来る。
【0023】
ガラスバルブに再帰反射素子を形成するには、溶融ガラスパイプを雌型に圧搾空気による内圧で型押しするので他のランプバルブと同様に製造出来る。再帰反射プリズムの凹凸があるので離型する際の抜き角度を支障ない範囲にする割型にし、カーボン型の採用などで離型をスムーズにすることが出来る。再帰反射素子の稜部、谷部に丸みがあると臨界角以内になり透過するので、谷部は欠陥を生じない程度の最小限の丸みに抑える必要があるが、稜部は先鋭なほど透過が少なくなる。
【発明の効果】
【0024】
再帰反射素子による全反射のため反射体あるいは遮光体の吸収を回避することが出来、効率向上になる。
再帰反射光はフィラメント方向に戻り、フィラメントに吸収されて再加熱に利用されるか、フィラメント螺旋の間隙など近傍を通過する反射光はフィラメントから発光した光線と同一の配光特性で出射することが出来る。
赤外反射膜では楕円体や球形バルブの焦点に赤外反射光が集中してホットスポットを生じることがあるが、再帰反射素子によりフィラメント方向に戻るので1ヶ所に集中してホットスポットを生じて短寿命になることがない。
バルブ成型と同時に再帰反射素子を成型出来るので遮光膜あるいは反射膜が不要であり、遮光膜塗装工程あるいは金属膜の蒸着工程または無電解メッキ工程が不要である。
【実施例1】
【0025】
先端部遮光体を再帰反射素子で置き換え、導入線固定ロッドを再帰反射素子で構成した実施例を図5、図6に示す。その他の構成はJIS C 7506−1に記載されているものである。すれ違いフィラメントの先端から走行フィラメントの後端まで11.7mmあり、遮光体と透明部境界からフィラメント先端と後端までの角度は最大で±9.7°あり、すれ違いフィラメントと走行フィラメントの双方に再帰反射可能な範囲が臨界角の制限がある。コーナーキューブプリズムは入出射面の垂線から±16.9°まで再帰反射が可能なので実現出来るが、直角プリズムは再帰反射可能範囲が狭く光軸付近にしか使用出来ないためである。先端排気チップ痕は光軸上なので円錐直角プリズムを除き、再帰反射素子の構成要素はコーナーキューブで構成している。各コーナーキューブ入出射面の辺の長さを2mmとすると三角錐高さは0.96mmである。
【実施例2】
【0026】
すれ違いビーム遮光体、先端部遮光体、導入線固定ロッドに再帰反射素子を使用した例を図7、図8により説明するが、先端部遮光体と導入線固定ロッドは前記と同様なので省略する。すれ違いビーム遮光体はフィラメントに近接するのでフィラメント全体が臨界角範囲に入らなければならない。再帰反射素子を透光セラミックで構成し、フィラメントのコイル径を2.5mmと太くしてフィラメント長を3.0mm以下にしたとき、Ba(Mg,Ta)O3複合ペロブスカイト構造の透光セラミックは屈折率2.1のためフィラメントと再帰反射素子の距離Lは3.0mmを実現出来る。すれ違いビームフィラメントと走行ビームフィラメントの間隙が約3mmのためすれ違いビーム遮光体を固定する反射板で構成して15°カットラインを設けた形状にして、すれ違いビームフィラメントと走行ビームフィラメントの間に設けている。
【実施例3】
【0027】
すれ違いビーム遮光体と先端部遮光体を再帰反射素子でバルブに形成し、導入線固定ロッドを再帰反射素子で形成した例を説明するが、先端部遮光体と導入線固定ロッドは前記と同様なので省略する。すれ違いフィラメントの下部側バルブはすれ違いフィラメントに再帰反射するために、周方向に環状の稜線を持つ稜角直角プリズムを多数並べている。直角プリズムは前述したように臨界角の余裕範囲が狭いために、すれ違いフィラメントからの光は再帰反射するが、走行ビームフィラメントからの光は臨界角範囲外なので透過することを利用している。この状態を図12に示す。稜線が周方向の直角プリズムは図12のように透過光が屈折するが、走行ビームフィラメントの最前部付近から発せられた特性を実現出来る。すれ違いビーム遮光体の形状は対向車方向に反射しないように15°カットされた形状になっているため、走行ビームフィラメントのリードの一部を反射板にしてカットライン用に充てている。
【実施例4】
【0028】
先端側再帰反射面の一部に開口部を設けた間接照明電球について図15を用いて説明する。先端側の反射鏡による反射光をランプハウス反射鏡により平行光あるいは指向性の狭い拡散光として出射すると、従来例の図16のように先端側反射鏡に遮られて中央が暗い照明になるためである。再帰反射素子の一部に設けた開口部を透過させ、透過光をランプ前方に設けたレンズによって平行光に戻し、先端部の反射素子で遮光された部分を補うことにより光軸付近も照明することが出来る。平行光を照射するための放物面鏡は光軸方向長さ3、開口方向長さ3.46のとき、直接光を遮光するための先端部の角度αは60°である。開口部の角度γを14°に設定すると透過光は数1より全光束の1.5%である。導入線側の再帰反射素子からの透過光を含めると約2%になる。全開口部面積に占める先端部再帰反射素子延長上の面積比を2%に設定すると、ランプハウス反射鏡の光束密度と整合を取ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
説明の都合上、細部は拡大して記載するため、必ずしも相似関係にはなっていない。
【図1】直角プリズムにおける全反射する状態と臨界角以内で透過する状態を示す。
【図2】環状の稜角直角プリズムの中心に線光源があるときの反射の状態を示す。
【図3】コーナーキューブプリズムにおける全反射の状態を示す。
【図4】光源寸法が光源・プリズム間距離に比べて臨界角範囲内に入る状態を示す。
【図5】ランプ先端部と導入線固定部に直角の頂角を有する再帰反射素子を密接して配置した状態を示す断面図。
【図6】ランプ先端部と導入線固定部に直角の頂角を有する再帰反射素子を密接して配置した状態を示す透視図。
【図7】H4型車両用前照灯のすれ違いビーム遮光体に再帰反射素子を使用した状態を示す断面図。
【図8】H4型車両用前照灯のすれ違いビーム遮光体に再帰反射素子を使用した状態を示す透視図。
【図9】H4型車両用前照灯バルブですれ違いビームを再帰反射し、走行ビームを透過する環状の稜角直角プリズムを使用した状態を示す断面図。
【図10】H4型車両用前照灯のバルブにすれ違いビームを再帰反射し、走行ビームを透過する環状の稜角直角プリズムを使用した状態を示す透視図。
【図11】H4型車両用前照灯バルブに環状に配置した稜角直角プリズムがすれ違いビームを再帰反射する状態を示す断面図。
【図12】H4型車両用前照灯のバルブに環状に配置した稜角直角プリズムが走行ビームを透過する状態を示す断面図。
【図13】反射形電球のバルブとステム部に再帰反射素子を配置した状態を示す。
【図14】PS形電球のバルブとステム部に再帰反射素子を配置した状態を示す。
【図15】先端側再帰反射面の一部に反射面を欠いた開口部を設けて透過させ、ランプ前方のレンズで平行光に戻して光軸付近も照明する状態を示す。
【図16】間接照明ハロゲンランプの従来例を示す。
【図17】H4型車両用前照灯のすれ違い遮光体のフィラメント側に反射被膜を形成した従来例を示す。
【図18】H4型車両用前照灯の先端部遮光体に炭化珪素を混合した従来例の先端部による反射光を示す。
【符号の説明】
【0030】
1:フィラメント 2:環状直角プリズム
3:先端部再帰反射素子 4:走行ビームフィラメント
5:すれ違いビームフィラメント 6:すれ違いビーム再帰反射素子
7:導入線部再帰反射素子 8:導入線
9:反射板 10:すれ違いビーム遮光体
11:再帰反射素子 12:コーナーキューブ
13:散光被膜 14:ガラスバルブ
15:開口部 16:凸レンズ 17:ステム 18:反射鏡
19:臨界角範囲 20:フード
21:反射膜
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用前照灯、間接照明ランプ、反射型電球などの遮光素子または反射素子を備えたランプに関し、これらを全反射素子にすることによって反射効率を高め、製造コストを低減することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
照明器具は反射板などで指向性を狭めて目的の配光特性を得ているが、ランプ自体に遮光素子あるいは反射素子を設けて配光特性の改善、効率の改善、取り扱いの簡便化なども行なわれている。反射形電球は最大径部より口金側にかけてバルブ表面にアルミニウムなどの蒸着膜、無電解メッキなどによる金属膜を設けて電球自体に指向性を持たせた電球である。反射膜の構成と、その製造方法は以下のようなものがある。
蒸着による製法はバルブ成型後にマスキング工程を経て蒸着を行なうか、内面全体に蒸着後、蒸着金属を溶解する方法などが採られているが、工程が長くなる。無電解メッキは液面までメッキされるのでマスキングは不要だが、注入、還元反応、析出、排出、乾燥など工程が多く、銀などの材料費はアルミ蒸着材より高価である。バルブ外面に蒸着を行なう方法は金属の溶解が不要で、マスキングが容易になる反面、膜厚を厚くするか、蒸着膜の保護層が必要になる(特許文献1)。
【0003】
反射鏡の焦点に光源を設けると反射鏡の指向性の他に光源からの拡散光を含んでいる。ランプバルブ先端に反射鏡あるいは遮光体を備えた照明装置はバルブ先端部反射鏡あるいは遮光体によって、直接光による拡散光を含まない配光特性である。ランプ前方に反射鏡フードあるいは遮光フードを用いることでも直接光を避けることが出来るが、ランプ先端側のバルブに反射膜あるいは遮光膜を設けた間接照明ランプはフードを設ける工数と費用の削減だけでなく、フードが反射鏡からの光を遮るのを減らす利点がある。このため、光源からの直接光を避ける必要のある拡散角の狭い店舗、舞台、スタジオなどのスポット照明の他、車両用ヘッドランプなどに広く利用されている。効率、分光特性、寿命特性などからハロゲンランプが多く使用され、反射被膜は銀、アルミニウムなどの提案があるが(特許文献2、特許文献3)、ハロゲンサイクルを達成するのは250℃以上であり、バルブ壁面温度が高い店舗照明用のハロゲンランプではバルブ内温度が約500℃のためNiCrを無電解メッキにより形成されている(特許文献4、図16)。球形バルブの中心にフィラメントが配置されているために電球内の反射鏡で反射した光線はフィラメント方向に戻り、フィラメント表面で反射してランプハウス反射鏡に照射されるか、フィラメントの隙間を通過した光線はランプハウス反射鏡に照射されてフィラメントから発光された光跡と同等の配光特性になる。
特許文献3では金属被膜による反射を全反射と記しているが、界面の臨界角に基づく全反射ではないので銀鏡面でも反射率は93%程度である。特許文献4は図3において全体の反射率の記載になっているが、NiCrの反射率は短波長ほど低く、70%以下である。
【0004】
車両用前照灯はランプ先端部遮光体によって直接光を遮光して反射鏡によって間接照明し、目的の配光特性を得るものが主流である。他に、楕円体反射鏡の焦点が共通なレンズを用いた投射型もあるが、4灯式にするなどランプ先端部遮光体を用いないので省略する。光源からの直接光は拡散性のため対向車のドライバーを照射して幻惑光になるので、この直接光を制限するためにランプの先端部に遮光膜が設けられている。先端部の遮光体は前記間接照明ランプのバルブ内面の反射鏡と異なり、H4型ランプではバルブ内温度は約800℃になるために、耐熱性の高い遮光膜が必要になるなどの理由から、黒色塗料、シリカ、アルミナなどの焼成物が用いられている(特許文献5、特許文献6)。先端部遮光体は黒色塗料が多く用いられ、ブラックトップと呼ばれている。黒色塗料は赤外線を吸収して温度上昇が大きくなるため耐熱性が高く、ガラスとの熱膨張率差が小さい必要がある。黒色塗料による先端部はヘッドライトの鏡面の中に黒く目立つのを防止する目的でランプの外側に金属製遮光体を用いると支持機構が必要になるために、黒色塗料の外側に白色系塗装を行なって黒色遮光体を目立たなくする方法の他、黒色塗料に炭化珪素を混合して灰色にすることでランプハウス反射鏡と同系色にした提案もある(特許文献7)。
【0005】
車両用前照灯のH4型ランプは先端部の遮光体の他に、すれ違いビームフィラメントの下部に遮光体を持つ構造になっている。遮光体はランプハウスの下側反射鏡に向かうすれ違いビームフィラメント光を遮光して上側反射鏡に反射するためにある。すれ違いビームのときはランプハウス反射鏡の下側面を利用せずに上側反射鏡だけで反射され、その反射光が対向車ドライバーの目に入らない配光特性になっている。走行ビームのときは下部の遮光体がないのでランプハウス反射鏡の上下面全てを利用している。
すれ違いビーム遮光体は耐熱性が高く、ハロゲンと反応してもハロゲンサイクルでフィラメントに影響を与えないタングステンまたはタングステン合金などが使用されている。タングステンは反射率が50〜60%と低く、すれ違いビームフィラメントから放射される光の半分は遮光体に当たり、下部に向かった光の40〜50%は吸収されて損失になる。損失を低減するために遮光体のフィラメント側に反射率が80%以上の酸化アルミニウムなどの反射被膜を形成した提案がある(特許文献8、図17)。
【0006】
白熱電球は色温度に基づく分光特性で放射され、赤外光の方が遥かに多くなっている。可視光の比率を高くするために色温度を高くするのはアレニウス則により寿命が非常に短くなるため、干渉多層膜によって赤外光をフィラメントに反射して再加熱に利用し、可視光の比率を高める方法がハロゲンランプに多く採用されている。バルブの形状によっては赤外反射膜による反射光が集中して楕円体バルブなどの焦点にあるフィラメントにホットスポットが発生し、短寿命になる場合があるので楕円体の曲線を円筒に近づけた形状の提案もある(特許文献9)。
【0007】
【特許文献1】特開平10−241640号公報
【特許文献2】特開平11−31482号公報
【特許文献3】特開2002−63871号公報
【特許文献4】特開平5−82107号公報
【特許文献5】特開平7−220694号公報
【特許文献6】特開2001−6626号公報
【特許文献7】特許3998050
【特許文献8】特開平9−45294号公報
【特許文献9】特許3674712
【特許文献10】特許3783445
【特許文献11】特許3882504
【特許文献12】特許4114173
【非特許文献1】JIS C 7506−1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バルブ内温度が高い間接照明用ハロゲンランプは反射率の高い銀、アルミニウムを使用できず、NiCr被膜などが採用されているが、NiCrは反射率が60〜70%程度と低く、30〜40%が吸収されている。低反射率に基づく吸収によっても被膜の温度上昇が増大している。
車両用前照灯のH4型ランプ先端部はクロム、銅、鉄、マンガンなどの黒色焼成物が多く使用され、黒色塗料は直接光を吸収するのでランプ先端部遮光体への放射比率が光量損失になる。吸収による温度上昇が大きいので耐熱塗料が要求され高価格である。
黒色塗料による吸熱を避けるためにシリカ、アルミナなどの白色塗料の提案があり、黒色塗料と炭化珪素を混合して灰色塗料の提案もある。しかし、図18のように、すれ違いビームフィラメントからの光はヘッドランプ先端に設けられている白色塗料または灰色塗料で乱反射されてランプハウス反射鏡の広範囲に反射され、フィラメントから発せられた光線と異なるので幻惑光を含むなどすれ違いビームのシャープな遮断特性を達成できない。このように先端部遮光体は黒色にすると吸熱が増え、反射率を高くするとシャープな遮断特性を達成出来ない問題がある。
【0009】
全放射光量に対するランプ先端部への放射比率は、フィラメント・遮光体境界を結ぶ線が光軸となす角度αとし、フィラメントからバルブ境界までの半径rであるとき、数1のように球全体の表面積に対する先端部の表面積との比で表すことが出来る。
【数1】
H4型車両用前照灯ではJISによるαが40°では黒色塗料遮光体による損失は11.7%である。
ランプの口金方向に放射された光はバルブ封着部などで不定方向に反射されるか、多重反射により吸収されて熱になる。狭い指向性が要求される照明では熱損失になる以上に不定方向に反射される弊害が大きい。
全放射光量に対する口金方向の放射角比率は、口金最大径を結ぶ線が光軸となす角度β、フィラメントからバルブ境界までの半径rとして、β=30°とすると口金方向に放射される光量比率は6.7%である。
【0010】
H4型ランプはすれ違いビームのときはランプハウス反射鏡の下側を利用せずに上側反射鏡だけで反射するために、すれ違いビームフィラメントの下部に遮光体を持つ構造になっている。遮光体は耐熱性が高く、ハロゲンと反応してもハロゲンサイクルでフィラメントに影響を与えないタングステンまたはタングステン合金などが使用されている。タングステンは反射率が50〜60%と低く、下部に向かった光の40〜50%は吸収されて損失になるので、すれ違いビームにおける上部・下部全体として見ると20〜25%が損失になる。遮光体のフィラメント側に酸化アルミニウムなどの反射被膜を形成した提案では反射率が80%以上に改善されるが、すれ違いビームにおける上部・下部全体として見ると10%の損失がある。
【0011】
反射形電球は最大径部より口金側にかけてバルブ表面にアルミニウムなどの金属膜を形成したものである。蒸着膜をバルブ成型後にマスキング工程を経て蒸着を行なう方法、内面全体に蒸着して不要部の蒸着金属を溶解する方法、マスキングが容易なバルブ外面に厚く蒸着を行ない蒸着膜を保護する方法などがあるが、必要な部分のみに蒸着を行なう蒸着工程が必要である。
無電解メッキは液面までメッキされるのでマスキングは不要だが、注入、還元反応、析出、排出、乾燥など工程が多く、銀などの材料費はアルミ蒸着材より高価である。
車両用前照灯の先端部遮光体は約800℃の耐熱性が高い遮光膜が必要になり、黒色塗料などをランプ先端部に焼成する工程が必要である。吸収による温度上昇も加わり耐熱塗料が必要になり高価格である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
2つの平面を直交する側面視直角三角形の直角プリズムは入出射面に入射した光線を2つの平面で全反射条件を満足すれば、図1のように光路差を持って逆進行方向に戻る。光路差は最大でプリズム入出射面の幅になる。
第1の平面への入射角θ1、第2の平面への入射角θ2、プリズムの頂角θ3とすると、反射方向θrは数2のように頂角だけで決定される。
【数2】
θ3=90°の直角プリズムでは180°となって、臨界角θc以上であれば入射角θ1によらず逆進行方向に戻る。直角プリズムは正確な90°とは限らず、公差を持っているが、反射方向は数2のように公差の2倍ずれることになる。
直角プリズム媒体の屈折率をn1、周囲媒体の屈折率をn2とすると、
【数3】
のときのθ1を臨界角θcは、
【数4】
石英ガラスの屈折率n2を1.46、周囲媒体の屈折率n1が1のとき臨界角θc=43.2°となる。第1、第2の平面とも全反射条件を満たさなければ透過するので、全反射するための入射角範囲は45±1.8°になる。直角プリズムは入出射面に垂直に入射する平行光の反射によく利用されているが、光源などの拡散光で使用するには臨界角までの範囲が狭く、臨界角を超えると全反射出来ない。このため、バルブ寸法に比べてフィラメントなどの発光部寸法が小さい場合、あるいは高屈折率材料で臨界角までの余裕が大きい場合に全反射可能である。
光源には寸法があるので、入出射面から光源までの距離Lと光源直径Dと臨界角余裕θcmの関係は、
【数5】
でなければ直交するプリズム面のいずれかで臨界角以内になって透過する。稜線に平行な成分を持つ光が直角プリズムに斜めに入射したときは2つの平面で折り返さないため、元の方向に再帰反射せずに2つの平面に対する入射角と等しい反射角で反射する。
【0013】
2つの平面が1本の直線の稜線で直行する直角プリズムは点光源からの拡散光は直線的稜線に平行な成分は再帰反射しないが、直交する平面を4面、6面などの偶数面にすると対向する面同士は直角プリズムでありながら稜線に平行な入射光に交差する稜線があるため臨界角条件が合致すれば再帰反射が可能である。直交する平面の偶数値を無限大にすると頂角が直角の円錐になる。頂角が直角の円錐は4面、6面などの偶数面よりも金型製作が容易である。
点光源の円周方向に環状の稜線を持つ稜角直角プリズムの場合は放射方向が稜線に垂直なので再帰反射可能である。環状の稜角直角プリズムは1周する円環状とは限らず、円環あるいは楕円環の一部を使用した稜角直角プリズムも環状の稜角直角プリズムとして説明する。実際は点光源ではなく、フィラメントは概略円筒状のため、数5の臨界角による光源の寸法の制限がある。環状の稜角直角プリズムをランプ軸に沿って並べ、その中心にフィラメントのような線光源がある場合は、同軸に配置するよりもランプ軸に対して垂直方向にフィラメント軸を配置した方が数5を満足しやすくなる。環状の稜角直角プリズムをランプ軸の周に沿って並べ、フィラメントをランプ軸に直交して水平配置にしたのが図2である。稜角直角プリズム方向でランプ軸方向成分のみの光線は直角プリズムで反射してフィラメント方向に戻るが、線光源の両端から発せられた稜線に平行成分を持つ斜めの光は、2つの平面で折り返さないため、元の方向に再帰反射せずに平面への入射角と等しい反射角で反射する。図2のようにフィラメントの一方の端部から発せられた稜線に平行成分はフィラメントの他方の端部方向に反射するので、ランプ軸放射方向の光はフィラメントから発せられた光線として扱うことが出来る。
【0014】
3つの平面が直交座標系で交差する三角錐形のコーナーキューブプリズムは図3のように3つの直交座標平面で全反射して光路差をもって逆進行方向に戻る。3つの平面に交差する入出射面に対して垂直に入射する光線が3つの直交座標平面に入射する角度は数6のように、直角プリズムの入射角45°より9.7°臨界角までの余裕が広い特徴がある。
【数6】
低屈折率な石英ガラスは直角プリズムの臨界角までの余裕が1.8°と小さいが、コーナーキューブでは反射面から11.5°傾いた入射光でも全反射することが出来る。
コーナーキューブプリズムは入出射面が空気、不活性ガスなど周囲媒体との界面で屈折を起こすので、周囲媒体からプリズム材に入射する角度では、コーナーキューブの入出射面は点光源に対して石英ガラスでは16.9°傾いていても点光源側に光路差をもって逆進行方向に戻る。
【数7】
点光源が入出射面に近い場合、数5の入射角範囲により周辺側で臨界角条件を満足し得ない境界がある。図4のように発光部からの光を再帰反射するためのコーナーキューブの入出射面から発光部までの距離Lと発光部寸法Dの関係は数5を満足する寸法でなければ直交するプリズム面のいずれかで臨界角以内になって透過してしまう。
【0015】
間接照明電球、反射形電球などに使用されている金属反射膜は最も反射率の高い銀で反射率90〜95%、アルミニウムは85%である。アルミニウムの融点は660℃、銀の融点は961℃のためバルブ内温度の高いハロゲンランプには使用出来ない。これに対し、フィラメント周囲のバルブなどの一部に複数のコーナーキューブまたは直角プリズムなどの再帰反射素子を密接して設けることにより、遮光しつつフィラメントからの光を前述の再帰反射素子で全反射してフィラメントに戻すことが出来る。コーナーキューブまたは直角プリズムのような直角の頂角を有するプリズムを密接して設けた素子を再帰反射素子と呼ぶことにする。バルブの一部に設ける位置によって間接照明電球、反射形電球などとして利用することが出来、バルブ成型と同時に再帰反射素子を成型するので工程を増加せずに実現出来、金属膜、黒色塗装などより安価に製造出来る。再帰反射素子を密接して設けた例として車両用前照灯のH4型ランプを図5、図6に示す。
再帰反射素子を構成する直角プリズムを密接して配置しても、直交する面はガラス成型に際して丸みを帯びて臨界角以内になり透過する成分がある。直交する稜線の丸みによる透過率を小さくするには再帰反射素子を構成する単位の寸法が大きいほど有利になる。その反面、ガラスバルブからの突き出し量が厚くなる。このため、ガラスバルブの外面に再帰反射素子の突き出し量を小さくして臨界角以内になり透過する成分を抑えるには成型精度を高める必要がある。
【0016】
再帰反射素子による全反射を利用することにより金属膜の反射率よりも反射率を向上することが出来る上に、フィラメント方向に戻るのでバルブ形状がフィラメントを焦点とする球形である必要はない。微小な再帰反射プリズムをバルブ先端部など特定部分に隙間なく配置するとフィラメントからの可視光だけでなく赤外光も逆進行方向に光路差の範囲をもってフィラメント方向に戻るので再帰反射素子の部分には赤外反射膜を形成する必要はない。勿論、透過部のバルブ外面に赤外反射膜を設ければ効率を改善することが出来る。
再帰反射素子によりフィラメントに戻った赤外線はフィラメントを再加熱するためその分だけ投入電力を低減することが出来る。フィラメントに戻った可視光の内、フィラメント表面で反射された成分はランプハウス反射鏡に照射されれば目的範囲の照射に活用できる。フィラメントは螺旋などの間隙を有するのでフィラメント近傍を通過する光線もあり、フィラメントから発光された光線と僅かの差しかないので再帰反射光とフィラメントから発光した光線は同一の配光特性で出射することが出来る。赤外反射膜では楕円体や球形バルブの焦点に赤外反射光が集中してホットスポットによる短寿命になる場合があるが、再帰反射ではフィラメントの出射部位近傍に戻るので1ヶ所に集中するということはない。
【0017】
H4型ランプのすれ違いビームフィラメントの下部に設けられている遮光体はタングステンの反射率が50〜60%であり、下側に放射された光の40〜50%は損失になっている。これを再帰反射素子にするとすれ違いビームフィラメントの下部遮光体における損失を低減することが出来る。ランプの軸方向のフィラメント寸法とフィラメント・再帰反射素子間距離Lが数5を満足し、走行ビームを殆ど遮らないようにするには再帰反射素子をすれ違いビームフィラメントに約4mm以下に接近する必要がある。石英ガラスは屈折率が1.46と小さいので数5を満足して構成するのは困難である。アルカリ金属酸化物を含むガラスはハロゲンと反応し、これによってハロゲン化タングステンのタングステンが析出するため無アルカリガラスが必要だが、高屈折率と高耐熱性の両立が難しい。
このため、再帰反射素子を透光セラミックで構成し、フィラメントのコイル径を2.5mmと太くしてフィラメント長を3.0mm以下にしたとき、屈折率1.8ではフィラメントと再帰反射素子の距離Lは3.9mmである。アルミナ系透光セラミックは微粒子アルミナなどをホットプレス法などにより製造されており、ナトリウムランプ、メタルハライドランプでは石英ガラスの代わりに発光管として使用されている(特許文献10)。屈折率1.8のアルミナ系透光セラミックよりも高屈折率のBa(Mg,Ta)O3複合ペロブスカイト構造の透光セラミックは屈折率が1.9以上を実現され(特許文献11)、屈折率2.1のものがレンズなどに使用されている。屈折率2.1ではフィラメントと再帰反射素子の距離Lは3.0mmを実現出来る。H4型ランプのすれ違いビーム遮光体、バルブ先端部遮光体と導入線部に再帰反射素子を設けた例を図7、図8に示す。
【0018】
H4型ランプにおけるすれ違いビームフィラメントの下部側のバルブ下半分に再帰反射素子を設けると、バルブ内部に設けていたすれ違いビーム遮光体を削除することが出来、材料費の削減と製造工程を短縮することが出来る。半球状のバルブには、周方向に環状の稜線を持つ直角プリズムを多数並べている。図9、図10、図11に示すようにすれ違いビームフィラメントの下部は概略半球状を成してすれ違いビームフィラメントに再帰反射している。すれ違いビームフィラメントは図2と同様にランプ軸に直交する水平方向に配置している。これは図2のようにフィラメント端部から発せられた光を他方の端部に反射するため、再帰反射と同様の配光特性とフィラメント再加熱を実現出来るためである。フィラメントを水平に配置すると車両前進方向の指向性を高精度に制御出来、水平方向に指向性の広がった配光特性になるので前照灯に相応しい配光特性である。走行ビームフィラメントからの光は図12のように環状の稜角直角プリズムの臨界角以内になって透過させることが出来る。環状の稜角直角プリズムで屈折するので発光位置が前方にシフトするが、図12のように透過光が通常の走行ビームフィラメントの最前部付近から発せられた特性である。尚、環状の稜角直角プリズムの稜線方向をランプの軸方向にすると、前述の稜線に平行な成分に相当して反射するので走行ビームを透過出来ない。
【0019】
ランプの口金側はバルブ封止部になっており、導入線を固定するガラスロッドなど複雑な形状で成り立っている。このためフィラメントから口金側に放射された光線は不定方向に反射され、吸収された光は熱損失になる。
車両用前照灯のように指向性を制限されている用途ではこの不定方向反射も幻惑光の要因になる。再帰反射素子によってフィラメントに可視光、赤外光を戻す手法は口金側にも応用することが出来る。図5〜図10は導入線を固定するガラスロッドの代わりに半割された再帰反射素子で導入線を挟み込んで融着したものである。従来例における口金方向に吸収されて熱損失となることと不定方向に乱反射を防止し、フィラメント方向に再帰反射することが出来る。
先端部に対向して導入線固定用再帰反射素子が設けられると、フィラメント間隙を通過して先端部の再帰反射素子に反射し、更にステムなど後方側の再帰反射素子を往復する間にフィラメントに当たって、反射率に応じて反射されて照明に利用、あるいは吸収されて加熱に利用される。
【0020】
再帰反射素子を車両用前照灯先端部に設けた構造はスポットライトなどの間接照明電球、店舗照明ハロゲン電球にも応用出来る。間接照明電球は球面の先端部に反射膜が用いられているが、先端部の再帰反射素子によりフィラメント方向に戻るので臨界角範囲内であれば球面に形成する必要は無い。
最大径部から口金側にかけて再帰反射素子を設けると図13のように反射形電球として利用出来る。ソーダ石灰ガラスの屈折率約1.53のとき、コーナーキューブ基準面の入射角は21.3°であり、電球直径φ72mmのときフィラメント最大寸法は17.8mm迄許容できる。
一般的なPS形電球のステムに再帰反射素子を図14のように設けると口金方向の光を有効活用出来、ステムの再帰反射素子への放射角30°で光量比率は6.7%である。更に、バルブ表面に再帰反射素子を設け、放射角55°では光量比率は21.3%あり、この量を効率改善、配光特性改善することが出来る。
【0021】
間接照明電球、店舗照明ハロゲン電球のように先端側の反射鏡による反射光をランプハウス反射鏡により平行光あるいは指向性の狭い拡散光として出射すると、先端側反射鏡に遮られて中央が暗い照明になる。この問題点を解決するには、図15のように先端側再帰反射面の一部に反射面を欠いた開口部を設けて透過させ、透過光をランプ前方に設けたレンズによって平行光に戻し、先端部の反射素子で遮光された部分を補うことにより光軸付近も照明することが出来る。透過光の光学系をランプハウス反射鏡の光束密度と整合を取ることによりむらのない照明が出来る。放物面鏡は光軸側ほど光束密度が高いので、特許文献12のような光束密度均一化凹面鏡を使用することにより全体を均一にすることも出来る。
【0022】
再帰反射素子は赤外線も反射するので再帰反射素子上に更に赤外干渉多層膜を形成する必要はないが、バルブ全体に干渉多層膜を形成する場合であっても影響は受けない。石英ガラスバルブによる再帰反射素子に高屈折率層が形成されると全反射せずに高屈折率層を透過するが、高屈折率層の外層は低屈折率層であり、その界面で全反射して再帰反射素子として機能するのでバルブ全体を浸漬しても悪影響はない。マスキングして必要部分に限定すれば多層膜薬液費用を削減出来る。
【0023】
ガラスバルブに再帰反射素子を形成するには、溶融ガラスパイプを雌型に圧搾空気による内圧で型押しするので他のランプバルブと同様に製造出来る。再帰反射プリズムの凹凸があるので離型する際の抜き角度を支障ない範囲にする割型にし、カーボン型の採用などで離型をスムーズにすることが出来る。再帰反射素子の稜部、谷部に丸みがあると臨界角以内になり透過するので、谷部は欠陥を生じない程度の最小限の丸みに抑える必要があるが、稜部は先鋭なほど透過が少なくなる。
【発明の効果】
【0024】
再帰反射素子による全反射のため反射体あるいは遮光体の吸収を回避することが出来、効率向上になる。
再帰反射光はフィラメント方向に戻り、フィラメントに吸収されて再加熱に利用されるか、フィラメント螺旋の間隙など近傍を通過する反射光はフィラメントから発光した光線と同一の配光特性で出射することが出来る。
赤外反射膜では楕円体や球形バルブの焦点に赤外反射光が集中してホットスポットを生じることがあるが、再帰反射素子によりフィラメント方向に戻るので1ヶ所に集中してホットスポットを生じて短寿命になることがない。
バルブ成型と同時に再帰反射素子を成型出来るので遮光膜あるいは反射膜が不要であり、遮光膜塗装工程あるいは金属膜の蒸着工程または無電解メッキ工程が不要である。
【実施例1】
【0025】
先端部遮光体を再帰反射素子で置き換え、導入線固定ロッドを再帰反射素子で構成した実施例を図5、図6に示す。その他の構成はJIS C 7506−1に記載されているものである。すれ違いフィラメントの先端から走行フィラメントの後端まで11.7mmあり、遮光体と透明部境界からフィラメント先端と後端までの角度は最大で±9.7°あり、すれ違いフィラメントと走行フィラメントの双方に再帰反射可能な範囲が臨界角の制限がある。コーナーキューブプリズムは入出射面の垂線から±16.9°まで再帰反射が可能なので実現出来るが、直角プリズムは再帰反射可能範囲が狭く光軸付近にしか使用出来ないためである。先端排気チップ痕は光軸上なので円錐直角プリズムを除き、再帰反射素子の構成要素はコーナーキューブで構成している。各コーナーキューブ入出射面の辺の長さを2mmとすると三角錐高さは0.96mmである。
【実施例2】
【0026】
すれ違いビーム遮光体、先端部遮光体、導入線固定ロッドに再帰反射素子を使用した例を図7、図8により説明するが、先端部遮光体と導入線固定ロッドは前記と同様なので省略する。すれ違いビーム遮光体はフィラメントに近接するのでフィラメント全体が臨界角範囲に入らなければならない。再帰反射素子を透光セラミックで構成し、フィラメントのコイル径を2.5mmと太くしてフィラメント長を3.0mm以下にしたとき、Ba(Mg,Ta)O3複合ペロブスカイト構造の透光セラミックは屈折率2.1のためフィラメントと再帰反射素子の距離Lは3.0mmを実現出来る。すれ違いビームフィラメントと走行ビームフィラメントの間隙が約3mmのためすれ違いビーム遮光体を固定する反射板で構成して15°カットラインを設けた形状にして、すれ違いビームフィラメントと走行ビームフィラメントの間に設けている。
【実施例3】
【0027】
すれ違いビーム遮光体と先端部遮光体を再帰反射素子でバルブに形成し、導入線固定ロッドを再帰反射素子で形成した例を説明するが、先端部遮光体と導入線固定ロッドは前記と同様なので省略する。すれ違いフィラメントの下部側バルブはすれ違いフィラメントに再帰反射するために、周方向に環状の稜線を持つ稜角直角プリズムを多数並べている。直角プリズムは前述したように臨界角の余裕範囲が狭いために、すれ違いフィラメントからの光は再帰反射するが、走行ビームフィラメントからの光は臨界角範囲外なので透過することを利用している。この状態を図12に示す。稜線が周方向の直角プリズムは図12のように透過光が屈折するが、走行ビームフィラメントの最前部付近から発せられた特性を実現出来る。すれ違いビーム遮光体の形状は対向車方向に反射しないように15°カットされた形状になっているため、走行ビームフィラメントのリードの一部を反射板にしてカットライン用に充てている。
【実施例4】
【0028】
先端側再帰反射面の一部に開口部を設けた間接照明電球について図15を用いて説明する。先端側の反射鏡による反射光をランプハウス反射鏡により平行光あるいは指向性の狭い拡散光として出射すると、従来例の図16のように先端側反射鏡に遮られて中央が暗い照明になるためである。再帰反射素子の一部に設けた開口部を透過させ、透過光をランプ前方に設けたレンズによって平行光に戻し、先端部の反射素子で遮光された部分を補うことにより光軸付近も照明することが出来る。平行光を照射するための放物面鏡は光軸方向長さ3、開口方向長さ3.46のとき、直接光を遮光するための先端部の角度αは60°である。開口部の角度γを14°に設定すると透過光は数1より全光束の1.5%である。導入線側の再帰反射素子からの透過光を含めると約2%になる。全開口部面積に占める先端部再帰反射素子延長上の面積比を2%に設定すると、ランプハウス反射鏡の光束密度と整合を取ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
説明の都合上、細部は拡大して記載するため、必ずしも相似関係にはなっていない。
【図1】直角プリズムにおける全反射する状態と臨界角以内で透過する状態を示す。
【図2】環状の稜角直角プリズムの中心に線光源があるときの反射の状態を示す。
【図3】コーナーキューブプリズムにおける全反射の状態を示す。
【図4】光源寸法が光源・プリズム間距離に比べて臨界角範囲内に入る状態を示す。
【図5】ランプ先端部と導入線固定部に直角の頂角を有する再帰反射素子を密接して配置した状態を示す断面図。
【図6】ランプ先端部と導入線固定部に直角の頂角を有する再帰反射素子を密接して配置した状態を示す透視図。
【図7】H4型車両用前照灯のすれ違いビーム遮光体に再帰反射素子を使用した状態を示す断面図。
【図8】H4型車両用前照灯のすれ違いビーム遮光体に再帰反射素子を使用した状態を示す透視図。
【図9】H4型車両用前照灯バルブですれ違いビームを再帰反射し、走行ビームを透過する環状の稜角直角プリズムを使用した状態を示す断面図。
【図10】H4型車両用前照灯のバルブにすれ違いビームを再帰反射し、走行ビームを透過する環状の稜角直角プリズムを使用した状態を示す透視図。
【図11】H4型車両用前照灯バルブに環状に配置した稜角直角プリズムがすれ違いビームを再帰反射する状態を示す断面図。
【図12】H4型車両用前照灯のバルブに環状に配置した稜角直角プリズムが走行ビームを透過する状態を示す断面図。
【図13】反射形電球のバルブとステム部に再帰反射素子を配置した状態を示す。
【図14】PS形電球のバルブとステム部に再帰反射素子を配置した状態を示す。
【図15】先端側再帰反射面の一部に反射面を欠いた開口部を設けて透過させ、ランプ前方のレンズで平行光に戻して光軸付近も照明する状態を示す。
【図16】間接照明ハロゲンランプの従来例を示す。
【図17】H4型車両用前照灯のすれ違い遮光体のフィラメント側に反射被膜を形成した従来例を示す。
【図18】H4型車両用前照灯の先端部遮光体に炭化珪素を混合した従来例の先端部による反射光を示す。
【符号の説明】
【0030】
1:フィラメント 2:環状直角プリズム
3:先端部再帰反射素子 4:走行ビームフィラメント
5:すれ違いビームフィラメント 6:すれ違いビーム再帰反射素子
7:導入線部再帰反射素子 8:導入線
9:反射板 10:すれ違いビーム遮光体
11:再帰反射素子 12:コーナーキューブ
13:散光被膜 14:ガラスバルブ
15:開口部 16:凸レンズ 17:ステム 18:反射鏡
19:臨界角範囲 20:フード
21:反射膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白熱ランプフィラメントの周囲の一部に直角の頂角を有する複数のプリズムを密接して設け、フィラメントからの光線を前記複数のプリズム素子によって全反射してフィラメント方向に戻し、フィラメントに戻って吸収された光をフィラメントの再加熱に利用し、再帰反射してフィラメント近傍を通過する光はフィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする全反射素子を備えたランプ。
【請求項2】
ランプバルブの先端部分に直角の頂角を有する複数のプリズムを密接して設けることにより直接光を遮光し、フィラメント方向に再帰反射して、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項3】
車両用前照灯におけるすれ違いビームフィラメントの下部に透光セラミックから成る複数のコーナーキューブを密接した再帰反射素子を設けることにより、すれ違いビームフィラメントからの光を全反射してすれ違いビームフィラメント方向に再帰反射し、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項4】
車両用前照灯におけるすれ違いビームフィラメントより下部にあるバルブに頂角が直角プリズムを環状に形成し、すれ違いビームフィラメントからの光線を直角プリズムの臨界角以上の入射角にしてすれ違いビームフィラメントに戻し、走行ビームフィラメントからの光線を臨界角以内にして直角プリズムを透過させることを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項5】
口金側封止部近傍の導入線を固定するガラス体に直角の頂角を有する複数のプリズムを密接した再帰反射素子を設け、フィラメントからの光をフィラメント方向に再帰反射して、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項6】
白熱電球の最大径部より口金側のガラスバルブに直角の頂角を有する複数のプリズムを密接して設け、フィラメント方向に再帰反射して、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項7】
ランプを焦点とする反射鏡を備え、ランプバルブの先端部の一部に開口部を有して直角の頂角を有する複数のプリズムを密接した再帰反射素子を設けることにより、ランプ後方の反射鏡による平行光がランプ先端部の前記再帰反射素子で遮光された部分に透過部からの光が照射され、ランプ先端部前方に設けた正焦点距離屈折面により平行光に変換して照射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプを用いた照明装置。
【請求項1】
白熱ランプフィラメントの周囲の一部に直角の頂角を有する複数のプリズムを密接して設け、フィラメントからの光線を前記複数のプリズム素子によって全反射してフィラメント方向に戻し、フィラメントに戻って吸収された光をフィラメントの再加熱に利用し、再帰反射してフィラメント近傍を通過する光はフィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする全反射素子を備えたランプ。
【請求項2】
ランプバルブの先端部分に直角の頂角を有する複数のプリズムを密接して設けることにより直接光を遮光し、フィラメント方向に再帰反射して、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項3】
車両用前照灯におけるすれ違いビームフィラメントの下部に透光セラミックから成る複数のコーナーキューブを密接した再帰反射素子を設けることにより、すれ違いビームフィラメントからの光を全反射してすれ違いビームフィラメント方向に再帰反射し、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項4】
車両用前照灯におけるすれ違いビームフィラメントより下部にあるバルブに頂角が直角プリズムを環状に形成し、すれ違いビームフィラメントからの光線を直角プリズムの臨界角以上の入射角にしてすれ違いビームフィラメントに戻し、走行ビームフィラメントからの光線を臨界角以内にして直角プリズムを透過させることを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項5】
口金側封止部近傍の導入線を固定するガラス体に直角の頂角を有する複数のプリズムを密接した再帰反射素子を設け、フィラメントからの光をフィラメント方向に再帰反射して、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項6】
白熱電球の最大径部より口金側のガラスバルブに直角の頂角を有する複数のプリズムを密接して設け、フィラメント方向に再帰反射して、フィラメントから発せられた光と同一配光特性で出射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプ。
【請求項7】
ランプを焦点とする反射鏡を備え、ランプバルブの先端部の一部に開口部を有して直角の頂角を有する複数のプリズムを密接した再帰反射素子を設けることにより、ランプ後方の反射鏡による平行光がランプ先端部の前記再帰反射素子で遮光された部分に透過部からの光が照射され、ランプ先端部前方に設けた正焦点距離屈折面により平行光に変換して照射することを特徴とする請求項1に記載の全反射素子を備えたランプを用いた照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−92807(P2010−92807A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264191(P2008−264191)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【特許番号】特許第4356097号(P4356097)
【特許公報発行日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(306030862)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【特許番号】特許第4356097号(P4356097)
【特許公報発行日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(306030862)
【Fターム(参考)】
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