説明

バルブタイミング調整装置

【課題】バルブタイミング調整の応答性を確保する。
【解決手段】バルブタイミング調整装置1のリニアソレノイド70は、通電により磁束を発生するコイル73と、制御弁60のスプール68を往復駆動する出力軸75と、制御弁60のスリーブ66内から作動油が流入する内室712及び内室712から作動油を排出する排出孔716を形成するケーシング71と、出力軸75と一体に往復移動する可動子78と、軸方向にエアギャップAGをあけて互いに対向する筒状に設けられ、コイル73の発生磁束が通過する磁気回路を可動子78と共に形成することで、内周側にて可動子78を往復駆動する一対の固定子76,77と、固定子76,77の外周側に嵌合する筒状に設けられて固定子76,77間の磁気短絡を規制し、内周側のエアギャップAGを排出孔716に連通させる排出通路792を形成するスペーサ79と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランク軸と連動回転するハウジング並びにカム軸と連動回転するベーンロータを備えたバルブタイミング調整装置が、知られている。このような装置の一種として特許文献1には、ハウジング内にてベーンロータにより回転方向に区画した進角室又は遅角室へ作動液を導入することで、ハウジングに対するベーンロータの回転位相を進角側又は遅角側へ変化させるものが、開示されている。この特許文献1の装置では、スリーブ内のスプールが往復移動するのに応じて進角室及び遅角室に対する作動液の入出を制御する制御弁と、出力軸により当該制御弁のスプールを往復駆動するリニアソレノイドとを、用いている。
【0003】
こうした装置に好適のリニアソレノイドとしては、特許文献2に開示されるように、軸方向にエアギャップをあけて互いに対向する一対の筒状固定子と、出力軸と一体に往復移動する可動子とを、ケーシング内室に収容させたものが、知られている。この種のリニアソレノイドにおいて一対の固定子は、通電されたコイルの発生磁束が通過する磁気回路を可動子と共に形成することで、当該可動子を内周側にて往復駆動する。その結果、可動子と一体の出力軸によりスプールが駆動される制御弁は、当該スプールの往復移動に応じて進角室及び遅角室に対する作動液の入出を制御するので、回転位相の変化によるバルブタイミング調整が実現されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−285918号公報
【特許文献2】特開2005−45217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、特許文献2のリニアソレノイドを特許文献1のバルブタイミング調整装置に適用した場合、当該リニアソレノイドに向かって開口したスリーブ内を通過する作動液は、出力軸の軸受クリアランス等からケーシングの内室に流入することが、考えられる。この場合、磁性を有する金属粉等の異物(以下、「磁性異物」という)が作動液中に含まれていると、ケーシング内室へ作動液が流入することで、当該異物が一対の固定子間のエアギャップに滞留して不要な磁気短絡を招くおそれがある。
【0006】
ここで特許文献2の図14等のリニアソレノイドでは、ケーシングの内室において一対の固定子の外周側に嵌合する筒状に、コイルのボビンが設けられているので、それら固定子間での磁気短絡の規制が可能となっている。しかし、エアギャップがボビンにより外周側から取り囲まれて袋小路となる構成のため、当該エアギャップに磁性異物が滞留すると、磁気短絡の規制機能が低下してしまうのである。尚、磁気短絡の発生は、出力軸によるスプール駆動の応答性、ひいてはバルブタイミング調整の応答性を悪化させるため、望ましくない。
【0007】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、リニアソレノイドにおける不要な磁気短絡を規制してバルブタイミング調整の応答性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、クランク軸と連動回転するハウジングと、カム軸と連動回転し、ハウジング内において進角室及び遅角室を回転方向に区画し、作動液が進角室又は遅角室へ導入されることにより、ハウジングに対する回転位相が進角側又は遅角側へ変化するベーンロータと、ベーンロータ及びカム軸からなる連動回転要素に内蔵され、作動液が通過するスリーブ内のスプールが往復移動するのに応じて進角室及び遅角室に対する作動液の入出を制御する制御弁と、出力軸によりスプールを往復駆動するリニアソレノイドとを、備えるバルブタイミング調整装置において、
リニアソレノイドは、通電により磁束を発生するコイルと、スリーブ内から作動液が流入する内室、並びに内室から作動液を外部に排出する排出孔を形成するケーシングと、内室において出力軸と一体に往復移動する可動子と、内室において軸方向にエアギャップをあけて互いに対向する筒状に設けられ、コイルの発生磁束が通過する磁気回路を可動子と共に形成することにより、内周側において可動子を往復駆動する一対の固定子と、内室において一対の固定子の外周側に嵌合する筒状に設けられて一対の固定子間の磁気短絡を規制し、内周側のエアギャップを排出孔に連通させる排出通路を形成するスペーサとを、有することを特徴とする。
【0009】
この発明のリニアソレノイドでは、ケーシングの内室において軸方向にエアギャップをあけて互いに対向する一対の筒状固定子は、通電されたコイルの発生磁束が通過する磁気回路を可動子と共に形成することで、当該可動子を内周側において往復駆動する。その結果、可動子と一体の出力軸によりスリーブ内のスプールが駆動されることとなる制御弁は、当該スプールの往復移動に応じて進角室及び遅角室に対する作動液の入出を制御するので、回転位相の変化によるバルブタイミング調整が実現される。
【0010】
こうした構成において、制御弁のスリーブ内からケーシングの内室には、当該スリーブ内を通過する作動液が流入する。ここで、ケーシングの内室において固定子間の短絡を規制するために、それら固定子の外周側に嵌合するスペーサは、固定子間のエアギャップを外周側から取り囲む形態となる。故に、磁性異物が作動液中に含まれていると、ケーシング内室へ作動液が流入することで、当該異物がエアギャップに滞留して不要な磁気短絡を招く事態が、懸念される。
【0011】
しかし、ケーシング内室に設けられるスペーサには、内周側のエアギャップをケーシングの排出孔に連通させる排出通路が形成されるので、磁性異物は、作動液と共にエアギャップから排出通路に流入することで、排出孔からケーシングの外部へと排出され得る。これによれば、エアギャップにおける磁性異物の滞留に起因してスペーサによる磁気短絡の規制機能が低下する事態を回避できるので、出力軸によるスプール駆動の応答性、ひいてはバルブタイミング調整の応答性を確保可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によると、スペーサは、エアギャップの下方に排出通路を形成する。この発明のケーシング内室において重力作用を受ける磁性異物は、エアギャップの下方の排出通路に落ちて排出孔から排出され易くなる。これによれば、エアギャップでの磁性異物の確実な滞留抑制により磁気短絡の規制機能の低下を回避して、バルブタイミング調整の応答性の確保効果を高めることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によると、スペーサは、一対の固定子と嵌合する内周面において開口する排出溝により、排出通路を形成する。この発明では、スペーサの内周面における排出溝の開口は、当該内周面に嵌合する一対の固定子間の外周側ではエアギャップと連通する一方、それら固定子の外周側では塞がれることで、排出通路を確実に形成し得る。故に、こうして形成される排出通路を通じてエアギャップから磁性異物が排出されることによれば、磁性異物の滞留に起因して磁気短絡の規制機能が低下する事態を回避できるので、バルブタイミング調整の応答性の確保が可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明によると、排出溝は、スペーサにおいて水平方向を向く中心軸線まわりに並んでエアギャップの外周側から当該中心軸線に沿って延伸する3条以上の軸方向溝部を、有する。この発明のケーシング内室では、スペーサにおいて水平方向を向く中心軸線まわりに等間隔に並んだ軸方向溝部のうち、特にエアギャップの外周側にて下方に位置する溝部に、重力作用を受ける磁性異物が落ち易くなる。ここで、排出通路を形成する排出溝として、エアギャップ外周側からスペーサの中心軸線に沿って延伸する軸方向溝部は、内部に落ちた磁性異物を作動液と共に排出孔側へ案内して排出し得る。しかも、スペーサの中心軸線まわりに3条以上の軸方向溝部が等間隔に並ぶことから、一対の固定子に対するスペーサの周方向位置を任意に設定しても、少なくとも1条の軸方向溝部が固定子間のエアギャップの下方に位置して磁性異物の排出作用を発揮し得る。以上によれば、エアギャップでの磁性異物の確実な滞留抑制により磁気短絡の規制機能の低下を回避して、バルブタイミング調整の応答性の確保効果を高めることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によると、排出溝は、スペーサにおいて中心軸線まわりに延伸して複数の軸方向溝部及び排出孔と軸方向に連通する周方向溝部を、有する。この発明のケーシング内室では、スペーサにおいて水平方向を向く中心軸線まわりの複数の軸方向溝部に落ちた磁性異物は、それら溝部と連通する周方向溝部へ作動液と共に流入し得る。ここで、排出通路を形成する排出溝としてスペーサの中心軸線まわりに延伸する周方向溝部は、排出孔に対するスペーサの周方向位置を任意に設定しても、排出孔と対向して連通し得る。これによれば、エアギャップでの磁性異物の確実な滞留抑制により磁気短絡の規制機能の低下を回避して、バルブタイミング調整の応答性の確保効果を高めることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明によると、一対の固定子のうち少なくとも一方は、エアギャップ側の先端部に近接するほど外周側へ傾斜するテーパ部を、内周面に有する。この発明のケーシング内室では、一対の固定子のうち少なくとも一方の内周面においてエアギャップ側の先端部に近接するほど外周側へ傾斜するテーパ部が、当該エアギャップ側へ向かう整流作用を作動液に与え得る。これによれば、作動液と共に磁性異物がエアギャップに誘導されて外周側の排出通路に流入し易くなるので、当該エアギャップでの磁性異物の確実な滞留抑制により磁気短絡の規制機能の低下を回避して、バルブタイミング調整の応答性の確保効果を高めことができる。
【0017】
請求項7に記載の発明によると、一対の固定子のうち少なくとも一方は、エアギャップ側の先端部に近接するほど薄肉となる筒状に、設けられる。この発明のケーシング内室では、磁気回路を形成する一対の筒状固定子のうちエアギャップ側の先端部に近接するほど薄肉となる少なくとも一方は、磁束密度が高められる当該エアギャップ側先端部に磁性異物を引き付け易い。こうして引き付けられた磁性異物は、磁気回路を通過する磁束の消失により、先端部からエアギャップに離脱して外周側の排出通路に入り込み易くなるので、当該エアギャップにおける滞留を抑制され得る。これによれば、磁性異物の滞留に起因して磁気短絡の規制機能が低下する事態を回避できるので、バルブタイミング調整の応答性の確保が可能となる。
【0018】
請求項8に記載の発明によると、可動子は、コイルへの通電停止状態においてエアギャップの内周側に位置する先端部を有し且つ当該先端部に近接するほど薄肉となる筒状に、設けられる。この発明のケーシング内室では、先端部に近接するほど薄肉となる可動子は、磁束密度が高められる当該先端部に磁性異物を引き付け易い。こうして引き付けられた磁性異物は、磁気回路の通過磁束が消失するコイルへの通電停止状態では、エアギャップの内周側に位置する可動子の先端部から離脱して外周側の排出通路に入り込み易くなるので、当該エアギャップにおける滞留を抑制され得る。これによれば、磁性異物の滞留に起因して磁気短絡の規制機能が低下する事態を回避できるので、バルブタイミング調整の応答性の確保が可能となる。
【0019】
請求項9に記載の発明によると、スリーブは、作動液が通過する内部に連通する開口部を、有し、ケーシングは、スリーブの開口部と対向して内室を大気に開放する呼吸孔を、有する。この発明では、スリーブにおいて作動液が通過する内部に連通の開口部に対し、呼吸孔が対向してなるケーシングの内室には、それら開口部及び呼吸孔を通じて同スリーブ内の磁性異物が作動液と共に流入し易い。しかし、そうした磁性異物は、ケーシング内室のエアギャップ外周側の排出通路を通じて排出されることになるので、当該エアギャップでの滞留を抑制され得る。これによれば、磁性異物の滞留に起因して磁気短絡の規制機能が低下する事態を回避できるので、バルブタイミング調整の応答性の確保が可能となる。それと共に、可動子の移動に抵抗を与える内室の空気は、当該移動に伴って大気開放の呼吸孔から排出されることになるので、可動子と一体の出力軸によるスプール駆動を円滑化して、バルブタイミング調整の応答性の確保効果を高めることもできる。
【0020】
請求項10に記載の発明によると、スペーサは、一対の固定子に同軸上に嵌合する内周面において軸方向の端部に近接するほど外周側に傾斜する傾斜部を、有する。この発明では、スペーサの内周面のうち軸方向端部に近接するほど外周側に傾斜する傾斜部により、各固定子を当該スペーサの内周側へ案内して同軸上に嵌合させ易い。その結果、一対の固定子に対するスペーサの組み付けが容易となるので、それら固定子間のエアギャップの外周側にスペーサの排出通路を正しく配置し得る。故に、こうして配置される排出通路を通じてエアギャップから磁性異物が排出されることによれば、磁性異物の滞留に起因して磁気短絡の規制機能が低下する事態を回避できるので、バルブタイミング調整の応答性の確保が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置の基本構成を示す断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のバルブタイミング調整装置の別の作動状態を示す断面図である。
【図4】図1のバルブタイミング調整装置の別の作動状態を示す断面図である。
【図5】図1のバルブタイミング調整装置の別の作動状態を示す断面図である。
【図6】図1のリニアソレノイドの要部を拡大して示す断面図である。
【図7】図6のVII部をさらに拡大して示す断面図である。
【図8】図1のリニアソレノイドのスペーサを拡大して示す側面図(a)及び斜視図(b)である。
【図9】図6の変形例を示す断面図である。
【図10】図7の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置1を車両の内燃機関に適用した例を、示している。バルブタイミング調整装置1は、「作動液」として作動油を用いる流体駆動式であり、「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0023】
(基本構成)
まず、バルブタイミング調整装置1の基本構成について、説明する。図1,2に示すように、バルブタイミング調整装置1は、内燃機関においてクランク軸(図示しない)から出力の機関トルクをカム軸2へ伝達する伝達系に設置される回転機構部10と、当該機構部10を駆動するための作動油の入出を制御する制御部40とを、組み合わせてなる。
【0024】
(回転機構部)
回転機構部10において金属製のハウジング11は、シューリング12の軸方向両端部にプレート13,15を締結してなる。シューリング12は、円筒状のハウジング本体120と、仕切部である複数のシュー121,122,123と、スプロケット124とを有している。各シュー121,122,123は、ハウジング本体120において回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向内側へ突出している。回転方向において隣り合うシュー121,122,123の間には、それぞれ収容室20が形成されている。スプロケット124は、タイミングチェーン(図示しない)を介してクランク軸と連繋する。かかる連繋により内燃機関の回転中は、クランク軸からスプロケット124へと機関トルクが伝達されることで、ハウジング11がクランク軸と連動して一定方向(図2の時計方向)に回転する。
【0025】
金属製のベーンロータ14は、ハウジング11内に同軸上に収容されており、軸方向両端部をプレート13,15に対して摺動させる。ベーンロータ14は、円筒状の回転軸140と、複数のベーン141,142,143とを有している。回転軸140は、カム軸2に対して同軸上に固定されている。これによりベーンロータ14は、カム軸2と連動してハウジング11と同一方向(図2の時計方向)に回転可能且つハウジング11に対して相対回転可能となっている。
【0026】
各ベーン141,142,143は、回転軸140において回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出し、それぞれ対応する収容室20に収容されている。各ベーン141,142,143は、それぞれ対応する収容室20を回転方向に分割することにより、作動油が入出する進角室22,23,24及び遅角室26,27,28を、ハウジング11内に区画している。具体的には、シュー121及びベーン141の間には進角室22が形成され、シュー122及びベーン142の間には進角室23が形成され、シュー123及びベーン143の間には進角室24が形成されている。一方、シュー122及びベーン141の間には遅角室26が形成され、シュー123及びベーン142の間には遅角室27が形成され、シュー121及びベーン143の間には遅角室28が形成されている。
【0027】
ベーン141は、ハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相をロックするために、プレート13に設けられたロック孔130に嵌合するロック部材16を、収容している。それと共にベーン141は、ロック部材16をロック孔130から離脱させて回転位相のロックを解除するために作動油が導入されるロック解除室17を、形成している。
【0028】
以上の構成により回転機構部10では、ロック部材16による回転位相のロックが解除された状態にて、進角室22,23,24への作動油導入且つ遅角室26,27,28からの作動油排出により回転位相が進角側へ変化し、それに応じてバルブタイミングが進角する。一方、回転位相ロックが解除された状態にて、遅角室26,27,28への作動油導入且つ進角室22,23,24からの作動油排出により回転位相が遅角側へ変化し、それに応じてバルブタイミングが遅角することになる。
【0029】
(制御部)
制御部40において主進角通路41は、回転軸140の内周部に沿って形成されている。分岐進角通路42,43,44は回転軸140を貫通し、それぞれ対応する進角室22,23,24及び共通の主進角通路41と連通している。主遅角通路45は、回転軸140の内周部に開口する溝により形成されている。分岐遅角通路46,47,48は回転軸140を貫通し、それぞれ対応する遅角室26,27,28及び共通の主遅角通路45と連通している。ロック解除通路49は回転軸140を貫通し、ロック解除室17と連通している。
【0030】
主供給通路50は回転軸140を貫通し、供給源であるポンプ4にカム軸2の搬送通路3を介して連通している。ここでポンプ4は、内燃機関の回転に伴ってクランク軸により駆動されるメカポンプであり、当該回転中は、ドレンパン5から吸入した作動油を継続して吐出する。尚、搬送通路3は、カム軸2の回転に拘らず常にポンプ4の吐出口と連通可能となっており、内燃機関の回転中は、ポンプ4から吐出される作動油を主供給通路50側に継続して搬送する。
【0031】
副供給通路52は回転軸140を貫通し、主供給通路50から分岐している。副供給通路52は、ポンプ4から供給される作動油を、主供給通路50を通じて受ける。ドレン回収通路54は、回転機構部10及びカム軸2の外部に設けられている。ドレン回収部としてのドレンパン5と共に大気に開放されるドレン回収通路54は、当該ドレンパン5へ作動油を排出可能となっている。
【0032】
制御弁60は、リニアソレノイド70により発生する駆動力と、弾性部材80により当該駆動力と反対向きに発生する復原力とを利用して、スリーブ66内のスプール68を軸方向に往復移動させるスプール弁である。ここで、本実施形態の制御弁60及び弾性部材80は、連動回転要素2,14に同軸上に内蔵されることより、それら要素2,14と一体に回転する。
【0033】
具体的に制御弁60は、金属製スリーブ66内に金属製スプール68が摺動可能に収容されてなる。スリーブ66は、進角ポート661、遅角ポート662、ロック解除ポート663、主供給ポート664、副供給ポート665及びドレンポート666を、有している。ここで、進角ポート661は主進角通路41と連通し、遅角ポート662は主遅角通路45と連通し、ロック解除ポート663はロック解除通路49と連通している。また、主供給ポート664は主供給通路50と連通し、副供給ポート665は副供給通路52と連通し、一対のドレンポート666はドレン回収通路54と連通している。制御弁60は、これらポート661,662,663,664,665,666間の連通状態を、図1,3,4,5の如きスプール68の往復移動に応じて切り替えることにより、各室17,22,23,24,26,27,28に対する作動油の入出を制御する。尚、図1,3,4,5はそれぞれ、スプール68が所定の領域Rl,Ra,Rh,Rrに移動した状態を示している。
【0034】
具体的には、図1のロック領域Rlでは、進角ポート661が主供給ポート664と連通することにより、ポンプ4から供給の作動油が絞られて進角室22,23,24に導入される。それと共にロック領域Rlでは、遅角ポート662及びロック解除ポート663が共に各ドレンポート666と連通することにより、遅角室26,27,28及びロック解除室17の作動油がドレンパン5に排出される。したがって、ロック領域Rlでは、進角室22,23,24への小流量の作動油導入と、遅角室26,27,28からの作動油排出と、ロック解除室17からの作動油排出とにより、回転位相がロックされることになる。
【0035】
図3の進角領域Raでは、進角ポート661及びロック解除ポート663がそれぞれ主供給ポート664及び副供給ポート665と連通することにより、ポンプ4から供給の作動油が進角室22,23,24及びロック解除室17に導入される。それと共に進角領域Raでは、遅角ポート662が各ドレンポート666と連通することにより、遅角室26,27,28の作動油がドレンパン5に排出される。したがって、進角領域Raでは、ロック解除室17への作動油導入による回転位相のロック解除下、進角室22,23,24への作動油導入と、遅角室26,27,28からの作動油排出とにより、回転位相が進角側へと変化してバルブタイミングが進角することになる。
【0036】
図4の保持領域Rhでは、進角ポート661及び遅角ポート662が他のいずれのポートに対しても遮断されることにより、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が留められる。それと共に保持領域Rhでは、ロック解除ポート663が副供給ポート665と連通することにより、ポンプ4から供給の作動油がロック解除室17に導入される。したがって、保持領域Rhでは、ロック解除室17への作動油導入による回転位相のロック解除下、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28のいずれにも作動油が留められることで、変動トルクの影響による回転位相変化の範囲内にてバルブタイミングが保持される。
【0037】
図5の遅角領域Rrでは、遅角ポート662及びロック解除ポート663がそれぞれ主供給ポート664及び副供給ポート665と連通することにより、ポンプ4から供給の作動油が遅角室26,27,28及びロック解除室17に導入される。それと共に遅角領域Rrでは、進角ポート661が各ドレンポート666と連通することにより、進角室22,23,24の作動油がドレンパン5に排出される。したがって、遅角領域Rrでは、ロック解除室17への作動油導入による回転位相のロック解除下、遅角室26,27,28への作動油導入と、進角室22,23,24からの作動油排出とにより、回転位相が遅角側へと変化してバルブタイミングが遅角することになる。
【0038】
このような作動を実現する制御弁60では、スリーブ66の内部空間667を作動油が通過する。そのため、特に各ドレンポート666を作動油が通過する各領域Rl,Ra,Rrでは、リニアソレノイド70側のドレンポート666を形成して内部空間667に連通する開口部668から、外部のドレン回収通路54に排出される作動油が、ドレンパン5まで導かれるようになっている。
【0039】
図1に示す制御回路90は、例えばマイクロコンピュータ等を主体に構成される電子回路であり、リニアソレノイド70及び内燃機関の各種電装品(図示しない)と電気的に接続されている。制御回路90は、内部メモリに記憶のコンピュータプログラムに従って、リニアソレノイド70への通電を含む内燃機関の回転を制御する。
【0040】
(リニアソレノイドの特徴)
次に、リニアソレノイド70の特徴について、説明する。尚、以下の説明において参照する図6,7では、左右方向が水平面上の車両の水平方向と略一致し、上下方向が当該車両の鉛直方向と略一致している。
【0041】
図1,6に示すように、扁平型のリニアソレノイド70は、ケーシング71、モールドケース72、コイル73、ターミナル74、出力軸75、一対の固定子76,77、可動子78、並びにスペーサ79を備えている。
【0042】
ケーシング71は、鋼等の磁性材からなる一対のカップ710,711を組み合わせることにより、内室712を形成する中空状に構成されている。ケーシング71は、内燃機関のチェーンケース等の固定節に装着されることで、連動回転要素2,14と一体の制御弁60の回転に対して常に位置固定された状態となっている。
【0043】
図1に示すように、有底円筒状のフロントカップ710は、制御弁60のスリーブ66において作動油が内部空間667から排出される開口部668に対し、底部中央を同軸上に対向させて配置されている。このフロントカップ710の底部中央には、内室712を外部の大気に開放させる呼吸孔713と、出力軸75を軸受ブッシュ714を介して支持する軸受孔715とが、設けられている。また、フロントカップ710の底部において開口部668の側方から外れる箇所には、内室712に流入した作動油をケーシング71の外部に排出するための排出孔716が、設けられている。
【0044】
非磁性の樹脂からなるモールドケース72は、カップ710,711間を貫通することで、ケーシング71の内外に跨って配置されている。モールドケース72においてケーシング71の内室712に収容される部分は、コイル73を内包するボビン720を形成している。また、モールドケース72においてケーシング71の外部へ突出する部分は、ターミナル74を覆うコネクタ721を形成している。
【0045】
コイル73は、線材の巻回により全体として円筒状に形成され、ケーシング71の各カップ710,711内に同軸上に配置されている。コイル73を構成する金属製の線材は、金属製のターミナル74を介して制御回路90と電気的に接続されている。これによりコイル73は、制御回路90からの通電を受けて励磁することで、磁束を発生する。
【0046】
図1,6に示すように、金属から円柱棒状に形成される出力軸75は、軸受孔715の内周側を通じてケーシング71のフロントカップ710を貫通している。ケーシング71の外部において出力軸75は、制御弁60のうち弾性部材80の復原力をリニアソレノイド70側に受ける制御弁60のスプール68と同軸上に当接することで、当該スプール68を軸方向の両側Dg,Drに往復駆動可能となっている。
【0047】
フロント固定子76は、鋼等の磁性材からケーシング71のフロントカップ710と一体に有底円筒状に形成され、ケーシング71の内室712において出力軸75の外周側且つボビン720の内周側に同軸上に配置されている。この配置形態により、フロントカップ710においてスリーブ66の開口部668と対向する底部中央は、フロント固定子76の底部760を兼ねている。
【0048】
図6に示すように、フロント固定子76の内周面761には、底部760側から軸方向の先端部762に近接するほど外周側へ傾斜する内周テーパ部761aが、形成されている。また、フロント固定子76の外周面763には、底部760側からストレートに延伸する外周ストレート部763aと、このストレート部763a側から先端部762に近接するほど内周側へ傾斜する外周テーパ部763bとが、形成されている。こうした内外周面761,763の構成により、フロント固定子76の径方向厚さについては、内外周テーパ部761a,763bを径方向両側に形成する部分において、先端部762に近接するほど薄肉となっている。
【0049】
図1,6に示すように、リア固定子77は、鋼等の磁性材からなる一対の筒部材770,771を組み合わせて二重円筒状に構成され、ケーシング71の内室712において出力軸75の外周側且つボビン720の内周側に同軸上に配置されている。フランジ付円筒状の筒部材770,771は、有底円筒状のリアカップ711の底部に対し、各々のフランジ部772,773を面接触させている。また、外筒部材771のフランジ部773には、内周側にて内筒部材770のフランジ部772と嵌合する凹部774が設けられることにより、それら筒部材770,771が磁気的に接続されている。
【0050】
図6に示すように、外筒部材771の内周面775には、フランジ部773側から軸方向の先端部776までストレートに延伸する内周ストレート部775aが、形成されている。また、外筒部材771の外周面777には、フランジ部773側から一段階縮径して延伸する外周段付部777aと、この段付部777a側から先端部776に近接するほど内周側へ傾斜する外周テーパ部777bとが、形成されている。こうした内外周面775,777の構成により、外筒部材771の径方向厚さについては、内周ストレート部775a及び外周テーパ部777bを径方向両側に形成する部分において、先端部776に近接するほど薄肉となっている。
【0051】
図6,7に示すように、外筒部材771において内周ストレート部775aの一定内径と一致する先端部776の内径は、フロント固定子76において内周テーパ部761aの最小内径と一致する先端部762の内径に対し、略同一寸法に設定されている。また、外筒部材771における外周テーパ部777bの最大外径は、フロント固定子76における外周テーパ部763bの最大外径に対し、略同一寸法に設定されている。こうした寸法設定により各固定子77,76は、共通の中心軸線Oまわりに連続するエアギャップAGを、軸方向の先端部776,762間及びテーパ部777b,763b間にあけた状態で、互いに対向している。
【0052】
図1,6に示すように、鋼等の磁性材から円筒状に形成される可動子78は、出力軸75に同軸上に外嵌固定された状態で、ケーシング71の内室712に配置されている。ここで本実施形態では、出力軸75が軸受ブッシュ778を介してリア固定子77の内筒部材770に支持されることにより、可動子78も当該内筒部材770に支持されている。こうした構成により、図1,3,4,5に示す如く可動子78は、リア固定子77の外筒部材771の内周側と、エアギャップAGの内周側と、フロント固定子76の内周側とにおいて、出力軸75と一体に往復移動可能となっている。
【0053】
図6に示すように、可動子78の内周面782には、軸方向の後端部781側からストレートに延伸する内周ストレート部782aと、このストレート部782a側から軸方向の先端部780に近接するほど外周側へ傾斜する内周テーパ部782bとが、形成されている。また、可動子78の外周面783には、後端部781側からストレートに延伸する外周ストレート部783aと、このストレート部783a側から先端部780に近接するほど内周側へ傾斜する外周テーパ部783bとが、形成されている。こうした内外周面782,783の構成により、可動子78の径方向厚さについては、内外周テーパ部782b,783bを径方向両側に形成する部分において、先端部780に近接するほど薄肉となっている。
【0054】
このような可動子78は、コイル73の発生磁束が通過する磁気回路を一対の固定子76,77と共に形成することで、軸方向の両側Dg,Drに往復駆動されることになる。ここで特に、最大電流の通電によりコイル73の発生磁束の密度が最大となるときに可動子78は、図5に示す如く出力軸75を介してスプール68をスリーブ66に当接させることで、往方向Dgの移動を規制される。一方、通電の停止によりコイル73の発生磁束が消失するときに可動子78は、図1,6,7に示す如く先端部780がエアギャップAGの外周側に位置する状態で、後端部781がリア固定子77のフランジ部772に当接することで、復方向Drの移動を規制される。
【0055】
図1,6に示すように、非磁性材により円筒状に形成されるスペーサ79は、ケーシング71の内室712において一対の固定子76,77の外周側且つボビン720の内周側に同軸上に配置されている。ここで、スペーサ79及び固定子76,77に共通となる中心軸線O(本実施形態では、連動回転要素2,14及び制御弁60とも共通)は、水平面上の車両の略水平方向を向いている。
【0056】
図6,7,8に示すように、スペーサ79の内周面790には、軸方向の両端部793,794に近接するほど外周側に傾斜する傾斜部790a,790bが、形成されている。また、スペーサ79の内周面790は、フロント固定子76の外周面763のうち外周ストレート部763aと、リア固定子77をなす外筒部材771の外周面777のうち外周段付部777aの小径部分とに、圧入状態にて同軸嵌合している。これによりスペーサ79は、固定子76,77の同軸精度を高めていると共に、それら固定子76,77間のエアギャップAGにおいてコイル73の発生磁束が直接に短絡するのを規制している。
【0057】
さらにスペーサ79は、内周側のエアギャップAGをケーシング71の排出孔716に連通させるために、内周面790に開口して一部が固定子76,77に覆われる排出溝791により、排出通路792を形成している。ここで本実施形態の排出溝791は、3条以上(図8の例では、12条)の軸方向溝部791aと、1条の周方向溝部791bとを有している。スペーサ79のうちフロント固定子76側の端部793を除く大半部分において各軸方向溝部791aは、中心軸線Oまわりに等間隔に並び且つ中心軸線Oに沿う軸方向に延伸している。これにより各軸方向溝部791aは、固定子76,77に覆われていない開口を通じて連通するエアギャップAGに対し、その下方を含む外周側から軸方向両側へと延伸する形となっている。また、スペーサ79のうち排出孔716と対向する端部793において周方向溝部791bは、中心軸線Oまわりの周方向に延伸して各軸方向溝部791a間を接続している。これにより周方向溝部791bは、各軸方向溝部791a及び排出孔716と軸方向に連通している。
【0058】
以上の構成のリニアソレノイド70において、コイル73への通電が停止している図1,6の状態では、弾性部材80の復原力をスプール68及び出力軸75を介して受ける可動子78が、後端部781をリア固定子77のフランジ部772に当接させる。これより、可動子78及び出力軸75の復方向Drへの移動が規制されるので、スプール68がロック領域Rlに定位する。このとき可動子78の先端部780は、エアギャップAGの外周側に位置することになる。
【0059】
コイル73への通電が開始されると、当該コイル73の発生磁束がリア固定子77のフランジ部772から可動子78の端部781,780間を通過し、さらに先端部762を通してフロント固定子76を底部760側へ通過するように、磁気回路が形成される。これにより可動子78が、弾性部材80の復原力に抗して往方向Dgに駆動されるので、当該可動子78と一体の出力軸75によりスプール68も、弾性部材80の復原力に抗して往方向Dgに駆動される。その結果、可動子78の後端部781がリアカップ711から離間すると、当該コイル73の発生磁束がリア固定子77の先端部776から可動子78を先端部780側へ通過し、さらにフロント固定子76を底部760側へ通過するように、磁気回路が形成される。これにより可動子78は、コイル73への通電電流が増大するほど、図3,4,5の如く移動位置を往方向Dgに変化させることになるので、当該移動位置の変化に応じてスプール68は、図3,4,5の各領域Ra,Rh,Rrに移動することになる。
【0060】
(作用効果)
以上の装置1において、スリーブ66内からケーシング71の内室712には、それらスリーブ66及びケーシング71にそれぞれ設けられて対向する開口部668及び呼吸孔713等を通じて、作動油が流入し易い。ここで、内室712のうち固定子76,77間のエアギャップAGにて直接的な短絡を規制するために、それら固定子76,77の外周側に嵌合するスペーサ79は、当該エアギャップAGを外周側から取り囲むように配置されている。故に、ハウジング11に対するベーンロータ14の摺動やスリーブ66に対するスプール68の摺動によって生じた金属粉等の磁性異物が作動油中に含まれていると、当該磁性異物がエアギャップAGに滞留(場合によっては、堆積)して不要な磁気短絡を招く事態が、懸念される。
【0061】
そこで、装置1の内室712においては、スペーサ79の内周面790に開口する排出溝791のうち、各軸方向溝部791aが部分的に且つ周方向溝部791bが全体的に固定子76,77により覆われることで、排出通路792が確実に形成され得ている。これにより磁性異物は、エアギャップAGをケーシング71の排出孔716に連通させる排出通路792内に、エアギャップAGから作動油と共に流入することで、排出孔716からケーシング71の外部へと排出されることになる。
【0062】
ここでスペーサ79において、水平方向を向く中心軸線Oまわりに等間隔に並ぶ軸方向溝部791aのうち、エアギャップAGの外周側且つ下方に位置する少なくとも1条の溝部791a(例えば、図6,7に示す溝部791a)には、重力作用を受ける磁性異物が落ち易い。また、軸方向溝部791aに入り込んだ磁性異物は、スペーサ79において当該溝部791aが延伸する軸方向に作動油と共に案内されることで、周方向溝部791bを通じて当該溝部791aと連通する排出孔716から、排出され得る。したがって、エアギャップAGにおける磁性異物の滞留を抑制できるのである。
【0063】
また、フロント固定子76の内周面761においてエアギャップAG側の先端部762に近接するほど外周側へ傾斜する内周テーパ部761aは、当該エアギャップAG側へと向かう整流作用を作動油に与え得る。これにより、作動油と共にエアギャップAGへと誘導される磁性異物は、外周側の各軸方向溝部791aに流入し易くなるので、当該エアギャップAGでの滞留を確実に抑制できるのである。
【0064】
さらに、磁気回路を形成する各固定子76,77では、エアギャップAG側の先端部762,776に近接するほど薄肉となる径方向厚さの設定により、磁束密度が高められる当該先端部762,776に磁性異物を引き付け易いこうして引き付けられた磁性異物は、磁気回路を通過する磁束の消失により、先端部762,776からエアギャップAGに離脱することになる。その結果、離脱した磁性異物は、エアギャップAGの外周側の軸方向溝部791aのうち特に下方の溝部791aに入り込み易いので、当該エアギャップAGでの滞留を確実に抑制できるのである。
【0065】
またさらに、磁気回路を形成する可動子78では、エアギャップAG側の先端部780に近接するほど薄肉となる径方向厚さの設定により、磁束密度が高められる当該先端部780に磁性異物を引き付け易い。こうして引き付けられた磁性異物は、コイル73への通電停止により磁気回路の通過磁束が消失することで、エアギャップAGの内周側に位置する可動子78の先端部780から、離脱することになる。その結果、離脱した磁性異物は、エアギャップAGを通じて外周側の軸方向溝部791a、特に下方の溝部791aに入り込み易いので、これによっても、当該エアギャップAGでの滞留を確実に抑制できるのである。
【0066】
ここまで説明した装置1によれば、固定子76,77間のエアギャップAGに磁性異物が滞留することで、スペーサ79による磁気短絡の規制機能が低下する事態につき、回避され得る。したがって、可動子78と一体の出力軸75によるスプール68の駆動応答性、ひいてはバルブタイミングの調整応答性を、確保することができるのである。加えて、可動子78の移動に抵抗を与える内室712の空気は、当該移動に伴って呼吸孔713から排出されることになるので、可動子78と一体の出力軸75によるスプール68の駆動を円滑化して、バルブタイミングの調整応答性の確保効果を高めることもできる。
【0067】
以上の他、スペーサ79の内周面790には、軸方向両端部793,794に近接するほど外周側に傾斜する傾斜部790a,790bが、設けられている。これによれば、フロント固定子76及びリア固定子77(外筒部材771)をスペーサ79内へ軸方向両側から同軸嵌合させる際には、それら各固定子76,77がそれぞれ両端部793,794の傾斜部790a,790bにより案内されることで、当該嵌合を容易となし得る。したがって、固定子76,77の組み付け易さが向上するので、装置1の生産性及びコスト性を高めることができるのである。
【0068】
また、中心軸線Oのまわりに3条以上の軸方向溝部791aが等間隔に並ぶスペーサ79については、各固定子76,77に対する周方向位置を任意に設定しても、少なくとも1条の軸方向溝部791aを固定子76,77間のエアギャップAGの下方に位置させ得る。それと共に、中心軸線Oまわりの周方向に周方向溝部791bが延伸するスペーサ79については、排出孔716に対する周方向位置を任意に設定しても、周方向溝部791bを排出孔716と対向させて連通させ得る。こうしたスペーサ79によれば、組み付け易さが向上するので、これによっても、装置1の生産性及びコスト性を高めることができるのである。
【0069】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0070】
具体的には、変形例を図9に示すように、先端部776に近接するほど外周側に傾斜する内周テーパ部775bが、リア固定子77の内周面775に形成される構成を、採用してもよい。また、底部760側から先端部762に近接するほど外周側へ傾斜する内周テーパ部761aが、フロント固定子76の内周面761に形成されない構成を、採用してもよい。さらに、固定子76,77の少なくとも一方について、先端部762,776に近接するほど薄肉となる構成に代え、例えば先端部762,776に向かって肉厚が一定となる構成を、採用してもよい。またさらに、可動子78について、先端部780に近接するほど薄肉となる構成に代え、例えば先端部780に向かって肉厚が一定となる構成を、採用してもよい。
【0071】
呼吸孔713については、スリーブ66の開口部668の側方を外れてケーシング71に設けられる構成、あるいはケーシング71に設けられない構成を、採用してもよい。また、傾斜部790a,790bについては、一方のみが設けられる構成、あるいは双方が設けられない構成を、採用してもよい。
【0072】
排出通路792を形成する排出溝791については、1条の軸方向溝部791aがエアギャップAGの外周側に、特に下方のみに設けられる構成を、採用してもよい。また、エアギャップAGの下方のみに1条の軸方向溝部791aが設けられる場合には、変形例を図10に示すように、排出溝791に周方向溝部791bが設けられず、かかる軸方向溝部791aが排出孔716に対して位置合わせされる構成を、採用してもよい。この他、スペーサ79を貫通して内周面790及び端部793に開口する貫通孔により、排出通路792が形成される構成を、採用してもよい。
【0073】
「スペーサ」としては、上述の実施形態の如く排出通路792を形成する非磁性スペーサ79に代え、例えば排出通路792を形成するボビン720を、採用してもよい。また、「制御弁」としては、リニアソレノイド70の出力軸75によりスリーブ66内のスプール68を往復駆動可能な構成であれば、各種の構成を採用することができる。そして、本発明は、「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、それら吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置に、適用することができるのである。
【符号の説明】
【0074】
1 バルブタイミング調整装置、2 カム軸・連動回転要素、10 回転機構部、11 ハウジング、12 シューリング、14 ベーンロータ・連動回転要素、22,23,24 進角室、26,27,28 遅角室、40 制御部、60 制御弁、66 スリーブ、68 スプール、70 リニアソレノイド、71 ケーシング、72 モールドケース、73 コイル、74 ターミナル、75 出力軸、76 フロント固定子、77 リア固定子、78 可動子、79 スペーサ、80 弾性部材、90 制御回路、667 内部空間、668 開口部、710 フロントカップ、711 リアカップ、712 内室、713 呼吸孔、714,778 軸受ブッシュ、715 軸受孔、716 排出孔、720 ボビン、721 コネクタ、760 底部、761,775,782,790 内周面、761a,775b,782b 内周テーパ部、762,776,780 先端部、763,777,783 外周面、763a,783a 外周ストレート部、763b,777b,783b 外周テーパ部、770 内筒部材、771 外筒部材、772,773 フランジ部、774 凹部、775a,782a 内周ストレート部、777a 外周段付部、781 後端部、790a,790b 傾斜部、791 排出溝、791a 軸方向溝部、791b 周方向溝部、792 排出通路、793,794 端部、AG エアギャップ、Dg 往方向、Dr 復方向、O 中心軸線、Ra 進角領域、Rh 保持領域、Rl ロック領域、Rr 遅角領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、
前記クランク軸と連動回転するハウジングと、
前記カム軸と連動回転し、前記ハウジング内において進角室及び遅角室を回転方向に区画し、作動液が前記進角室又は前記遅角室へ導入されることにより、前記ハウジングに対する回転位相が進角側又は遅角側へ変化するベーンロータと、
前記ベーンロータ及び前記カム軸からなる連動回転要素に内蔵され、作動液が通過するスリーブ内のスプールが往復移動するのに応じて前記進角室及び前記遅角室に対する作動液の入出を制御する制御弁と、
出力軸により前記スプールを往復駆動するリニアソレノイドとを、備えるバルブタイミング調整装置において、
前記リニアソレノイドは、
通電により磁束を発生するコイルと、
前記スリーブ内から作動液が流入する内室、並びに前記内室から作動液を外部に排出する排出孔を形成するケーシングと、
前記内室において前記出力軸と一体に往復移動する可動子と、
前記内室において軸方向にエアギャップをあけて互いに対向する筒状に設けられ、前記コイルの発生磁束が通過する磁気回路を前記可動子と共に形成することにより、内周側において前記可動子を往復駆動する一対の固定子と、
前記内室において前記一対の固定子の外周側に嵌合する筒状に設けられて前記一対の固定子間の磁気短絡を規制し、内周側の前記エアギャップを前記排出孔に連通させる排出通路を形成するスペーサとを、有することを特徴とするバルブタイミング調整装置。
【請求項2】
前記スペーサは、前記エアギャップの下方に前記排出通路を形成することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項3】
前記スペーサは、前記一対の固定子と嵌合する内周面において開口する排出溝により、前記排出通路を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項4】
前記排出溝は、前記スペーサにおいて水平方向を向く中心軸線まわりに等間隔に並んで前記エアギャップの外周側から前記中心軸線に沿って延伸する3条以上の軸方向溝部を、有することを特徴とする請求項3に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項5】
前記排出溝は、前記スペーサにおいて前記中心軸線まわりに延伸して前記複数の軸方向溝部及び前記排出孔と軸方向に連通する周方向溝部を、有することを特徴とする請求項4に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項6】
前記一対の固定子のうち少なくとも一方は、前記エアギャップ側の先端部に近接するほど外周側へ傾斜するテーパ部を、内周面に有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項7】
前記一対の固定子のうち少なくとも一方は、前記エアギャップ側の先端部に近接するほど薄肉となる筒状に、設けられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項8】
前記可動子は、前記コイルへの通電停止状態において前記エアギャップの内周側に位置する先端部を有し且つ当該先端部に近接するほど薄肉となる筒状に、設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項9】
前記スリーブは、作動液が通過する内部に連通する開口部を、有し、
前記ケーシングは、前記スリーブの前記開口部と対向して前記内室を大気に開放する呼吸孔を、有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項10】
前記スペーサは、前記一対の固定子に同軸上に嵌合する内周面において軸方向の端部に近接するほど外周側に傾斜する傾斜部を、有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−163050(P2012−163050A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24341(P2011−24341)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】