説明

バレルめっき方法

【課題】 めっき液の汚染の抑制が図られると共に、形成されるめっき被膜の膜厚の均一化が図られたバレルめっき方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るバレルめっき方法は、被処理物22と、被処理物22に金属をめっきするためのめっき液24と、めっき液24によって被処理物22にめっきされる金属と同じ金属によって構成されたダミーボール10とを準備する工程と、ダミーボール10及び被処理物22をバレル26の中に投入する工程と、バレル26をめっき液24に浸漬させて通電し、被処理物22に金属をめっきする工程とを備えることを特徴とする。このバレルめっき方法においては、ダミーボール10が溶け出しても、溶け出した金属と被処理物にめっきされる金属とが同じNiであるため、めっき液24の汚染が抑制される。ダミーメディア10がセラミックのコアを含んでいないため、被処理物22に形成されるめっき被膜の膜厚の均一化も図られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダミーメディアを用いたバレルめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この技術の分野におけるバレルめっき方法は、例えば、下記特許文献1に開示されている。この公報に示されているように、バレルめっき方法では、ダミーメディアとして、鉄系合金球のダミーボールや、鉄系合金球やセラミック球に金属めっきを被膜させたダミーボールを用いるのが一般的である。
【特許文献1】特開2003−328195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来のバレルめっき方法には、次のような課題が存在している。
【0004】
ダミーメディアとして鉄系合金球のダミーボールを用いた場合には、ダミーボール同士が衝突した際やダミーボールがバレル容器に接触した際に、鉄の微粉が生じ、この微粉がめっき液を汚染してしまう。また、ダミーメディアとして鉄系合金球に金属被膜をめっき形成したダミーボールを用いた場合でも、コアの鉄系合金球の異種金属成分が金属被膜のピンホールからめっき液中に溶け出してめっき液を汚染してしまう。
【0005】
そして、鉄の微粉や鉄系合金球の異種金属成分によってめっき液が汚染された場合には、被処理物に良好なめっき被膜を形成することができないという問題があった。
【0006】
一方、ダミーメディアとしてセラミック球に金属被膜をめっき形成したダミーボールを用いた場合には、基本的にセラミックは絶縁体であるため、めっきの際、電流はセラミック球表面に薄く形成された金属めっきにしか流れない。そのため、ダミーメディアの電流密度が不均一になりやすく、それに伴い、被処理物に形成されるめっき被膜の膜厚が不均一になってしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、めっき液の汚染の抑制が図られると共に、形成されるめっき被膜の膜厚の均一化が図られたバレルめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るバレルめっき方法は、被処理物と、被処理物に金属をめっきするためのめっき液と、めっき液によって被処理物にめっきされる金属と同じ金属によって構成されたダミーメディアとを準備する工程と、ダミーメディア及び被処理物をバレルの中に投入する工程と、バレルをめっき液に浸漬させて通電し、被処理物に金属をめっきする工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
このバレルめっき方法においては、ダミーメディアが溶け出しても、溶け出した金属と被処理物にめっきされる金属とが同じであるため、めっき液の汚染が抑制される。また、ダミーメディアがセラミックのコアを含んでいないため、被処理物に形成されるめっき被膜の膜厚の均一化が図られている。なお、被処理物はセラミック電子部品であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、めっき液の汚染の抑制が図られると共に、形成されるめっき被膜の膜厚の均一化が図られたバレルめっき方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明に係るバレルめっき方法を実施するにあたり最良と思われる形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るバレルめっき方法に用いるダミーボール10の断面図である。この図1に示すように、このダミーボール10は球状又は略球状のボールである。そして、このダミーボール10は、その全体が金属のNiで構成されている。なお、このNiは若干の不純物を含んでいてもよいが、Niの構成比が高いほど好ましい。
【0013】
次に、ダミーボール10をダミーメディアとして用いてバレルめっきをおこなう方法を、図2及び図3を参照しつつ説明する。図2はバレルめっき装置20の概略構成を示し、図3はバレルめっき方法の概略手順を示している。
【0014】
ダミーボール10を用いてバレルめっきをおこなう際は、まず、上記ダミーボール10に加えて、被処理物22とめっき液24とを準備する(ステップS01)。
【0015】
ここで、被処理物22は、例えば、積層セラミックコンデンサや圧電共振部品、チップ抵抗部品等のセラミック電子部品である。これらのセラミック電子部品は外部電極を有しており、この外部電極の表面にNiで構成されためっき被膜が形成される。また、めっき液24は、被処理物22であるセラミック電子部品の外部電極の表面に上記めっき被膜を形成するものである。
【0016】
ダミーボール10、被処理物22及びめっき液24を準備した後、ダミーボール10と被処理物20とをバレルめっき装置20のバレル26内に投入する(ステップS02)。ダミーボール10と被処理物22とを投入したバレル26をめっき液24に浸漬する(ステップS03)。その後、電極28及びバレル26に通電すると共に、バレル26を軸30を中心として揺動させて電解めっき処理をおこなう(ステップS04)。
【0017】
図2に示すように、バレル26内において被処理物22はダミーボール10を介してバレル26と電気的に接続されるので、被処理物22に斑なくめっき処理をおこなうことができる。
【0018】
以上で示したバレルめっき方法では、めっき液24は、ダミーボール10の構成金属と同じ金属(すなわちNi)を被処理物22にめっきする。つまり、ダミーボール10の構成金属と、めっき液24が被処理物22にめっきする金属(以下、めっき析出金属と称す。)とは同じである。そのため、ダミーボール10がめっき液24に溶け出した場合でも、めっき液24の汚染が抑制される。
【0019】
一方、ダミーメディアとして鉄系合金球のダミーボールを用いた従来のバレルめっき方法では、ダミーボールがめっき液24に溶け出した場合には、その溶け出した異種金属成分によってめっき液24が汚染されていた。そして、溶け出した異種金属成分が被処理物22に形成されるめっき被膜中に共析して、良好なめっき被膜を形成することができなかった。そのため、良好な被膜形成を維持するためには、めっき液を頻繁に新しいものに交換する必要があり、処理コストの増大及び生産効率の低下を招いていた。その上、ダミーボール同士が衝突した際やダミーボールがバレル26に接触した際に、鉄の微粉が生じて、この微粉がめっき液24のさらなる汚染を招いていた。
【0020】
また、従来のバレルめっき方法には、ダミーメディアとして、図4に示すような球状のコア42とこのコア42の周囲を覆う金属被膜44とで構成されたダミーボール40を用いるものもあった。
【0021】
そして、コア42に鉄系合金球を採用したダミーボール40を用いた場合には、コア42の異種金属成分が金属被覆44のピンホールからやはりめっき液24中に溶け出してめっき液24を汚染していた。また、コア42にセラミック球を採用したダミーボール40を用いた場合には、めっきの際に、コア42の表面に薄く形成された金属被膜44にしか電気が流れず、ダミーボール40の電流密度が不均一になりやすかったため、被処理物22に形成されるめっき被膜の膜厚が不均一になりやすかった。加えて、コア42として用いるセラミック球が高価であるという問題もあった。
【0022】
以上で詳細に説明したように、本発明の実施形態に係るバレルめっき方法では、ダミーボール10の構成金属も、めっき液24のめっき析出金属も、共にNiである。そのため、ダミーボール10がめっき液24に溶け出した場合でも、溶け出したNi成分(つまり、めっき液24と同種の金属成分)によってめっき液24が汚染される事態が抑制されている。また、ダミーボール10は、鉄系合金球のコアを含んでいないため、コアの異種金属成分が溶け出してめっき液24を汚染することもない。さらに、ダミーボール10は、セラミック球のコアを含んでいないため、被処理物22に均一な膜厚のめっき被膜が形成される。
【0023】
なお、以上では被処理物22にNiをめっきする方法を例に説明したが、これに限らず、Cu、Sn、Ag、Au、Zn、Co、Cr、Pd、Pb、Bi等のめっきにも応用することができる。その際にも、被処理物22にめっきする金属に合わせて、その金属で構成されたダミーボールを準備し、そのダミーボールを用いてバレルめっきをすればよい。また、被処理物22に複数のめっき被膜を形成する場合には、めっき液を交換する際に、それに併せて、そのめっき液のめっき析出金属と同じ金属で構成されたダミーボールに交換する。
【0024】
また、被処理物22は、電気伝導性を有する部材を含むものであれば、セラミック電子部品に限定されず、その他の電子部品、構造物、金具等であってもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の効果をより一層明らかなものとするために実施例を示す。
【0026】
発明者らは、図1に示したダミーボール10と同様のダミーボールであって、構成金属がCu、Ni、Sn、Ag、Au、Zn、Co、Cr、Pd、Pb、Biであるダミーボールをそれぞれ10個ずつ準備した。また、図4に示したダミーボール40と同様のダミーボールであって、コア42の構成金属がFeであり、金属被膜44の構成金属がCu、Ni、Sn、Ag、Au、Zn、Co、Cr、Pd、Pb、Biであるダミーボールをそれぞれ10個ずつ準備した。
【0027】
そして、実施例1として、構成金属がCuであるダミーボールを用いて被処理物にCuのバレルめっきをおこない、併せて、コアの構成金属がFeで金属被膜の構成金属がCuであるダミーボールを用いて被処理物にCuをバレルめっきをおこなった。同様に、実施例2〜11として、Ni、Sn、Ag、Au、Zn、Co、Cr、Pd、Pb、Biのバレルめっきをおこなった(下記表1参照)
【表1】



【0028】
そして、めっき後のめっき液のFeイオン濃度を測定した。その結果、実施例1では、構成金属がCuであるダミーボールを用いた場合の濃度の、コアの構成金属がFeで金属被膜の構成金属がCuであるダミーボールを用いた場合の濃度に対する割合(Feイオン濃度比)は0.1であった。また、実施例2〜11においても、同様に、Feイオン濃度比は0.1であった(下記表2参照)。
【表2】



【0029】
この結果から、ダミーボールの構成金属がめっき析出金属と同じである場合は、ダミーボールの構成金属がめっき析出金属とは異なる場合に比べて、めっき液の汚染が1/10にまで抑制されることがわかる。
【0030】
また、めっき液の汚染によってめっき液を新しいものに交換する頻度を測定した。その結果、実施例1では、構成金属がCuであるダミーボールを用いた場合の頻度の、コアの構成金属がFeで金属被膜の構成金属がCuであるダミーボールを用いた場合の頻度に対する割合(めっき液更新回数比)は0.1であった。また、実施例2〜11においても、同様に、めっき液更新回数比は0.1であった(下記表3参照)。
【表3】



【0031】
この結果から、ダミーボールの構成金属がめっき析出金属と同じである場合は、ダミーボールの構成金属がめっき析出金属とは異なる場合に比べて、めっき液の交換回数が1/10にまで抑制されることがわかる。このようにめっき液の交換回数が減ることで、処理コストが減少し、且つ、生産効率が向上する。
【0032】
また、実施例12として、被処理物に対して、Niで構成されたダミーボールを用いてNiめっきをした後、Snで構成されたダミーボールを用いてSnめっきをおこなった場合(実施例)と、被処理物に対して、Feで構成されたダミーボールを用いてNiめっき及びSnめっきを順次おこなった場合(比較例)とで、めっき液中の「Feイオン濃度比」、めっき液中の「Niイオン濃度比」、Niめっきの際の「Niめっき液更新回数比」、Snめっきの際の「Snめっき液更新回数比」を測定した(下記表4参照)。
【表4】



【0033】
この結果から、実施例では、比較例に対して、「Feイオン濃度比」、「Niイオン濃度比」、「Niめっき液更新回数比」、「Snめっき液更新回数比」がいずれも0.1となった。つまり、実施例のように、めっき液を交換する際に、それに併せて、そのめっき液のめっき析出金属と同じ金属で構成されたダミーボールに交換することで、めっき液の汚染が抑制されると共に、めっき液の交換回数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係るダミーボールを示した概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るバレルめっき装置を示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係るバレルめっき方法の手順を示したフロー図である。
【図4】従来技術に係るダミーボールを示した概略断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10,40…ダミーボール、20…バレルめっき装置、22…被処理物、24…めっき液、26…バレル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物と、前記被処理物に金属をめっきするためのめっき液と、前記めっき液によって前記被処理物にめっきされる前記金属と同じ金属によって構成されたダミーメディアとを準備する工程と、
前記ダミーメディア及び前記被処理物をバレルの中に投入する工程と、
前記バレルを前記めっき液に浸漬させて通電し、前記被処理物に前記金属をめっきする工程と、
を備える、バレルめっき方法。
【請求項2】
前記被処理物がセラミック電子部品である、請求項1に記載のバレルめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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