説明

バレルめっき装置、およびバレルめっき装置用の陰極装置

【課題】めっき厚のばらつきを小さくすることができ、かつ、めっき効率を向上させることができ、さらには、給電棒、陰極部、およびバレル容器の破損を防止できるバレルめっき装置、およびバレルめっき装置用の陰極装置を提供すること。
【解決手段】本願発明に係るバレルめっき装置2は、めっき槽4と、陽極部6と、陰極部10と、自転自在であるバレル容器12と、バレル容器12を自転させるバレル用駆動部と、陰極部10が形成され、バレル容器12の内部へ差し込まれる複数の給電棒8と、複数の給電棒8が連結されたリボルバー部11とを有する。複数の給電棒8は、互いに所定の間隔をおいて配置され、複数の給電棒8のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えることによって、複数の給電棒8が、リボルバー部11の回転軸36に対して、連動して回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ部品用のバレルめっき装置、およびバレルめっき装置用の陰極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チップコンデンサ、チップインダクタ、チップバリスタなどの電子部品では、キャップ状の外部電極がセラミック素子本体の長さ方向の両端側に形成されている。このような外部電極は、通常、電解めっき法等により形成される。電解めっき法で外部電極を形成する場合、一般的に、バレルめっき法を用いる(特許文献1参照)。
【0003】
バレルめっき法では、バレル容器内に、被めっき物、導電性ダミー(メディア)を投入する。このバレル容器を、めっき槽に浸漬させた状態で回転させることによって、被めっき物をめっきする。なお、導電性ダミーは、陰極と被めっき物との間の導通を得るために用いられる。このような従来のめっき法では、バレル容器内の攪拌が不十分であるため、めっき厚がばらつき、めっき効率が低下する恐れがあった。この問題の対策としては、バレル容器内に、非導電性ダミー(攪拌部材)を投入することが挙げられる。この非導電性ダミーによって、バレル容器内の攪拌が促進される(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、従来のバレルめっき法では、陰極部の形成された給電棒と、バレル容器の内壁との間に、被めっき物、導電性ダミー、あるいは非導電性ダミーが挟まることが問題となる。特に、非導電性ダミーは、被めっき物、導電性ダミーに比べて寸法が大きいため、挟まりやすい。給電棒と、バレル容器の内壁との間に、非導電性ダミーが挟まると、バレル容器の回転速度が不安定になる。その結果、めっき厚がばらつき、めっき効率が低下する恐れがある。また、給電棒、陰極部、あるいはバレル容器が破損する恐れもある。
【特許文献1】登録実用新案公報第3049355号
【特許文献2】特開平10−212596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、めっき厚のばらつきを小さくすることができ、かつ、めっき効率を向上させることができ、さらには、給電棒、陰極部、およびバレル容器の破損を防止できるバレルめっき装置、およびバレルめっき装置用の陰極装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明に係るバレルめっき装置は、
めっき槽と、
陽極部と、
陰極部と、
自転自在であるバレル容器と、
前記バレル容器を自転させるバレル用駆動部と、
前記陰極部が形成され、前記バレル容器の内部へ差し込まれる複数の給電棒と、
前記複数の給電棒が連結されたリボルバー部と、を有し、
前記複数の給電棒が、互いに所定の間隔をおいて配置され、
前記複数の給電棒のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えることによって、前記複数の給電棒が、前記リボルバー部の回転軸に対して、連動して回転することを特徴とする。
【0007】
また、本願発明に係るバレルめっき装置用の陰極装置は、
陰極部と、
前記陰極部が形成された複数の給電棒と、
前記複数の給電棒が連結されたリボルバー部と、を有し、
前記複数の給電棒が、互いに所定の間隔をおいて配置され、
前記複数の給電棒のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えることによって、前記複数の給電棒が、前記リボルバー部の回転軸に対して、連動して回転することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記バレル容器の自転時において、前記バレル容器の内壁と、前記給電棒との間に、非導電性ダミー(攪拌部材)が挟まった場合に、当該非導電性ダミーが、当該給電棒に対して、前記所定の閾値以上のトルクを与えることを特徴とする。
【0009】
バレル容器の自転時において、バレル容器の内壁と、給電棒との間に、非導電性ダミーが挟まった場合、非導電性ダミーが、バレル容器の内壁および給電棒に対して、物理的負荷を与える。この負荷は、給電棒に対して、トルクとして作用する。このトルクが所定の閾値以上となると、複数の給電棒が、リボルバー部の回転軸に対して、連動して回転する。その結果、挟まった非導電性ダミーが、バレル容器の内壁と、給電棒との間から解放される。その結果、バレル容器の内壁および給電棒に対する物理的負荷が軽減、解消する。
【0010】
本願発明に係るバレルめっき装置は、上記の機能を備えることによって、バレル容器の回転速度(自転速度)を安定させることができる。その結果、めっき厚のばらつきを防止し、かつ、めっき効率を安定させることができる。また、非導電性ダミーが、バレル容器の内壁および給電棒に対して与える物理的負荷を即時に軽減、解消することができる。その結果、給電棒、陰極部、およびバレル容器の破損を防止することができる。
【0011】
好ましくは、前記複数の給電棒に形成された前記陰極部のうち、前記バレル容器の内部に位置する被めっき物および/または導電性ダミーと接触する陰極部のみが、電源を介して前記陽極部と電気的に接続される。
【0012】
すなわち、複数の陰極部のうち、被めっき物および/または導電性ダミーと接触する陰極部のみが、通電され、被めっき物に対して、めっきを施す。一方、被めっき物および/または導電性ダミーと接触しない陰極部には、通電しない。その結果、陰極部自体の表面にめっきが施されることを防止することができる。
【0013】
好ましくは、前記複数の給電棒のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えることによって、前記リボルバー部および前記複数の前記給電棒が、前記リボルバー部の回転軸に対して、一体となって回転する。
【0014】
あるいは、リボルバー部を構成する部位のうち、給電棒と連結する部位のみが、給電棒と一体となって回転し、給電棒と連動しない部位は、リボルバー部の回転軸に対して固定されていても良い。
【0015】
好ましくは、前記複数の給電棒が、前記リボルバー部の前記回転軸に対して垂直な平面において、前記回転軸を中心とする略同心円上に配置される。さらに好ましくは、前記複数の給電棒が、前記略同心円上において、互いに等間隔をおいて配置される。
【0016】
複数の給電棒が、リボルバー部の回転軸に対して、連動して回転した場合であっても、上記の配置をとることにより、複数の陰極部のうち少なくともいずれかを、被めっき物、導電性ダミーおよびめっき液と接触させることができる。換言すれば、めっき工程において、複数の陰極部のいずれも、被めっき物、導電性ダミーおよびめっき液と接触しないような事態を回避できる。その結果、めっき厚のばらつきを防止し、かつ、めっき効率を向上させることができる。
【0017】
好ましくは、前記所定の閾値が、0N・m超30N・m以下である。
【0018】
好ましくは、前記給電棒が、当該給電棒の長軸回りに自転自在である。
【0019】
各給電棒が自転自在であることによって、バレル容器内部の攪拌を促進することができる。また、給電棒とバレル容器内壁との間あるいは給電棒間に、非導電性ダミー(あるいは、被めっき物、導電性ダミー)が挟まり難くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るバレルめっき装置の概略断面図、
図2は、図1に示すバレルめっき装置の有する陰極装置(給電棒およびリボルバー部)の斜視図(概略図)、
図3は、図2に示す陰極装置を、リボルバー部の回転軸方向から観察した概略図、
図4は、図1に示すバレル容器および陰極装置(給電棒およびリボルバー部)の拡大断面図、
図5Aは、図4に示す複数の給電棒を、リボルバー部の回転軸に垂直な平面で切断した断面をバレル容器側から観察した模式図、
図5Bは、図5Aに示す複数の給電棒を90°回転させた模式図、
図6は、本願発明の他の実施形態に係る陰極装置の斜視図(概略図)である。
【0021】
バレルめっき装置の構成
図1に示すように、本実施形態に係るバレルめっき装置2は、主に、めっき槽4、陽極部6、給電棒8、陰極部10、リボルバー部11、リボルバー部11の回転軸36、およびバレル容器12から構成される。陽極部6と、陰極部10の少なくともいずれかは、電源3に電気的に接続される。
【0022】
バレル容器12は、その少なくとも一部が、めっき槽4を満たすめっき液14に浸漬されるように設置される。バレル容器12の内部には、被めっき物、導電性ダミー、および非導電性ダミー(攪拌部材)等が投入される(図示省略)。バレル容器12には、その外部から内部へめっき液14が浸透する構造を備えている。本実施形態においては、バレル容器12の側面に、複数の通孔16(開口部)が貫通している。この通孔16を通じて、めっき液14が、めっき槽4と、バレル容器12の内部との間を移動することができる。通孔16の代わりとして、バレル容器12の側面がメッシュ構造を有しても良い。
【0023】
バレル容器12、ギア18、および回転軸20は連結され、連動する。回転軸20は、回動自在となるようにフレーム22に取り付けられている。よって、回転軸20と連動するバレル容器12も、自転自在となる。また、ギア18と噛み合うギア24、回転軸26、およびギア28は連結され、連動する。回転軸26は、回動自在となるようにフレーム22に取り付けられている。ギア28と噛み合うギア30、およびギア30と連結、連動する回転軸32は、モーター34によって回転させることができる。
【0024】
このように、バレル容器12、ギア18,24,28,30,回転軸20,26,32は、モーター34によって駆動され、連動する。すなわち、ギア18,24,28,30,回転軸20,26,32、およびモーター34は、バレル容器12を自転させるための駆動機構(以下、バレル用駆動部と記す)を構成する。このバレル用駆動部によって、バレル容器12を自転させることができる。また、モーター34と接続したバレル自転制御装置35によって、バレル容器12の回転速度(自転速度)を自在に制御することができる。バレルめっき装置2の稼働時には、バレル容器12が、回転軸20を中心に自転することによって、バレル容器12の内部に位置するめっき液14、被めっき物、導電性ダミーが攪拌される。さらに、バレル容器内の非導電性ダミーが、この攪拌を促進する。
【0025】
バレル容器12の形状は、特に限定されないが、通常、回転軸20を対称軸とする回転対称性のある形状である。特に、バレル容器12の断面(回転軸20に対して垂直方向の断面)が、正多角形であるバレル容器は、断面が円形であるバレル容器に比べて、バレル容器12の内部を攪拌する効果に優れている。また、バレル容器12の素材としては、特に限定されないが、通常、プラスチック等が用いられる。
【0026】
リボルバー部11は、リボルバー部11の回転軸36に連結している。回転軸36は、フレーム38に連結、固定されている。回転軸36に垂直な方向におけるリボルバー部11の断面は、円形である。回転軸36の中心が、この円の中心を貫くような位置関係で、リボルバー部11と回転軸36とが連結されている。
【0027】
リボルバー部11の側面(バレル容器12側)には、複数(本実施形態では4本)の給電棒8が連結、固定されている。よって、リボルバー部11と、複数の給電棒8との相対的な位置関係は、常に固定されている。また、各給電棒8の先端(バレル容器側)には、それぞれ陰極部10が形成されている。
【0028】
給電棒8の形状は、図1に示すような棒状に限定されない。例えば、給電棒8が板状であって良い。または、めっき液中での抵抗を軽減するような流線形状であっても良い。あるいは、各給電棒8は曲がっていても良い。
【0029】
複数の給電棒8は、バレル容器12のワーク出入口から、バレル容器12の内部へ差し込まれる。複数の給電棒8は、その先端に形成された陰極部10のうち少なくともいずれかが、バレル容器12の内部に浸透するめっき液14、被めっき物、および導電性ダミーと接触するように配置される。また、各給電棒8、および各陰極部10は、バレル容器12の内壁と接触しないように配置される(図4参照)。
【0030】
図2に示すように、リボルバー部11、複数の給電棒8、および複数の陰極部10から、陰極装置5が構成される。各給電棒8の間には、各給電棒8が互いに接触しないように所定の間隔が設けられる。各給電棒8間の間隔は、被めっき物、導電性ダミー、および非導電性ダミーの寸法に合わせて、適宜設定すればよい。すなわち、給電棒8の間に、被めっき物、導電性ダミーあるいは非導電性ダミーが挟まることを防止できるような間隔を設定することが好ましい。また、各給電棒8は、回転軸36に対して、角度θだけ傾けられている。角度θとしては、特に限定されない。例えば、各給電棒8と、回転軸36とが、互いに平行(角度θ=0°)であってもよい。
【0031】
図3に示すように、好ましくは、複数の給電棒8が、リボルバー部11の回転軸36(図示省略)に対して垂直な平面において、回転軸36を中心とする略同心円50の上に配置される。また、好ましくは、各給電棒は、同心円50上において、回転軸36を挟んで対称的な位置関係にある。さらに、好ましくは、複数の給電棒8が、略同心円50の上において、互いに等間隔で設置される。
【0032】
なお、複数の給電棒8が、リボルバー部11の回転軸36を中心とする2重の同心円上に配置されてもよい(図示省略)。また、同心円50の上に配置される給電棒8の数は、特に限定されない。
【0033】
本実施形態においては、複数の給電棒8のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えると、複数の給電棒8およびリボルバー部11が、リボルバー部11の回転軸36に対して、一体となって(連動して)回転する。なお、この回転に際して、回転軸36は、常にフレーム38(図1)に固定されている。よって、リボルバー部11は、回転軸36に対して、独立して回転する。
【0034】
図4に示すように、バレル容器12が回転方向R1に自転する際に、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁と給電棒8aとの間に挟まることがある。このとき、バレル容器12の自転によって、非導電性ダミー42が、給電棒8aに押し付けられる。その結果、非導電性ダミー42が、給電棒8aに対して、物理的負荷(トルク)を与える。このトルクが、所定の閾値以上になると、即時に、複数の給電棒8a,8b,8c,8d、およびリボルバー部11が、リボルバー部11の回転軸36に対して、一体となって回転方向R2に回転する。その結果、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁と給電棒8aとの間から解放される。よって、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁および給電棒8aに対して与える物理的負荷も、即時に軽減、解消される。
【0035】
このように、バレル容器12の内壁と給電棒8aとの間から、挟まった非導電性ダミー42を即時に解放させることによって、バレル容器12の回転速度(自転速度)を安定させることができる。その結果、めっき厚のばらつきを防止し、かつ、めっき効率を安定させることができる。また、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁および給電棒8aに対して与える物理的負荷を、即時に軽減、解消することができるため、給電棒8aが折れ曲がることを防止し、陰極部10a、またはバレル容器12の内壁の破損を防止できる。
【0036】
なお、非導電性ダミー42が給電棒8aに対して及ぼす物理的負荷(トルク)が、所定の閾値未満である場合、複数の給電棒8a〜dおよびリボルバー部11は回転しない。
【0037】
上述したトルクの閾値は、特に限定されないが、好ましくは、0N・m超30N・m以下、より好ましくは0N・m超10N・m以下程度である。閾値をこの範囲内とすることによって、めっき厚のばらつきを防止し、かつ、めっき効率を安定させることができる。また、給電棒8a、陰極部10a、およびバレル容器12の破損を防止することができる。なお、トルクの閾値は、バレル容器12の回転速度等の諸条件に合わせて、適宜設定すればよい。なお、上述したリボルバー部11の動作を実現するための具体的機構としては、特に限定されないが、ラチェット等が例示される。
【0038】
以下では、図4、図5A、および図5Bを用いて、給電棒8a〜8dの回転について詳説する。図4と、図5Aとは、給電棒8a〜8dの位置が対応している。本実施形態においては、図5Aに示すように、非導電性ダミー42が、給電棒8aに対して、力fを及ぼし、トルクを与える。このトルクが閾値以上となると、給電棒8a〜8dは、それぞれ回転角度ω(90°)だけ回転し、図5Bに示す定位置へそれぞれ移動した後に停止する。その結果、図4に示す非導電性ダミー42は、バレル容器12の内壁と、給電棒8aとの間から解放される。よって、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁および給電棒8aに対して与える物理的負荷が軽減、解消する。
【0039】
なお、図5Aの回転角度ωは90°に限定されない。4つの給電棒8a〜8dは、そのいずれかに対して所定の閾値以上のトルクを与えると、(360×n/4)°だけ回転した後に定位置にて停止する(nは、任意の正の整数)。換言すれば、バレル容器12の内壁と、給電棒8aとの間から、非導電性ダミー42が解放されるまでに、給電棒8a〜8dは、(360×n/4)°だけ回転した後に停止する。すなわち、給電棒8a〜8dの回転角度ωは、不連続となる。例えば、m個(mは、任意の2以上の整数)の給電棒が、同心円50上に等間隔に配置される場合、各給電棒の回転角度ωは、(360×n/m)°となる。
【0040】
本実施形態においては、図4に示すように、複数の陰極部10a〜10dのうち、陰極部10dのみが、めっき液14中の被めっき物50および/または導電性ダミー52と接触する位置にある。好ましくは、バレル容器12の内部に位置する被めっき物50および/または導電性ダミー52と接触する陰極部10dのみが、電源3(図1)を介して陽極部6(図1)と電気的に接続される。すなわち、図4の陰極部10dのみが、通電され、被めっき物50に対して、めっきを施すことができる。
【0041】
一方、図4の陰極部10aは、めっき液14中に浸漬されてはいるが、被めっき物50および導電性ダミー52と接触していない。また、陰極部10b,10cは、めっき液14中に浸漬されていない。これらの陰極部10a,10b,10cは、通電されない。その結果、陰極部10a,10b,10cの表面にめっきが形成されることを防止できる。
【0042】
なお、陰極部10dのみが、常に通電されるわけではない。本実施形態においては、図5A,5Bに示すように、回転軸36を原点とするX−Y座標系において、X軸方向に位置する給電棒に形成された陰極部のみが、被めっき物および/または導電性ダミーと接触し、かつ、陽極と電気的に接続される。換言すれば、X軸方向に位置する給電棒に形成された陰極部のみが、被めっき物にめっきを施すことができる。
【0043】
図5Aでは、給電棒8dがX軸方向に位置する。よって、給電棒8dに形成された陰極部10d(図4)のみが、通電され、被めっき物50にめっきを施すことができる。ここで、図5Aの給電棒8a〜8dを、回転角度ω(90°)だけ回転させると、図5Bに示すように、給電棒8dに代わって、給電棒8aが、X軸方向に位置する。よって、図5Bの状態では、給電棒8aに形成された陰極部10aのみが、通電され、被めっき物にめっきを施すことができる。
【0044】
なお、給電棒8a〜8dが、図5Bの状態から更に回転方向R2へ90°回転すると、陰極部10bのみに通電され、更に回転方向R2へ90°回転すると、陰極部10cのみに通電される。
【0045】
なお、図4の被めっき物50および導電性ダミー52と接触する陰極部のみに、自動的に通電させる機構は、上記のものに限定されない。また、被めっき物50および導電性ダミー52と接触する陰極部が複数であっても良い。この場合、被めっき物50および導電性ダミー52と接触する複数の陰極部が通電される。
【0046】
本実施形態においては、図5A,5Bに示すように、給電棒8a〜8dは、回転軸36を中心とする略同心円50の上に、等間隔で設置される。さらに、各給電棒は、同心円50上において、回転軸36を挟んで対称的な位置関係にある。
【0047】
その結果、給電棒8a〜8dが、回転軸36に対して、連動して回転しても、陰極部10a〜10dのうち少なくともいずれかを、図4に示すように、被めっき物50および/または導電性ダミー52と接触させることができる。換言すれば、めっき工程において、複数の陰極部10a〜10dのいずれも、被めっき物50、および導電性ダミー52と接触しないような事態を回避できる。その結果、めっき厚のばらつきを防止し、かつ、めっき効率を向上させることができる。
【0048】
バレルめっき工程
次に、本実施形態に係るバレルめっき装置2(図1)を用いためっき工程について概説する。一具体例として、積層セラミックコンデンサの製造について説明する。
【0049】
まず、チタン酸バリウム等の誘電体粒子を含むペーストから、グリーンシートを形成する。次に、グリーンシートの表面に、Ni等を含む内部電極ペーストを印刷する。次に、内部電極ペーストが印刷されたグリーンシートを複数積層し、積層方向の両端面に保護用グリーンシートを積層して、積層体を得る。次に、この積層体を所定の寸法に切断して、グリーンチップを得る。このグリーンチップに対して、脱バインダ処理、焼成処理、および熱処理を行って、コンデンサ素子本体が得られる。
【0050】
次に、コンデンサ素子本体の長手方向の両端部に、外部電極を形成する。各外部電極は、通常、下地層、中間めっき層、および外側めっき層の3層から構成される。下地層は、コンデンサ素子本体の両端部に、電極ペースト膜(Ag,Cu等)を塗布し、これに焼き付け処理を行うことで形成される。中間めっき層は、NiまたはNi合金膜等で構成され、無電解めっき法により形成される。外側めっき層は、電解めっき法により形成され、SnあるいはSn合金のめっき層で構成される。
【0051】
以下では、本実施形態に係るバレルめっき装置2を用いて、外側めっき層を形成する工程について説明する。
【0052】
まず、下地層および中間めっき層が既に形成されたコンデンサ素子本体(被めっき物50)と、導電性ダミー52と、非導電性ダミー42とを、バレル容器12のワーク出入口から、バレル容器12の内部へ投入する(図4)。なお、投入する非導電性ダミー42の数量は、特に限定されず、バレル容器12の容量、被めっき物、導電性ダミーの数量等に合わせて、適宜選択すれば良い。
【0053】
コンデンサ素子本体50(被めっき物50)の寸法は、特に限定されないが、通常、縦(0.6〜5.6mm)×横(0.3〜5.0mm)×厚み(0.1〜1.9mm)程度である。
【0054】
導電性ダミー52としては、特に限定されないが、Feボール、Niボール等(球状の金属粒子)を用いる。導電性ダミー52の球径は、特に限定されないが、好ましくは、0.3〜3.0mm程度である。
【0055】
非導電性ダミー42の形状としては、特に限定されないが、通常、縦(10〜30mm)×横(10〜30mm)× 厚み(10〜30mm)程度の多面体である。非導電性ダミー42の材質としては、特に限定されないが、好ましくは、ダミー外部は、主に、硬化ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等で構成され、ダミー内部は、主に、鉛等の金属で構成される。
【0056】
上記の寸法を有するコンデンサ素子本体50および導電性ダミー52を用いる場合、給電棒間の間隔d(図5B)は、特に限定されないが、好ましくは、50〜70mmである。
【0057】
次に、給電棒8a〜8dを、図4に示すように、バレル容器12のワーク出入口から、バレル容器12の内部へ差し込む。このとき、給電棒8a〜8dのうち少なくともいずれか(図4では給電棒8d)は、バレル容器内部に浸透しためっき液14、コンデンサ素子本体50、および導電性ダミー52と、常に接触する位置に配置される。また、給電棒8a〜8dおよび陰極部10a〜10dは、バレル容器12の内壁と接触しないように配置される。なお、めっき液14の具体的な組成は、外側めっき層の成分を含むものであれば良く、特に限定されない。
【0058】
次に、バレル用駆動部によって、バレル容器12を自転させる。次に、陽極部6(図1)、電源3(図1)、および陰極部10d(図4)が互いに接続される。その結果、コンデンサ素子本体50の両端部に、めっき膜(外側めっき層)が形成される。
【0059】
本実施形態においては、図4に示すように、バレル容器12の自転時において、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁および給電棒8aとの間に挟まれることがある。このとき、非導電性ダミー42は、バレル容器12の内壁および給電棒8dに対して、物理的負荷を与える。この負荷は、給電棒8dに対してトルクとして作用する。トルクが所定の閾値以上となると、即時に、複数の給電棒8a〜8dが、リボルバー部11の回転軸36に対して、連動して回転する。その結果、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁と、給電棒8dとの間から、即時に解放される。よって、非導電性ダミー42が、バレル容器12の内壁および給電棒8dに対して及ぼす物理的負荷が、即時に軽減、解消される。
【0060】
本実施形態に係るバレルめっき装置は、上記の機能を備えることによって、バレル容器12の回転速度(自転速度)を安定させることができる。その結果、めっき厚のばらつきを防止し、かつ、めっき効率を安定させることができる。また、給各電棒、各陰極部、およびバレル容器12の内壁の破損を防止することができる。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0062】
例えば、図6に示す陰極装置5のように、リボルバー部11を構成する部位のうち、給電棒8a〜8dと連結する部位(リング62)のみが、給電棒8a〜8dと一体となって回転しても良い。一方、リボルバー部11を構成する部位のうち、給電棒8a〜8dと連動しない部位(リング受け部64)は、リボルバー部11の回転軸36に対して固定されていても良い。この場合も、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0063】
また、図1〜6に示す各給電棒が、当該給電棒の長軸回りに自転自在であっても良い。この場合も、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。各給電棒が自転自在であることによって、バレル容器内部の攪拌を促進することができる。また、各給電棒とバレル容器の内壁との間、あるいは各給電棒間に、非導電性ダミー、被めっき物、および導電性ダミーが挟まり難くなる。
【0064】
本発明のバレルめっき装置は、積層セラミックコンデンサの他に、チップインダクタ、チップバリスタ等の電子部品の製造に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は 本発明の一実施形態に係るバレルめっき装置の概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示すバレルめっき装置の有する陰極装置(給電棒およびリボルバー部)の斜視図(概略図)である。
【図3】図2に示す陰極装置を、リボルバー部の回転軸方向から観察した概略図である。
【図4】図4は、図1に示すバレル容器および陰極装置(給電棒およびリボルバー部)の拡大断面図である。
【図5】図5Aは、図4に示す複数の給電棒を、リボルバー部の回転軸に垂直な平面で切断した断面をバレル容器側から観察した模式図であり、図5Bは、図5Aに示す複数の給電棒を90°回転させた模式図である。
【図6】図6は、本願発明の他の実施形態に係る陰極装置の斜視図(概略図)である。
【符号の説明】
【0066】
2… バレルめっき装置
4… めっき槽
5… 陰極装置
6… 陽極部
8,8a,8b,8c,8d… 給電棒
10… 陰極部
11… リボルバー部
12… バレル容器
36… リボルバー部の回転軸
42… 非導電性ダミー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽と、
陽極部と、
陰極部と、
自転自在であるバレル容器と、
前記バレル容器を自転させるバレル用駆動部と、
前記陰極部が形成され、前記バレル容器の内部へ差し込まれる複数の給電棒と、
前記複数の給電棒が連結されたリボルバー部と、を有し、
前記複数の給電棒が、互いに所定の間隔をおいて配置され、
前記複数の給電棒のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えることによって、前記複数の給電棒が、前記リボルバー部の回転軸に対して、連動して回転することを特徴とするバレルめっき装置。
【請求項2】
前記複数の給電棒に形成された前記陰極部のうち、前記バレル容器の内部に位置する被めっき物および/または導電性ダミーと接触する陰極部のみが、電源を介して前記陽極部と電気的に接続されることを特徴とする請求項1に記載のバレルめっき装置。
【請求項3】
前記バレル容器の自転時において、前記バレル容器の内壁と、前記給電棒との間に、非導電性ダミーが挟まった場合に、当該非導電性ダミーが、当該給電棒に対して、前記所定の閾値以上のトルクを与えることを特徴とする請求項1または2に記載のバレルめっき装置。
【請求項4】
前記複数の給電棒のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えることによって、前記リボルバー部および前記複数の前記給電棒が、前記リボルバー部の回転軸に対して、一体となって回転することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバレルめっき装置。
【請求項5】
前記複数の給電棒が、前記リボルバー部の前記回転軸に対して垂直な平面において、前記回転軸を中心とする略同心円上に配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバレルめっき装置。
【請求項6】
前記所定の閾値が、0N・m超30N・m以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のバレルめっき装置。
【請求項7】
前記給電棒が、当該給電棒の長軸回りに自転自在であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のバレルめっき装置。
【請求項8】
陰極部と、
前記陰極部が形成された複数の給電棒と、
前記複数の給電棒が連結されたリボルバー部と、を有し、
前記複数の給電棒が、互いに所定の間隔をおいて配置され、
前記複数の給電棒のうち少なくともいずれかに対して、所定の閾値以上のトルクを与えることによって、前記複数の給電棒が、前記リボルバー部の回転軸に対して、連動して回転することを特徴とするバレルめっき装置用の陰極装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−1970(P2008−1970A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175867(P2006−175867)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)