説明

バレルめっき装置及びバレルめっき方法

【課題】 めっき不良の抑制が図られたバレルめっき装置及びバレルめっき方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るバレルめっき装置1及びバレルめっき方法においては、バレル3と一体的に回転する磁力発生ユニット7が、バレル3の回転中心の鉛直上方の位置周辺において電子部品10を吸着する。そのため、バレル3の上方に生じた気泡9が、電子部品10を吸着した場合であっても、磁力発生ユニット7が、その電子部品10を吸着するため、電子部品10が気泡9から脱離される。従って、気泡9が電子部品10を吸着する事態が有意に回避されて、電子部品10のめっき不良が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に金属をめっきするバレルめっき装置及びバレルめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この技術の分野におけるバレルめっき装置は、例えば、下記特許文献1に開示されている。この公報に示されているように、バレルめっき装置においては、被処理物である電子部品が投入されたバレルがめっき液に浸漬され、そのバレルを回転させつつ電子部品のめっきがおこなわれる。
【特許文献1】特開2006−16640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来のバレルめっき装置には、次のような課題が存在している。すなわち、バレルをめっき液に浸漬した際にバレル内の上側に気泡が生じ、この気泡が電子部品を吸着することで、電子部品の一部にめっき不良が生じていた。特に、近年の電子部品の小型化に伴い、バレルのメッシュやスリットの寸法が小さくなった結果、バキューム等による気泡の除去(脱泡)が極めて困難になってきており、上記気泡に起因するめっき不良を改善する技術が求められている。
【0004】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、めっき不良の抑制が図られたバレルめっき装置及びバレルめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るバレルめっき装置は、被処理物が投入され、回転駆動されるバレルと、被処理物に金属をめっきするためのめっき液を収容し、収容されためっき液にバレルが浸漬するように配置されるめっき槽と、バレルに通電して、バレル内の被処理物に金属をめっきするめっき手段と、バレルの周縁部にバレルと一体的に回転するように取り付けられ、少なくとも、バレルの回転中心の鉛直上方の位置周辺において、被処理物を吸着する磁力を発生させる磁力発生手段とを備える。
【0006】
このバレルめっき装置においては、バレルと一体的に回転する磁力発生手段が、バレルの回転中心の鉛直上方の位置周辺において被処理物を吸着する。そのため、バレルの上方に生じた気泡が、被処理物を吸着した場合であっても、磁力発生手段がその被処理物を吸着して被処理物を気泡から脱離させる。つまり、本発明に係るバレルめっき装置においては、気泡が被処理物を吸着する事態が有意に回避されて、被処理物のめっき不良が抑制される。
【0007】
また、磁力発生手段は、少なくも、バレルの回転中心の鉛直上方の位置を基準として、バレルの回転方向に関して−30度〜+90度の位置において磁力を発生させる態様であってもよい。この場合には、磁力発生手段がより確実に被処理物を気泡から脱離させることができる。
【0008】
また、磁力発生手段が電磁石を含んでいる態様であってもよい。さらに、磁力発生手段が、永久磁石と、永久磁石を保持する保持部材とを含んでおり、保持部材には、永久磁石がバレルに対して進退するように永久磁石を案内する案内部が形成されている態様であってもよい。
【0009】
本発明に係るバレルめっき方法は、被処理物が投入されたバレルを、被処理物に金属をめっきするためのめっき液に浸漬する浸漬工程と、バレルを回転駆動しつつバレルに通電して、バレル内の被処理物に金属をめっきするめっき工程とを含み、めっき工程の際に、バレルの周縁部にバレルと一体的に回転するように取り付けられた磁力発生手段が、磁力を発生させて、少なくとも、バレルの回転中心の鉛直上方の位置周辺において、被処理物を吸着する。
【0010】
このバレルめっき方法においては、めっき工程の際に、バレルと一体的に回転する磁力発生手段が、バレルの回転中心の鉛直上方の位置周辺において被処理物を吸着する。そのため、バレルの上方に生じた気泡が、被処理物を吸着した場合であっても、磁力発生手段がその被処理物を吸着して被処理物を気泡から脱離させる。つまり、本発明に係るバレルめっき方法においては、気泡が被処理物を吸着する事態が有意に回避されて、被処理物のめっき不良が抑制される。
【0011】
また、めっき工程の際に、磁力発生手段が、少なくも、バレルの回転中心の鉛直上方の位置を基準として、バレルの回転方向に関して−30度〜+90度の位置において磁力を発生させて、被処理物を吸着する態様であってもよい。この場合には、磁力発生手段がより確実に被処理物を気泡から脱離させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、めっき不良の抑制が図られたバレルめっき装置及びバレルめっき方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するにあたり最良と思われる形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るバレルめっき装置1の概略構成を示した図である。図1に示すように、バレルめっき装置1は、めっき液5を貯留するめっき槽2と、めっき槽2内に配置され、被処理物である電子部品10を収容するバレル3と、バレル3を挟む位置に配置された1対のアノード電極4,4とを備えており、バレル3内の電子部品10をめっき液5中で攪拌しながらめっき処理をおこなう装置として構成されている。
【0015】
バレル3に収容される電子部品10は、例えば図2に示すような電子部品である。図2に示す例では、電子部品10は、複数のセラミック層の間に内部電極層が介在する素子部11と、この素子部11の両端にそれぞれ形成された1対の端子電極12,12とによって構成された積層型電子部品である。上述したバレルめっき装置1は、このような電子部品10の端子電極12,12の表面にNiで構成されためっき被膜を形成するためのものである。なお、電子部品10としては、チップコンデンサ、チップバリスタ、チップインダクタ、チップビーズなどが挙げられる。
【0016】
また、バレル3には、上記電子部品10の他に、電子部品10の個体間を導通させるためのダミーボール20が収容される。図3に示すように、ダミーボール20は球状又は略球状のボールである。そして、このダミーボール20は、その全体が金属のNiで構成されている。なお、このNiは若干の不純物を含んでいてもよいが、Niの構成比が高いほど好ましい。
【0017】
図1に戻って、バレル3は、例えば金属によって断面正八角形状の筒状に形成されたものであり、めっき槽2の略中央において水平に配置されている。バレル3の内部は、上述した電子部品10とダミーボール20とを収容する収容空間となっている。
【0018】
そして、この収容空間を画成する8つの壁部3aは、少なくともその一部がメッシュ状(若しくはスリット状)になっており、各壁部3aのメッシュ状部分により、バレル3内に収容された電子部品10等を外部に通さないようにブロックする一方、めっき槽2からバレル3内へのめっき液5の流入を許容している。そして、バレル3は、めっき槽2の外部に設置された整流器(めっき手段)8に接続されてカソード電極として機能し、後述するめっき処理を行う際に、図示しない駆動手段により、回転軸6を中心に所定の速度で回転駆動される。
【0019】
そして、8つの壁部3aのうちの一つの壁部3aの外側(収容空間の反対側)には、その壁部3aと一体的に回転するように、磁力発生ユニット(磁力発生手段)7が取り付けられている。この磁力発生ユニット7は、電磁石を含み、図示しない制御部による電磁石の制御により、所定のタイミングで磁力を発生する装置であり、その磁力によりバレル3内の電子部品10を吸着する。磁力発生ユニット7の磁力発生のタイミングは、バレル3の回転中心(すなわち、回転軸6の回転中心O)の鉛直上方の位置周辺に磁力発生ユニット7が位置するタイミングであって、より具体的には、磁力発生ユニット7が、バレル3の回転中心の鉛直上方の位置を基準として、バレル3の回転方向(図1における右回り方向)に関して−30度の位置(図4参照)から+90度の位置(図5参照)まで移動するタイミングである。
【0020】
アノード電極4,4は、その上端部からリード線がめっき槽2の上方に引き出されており、バレル3と同様に整流器8に接続されている。アノード電極4,4とバレル3とが通電されると、バレル3の外部に位置するアノード電極4,4からバレル3に向けて所定密度の電流線が形成される。
【0021】
次に、上述したバレルめっき装置1を用いてめっきをおこなう方法を、図6に示すフローチャートを参照しつつ説明する。図6は、バレルめっき装置1を用いてめっきをおこなう手順を示したフローチャートである。
【0022】
上述したバレルめっき装置1を用いてめっきをおこなう際には、まず、被処理物である電子部品10及びダミーボール20を準備すると共に、めっき槽2内にめっき液5を貯留する(ステップS01)。
【0023】
そして、電子部品10とダミーボール20とをバレルめっき装置1のバレル3内に投入する(ステップS02)。続いて、電子部品10とダミーボール20とを投入したバレル3をめっき槽2に貯留しためっき液5に浸漬する(ステップS03、浸漬工程)。その後、バレル3及びアノード電極4に通電をおこない、回転軸6を中心としてバレル3を所定の速度で回転させることで、電子部品10を攪拌しながら電解めっき処理をおこなう(ステップS04、めっき工程)。このとき、電子部品10はダミーボール20を介してバレル3と電気的に接続されるので、電子部品10に斑なくめっき処理をおこなうことができる。
【0024】
なお、バレル3をめっき槽2に貯留しためっき液5に浸漬する浸漬工程(ステップS03)の際、図1に示すように、バレル3内の上側には気泡9が生じてしまう。このような気泡9は、バレル3の壁部3aのメッシュ部分等が空気を抱き込んだ状態で、バレル3がめっき液5に浸漬されるために生じるものと考えられる。そして、従来は、この気泡9が電子部品10を吸着し、吸着した電子部品10への通電を阻害して、電子部品10群の一部にめっき不良を生じさせていた。
【0025】
本実施形態においては、めっき処理(ステップ04)の際に、上述した磁力発生ユニット7が、バレル3の回転中心の鉛直上方の位置を基準として、バレル3の回転方向に関して−30度〜+90度の位置において磁力を発生させて、電子部品10を吸着する。
【0026】
そのため、バレル3の上方に生じた気泡9が、電子部品10を吸着している場合でも、この磁力発生ユニット7が、その電子部品10を吸着して、電子部品10を気泡9から脱離させる。そして、磁力発生ユニット7は、電子部品10を吸着したまま、気泡の生じていない位置(+90度の位置)まで電子部品10を運搬する。この位置まで電子部品10を運搬した後、磁力発生ユニット7が磁力を消滅させると、電子部品10は自重により沈降して、電子部品10も他の電子部品10と同様に攪拌されて適切なめっき処理が施されることとなる。
【0027】
以上で詳細に説明したとおり、上述したバレルめっき装置1及びバレルめっき方法においては、バレル3と一体的に回転する磁力発生ユニット7が、バレル3の回転中心の鉛直上方の位置周辺において電子部品10を吸着する。そのため、バレル3の上方に生じた気泡9が、電子部品10を吸着した場合であっても、磁力発生ユニット7が、その電子部品10を吸着するため、電子部品10が気泡9から脱離される。従って、気泡9が電子部品10を吸着する事態が有意に回避されて、電子部品10のめっき不良が抑制される。
【0028】
また、磁力発生ユニット7が、バレル3の回転中心の鉛直上方の位置を基準として、バレル3の回転方向に関して−30度〜+90度の位置において磁力を発生させる態様であるため、磁力発生ユニット7がより確実に電子部品10を気泡9から脱離させることができるようになっている。
【0029】
なお、バレル3に、磁力発生ユニット7の代わりに、図7及び図8に示す磁力発生ユニット7Aを取り付けられてもよい。この磁力発生ユニット7Aは、複数の永久磁石7aと、複数の永久磁石7aを保持する保持部材7bとを含んで構成されている。各永久磁石7aは真球状の磁石であり、保持部材7bに形成された複数の穴(案内部)7cに沿ってそれぞれ移動自在に設けられている。保持部材7bの各穴7cは、磁力発生ユニット7Aが取り付けられた壁部3aに直交する方向に延びており、ほぼ回転軸6の方向に向いている。つまり、保持部材7bの穴7cは、永久磁石7aをバレル3に対して進退する方向に案内する。なお、保持部材7bの各穴7cは、バレル3側の開口は壁部3aにより塞がれ、反対側の開口には図示しないストッパ部が設けられており、穴7c内から永久磁石7aが脱落しないようになっている。
【0030】
このような磁力発生ユニット7Aが取り付けたバレル3が回転すると、永久磁石7aの自重により、磁力発生ユニット7Aがバレル3の回転軸6よりも高い位置では永久磁石7aはバレル3側に位置し(図7参照)、磁力発生ユニット7Aがバレル3の回転軸6よりも低い位置では永久磁石7aはバレル3側の反対側に位置する。換言すると、磁力発生ユニット7Aは、バレル3の回転中心の鉛直上方の位置を基準として、バレル3の回転方向に関して−90度の位置においてバレル3に接近し、+90度の位置においてバレル3から遠ざかる(図8参照)。そのため、磁力発生ユニット7Aは、−90度から+90度までの位置において、バレル3内の電子部品10を吸着する強い磁力を発生させることができる。
【0031】
そのため、上述した磁力発生ユニット7同様、この磁力発生ユニット7Aを備えたバレルめっき装置1においても、磁力発生ユニット7Aがバレル3の回転中心の鉛直上方の位置周辺において電子部品10を吸着して、電子部品10を気泡9から脱離させることができる。従って、気泡9が電子部品10を吸着する事態が有意に回避されて、電子部品10のめっき不良が抑制される。
【0032】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、電子部品10にNiをめっきする態様を例に説明したが、これに限らず、Cu、Sn、Ag、Au、Zn、Co、Cr、Pd、Pb、Bi等のめっきにも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係るバレルめっき装置の概略構成を示した図である。
【図2】図1のバレルめっき装置によってめっき処理される電子部品を示した図である。
【図3】図1のバレルめっき装置に用いられるダミーボールを示した図である。
【図4】図1のバレルめっき装置のめっき処理の際の一態様を示した図である。
【図5】図1のバレルめっき装置のめっき処理の際の一態様を示した図である。
【図6】図1のバレルめっき装置を用いたバレルめっき方法の手順を示したフローチャートである。
【図7】図1のバレルめっき装置の磁力発生ユニットとは異なる態様の磁力発生ユニットを示した図である。
【図8】図7の磁力発生ユニットが回転した状態を示した図である。
【符号の説明】
【0034】
1…バレルめっき装置、2…めっき槽、3…バレル、4…アノード電極、5…めっき液、7,7A…磁力発生ユニット、8…整流器、9…気泡、10…電子部品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物が投入され、回転駆動されるバレルと、
前記被処理物に金属をめっきするためのめっき液を収容し、収容された前記めっき液に前記バレルが浸漬するように配置されるめっき槽と、
前記バレルに通電して、前記バレル内の前記被処理物に前記金属をめっきするめっき手段と、
前記バレルの周縁部に前記バレルと一体的に回転するように取り付けられ、少なくとも、前記バレルの回転中心の鉛直上方の位置周辺において、前記被処理物を吸着する磁力を発生させる磁力発生手段と
を備える、バレルめっき装置。
【請求項2】
前記磁力発生手段は、少なくも、前記バレルの回転中心の鉛直上方の位置を基準として、前記バレルの回転方向に関して−30度〜+90度の位置において磁力を発生させる、請求項1に記載のバレルめっき装置。
【請求項3】
前記磁力発生手段が電磁石を含んでいる、請求項1又は2に記載のバレルめっき装置。
【請求項4】
前記磁力発生手段が、永久磁石と、前記永久磁石を保持する保持部材とを含んでおり、
前記保持部材には、前記永久磁石が前記バレルに対して進退するように前記永久磁石を案内する案内部が形成されている、請求項1又は2に記載のバレルめっき装置。
【請求項5】
被処理物が投入されたバレルを、前記被処理物に金属をめっきするためのめっき液に浸漬する浸漬工程と、
前記バレルを回転駆動しつつ前記バレルに通電して、前記バレル内の前記被処理物に前記金属をめっきするめっき工程と
を含み、
前記めっき工程の際に、前記バレルの周縁部に前記バレルと一体的に回転するように取り付けられた磁力発生手段が、磁力を発生させて、少なくとも、前記バレルの回転中心の鉛直上方の位置周辺において、前記被処理物を吸着する、バレルめっき方法。
【請求項6】
前記めっき工程の際に、前記磁力発生手段が、少なくも、前記バレルの回転中心の鉛直上方の位置を基準として、前記バレルの回転方向に関して−30度〜+90度の位置において磁力を発生させて、前記被処理物を吸着する、請求項5に記載のバレルめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−214689(P2008−214689A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53172(P2007−53172)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)