説明

バレルめっき装置

【課題】 ワークの混合がよく、ワーク同士の絡みや貼りつきが少ない結果、めっき膜厚のバラツキが少ない構造簡単なバレルめっき装置の提供。
【解決手段】 架台1に支持され、周壁面に通液孔15を多数備えるなどしたバレル3を設けたバレルめっき装置において、モータ6からバレル3への動力伝達機構に楕円歯車9、10を用いて、バレル3の回転運動を不等速な回転運動とし、ワークの混合を促進する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主として、小物部品をめっきするに適するバレルめっき装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図10に示すような、前面を開放した回転バレル3と該バレル3を駆動するモータ6を、上部に把手5を設けた架台1に取付け、該架台1を、これに設けた導電性掛鉤14で、めっき槽(図示しない)の上方に設けたカソードバーAに傾斜した状態に且つ着脱できるように懸架させた状態で、モータ6の回転軸上に設けた円形歯車7とバレル3の底板に設けた円形歯車12とを中間円形歯車17を介して連繋してバレル3が回転するバレルめっき装置がある。また、図11に示すような、モータ6の回転軸上設けた円形歯車7とバレル3の側板に設けた円形歯車12とを中間円形歯車17を介して連繋してバレル3が回転する構成で、バレル3内のワーク(図示しない)の混合状態を制御する手段として、モータ6に速度制御装置19を備えて、バレル3の回転速度を任意の定速回転に調整可能にした回転バレルめっき装置や、図12に示すような、ワークの混合状態を良くする手段として、偏心バレル18を用いたバレルめっき装置が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】バレルめっきでは、ワークの混合状態によりめっきの品質が大きく左右される。ワークの混合を良くする手段として、バレルの毎分回転数を多くすることが考えられるが、電気めっきでは、バレルの毎分回転数を多くし過ぎると、ワーク同士が離れてしまい通電されない状態を有するワークが発生し、めっき不良を起こす。また、変形しやすいワークは、バレルの毎分回転数を多くできず、その結果、混合状態が悪くなる。さらに、ワーク同士が絡み易いものや、貼りつき易いものは、その状態が解かれずらく、これらのことを克服する手段として、バレルへ挿入するワークの量を調整しているのが現状である。
【0004】一方、偏心バレルを使用したバレル装置は、バレル本体そのものが高価である。また、バレル装置本体に動力源用のモータを取り付けたハンディ式のものは、可変速モータの使用により本体重量を増す。本発明は、ワークの混合が良く、ワーク同士の絡みや貼りつきが少ない結果、めっき膜厚のバラツキが少ない構造簡単で安価なバレルめっき装置を得ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】架台に支持され、周壁面に通液孔を多数備えるなどしたバレルを設けたバレルめっき装置において、動力源からバレルへの動力の伝達に楕円歯車同士の噛合伝達機構等を用いて、バレルの回転運動を不等速な回転運動とする。不等速な回転運動をするバレルは、加速度が変化する特性があるので、ワーク同士の絡みや貼りつきが解かれ易く、バレルの毎分の平均回転数を、動力源とバレルとを円形歯車を介して連繋させて等速運動する時よりも多くすることが可能となる。その結果、ワークの混合が促進され、よりバラツキの少ないめっき皮膜が得られる。
【0006】
【実施例】本発明の実施例を図示するものに付き説明する。
【0007】本発明の第1実施例を示す側面図である図1R>1は、周壁面に通液孔15を多数備える前面を開放したバレル3と該バレル3を駆動するモータ6を、上部に把手5を設けた架台1に取付け、該架台1をこれに設けた導電性掛鉤14で、めっき槽(図示しない)の上方に設けたカソードバーAに傾斜した状態に且つ着脱できるように懸架させて、めっき槽(図示しない)に浸漬させる。そして、該導電性掛鉤14からリード線13を介してバレル3内のワーク(図示しない)に通電する。図2は、その正面図である。
【0008】本発明はかかるものにおいて、該架台1に、円形歯車8,11と楕円歯車9,10で構成される可変速伝達機構を備えるもので、図3は、その拡大正面図,図4は、拡大側面図である。円形歯車8と楕円歯車9及び、円形歯車11と楕円歯車10は、互いに固定されていて一体回転する。楕円歯車9と楕円歯車10を噛合いさせることで、円形歯車8から円形歯車11へ運動を伝達する構成で、モータ6の回転軸上設けた円形歯車7と該円形歯車8、及び該円形歯車11とバレル3の底板に設けた円形歯車12を噛合いさせることで、モータ6が等速回転運動をするときバレル3が不等速な回転運動をする。
【0009】その不等速な回転運動について説明する。楕円歯車9,10の離心率εと角速比変位曲線,角加速度比変位曲線を図5(グラフで実線は離心率εが0.33の楕円歯車同士の運動伝達,点線は円形歯車同士の運動伝達)に示す。円形歯車同士の運動伝達は、等速運動であるが、楕円歯車同士の運動伝達では、最も低速な時に比べて最も高速な時の回転速度は、およそ4倍になる。しかも、その速度変化は滑らかに起こる。一方、等速運動ではその回転速度に達してしまえば加速度は0となるが、楕円歯車による不等速な回転運動での加速度は、最も低速な時から最も高速な時にかけてプラスとなり、最も高速な時から最も低速な時にかけてマイナスとなる。
【0010】次に、バレル3の回転運動について説明する。円形歯車11の歯数は、円形歯車12の歯数の5分の1とする。つまり、楕円歯車の変速機構の1サイクルでバレル3は、5分の1回転する。
【0011】バレル3の毎分の平均回転数は、モータ6の回転数,モータ6付属の減速機の減速比や円形歯車7の歯数と円形歯車8の歯数の比により調整できることは明らかである。バレル3の毎分の平均回転数をモータ6とバレル3とを円形歯車を介して連繋した時の約1.5倍にする。
【0012】以上のような構成で回転するバレル3は、ワーク同士が離れる前に、その加速度がマイナスになるのでワーク同士が離れずらい。また、ワーク同士が絡み易いものや貼りつき易いものは、加速度が変化することから、その状態が解かれ易く変形しずらい。一方、バレルの毎分の平均回転数を多くした分、ワークの混合が良くなるのは明らかである。更に、6角形のバレルで変速サイクルを5分の1回転にしたことがワークの混合を助勢する。
【0013】図6に、上記のめっきバレル装置(図1)でのバラツキ分布のデータを、動力伝達機構に円形歯車を用いた時(図10)と比較して示す。不等速なバレルの回転運動の効果で、めっき膜厚のバラツキが少なくなったことがわかる。
【0014】図7は、本発明の第2実施例を示す正面図である。図8は、その拡大断側面図である。実施例1と異なるのは、架台1と側板2に回転自在に支持された、周壁面に通液孔15を多数備えるバレル3である。4,5は、架台1と側板2を固定する連結棒を示し、5はめっき槽へ着脱するときの把手となる。架台1と側板2に設けた支持バー16を、めっき槽に平行に設けたカソードバーAとバーBに載架させて、めっき槽に浸漬させる水平式バレルめっき装置である。
【0015】図9に、本発明の第3実施例を示す。バレル装置本体にバレルを駆動するための動力源を備えないバレルめっき装置24は、外部の動力源である減速機付モータ6からバレル装置に、駆動用チェーン23を介して連繋される。また、減速機付モータ6とチェーン23との動力の伝達は、楕円プーリ20と楕円プーリ22とを同期伝導ベルト21を介して連繋させ、駆動用チェーン23の運動を不等速運動にする。その結果、バレルが不等速な回転運動するという構成である。
【0016】
【発明の効果】このように本発明によるときは、楕円歯車同士の噛合伝達機構等による変速効果により、ワーク同士の絡みや貼りつきが少なく、バレルの毎分回転数を多くした時に、ワーク同士が離れずらく、ワークの混合がよく、その結果、よりバラツキの少ないめっき皮膜が得られる。その上構造簡単で省スペースな動力伝達機構なので、既存のバレル装置の動力源とバレルとの動力伝達機構に使用している円形歯車等と交換するだけで、その効果を得ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施の側面図(実施例1)
【図2】図1の正面図(実施例1)
【図3】楕円歯車部の拡大正面図(実施例1,2)
【図4】楕円歯車部の拡大側面図(実施例1,2)
【図5】楕円歯車の特性(実施例1,2)
【図6】めっき膜厚のバラツキ分布(実施例1)
【図7】実施例を示す正面図(実施例2)
【図8】図7の拡大断側面図(実施例2)
【図9】実施例を示す断正面図(実施例3)
【図10】従来例を示す側面図
【図11】更に他の従来例を示す正面図
【図12】更に他の従来例を示す正面図
【符号の説明】
1 架台
2 側板
3 バレル
4 連結棒
5 把手
6 モータ
7 円形歯車
8 円形歯車
9 楕円歯車
10 楕円歯車
11 円形歯車
12 円形歯車
13 リード線
14 導電性掛鉤
15 通液孔
16 支持バー
17 中間円形歯車
18 偏心バレル
19 速度制御装置
20 楕円プーリ
21 同期伝導ベルト
22 楕円プーリ
23 駆動用チェーン
24 バレルめっき装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 架台に回転自在に支持されて、周壁面に通液孔を多数備えるなどしたバレルめっき装置において、動力源とバレルとを偏心歯車,楕円歯車等の回転半径が変化する歯車の組み合わせからなる可変速伝達機構を介して連繋し、バレルの回転運動を不等速な回転運動としたことを特徴とするバレルめっき装置。
【請求項2】 架台に回転自在に支持されて、周壁面に通液孔を多数備えるなどしたバレルめっき装置において、動力源とバレルとを楕円プーリ等の回転半径が変化するプーリによる同期伝導ベルト伝達機構を介して連繋し、バレルの回転運動を不等速な回転運動としたことを特徴とするバレルめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2002−302796(P2002−302796A)
【公開日】平成14年10月18日(2002.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−105954(P2001−105954)
【出願日】平成13年4月4日(2001.4.4)
【出願人】(301020477)