説明

バレル装置ならびにバレルめっき方法

【課題】作業の煩雑化を伴うことなくワークの浮上状態を解消することができる、バレル装置等を提供する。
【解決手段】バレルめっき装置1は、めっき液が充填されるめっき液槽3と、めっき液槽内に回転可能に配置されるバレル容器5と、バレル容器内の浮上ワークに対して上方から気体を噴射する気体噴射手段11とを備える。気体噴射手段は、所定の軌道に沿って移動可能に設けられたノズル19を含む。そして、バレル容器は、多孔部分を有しており、気体噴射手段は、バレル容器の外側から気体を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレル装置ならびにバレルめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばセラミック電子部品における外部電極のめっき形成など、小型電子部品にめっき加工を施す装置として、バレルめっき装置がある(特許文献1参照)。バレルめっき装置は回転可能に支持されたバレル容器を備えており、バレル容器の内部には、陰極端子が延出している。めっきを行うに際しては、バレル容器の内部に多数の被めっき物であるワーク及びダミー片を入れ、バレル容器をその上部が一部液面から露出する程度、めっき液に浸漬させる。そして、バレル容器を回転させると共に、陰極端子を介して被めっき物に通電してその表面にめっきを行う。
【0003】
ところで、このようなバレルめっきにおいては、ワークが収容されたバレル容器を一部液面から露出するようにめっき液槽に沈めた際に、ワークの一部がめっき液内に沈まずに、液面に浮いていることがある。このようなことが生じると、浮き上がっていたワークにはめっきが十分に施されず、めっき厚のばらつき等、めっき品質の低下が問題となる。
【0004】
これに関連しては、特許文献1において、バレル容器内にワークと共に多数のフロートを収容し、浮かび上がってきたワークがフロートにぶつかることで、ワークを浮上させた気体をワークから分離させ、ワークを再び沈むように企図したものが開示されている。
【0005】
かかる特許文献1に開示のものは、いったん、バレル容器をめっき液槽内の予め決められた位置に沈めた時点で、フロートの下方に適切に沈んでいたワークには上記の効果を奏する可能性がある。しかしながら、バレル容器をめっき液に沈めていく過程で、フロートの上方に浮いてしまったワークや、フロートの下方にあってもフロートにくっついているワークに対しては、その後、沈むことは期待できない。さらに、フロートの投入や、めっき後のフロートとワークとの分離などが必要となり、作業や管理が煩雑になる問題がある。特に、かかる問題は、異なるめっき液を用い、異なるバレル容器に入れ替えるなどして複数回めっきして、めっき層を複層形成する場合などには大きな問題となる。
【特許文献1】特開平7−118895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、作業の煩雑化を伴うことなくワークの浮上状態を解消することができる、バレル装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明のバレル装置は、処理液が充填される処理液槽と、前記処理液槽内に回転可能に配置されるバレル容器と、前記バレル容器内の浮上ワークに対して上方から気体を噴射する気体噴射手段とを備える。
【0008】
前記気体噴射手段は、所定の軌道に沿って移動可能に設けられたノズルを含むように構成してもよい。
【0009】
好適には、前記バレル容器は、多孔部分を有しており、前記気体噴射手段は、前記バレル容器の外側から気体を噴射する。
【0010】
同課題を解決するため、本発明は、バレルめっき方法をも提供する。このバレルめっき方法は、内部に少なくともワークが収容されているバレル容器を用意し、前記バレル容器を、めっき液が充填されるめっき液槽に、該バレル容器の一部がめっき液から露出するようにして沈め、前記バレル容器内で浮上しているワークに該バレル容器外の上方から空気を噴射し、その後で、バレル容器を回転させながらワークに対するめっきを行う。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明によれば、フロートなどワークと混合されるものを用いなくて済み、作業の煩雑化を伴うことなくワークの浮上状態を解消することができる。
【0012】
また、本発明のバレル装置において、気体噴射手段を所定の軌道に沿って移動可能に設けられたノズルを含むように構成した場合、液面のどこに浮上してくるか想定しづらい浮上ワークに対して、満遍なく気体噴射し、より確実に気体を吹き付けることができる。
【0013】
さらに、本発明のバレル装置において、バレル容器が多孔部分を有しており、気体噴射手段がバレル容器の外側から気体を噴射する場合には、既存のバレル容器の多孔部分を利用してバレル容器の外から浮上ワークの沈降を促進することができ、機構の複雑化を伴わず、既存のバレル装置にも容易に適用することができる。
【0014】
なお、本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0016】
図1は、本実施の形態に係るバレルめっき装置の構成を示す図である。バレルめっき装置1は、めっき液槽3と、バレル容器5と、陰極端子7及び陽極端子9と、気体噴射手段11とを備えている。
【0017】
めっき液槽3は、上方が開口した槽であり、内部にめっき液13が充填されている。バレル容器5は、内部が中空の多角柱状の容器であり、めっきを行う際にめっき液槽3内に回転可能に配置される。より詳細には、バレル容器5は、ほぼ水平方向に延長する回転軸Rが貫通する一対の側壁と、それら側壁を架橋するパネルとを有している。また、通常、側壁は、正多角形をなしており、パネルは、その正多角形の各辺から延びているため、正多角形の辺数と同数の面を有している。さらに、パネルには、ワークの通過は規制しつつめっき液13の流通は確保される程度の大きさの孔からなる多孔部分が設けられている。
【0018】
また、バレル容器5には、図示省略する回転駆動手段とバレル容器支持手段とが接続されている。かかる回転駆動手段及びバレル容器支持手段は共に周知の態様でよく、その詳細な説明は省略するが、簡単に述べると次のような機能を有するものである。回転駆動手段は、バレル容器5を回転させるための手段である。バレル容器支持手段は、バレル容器5を支持する手段であって、バレル容器5は、めっき液13に浸漬されたりめっき液13から引き上げられたりする際、また、めっき液槽3の上方に移動させられたり、逆にめっき液槽3の上方から他の位置に移動させられたりする際、このバレル容器支持手段を介して昇降や移動される。
【0019】
陰極端子7は、バレル容器5内に配置された棒状の部材であって、したがって、めっき時にはめっき液槽3内に配置される。陰極端子7の先端部近傍は、露出されていると共に、他の部分は、連続的に電気的絶縁被覆されている。陰極端子7は、電源15の陰極側に接続されており、電源15の陽極側には、陽極端子9が接続される。陽極端子9は、めっき液槽3内であって、バレル容器3の外側に配置される。
【0020】
気体噴射手段11は、バレル容器5内に収容されているワーク17のうち、めっき液13の液面に浮き上がっている浮上ワーク17aに対して、上方から、例えば空気などの気体を噴射するものである。気体噴射手段11は、所定の軌道に沿って移動可能に設けられたノズル19を有する。ノズル19は、本実施の形態では、バレル容器5の回転軸Rの延長方向に沿って、往復移動する。ノズル19は、鉛直下方に向けて気体を噴射するようにしてもよいし、やや斜め下方に向けて気体を噴射するようにしてもよい。また、気体噴射手段11は、バレル容器5の外側に配置されており、例えば、前述したバレル容器支持手段の一部に取り付けることができる。
【0021】
次に、以上のように構成されたバレルめっき装置の作用、すなわち、本実施の形態に係るバレルめっき方法について説明する。まず、ワーク17やダミーボールを収容したバレル容器5を用意する。そして、かかるバレル容器5を、めっき液13が充填されためっき液槽3内に沈める。より詳細には、バレル容器5は、その上部がめっき液槽3内のめっき液13から露出するようにして沈められる。次に、気体噴射手段11を作動させて、バレル容器5内で浮上している浮上ワーク17aに対して、バレル容器5外の上方から空気を噴射する。すなわち、図2に示されるように、気体噴射手段11のノズル19を、空気噴射させながら往復移動させる。それによって、浮上ワーク17aをバレル容器5の底部へと沈める。その後、めっき液13中でバレル容器5を回転させると共に、陰極端子7及び陽極端子9を介してワーク17に通電し、ワーク17表面にめっきを行う。このようにして、気体噴射した後にめっきを行うため、浮上ワークに起因しためっき厚のばらつき等、めっき品質の低下を抑制することができる。
【0022】
さらに、図3及び図4に基づいて、浮上ワークの沈降について説明する。浮上ワーク17aは、まず、ワーク17を収容したバレル容器5をめっき液槽3に沈める過程で、バレル容器5が沈められても、その内部で沈みきらずにめっき液13の液面上に残ってしまうことで生じうる。図3に示されるように、発生した浮上ワーク17aは、バレル容器5内のめっき液13の液面上に、一部を露出する態様で浮遊している。これに対して、ノズル19から空気を噴射する。
【0023】
空気が吹き付けられた浮上ワーク17aは、図4に示されるように、その空気圧で押し上げられ、全体がめっき液13に浸かる。このようにしてひとたび、全周が濡れた浮上ワーク17aは、表面張力が得られなくなり、自重によりめっき液13中を沈降し、他の大多数のワーク17のなかに混ざっていく。
【0024】
以上のように、本実施の形態では空気の吹き付けで浮上ワークの沈降を達成するため、前述した特許文献1のようにフロートの投入や、めっき後のフロートとワークとの分離など、作業や管理が煩雑になる問題を伴わない。特に、異なるめっき液を用い複数回めっきして、めっき層を複層形成する場合には、本実施の形態は有益である。また、フロートを用いた態様では、いったんは沈められフロートの下方に位置したワークがその後浮上した際に再度沈める場合を想定しており、バレル容器を最初にめっき液中に沈める際に当初からフロートに混じって沈まなかったワークに対しては何ら効果が期待できなかった。その一方、本実施の形態では、当初から沈まなかったワークに対しても有効に機能し、めっき前に浮上ワークの沈降を促進することができる。さらに、気体噴射手段が所定の軌道に沿って移動可能に設けられたノズルを含むので、液面のどこに浮上してくるか想定しづらい浮上ワークに対して、満遍なく気体噴射し、より確実に気体を吹き付けることができる。
【0025】
また、本実施の形態のように気体噴射であれば、液体噴射に対して次のような利点が存在する。まず、めっき液には発泡性があるところ、これに液体を噴射すると、めっき液を泡立てることとなり浮上ワークを沈降させることができたとしても、泡立ちによるめっき品質の低下が懸念される。さらに、回転駆動されるバレル容器内において流体噴射させる場合には、既存のバレルめっき装置に適用できず、且つ、新作する場合も機構の複雑化が避けられない。その一方で、バレル容器外から噴射させる場合、液体噴射では浮上ワークに液体が適切に吹き付けられず浮上ワークの沈降が期待できない。これらの問題に対し、本実施の形態であれば気体噴射であるため、めっき液を徒に泡立てることもなく、且つ、既存のバレル容器の多孔部分を利用してバレル容器の外から浮上ワークの沈降を促進することができ、機構の複雑化を伴わず、既存のバレルめっき装置にも容易に適用することができる。さらに、バレル容器外の上方に気体噴射手段を設けることで、気体噴射手段はめっき液には浸からず、また、めっき液の跳ね返りはバレル容器を通過してまでは気体噴射手段に付着し難いため、異なるめっき液を用い複数回めっきして、めっき層を複層形成する場合でも、気体噴射手段にめっき液が付着し、それが次のめっき工程に持ち込まれる恐れもない。加えて、バレル容器外からの液体噴射であれば、噴射液体の一部がバレル容器に衝突して跳ね返り、気体噴射手段に付着する恐れもあるが、気体噴射であればそのような跳ね返りの問題もない。よって、それによっても、気体噴射手段に付着した液体が、次のめっき工程に持ち込まれる恐れもない。また、バレル容器外に気体噴射手段を設ける態様ならば、気体噴射手段をバレル容器支持手段の一部に固定することも選択でき、その場合、バレル容器支持手段の性質上、気体噴射手段を常にバレル容器に対して一定の位置・姿勢に配置させることができる。
【0026】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0027】
まず、上述した実施の形態は、処理液としてめっき液が用いられるバレルめっき装置として説明したが、本発明に係るバレル装置、すなわちバレル容器を持った装置は、これに限定されるものではない。本発明に係るバレル装置は、多数のワークを収容し、バレル容器を回転させることにより行う処理であって、容器内でワークが浮上しないことが処理成績において重要となる処理を行うものに広く適用することができる。したがって、例えば、処理液として洗浄液が用いられる洗浄工程に使用されるバレル洗浄装置として実施することもできる。
【0028】
気体噴射手段としては、ノズルを複数設け、ノズルそれぞれを往復移動させるようにしてもよい。あるいは、気体噴射手段として、多数のノズルを設けるか、大型の単体ノズルに複数の噴射口を設けておき、ノズルを移動させることなく気体噴射してもよい。何れにしても、そのようにすることで、液面のどこに浮上してくるか想定しづらい浮上ワークに対して、満遍なく気体噴射し、より確実に気体を吹き付けることができる。
【0029】
また、めっき処理が始まるとめっき化学反応により気泡が発生しやすく、その気泡に起因してめっき処理中にワークが浮揚することも生じうる。本発明に係るバレルめっき装置は、めっき処理が始まった後に、気体噴射によりワークを沈降させるように実施された装置も含む。
【0030】
本発明に係るバレル装置に用いられるバレル容器は、バレル容器の内側に液面が存在するようにされた容器であれば、上述した実施の形態のバレル容器に限定されるものではない。よって、例えば、回転軸が水平方向に対し傾斜しており、バレル容器の上部が斜め上方に向けて開口する、いわゆる傾斜バレル容器を有して実施されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係るバレルめっき装置の構成を示す図である。
【図2】本実施の形態に関し、気体噴射手段の動作を示す図である。
【図3】浮上ワークが沈降する様子を示す趣旨の図であって、ワークに向けて気体が噴射されている状態の図である。
【図4】図3と同趣旨の図であって、図3の後、ワークが沈降していく状態を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 バレルめっき装置(バレル装置)
3 めっき液槽(処理液槽)
5 バレル容器
11 気体噴射手段
19 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液が充填される処理液槽と、
前記処理液槽内に回転可能に配置されるバレル容器と、
前記バレル容器内の浮上ワークに対して上方から気体を噴射する気体噴射手段と
を備えたバレル装置。
【請求項2】
前記気体噴射手段は、所定の軌道に沿って移動可能に設けられたノズルを含む請求項1に記載のバレル装置。
【請求項3】
前記バレル容器は、多孔部分を有しており、
前記気体噴射手段は、前記バレル容器の外側から気体を噴射する
請求項1又は2に記載のバレル装置。
【請求項4】
内部に少なくともワークが収容されているバレル容器を用意し、
前記バレル容器を、めっき液が充填されるめっき液槽に、該バレル容器の一部がめっき液から露出するようにして沈め、
前記バレル容器内で浮上しているワークに該バレル容器外の上方から空気を噴射し、
その後で、バレル容器を回転させながらワークに対するめっきを行う
バレルめっき方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−167456(P2009−167456A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5271(P2008−5271)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)