説明

バンコマイシン製剤

【課題】 バンコマイシンの溶解性や、安全性に影響を与えることなく、その化学的分解を有効に抑制する手段を見出し、溶解性と安定性を備えたバンコマイシン製剤を提供すること。
【解決手段】 バンコマイシン若しくはその薬学的に許容される塩と水溶性酸アミドを含有するバンコマイシン製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバンコマイシン製剤に関し、更に詳細には、安定性および溶解性に優れたバンコマイシン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バンコマイシンは、ストレプトマイセス・オリエンタリス(Streptomyces orientalis)由来のグリコペプチド系抗生物質であり、グラム陰性菌に有効な抗菌物質である。このバンコマイシンを注射剤として用いる場合には、その薬学的に許容される塩を粉末形態または凍結乾燥形態とし、これを投与直前に溶解して用いることが多い。
【0003】
しかしながら、バンコマイシンの塩は、凍結乾燥等された状態であっても長期保存すると化学的分解が進行し、着色や抗菌性の低下が起こることが知られていた。このため、バンコマイシンを安定に保存するため、例えば、バンコマイシンを封入するバイアル内を窒素などの不活性ガスで置換したり、保存温度をなるべく低くする方法がとられていた。
【0004】
更に、近年では、バンコマイシン製剤に安定性を付与するための化合物を添加する方法も開発されており、バンコマイシンの塩にアミノ酸を配合する方法(特許文献1)、糖アルコールを配合する方法(特許文献2)、ポリエチレングリコールを配合する方法(特許文献3)などの方法が報告されている。しかしながら、これらの方法の効果は十分なものとは言えなかった。
【特許文献1】特開平11−80022号
【特許文献2】特開平3−193735号
【特許文献3】WO 01/047542号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、その課題は、バンコマイシンの溶解性や、安全性に影響を与えることなく、その化学的分解を有効に抑制する手段を見出し、溶解性と安定性を備えたバンコマイシン製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、バンコマイシン製剤の安定性向上に関し、鋭意研究を行っていたところ、水溶性の酸アミドをバンコマイシンと併用することにより、バンコマイシンの分解を有効に抑制しうること、しかも当該酸アミドの添加は、バンコマイシンの溶解性を妨げることもないことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、バンコマイシン若しくはその薬学的に許容される塩と水溶性酸アミドを含有するバンコマイシン製剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のバンコマイシン製剤によれば、バンコマイシン自体の溶解性に影響を与えることなく、そのの保存安定性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のバンコマイシン製剤において用いられるバンコマイシンは、例えば米国特許第3067099号明細書に記載の方法により製造することができるものである。また、バンコマイシンの薬学的に許容できる塩としては、バンコマイシンの水溶性塩、例えば、塩酸塩、硫酸塩など水溶性の無機塩および水溶性の有機塩が挙げられ、特に塩酸塩が好ましい。
【0010】
一方、バンコマイシンの安定性向上のために用いられる水溶性酸アミドは、水に対する溶解度が1mg/mL以上、更に好ましくは10mg/mLの酸アミド化合物である。この水溶性酸アミドの例としては、ニコチン酸アミド、尿素、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられ、このうち、ニコチン酸アミドが好ましい。
【0011】
この酸アミドの含有量は、特に限定されるものではないが、乾燥状態の製剤中で、0.01ないし10質量%(以下、「%」で示す)程度であり、特に0.1ないし1%であることが好ましく、バンコマイシンに対しては、0.01ないし10%程度、特に0.1ないし15%であることが好ましい。
【0012】
本発明のバンコマイシン製剤は、上記2成分を常法に従って組み合わせることにより製造することができるが、更に安定性を高めるための別の成分を加えることもできる。
【0013】
このような成分の例としては、糖や糖アルコールを挙げることができる。このうち、糖としては、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルボース、キシロース等の単糖や、マルトース、サッカロース、ラクトース等の二糖を挙げることができ、糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、キシリトール等が挙げられ、このうち、マンニトールが特に好ましい。
【0014】
糖や糖アルコールを使用する場合の配合量は、特に限定されるものではないが、乾燥製剤中、0.1ないし50%程度であり、特に1ないし30%であることが好ましく、バンコマイシンに対しては、1ないし50%程度、特に5ないし30%であることが好ましい。
【0015】
更に、本発明のバンコマイシン製剤には、製剤の溶解度をより高めるためや、注射薬とした後のpHや浸透圧を調整するために各種添加物を添加することもできる。これらの添加物は医薬品の添加物として通常使用されている物質・添加量であれば特に制限はなく使用することができ、その例としては、次のようなものを挙げることができる。すなわち、pH調整剤としての塩酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸またはそれらの塩類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがあげられる。また、浸透圧調整剤としての塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの塩類を挙げることができる。
【0016】
本発明のバンコマイシン製剤の製造は、例えば、凍結乾燥製剤の製法として周知な方法に従って行うことができる。すなわち、バンコマイシンまたはその薬学的に許容される塩および水溶性酸アミドの他、必要により上記した糖または糖アルコール、PH調整剤、浸透圧調整剤などを水性媒体に溶解し、この溶液をメンブランフィルターなどを用いて無菌ろ過し、次いでこれをバイアル、トレーなどに分注し、凍結乾燥法などで乾燥させることにより製造することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げ本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【0018】
実 施 例 1
バンコマイシン凍結乾燥製剤の調製:
(1)本発明製剤
Dマンニトール100mgおよびニコチン酸アミド1.6mgを、注射用水5mlに溶解させ、更にこれに0.5g力価の塩酸バンコマイシンを溶解させた。この溶液のpHを、約3.4に調整した後、ろ過し、ガラスバイアルに充填し、凍結乾燥してバンコマイシン凍結乾燥製剤(本発明製剤)を得た。
【0019】
(2)比較製剤1
ニコチン酸アミド1.6mgをポリエチレングリコール400 100mgに代える以外は、上記(1)と同一に処理して比較のバンコマイシン凍結乾燥製剤(比較製剤1)を得た。
【0020】
(3)比較製剤2
ニコチン酸アミド1.6mgを使用しない以外は、上記(1)と同様に処理して比較のバンコマイシン凍結乾燥製剤(比較製剤2)を得た。
(4)対照製剤
注射用水5mlに0.5g力価の塩酸バンコマイシンを溶解させ、この溶液のpHを、(1)と同様の値に調整した後、ろ過し、ガラスバイアルに充填し、凍結乾燥して対照のバンコマイシン凍結乾燥製剤(対照製剤)を得た。
【0021】
実 施 例 2
バンコマイシン凍結乾燥製剤の性能評価:
実施例1で得た各製剤について、下記方法により溶解性および安定性を評価した。この結果を表1に示す。
【0022】
< 試験方法 >
(1)溶解性試験
各製剤に、25℃の生理食塩水 5mlを添加し、これを上下に軽く5回振った後放置した。各製剤の溶解までの時間(溶解時間;秒)を記録し、これを溶解性とした。また、溶解後の溶解状態を観察した。
(2)安定性試験
各製剤を、40℃、75%RHの条件で保管した。保管後、2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月で取り出し、各製剤中の総類縁物質量を測定した。比較のため、製造直後の各製剤についても、製剤中の総類縁物質量を測定した。なお、総類縁物質量の測定は、日局「注射用バンコマイシン塩酸塩」純度試験の、(2)類縁物質に則り実施した。また、最初の類縁物量に対する増加量も[ ]内に示した。
【0023】
< 試験結果 >
【表1】

【0024】
表1に示すように、比較製剤2および対照製剤では溶解するまでに60〜120秒もかかり、かつ溶解状態も泡立ちがあり、問題であった。これに対し、比較製剤1および本発明製剤では、20秒程度で溶解し、しかもその溶解状態は優れたものであった。
【0025】
しかしながら、安定性試験で見ると、比較製剤1での総類縁物質の量は、4ヶ月保存後、6ヶ月保存後では多くなり、6ヶ月保存後には、いずれでも2%以上増加した。これに対し、本発明製剤でも保存時間と共に総類縁物質の量が増加したが、その割合は2%未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のバンコマイシン製剤は、溶解性に影響を与えることなく、バンコマイシンの保存安定性を高めることができるものである。
【0027】
したがって、点滴用や注射剤用のバンコマイシン製剤として、広く医療分野において利用できるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンコマイシン若しくはその薬学的に許容される塩と水溶性酸アミドを含有するバンコマイシン製剤。
【請求項2】
水溶性酸アミドがニコチン酸アミドである請求項1記載のバンコマイシン製剤。
【請求項3】
更に糖または糖アルコールを含有する請求項1または2に記載のバンコマイシン製剤。
【請求項4】
糖または糖アルコールがマンニトールである請求項3記載のバンコマイシン製剤。
【請求項5】
凍結乾燥製剤である、請求項1ないし4のいずれかの項に記載のバンコマイシン製剤。



【公開番号】特開2010−105965(P2010−105965A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280182(P2008−280182)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】