説明

バンパーリインフォースとフックブラケットの取付部構造

【課題】タイダウン時等におけるバンパーリインフォースの前壁の変形や、溶接部の剥離を防止する。
【解決手段】アルミニウム合金押出材からなるバンパーリインフォース1と、アルミニウム合金押出材からなるフックブラケット2の取付部構造。フックブラケット2はバンパーリインフォース1の長手方向が押出方向とされ、雌ねじが形成された軸部11の前端近傍に上向きに突出するリブ12が形成されている。フックブラケット2の軸部11が前方側からバンパーリインフォース1の前壁3及び後壁4に形成された穴を貫通し、リブ12が前壁3の前面に接し、リブ12の周縁が前壁3に溶接されている。バンパーリインフォース1の中リブ7の位置がリブ12の周縁の溶接箇所Wと車体高さ方向で重なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパーリインフォースとフックブラケットの取付部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に取り付けられたフックは主として船舶に乗せたときの固定用(タイダウン)に使用され、斜め下方に向け大きい引張荷重が掛かる。車体の軽量化のため、矩形断面のアルミニウム合金押出材がバンパーリインフォースとして用られるようになると、矩形断面の高い剛性を利用して、バンパーリインフォースにフックブラケットを固定し、該バンパーリインフォースによりフックに掛かる引張荷重を支持する方式が提案された。
【0003】
例えば特許文献1では、バンパーリインフォースの前後壁に穴を形成し、後端にフランジを有するフックブラケットの軸部を後方側から前記両穴に貫通し、前記軸部の前端部を前壁の穴から前方に突出させ、かつ前記フランジをバンパーリインフォースの後壁の背面に当接させ、後壁にリベット締結するとともに、軸部の突出した前端部を前壁に溶接し、これによりフックブラケットをバンパーリインフォースに取り付けている。前記フランジは軸部から車体上下方向に突出している。なお、特許文献1において、フックブラケットが仮にアルミニウム合金押出材からなる場合、バンパーリインフォースに対し、押出方向がバンパーリインフォースの長手方向になるように取り付けられる。
【0004】
また、特許文献2では、バンパーリインフォースの前後壁に穴を形成し、軸部の前端近傍と後端の左右につばを有するフックブラケットを、バンパーリインフォースの後方側から前記後壁の穴に貫通し、軸部の前端部を前壁の穴から前方に突出させ、かつ前端近傍のつばを前壁の背面に、後端のつばを後壁の背面にそれぞれ当接させ、フックブラケットの軸部の突出した前端部を前壁に溶接するとともに、後端部を後壁に溶接し、これによりフックブラケットをバンパーリインフォースに取り付けている。前記つばは軸部からバンパーリインフォースの長手方向左右に突出している。なお、特許文献2において、前記フックブラケットはアルミニウム合金押出材からなり、バンパーリインフォースに対し、押出方向が車体上下方向になるように取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−271859号公報(図2)
【特許文献2】特開2006−36158号公報(図1,2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示された取付構造では、いずれも前壁の前方に突出したフックブラケット軸部とバンパーリインフォースの前壁前面が直接隅肉溶接されている。このため、例えばタイダウンによりフックブラケットに対し前方下向きに大荷重が負荷された場合、溶接部を引き離そうとする大きい力が加わり、バンパーリインフォースの前壁の溶接部近傍が変形したり、溶接部が剥離してタイダウンの負荷を支持できなくなるという問題が生じ得る。また、前記溶接部において溶接線長を長くとれないことも、溶接部の強度不足及び大荷重付加時の剥離の原因となる。
【0007】
本発明は、従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたもので、タイダウン時等におけるバンパーリインフォースの前壁の変形や、溶接部の剥離を防止することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウム合金押出材からなる中空断面のバンパーリインフォースと、アルミニウム合金押出材からなり、前記バンパーリインフォースの前壁と後壁に形成された穴を貫通し、前記前壁と後壁に溶接で取り付けられたフックブラケットの取付部構造において、前記フックブラケットは前記バンパーリインフォースの長手方向が押出方向とされ、雌ねじが形成された軸部の前端又はその近傍に上向きに突出するリブが形成され、前記フックブラケットの軸部が前方側から前記前壁及び後壁に形成された穴を貫通し、前記リブが前記前壁の前面に接し、前記リブの周縁が前記前壁に溶接されていることを特徴とする。
なお、本発明において「前」は衝突面側、「後」は車体側を意味する。
【0009】
前記取付部構造において、前記バンパーリインフォースが前記前壁と後壁を連結する中リブを有し、前記中リブの位置が前記リブ周縁の溶接箇所と車体高さ方向で重なることが望ましい。
また、前記フックブラケットのリブの前方側において前記リブと軸部の間に隅肉が形成されていることが望ましい。
前記フックブラケットは、前記バンパーリインフォースの車幅方向のどの位置にでも取り付けることができる。例えば、前記バンパーリインフォースの車幅方向両端に車体側に屈曲した傾斜部が形成されている場合、前記傾斜部に前記フックブラケットを車体前後方向に向けて取り付けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フックブラケットの軸部に形成したリブの周縁をバンパーリインフォースの前壁に溶接することにより、タイダウン時等において、前記前壁の溶接部近傍に発生する負荷を低減して、前記前壁の変形や、溶接部の剥離を防止することができる。
また、バンパーリインフォースの中リブの位置が、フックブラケットの前記リブ周縁の溶接箇所と車体高さ方向で重なる場合、タイダウン時等にフックブラケットに掛かる荷重が、前記中リブ及び後壁に効率よく伝達され、溶接部近傍に発生する負荷を低減(分散)することができ,一層、前壁の変形や、溶接部の剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るフックブラケットを取り付けたバンパーリインフォースの平面図である。
【図2】そのA−A矢視断面図である。
【図3】上記フックブラケットの平面図(a)、側面図(b)及び正面図(c)である。
【図4】図2のB−B矢視図(a)及びC−C矢視図(b)である。
【図5】図4とは別の溶接形態を示す図である。
【図6】実施例のFEM解析で想定した溶接形態及び荷重方向を示す断面図(a)、及び溶接部近傍の側面図(b),(c)である。
【図7】実施例でFEM解析の対象としたフックブラケットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜5を参照して、本発明に係るバンパーリインフォースとフックブラケットの取付部構造について説明する。
図1において、バンパーリインフォース1は中空断面のアルミニウム合金押出材からなり、中央部が車幅方向に平行で、両端部が車体側に曲げ加工され、車幅方向に対し傾斜している(傾斜部1a,1a)。一方の傾斜部1aに、同じくアルミニウム合金押出材からなるフックブラケット2が溶接により固定されている。
【0013】
バンパーリインフォース1の断面は、図2に示すように、衝突面となる前壁3、車体側の後壁4,前壁3の上端と後壁4の上端を略水平に連結する上リブ5、前壁3の下端と後壁4の下端を略水平に連結する下リブ6、及び前壁3の略中央部と後壁4の略中央部を略水平に連結する中リブ7からなる。前壁3は略垂直に配置され、中リブ7を境にして上前壁3aと下前壁3bからなり、後壁4も略垂直に配置され、中リブ7を境にして上後壁4aと下後壁4bからなる。前記下前壁3bに略4角形の穴8が形成され、穴8の後方位置において、下後壁4bに略4角形の穴9が形成されている。
【0014】
フックブラケット2は、図2,3に示すように、バンパーリインフォース1の前記穴8,9に嵌め入れられる軸部11と、軸部11の前端近傍に上向きに突出して形成されたリブ12からなる。リブ12の背面側は略垂直に形成され、リブ12の前面側ではリブ12と軸部11の間に凹湾曲した隅肉13が形成されている。
フックブラケット2は、押出方向に対し所定角度傾斜して切断されている。この傾斜角度は、バンパーリインフォース1の傾斜部1aの車幅方向に対する傾斜角度に等しい。リブ12は押出方向に平行に形成されている。軸部11には軸方向に貫通穴14が形成され、かつ貫通穴14の内周にフック先端の雄ねじが螺合する雌ねじ(詳細に図示せず)が切られている。
【0015】
フックブラケット2は、リブ12を上に向け、軸部11が前方側から前記穴8,9にいっぱいに嵌入し、リブ12の背面側が中央前壁3aに事実上接し、軸部11の後端がバンパーリインフォース1の後壁4から少し突出している。フックブラケット2の軸部11は車体前後方向に向いている。一方、フックブラケット2の押出方向はバンパーリインフォース1の傾斜部1aと平行である。
【0016】
フックブラケット2の軸部11とリブ12は、バンパーリインフォース1の前壁3及び後壁4に溶接されている。軸部11と前壁3及び後壁4の溶接は、穴8,9の周囲で行われる。溶接箇所は、図2,4に示すように(ドットを付与した箇所)、前壁3に対してはリブ12の周縁(上側と左右両側)とそれに続く軸部11の左右両側、後壁4に対しては軸部11の全周であり、リブ12の周縁と前壁3との溶接は重ね隅肉溶接であり、その他はT隅肉溶接となる。
【0017】
リブ12の周縁と前壁3の溶接が重ね隅肉溶接になることにより、タイダウン時等の斜め下方への負荷による割れが生じにくく、特にリブ12が上方に延びていることで、タイダウン時の負荷の下向き成分が大きくなり、重ね隅肉溶接部の割れがより生じにくくなっている。リブ12と軸部11の間の隅肉14は,タイダウン時等の負荷によりリブ12と軸部11の間に亀裂が発生するのを防止する作用を有する。
また、この例では、フックブラケット2のリブ12の先端高さが、バンパーリインフォース1の中リブ7付近に達し、リブ12の周縁と前壁3の間の溶接部が中リブ7の位置と車体高さ方向で重なっている。これにより、タイダウン時等にフックブラケット2に掛かる荷重が、中リブ7及び後壁4に効率よく伝達され、前記溶接部近傍に発生する負荷を低減(分散)することができる。
【0018】
図5は、バンパーリインフォース1とフックブラケット2の別の溶接形態を示すもので、図4に準じて描かれている。この例では、溶接箇所Wは、前壁3に対してはリブ12の周縁(上側と左右両側)と軸部11の下側、後壁4に対しては軸部11の全周である。
溶接長を長くとる意味で、図4に示すように、前壁3と軸部11の左右両側を溶接することが望ましいが、必要に応じて、図5のように前壁3に対しリブ12の周縁のみを溶接する溶接形態もあり得る。また、溶接長を長くとる意味で、前壁3に対しリブ12及び軸部11の全周溶接を行うこともできる。
さらに、後壁4と軸部11の溶接についても、図4,5に示すように全周溶接が望ましいが、必須ではない。
【実施例】
【0019】
本発明の取付構造の効果を検討するために、FEM解析を用いて、タイダウン時にバンパーリインフォースの前壁の溶接部及びその近傍に発生する最大応力を求めた。
解析条件として、バンパーリインフォースの平面及び断面形状は図1,2に示す形状とし、バンパーリインフォースの一方の傾斜部にフックブラケットを溶接した。図6に模式的に示すように、バンパーリインフォース1の前壁3側の溶接箇所Wは、フックブラケット2の軸部11の下側を除く全周(リブがある場合はリブの周縁も含む)とし、後壁4側の溶接箇所Wは、軸部11の全周(リブがある場合はリブの周縁も含む)とした。バンパーリインフォース1として耐力310MPa、強度365MPa、延び14%を有する7000系アルミニウム合金押出材を想定した。フックブラケット2の前端に前方45°下向き(矢印方向)に5.73kNの荷重を負荷し、バンパーリインフォース1の前壁3に発生する最大応力を求めた。FEM解析には汎用の有限要素解析コードABAQUSを用いた。
【0020】
図7(a)〜(f)に解析対象とした種々のフックブラケット及び取付部構造を示す。ここで、バンパーリインフォース1は全ケースで共通とし、フックブラケット2も軸部11は全ケースで共通とした。
ケース1(図7(a))のブラケット2は本発明に係るもので、軸部11の前端近傍に上向きに突出するリブ12を有し、リブ12がバンパーリインフォース1の前壁3の前面に接し、その上端は中リブ7の高さに達している。
ケース2(図7(b))のブラケット2は比較例で、軸部11の後端に上向きに突出するリブ15を有し、リブ15がバンパーリインフォース1の後壁4の背面に接し、その上端は中リブ7の近傍に達している。
ケース3(図7(c))のブラケット2は比較例で、軸部11の後端に上向き及び下向きに突出するリブ15,16を有し、リブ15,16がバンパーリインフォース1の後壁4の背面に接し、リブ15の上端は中リブ7の近傍に達している。
【0021】
ケース4(図7(d))のブラケット2は比較例で、軸部11のみからなる。
ケース5(図7(e))のブラケット2は比較例で、軸部11の前端寄りの位置に横向き(左右)に突出する一対のリブ17,17(一方のみ図示されている)を有し、リブ17,17がバンパーリインフォース1の前壁3の背面に接している。リブ17,17は前壁3に溶接されていない。
ケース6(図7(f))のブラケット2は比較例で、軸部11の前端寄りの位置に上向き及び下向きに突出するリブ18,19と、軸部12の後端に上向き及び下向きに突出するリブ15,16を有し、リブ18,19が前壁3の背面に接し、リブ15,16がバンパーリインフォース1の後壁4の背面に接している。リブ15、18の上端は中リブ7の近傍に達している。リブ18,19は前壁3に溶接されていない。
【0022】
FEM解析の結果、バンパーリインフォースの前壁の溶接部及びその近傍に発生する最大応力は、ケース1が190kN/mm、ケース2が218kN/mm、ケース3が215kN/mm、ケース4が230kN/mm、ケース5が230kN/mm、ケース6が215kN/mmであった。本発明に相当するケース1において前壁3に発生する応力が格段に低く、比較例であるケース2〜6に比べて、前壁の変形や、溶接部の剥離を効果的に防止できることが理解される。
【符号の説明】
【0023】
1 バンパーリインフォース
2 フックブラケット
3 前壁
4 後壁
7 中リブ
12 軸部
13 リブ
14 隅肉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金押出材からなる中空断面のバンパーリインフォースと、アルミニウム合金押出材からなり、前記バンパーリインフォースの前壁と後壁に形成された穴を貫通し、前記前壁と後壁に溶接で取り付けられたフックブラケットの取付部構造において、前記フックブラケットは前記バンパーリインフォースの長手方向が押出方向とされ、雌ねじが形成された軸部の前端又はその近傍に上向きに突出するリブが形成され、前記フックブラケットの軸部が前方側から前記前壁及び後壁に形成された穴を貫通し、前記リブが前記前壁の前面に接し、前記リブの周縁が前記前壁に溶接されていることを特徴とするバンパーリインフォースとフックブラケットの取付部構造。
【請求項2】
前記バンパーリインフォースが前記前壁と後壁を連結する中リブを有し、前記中リブの位置が前記リブ周縁の溶接箇所と車体高さ方向で重なることを特徴とする請求項1に記載されたバンパーリインフォースとフックブラケットの取付部構造。
【請求項3】
前記バンパーリインフォースの車幅方向両端に車体側に屈曲した傾斜部が形成され、前記傾斜部に前記フックブラケットが車体前後方向を向いて取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載されたバンパーリインフォースとフックブラケットの取付部構造。
【請求項4】
前記フックブラケットのリブの前方側において前記リブと軸部の間に隅肉が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたバンパーリインフォースとフックブラケットの取付部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−213253(P2011−213253A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83759(P2010−83759)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)