説明

バンプ形成用非シアン系電解金めっき浴

【課題】 金バンプが相手基板等と接合する際、圧着力で潰れて広がり短絡するという信頼性低下をカバーするために十分な皮膜硬度を達成できる非シアン系電解金めっき浴を提供する。
【解決手段】 亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムからなる金源と、水溶性アミンからなるスタビライザと、結晶調整剤と、亜硫酸塩及び硫酸塩からなる伝導塩と、緩衝剤とを含有すると共に、ポリアルキレングリコール及び/又は両性界面活性剤とを含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴であって、平均分子量300〜900未満のポリアルキレングリコールを1.5〜20g/L含有、又は、平均分子量900〜10000のポリアルキレングリコールを0.01g/L以上含有し且つ両性界面活性剤を0.1〜1000mg/L含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノボラック系ポジ型フォトレジストやアクリル系ネガ型フォトレジスト等によりパターンニングされたバンプパターンを有するシリコンウエハやGa/As化合物ウエハに金バンプを形成する際に好適なバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴及び同浴を用いるバンプ形成方法に関する。
【0002】
非シアン系電解金めっき浴には、例えば、金源として塩化金酸塩又は亜硫酸金塩を使用し、錯化合物(スタビライザ)にチオウラシル等の化合物を用いるめっき浴(特許文献1)や、金源として亜硫酸金アルカリ塩または亜硫酸金アンモニウムを使用し、スタビライザとして水溶性アミンを使用するめっき浴等が知られている。
【0003】
後者の電解金めっき浴としては、亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムと、水溶性アミンと、結晶調整剤として微量のTl化合物、Pb化合物又はAs化合物と、伝導塩として亜硫酸塩及び硫酸塩と、緩衝剤とを基本組成とするものが従来用いられている。
【0004】
この非シアン系電解金めっき浴により形成しためっき皮膜は、電気伝導性、熱圧着性等の物理特性に優れ、耐酸化性、耐薬品性等の化学特性にも優れている。そのため、このめっき浴は、例えばシリコンウエハやGa/Asウエハなどの化合物ウエハ上のバンプや配線の形成に用いられている。電解金めっきにより金バンプを形成する方法自体は公知であり、例えばシアン化金カリウムを用いる金めっきによる形成方法が特許文献2に記載されている。
【0005】
ところで、上述した基本組成を有する非シアン系電解金めっき浴により形成された金バンプ皮膜は、その硬度の低さ(柔らかさHvとして50Hv以下)の理由から圧着力で若干潰されて横に広がる傾向は避けられない。その結果、短絡の危険が増し、バンプの小径化・バンプの狭ピッチ化が進む昨今、実装の信頼性が十分に得られない不具合が出てきている。
【特許文献1】特開2004−176171号公報 (段落番号[0006])
【特許文献2】特開2003−7762号公報 (段落番号[0021]、[0022])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、非シアン系電解金めっき浴を使用して形成した金バンプ等金のめっき皮膜は、めっき直後は70〜140Hvと高いが、熱処理(最大で300℃程度)工程を経て、金結晶粒が粗大化・再結晶化して35〜60Hv程度にまで硬度低下する。したがって、めっき直後のみならず熱処理を受けても皮膜硬度の高い金バンプ(80±20Hv程度)の形成が必要となる。
【0007】
即ち、LCDドライバ用ICの脚部である金バンプは、中小型機に搭載するために年々小径化および狭ピッチ化がすすみCOG等LCDガラスへの直接接合が多くなり最小ピッチでは15μm以下というサイズのものも実用化レベルになってきている。
【0008】
金バンプは半導体実装工程において、相手基板等と接合する際には異方性導電膜を介する場合であっても、直接接合の場合であっても、その皮膜硬度の低さ(柔らかさ)から圧着力で潰されて金バンプ自身が横に広がる傾向は避けられない。その結果、狭ピッチのバンプ間では隣接バンプが潰され、短絡する事態が考えられる。
【0009】
従って、実装の信頼性の面からも、金バンプ皮膜には好ましくは、皮膜硬度がある程度高いこと(仕様により異なるが、ビッカース硬度で60〜100Hvの範囲で、80Hv近辺の皮膜硬度をいう場合が多い)が要求されている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、金バンプが相手基板等と接合する際、圧着力で潰れて広がり短絡するという信頼性低下をカバーするために、皮膜硬度のある程度高い金バンプ(概ね80±20Hv近辺の皮膜硬度)を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、上述した一般的な非シアン系電解金めっき浴の基本組成に、ポリアルキレングリコール及び/又は両性界面活性剤を所定量配合することにより、熱処理後(最大で300℃程度)高いビッカース硬度(80±20Hv程度)を有する金バンプ皮膜が形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記の非シアン系電解金めっき浴により形成された金バンプ皮膜内には、ポリアルキレングリコールあるいは両性界面活性剤の著しい析出抑制効果により、めっき浴に含有される有機・無機双方の構成成分が共析する。このことにより、熱処理工程を経ても金結晶の粗大化・再結晶化が抑止され硬度低下せずに80±20Hvの高い皮膜硬度が得られることを可能にしている。
【0013】
即ち、上記課題を解決する本発明は、以下に記載するものである。
【0014】
〔1〕 亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムからなる金源と、水溶性アミンからなるスタビライザと、結晶調整剤と、亜硫酸塩及び硫酸塩からなる伝導塩と、緩衝剤とを含有すると共に、ポリアルキレングリコール及び/又は両性界面活性剤とを含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴であって、ポリアルキレングリコールを0.01g/L以上含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【0015】
〔2〕 亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムからなる金源と、水溶性アミンからなるスタビライザと、結晶調整剤と、亜硫酸塩及び硫酸塩からなる伝導塩と、緩衝剤とを含有すると共に、ポリアルキレングリコール及び/又は両性界面活性剤とを含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴であって、平均分子量300〜900未満のポリアルキレングリコールを1.5〜20g/L含有、又は、平均分子量900〜10000のポリアルキレングリコールを0.01g/L以上含有し且つ両性界面活性剤を0.1〜1000mg/L含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【0016】
〔3〕 両性界面活性剤が、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドリキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、及び脂肪酸アシル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンアルカリ塩から選択される1種又は2種以上である〔1〕に記載のバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【0017】
〔4〕 結晶調整剤が、Tl化合物、Pb化合物、又はAs化合物である〔1〕に記載のバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【0018】
〔5〕 〔1〕に記載のバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴を用いてパターンニングされたウエハ上に電解金めっきをするバンプの形成方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の非シアン系電解金めっき浴を使用することにより、優れた液安定性と液ライフを有し、被めっき物に対して均一かつ緻密で良好な外観特性を有するめっき皮膜形成が可能であって、良好なシェア強度特性を保持しながら、熱処理後(実装前の段階)の皮膜硬度が高いビッカース硬度(80±20Hv)を有する金バンプを設計サイズどおりに、かつ皮膜表面を平坦に形成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の金バンプ形成用非シアン系電解金めっき浴は、金源としての亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムと、スタビライザとしての水溶性アミンと、微量の結晶調整剤と、伝導塩としての亜硫酸塩及び硫酸塩と、緩衝剤とからなる公知の金めっき基本浴に、パラジウム、ポリアルキレングリコール及び/又は両性界面活性剤を所定量含有することを特徴とする電解金めっき浴である。以下、本発明の電解金めっき浴の必須成分につき各成分ごとに説明する。
【0021】
(1) 亜硫酸金アルカリ塩、亜硫酸金アンモニウム(金源)
本発明に用いる亜硫酸金アルカリ塩としては、公知の亜硫酸金アルカリ塩を制限することなく使用できる。亜硫酸金アルカリ塩としては、例えば亜硫酸金(I)ナトリウム、亜硫酸金(I)カリウム等を挙げることができる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を併用しても良い。
【0022】
本発明の電解金めっき浴には、金源として、上述した亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムを使用するが、その配合量は、金量として通常1〜20g/L、好ましくは8〜15g/Lである。亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムの配合量が1g/L未満であると、めっき皮膜が不均一になり場合によってはヤケめっきになる場合がある。20g/Lを超えると、めっき皮膜の特性等は問題はないが、経済的に負担となる。
【0023】
(2) 水溶性アミン(スタビライザ)
水溶性アミンとしては、例えば1,2−ジアミノエタン、1,2−ジアミノプロパン、1,6−ジアミノヘキサン等のジアミンなどのポリアミンを使用することができる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
水溶性アミンの配合量は通常1〜30g/L、好ましくは4〜20g/Lである。水溶性アミンの配合量が30g/Lを超えると金錯塩の安定性は増大するが、一方で、得られるめっき皮膜の硬度が高く表面粗度が小さすぎる為にアンカー効果が不十分となり、接合強度が不足したり、皮膜の熱処理後の硬度低下が大きく、バンプつぶれが生ずる為に接合性に関して不具合が生ずる場合がある。1g/L未満では、限界電流密度が低下してヤケめっきになる場合がある。
【0025】
(3) Tl化合物、Pb化合物、As化合物(結晶調整剤)
本発明の電解金めっき浴に使用する結晶調整剤としては、例えば蟻酸タリウム、マロン酸タリウム、硫酸タリウム、硝酸タリウム等のTl化合物;クエン酸鉛、硝酸鉛、アルカンスルホン酸鉛等のPb化合物;三酸化二砒素等のAs化合物を挙げることができる。これらのTl化合物、Pb化合物、As化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
結晶調整剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜使用することができるが、金属濃度として通常0.1〜100mg/L、好ましくは0.5〜50mg/L、特に好ましくは3〜25mg/Lである。結晶調整剤の配合量が0.1mg/L未満であると、めっき付きまわり、めっき浴安定性及び耐久性が悪化し、めっき浴が分解する場合がある。100mg/Lを超えると、電流分布のムラにより、めっき表面が不均一となり、めっき表面に粗いAu粒塊の部位と緻密なAu粒塊の部位が混在した状態になるめっき付きまわりの悪化、電析するAu粒塊が大きくなりすぎる為、形成される金皮膜が“ぼそぼそ”のマット状の外観状態になるそぼろ状金析出による外観ムラ、及び結晶調整剤の共析過多による金皮膜の剥れ等の接合不良が生ずる場合がある。
【0027】
(4) 亜硫酸塩、硫酸塩(伝導塩)
本発明に伝導塩として用いる亜硫酸塩、硫酸塩としては、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩を挙げることができる。中でも、亜硫酸ナトリウムと硫酸ナトリウムの組合せが好適である。
【0028】
本発明の電解金めっき浴における上記亜硫酸塩及び硫酸塩の配合量としては本発明の目的を損なわない範囲で適宜設定することができるが、以下の配合量とすることが好ましい。
【0029】
亜硫酸塩は、SO32-量として通常5〜100g/Lとするが、好ましくは10〜80g/L、特に好ましくは20〜60g/Lである。亜硫酸塩の配合量が5g/L未満であると、付きまわり及び液安定性が悪化しめっき浴の分解が生ずる場合があり、100g/Lを超えると、限界電流密度が低下しヤケめっきになる場合がある。
【0030】
硫酸塩はSO42-量として通常1〜120g/Lとするが、好ましくは1〜60g/L、特に好ましくは1〜40g/Lである。1g/L未満であると、形成された皮膜の熱処理後の硬度が高すぎて、バンプと基板との接合に不具合が生ずる場合や、液安定性が悪化しめっき浴の分解が生ずる場合があり、120g/Lを超えると限界電流密度が低下しヤケめっきになる場合がある。
【0031】
(5) 緩衝剤
本発明に用いる緩衝剤としては、通常電解金めっき浴に使用されるものであれば特に限定されるものではないが、例えばリン酸塩、ホウ酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、フタル酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩等の有機酸(カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸)塩等を用いることができるが特にリン酸塩が好ましい。
【0032】
本発明の非シアン系電解金めっき浴における緩衝剤の配合量としては、通常0.1〜30g/Lとするが、好ましくは1〜20g/L、特に好ましくは2〜15g/Lである。緩衝剤は配合量が0.1g/L未満であるとpHが低下することにより液安定性が悪化し、めっき浴成分の分解が生ずる場合があり、30g/Lを超えると限界電流密度が低下しヤケめっきやめっき皮膜の緻密化、皮膜の熱処理後の硬度低下、接合性に関する不具合が生ずる場合がある。
【0033】
(6) ポリアルキレングリコール、両性界面活性剤
本発明の非シアン系電解金めっき浴に配合するポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0034】
本発明の非シアン系電解金めっき浴に配合する両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドリキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン等ベタイン系両性界面活性剤;脂肪酸アシル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンアルカリ塩等のアミノカルボン酸塩系両性界面活性剤;イミダゾリン誘導体系両性界面活性剤等を挙げることができる。
【0035】
本発明の非シアン系電解金めっき浴に用いるポリアルキレングリコールの配合量は、0.01g/L以上、好ましくは0.01〜20g/Lである。このポリアルキレングリコールの配合量は、平均分子量300〜900未満のポリアルキレングリコールを配合する場合と、平均分子量900〜10000のポリアルキレングリコールを配合する場合とに分けてポリアルキレングリコール、両性界面活性剤の配合量の条件設定することがより好ましい。
【0036】
この場合分け条件設定におけるポリアルキレングリコール、両性界面活性剤の配合量としては、平均分子量300〜900未満のポリアルキレングリコールを使用する場合は、その配合量は1.5〜20g/Lであり、2〜10g/Lが好ましい。平均分子量900〜10000のポリアルキレングリコールと両性界面活性剤とを併用する場合は、ポリアルキレングリコールの配合量は0.01g/L以上且つ両性界面活性剤の配合量は0.1〜1000mg/Lである。好ましくは平均分子量300〜900未満のポリアルキレングリコールの配合量は2〜10g/L且つ両性界面活性剤の配合量は0.5〜500mg/Lである。特に好ましくは平均分子量900〜10000のポリアルキレングリコールの配合量は0.05〜0.5g/L且つ両性界面活性剤の配合量は1〜200mg/Lである。
【0037】
本発明の非シアン系電解金めっき浴に用いる平均分子量300〜900未満の低分子量のポリアルキレングリコールは、配合量が1.5g/L以上と多量になると、バンプ硬度が高くなる効力を有する。また、低分子量のポリアルキレングリコールは解け易いので、必ずしも両性界面活性剤と併用する必要は無い。なお、低分子量のポリアルキレングリコールの配合量が20g/Lを超える場合は、バンプ硬度が高くなる効力は配合量の増量ほどには上がらない。
【0038】
これに対し、平均分子量900〜10000の高分子量のポリアルキレングリコールも、配合量が0.01g/L以上と多量になると、バンプ硬度が高くなる効力を有する。但し、同様の効力があり、しかも併用することによって、その効力に相乗効果が得られる両性界面活性剤を0.1mg/L以上配合する必要がある。また、高分子量のポリアルキレングリコールは解け難いので、このことからも高分子量のポリアルキレングリコールは両性界面活性剤と併用して解け易くする必要がある。なお、両性界面活性剤は、その配合量が1000mg/Lを超えても、バンプ硬度が高くなる効力は配合量の増量ほどには上がらない。
【0039】
本発明の非シアン系電解金めっき浴を用いてめっきによりシリコンウエハ、化合物ウエハ上に金バンプめっきを行う際には、常法に従ってめっき操作を行えば良い。例えば、接続金属(下地アルミニウムと当該金バンプを接続する金属をいう。)としてTi−W、その上にAuスパッタ皮膜等を形成したウエハにマスク剤を用いてマスキングを行った後、ウエハを被めっき物として電解金めっきを行い、次いでマスク剤を溶剤に溶解させて除去する方法等が使用できる。
【0040】
マスク剤には、ノボラック系ポジ型フォトレジストとして、例えば市販品のLA−900、HA−900、アクリル系ネガ型フォトレジストとして、例えばBMR C−1000(以上、東京応化工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0041】
めっき温度は通常40〜70℃とするが、好ましくは50〜65℃である。めっき浴温度が40℃未満であると、電流効率が下がり、均一電着性が悪化する。すなわち、電流分布のムラによりめっき表面に粗いAu粒塊の部位と緻密なAu粒塊の部位が混在し、めっき皮膜において膜厚不均一・不均一外観を呈する場合や、めっき浴の伝導性が低下して、浴電圧が高くなり、めっき浴が分解する場合がある。めっき浴温度が70℃を超えると、めっき皮膜の表面Au粒塊が粗大化し、マット状の“ぼそぼそ”な表面となり、ビーズが埋没して接合に適さなくなる場合や、めっき浴の成分の金錯体が熱分解し、めっき浴が分解する場合がある。
【0042】
また、使用可能な設定電流密度としては、金濃度が8〜15g/L、60℃のめっき浴温度の条件下において、通常2.0A/dm2以下、好ましくは0.1〜1.5A/dm2、特に好ましくは0.3〜0.8A/dm2である。設定電流密度が上記の範囲を上に外れると、析出するめっき皮膜の表面上にデンドライト(樹肢)状析出などの異常析出が生ずる場合、又は高過電圧下のため浴負荷がかかり、金錯体が不安定化した結果、めっき浴が分解する虞がある。設定電流密度が上記の範囲を下に外れると、作業性が悪くなり、量産に適さなくなる場合や、めっき皮膜の表面Au粒塊が粗大化し、マット状の“ぼそぼそ”な表面となり、ビーズが埋没して接合に適さなくなる場合がある。
【0043】
本発明の非シアン系電解金めっき浴のpHとしては、通常7.0以上、好ましくは7.2〜10.0である。非シアン系電解金めっき浴のpHが7.0未満であると、著しくめっき浴が不安定となり上記の設定電流密度が所定範囲を上に外れる場合と同様に分解が生ずる場合がある。一方pHが10.0を超えると、マスク剤が溶解しめっき皮膜を汚染する場合や、レジストパターンの消失により所望の金バンプ形状等が形成できない場合がある。
【0044】
本発明の非シアン系電解金めっき浴には、本発明の目的を損なわない範囲でpH調整剤、安定剤等の他の成分を適宜使用してもよい。
【0045】
pH調整剤としては、例えば酸として稀硫酸水、亜硫酸水、りん酸等、アルカリとして水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。
【0046】
結晶調整剤としては、重金属(Tl、Pb、As等)イオン等が挙げられる。
【0047】
本発明の非シアン系電解金めっき浴は、金源である亜硫酸金アルカリ塩等及びめっき浴を構成するその他の成分を補充管理することにより2ターン(めっき浴中の金量を全てめっきに消費した場合を1ターンとする。)以上の使用を達成できる。
【0048】
本発明の非シアン系電解金めっき浴は、素地がメタライズされ導電性の得られるものであれば被めっき物を選ばないが、例えばノボラック系ポジ型フォトレジストやアクリル系ネガ型フォトレジストをマスク剤に使用してパターンニングしたシリコンウエハ上やGa/Asウエハ等の化合物ウエハ上にバンプや配線等の形成に特に好適に適用することができる。
【実施例】
【0049】
実施例1〜6、比較例1〜2
表1〜2に示す配合にて非シアン系電解金めっき浴を調製した。各原料の配合濃度の単位は特に断りのない限りg/Lである。但し、Na3Au(SO3)2はAu量、Na2SO3はSO3量、Na2SO4はSO4量についての濃度を示してある。
【0050】
被めっき物としてノボラック系ポジ型フォトレジストでパターンニングされたバンプ開口部を有するシリコンウエハ(素地断面組成は金スパッタ膜/TiW/SiO2・Si)を用いた。その断面図を図1(A)に示す。図1(A)中、2はマスク剤(フォトレジスト)、4は金スパッタ膜、6はシリコンウエハ、8は金バンプである。シリコンウエハ6は、TiWで覆われて接続金属層(層が極めて薄いため不図示)が形成されている。
【0051】
通常、被めっき物[その断面図を図1(B)に示す]としてノボラック系ポジ型フォトレジストでパターンニングされたバンプ開口部を有するシリコンウエハ(素地断面組成は金スパッタ膜/TiW/SiO2・Si)を用いる。しかし、実施例1〜6、比較例1〜2では、めっき浴について評価し易くするために、図1(A)に示す被めっき物を用いた。
【0052】
図1(B)中、12はマスク剤(フォトレジスト)、14は金スパッタ膜、16はパッシベーション膜、18はシリコンウエハ、20はAl電極、22は金バンプである。パッシベーション膜16及びAl電極20は、TiWで覆われて接続金属層(層が極めて薄いため不図示)が形成されている。
【0053】
調製した非シアン系電解金めっき浴1L中に被めっき物を浸漬し、通電を施すことにより18μmの膜厚を有するめっき皮膜を形成した。なお、非シアン系電解金めっき浴の電流効率は定常のめっき操作条件下では、通常100%である。
【0054】
所定膜厚を有する皮膜を形成した後、マスク剤を除去し、形成した金バンプめっき皮膜外観、皮膜硬度(未熱処理、150℃で30分熱処理後、200℃で30分熱処理後、250℃で30分熱処理後、及び300℃で30分熱処理後)、Auスパッタ膜のヨウ素系エッチャントによるエッチング性につき下記方法及び基準にて評価、並びに、金めっき浴の安定性の評価を行った。結果を表1〜2に併せて示す。
【0055】
〔浴安定性〕
被めっき物へめっきを施した後の、めっき浴の様子を観察し、下記基準にて評価した。
分解:めっき液が分解した。
×:めっき浴中に金の沈澱が肉眼で判るレベルで観察された。
△:めっき浴中に金の沈澱が認められなかった。0.2μmメンブランフィルタでめっき浴1000mLを濾過して目視で沈澱を観察できるレベル。
○:めっき浴中に金の沈澱は観察されなかった。
【0056】
〔めっき皮膜外観〕
被めっき物上に形成された金バンプの表面皮膜外観を目視観察及び光学顕微鏡観察し、下記基準にて評価した。
×:色調が赤い、デンドライト状析出が見られる、ムラが認められる、又はヤケが発生している。
△:異常析出はないが、光沢外観である。
○:色調がレモンイエローで無〜半光沢均一外観である。
【0057】
〔皮膜硬度(ビッカース硬度;Hv)〕
被めっき物上に形成された特定バンプ部位を用い、その皮膜硬度(未熱処理、150℃で30分熱処理後、200℃で30分熱処理後、250℃で30分熱処理後、及び300℃で30分熱処理後)を、ビッカース硬度計にて測定した。
【0058】
ファインピッチのLCDドライバIC用金バンプめっき用途として求められる特性は、熱処理後の皮膜硬度範囲が80±20Hv以内である。なお測定条件は、測定圧子を25gf荷重で10秒保持する条件によった。
【0059】
〔Auスパッタ膜のヨウ素系エッチャントによるエッチング性〕
被めっき物を常温で十分に撹拌されたヨウ素系エッチャントの中に90秒浸漬した後、アルコール系リンス液でとも洗いし、エタノール噴霧してドライヤーで乾燥した。その後、光学顕微鏡を用いて50〜150倍の倍率で被めっき物上に形成された全バンプの表面状態を観察し、下記基準にて評価した。
×:50%以上のバンプの表面にムラが観察される。
△:一部の限られたエリアのバンプの表面にムラが観察される。
○:被めっき物上の全バンプの表面にムラが観察されない。
【0060】
〔総合評価〕
上記各評価結果から、下記評価基準にて評価した。
×:形成された金めっき皮膜(金バンプ)及びめっき処理後の非シアン系電解金めっき浴に関する上記評価結果に、好ましくない結果が含まれた。
○:形成された金めっき皮膜(金バンプ)及びめっき処理後の非シアン系電解金めっき浴に関する上記評価結果が、全て良好な結果であった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1〜2において、緩衝剤A、緩衝剤B、ポリアルキレングリコールA、ポリアルキレングリコールB、両性界面活性剤C、両性界面活性剤Dとしては、以下のものを使用した。
緩衝剤A;エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
緩衝剤B;リン酸一ナトリウム
ポリアルキレングリコールA;ポリエチレングリコール 平均分子量600
ポリアルキレングリコールB;ポリエチレングリコール 平均分子量2000
両性界面活性剤C; 2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドリキシエチルイミダゾリニウムベタイン
両性界面活性剤D; ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】めっき浴評価試験に用いる被めっき物の断面を示す概略図であり、(A)は実施例1〜6、比較例1〜2におけるめっき浴評価試験に用いた被めっき物の断面を示す概略図、(B)は通常のめっき浴評価試験に用いる被めっき物の断面を示す概略図である。
【符号の説明】
【0065】
2、12 マスク材
4、14 金スパッタ膜
6、18 シリコンウエハ
8、22 金バンプ
16 パッシベーション膜
20 Al電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムからなる金源と、水溶性アミンからなるスタビライザと、結晶調整剤と、亜硫酸塩及び硫酸塩からなる伝導塩と、緩衝剤とを含有すると共に、ポリアルキレングリコール及び/又は両性界面活性剤とを含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴であって、ポリアルキレングリコールを0.01g/L以上含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【請求項2】
亜硫酸金アルカリ塩又は亜硫酸金アンモニウムからなる金源と、水溶性アミンからなるスタビライザと、結晶調整剤と、亜硫酸塩及び硫酸塩からなる伝導塩と、緩衝剤とを含有すると共に、ポリアルキレングリコール及び/又は両性界面活性剤とを含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴であって、平均分子量300〜900未満のポリアルキレングリコールを1.5〜20g/L含有、又は、平均分子量900〜10000のポリアルキレングリコールを0.01g/L以上含有し且つ両性界面活性剤を0.1〜1000mg/L含有するバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【請求項3】
両性界面活性剤が、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドリキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、及び脂肪酸アシル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンアルカリ塩から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載のバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【請求項4】
結晶調整剤が、Tl化合物、Pb化合物、又はAs化合物である請求項1に記載のバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴。
【請求項5】
請求項1に記載のバンプ形成用非シアン系電解金めっき浴を用いてパターンニングされたウエハ上に電解金めっきをするバンプの形成方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−115450(P2008−115450A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302067(P2006−302067)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】