説明

バーナーリグ試験装置

【課題】数多くの材料・部材のサイクリック酸化試験やホットコロージョン試験などを行うためには多大な時間と労力が必要とされる。これらの試験を効率的かつ高い信頼性を持って実施可能な試験装置の開発が強く期待されている。
【解決手段】高温の燃焼ガスを発生させるための燃焼室と、燃焼ガス炉体と、試験片保持構造とを具備したものであり、かつ回転可能な試験片保持構造には複数の試験片の設置が可能であって、複数の試験片が燃焼ガス流に対して均一に暴露されることを特徴とするバーナーリグ試験装置を提案し、高温下における耐熱金属材料や耐熱コーティング部材の迅速かつ簡便な耐食性試験を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃焼室にて発生した燃焼ガスを一方向に流通させる燃焼ガス炉と、この燃焼ガス炉中に試験片を配置する試験片保持構造とからなるバーナーリグ試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化の一因とされる二酸化炭素の排出量の抑制の視点、さらには原油をはじめとする化石燃料の高騰に伴う燃料費の削減の視点から、発電用ガスタービン、ジェットエンジンなどの分野において、エネルギー効率の優れた機器の開発が活発に行われている。これに伴って、これらの機器に使用されるタービンブレード、タービンベーンおよびディスク等の部材に対しても優れた耐熱性、耐酸化性、高温耐食性などを持った新しい材料の開発が活発に行われている。
例えば、ジェットエンジンにおいては、ジェット燃料の高騰に伴うエンジンのエネルギー効率改善のために不可欠な高温下において優れた耐久性を有する超耐熱合金(例えば、Ni基単結晶超合金)の開発ならびにそれらの合金に適したコーティング材料の開発が急務となっている。また、発電用ガスタービンにおいては、燃料効率の改善策とともに省資源・燃料コスト削減の観点から低質な原料油を燃料として使用するケースも増加しており、これらの低質な燃料油に含まれる硫黄、ナトリウム、ハロゲン類などは金属・部材の腐食を促進する。高温部材であるガスタービンの動翼・静翼などは、これらの腐食性物質による過酷な腐食環境に曝されることになるので、耐熱性、耐酸化性、高温耐食性を兼ね備えた新しい耐熱合金および耐熱・耐食コーティング材料の開発促進が強く望まれている。
【0003】
これらの耐熱性、耐酸化性および高温耐食性等を持った新しい耐熱合金材料および耐熱・耐食コーティング材料の最適化スクリーニングに際して、当然のことながら、実際の運転状況に類似の環境下における材料・部材の評価試験を行うことが必要である。
【0004】
従来の試験装置は、燃料排ガスの高温ゾーンに試験片を連続的に暴露、あるいは高温ゾーンで試験片を周期的に加熱&冷却する方式であり、特許文献1の図2に示されるようなバーナーリグ試験装置が、材料・部材評価の代表的な試験方法として用いられてきた。
公知のバーナーリグ試験装置は、ある程度実機評価に類した試験装置として構成が簡易であるものの、数多くの材料・部材のサイクリック酸化試験やホットコロージョン試験などを行うためには多大な時間と労力が必要とされる。
このような公知の装置に、例えば、複数の試験片を強制的に加熱した場合は、その加熱ムラが生じ正しい試験はできない。
また、サイクル試験にしても、燃焼ガスのON−OFFでは、十分な冷却が困難であるのみならず、耐熱性を有する燃焼ガス炉内壁を急速に冷却することは不可能であることから、高温度差で急速な加熱冷却を繰り返す試験などは望み得ないものとされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情に鑑み、従来不可能とされていた高効率で多様なパターンでの試験を行えるバーナーリグ試験装置とその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1のバーナーリグ試験装置は、試験片保持構造が、燃焼ガス炉中の燃焼ガス流動方向に交差する中心軸周りに配置された試験片保持部と、当該保持部を前記中心軸周りに公転させる回転機構とを有することを特徴とする。
発明2は、発明1のバーナーリグ試験装置において、前記試験片保持部は、前記中心軸と同心状の円周上に複数配置されていることを特徴とする。
【0007】
発明3は、発明1又は2のバーナーリグ試験装置において、前記燃焼ガス炉には、前記試験片保持構造を出し入れする出入口が設けられていて、当該出入口を通って前記試験片保持構造を炉内と炉外の位置に移動させる試験体ブロック移動構造が設けられているとともに、前記燃焼ガス炉中の所定位置に試験片保持構造を配置した時、前記出入口を閉止する断熱蓋が前記試験片保持構造に設けられていることを特徴とする。
【0008】
発明4は、発明3のバーナーリグ試験装置において、前記炉外位置に、前記試験体ブロックを冷却する冷却手段が設けてあることを特徴とする。
発明5は、発明4のバーナーリグ試験装置において、前記試験体ブロックが炉外位置にあるときに、前記燃焼ガス炉の出入口を閉止する断熱蓋が設けてあることを特徴とする。
発明6は、発明4又は5のバーナーリグ試験装置において、前記冷却位置と前記炉内位置とを一定サイクルで往復させる加熱冷却手段が設けてあることを特徴とする。
【0009】
発明7は、発明3から6のいずれかのバーナーリグ試験装置において、前記試験体ブロック移動構造が、炉外の試験片の装填回収位置に試験片保持構造を移動可能にされてなることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【0010】
発明8は、発明1から7のバーナーリグ試験装置において、前記燃焼ガスを発生させる燃焼室に、不燃性液体を供給する液体供給構造が設けられていることを特徴とする。
発明9は、発明8のバーナーリグ試験装置において、前記不燃性液体供給構造は、前記燃焼室への燃焼用空気の供給経路の途中に前記不燃性液体を供給して、不燃性液体と燃焼用空気との混合体が前記燃焼室に供給されるようにしてあることを特徴とする。
【0011】
発明10は、発明1から9のいずれかのバーナーリグ試験装置において、前記燃焼ガス炉中の燃焼ガス中に不燃粒子を混入する粒子混入構造が設けてあることを特徴とする。
発明11は、発明10のバーナーリグ試験装置において、前記粒子混入構造は、燃焼ガス炉の前記試験片保持構造よりも上手側に設けてあることを特徴とする。
【0012】
発明12は、発明1から11のいずれかのバーナーリグ試験装置に用いる測温器であって、前記試験片と同様な形状と材質の測温片と、これに固定された感熱素子と、当該感熱素子からの感熱電子信号を前記燃焼ガス炉外に導く信号伝達手段とからなることを特徴とする測温器。
【0013】
発明13は、発明1から11のいずれかのバーナーリグ試験装置を用いた耐熱試験方法であって、前記試験片保持構造の試験片保持部に試験片を保持させて、燃焼ガス炉内で、一定の回転速度にて公転させ、この公転範囲全体にわたって流れる燃焼ガスに暴露して加熱することを特徴とする。
発明14は、発明4から6のいずれかのバーナーリグ試験装置を用いた耐熱試験方法であって、前記試験片保持構造に試験片を保持させて公転させながら、燃焼ガス炉内の加熱位置と、炉外の冷却位置との間を所定回数往復させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
発明1,2では、試験片の加熱を、前面に渡って均等に行えるようにしたものである。
炉内の燃焼ガス流によって生じる炉内温度の格差が生じていても、公転により試験片をこれらの平均的な温度に加熱することができ、再現性の良好な信頼性の高い試験を行うことができた。
また、発明3のようにすることで、炉内の温度を維持したまま、試験片を炉内と炉外とに位置させることができるので、試験片の取替等においても、炉内温度を安定させておくことができ、多数の試験片を同様な温度条件で試験することが可能になった。
発明4,5,6,7とすることで、炉内温度を安定させた状態で、冷却と加熱を繰返し行う試験も信頼性の高い状態で行えるとともに、その加熱、冷却の切換えが、試験片の出し入れにて行えるので、その速度を調整することで、加熱速度、冷却速度を自由に調整でき、例えば、急速な加熱冷却の繰り返し試験等も簡単に行えるようになった。
発明8,9により、水蒸気などの付加液体の存在下での加熱試験も本装置で可能になった。
特に、燃焼室内に不燃液体(負荷液体)を供給することで、不燃液体をガス中に均等に分散させた燃焼ガスを炉内に供給することができ、負荷状態の安定化と再現性を向上することができた。
さらに、発明10,11とすることで、不燃粒子を含む燃焼ガスによる影響をも試験することが可能になった。
また、発明12の測温器を用いることで、試験片に対する燃焼ガスの影響を忠実に計測できるようになった。
発明14の試験方法により、サイクリック酸化試験やホットコロージョン試験などにおいて試験体の性能に関する経時的な変化を測定するために、任意の経過時間に炉本体の条件を変えることなく、試験片保持構造を燃料ガス導入管より取り出し、試験体を冷却して特性劣化の度合いを評価することができる。
【0015】
本発明によるバーナーリグ試験装置は、従来の試験装置に必要とされた多大な時間と労力を大幅に軽減すると同時に、高温下、実機試験に近い雰囲気において信頼性あるデータを取得可能とするものである。
本発明の試験装置により、高温下、実機試験に近い雰囲気において長時間試験においても信頼性あるデータを取得可能となった。また、これによって、実用化に必要な材料開発・材料の最適化に要する時間を大幅に短縮することが可能となった。さらに、本発明のバーナーリグ試験装置を用いることにより自動化システムの構築も容易となって、試験装置のオペレーションに要する労力も大幅に削減することが可能となった。さらに、本発明の自動化された試験装置を用いることにより、試験体の長期サイクリック試験も安定的かつ効率的に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1に示すバーナーリグ試験装置の概要を示す縦断正面図。
【図2】実施例1に示す測温器を示す正面図。
【図3】実施例1に示すバーナーリグ試験装置の概要を示す縦断側面図。
【図4】回転する試験片保持構造を冷却後にバーナーリグ試験装置から外部に水平移動した状態の写真。
【図5】燃焼ガスによって加熱状態にある試験片と熱電対を取り付けた試験片保持構造の写真。
【図6】試験片温度を700℃に制御した時の温度プロファイルを示したものである。
【図7】試験片温度を1100℃に制御した時の温度プロファイルを示したものである。
【図8】試験片の温度を900℃に制御した場合の試験片温度と試験片直上で測定した燃焼ガスの温度の推移を示したものである。
【図9】試験片温度が700℃、900℃、1100℃における燃焼ガス流速を、水冷構造のピトー管で測定した結果である。
【図10】実施例1の装置のサイクリック試験を自動化したバーナーリグ試験装置において、1100℃で1時間保持、30分のファン冷却のサイクルで試験した試験片温度のプロファイルを示したものである。
【図11】実施例7の自動制御用シーケンスのフロー図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の試験装置が解決しようとした主要課題として、下記の項目を挙げることができる。
(1)実機の燃焼ガス雰囲気に近い試験環境で行える
(2)できるだけ多くの試験片を同時に評価できる
(3)サイクリック酸化試験およびホットコロージョン試験が行える
(4)測定者にとって操作しやすく、信頼性の高い評価結果が得やすい
【0018】
本発明は、このような課題の解決手段として、試験片を炉内の一か所に位置させて加熱するのではなく、炉内の燃焼ガス流を横断するように公転させることにより、燃焼炉内で生じざるを得ない温度差によっても、同様な条件での加熱が安定して行えるようにして、加熱条件の安定化を図った。
また、この公転は、その円周上に複数の試験片を配置しても、それぞれが同様な加熱条件で加熱することができることとなり、多数の試験片を、一度に加熱することを可能にし、試験効率の向上を図ることができた。
また、このような試験片保持構造を燃焼ガス炉内に配置するに当たり、炉の出入口と試験片保持構造の双方に断熱蓋を設けたことで、炉内へ試験片を配置した時のみならず、炉外に位置させたときにでも、出入口を閉鎖して、炉内の温度を維持することができた。
このことは、一度には加熱できない多数の試験片を順次加熱するに当たり、燃焼ガス炉内の温度を試験片の取替の間にも安定させることができた。そして、これにより同様な加熱条件での加熱試験を高い信頼性をもって繰り返すことが可能となった。
【0019】
さらに、この断熱蓋の存在は、燃焼ガス炉の内外における温度条件を共に安定させることができるので、試験片を炉内と炉外に出し入れするのみでも、加熱冷却を繰返す試験が可能となる。
さらに、その炉外位置を冷却装置による冷却位置とすると、加熱冷却の条件をさらに広範囲に設定することが可能になる。
【0020】
そして、この冷却位置からさらに燃焼ガス炉より離れた位置に試験片の回収設置位置を配置して、試験片保持構造をこれら3か所を直列移動できるようにすることで、炉内から取り出した試験片を冷却してから回収することが自然に行えるようになり、試験作業の効率化を図ることができる。
【0021】
試験条件は、できるだけ使用条件に近似した条件で行うことが望ましいが、本発明では、不燃性液体の供給装置や不燃性粒子の供給装置を付加することで、これを達成した。
特に不燃性液体は、燃焼ガス中に均等に分散させることが、試験後の試験片の分析が容易になる点、及び再現性ある試験を行う上で重要であるが、本発明では、燃焼室中に不燃性液体を供給することで、燃焼中に不燃性液体を混合することができ、その均一性を向上することができた。
特に、燃焼用空気と共にこの液体を供給すると、燃料と空気との混合時に不燃性液体も分散され燃焼されることとなり、得られた燃焼ガスは、不燃性液体の蒸気が均一に混合したものとなる。
【0022】
上記の特徴を有するバーナーリグ試験装置を使用することによって、従来の古典的な試験装置に比較して、再現性の良い効率的な試験が実施可能となった。
なお下記実施例における、試験片ホルダー(4a)は、試験片(4)の形状に合わせ筒状のものを使用したが、必ずしもこれに限らず、試験片が板状の場合は、スリット状の保持部のものを、サイコロ状のものなら、その下部を支える皿状のものを用いるなどするのは、従来の公知技術より容易に想起し得る範疇のものである。
また、このホルダー(4a)の公転半径は、燃焼ガス炉(3)の加熱部分の断面積により、許容範囲の温度差に収まるように設計すれば良い。
また、燃焼ガス炉(3)の加熱部分の断面は円形に限らず、楕円形若しくは多角形や三角形などの形状にすることに何らの問題はない。
なお、下記実施例では、直線に同様の動力源としてピストン(16)(17)(18)を用いた例を示してあるが、リニアモータ等の直線駆動機構或いは、回転モータの動力を直線運動に返還する機構等に代替することに何らの困難性を有するものではない。
【実施例1】
【0023】
以下に、図1、図2および図3を用いて、本発明のバーナーリグ試験装置の実施例を具体的に説明する。
図1に示すように、装置本体(1)は、主として燃焼室(2)、断熱材で構成された燃焼ガス炉体(3)、試験片(4)が取付けられた回転可能な試験片保持構造(5)および冷却室(6)から構成されている。冷却室(6)には試験片保持構造(5)を強制空冷するファン7が設置してある。
前記燃焼室(2)の、燃焼用空気供給経路(12)に設けた予備加熱器(9)の設置位置には、二つの不燃液体供給構造(8A)(8B)が設けてある。
この液体供給構造(8A)(8B)は、不燃性液体を貯留する水溶液タンク(8a)と前記空気供給経路(12)に開口した注入ヘッド(8b)とこれを連結し、中間に流量調整弁とポンプとを有する流路(8c)とにより構成されている。
このようにして、水溶液タンク(8a)に貯留された不燃性液体を流路(8c)を介して所定の流速で注入ヘッド(8b)に送り、前記空気供給経路(12)内の空気に混入するようにしてある。
また、前記予備加熱器(9)は、前記燃焼室に至る前に、燃料供給路(13)から供給された燃料との混合と燃焼とが確実に行えるように、燃焼に適した温度に空気とそれに混合された液体とを加熱するものである。
前記燃焼室(2)で生成された燃焼ガスは、そのノズルから燃焼ガス炉(3)中にジェット流として噴射される。
当該燃焼ガス炉(3)前記燃焼室(2)に近い大径の燃焼ガス拡散部分とこれに続く筒状の加熱流路部分と排気装置(24)を配置した排気部分の3部分が直列に設置された形状を有した高断熱耐熱性隔壁で形成されたものである。
このようにして、燃焼ガス拡散部分にて燃焼ガスの圧力を分散させて、燃焼ガス全体の温度を安定化させた後に、加熱部分に送り、これを安定した流速で流通させ、その後に排気するようにしてある。
前記排気装置(24)は、下記する出入口、計測器挿入管群(11)或いは、回転軸(5a)の周囲から燃焼ガスが噴出しないように、燃焼ガス炉(3)内の内圧を一定以下に保つ役割を果たしている。
【0024】
前記燃焼ガス炉(3)には、加熱室の中間部に出入口が形成してあり、その出入口は伝熱蓋(15)によって閉止できるようにしてある。
当該開閉蓋(15)は、開閉ピストン(16)の伸縮により、図3中左右に移動して、出入口を開閉するようにしてある。
前記燃焼ガス炉(3)の前室の天井部分には、不燃性粒子を貯留する粒子タンク(10)の調整蓋(10a)が配置されている。
このようにして、粒子タンク(10)内に貯留した、火山灰、砂、砂利等の不燃粒子を、前記調整蓋(10a)の開き度合いにて調整した流下速度で、燃焼ガスジェットに向かって流下させるようにして、燃焼ガス中に、不燃粒子を混合する。
この際、前室でのジェット流は、可燃室に比べ乱れた状態にあるために、燃焼ガスへの粒子の混合分散が起こりやすく、燃焼ガス中全体にわたって、粒子をばらつきの少ない状態で保持させやすい。
【0025】
前記試験片保持構造(5)は、前記燃焼ガス炉(3)の下方に配置した支柱(A)(A)に固定された水平LMガイド(20)に、水平移動自在に保持された水平移動ベース(23)と、これを伸縮して水平移動させる水平駆動ピストン(18)と、前記水平移動ベース(23)に固定した垂直LMガイド(19)と、これに垂直移動自在に保持された垂直移動ベース(22)と、これを伸縮にて垂直移動させる垂直駆動ピストン(17)により、水平及び垂直の2方向に移動自在にして設けてある。
また、前記垂直移動ベース(22)には、電導モータ(14)と、これにギヤにて連結された中空の垂直回転軸(5a)と、この上端に固定された試験台(4b)と、この試験台(4b)に、前記回転軸(5a)の回転中心と同心上の円周位置に固定した複数の筒状の試験片ホルダー(4a)とにより、棒状の試験片(4)を保持して公転させる構造が設けてある。
また、前記回転台(4b)の下方には、前記回転軸(5a)を回転自在に貫通させた断熱蓋(5)が、前記垂直移動ベース(22)に固定して設けられていて、前記試験片ホルダー(4a)が炉内の所定高さ(図1中点線で示す位置)に達した時に前記燃焼ガス炉(3)の出入口を閉止するようにしてある。
前記回転軸(5a)の中空部分は、前記試験片と同形状の測温器(25)の上下三か所に取り付けられた熱電対(25a)(25b)(25c)から延びる測温ケーブル(26a)(26b)(26c)(ケーブル群(26)を通して、前記前記垂直移動ベース(22)の下部に設けた継電ブロック(21)に繋ぐためのものである。
なお、継電ブロック(21)は、公転によっても、前記ケーブル群(26)がねじれないようにロータリー式のものを用いており、当該継電ブロック(21)から、温度の計測機器(PC端子)に、前記熱電対(25a)(25b)(25c)からの電気信号を中継する為のものである。
【0026】
前記燃焼ガス炉(3)の下方の空間は、冷却ファン(7)による外気流通による冷却室としてある。
このようにすることで、前記試験片保持構造(5)を上下するのみで、試験片の加熱と冷却を行えるようにし、短時間で両者の切換えが可能なようにしてある。
なお、冷却室の正面(図3中左側)には、開閉扉(図外)が設けられていて、水平駆動ピストン(18)によって、前記前記試験片保持構造(5)を前記冷却室(6)外に移動させることができるようにしてある。
つまり、前記試験片ホルダー(4a)を加熱位置−冷却位置−取替位置の直列系で移動させるようにしてあり、それぞれの間は往復移動可能にしてある。
前記燃焼ガス炉(3)の加熱室部分には、ガス流れ方向に多数の計測器挿入管(11a)〜(11g)が設置された計測器挿入管群(11)が設けてある。
これは、炉外から直接、燃焼ガス炉中に測定器を挿入し、内部の温度、湿度、流速、圧力、pH等を計測する為のものである。この計測器挿入管群(11)を設けることで、試験片(4)の前後における環境条件を計測して、再現性の良い、そして、耐熱性に影響する環境因子を分析するための貴重なデータを得ることができるようになった。
【0027】
図4は回転する試験片保持構造を冷却後にバーナーリグ試験装置から外部に水平移動した状態の写真であり、試験片の評価および交換を安全かつ容易に実施することが可能となったことを具体的に明らかにしている。
【0028】
実施例2において、燃料として灯油を用い、ハイスピードオイルバーナーを使用して燃焼ガスを炉内に導入した。適正なバーナーを使用することで、燃料としては、灯油以外にも、軽油、重油、都市ガス、天然ガスなど幅広い化石燃料を使用することができる。炉内の温度は燃焼条件によっても異なるが、通常550℃から1300℃まで、より好ましくは、600℃から1200℃までの幅広い温度域において安定して使用できる。
【0029】
試験片保持構造に取り付け可能な試験片の数は試験片保持構造の直径、試験片の大きさなどにもよるが、通常5個以上20個以内を取り付けて試験するのが望ましい。個々の試験片が燃焼ガスに均一に暴露される限り、試験中における試験片保持構造の回転速度は任意であるが、通常数1rpm以上100rpm以下で回転することで目的は達成される。
【実施例2】
【0030】
本実施例により、前記実施例1に示した装置を用いた実験の例を示す。
燃料としての灯油と燃焼用空気をエアーコントロールダンパーとオイルレシオレギュレータで流量を制御しながらハイスピードオイルバーナー(2)によって燃焼ガスを発生させて、燃焼ガス炉(3)内の温度分布を一定に制御できるかどうかの検証を行った。
図5は温度測定時の炉内の状態を燃焼ガス排出側に設置されたのぞき窓から撮った写真であり、試験片(4)と一つの測温器(25)を炉内に位置させた様子を示しており、前記測温器(25)には、三本の熱電対(25a)〜(25c)と測温ケーブル(26a)〜(26c)が取り付けられている様子が確認される。
燃焼ガス温度を制御しながら、試験片温度を700℃および1100℃で安定するように試験した結果を図6(A)および(B)に示した。室温でバーナーの着火を行ってから、それぞれ約10分および約20分で所定の温度に到達・制御できることが分った。なお、試験片温度を500℃に制御することを試みたが、試験片の温度を一定に維持することは難しかった。
【0031】
また、試験片温度を700℃および1100℃に制御したのちに、注液装置(8A)により、50cc/minの蒸留水を注入したが、試験片の温度に特に変化なく、安定した温度制御ができることが分った。このことは、微量の硫黄分、アルカリ類、ハロゲン類などを含む水溶液を燃焼ガスとともに注入する試験により、ホットコロージョン試験などの耐環境性試験も実施可能であることを示している。
【実施例3】
【0032】
本実施例は、前記実施例1に示す装置により行った加熱試験の結果を示す。
試験片(4)と同型、同材質の測温器(25)を、図5の炉内写真に示すように公転させながら所定温度に加熱し、その上部と下部の温度を測定した。試験片の温度を600℃から1135℃まで変化させて上部と下部の温度を測定した。温度差は大きい場合でも約3℃程度であった。また、試験片の回転速度を1rpmから40rpmまで変化させながら温度差を測定したが、試験片の上部と下部の測定温度差は3℃以内に収まることが確認された。以上の結果は、試験片の上部と下部の温度差はほとんどなく、幅広い設定温度において試験片が精度よく評価されることを示している。
【実施例4】
【0033】
本実施例は、前記実施例1に示す装置により行った加熱制御試験の結果を示す。
燃焼ガス炉(3)内の温度は、前記測温器(25)の中段の熱電対を用いて制御(図2参照)しており、室温から任意の試験温度までの昇温、保持、炉冷の温度プロファイルの例を図6と図7に示す。
700℃で制御する場合および1100℃で制御する場合においても、所定温度に達した後の温度制御の精度は±1℃と非常に安定した制御が可能であった。以上の結果から、本発明のバーナーリグ装置は試験片の温度制御が非常に精密に行われていることが確認できた。
【実施例5】
【0034】
本実施例は、前記実施例1に示す装置の環境温度測定実験の結果を示す。
図8は、図1の計測導入管11(c)に熱電対を挿入して燃焼ガス炉(3)内の温度を測定し、900℃制御の場合の測温器(25)での測定温度との温度差を測定した結果を示したものである。
900℃安定時におけるガス温度は試験片(測温器)温度よりも約45℃高くなっていたが、燃焼ガス温度の上昇につれて試験片の温度もスムーズに上昇し、所定の900℃で安定に制御されることが確認された。
【実施例6】
【0035】
本実施例は、前記実施例1に示す装置の流速測定実験の結果を示す。
図9は、図1の試験片直前にある計測導入管11(b)に水冷構造のピトー管を装着し、試験片の制御温度が700℃、900℃、1100℃での燃焼ガス流速を測定した結果を示したものである。測定値にバラツキはあるものの、平均流速は数10m/secであった。これにより、本発明のバーナーリグ装置はピトー管による測定が可能であることを確認することができた。
【実施例7】
【0036】
本実施例は、前記実施例1に示す装置でのサイクリック試験を自動化するため、各ピストン(16)(17)(18)とモータ(14)及び燃焼室(2)の燃焼制御、並びにモータ(14)の回転数を対象にした、図11に示すフローに基づく制御シーケンスを組み込んだ制御装置を設置した。
当該シーケンスは、加熱温度(Tx)、加熱時間(Ht)、冷却時間(Ct)、加熱冷却速度(HCs)、繰返し回数(Rt)、付加設定及び公転速度(Rpm)の設定入力に基づき、前記各作動構造を順次制御するようにしてある。
付加設定は、負荷物とその貯留タンク及び供給速度を設定するもので、下記例では、負荷物無での試験の例を示した。
図10は、実施例1に示すバーナーリグ試験装置において、試験片を1100℃で1時間保持、ファンで30分の冷却条件で繰り返し試験した場合の試験片温度のプロファイルを示したものである。図に示されるように、数分の極めて短時間で試験片の加熱が行われており、また、1サイクル毎の温度保持は±1℃と非常に安定したものであった。これらの試験結果は、試験片のサイクリック試験が信頼性高く、効率的に実施可能であることを示している。
さらに、本発明のバーナーリグ試験装置は、サイクリック試験および装置の操作が全てボタン操作のみで行うことができ、測定者によって操作しやすい装置であることも特徴の一つである。
【0037】
以上、実施例に示されるように、本発明のバーナーリグ試験装置は、一回の試験に数多くの試験片の評価が可能で、かつ再現性良く耐熱性合金および耐熱コーティング部材の高温下における耐酸化性および耐食性の試験を可能とするものであり、耐環境性に優れた耐熱性合金および耐熱コーティング部材の開発に非常に有益な武器となるものと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特開平11−131206号公報
【符号の説明】
【0039】
(1) 装置本体
(2) 燃焼室
(3) 燃焼ガス炉
(4) 試験片
(4a) 試験片ホルダー
(4b) 試験台
(5) 試験片保持構造
(5a) 回転軸
(6) 冷却室
(7) ファン
(8A)(8B) 注液装置
(8a) 液タンク
(8b) 注入ヘッド
(8c) 注液ライン
(9) 予熱ヒータ
(10) 粉体タンク
(10a) タンク調整蓋
(11) 計測器挿入管群
(11a)〜(11g) 計測器挿入管
(12) 燃焼用空気ライン
(13) 燃料ライン
(14) モータ
(15) 炉断熱蓋
(15a) 挿入時仮断熱蓋
(16) 開閉ピストン
(17) 垂直駆動ピストン
(18) 水平駆動ピストン
(19) 垂直LMガイド
(20) 水平LMガイド
(21) 継電ブロック
(22) 垂直移動ベース
(23) 水平移動ベース
(24) 排気装置
(25) 測温片
(26) 測温ケーブル群
(26a)〜(26c) 測温ケーブル
(A) 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室にて発生した燃焼ガスを一方向に流通させる燃焼ガス炉と、この燃焼ガス炉中に試験片を配置する試験片保持構造とからなるバーナーリグ試験装置であって、前記試験片保持構造が、前記燃焼ガス炉中の燃焼ガス流動方向に交差する中心軸周りに配置された試験片保持部と、当該保持部を前記中心軸周りに公転させる回転機構とを有することを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバーナーリグ試験装置において、前記試験片保持部は、前記中心軸と同心状の円周状に複数配置されていることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバーナーリグ試験装置において、前記燃焼ガス炉には、前記試験片保持構造を出し入れする出入口が設けられていて、当該出入口を通って前記試験片保持構造を炉内と炉外の位置に移動させる試験体ブロック移動構造が設けられているとともに、前記燃焼ガス炉中の所定位置に試験片保持構造を配置した時、前記出入口を閉止する断熱蓋が前記試験片保持構造に設けられていることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項4】
請求項3に記載のバーナーリグ試験装置において、前記炉外位置に、前記試験体ブロックを冷却する冷却手段が設けてあることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項5】
請求項4に記載のバーナーリグ試験装置において、前記試験体ブロックが炉外位置にあるときに、前記燃焼ガス炉の出入口を閉止する断熱蓋が設けてあることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のバーナーリグ試験装置において、前記冷却位置と前記炉内位置とを一定サイクルで往復させる加熱冷却手段が設けてあることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項7】
請求項3から6のいずれかに記載のバーナーリグ試験装置において、前記試験体ブロック移動構造が、炉外の試験片の装填又は回収位置に試験片保持構造を移動可能にされてなることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項8】
請求項1から7に記載のバーナーリグ試験装置において、前記燃焼ガスを発生させる燃焼室に、不燃性液体を供給する液体供給構造が設けられていることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項9】
請求項8に記載のバーナーリグ試験装置において、前記不燃性液体供給構造は、前記燃焼室への燃焼用空気の供給経路の途中に前記不燃性液体を供給して、不燃性液体と燃焼用空気との混合体が前記燃焼室に供給されるようにしてあることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のバーナーリグ試験装置において、前記燃焼ガス炉中の燃焼ガス中に不燃粒子を混入する粒子混入構造が設けてあることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項11】
請求項10に記載のバーナーリグ試験装置において、前記粒子混入構造は、燃焼ガス炉の前記試験片保持構造よりも上手側に設けてあることを特徴とするバーナーリグ試験装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のバーナーリグ試験装置に用いる測温器であって、前記試験片と同様な形状と材質の測温片と、これに固定された感熱素子と、当該感熱素子からの感熱電子信号を前記燃焼ガス炉外に導く信号伝達手段とからなることを特徴とする測温器。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載のバーナーリグ試験装置を用いた耐熱試験方法であって、前記試験片保持構造の試験片保持部に試験片を保持させて、燃焼ガス炉内で、一定の回転速度にて公転させ、この公転範囲全体にわたって流れる燃焼ガスに暴露して加熱することを特徴とする耐熱試験方法。
【請求項14】
請求項4から6のいずれかに記載のバーナーリグ試験装置を用いた耐熱試験方法であって、前記試験片保持構造に試験片を保持させて公転させながら、燃焼ガス炉内の加熱位置と、炉外の冷却位置との間を所定回数往復させることを特徴とする耐熱試験方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−185710(P2011−185710A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50515(P2010−50515)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年10月21日 社団法人 日本ガスタービン学会発行の「第37回 ガスタービン定期講演会 講演論文集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】