説明

バーハンドル車両用連動ブレーキ機構

【課題】前輪ブレーキ側の昇圧が設定通りに得られない時に、連動用スレーブシリンダのピストンの前進量を規制し、後輪ブレーキを良好なフィーリングで的確に操作することのできる連動ブレーキ機構を提供する。
【解決手段】連動用スレーブシリンダ8のピストン28に設けた大径フランジ部28bに当接し、ピストン28の前進量を規制するピストンストッパ10を設ける。ピストンストッパ10は、シリンダ部10b,ストッパ杆33,ストッパ弾発部材39,液圧導入路34,液圧室38を備え、液圧室38に所定の液圧が作用しない状態では、ストッパ杆33の先端部が、大径フランジ部28bよりも連動部材側に距離を空けた当接位置に突出し、前記ピストン28が僅かに前進した状態で当接する。液圧室38に所定の液圧が作用した状態では、液圧によりストッパ杆33が後退し、ストッパ杆33の先端部が連動用スレーブシリンダ8のシリンダ孔外周側に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連動ブレーキ用の液圧系統に用いられる連動用スレーブシリンダと前輪用液圧マスタシリンダとを備えたバーハンドル車両用連動ブレーキ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バーハンドル車両用連動ブレーキ機構として、前輪用ブレーキレバーの操作に応じて前輪用液圧マスタシリンダを介して前輪ブレーキに液圧を供給する第1液圧系統と、後輪用ブレーキ操作子の操作に応じて後輪用液圧マスタシリンダを介して後輪ブレーキに液圧を供給すると共に、後輪用ブレーキ操作子の操作に応じて液圧作動する連動用スレーブシリンダを介して前記前輪用液圧マスタシリンダを作動させて前輪ブレーキに液圧を供給する第2液圧系統とを備えたものが提案されている。この前輪用液圧マスタシリンダと前記連動用スレーブシリンダとは並列に配置され、前輪用液圧マスタシリンダのピストン外端面と連動用スレーブシリンダのピストン外端面とに両端がそれぞれ当接する円弧状の連動部材の中間部を、前記前輪用ブレーキレバーに回動自在に連結し、前輪用ブレーキレバーを操作して第1液圧系統によって前輪ブレーキを作動させる時には、前輪用ブレーキレバーの操作に伴って前記連動部材が回動して前輪用液圧マスタシリンダのピストンを押動して前輪用液圧マスタシリンダを作動させ、後輪用ブレーキ操作子を操作して第2液圧系統によって前輪ブレーキを作動させる時には、前記連動用スレーブシリンダが液圧作動することにより、前記連動部材が前輪用ブレーキレバーを非操作状態に保持したまま回動して前輪用液圧マスタシリンダのピストンを押動して前輪用液圧マスタシリンダを昇圧させるようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−254771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の連動ブレーキ機構では、後輪のブレーキ操作によって後輪ブレーキと前輪ブレーキの双方に液圧を供給することになるため、例えば車輪に加わる衝撃等によりブレーキを戻す方向に荷重が加わった場合や、前輪ブレーキのロールバック量の変化により前輪ブレーキ側の昇圧が設定通りに得られない場合等では、後輪ブレーキ側のブレーキの昇圧特性が変化することから、車両全体としてブレーキフィーリングが悪化する虞があった。
【0004】
そこで本発明は、簡単な構造で、前輪ブレーキ側の昇圧が設定通りに得られない場合に、連動用スレーブシリンダのピストンの前進量を規制して、後輪ブレーキを良好なフィーリングで的確に操作することのできるバーハンドル車両用連動ブレーキ機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のバーハンドル車両用連動ブレーキ機構は、後輪用ブレーキ操作子の操作に応じて後輪用液圧マスタシリンダから後輪ブレーキと連動用スレーブシリンダに液圧を供給し、該連動用スレーブシリンダのピストンの動きを連動部材を介して前輪用液圧マスタシリンダのピストンに伝達することにより、前輪用液圧マスタシリンダから前輪ブレーキに液圧を供給する連動機構を備えたバーハンドル車両用連動ブレーキ機構において、前記連動用スレーブシリンダに、該連動用スレーブシリンダのピストンに当接して、ピストンの前進量を規制するピストンストッパを設け、該ピストンストッパは、前記前輪用液圧マスタシリンダから液圧を供給される液圧室を備えたシリンダ部と、該シリンダ部に摺動可能に挿入されたストッパ杆と、該ストッパ杆を前記連動用スレーブシリンダの方向へ付勢するストッパ弾発部材とを備え、前記液圧室に所定の液圧が作用した状態では、該液圧により前記ストッパ杆が、前記連動用スレーブシリンダのピストンとの非当接位置に移動し、前記液圧室に所定の液圧が作用しない状態では、前記ストッパ弾発部材により、前記ストッパ杆が前記連動用スレーブシリンダのピストンとの当接位置に付勢され、該ピストンに当接して該ピストンの前進量を規制することを特徴とし、前記連動用スレーブシリンダのピストンに大径フランジ部を形成し、前記液圧室に所定の液圧が作用しない状態では、前記ストッパ杆は前記大径フランジ部の連動部材側に突出して前記ピストンの前進量を規制するとともに、前記大径フランジ部外周面の反連動部材側に、反連動部材側に向けて漸次小径となる斜面を形成し、前記ストッパ杆の先端面に、反連動部材側が突出する斜面を形成することもできる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のバーハンドル車両用連動ブレーキ機構によれば、後輪用ブレーキ操作子を操作した際に、後輪ブレーキに液圧が供給されるとともに、連動用スレーブシリンダに液圧が供給され連動用スレーブシリンダのピストンが前進する。このピストンの前進に伴って連動部材が回動し前輪用液圧マスタシリンダに液圧が発生し、この液圧が前輪ブレーキとともにピストンストッパの液圧室に供給される。液圧室に供給される液圧が所定の液圧、すなわち、ストッパ弾発部材の弾発力に抗して、ストッパ杆を連動用スレーブシリンダのピストンから離間させることができる液圧となることにより、ストッパ杆は連動用スレーブシリンダのピストンとの非当接位置に移動することから、後輪用ブレーキ操作子の操作に応じて後輪ブレーキに液圧を供給すると共に、前輪用液圧マスタシリンダを作動させて前輪ブレーキに液圧を供給することができ、後輪ブレーキと前輪ブレーキの好適な制動力を確保することができる。
【0007】
一方、後輪用ブレーキ操作子を操作した際に、車輪に加わる衝撃等によりブレーキを戻す方向に荷重が加わった場合や、前輪ブレーキのロールバック量の変化等により前輪ブレーキ側の昇圧が設定通りに得られない場合では、ピストンストッパの液圧室に所定の液圧が供給されないことから、ストッパ弾発部材の付勢力により、ストッパ杆が前記連動用スレーブシリンダのピストンとの当接位置に付勢され、連動用スレーブシリンダのピストンとストッパ杆とが当接し、前記ピストンの前進量を規制する。これにより、後輪用ブレーキ操作子の操作による前輪ブレーキへの液圧は一定の液圧で保持され、後輪ブレーキの好適な制動力を確保するとともに、良好なブレーキフィーリングを保持することができる。
【0008】
さらに、前記ピストンに大径フランジ部を形成し、該大径フランジ部の反連動部材側に、反連動部材側に向けて漸次小径となる斜面を形成するとともに、前記ストッパ杆の連動部材側先端面に、反連動部材側が突出する斜面を形成したことにより、何らかの原因で、大径フランジ部がストッパ杆の連動部材側に配置されることがあっても、制動解除時には、大径フランジ部の斜面に沿ってストッパ杆の斜面が移動して大径フランジ部を乗り越え、大径フランジ部及びストッパ杆を初期位置に良好に戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1及び図2は本発明のバーハンドル車両用連動ブレーキ機構の一形態例を示す図で、図1は連動ブレーキ機構の要部断面正面図、図2は同じく連動ブレーキ機構の説明図である。
【0010】
図2に示されるように、本形態例のバーハンドル車両用の連動ブレーキ機構1は、前輪用ブレーキレバー2の操作に応じて前輪用液圧マスタシリンダ3を介して前輪ブレーキ4aに液圧を供給する第1液圧系統5と、後輪用ブレーキ操作子となる後輪用ブレーキペダル6の操作に応じて後輪用液圧マスタシリンダ7を介して後輪ブレーキ4bに液圧を供給すると共に、後輪用ブレーキペダル6の操作に応じて液圧作動する連動用スレーブシリンダ8を介して前輪用液圧マスタシリンダ3を作動させて前輪ブレーキ4aに液圧を供給する第2液圧系統9と、前記前輪用液圧マスタシリンダ3で発生した液圧を、第1液圧系統5から分岐して、連動用スレーブシリンダ8に設けたピストンストッパ10に供給する第3液圧系統11とを備えている。
【0011】
前輪用液圧マスタシリンダ3と連動用スレーブシリンダ8とは、バーハンドル車両の車体前部で前輪を操向するハンドルバー12のアクセルグリップ13に近接して取り付けられるシリンダ基体14に、前輪用液圧マスタシリンダ3と連動用スレーブシリンダ8の軸線が平行となるように併設され、連動用スレーブシリンダ8には、ピストンストッパ10が連結されている。
【0012】
シリンダ基体14の車体一側方には、上下一対のレバーブラケット14aが、前記前輪用液圧マスタシリンダ3と連動用スレーブシリンダ8のシリンダ孔開口側の中間位置に突設され、該レバーブラケット14aに前輪用ブレーキレバー2と連動部材15とが、前記前輪用液圧マスタシリンダ3の軸線と連動用スレーブシリンダ8の軸線との中間位置に配設されるカラー16及びピボット17を用いて揺動可能に設けられている。また、前輪用液圧マスタシリンダ3の上部には作動液を貯留したリザーバタンク18が設けられ、連動用スレーブシリンダ8の上部には、ブリーダ19が設けられている。
【0013】
前輪用液圧マスタシリンダ3は、シリンダ基体14のハンドルバー12に近い位置に配設される。前輪用液圧マスタシリンダ3に用いられる第1シリンダ孔3aは、シリンダ基体14の車体外側方向に開口し、開口側には大径部3bが形成され、また、第1シリンダ孔3aの底部3cには、前輪ブレーキ4aとピストンストッパ10とに作動液を供給する作動液供給口3dが形成されている。第1シリンダ孔3aには、2つのカップシール20,20を介して第1ピストン21が内挿され、該第1ピストン21と第1シリンダ孔3aの底部3cとの間に液圧室22が画成され、さらに、第1シリンダ孔3aには前記リザーバタンク18がポート(図示せず)を介して連通している。また、第1ピストン21は、第1ピストン21の内端側に形成したフランジ部21aと前記底部3cとの間に縮設された第1リターンスプリング23によって常時開口側に付勢され、その後退限は、第1シリンダ孔3aの大径部3bに設けたサークリップ24によって規制されている。さらに、第1ピストン21は、非作動時に於いて外端部21bが第1シリンダ孔3aから突出した状態となっており、外端部21bと大径部3bの開口側との間にダストブーツ25が装着されている。
【0014】
連動用スレーブシリンダ8は、シリンダ基体14のハンドルバー12から遠い位置に配設される。連動用スレーブシリンダ8に用いられる第2シリンダ孔8aは、シリンダ基体14の車体外側方向に開口し、開口側の大径シリンダ部8bと、底部側の小径シリンダ部8cと、大径シリンダ部8bと小径シリンダ部8cとを繋ぐ中径シリンダ部8dとを備えている。また、第2シリンダ孔8aの底部8eには、後輪用ブレーキペダル6の操作に応じて液圧が供給される作動液導入口8fが小径シリンダ部8cに連通して形成され、該作動液導入口8fに前記ブリーダ19が連通している。
【0015】
第2シリンダ孔8aには、カップシール26とシール部材27を介して第2ピストン28が内挿され、該第2ピストン28は、前記小径シリンダ部8cに挿入される大径軸部28aと、該大径軸部28aの中間部に形成される大径フランジ部28bと、前記大径軸部28aの先端部に連続する小径軸部28cとを備えている。また、大径フランジ部28bの外周面の反連動部材側には、反連動部材側に向けて漸次小径となる斜面28dが形成されている。この第2ピストン28を第2シリンダ孔8aに挿入し、大径シリンダ部8bの開口側に、抜止部材29が装着されることにより、該抜止部材29と大径シリンダ部8bと中径シリンダ部8dとにより空気室30が画成され、抜止部材29と前記大径フランジ部28bとの間には、第2ピストン28を常時シリンダ孔底部側に付勢する第2リターンスプリング31が縮設される。また、前記大径軸部28aと小径軸部28cとの間に形成された段部が抜止部材29に当接することによって、第2ピストン28のストロークの規制と第2ピストン28の抜け止めが図られる。さらに、第2ピストン28は、外端部28eが第2シリンダ孔8aから突出した状態となっており、前記抜止部材29には、小径軸部28cに摺接するダストシール32が装着されている。
【0016】
ピストンストッパ10は、ハウジング10aがシリンダ基体14のハンドルバー12から遠い位置に、前記連動用スレーブシリンダ8に連続して一体に形成される。ピストンストッパ10は、連動用スレーブシリンダ8の軸線に直交する方向にシリンダ部10bが形成され、該シリンダ部10bは、連動用スレーブシリンダ8の中径シリンダ部8dに開口する小径のガイド孔10cに連続して、中径部10dと大径部10eとが順に連設され、大径部10eの端部は蓋部材10fで閉塞されている。また、中径部10dには、前記前輪用液圧マスタシリンダ3の作動に応じて液圧が供給される液圧導入路34が開口している。
【0017】
ストッパ杆33は、蓋部材側小径軸部33aとスレーブシリンダ側小径軸部33bとの間に大径軸部33cが設けられ、スレーブシリンダ側小径軸部33bの先端面には、中央が円錐状に突出する斜面33dが形成されている。ストッパ杆33は、大径軸部33cが第1Oリング35を介してシリンダ部10bの大径部10eに挿通され、スレーブシリンダ側小径軸部33bが第2Oリング36を介してガイド孔10cに挿通されることにより、大径軸部33cの蓋部材側面と前記蓋部材10fとの間に空気室37が、大径軸部33cのスレーブシリンダ側面と中径部10dの先端面10gとの間に液圧室38がそれぞれ画成される。また、前記蓋部材10fと大径軸部33cとの間には、ストッパ杆33を常時連動用スレーブシリンダ側に付勢するストッパ弾発部材39が縮設される。ストッパ杆33は、前記液圧室38に所定の液圧が作用していない状態では、大径軸部33cがシリンダ部10bの大径部10eと中径部10dとの間に形成される段部に当接して移動が規制され、スレーブシリンダ側小径軸部33bの先端側が、前記連動用スレーブシリンダ8の中径シリンダ部8d内に突出するとともに、先端部の突出位置は、前記第2ピストン28の大径フランジ部28bよりも、連動部材15側に所定の距離を空けた位置に配置される。
【0018】
前輪用ブレーキレバー2は、アクセルグリップ13の前方に略沿って緩やかに湾曲する棒状体に形成され、ライダーに操作される操作部2aと、該操作部2aの基部側に連続して、前記連動部材15を押圧して回動させる連動部材押圧腕2bと、シリンダ基体14の前記レバーブラケット14aに支持される軸着部2cとが一体に形成されている。
【0019】
連動部材15は、前記シリンダ基体14のレバーブラケット14aに支持される中間部の軸着部15aと、該軸着部15aから車体後方に延出され、前記第1ピストン21の外端部21bに当接する円弧状の第1作用腕15bと、前記軸着部15aから車体前方に延出され、前記第2ピストン28の外端部28eに当接する円弧状の第2作用腕15cと、前記前輪用ブレーキレバー2に形成された連動部材押圧腕2bと対向する当接腕15dと、前記シリンダ基体14のレバー側面14bに当接して連動部材15の回動を規制する回動規制片15eとを一体に備え、軸着部15aには、前記ピボット17及びカラー16の挿通孔15fが形成されている。また、当接腕15dと前記連動部材押圧腕2bとの間には、前輪用ブレーキレバー2を非操作位置に付勢するスプリング部材40が縮設されている。
【0020】
上述のように形成された連動ブレーキ機構1は、前輪用ブレーキレバー2及び後輪用ブレーキペダル6の非作動状態では、前輪用液圧マスタシリンダ3の第1リターンスプリング23と、連動用スレーブシリンダ8の第2リターンスプリング31と、スプリング部材40の弾発力によって、前輪用ブレーキレバー2と連動部材15とは回動規制片15eがレバー側面14bに当接して回動が規制された状態となっている。また、ピストンストッパ10は、ストッパ弾発部材39の弾発力によって、ストッパ杆33の先端に形成された斜面33dと、該斜面33dに連続するスレーブシリンダ側小径軸部33bの先端側とが連動用スレーブシリンダ8の中径シリンダ部8d内に突出し、第2ピストン28の大径フランジ部28bよりも、連動部材15側に所定の距離を空けた位置に配置されている。
【0021】
前輪用ブレーキレバー2を回動操作すると、前輪用ブレーキレバー2の連動部材押圧腕2bが連動部材15の当接腕15dを押動し、前輪用ブレーキレバー2と連動部材15とがピボット17を中心として前輪用液圧マスタシリンダ3側へ回動し、連動部材15の第1作用腕15bが、第1リターンスプリング23の弾発力に抗して第1ピストン21をシリンダ孔底部側に押し込む。これに伴って、液圧室22に液圧が発生し、作動液供給口3dから第1液圧系統5を介して前輪ブレーキ4aに液圧が供給され、前輪ブレーキ4aを作動させる。これと同時に、作動液供給口3dから第3液圧系統11を介してピストンストッパ10の液圧室38に所定の液圧が供給され、ストッパ杆33が蓋部材10f側に移動し、ストッパ杆33の先端部が、前記第2ピストン28との非当接位置となる連動用スレーブシリンダ8のシリンダ孔外周側に引き込まれ、第2ピストン28が移動可能な状態となる。
【0022】
また、後輪用ブレーキペダル6を操作すると、後輪用液圧マスタシリンダ7の液圧室(図示せず)に液圧が発生し、第2液圧系統9を介して、後輪ブレーキ4bに液圧が供給され、後輪ブレーキ4bを作動させると同時に、後輪用液圧マスタシリンダ7の液圧室22に発生した液圧は、第2液圧系統9を介して、連動用スレーブシリンダ8の作動液導入口8fから、第2シリンダ孔8aに供給され、第2ピストン28を第2リターンスプリング31の弾発力に抗してシリンダ孔開口側に押圧する。大径フランジ部28bが連動部材15側に僅かに移動し、ストッパ杆33の先端側に当接する前の状態では、第2ピストン28の外端部28eがシリンダ孔開口部から僅かに突出して、連動部材15の第2作用腕15cを押圧し、連動部材15をピボット17を中心に回動させる。連動部材15は、スプリング部材40が伸長することによって、前輪用ブレーキレバー2を非操作状態に保持したまま単独で回動し、第1作用腕15bが第1ピストン21を第1シリンダ孔3aの底部3c側へ押動し、作動液供給口3dから第1液圧系統5及び第3液圧系統11を介してピストンストッパ10の液圧室38に所定の液圧が供給される。これに伴って、上述のように、ストッパ杆33の先端部が、連動用スレーブシリンダ8のシリンダ孔外周側の非当接位置に引き込まれ、第2ピストン28が前進可能な状態となる。
【0023】
後輪用ブレーキペダル6をさらに操作し、第2液圧系統9を介して、後輪ブレーキ4bにさらに液圧が供給されると、第2ピストン28は、大径フランジ部28bが、非当接位置に引き込まれたストッパ杆33の先端側を通過して第2シリンダ孔8aを前進し、連動部材15を介して、第1ピストン21を第1シリンダ孔3aの底部側にさらに押し込み、液圧室22に所定の液圧が発生し、該液圧が作動液供給口3dから第1液圧系統5を介して前輪ブレーキ4aに供給され、前輪ブレーキ4aを確実に作動させることができる。
【0024】
一方、後輪用ブレーキペダル6を操作した際に、車輪に加わる衝撃等によりブレーキを戻す方向に荷重が加わった場合や、前輪ブレーキ4aのロールバック量の変化等により前輪ブレーキ側の昇圧が設定通りに得られない場合や、第1液圧系統5が失陥した場合では、第2ピストン28が前進しても、ピストンストッパ10の液圧室38に所定の液圧が供給されないことから、ストッパ杆33が蓋部材10f側へ移動することがなく、第2ピストン28の大径フランジ部28bにストッパ杆33の先端側が当接し、第2ピストン28の前進量を規制する。これにより、後輪用ブレーキペダル6の操作による前輪ブレーキ4aへの液圧供給は停止されるものの、後輪ブレーキ4bの好適な制動力を確保できるとともに、良好なブレーキフィーリングを保持することができる。
【0025】
さらに、制動時に何らかの原因で、大径フランジ部28bがストッパ杆33の連動部材側に位置することがあっても、制動解除時には、大径フランジ部28bの外周面に形成した斜面28dに沿って、ストッパ杆33の先端に形成した斜面33dが移動し、大径フランジ部28bを乗り越えて、大径フランジ部28b及びストッパ杆33を初期の位置に良好に戻すことができる。
【0026】
なお、本発明は上述の形態例のように、前輪用液圧マスタシリンダと連動用スレーブシリンダとを1つの基体に設けるものに限らず、前輪用液圧マスタシリンダと連動用スレーブシリンダとをそれぞれの基体に形成して連結するものでも適用できる。また、ピストンストッパの形成位置は、シリンダ基体のハンドルバーから遠い位置に形成するものに限らず、連動用スレーブシリンダに連続する任意の位置に設けることができる。さらに、ストッパ杆の先端面や大径フランジ部の外周面反連動部材側を球面状に形成してもよく、ストッパ杆の先端外周を面取りして斜面を形成するものでもよい。また、後輪用ブレーキ操作子がブレーキレバーであってもよく、シリンダ基体をシリンダ孔の軸線がハンドルバーの軸線と直交するように配設した縦型のブレーキ装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一形態例を示す連動ブレーキ機構の要部断面正面図である。
【図2】同じく連動ブレーキ機構の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1…連動ブレーキ機構、2…前輪用ブレーキレバー、2a…操作部、2b…連動部材押圧腕、2c…軸着部、3…前輪用液圧マスタシリンダ、3a…第1シリンダ孔、3b…大径部、3c…底部、3d…作動液供給口、4a…前輪ブレーキ、4b…後輪ブレーキ、5…第1液圧系統、6…後輪用ブレーキペダル、7…後輪用液圧マスタシリンダ、8…連動用スレーブシリンダ、8a…第2シリンダ孔、8b…大径シリンダ部、8c…小径シリンダ部、8d…中径シリンダ部、8e…底部、8f…作動液導入口、9…第2液圧系統、10…ピストンストッパ、10a…ハウジング、10b…シリンダ部、10c…ガイド孔、10d…中径部、10e…大径部、10f…蓋部材、10g…先端面、11…第3液圧系統、12…ハンドルバー、13…アクセルグリップ、14…シリンダ基体、14a…レバーブラケット、14b…レバー側面、15…連動部材、15a…軸着部、15b…第1作用腕、15c…第2作用腕、15d…当接腕、15e…回動規制片、15f…挿通孔、16…カラー、17…ピボット、18…リザーバタンク、19…ブリーダ、20…カップシール、21…第1ピストン、21a…フランジ部、21b…外端部、22…液圧室、23…第1リターンスプリング、24…サークリップ、25…ダストブーツ、26…カップシール、27…シール部材、28…第2ピストン、28a…大径軸部、28b…大径フランジ部、28c…小径軸部、28d…斜面、28e…外端部、29…抜止部材、30…空気室、31…第2リターンスプリング、32…ダストシール、33…ストッパ杆、33a…蓋部材側小径軸部、33b…スレーブシリンダ側小径軸部、33c…大径軸部、33d…斜面、34…液圧導入路、35…第1Oリング、36…第2Oリング、37…空気室、38…液圧室、39…ストッパ弾発部材、40…スプリング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪用ブレーキ操作子の操作に応じて後輪用液圧マスタシリンダから後輪ブレーキと連動用スレーブシリンダに液圧を供給し、該連動用スレーブシリンダのピストンの動きを連動部材を介して前輪用液圧マスタシリンダのピストンに伝達することにより、前輪用液圧マスタシリンダから前輪ブレーキに液圧を供給する連動機構を備えたバーハンドル車両用連動ブレーキ機構において、前記連動用スレーブシリンダに、該連動用スレーブシリンダのピストンに当接して、ピストンの前進量を規制するピストンストッパを設け、該ピストンストッパは、前記前輪用液圧マスタシリンダから液圧を供給される液圧室を備えたシリンダ部と、該シリンダ部に摺動可能に挿入されたストッパ杆と、該ストッパ杆を前記連動用スレーブシリンダの方向へ付勢するストッパ弾発部材とを備え、前記液圧室に所定の液圧が作用した状態では、該液圧により前記ストッパ杆が、前記連動用スレーブシリンダのピストンとの非当接位置に移動し、前記液圧室に所定の液圧が作用しない状態では、前記ストッパ弾発部材により、前記ストッパ杆が前記連動用スレーブシリンダのピストンとの当接位置に付勢され、該ピストンに当接して該ピストンの前進量を規制することを特徴とするバーハンドル車両用連動ブレーキ機構。
【請求項2】
前記連動用スレーブシリンダのピストンに大径フランジ部を形成し、前記液圧室に所定の液圧が作用しない状態では、前記ストッパ杆は前記大径フランジ部の連動部材側に突出して前記ピストンの前進量を規制するとともに、前記大径フランジ部外周面の反連動部材側に、反連動部材側に向けて漸次小径となる斜面を形成し、前記ストッパ杆の先端面に、反連動部材側が突出する斜面を形成したことを特徴とする請求項1記載のバーハンドル車両用連動ブレーキ機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−143389(P2009−143389A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322735(P2007−322735)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】