説明

パイの製造方法

【課題】 本発明の目的は、通常の焼成温度(200〜220℃)で作製したにも関わらず、焼き色が薄くて白いパイ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 イーストを含有し、さらにマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースを総量で1〜5重量%含有する一次発酵前の生地を、1次発酵においてパイ生地全体中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が0.8重量%以下になるまで発酵し、その後200〜220℃で5〜20分間焼成すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き色の殆ど無い白いパイ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のパイは、200〜220℃で20分間以上焼成されて製造されるため、焼き色がつき、白くない。焼き色のない白色食品として、特許文献1の白色系のパンが開示さている。しかし、該パンの白さは不十分であり、また使用している特定の甘味成分はコストが高いなどの問題がある。また、発酵に必要な量の砂糖を含み、ステビオサイドやグリチルリチンなどの強甘味成分を入れた焼き色の薄い白色系のパンが開示されているが(特許文献2)、パイではない為、焼成時間が短く折り込み油量が少ないので、もともとパイよりは焼き色が付きにくいものであった。何れにしても、これまでに白色系のパイは開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−233299号公報
【特許文献2】特公平6−22427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、通常の焼成温度(200〜220℃)で作製したにも関わらず、焼き色が薄くて白いパイ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、パイ生地にイーストを添加し、充分に発酵させてから焼成すれば、焼き色が薄くて白いパイが出来る事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一は、イーストを含有し、さらにマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースを総量で生地全体中1〜5重量%含有する一次発酵前の生地を、ホイロ時間0〜30分間で最終発酵した後、200〜220℃で5〜20分間焼成して得られるパイであって、パイ生地全体中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が0.8重量%以下のパイに関する。好ましい実施態様は、表面のb値が30以下である上記記載のパイに関する。より好ましくは、表面のL値が75以上である上記記載のパイ、更に好ましくは、焼成前の生地全体中のイースト含有量が、小麦粉100重量部に対して0.5〜10重量部である上記記載のパイ、に関する。本発明の第二は、イーストを含有し、さらにマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースを総量で1〜5重量%含有する一次発酵前のパイ生地を、1次発酵においてパイ生地全体中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が0.8重量%以下になるまで発酵し、その後200〜220℃で5〜20分間焼成することを特徴とするパイの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、通常の焼成温度(200〜220℃)で作製したにも関わらず、焼き色が薄くて白いパイ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のパイは、イーストを含有し、さらにマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースを総量で特定量含有する生地を一次発酵させてから、200〜220℃で特定時間焼成して得られるパイであって、焼成後のパイ生地全体中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が特定量であることを特徴とする。
【0009】
本発明のイーストは、食用であれば特に制限はなく、パンに用いられるイーストなどが使用できる。焼成前の生地中のイースト量は、一次発酵前の生地において、小麦粉100重量部に対して0.5〜10重量部が好ましい。0.5重量部よりも少ないと一次発酵前の生地中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が多く、焼き色が付いてしまう場合があり、10重量部より多いと焼成後にソフトになり過ぎ、パイとは呼べない場合がある。
【0010】
本発明のパイの一次発酵前の生地中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの含量は、総量で1〜5重量%が好ましい。1重量%より少ないと、焼成後のパイの甘味を感じにくい場合があり、5重量%より多いと焼成後のパイ生地表面が茶色くなる場合がある。
【0011】
本発明の一次発酵後で焼成前の生地は、デニッシュなどとは異なり、生地全体中の小麦粉100重量部に対して50〜100重量部の折り込み油脂を含有することが好ましい。50重量部より少ないと、焼成後にサクサク感が無く、パイとは呼べない場合がある。
【0012】
本発明のパイの焼成後の生地中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの含量は少ない程良く、総量で0.8重量%以下が好ましく、0.5〜0.8重量%がより好ましい。0.5重量%より少なくするのは製造上困難な場合があり、0.8重量%より多いとパイ生地表面が茶色くなる場合がある。
【0013】
本発明のパイは、生地表面の色差のb値が低いほど好ましく、30以下であることがより好ましく、13〜30であることがさらに好ましい。ただし、生地表面のb値を13未満にするのは、製造上困難な場合がある。
【0014】
本発明のパイは、生地表面の色差のL値が高いほど好ましく、75以上であることがより好ましく、75〜82がさらに好ましい。ただし、生地表面のR値を82より高くすることは、製造上困難な場合がある。
【0015】
なお、本発明において、パイ表面の色差(b値、L値)の測定は、コニカミノルタ社製色差計「CR400」などを用いて常法に従って測定すればよい。
【0016】
本発明のパイの製造方法は、以下に例示する。小麦粉100重量部に対し、所定量の食塩、水、イーストをミキサーにて混捏し、パイ生地を作製する。でき上がったパイ生地を20〜40℃の恒温槽にて0〜360分間発酵をさせ、0℃の恒温槽で生地を5時間冷却する。冷却後、パイ生地に折り込み油脂40〜100重量部を折り込み、3つ折り1回と4つ折り1回をし、さらに0℃の恒温槽にて1晩冷却する。冷却後、パイ生地3つ折り1回と4つ折り1回をし、3mmの厚さまで伸ばした後に10cm角にカットする。カット後、パイ生地を天板にのせ、オーブンにて200〜220℃で5〜20分間焼成して本発明のパイを得ることができる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0018】
<パイ表面の色の目視評価>
実施例及び比較例で得られた焼成後のパイ生地を、目視により表面の色を目視で評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。◎:焼き色が無く白色、○:一部やや茶色であるが概ね白色、△:やや茶色、×:茶色。
【0019】
<パイ表面の色の定量評価>
実施例及び比較例で得られた焼成後のパイ生地を、色彩色差計(MINOLTA社製「CR200」)を用い、L値とb値を測定した。具体的には、ヘッドを直接パイ生地に直角にあて、パイ生地10ケの4角と中央の5箇所を各3回測定し、平均を用いてL値とb値とした。
【0020】
<糖量の測定>
糖量の測定はHPLCを用いて実施した。具体的には、実施例及び比較例で得られた焼成後のパイ生地20重量部に、蒸留水60重量部を添加してホモジナイザー(日本精機製作所社製「AM−5」)を用いて12000rpmにて10分間懸濁し、遠心機(日立工機社製「LT5DL」)を用いて4000rpmで水槽部と固体部に分離した。分離された水槽部2重量部にエタノール10重量部を添加し、遠心分離機にて液部と固体部に分離した。分離された液部を、0.45μmのフィルターを用いて濾過し、試料とした。試料10μlを用いてHPLC(下記装置及び条件)で測定を行った。糖量の基準となる検量線は、和光純薬工業社製のD(+)−グルコース、スクロース D(−)−フルクトース、D(+)−マルトース一水和物、ラクトース一水和物を用いて作成し、基準とした。なお、HPLCの測定にて検出せず(N.D.)とは、非常に少ない量のため、検出できなかったことを意味する。
【0021】
<HPLC装置>
以下、全て島津製作所社製。
システムコントローラ及びシステムインターフェース:CBM-20A
ポンプ:LC-20AD
オートサンプラ:SIL-10AF
カラムオーブン:CTO-20AC
検出器:RID-10A
カラム:Shim-pack CLC-NH(150mmL.×6.0mmI.D.)、島津製作所社製
【0022】
<HPLC測定条件>
移動層:アセトニトリル75重量部と蒸留水25重量部を混合した液
移動層流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率
【0023】
(実施例1〜18、比較例1〜12)
表1に記載の配合に従い、表2の工程に従ってパイ生地を作製し、焼成してパイを得た。得られたパイについての評価結果は、表3にまとめた。
【0024】
実施例のパイは、マルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が0.8%以下であり、b値が30以下、L値が75以上となり、焼き色が無く、白い状態であった。また比較例のパイは、マルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が0.81%以上であり、b値が30以上、L値が75以下となり、焼き色が付き、茶色もしくは黄色い状態となり、白いパイにはならなかった。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イーストを含有し、さらにマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースを総量で生地全体中1〜5重量%含有する一次発酵前の生地を一次発酵し、それからホイロ時間0〜30分間で最終発酵した後、200〜220℃で5〜20分間焼成して得られるパイであって、パイ生地全体中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が0.8重量%以下のパイ。
【請求項2】
表面のb値が30以下である請求項1に記載のパイ。
【請求項3】
表面のL値が75以上である請求項1又は2に記載のパイ。
【請求項4】
焼成前の生地全体中のイースト含有量が、小麦粉100重量部に対して0.5〜10重量部である請求項1〜3何れかに記載のパイ。
【請求項5】
イーストを含有し、さらにマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースを総量で1〜5重量%含有する一次発酵前のパイ生地を、1次発酵においてパイ生地全体中のマルトース、フラクトース、シュークロース、グルコース、ラクトースの総量が0.8重量%以下になるまで発酵し、その後200〜220℃で5〜20分間焼成することを特徴とするパイの製造方法。