説明

パイプと接合対象部材との接合構造

【課題】少量生産を行う場合であっても、高い生産効率やコスト低減を実現できる、パイプと接合対象部材との接合構造を提供する。
【解決手段】円筒状のパイプ10が接合対象部材20に接合された接合構造は、接合対象部材に形成され、パイプが挿入される挿入穴21と、挿入穴の軸方向の端部に形成され、挿入穴の他の領域よりも大きな内径を有する弾性スリーブ収容部22と、中央部に貫通孔を有した円環状に形成され、パイプが貫通孔に嵌合された状態で弾性スリーブ収容部に嵌合されるブッシュ40と、弾性材料で筒状に形成され、パイプが挿通された状態で弾性スリーブ収容部に収容される弾性スリーブ30とを備え、弾性スリーブは、弾性スリーブ収容部内で自身の軸方向に圧縮変形することにより、自身の外周面が弾性スリーブ収容部の内周面に押し付けられ、かつ自身の内周面がパイプの外周面に押し付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のパイプが接合対象部材に挿入されて接合された、パイプと接合対象部材との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、円筒状のパイプ1を、他の部材2に挿入して接合する手法として、他の部材2に断面円形の穴3を形成し、この穴3に端部を挿入したパイプ1の外周面1aと、穴3の内周面3aとを熱硬化性の接着剤4により接合するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ここで、特許文献1に記載の技術では、パイプ1の外周面1aと穴3の内周面3aとを確実に接合するため、パイプ1の外周面1aと穴3の内周面3aとのクリアランスを、0.01〜0.05mmに設定している。これにより、十分な接合強度と、接合部における水密性が確保される。
【0004】
そして、外周面1aに接着剤4を塗布したパイプ1を穴3に挿入した後、乾燥炉にこれを投入して加熱し、接着剤4を熱硬化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9ー67548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記したような従来の技術では、以下に示すような問題が存在する。
まず、熱硬化性の接着剤4を用いているため、接着剤4を硬化させる工程が必要となる。量産現場で、パイプ1と他の部材2との接合を大量に行う場合、接着剤4の硬化処理を効率よく行うため、パイプ1および他の部材2を接合したものを、複数組まとめて乾燥炉に投入する。しかしこれでは、この工程で、製品の流れが滞って生産効率にロスが生じることになる。
また、一つの製造ラインで、複数種の製品を少量ずつ生産する場合、上記のロスによる影響が大きくなる。
【0007】
さらに、上記したように、パイプ1の外周面1aと穴3の内周面3aとを確実に接合するため、パイプ1の外周面1aと穴3の内周面3aとのクリアランスが非常に小さな寸法に設定されている。したがって、その加工には高い精度が要求され、コスト上昇につながる。
また、クリアランスが小さいために、パイプ1を穴3に挿入するのにも手間がかかり、これも生産効率の低下、コスト上昇につながる。
【0008】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、少量生産を行う場合であっても、高い生産効率やコスト低減を実現できる、パイプと接合対象部材との接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、円筒状のパイプが接合対象部材に接合された接合構造において、前記接合対象部材に形成され、前記パイプが挿入される挿入穴と、前記挿入穴の軸方向の端部に形成され、前記挿入穴の他の領域よりも大きな内径を有する大径穴部と、中央部に貫通孔を有した円環状に形成され、前記パイプが前記貫通孔に挿通された状態で前記大径穴部に嵌合されるブッシュと、弾性材料で筒状に形成され、前記パイプが挿通された状態で前記大径穴部内に収容される弾性スリーブとを備え、前記弾性スリーブは、前記大径穴部に嵌合された前記ブッシュによって前記大径穴部内で自身の軸方向に圧縮変形することにより、自身の外周面が前記大径穴部の内周面に押し付けられ、かつ自身の内周面が前記パイプの外周面に押し付けられていることを特徴とする。
【0010】
前記弾性スリーブは、前記大径穴部内で蛇腹状に圧縮変形するものでもよい。
【0011】
また、弾性スリーブは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素系樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム(TFE−PR系ゴム)、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(ETFE)、ポリウレタン(PU)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、オレフィン系エラストマー、ポリエーテルケトン(PEEK)、シリコンゴム、バイトン(登録商標)、ネオプレンスポンジ、熱可塑性エラストマー(TPE)、スチレン系エラストマー、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ニトリルゴム、および天然ゴムのいずれかを含んで形成されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパイプと接合対象部材との接合構造によれば、少量生産を行う場合であっても、高い生産効率やコスト低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例に係るパイプと接合対象部材との接合部位を示す断面図である。
【図2】(a)から(c)は、パイプと接合対象部材との接合工程を示す図である。
【図3】(a)および(b)は、パイプと接合対象部材との接合工程を示す図である。
【図4】従来のパイプと接合対象部位との接合構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明によるパイプと接合対象部材との接合構造の一実施形態について説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
図1は、本実施の形態におけるパイプと接合対象部材との接合構造を説明するための図である。図1に示すように、パイプ10と接合対象部材20とは、蛇腹状の弾性スリーブ30と、ブッシュ40とにより接合されている。
【0015】
本実施形態のパイプ10は金属性で、その軸線方向に沿って一定の外径d1を有する円筒状に形成されている。
【0016】
図2(a)に示すように、接合対象部材20は、例えば樹脂製で、パイプ10が挿入される挿入穴21が形成されている。挿入穴21は、パイプ10の外径d1よりも大きな内径d2を有している。
挿入穴21のうち、パイプ10が挿入される側の一定の長さの領域は、他の領域よりも内径が大きく、弾性スリーブ30を収容する弾性スリーブ収容部(大径穴部)22とされている。弾性スリーブ収容部22は、その内径d3が、パイプ10の外径d1および弾性スリーブ30の収縮時の最大外径よりも大きく設定されている。ここでは、弾性スリーブ収容部22の内径d3を、パイプ10の外径d1に対し、例えば4mm大きく設定する。また、この弾性スリーブ収容部22は、その深さ(挿入穴21の軸方向における寸法)hを、例えば1.2mmとする。
ここで、弾性スリーブ収容部22と挿入穴21の残りの領域との境界部分には、挿入穴21の軸線に直交する段差面24が形成されている。この段差面24は、挿入穴21の軸線に直交せずに傾斜していてもよく、傾斜の方向もいずれでも構わない。
【0017】
図2(c)に示すように、弾性スリーブ30は、円筒状に形成されており、蛇腹状に弾性変形することによりその軸線に沿った方向に伸縮可能とされている。弾性スリーブ30は、変形していない自然長状態において、その内径d5が、パイプ10の外径d1および挿入穴21の内径d2よりも大きく設定されている。また、弾性スリーブ30の自然長状態における外径d6は、弾性スリーブ収容部22の内径d3よりも小さく設定されている。
このような弾性スリーブ30は、軸方向に圧縮変形すると、その外径が増大して弾性スリーブ収容部22の内径d3よりも大きくなるとともに、内径が縮小してパイプ10の外径d1よりも小さくなる。
【0018】
このような弾性スリーブ30は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素系樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム(TFE−PR系ゴム)、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(ETFE)、ポリウレタン(PU)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、オレフィン系エラストマー、ポリエーテルケトン(PEEK)、シリコンゴム、バイトン(登録商標)、ネオプレンスポンジ、熱可塑性エラストマー(TPE)、スチレン系エラストマー、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ニトリルゴム、天然ゴム等の弾性材料を一種または複数種組み合わせて形成することができる。
本実施形態では、肉厚が0.3mmの天然ゴムを用いて弾性スリーブ30を形成している。弾性スリーブ30の自然長状態における軸方向の寸法は、例えば7mmに設定されている。
【0019】
ブッシュ40は、図1に示すように樹脂製で円環状をなしており、その内径d7は、パイプ10の外径d1よりも大きく、ブッシュ40の中央部に形成された貫通穴41にパイプ10がスムーズに挿通できる程度のクリアランスが確保されている。
ブッシュ40の外径d8は、ブッシュ40を弾性スリーブ収容部22に嵌合できるよう、弾性スリーブ収容部22の内径d3よりも、例えば0.1〜0.2mm程度といった嵌め合い寸法分、大きく形成されている。
【0020】
このようなパイプ10と接合対象部材20とを接合するには、まず、図2(b)に示すように、パイプ10の一方の端部10aを接合対象部材20に形成された挿入穴21に挿入する。
次いで、図2(c)に示すように、パイプ10の他端を弾性スリーブ30に挿入して弾性スリーブ収容部22に挿入する。
【0021】
次に、図3(a)に示すように、パイプ10の他端をブッシュ40に挿通する。続いて、図3(b)に示したように、このブッシュ40を弾性スリーブ収容部22に押し込む。すると、ブッシュ40は、その外径d8が弾性スリーブ収容部22の内径d3よりも大きいので、弾性スリーブ収容部22に圧入され、接合対象部材20に対して固定される。ブッシュ40が接合対象部材20に対して固定されると、後述するように、パイプ10が接合対象部材20に対して固定されるので、パイプ10と接合対象部材20との位置関係は、その前の所望の状態に調節しておく。
【0022】
ブッシュ40が弾性スリーブ収容部22に圧入されると、図1に示すように、弾性スリーブ30が、ブッシュ40と弾性スリーブ収容部22の段差面24との間で自身の軸方向に圧縮されて変形する。すると、弾性スリーブ30の外径が増大するとともに内径が縮小する。ブッシュ40が、その表面40aが接合対象部材20の表面20aと面一となる程度にスリーブ収容部22内に押し込まれた状態では、弾性スリーブ30の外周面が弾性スリーブ収容部22の内周面に押し付けられ、弾性スリーブ30と接合対象部材20との間における水密性が確保される。また、弾性スリーブ30の内周面がパイプ10の外周面に押し付けられ、これによって弾性スリーブ30とパイプ10との間における水密性が確保される。さらに、弾性スリーブ30は、ブッシュ40と段差面24との間に圧縮状態で挟み込まれているため、段差面24と弾性スリーブ30との間、弾性スリーブ30とブッシュ40との間における水密性も確保される。
【0023】
以上説明したように、本実施形態の接合構造によれば、弾性スリーブ30を圧縮変形させることで水密性を確保し、パイプ10に嵌合されたブッシュ40を弾性スリーブ収容部22に圧入することでパイプ10を接合対象部材20に固定する。これにより、パイプ10と接合対象部材20との間の水密性を確保しつつ、パイプ10と接合対象部材20とを確実に接合することができる。
【0024】
また、接着剤を用いない構成であるため、当然接着剤の硬化工程も不要であり、パイプ10の接合対象部材20への挿入後、弾性スリーブ30を弾性スリーブ収容部22に挿入してからブッシュ40を弾性スリーブ収容部22に圧入するだけでよく、作業を容易かつ効率的に行うことができる。また、パイプ10の接合対象部材20への接合を複数組行う場合も、一組ずつ、パイプ10の接合対象部材20への接合を順次行えばよく、少量生産であっても、高い生産効率を実現することができる。
【0025】
また、このような構成では、挿入穴21や弾性スリーブ収容部22とパイプ10とのクリアランスを特に小さくしなくても水密を確保した接合が可能である。したがって、容易かつ低コストで水密が確保された接合を行うことができる。当該クリアランスは、大きいほどパイプ10を挿入穴21に容易に挿入することができるため、クリアランスを適宜設定することにより、さらに生産効率を高めることができる。
【0026】
(その他の実施形態)
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、ブッシュ40は、その外周面を、弾性スリーブ収容部22に圧入する側から反対側に向けてその外径が漸次増大するテーパ状とすることもできる。
【0027】
また、本発明の弾性スリーブは、圧縮変形により外径が拡大し、かつ内径が縮小するものであれば、必ずしも圧縮変形時に蛇腹状にならなくてもよく、例えば弾性材料でリング状に形成されてもよい。ただし、蛇腹状に変形可能なものは、外径の拡大および内径の縮小を効率よく行うことができるので、蛇腹状に圧縮変形するものを弾性スリーブとして用いるのが好ましい。
【0028】
また、接合対象部材において、挿入穴の軸方向両端部に弾性スリーブ収容部形成してもよい。この場合、両方の弾性スリーブ収容部に弾性スリーブおよびブッシュを取り付けることで、接合対象部材の軸方向両端部において水密を確保することができる。
【0029】
さらに、ブッシュの貫通孔にパイプを挿通すると、パイプとブッシュとが嵌合固定されるように両者の寸法を設定してもよい。このようにすると、ブッシュを圧入する際にパイプもブッシュと共に移動するため、予めパイプとブッシュとを所望の位置関係にしておくことで圧入完了時にパイプと接合対象部材とが自動的に所定の位置関係になり、接合作業をさらに容易にすることができる。
【0030】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 パイプ
20 接合対象部材
21 挿入穴
22 弾性スリーブ収容部(大径穴部)
30 弾性スリーブ
40 ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のパイプが接合対象部材に接合された接合構造において、
前記接合対象部材に形成され、前記パイプが挿入される挿入穴と、
前記挿入穴の軸方向の端部に形成され、前記挿入穴の他の領域よりも大きな内径を有する大径穴部と、
中央部に貫通孔を有した円環状に形成され、前記パイプが前記貫通孔に挿通された状態で前記大径穴部に嵌合されるブッシュと、
弾性材料で筒状に形成され、前記パイプが挿通された状態で前記大径穴部内に収容される弾性スリーブと、
を備え、
前記弾性スリーブは、前記大径穴部に嵌合された前記ブッシュによって前記大径穴部内で自身の軸方向に圧縮変形することにより、自身の外周面が前記大径穴部の内周面に押し付けられ、かつ自身の内周面が前記パイプの外周面に押し付けられていることを特徴とするパイプと接合対象部材との接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載のパイプと接合対象部材との接合構造において、
前記弾性スリーブは、前記大径穴部内で蛇腹状に圧縮変形することを特徴とするパイプと接合対象部材との接合構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパイプと接合対象部材との接合構造において、
前記弾性スリーブは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素系樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム(TFE−PR系ゴム)、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(ETFE)、ポリウレタン(PU)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、オレフィン系エラストマー、ポリエーテルケトン(PEEK)、シリコンゴム、バイトン(登録商標)、ネオプレンスポンジ、熱可塑性エラストマー(TPE)、スチレン系エラストマー、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ニトリルゴム、および天然ゴムのいずれかを含んで形成されていることを特徴とするパイプと接合対象部材との接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104504(P2013−104504A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249690(P2011−249690)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】